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そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海14 ?????っ子

水曜更新

この先のストーリーの大ボスっ子の登場です。

この先の予定は海が次回で終わって、温泉編。

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2012-10-16 22:46:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1781   閲覧ユーザー数:1724

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海14 ?????っ子

 

 

「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」

 楽しいものになる筈だった海でのバカンス。

 イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。

 おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。

 ところがだ。

 それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。

 たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。

 だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。

 俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。

そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。

 

「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」

 綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。

 何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。

 

「フォッフォッフォ。智坊よ。ワシに約束された勝利の出番は通じんぞ。この困難な状況下から如何にしてあのおなごと結ばれるかのお?」

 

 

 じっちゃんは途方に暮れている俺を見ながら笑っている。

 そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのはじっちゃんだった。

 俺とじっちゃんは命からがらこの島へと逃げ延びて来たのだった。

 

 

『総帥の復活をフラレテル・ビーイング一同心よりお喜び申し上げます』

 俺達の船を突如襲ってきた男達はじっちゃんに対して恭しく片膝をついた。

『フォッフォッフォ。ワシはほんのひと時ただの気まぐれでこの世に仮初めの生を再び得ているだけに過ぎん。フラレテル・ビーイングは現役で働く主達のものじゃ』

 じっちゃんは多くのモテない男達を前にして堂々と構えている。さすがはフラレテル・ビーイングの創始者だけのことはある。

『ですが、現在のフラレテル・ビーイングには中央に求心力がなく、各支部がバラバラに動いているに過ぎません。これではモテない永久革命は到底不可能かと』

『ワシの次の代になっても……まだアレには届かぬということか』

 じっちゃんは空を見上げた。とても切なそうな表情で。

 じっちゃんが何を見上げているのか俺には分からない。けれどそれがとても大切なものであることは雰囲気だけでも明らかだ。

『まあ、良い』

 じっちゃんは顔を俺へと向け直した。

『智樹よ』

『何?』

 じっちゃんは空を指差した。

『新大陸はええのぉ』

『へっ? 新大陸?』

 じっちゃんは突然守形先輩みたいなことを言い出した。

『新大陸……いや、シナプスこそフラレテル・ビーイングの根源じゃ』

『じっちゃんは一体何を訳の分からないことを言ってるんだよ?』

 じっちゃんを問い詰めようと思ったその時だった。

 突如フラレテル・ビーイングの潜水艦が大爆発を起こした。

 そこから先はもうほとんど何も覚えていない。

『桜井く~~~~んっ!!』

『あのじじい……どうやら相当に厄介な存在のようですね』

 日和は翼を使って隣にいたオレガノを抱き上げて空中へと退避した。

『脱衣(トランザム)に死角などないさ。さあ戦略的撤退するぞ、月乃』

『はい、お兄様っ』

 素早く全裸になった義経は月乃を抱えて逃げた。

 そして俺は……爆発の光に包まれて気を失ったのであった。

 

 

「ていうかここはどこなんだよ、じっちゃん?」

 小さな島の外の景色は全て海か空。

 大きな陸地がどこにも見えない。

「ふぉっふぉっふぉ。知らぬのぉ」

 じっちゃんは余裕をかまして笑っている。

「ていうか俺をここに運んだのはじっちゃんなんだろう?」

「そうじゃ。白い砂浜に幻想の水着美女を投影して悦に浸る。最高じゃのぉ~」

「どうやってここまで連れて来たんだよ?」

「ふぉっふぉっふぉ。それはヒ・ミ・ツじゃっ♪ ワシの目の前には際どい水着のお姉ちゃんで溢れておるぞ。せくし~じゃあ」

 じっちゃんの話は全く要領を得ない。

 というか煙に巻いているのは間違いない。

 ということはじっちゃんは俺に喋るつもりがないということだ。

 何故喋るつもりがないのか知らないが……まあ、命が助かっただけでも良しとしよう。

 

 

 無人島でじっちゃんと2人きり。

 途方もない虚脱感が俺を襲うのは何故だろうか?

 いや、その理由は分かっている。

 一緒にいるのが女の子じゃないからだ。

 もしこの状況で一緒にいるのが日和だったら……。

 

 

『2人っきりですね桜井くん』

『そうだな』

 沈み行く夕日を見ながら日和の肩を抱く。

 日和は恥ずかしそうな顔を見せながらもやがて俺に首を預けた。

『私……桜井くんとだったらこの島でずっと暮らしても良いと思ってます』

 日和はとても控え目に、けれど大胆な望みを語ってくれた。

『偶然だな。俺も同じことを考えていた所だ』

 日和の腰に手を回して抱き寄せる。

『桜井くん……』

『日和……』

 夕日をバックに重なり合う俺と日和の唇。

 こうして結ばれた2人は沢山の子供に囲まれながらいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし めでたし

 

 

「なんて状況もあり得たかも知れないのに比べると現実はわびし過ぎるぜぇ……」

 妄想と現実のギャップに泣きたくなる。

「のぉ、智坊?」

「何?」

 またくだらないことだろうと話半分だけ聞く体勢をとる。

「お主は先ほど船に乗っておった羽が生えて髪に鈴がついたおなご1人と結ばれるのと、大勢のおなごにきゃっきゃうふふに手出しを続ける生活のどちらがええかのぉ?」

「髪に鈴がついたおなごって日和のことか?」

 日和をお嫁さんに娶って死ぬまで仲睦まじい夫婦生活を送る。

 結婚はせずに死ぬまでピチピチした女の子達の尻を追い続ける生活。

 どちらが良いかと問われれば……。

「そりゃあ日和との結婚生活だよ。ハーレム王を目指した果ての孤独死ってのはやっぱり悲しい気がするしな」

「そうかのぉ」

 じっちゃんは回答を聞いて大きく息を吐き出した。

「では次の質問じゃ。その日和というあの羽付きのおなごと結婚したとするぞ。そのおなごが浮気しても良いと言った場合、智坊はあまたのおなごを追い掛けるかの?」

 じっちゃんの質問は何とも困ったものだった。

 けれど答えるのは比較的簡単だった。

「幾ら俺が女好きだからって結婚したらさすがに他のお姉ちゃんを追いかけるのは止めるさ」

 首を振って答えてみせる。

 結婚した状態で他の子に手を出そうというのは不倫というものだろう。

 じっちゃんや母ちゃんの場合失敗してばかりだからあまりそういうイメージはないけれど不誠実なのは確かだ。

「なるほどのぉ」

 じっちゃんは大きく頷いてみせた。

 そしてギロッと鋭い視線を俺に向けてみせた。

「智坊は桜井家の人間として酷く歪んでおるというわけじゃの」

「俺が歪んでいる? 何だそりゃ?」

 じっちゃんの言っていることは意味不明だった。

「智坊は何故桜井家が代々一子相伝なのか知っておるかの?」

「桜井家が代々一子相伝のわけ?」

 ふと家系図を思い出してみる。

 俺は一人っ子だ。

 母ちゃんも一人っ子だ。ちなみに父ちゃんは婿養子だ。

 じっちゃんも一人っ子だ。

 ひいじっちゃんも一人っ子だ。

 俺が知っているのはそこまでだが、なるほど。確かに桜井家は代々一人しか子供がいない。でも、それは……。

「偶然なんじゃねえの?」

 特に理由があるとも思えなかった。

「ふぉっふぉっふぉ。決して偶然などではないぞ」

 じっちゃんは首を横に振った。

「桜井家は代々ハーレム王を命を賭して志す者を生んでしまう特殊な家柄。にも関わらず子供は一人しかおらぬ。これはおかしなことではないかのう?」

「いや、それはハーレム王を志しても結局はモテないからだろう? じっちゃんはフラレテル・ビーイングの創設者だし、母ちゃんだって男も女も見境なく追い掛けるから変態扱いされて学生時代に人気がなかったって父ちゃん言ってたし」

 そして俺も校内モテない男子ランキング万年一位を獲得しているモテない・マイスターなのだし。桜井家はモテない血統なのだ。

「確かに桜井家の人間は99%の確率で嫌われる。しかしじゃ、逆に言えば千人に声を掛ければ10人にはモテるということじゃ。1万人なら百人じゃ」

「そんなもんか?」

 今までの人生の中で俺を好きと述べてくれたのは日和だけだ。

 後は強いて言えばカオスぐらいだがアイツはガキンチョだからノーカウント。

 俺も空美町だけでなくもっと遠くまで足を運んで色んなお姉ちゃんに声を掛けまくれば日和みたいな子にまた出会えるということだろうか?

 いやいや、俺は何を考えているんだ?

「じゃがの。桜井家の男がどんなに頑張って数万人、数十万人のおなごに声を掛けようと本妻の間に子が1人出来るのみ」

「…………いや、それ、ハーレム王の遺伝子が世界に拡散しないってことで良い事なんじゃないかとも思うぞ」

 もし仮にじっちゃんが本物のハーレム王となって自分の子供をポコポコ残していたら。

 母ちゃんには兄弟が恐ろしいほど沢山いることになる。そしてその兄弟と母ちゃんがハーレム王として子供をやっぱりポコポコ残していたら。

 俺には兄弟と従兄弟が恐ろしいほど存在することになる。しかも全員ハーレム王属性。

 そんな風にして大量の俺のような存在が世界各地で女の子にちょっかい出しまくってしまう世の中になったとしたら……考えるだけでも恐ろしい。

 ゴキブリ桜井がその繁殖力をもって文字通り本物の存在になってしまう。それは世の安定に危険をもたらすに違いない。俺の掲げる平和が一番は桜井家によって崩れてしまう。

「そうじゃ。桜井家が繁栄しないのは人類の平穏の為に良いことなのじゃ」

 じっちゃんは深く何度も頷きそして目をギロッと光らせた。

「そして桜井家は繁栄しないように呪いを掛けられておる。いや、システムされておるというべきかの」

「呪い? システム? 幾ら何でも大げさなんじゃ」

 桜井家に呪いが掛かっているとか幾らなんでも非科学的だ。

 桜井家の人間にちょっかい掛けられて呪いたくなるほど恨んでいる女の子は山ほどいそうな気がするけれど。

「じゃがのう、智坊よ。桜井家の人間がハーレム王の野心を捨てたった1人だけの女性を愛するのならば呪いは解けて子宝にも恵まれるそうじゃぞ」

「呪いの話、続いているのかよ? しかも伝聞形?」

 呪いの話を誰かがじっちゃんにでも吹き込んだのだろうか?

 はた迷惑な話だな。

「でもまあ、別に呪いの話を信じる訳じゃないけれど、嫁さんだけを愛して子宝に恵まれるのなら別にそれは悪いことじゃねえんじゃねえの?」

 世間様に迷惑を掛けることもなく平和が一番を守れるのなら良いことの筈。

「確かに智坊があの貧乳ツインテールのロリっ子や巨乳ポニーテールのお嬢ちゃんと一緒に無人島に漂着して子沢山な未来を歩む別世界も存在するじゃろうなあ」

「何だそりゃ?」

 じっちゃんの言っていることは訳が分からない。

 何で俺がニンフやそはらと子供を沢山作っているなんて妄想がどこから出てくるんだ?

「じゃが、それは桜井家の人間が歩むべき人生ではない。ノット・ハーレムなどありえん」

「そんな妄想の俺にクレームを付けられても困るんだが」

 今日のじっちゃんは謎過ぎる。

「ハーレムでない桜井はただの桜井じゃ」

「いや、ただの桜井でも十分っしょ」

「桜井の人間は永遠にハーレムの夢を追い求めねばならぬのじゃ。少なくとも2人の女性を愛し続けなければならぬ。でないと……」

 じっちゃんは雲ひとつない青い空を見上げた。

「永遠に届かなくなってしまうのじゃ」

 じっちゃんの顔は何かに焦っているようにも見えた。

 けれど俺にはじっちゃんが何を言いたいのか少しも理解できなかった。

 

「智坊はあの日和とかいうめんこいおなごが好きなのかの?」

「そ、それは……」

 答えに詰まる。

 中学生男子が異性についての想いを認めることは難しい。

「否定せぬか。やはりあのおなご……桜井を守る為には、あの空へ望みを繋ぐ為には危険な人物じゃということじゃな」

「日和が危険人物って何だよ! 日和はとっても良い子なんだぞ!」

 じっちゃんの言い方にカチンと来た。

「じゃから危ないのじゃ。桜井のハーレム王としての血筋を断たせてはならんのじゃ」

 だがじっちゃんは自説を曲げない。

「じゃが、ハーレム王桜井の守護たるワシが智坊の側におる限りあのおなごの“約束された勝利の出番”が発動することはない。智坊は色んなおなごにちょっかいを出し続けてゴキブリの如く嫌われる人生を立派に歩んでくれるじゃろう」

「ゴキブリの如く嫌われる人生のどこが立派なんだよ!?」

 じっちゃんが何を言いたいのか全く分からない。

 最近になって何故だか知らないけれど復活したじっちゃんはどこかがおかしい。

 妙なことをよく言うし、何て言うか危険な臭いをプンプン漂わせている。

「とにかくワシがおる限り、あの日和というおなごが智坊を助けに来ることはないぞ」

「いや、別に助けに来てくれるんなら誰でも良いんだけどさ」

 もう一度海を凝視してみる。

 やっぱりどこにも陸地も船も見えない。

 

「ていうかじっちゃんはこの島から脱出できる術を持ってるのか?」

 じっちゃんはあっさりと首を横に振った。

「ふぉっふぉっふぉ。ワシにそんな力はありゃせんぞ」

「じゃあ、どうするってんだよ? こんな何もない島でさ」

 サバイバル生活を送るしかなさそうだが。

「ハーレム王として覚醒すべくこの島で妄想トレーニングを積み重ねるのじゃ」

「妄想トレーニング?」

 じっちゃんはまた訳のわからないことを言い出した。

「このおなごのいない島で生活を続ければ智坊のおなごを求める欲望は数倍に膨れ上がる。そうなればハーレム王として覚醒することは間違いなしじゃ」

「まさかその為にじっちゃんは俺をこの島に連れて来たのか!?」

 本格的に今のじっちゃんは狂ってる。そう判断するしかない。

「ふぉっふぉっふぉっふぉ。智坊よ。余計なことは考えずに桜井の血を滾らせる妄想に励むのじゃ」

「ムフフ本もなしにエロい妄想に浸れるかっての!」

 まったく、じっちゃんは俺を何だと思ってるんだ?

 仮にここに日和が実在してくれればエロいことも想像し放題なのだが……。

 

 

『さっ、桜井くん。水着のブラが海に流されてしまいました』

『えっ?』

 振り返ると胸を両手で隠して恥ずかしそうにしている日和の姿があった。

 本人の言うとおり白いビキニのブラがなくなってしまっている。

『恥ずかしいから……見ないで下さい』

『わっ、悪い』

 慌てて振り返り直して背中を向ける。

『その、すみませんが海に浮かんでいる筈のブラを取ってきて頂けませんか? 私は泳げませんので』

『お、おう』

 海を眺める。すると沖合い30メートル地点にそれらしき白い布を発見した。

『ああ。あれなら取って来られるな』

 早速海に入る準備をする。

 だが……

『ああっ! 海神ポセイドンが復活してブラを頭に被って海底へと沈んでしまったあっ!?』

『…………これはもう、諦めるしかないですよね』

 さすがに海の神様と戦って勝つのは脱衣モードを使っても不可能だ。

 にしてもポセイドンの奴、日和のブラを被って逃げるとは分かってやがる。

『でもこれじゃあ恥ずかしくて桜井くんと向き合えません……』

 日和はとても困った声を出している。

『えっと、じゃあ、とりあえず俺のパーカーを着てくれ』

 着ていたパーカーを脱いで日和に手渡す。

『あっ、ありがとうございます』

 日和はパーカーを落としそうになり両手で受け取った。その瞬間、日和の胸を隠すものがなくなり俺の目には丸見えになってしまっていた。

『きゃぁああああああぁっ!』

 悲鳴を上げながら慌ててパーカーを着込む日和。

『桜井くんに……見られてしまいました』

 涙目で俺を見ている。

『えっと、その、スマン』

 頭を掻きながら謝る。今のは純然たる事故だった。

『さっ、桜井くんには私のは、裸を見た責任を……』

 日和の顔が真っ赤に染まっていく。その顔を俺は可愛いと思った。

『責任なんて消極的なことは言わない。俺と結婚してくれ、日和』

『はい。智樹くん……』

『日和……』

 重なる2人のシルエット。

 こうして2人は沢山の子宝に恵まれながら幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし めでたし

 

 

「ふぅ~。妄想ってのもなかなか楽しいもんだな」

 85年の人生が終焉を迎えた所で妄想を止めて息を吐き出す。

 日和との間にもうけた3人の子供も立派に成長してくれた。やり残したことは何もない。

「ふぉっふぉっふぉ。智坊もいずれ複数のおなごとねんごろになる妄想をするようになる。その時が楽しみじゃ」

 じっちゃんは俺を見ながら笑っている。

 けれど、どうもその笑みには以前のような朗らかさが欠けている気がしてならない。

 それにしてもこの島でこれからどうすっかなあ?

 

『俺のメガネ計算に拠れば智樹はこの付近の島に打ち上げられている可能性が高い。周囲に島がないかよく探してくれ、アストレア』

『はいっ』

 空の彼方から聞き慣れた声が伝わってきた気がした。

 視界には全く何も映っていない。

 けれど俺の耳は確かに守形先輩とアストレアの会話が聞こえた気がした。

「お~~いっ! 俺はここだぁ~~~~っ!」

 声がしたような気がする方向に向かって叫んでみた。

 届くと思ったわけじゃない。でも、叫ぶ価値はあると思った。

『今、智樹の声がこっちから聞こえた気がするっ!』

『何だと? よし、その声の方角に向かって飛ぶんだ!』

 アストレアらしきその声は俺の呼び掛けに反応してくれた。

 そしてしばらくそちらの方角を眺めていると

 

「智樹~~~~っ! みつけた~~~~っ!!」

 アストレアが守形先輩を抱えて俺達がいる島へと一直線に飛んで来るのが見えた。

「アストレア。守形先輩っ! 俺はここだぁ~~~~っ!!」

 両手を大きく振りながら自分の居場所を知らせる。

「ばっ、馬鹿なっ!? 何故この島の位置が割り出せるのじゃ!? そんな筈は……」

 じっちゃんは2人を見ながら何故だか非常に驚いている。

「智樹~~っ! 無事で良かった~~~~っ!!」

 アストレアは砂浜に降りるなり先輩を放して代わりに俺に抱き付いてきた。

「助けに来てくれたんだな。ありがとう」

 アストレアの抱擁を受けながら安堵の息を漏らす。

 サバイバル生活に突入することになるかと思ったけれど、アストレアが来てくれればその心配はもうない。

 けれどじっちゃんの反応は違った。

 じっちゃんは2人を鋭い視線で睨んでいた。

 

「この島を割り出すとはお主、一体何者じゃ?」

 じっちゃんは鋭い瞳を向けたまま先輩に尋ねた。

「俺の名は守形英四郎。空美学園新大陸発見部の部長だ」

 先輩もまた険しい表情でじっちゃんを見ている。

「新大陸発見部。なるほどのう。ヌシもまた新大陸、シナプスに魅入られた者の1人というわけか。ならば納得じゃ」

 じっちゃんは勝手に納得して頷いている。何が納得なのか俺には分からない。

「では次にそちらのボインボインで真っ直ぐな瞳をした娘よ。ヌシは何者じゃ」

 じっちゃんは今度はアストレアへと視線を向けた。

「私は近接戦闘用エンジェロイド・タイプ・デルタ・アストレアよ」

 アストレアはハキハキと答えた。

「エンジェロイド……その真っ直ぐで強い意志を秘めた瞳。なるほどのぉ。なるほどのぉ」

 じっちゃんは再び勝手に納得して頷いている。

「つまり、じゃ」

 じっちゃんは再び先輩とアストレアを見た。

 そしてかつて見たことがないような歪な笑みを浮かべながらとんでもない発言をした。

「この2人がワシの敵、というわけじゃな」

 その言葉が吐き出された瞬間、俺の背中はゾクッと震えた。

 

「智樹っ! その老人は危険だっ!」

「智樹、そのおじいちゃんから早く離れてっ!」

 2人は後方に飛びのきながら俺にも逃げるように指示を出す。

「じっちゃん!?」

 じっちゃんの変貌ぶりにこの場の誰よりも驚かされる。

 逃げなくてはと思うのだが体が上手く言うことを聞いてくれない。

「智樹の祖父を名乗るその人物……いや、人間ですらなさそうなその存在から離れるんだ」

 先輩が切羽詰った声を上げる。

 事態が相当に切迫していることが声から分かる。

 畜生。一体どうなってやがるんだっ!?

「智樹から……離れろ~~っ!!」

 アストレアがじっちゃんに向かって肩からタックルを仕掛けて来た。

 エンジェロイドが超高速で飛翔しながらのタックル。食らえば普通の人間などひとたまりもない。

 だが……。

「そんな攻撃がワシに効くはずがあるか」

 じっちゃんの周りにピンクの障壁が突如発生しアストレアが逆に吹き飛ばされた。

「きゃぁああああああああああああぁっ!?!?」

 ゴロゴロと回転しながら吹き飛ばされるアストレア。

「アストレア~~~~っ!!」

 俺は慌ててアストレアの元に駆け寄ろうとする。けれど、ピンク障壁の中にいる俺は外に出られない。

「やはりこの老人……人間の理から外れた別の存在になっている」

 ピンクの壁を叩いて確かめながら守形先輩が冷や汗を流している。

「どうした? 抵抗はこれでもう終わりかの? 見込み違いだったかのぉ」

 じっちゃんは口からピンク色の煙を噴出しながら笑っている。

「アストレアの力を舐めるな老体よ。そして俺のメガネもな」

 先輩はメガネを光らせた。

「アストレアっ! クリュサオルを使えっ! お前がその超振動光子剣を振えば必ずこの障壁を粉砕できる」

「はいっ!」

 アストレアが立ち上がって必殺の剣を構える。

「ふぉっふぉっふぉ。無駄なことじゃ。ワシのムフフ障壁はその程度の物理武器で破れるものではない」

 じっちゃんは余裕をかましてそのままの位置取りを続けている。

「いっけぇ~~~~~~っ!!」

 そしてアストレアはじっちゃんに向かって剣を向けたまま再度の突撃を開始した。

 

「ふん。無駄なことじゃ」

 余裕をかますじっちゃん。

 だが、守形先輩はそんなじっちゃんに対してメガネを妖しく光らせた。

「確かにその障壁は凄いのかも知れない。だがな……相性というものがある」

「何じゃと?」

 余裕をかまして笑っていたじっちゃんが先輩を警戒しながら見た。

「その邪な想いから生じた障壁。真っ直ぐが取り得のアストレアの剣を防げるかな?」

「ま、まさかっ!?!?」

「覚悟しなさい……智樹のおじいちゃんの偽者めがぁ~~~~っ!!」

 真っ直ぐに突き出されたクリュサオル。

 その光の刃はピンク色の障壁を突き破り……じっちゃんの身体をも突き抜けた。

「じっ、じっちゃん!?!?」

 クリュサオルはじっちゃんの胸から腹に掛けての部分を背中に向かって突き抜けている。

 それは誰がどう見ても致命傷に間違いなかった。

「なるほどのう。なるほどのう」

 だがじっちゃんは笑っていた。突き刺さった剣と自分の傷口を見ながら笑っていた。

「このアストレアという娘がこのクリュサオルという武器で攻撃するとワシを倒すことが出来る。そしてアストレアを指揮したのがこの守形というメガネ小僧。これは実に良い情報が手に入ったわい」

 じっちゃんはかつて生きていた時には決して見せたことがない邪悪な笑みで笑っている。

 やっぱりコイツはじっちゃんとは何か他の存在だ。

「この情報……他の世界のワシ達に送らねばな」

「他の世界のワシ、だと?」

 先輩は眉をしかめた。

「ワシが望む世界。ワシが望む桜井を達成する為には……アストレア、守形英四郎。ヌシら2人が邪魔者であるとな」

「なんだとっ!」

 先輩が表情を強張らせる。一方で俺には何が何やら少しも分からなくて困る。2人は一体何の話をしているんだ?

「ここより近い後ろ4つの世界と先3つの世界のワシに情報を送っておいた。智坊がハーレム王になる野望を断たんとすれば必ずやワシがその愚かな考えを正すことじゃろう」

「そんなことはさせないっ! どの世界だってアンタの野望は私が阻止してみせるんだからぁ~~っ!」

 アストレアはじっちゃんを突き刺している剣に篭める力を更に強める。

 だが……。

「う……そ……? 何で?」

 アストレアの腹から夥しい量の血が流れていた。

「あの魔術師の魔術で蘇ったこの身体も……思ったよりも使い勝手がええのぉ~」

 じっちゃんはほっこりした表情を浮かべている。

「ワシに掛かっておる魔術の呪いで、ワシに与えたダメージがそのままヌシに跳ね返っておるだけじゃ」

「ダメージがそのまま跳ね返るって……」

 アストレアの顔が一気に青ざめる。

「ワシが受けたのは致命傷だからのぉ。ヌシが受けるのも当然致命傷じゃ」

 

「グフッ!?!?」

 アストレアが両膝をついて砂浜に倒れる。

「アストレアっ!!」

 慌ててアストレアへと駆け寄って支える。

 だが、近付いたことで分かってしまった。

 アストレアはもう助からない深い傷を負っていることを。

「大丈夫だから……智樹」

 荒い息を吐きながらアストレアは言った。

「何が大丈夫だってんだよ?」

「この島の位置はちゃんと日和さんやニンフ先輩に知らせておいたから。すぐに助けは来るから……私がいなくても、大丈夫……よ」

「全然大丈夫じゃねえよっ!」

 コイツ、普段はどうしようもなくバカな癖にこんな時に俺の心配をするなんて。

「ニンフ達が来ればきっと治療方法がある筈だから……諦めんなっ!!」

「ごめんね……せっかくの智樹の命令だけど……それはちょっと守れそうに……ない、よ」

 アストレアの体は突然重くなったかと思うと前のめりに頭から砂浜に倒れて動かなくなった。

「あっ、あっ、アストレアぁあああああああああああああああああああぁっ!!!」

 動かなくなってしまったアストレアを抱き起こす。

 だけどアストレアはもう……。

「貴様ぁああああああああああぁっ!!」

 俺は守形先輩が怒っている所を初めて見た。

 だけど……。

「アストレア、守形英四郎。ヌシら2人さえ殺してしまえばワシの長年の夢は成就する望みを繋ぐ。ふぉっふぉっふぉ。ようやくワシは……辿り着ける道筋をみつけたのじゃ」

 じっちゃんは興奮したように空を見上げた。もう俺には何が何だか分からない。

「そちらのお姉ちゃんはワシのあの世への供に付き合ってもらうぞ」

 アストレア死体が消える。と、じっちゃんの足元へと転移した。

「智坊とこの世界で会う機会は二度とないじゃろう。じゃが、他の世界のワシはきっと智坊を歴代最強の桜井に仕立ててくれることじゃろう。そして桜井は念願のあの場所に至る。ふぉっふぉっふぉ。実に楽しみじゃの~。ふぉっふぉっふぉっふぉ」

 笑い声を最後にじっちゃんとアストレアは姿を消してしまった。

 まるで最初からいなかったかのように。

 でも、アストレアが俺の為に死んでしまったのは紛れもない事実だった。

「アス……トレア…………っ」

 ガックリと膝をつく。

 涙が、涙が止まらない。

 

(約束された勝利の出番 発動)

 

「桜井くん……一体何が起きたのですか? 何故、泣いているのですか?」

 目の前に日和が立っていた。

 日和は泣いている俺を見て酷く驚いているようだった。

「あ、アストレアが……アストレアが……っ」

 それ以上喋ることが出来なかった。

 俺はただ日和の胸で泣きじゃくるしかなかった。

 

「守形先輩。一体何が起きたのですか? 桜井くんのこの様子、普通じゃありませんよ」

「俺にもよく分からん。だが、アストレアが智樹の祖父を名乗る怪異に殺されたことだけは確かだ」

「アストレアさんが殺されたっ!?」

「風音には傷付いた智樹の心を癒してもらいたい。智樹が心を最も許している風音が適役だろう」

「…………はい。どれだけ時間が掛かっても桜井くんの心は私が癒してみせます」

「ああ。頼んだぞ」

「はい。だって私は……桜井くんのことが大好きですから」

 

 俺がアストレアの死を受け止めて日和と付き合うようになったのはそれから1年後のことだった。

 

 

 

 

 


 

 
 
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