No.496311

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第二十五話 スカリエッティの事情と破戒すべき全ての符

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2012-10-14 22:46:34 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:39154   閲覧ユーザー数:34960

 最初に『聖王のゆりかご』の方へやって来た俺だが見事当たりだった。スカリエッティ達が居たからな。

 

 「……君は何者かな?」

 

 スカリエッティが尋ねてくる。側にいる戦闘機人トーレ、チンクは既に戦闘態勢になっており、ウーノ、クアットロも俺を警戒している。

 

 「フリーの魔導師だ」

 

 「ふむ。管理局員ではないと?それに子供…トーレ、君が言ってた子供とは彼の事かい?」

 

 「違います。この子供ではありません」

 

 トーレ達を倒した子供の魔導師か。

 

 「それは俺の友達だな。俺も違法研究所には一緒に忍び込んだし」

 

 「っ!!まさか、二手に分かれたもう一方の局員の方にも誰かが戦った跡があったがソレはお前が!?」

 

 「その通り」

 

 「…それで君はここに何の用があるのかな?」

 

 スカリエッティが俺に問う。

 

 「アンタにお願いがあって来た」

 

 「ほう?私にお願いかね?」

 

 何だか興味を持ったようなスカリエッティ。

 

 「ああ、単刀直入に言うがアンタ、管理局に自首する気は無いか?」

 

 「…これはまた、本当に単刀直入だね」

 

 「まあね…。で、どう?自首する?しない?」

 

 「残念だがお断りさせていただくよ」

 

 まあ当然だわな。

 

 「じゃあ、せめてこのまま何もせず静かに暮らしてくれないか?このままだと俺の平穏が無くなるんでな」

 

 「それはどういう意味だい?私が静かに暮らすのと君の平穏にどんな関係が?」

 

 「俺にはレアスキルがあってな。未来を予知するレアスキルなんだが…」

 

 俺は8年後に起きるであろうJS事件の事を『レアスキルで視た』と言い、説明した。

 当然ながら予知なんかではなく原作知識を思い出してだ。

 未来を予知するレアスキルもあるにはあるが8年も先の事なんて分からないからな。

 

 「…成る程ね。つまり君の視た未来では私は歴史に名を残す程の大犯罪者という訳だ」

 

 「……そんな簡単に人の話信じていいのか?そっちの戦闘機人達みたいに少しは警戒するべきだと思うんだが」

 

 「こう見えても人を見る目はあるつもりでね。君が語っている時の目は嘘を言う様な目では無かったよ」

 

 前にも言われたなそんな事。

 

 「だがそれはあくまで予知で視た未来であって必ずしもそんな未来になるとは限らないだろう?」

 

 「一理有るが無いとも言い切れないし、かなりの高確率で当たるんだよこの予知は」

 

 「それで、君の平穏が無くなるというのはその事件に巻き込まれるからかい?」

 

 「確実にな。管理局員じゃなくても民間協力者として巻き込まれるだろうし」

 

 『だから大人しくしておいてくれ』と俺はスカリエッティに頼む。

 

 「ふむ。大人しくしてあげたいのは山々だがそれも無理だろうね。多分、君の視た未来の私は私であって私ではないだろうからね(・・・・・・・・・・・・・・・・)」」

 

 「…どういう意味だ?」

 

 「私には『枷』があるのだよ。最高評議会の連中によって取り付けられた『枷』がね」

 

 「ドクター!それは…」

 

 「良いのだよウーノ。別に知られても困る訳でもない」

 

 「ですが……いえ、分かりました」

 

 「『枷』?『枷』って何だ?」

 

 「私が評議会の言いなりになるための処置だよ。この『枷』がある為に私は連中に逆らえない」

 

 俺はスカリエッティの全身を見てみるがそんな物はどこにも無い。

 

 「残念だが目に見える物ではないよ。私の遺伝子そのものに『枷』があるんだ」

 

 「…それはまた難儀な事だな」

 

 「全くだよ。…この『枷』は私が生まれた際、遺伝子に組み込まれた特殊な術式で彼らの命令に逆らえば即座に私の命が失う様になっていてね。体内に爆弾を抱えているのも同然なんだよ」

 

 「術式?それって魔法なのか?」

 

 「その通り。古代魔法の一つらしくてね。今ではもう評議会の連中を除いて誰も解除する方法を知らない魔法なのさ」

 

 「無限書庫にも?」

 

 「おそらく無いだろうね。そしてこの術式にはもう一つ仕掛けがあってね。私の精神を徐々に蝕んでいくのさ。多分君の視た未来の私は完全に連中の人形と化した私だろうね」

 

 いや、原作のアンタをそのまま話しただけなんだが…。

 なんか予想外過ぎる展開だな。

 

 「彼等にとっては管理局が絶対の正義と示すために人形になった私を悪として扱うのだろう」

 

 「まあ確かに『正義』を示すには対立すべき『悪』が必要不可欠だな」

 

 「だが私としては連中の言いなりになる気は無いよ。この『枷』を外し、私は自由を手に入れてみせる」

 

 スカリエッティの瞳からは強い意志が見て取れる。

 なんか原作の雰囲気が全然無くてコイツ本当に悪人なのか疑問になってきたな。

 

 「でもアンタが自由を手に入れる代償として昨日、そこの戦闘機人達に管理局員が殺されてるんだが?いくら何でも『殺せ』と命じる必要はあったのか?」

 

 「違う!!」

 

 突然、スカリエッティの側に居たチンクが叫ぶ。

 

 「ドクターが自分の意思でそんな命令を私達に出しはしない!!最高評議会に言われて仕方なくそうするしか無かったんだ!!」

 

 「…何だと?」

 

 「事実だ。元々評議会は戦闘機人事件を追っていた部隊を我々に始末させるつもりだったらしい。戦闘機人プラントのある場所の情報をリークしたのも評議会だろう」

 

 トーレの発言に表情は崩さないが内心で若干動揺してしまった。

 もしそれが事実ならゼストさんの部隊が壊滅する原因の元を作ったのは評議会の連中って事になる。

 

 「私達は従うしかなかった。ドクターを死なせないために」

 

 「ドクターは私達の生みの親なのです。ドクターを守るためならこの手を血で汚す事になろうとも構いませんわ」

 

 戦闘機人達もスカリエッティの事大切にしてるんだな。

 何つーか、皆良い奴過ぎる感じがする。あのクアットロからも黒い感じが全くしねーし。

 

 「アンタ本当に広域指名手配されてる犯罪者か?今のアンタ見てるとそんな風に思えないんだが…」

 

 俺はスカリエッティの顔を見て尋ねるが

 

 「君が私の言う事を信じてくれるかは分からないがそれらの犯罪行為は全て評議会に命令されての事だ。もっとも、評議会に逆らえないとはいえ指名手配される程の犯罪をした事には変わりないがね」

 

 ハハハと自嘲気味に笑うスカリエッティ。

 

 「……本当に無いのか?術式を解除する方法」

 

 「…厳密に言えば一つ確実な方法はあるんだよ」

 

 「その方法は?」

 

 「私の命が尽きる事だ。この術式は私の命が尽きると評議会の連中にも伝わる仕組みにもなっている」

 

 「つまり『術式が解ける(イコール)アンタの死』という式が成り立つ訳だ」

 

 「そういう事になるね。もっとも、私が死んでも評議会の連中にとっては『使い捨ての駒が一つ減る』程度の認識しかないだろう。連中なら私の代わりなどすぐに創れるだろうからね」

 

 そういえばスカリエッティはアルハザードの技術によって造られた人造生命体だったな。

 ここで死んでもすぐに新たなスカリエッティを生み出せるという訳か。

 もしくは別の人物でも準備するのか。

 だとしたら逮捕・自首させても意味無いな。

 ていうか……

 

 「…はは、結局俺は関わっちまうのか」

 

 目の前のスカリエッティは放っておいたら評議会の『枷』によって連中の人形になり原作通りの展開。ここでスカリエッティが死んでしまったりすれば評議会の用意する新たな存在のせいで俺Sts原作に介入してしまう…。 

 神様、ホント恨むぜ。

 

 「何だかすまないね。私のせいで君の平穏を壊す様な事になってしまって」

 

 「いや、いいんだ。もう8年後の平穏については諦める。それよりも今はアンタを助ける方法を考えるさ」

 

 「「「「「はい?」」」」」

 

 俺の発言に『何言ってんのコイツ?』みたいな目でこっちを見ているスカリエッティと戦闘機人達。

 

 「君はいきなり何を言ってるんだい?」

 

 「さっきまでの話聞いてたらアンタ根っからの悪人じゃないじゃん」

 

 「……私の話を信じるのかい?君に嘘を吐いているかもしれないのだよ?」

 

 「俺も一応人を見る目はあるつもりなんだがな。まあ、騙されたなら騙されたでその時にどう制裁するか考える」

 

 「……そうか。なら君を騙す様な事はしないと誓っておくよ。制裁されるのは嫌だからね」

 

 言い合ってお互いに軽く笑い合う。

 

 「じゃあ、その術式についてだな。せめて魔法の名前だけでも分からないのか?」

 

 名前が分かれば悪魔図書館(あくまとしょかん)使って一発で調べられるんだが。

 

 「術式についてはドゥーエ…私が作った戦闘機人の一人なんだが、彼女に頼んで評議会の連中に接触し、連中が使った古代魔法について調べてもらっているのでね」

 

 情報待ちか…。

 前途多難だなあと思っていると

 

 「ユウくんユウくん」

 

 俺の相棒であるダイダロスが俺を呼ぶ。

 

 「どうしたダイダロス?まさかその古代魔法について何か知ってんのか?」

 

 「そうじゃないけど、その術式って魔法なんでしょ?なら『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』で対処出来るんじゃないかな?」

 

 「っ!!そうか!!その手があった!!」

 

 確かにあらゆる魔術・契約を無効化するあの宝具なら何とか出来るかもしれない。

 

 「どうしたんだい?何か妙案が?」

 

 「ああ!これ使えばアンタの『枷』をどうにか出来るかもしれない」

 

 俺は宝物庫から一つの宝具を取り出す。

 それは異形の形をした短剣。

 

 「じゃあスカリエッティ。早速試してみよう」

 

 「その前にその…短剣?でいいのかな。短剣は何処から出したんだい?」

 

 「それは後で説明する。まずはこれの能力についてだ」

 

 俺は破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)について説明する。

 

 『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

 Fate/stay nightのキャスター、『裏切りの魔女メディア』としての伝説が具現化した対魔術宝具。これ自体の攻撃力はただのナイフと変わらないが『あらゆる魔術を初期化する』という特性があり対魔術宝具のカテゴリーでは間違い無く最強。サーヴァントとマスターの契約を断ち切り強制的に無効化する程であるが宝具の初期化はどれ程ランクが低くても出来ない。

 

 「……とまあ、こんな所かな」

 

 説明し終えた俺が見たのはポカーンとした表情でこちらを見ていたスカリエッティと戦闘機人達。

 どうしたんだ一体?

 

 「……何ていうかその宝具とやらはロストロギアじゃないのかね?」

 

 「……まあ強く否定出来ないな。でもこれは(この世界では)俺の所有物だからロストロギアじゃないんだ」

 

 「……そうなのかい」

 

 「そうそう、個人の財産って事で納得してくれ」

 

 「ふむ。私としては『枷』が本当に外せるのならば特に気にしないよ」

 

 「じゃあ、とっとと「待て!!」……何か?」

 

 始めようとした所で声がかかり制止される。

 チンクだった。

 

 「お前の説明が嘘を吐いていないとは限らない。それでドクターを殺すつもりではないだろうな?」

 

 まだ警戒心を解かない戦闘機人達。というか破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)出してからは更に警戒心が上がってる様な気がする。

 確かにこれで刺し殺すかもしれないと思うのは分かるね。

 

 「大丈夫だよチンク。彼はそんな事をする様な子じゃないさ」

 

 「ですがドクター…」

 

 「俺としてはもう『信じてくれ』って言うしかないからなあ」

 

 「…分かった。だが妙な真似をしたらその時は」

 

 「そん時は俺を殺すなり何なり好きにしてくれて構わんよ」

 

 俺がそう言うと不本意だろうが納得してくれた。

 それよりもとっとと始めるか。

 俺はスカリエッティの手の甲に破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の先端を軽く突き刺し

 

 「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

 宝具の力を発動させる。

 『パキンッ』と何かを砕く様な感じがした。これで術式を破壊出来たのか?

 スカリエッティの手の甲から破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)をどけて本人に確認する。

 

 「どうよ?」

 

 「…まさか、本当に『枷』が外れるとは思っていなかったよ」

 

 『本当に信じられない』といった表情を浮かべ自分の手の甲を見つめているスカリエッティ。

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の先端で刺した手の甲からは僅かに血が出ていた。

 

 「ドクター!大丈夫ですか!?」

 

 ウーノ達戦闘機人がスカリエッティの側に集まり彼の状態について心配している。

 

 「ああ、心配無いよウーノ。それと彼の言った事は本当だった。私を縛り付けていた『枷』が完全になくなっている」

 

 「「「「ええっ!?」」」」

 

 スカリエッティの言葉に驚く四人。

 

 「つい先程まで私を縛り付けていた様な妙な感覚が感じられなくなった」

 

 「それじゃあ?」

 

 「ああ、もう私は連中の言いなりにならなくて済む。まさか私が長年求めていた自由がこんなに簡単に手に入れる事が出来るなんて、未だに信じられないぐらいだよ」

 

 「嬉しい誤算だろ?」

 

 「そうだね。全くもってその通りだよ」

 

 俺は破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を宝物庫に戻す。

 

 「しかし評議会の連中に感づかれないでしょうか?」

 

 「大丈夫だろ」

 

 ウーノがスカリエッティの『枷』を外した事に不安を抱いている様だが俺はその言葉を一蹴する。

 

 「何故そう言い切れる?」

 

 トーレが聞いてくる。

 

 「さっきも言ったろ?『術式が解ける(イコール)アンタの死』が成り立つって。評議会の連中はスカリエッティの術式が解けた事によって『スカリエッティは死んだ』と思い込んでくれる筈だ。何せ術式を解除する方法は自分達しか知らないんだからな。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)みたいに強制的に無効化出来る事が出来るなんて思ってもいないだろうし」

 

 「私も彼と同じ見解だよトーレ。これで評議会には『私が死んだ』という偽りの事実が伝わった筈だ」

 

 スカリエッティも俺の解釈に頷き肯定してくれる。

 

 「ただ、万が一という可能性もあるかもしれない。ここはすぐにでも離れねばならないだろうね」

 

 「では私は今から必要なデータを纏めて不要なデータはすぐにでも破棄してきます」

 

 「頼むよウーノ」

 

 「はい。クアットロはドゥーエに連絡をしておきなさい」

 

 「分かりましたわウーノ姉様」

 

 「トーレ、チンク。貴方達は資材の持ち運びをいつでも出来る様に準備を」

 

 「「了解」」

 

 ウーノの指示ですぐにでも動き始めるトーレ、クアットロ、チンク。

 ……うーん。もう俺、ここにいる意味無いよな?

 

 「じゃあ、俺はそろそろ帰るな」

 

 「もう帰るのかい?君には『枷』を外して貰ったお礼をしたいのだが…」

 

 「そっちはこれから引越しの準備で忙しいだろ?それに俺は別に礼がほしくて助けた訳じゃないし」

 

 「だがそれでは私の気が済まないのだよ」

 

 必要無いと言う俺にお礼をしたいと言い、引かないスカリエッティ。

 お互いに意見が平行線のまま時間が過ぎ、このままでは埒が明かないので『何か思いついたらお願いする』という事で俺もスカリエッティも納得した。

 

 「じゃあ、そういう事で。ミッドの探索と買い物って言って出てきたからあんまり遅いと心配されるし」

 

 ゆりかごまで全速力で飛んできたといえども結構時間かかったしなー。今から帰ればお昼前って所か。

 

 「…そういえば君の名前は何て言うんだい?」

 

 ……あ、そういや名乗って無かったな。

 

 「俺の名前は長谷川勇紀。管理外世界のフリー魔導師だ」

 

 「勇紀君か…本当にありがとう。君には感謝してもし切れない。何か私に出来る事があったら遠慮無く言ってくれたまえ。喜んで力になろう」

 

 「そん時はよろしく頼むわ」

 

 そう言って俺はそのまま飛び立ち、ゆりかごを後にする。

 飛んでいる途中で拒絶観測(キャットボックス)を使う。ミッドでの無断飛行は駄目だからな。存在を消して誰にも見つからない様にしとかないと。

 

 「しかしここまで原作から離れてるとはなあ」

 

 この世界のスカリエッティの設定を知った時は驚いたぜ。

 

 「まあ、IFの世界だからね」

 

 ダイダロスが言う。

 

 「この様子だとStsの時間軸における展開が読めないな」

 

 今後はあまり原作知識も頼りに出来なさそうだし。原作知識はあくまで参考程度に留めておくのが一番か。

 そもそもリインが誕生した時期やゼストさんの隊が壊滅した時期自体がもう原作からズレているからな。

 

 「とりあえず地上本部に戻ってスカリエッティと会った事話しておくか」

 

 「え?話すの?」

 

 意外だと言わんばかりにダイダロスが聞き返してくる。

 

 「ゼストさん達には知る権利あるだろ?」

 

 全ては最高評議会が仕組んでやった事らしいし。

 あの脳味噌共はホントに……。

 

 「むしろあの脳味噌共を片付けたら8年後の俺は平穏に暮らせるんじゃね?」

 

 ここでまさかの解決案が浮かんでしまった。

 

 「でも何処にいるのか分からないよ」

 

 「何言ってんだダイダロス。管理局内をひたすら捜索すれば連中のいる部屋に出るだろ?」

 

 「さっきも言ったでしょ?IFの世界だって。原作みたいに管理局内にいるかは分からないよ」

 

 「う…確かにな」

 

 ついさっき参考程度に留めておくと思っておきながら早速原作知識をそのまま鵜呑みにする所だった。反省しないと。

 俺はそんな事を考えながら地上本部目指してひたすらに飛んでいた………。

 

 

 

 俺の予想通り地上本部に戻って来た頃には昼前だった。

 丁度屋上に降り立った所でクイントさんから念話が届き、俺は『自分も今帰ってきたのですぐにそっちへ向かいます』と返事しておいた。

 屋上からゼストさん達がいる筈のレジアスの部屋の前で周囲を確認し、拒絶観測(キャットボックス)を解除してから結界内の部屋に入ると

 

 「「……………………」」

 

 仰向けで大の字になり倒れている二人がいた。

 

 「これはまた…」

 

 随分派手にやったなあとしみじみしながら思う。

 結界内の部屋はまるで台風や嵐がきたかの様に荒れている。

 本棚は倒れ、机は真っ二つ、窓ガラスも全て割れ、部屋の床にも所々に罅が入っている。

 これ、結界を張って無かった場合の部屋の修繕費は結構な額になるんじゃねえのか?

 

 「お帰りなさい勇紀君。ってあら?買い物に行ったんじゃなかったの?」

 

 「ああ、クイントさん。実は俺、ミッドの通貨持って無いのに街に出てから気付いて…探索だけしてました」

 

 「じゃあ結局買い物は出来なかったって事?」

 

 「はい。でもおかげで色々な事が分かりました。今回の事件の真相とかも」

 

 「っ!?それって…」

 

 「あの二人の治療を終えたら説明しますよ」

 

 そう言ってレジアスの側に寄り治療魔法をかけ始める。

 ゼストさんの方にはメガーヌさんが対応してくれている。

 メガーヌさんも回復魔法使えたんだな。

 そしてレジアスよ。ゼストさんとここまで戦えるなら十分前線で活躍できるだろうに。戦えないと言っていたアンタは何処行った?

 これもIF世界だからなのか?

 そんな事を考えながらも治療し始めて約10分……

 

 「君にはゼスト達が世話になったな。ワシの親友を救ってくれてありがとう」

 

 地上本部のトップが頭を下げて俺に礼を言ってきた。

 今日は朝から感謝ばっかりされてるな。

 

 「いえ、別に。それより貴方はこれからどうするんで?」

 

 「ワシは評議会とは手を切る事にする。ミッドの平和を想うあまりに法を犯してまで力を求めてしまった。これは許される事ではない」

 

 「レジアス…」

 

 「ゼスト…それにクイント、メガーヌ。済まなかった。お前達の隊が壊滅した責任はワシにある」

 

 「あー、その事なんですけど…」

 

 俺が会話の途中に割り込み、全員の視線がこっちに集まったのでさっきまでの出来事を話す。

 言うべき事を全て言い終えると室内にいる全員の表情が厳しいものになっていた。

 

 「…つまり最高評議会に仕組まれて俺の隊が壊滅する事になったのか」

 

 「スカリエッティも評議会によって言いなりにならざるを得なかったみたいです。それに関しては俺が手を打ったのでもう大丈夫なんですけど」

 

 「手を打ったって、どうやって?」

 

 メガーヌさんの疑問に答える様に俺は宝物庫から破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を取り出す。

 突然空間が歪んだかと思うとそこから何かが出てきた現象に驚きの表情を隠せないゼストさん、クイントさん、メガーヌさん、レジアス、オーリスの五人。

 そしてスカリエッティの時同様に説明をする。

 

 「この短剣にそのような力があるとは…」

 

 「確かにこの短剣からは魔力を感じられるわね」

 

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を見ながら口を開くゼストさんにメガーヌさん。

 

 「それよりも今勇紀君が語った内容についてはどうするんです?まさか管理局の最高権力者が裏で手を引いていたなんて」

 

 クイントさんが皆に聞く。相手は最高評議会だ。慎重にいかないと確実に消されるだろうからな。それこそ自分の家族や友人にも危害が及ぶ。

 

 「その件についてはワシが追っていこう」

 

 「レジアス!?しかしそれではお前に危険が…」

 

 「ワシにやらせてくれゼスト。こんな事で罪滅ぼしになるとは思わんがワシはワシに出来る事で命を失ったお前の隊の部下達に償いたい」

 

 「レジアス……分かった。だが、決して無茶はしないでくれ」

 

 「無論だ」

 

 ゼストさんとレジアスはお互いに軽く言い合い笑みを浮かべる。

 ふーん。どうやら二人は完全に昔の仲に戻ったみたいだな。良かった良かった。

 

 「じゃあ次はゼストさん、クイントさん、メガーヌさんを何処で匿うかですね」

 

 既に死亡扱いされている三人。生きている事が脳味噌共に伝わればヤバいからな。

 

 「ワシが何処か隠れ家を用意した方が良いのか?」

 

 レジアスが三人の身柄を匿うと言うが…

 

 「それってミッドの何処かなら止めた方がいいかと。何時、何処で情報が洩れて三人に危険が及ぶか分かりませんから」

 

 「ううむ、一理あるな。しかしミッドが無理となると…」

 

 「俺に一つ提案があるんですけど」

 

 「提案?どういった内容だ?」

 

 「はい、それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 「……という訳でこの人達を父さんと一緒に警防に連れて行って貰いたいんだけど」

 

 「……成る程、事情は理解した」

 

 あれから俺達は少しミッドでクイントさんとメガーヌさんの個人的な用件(・・・・・・)を済ませ、ゼストさん達を連れて再び俺の家に戻って来た。

 父さんは家の帰ってきていてリビングにいたので探す手間が省けて良かった。

 俺の提案とは簡単な事だ。

 管理外世界である地球で身を隠せばいいという案だ。

 だけど、ここ海鳴には原作魔導師のなのは達やアースラのスタッフ達がいる。

 だから海鳴以外で住まわせれば大丈夫だと考えた。

 しかしゼストさん、クイントさん、メガーヌさんは常に『自分の腕が鈍らない様に訓練出来る環境もほしい』と言ってきたので

 

 『ならば父さんの所属している軍に身を置けばいいと思います』

 

 と、提案した。元々父さんは俺に『将来警防に入らないか?』と聞きに来た事、そして士郎さんの子である恭也さんと美由希さんを勧誘しに日本に帰ってきたみたいだし。結局、恭也さんも美由希さんも首を縦には振らなかったみたいだけど。

 そこで俺は恭也さんと美由希さんの代わりにゼストさん達の事を紹介し、父さんに頼んでいる訳だが

 

 「ゼストさんにクイントさん、メガーヌさんだったな。ワシは構わんがその娘(・・・)も一緒に連れて行くのかね?」

 

 父さんはメガーヌさんの腕に抱かれ、眠っている子に指を差す。

 

 「やはり駄目なのでしょうか?この子、ルーテシアには私しか身内がいませんので…」

 

 メガーヌさんは不安そうに聞いている。

 …そう、メガーヌさんの個人的な用件とは娘のルーテシアも一緒に連れて来る事だった。

 

 「ワシら警防では任務が無い限りは常に自己の鍛錬に時間を費やすのです。それこそ早朝から深夜近くまで。とてもじゃありませんが子供の面倒を見れる時間は取れかねませんわ」

 

 警防では子育てする時間に余裕が取れないとの事。

 まあ、この世界で最強クラスの力を持つ人達が集まっている場所だからな。

 

 「メガーヌ、ルーちゃんも私の家に預けておく?ゲンヤさんには私から言うから」

 

 「でも…」

 

 クイントさんの提案にメガーヌさんは迷う。自分の娘とは出来るだけ離れたくないだろうし。

 ちなみにクイントさんの個人的な用件とは自分が無事だった事を夫のゲンヤ・ナカジマさんに伝える事だった。

 本当は娘であるギンガ、スバルにも伝えたかったらしいがあまり三人の無事を知っている人がいるとマズいのでゲンヤさんだけに伝える事で納得してもらった。

 これで三人の事について知ってるのは俺達長谷川家の面々、レジアス中将、秘書のオーリスさん、ゲンヤさんだけだ。

 

 「ならメガーヌさんとやら。アンタは娘さんと共にこの家に残ってはどうかね?」

 

 父さんが提案してきた。

 

 「見ての通りこの家にはワシも、ワシの妻も中々帰ってこれんのでな。息子達だけに任せるのも正直言うと心配なんじゃ。だからアンタがコイツ等の保護者代わりになってくれるとワシは安心なんじゃが」

 

 「ですが、それだと…」

 

 「アンタ自身の訓練に関してはワシの馬鹿息子が何か良い案を思い浮かぶじゃろうし」

 

 俺に丸投げですか父さん。

 

 「でも保護者代理人だったらさくらさんに頼んでるでしょ?」

 

 「綺堂の嬢ちゃんは忙しくてしばらくは来れんと言っとったんじゃ。お前、授業参観とか家庭訪問があるじゃろ?その時に綺堂の嬢ちゃんが来れるとも限らんしの。この家に常に保護者代わりの人が居てくれるとワシとしても安心じゃしな」

 

 「まあ、そうだけどさ…」

 

 確かに大人の保護者が居てくれた方が良いと言う意見には賛成出来る。

 俺もシュテル達も他の同年代の子供と比べても同い年とは思えないぐらい精神が成長してる。だから子供だけでも生活出来ている。けど世間一般の常識からすれば小学生だけで生活させるなんて普通有り得ないからな。

 

 「……メガーヌ、ここは泰造さんの言う通り、ルーテシアと共にこの家に厄介になっておけ」

 

 「隊長…」

 

 ゼストさんがこの家に残る様にメガーヌさんに言う。

 

 「ルーテシアにはお前しか身内が居ないのだ。一緒に居てもお前とルーテシアが共に居られる時間が取れないのならルーテシアに一人寂しい思いをさせるだけだ。それはお前の望む事では無いだろう?」

 

 「…はい」

 

 「先程、泰造さんも言っていたが特訓に関しては勇紀が何か良い案を出してくれるだろう?」

 

 そう言って俺を見るゼストさん。

 

 「…良い案って言うか無人の管理外世界で訓練すれば問題は無いですね。後、メガーヌさんとルーテシアちゃんでしたっけ?二人が海鳴(ここ)で暮らせるように、常に認識阻害がかかる特殊なデバイスも用意しないといけませんね」

 

 「私はともかくルーテシアにも?」

 

 「海鳴(ここ)には管理局で働いてる魔導師が何人かいるんで。その中にルーテシアちゃんの事を知ってる人がいるかもしれませんし」

 

 これはなのは達より銀髪コンビへの対策だな。原作を知ってる転生者達(アイツら)に街中で遭遇でもされると厄介で面倒な事になるし。

 

 「デバイスに関してはすぐに準備するんでそれまでの間、お二人には悪いんですけど基本、家の中で過ごして貰えますか?どうしても家を出る時には俺に言って下さい。認識阻害掛けますんで」

 

 「…ありがとう、ゴメンなさいね。私達のせいで苦労掛けさせて」

 

 「気にしないで下さい」

 

 デバイスの予備パーツとかはまだあった筈だし。

 

 「では私とルーテシアはこの家でお世話になります」

 

 「馬鹿息子達を宜しくお願いします」

 

 メガーヌさんと父さんがお互いに頭を下げる。

 こうして長谷川家に新しい家族が増えた。

 父さんはそれから知り合いに頼んでゼストさん、クイントさん、メガーヌさん、ルーテシアの地球での戸籍をすぐに用意させた。誰に頼んだのかと聞いたら総理大臣と即答してきた。

 …何でも、要人の護衛をしてた時に総理の護衛をした事もあったらしく何度も命を救っている事で総理から絶大な信頼を得ているとか。『四人の戸籍を用意してくれ』と頼んだ時は理由も聞かずすぐに用意してくれたとか。

 次の日の日曜にはもう日本での戸籍が出来ていた。ついでに海外に行けるようにパスポートも一緒に作ったらしく、これで『明日の月曜日には出立出来る』と、父さんは言っていた。

 後は亮太にこの事を話しておかないとな。

 昨日からホント、色んな事が起きて大変だったなあと俺は振り返りながらゆっくりと瞼を閉じて眠りについた………。


 
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