第1章 7話 ―新たな出会い―
??「ここが京の街か...」
街の入り口に立った女性は門を見上げてそう言い、それから街の中に目を向けた。
??「随分と賑わっておるのう。これも天の御遣いとかいう者の力か。」
そう言うとその女性は何かを品定めするように見つめながら街の中へとはいっていた。
一刀「おばあちゃんここまでで大丈夫?」
老婆「ああ、そこで大丈夫だよ。わざわざ悪いねぇ。ついつい買い込んじゃって。重かったろう?」
一刀「これくらい鍛えてるし、全然大丈夫だよ。また困ったことがあったら言ってね。」
おばあちゃん「ありがたい話だねぇ。そうじゃ、忙しかろうがせめてお茶だけでも飲んで行きなさい。」
一刀「ありがとうございます、いただきますね。」
買い出しに来ていたおばあさんの荷物を軒先に下ろす。警邏隊には全員に支給されている鎧の兜を取って、俺はおばちゃんの家の玄関先に腰を掛けた。今俺はいつものごとく街の警邏中だ。本来はお伴をつけることになっているが、今日はお忍びで警邏隊の一員として街に来ている。実際に警邏隊として動くことで、書類上ではわからない問題や今後の課題がないかなどを調べるためだ。最も愛紗や思春は俺が1人で行くと言ったら全力で引き留めようとしたが。霞や華雄がなだめてくれなかったら今日俺は執務室にでも監禁されていただろう。
老婆「はい、お茶。」
一刀「ありがとう。ねえ、おばあちゃん。最近困ったことそういう話を聞いたこととかない?」
老婆「困ったこと?そうさねぇ。あんたら警邏隊のおかげで近頃は悪さする奴は少なくなってるし、みんな親切にしてくれるからこれといったものはありゃせんが...」
おばあちゃんは少し考え込むようなしぐさをしてから思い出したように答えた。
老婆「そういえば最近道をよく聞かれるねぇ。」
一刀「旅人にってこと?」
老婆「そうそう。最近この街に来るもんも増えたじゃろう。それで道に迷うもんも多いらしくてな。あんたら警邏隊が相手してくれているようじゃがあたしもよく道を聞かれるよ。」
一刀「なるほど。確かに警邏自体の仕事もあるから全員の相手はしてられないだろうしなぁ。ありがとう、何か考えてみるよ。」
老婆「はぁ。」
一刀「じゃあおばあちゃんお茶ご馳走様!何かあったら俺たち警邏隊に声かけてくれよ!」
老婆「ああ。あんたも仕事頑張んなさい。」
そうして俺はおばあちゃんの家を出て通りに戻ると兜をかぶり、再び警邏を再開した。考えるのはさっきのおばあちゃんの言葉だ。
一刀「街の中に案内板でも設置したほうがいいだろうな...そうすると街の出入り口はもちろん人通りが多い大通りとかもあった方がいいだろうなぁ...でもただ案内板に街全体の地図を乗せようとするとえらい作業になるしなぁ...」
??「おい、そこの小僧。ちと道を尋ねたいんじゃが...」
一刀「それよりは案内所を作って看板には案内所の場所を書いてそっちに来てもらうようにした方がいいかな。その方が新しい店や施設ができた時でも対応しやすいし...」
??「おおい!」
一刀「うわっ!?」
後ろから肩をぐっと掴まれて無理やりまわれ右させられる。見ると成熟した大人の雰囲気をまとった妙齢の女性が少し眉を吊り上げてこっちを見ていた。
??「人が話しかけておるのになんじゃお主は。」
一刀「話しかけて?す、すいません。考え事していたもので気づきませんでした。ホントにすいません。」
俺は失礼なことをしてしまったと思って目の前の女性に何度も頭を下げる。相手も悪気がなかった事はわかってくれたのか、すぐにその顔に笑みを浮かべた。
??「そう何度も謝らんでもよい。じゃがそんなに謝るほど気にしとるんじゃったら、1つ儂の頼みを聞いてくれんかの?」
一刀「なんでしょう?」
??「儂はこの街は初めてでてんで不案内での。よければ道案内を頼みたいのじゃが。」
一刀「いいですよ。それでどこにお連れすればよろしいんでしょうか。」
??「とりあえずこの街で一番酒のうまいところに連れて行け。」
一刀「ここになります。ここではお...天の御遣い様が作ったお酒も飲めるんですよ。」
??「ほお、天の国の酒とな。ならそいつを貰おうか。儂が奢ってやるからお主も付き合え。」
一刀「え!?すいません、俺は仮にも勤務中なんですけど...」
??「よいではないか。街を訪れた旅人をもてなすのもお主らの仕事であろう。」
一刀「そうとも言えますけどそれとこれとは違うような...」
??「ええいお主!儂の酒が飲めんとでも言うのか!」
一刀「わかった、わかりましたから!はあ。これが愛紗や思春にばれたら何を言われるやら...。」
声を荒げる彼女に俺は折れるしかなかった。彼女は俺から肯定の声を聞くと機嫌よさそうに笑みを浮かべ、それから2人で店の中に入っていた。ちなみに俺は常連で顔が割れてしまうので兜をかぶったままだ。すると...
??「ぷっはぁー!やっぱここの酒はさいっこうやな!」
??「おい、さっきから飲み過ぎだぞ。」
見知った顔が昼から酒を引っ掛けていた。
一刀「あの...ちょっと待ってもらっててもいいですか?」
俺は女性に許可を取ると二人に詰め寄った。
一刀「何やってんだよ、二人とも!」
霞「ん...?あ、一刀やん!一刀も一緒にのもー!」
一刀「この世界には勤務中の人間に酒を勧めるやつしかいないのか。それに2人とも今日は仕事じゃないの?」
華雄「私は非番だ。この前の一件の時周辺偵察に出ていたからな。その時の立ち合いの話を詳しく聞こうと思って張遼を誘ったのだ。張遼の方は関羽に許可をもらったのだろう。
霞「あ...そうそう!せやから一刀からも華雄に話したってーな。それなら別に飲んだってええやろ。」
一刀「いや、全然よくなんだけど...」
3人でやり取りをしていると後ろから様子を見ていたであろう旅の女性が詰め寄ってきた。
??「そいつらはお主の知り合いか?」
一刀「あ、彼女たちは...」
??「お主の知り合いなら折角だ、一緒に飲もうではないか。」
霞「あんた話わかるやん。はよ飲も飲も~。」
結局そのまま4人でテーブルを囲むことになってしまった。俺は連れてきた女性に気付かれないようにそっと二人に耳打ちした。
一刀「二人とも、俺の正体については伏せておいてくれるか?今日はお忍びってことになってるし。この場は一兵卒として扱ってくれ。」
華雄「ぬう。それはかまわんが。」
霞「ふん、そうかそうか~♪」
何やら不穏な雰囲気の人もいるが二人は了承してくれた。酒が運ばれてきて俺たちはとりあえず乾杯をすることにした。
霞「じゃあお前が乾杯の音頭とりぃ。」
一刀「え、お、俺!?そ、それじゃあ...今日という日にカンパーイ!」
霞「なんやそれ。まあええけどな!カンパーイ!」
華雄・??「カンパーイ!」
そうして各々杯に注がれた酒を流しこんでいく。
??「ほう。これはなかなか美味じゃな。」
霞「せやろ。これは一刀、ウチらの大将が作り方を考えたんや。確か日本酒とか言うとったなぁ。」
??「お主たちは天の御遣いとやらに仕えておるのか。こんな上手い酒を作るかと思えばこの街を見る限りしっかり県令の仕事もしとるようじゃし、なんだか変わったやつじゃのう。どんなやつなんじゃ?」
霞「そうやな...」
霞がいたずらな視線をこちらに向けてくる。
霞「とりあえず女たらしやな。」
一刀「ぶっ!」
驚いて思わず口に含んでいた酒を吹いてしまった。とっさに人のいない方向を向いたのであいにく誰にも迷惑をかけずに済んだが...霞がニヤニヤとした顔でこちらを見ている。
??「お主大丈夫か?そんなに酒に弱いのか。」
一刀「いえいえ、ちょっとむせただけなので気にしないでください...」
??「あ、ああ...」
霞「そいでな。ウチの大将ったら女と見ると見境なく色目を使うねん。全く、何人の女がウチの大将に泣かされたか...」
一刀「そ、それは大袈裟じゃないですかね。」
霞「この前なんか、あの鈴の甘寧がここに来たんやけど、ウチの大将に甘いこと言われてすぐに落ちてしもうたで。」
??「ほう。あの荒くれ者と噂の甘寧を手なずけるとはたいしたもんじゃのう。」
霞、それを後で思春に知られたら俺だけじゃなく霞もひどい目にあうぞ。
華雄「英雄色を好むと言うしな。まあそれは置いておいても、私はあのお方に仕えられていることを誇りに思うぞ。あのお方の弱きを守り正しきを尊ぶ姿勢は今の時代にあって難しいことだ。だがそうあればこそ、あのお方はこれからもっと大きな事を成すだろう。その時その場に一番近くで立ち会えるというのは光栄なことだ。それは張遼も一緒ではないか?」
霞「ま、まあな。」
華雄ありがとう!そんなことを言ってくれるのは華雄だけだよ...やばい、本気で惚れそうだ!
霞「そこの兄ちゃんはどう思う?」
一刀「え。」
折角嬉しい気持ちに浸っていたのに霞がいきなり俺に振ってきた。例えるなら暖かい春の日が差す花畑で昼寝をしていたら、そこにいきなり核爆弾を落とされ全てが吹き飛ばされるようなものだ。俺は全力でそれを回避にかかる。
一刀「わ、私のような一兵卒がそのようなこと恐れ多いです...。」
霞「その一兵卒の意見が聞きたいんや。ウチらから言うんは距離が近い分、ひいきもはいっとるやろうしな。ここで言うことはうちらしか知らんし、万一知られてもウチが言わせたことにしてええから何でも言うてな。」
なんだか傍から見ると格好のいいことを言っているような気もするが、その本人がここにいてそれを本人に言わせようとしているのだから茶番甚だしい。だがそんな事情を知らない旅の女性にそんなことは伝わらない。俺はあきらめて言葉を選んで言った。
一刀「わかりました。そうですね...あのお方は何よりも民を大事にされるお方です。それにそれと同じくらい、仲間のことを大切に考えて下さっています。また私のような一兵卒でも話をかけてくれる気さくな方です。」
自分でも言っていて恥ずかしくなりながら俺はそう答えた。これには嘘偽りないし、民だけでなく目の前の霞や華雄、思春、そして愛紗を大事に思っている。それに普段から誰にでも声をかけるようにしているのも本当だ。それを聞いて霞と華雄は少し恥ずかしそうに、そして旅の女性はどこか満足そうにそれを受け止めた。そこまで言って、通りの方から何やら騒ぎが聞こえてきた。
街の人「おーい!警邏隊のやつはどこかにいないかー?ひったくりを捕まえたぞ!」
それを聞くと俺は杯を置いて女性に頭を下げた。
一刀「すいません、仕事みたいです。お酒御馳走様でした。」
??「よいよい。お主は自分の仕事を果たしてこい。」
一刀「はい、ありがとうございます。それでは!」
ひったくりを警羅隊の人たちに任せて自分の部屋まで戻りくつろいでいると、愛紗が俺の部屋の戸を叩いた。
愛紗「一刀様、ぜひ貴方に面会したいという者が来ているのですが。ん?一刀様、今酒を飲んでいたのですか?」
一刀「いやいや、飲んでないよ。さっき酒屋の前を通ったからかな。それより面会?一体誰だろう。」
勤務中にお酒を、それも女性と飲んでいたなんて知られるわけにはいかないのですぐにごまかす。
愛紗「名前はまだ聞いていませんが霞と華雄が連れてきたので危ない人物ではないかと。」
一刀「そうか。それじゃとりあえず待ってみようか。」
俺は愛紗と共にまだ玉座の間とは名ばかりの広間に向かった。するとそこには既に思春と、なぜかばつの悪そうな顔をしている霞と華雄が待っていた。
一刀「それで会いたいと言うのは?」
??「儂じゃ。」
一刀「あ!」
そう言って霞と華雄の後ろから出てきたのは誰あろう、さっきまで一緒に酒を飲んでいた女性だった。本人はそんなこととはつゆ知らずといった様子で話し始める。
黄蓋「儂の名前は黄公覆。この度は士官の申し出にまいった。お許しいただけるのであれば、ぜひ武官として儂をその戦列にお加えくだされ。」
黄蓋と言えば三国志では呉の宿将として有名だ。前に外史では出会わなかったがやっぱりここでは女性なのか。その黄蓋がなんでこんなところにいるのだろう?そんなことが頭をよぎったが、霞や華雄が連れてきたということはその腕は本当に確かなのだろうし、それほどの武将を断る理由が俺にはない。何より、まだ国は興していないが優秀な将は多いに越したことはない。
一刀「俺は全くかまわないんだけどみんなはどうかな?」
愛紗「見たところ腕っ節は確かなようです。私はいいと思いますよ。」
思春「私も賛成です。」
華雄「私たちは連れてきた身であるし、当然賛成だ。」
皆も大概同じ意見なようだ。俺は黄蓋の前まで行くと右手を差し出した。黄蓋は一度怪訝そうにこちらを窺ったが俺の意図を察してくれたのか、その手を握ってくれた。
一刀「士官してくれてありがとう。俺は北郷一刀。これからよろしく頼むよ。」
祭「ああ、よろしく頼む。儂の真名は祭じゃ。これからはそう呼んでくだされ、未来の旦那様。」
場が一瞬にして凍りついた。茶目っ気たっぷりにそう言った張本人はそんな雰囲気はお構いなしといった様子で俺に柔和な笑みを浮かべている。
愛紗「だだだ、旦那様!?」
思春「どどど、どういうことだそれは!?」
若干2名が顔を赤くして驚く。もちろん俺だってそうだ。するとそれまで沈黙を守っていた霞がどこか申し訳なさそうにこう言った。
霞「いやぁな。その...祭はどうやら自分の婿探しに旅をしとったんやそうや。そいで天の御遣いの噂を聞いて、この街まで来ていろんな人に話を聞いたみたいやねん。そしたら一刀がどうやら自分の好みとばっちしやったらしいんや。」
既に真名は交換していた様子の霞がそう言った。その内容に愛紗と思春が愕然とする。その間に祭は握っていた俺の手を引きよせて俺を抱きとめた。
祭「我が主は気の多いお人のようじゃし、儂一人増えたところで問題無かろう。のう?」
一刀「いや、のうって言われても。俺は決して気の多いなんてことは...」
祭「今のお主の周りを見てもそれが言えるのか?」
はい。すいません。反論できません。祭に抱きとめられて赤くなっている俺を見て、周囲の凍りついた空気が今度はだんだんと熱いものになってくる。
祭「そういえばお主。どこかで会ったことがありはせんかのう。」
華雄「どこかも何もさっき4人で酒を飲んだばかりではないか。一刀は鎧を着ていたが...」
そこに華雄が火に油を注いでしまった。その口を慌てて霞が塞ごうとするがもう遅い。俺の後ろから怒り狂う猛獣のような気配が漂ってきた。
愛紗・思春「酒...ですと(だと)?」
祭「なんじゃ、そうだったのか。それならそれと早く言えばいいものを...」
一刀「一応お忍びだったので...」
愛紗「一刀様。あなたは私たちの反対を押し切って単独で街に警邏にいった挙句、警邏の任務を忘れて女子(おなご)と酒を飲んでいたのですか?」
一刀「いや、それは...」
祭「なあに。仕事中に少々酒を飲んだところで大した問題はなかろう。」
愛紗・思春「大いに問題だ!」
俺を抱きしめたままの祭に二人が声を荒げる。
思春「4人と言ったな。霞、さっきから見かけないと思っていたが、貴様も仕事をさぼって酒を飲んでいたのか。」
一刀「あれ?霞は愛紗に許可を取ったとか言ってなかったか?」
霞「一刀!」
愛紗「そんなものは出していない。」
なるほど、霞は酒を飲みに行くと誘った華雄の誘惑に負けて黙ってきてたのか。するとどこからともなく、愛紗と思春が自らの得物を取りだしてきて構える。俺は祭の胸から脱出すると霞とともにジリジリと後退する。
愛紗「さあ一刀様、覚悟はよろしいですか?」
思春「霞、観念するがいい。」
霞「は、ははは。一刀、どないしよか?愛紗にお仕置きされるんはちょーとばかし興味あるんやけど。」
一刀「そ、そうか。でも思春も一緒だしな。こういう時はどうするか決まっているだろう?」
霞「せ、せやな。」
その言葉と同時に俺と霞は広間を飛び出し、一緒に一目散に逃げ出した。
愛紗「待てぇい!」
思春「逃がさん!」
すぐに二人も追撃に入る。その様子を見て祭はこう感想を漏らした。
祭「面白いやつらじゃな。ここにおれば退屈することはなさそうじゃ。」
華雄「ああ。だが仕事中に酒を飲めば、今度はお主があれと同じ目に会うぞ。気をつけることだな。」
祭「何を言っとる。酒は儂の生きがい。なあに、バレんようにすれば問題ないわ。」
それを聞いた華雄は、この陣営の行く末に一抹の不安を覚えるのであった。
―あとがき―
俺は俺がここにいることを証明し続けるため...小説を書くことにした。
すいません、言いたかっただけです。昨日更新しようとして忘れてしまいました。
ここまで読んで下さった方は有難うございます!
というわけで7話ですが、祭さんが加入ってのは読めなかったはず!今後が危ぶまれる勢力は呉でした。思春さんもいませんしね。余談ですが、もし呉勢力に変更がなかったら武官は誰がいるんだろうか...孫策さんはまあとして周泰さんと...呂蒙さん?史実的には呂蒙さんて武官だったと思うんですけど1つ疑問が。「あの袖長すぎて武器もてなくね?」
そもそも胡麻団子とか握れるの!?というわけで至った結論が「あの袖は着脱可能。」まあハイヒールで戦ってる人もいるみたいなんでなんやかんやで大丈夫な気もしますが...
話がそれました。祭さんは呉から離れないだろうと思う方もいらっしゃると思いますが、そこら辺は設定があるので細かいところは今後書くところで補足していきますね。それとは別に最近一刀君と愛紗さんがCHの二人に見えてきた...今度愛紗さんに100tハンマー持たせてみようかな!
それでは今後も末長いお付き合いをお願いします!(え
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恋姫†無双の2次創作、関羽千里行の第7話になります。
今回も加入回です。
それではよろしくお願いします。