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超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第一話

ME-GAさん

プラネテューヌに住む普通の少年キラは老若男女問わず、風評のいい街の人気者。
ある日、キラは奇妙な悪夢にうなされ飛び起きると、ベッドの中には見知らぬ少女が眠っていた。
理由も解らぬまま、キラはいつの間にか少女・ネプギアと行動を共にすることになる。
世界の命運を懸けた戦いに身を投じる中で、キラは次第に大事なものを見つけ出していく――。
架空のゲームハードを擬人化した異色のゲームソフト、ネプテューヌシリーズ非公式ノベライズ第2期、TINAMIにて再スタート!

2012-10-10 15:13:19 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2074   閲覧ユーザー数:1820

異世界『ゲイムギョウ界』――。

巨大な一つの浮遊大陸の上に4つの大都市を所有する確立された次元の世界――。

 

 

この大陸は、本来は一つではなく、4つの大陸に分かれていた。

それがなぜ、こうして一つの大陸になっているのかと言えば、それは今から2年ほど前に起きた大陸変動がその始まりであった。

こうして4大陸全てを同時に襲った大地震、それは次第に4つの大陸を引き合わせてやがては一つの巨大な大陸を作り上げた。

 

 

大陸が繋がった直後は多くの人々が混乱を喫していたが、それも一週間を過ぎれば収まり、そこから目まぐるしいほどに各大陸――現在は『都市』として機能しているが、ともかく各都市は様々な発展を遂げていった。

 

 

技術水準の高い『プラネテューヌ』はラステイションの技術だけでなく、遂にはルウィーの魔法技術までをも吸収し、更なる発展を目指した。

 

発展率の高い『ラステイション』はプラネテューヌの技術を取り込み、独自の方法と貿易で更なる発展を目指していった。

 

緑多き『リーンボックス』はここ数年で驚くほどに発展を見せ、中世風の町並みはいつからかプラネテューヌを然とした建物が建ち並び、軍事国家として栄えていった。

 

雪が覆いし『ルウィー』は変動により様々な気候の見られる地域に変貌したが、魔法文化は衰えを見せず、かつての風習を残しつつ新たな技術を生み出していった。

 

 

こうして4大陸、今では4都市は様々な交流を経て、新たな姿へと変わっていった……。

 

 

 

 

しかし、その中で問題とするべきことも多岐にわたってある。

各国の交流が始まったことで起きる貿易問題や風習の違いからのいがみ合いや衝突、領土問題、ギルド問題などもある。

人々は日々争い、血で血を洗うような抗争の毎日――人々が出会えばそれだけ争いが生まれていった。

 

 

その問題はじきに収まることとなる。

守護女神、各大陸を守護していた女神達の権力もいまだ健在。かつて先代の女神にして世界の終焉を望んだ『マジェコンヌ』を共に打ち破った仲間として互いに手を取り合い、共存していくことを誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、光が照らしたように思えた事態も急変することとなる。

かつて永遠の彼方に封じ込めたと思われていたモンスターの再来。

たちまち大陸はモンスターに覆われて人々は居住区を奪われていった。

 

 

そして、犯罪組織『マジェコンヌ』と呼ばれる謎の組織の出現。

違法ディスクと呼ばれる奇妙なアイテムを大陸全土にばらまき、

それによりショップは枯れ、クリエイターは飢え、あらゆるギョウカイ人が全滅したかに思えた。

 

無法世界とは縁遠いゲイムギョウ界も、マジェコンヌの登場以来、人々のモラルは低下の一途をたどるばかりで、もはや大陸人口の大半はマジェコンヌを崇めつつある。

取り締まるべき政府も何故かスルーしまくりで、とにかくゲイムギョウ界は滅茶苦茶に、そこらの民度の低い無法世界になりつつあった。

 

やがて、力尽きた者は『ギョウカイ墓場』へと送られて、永遠の暗闇をさ迷うことになるのである。

 

 

 

ゲイムギョウ界は、再びマジェコンヌの脅威に晒されようとしていた――。

 

 

荒廃した大地。

その大地の上に佇む5人の少女と一人の女性。

――その光景はあまりに恐ろしく、神秘的で、そして美しかった。

何もかもが非現実的としか思えないような、そんな情景。

紅き大地も、黒雲に飲まれた空も、おどろおどろしい色を放つオブジェクトもそれら全てが劣るように、彼女たちが放つ雰囲気は尋常ならざるモノであった。

 

 

そんな中に白いGパンに黒いTシャツを着込んだ一人の少年の姿があった。

いや、姿ではなく『影』か。

微妙に白みを帯びたその存在は、朧気で、まるで立体映像(ホログラム)のように薄い色素のように映し出されていた。

その姿は決して視認することの出来ない、言うなれば『意志』だけが存在している状態であった。

そんな朧気な存在の少年は、その光景をただ、ただ朧気に見つめていた。

 

 

「マジェコンヌ……」

これでもかと言うほどに伸ばされた紫の三つ編みを携えた少女は憎らしげに彼女たちの目の前に立ちはだかる女性を睨んでいた。

まるでスイムウェアのように彼女の無駄のない身体に張り付いた漆黒とも言える衣装。

背後、周辺に聳え、そして彼女を保護するように浮遊しているユニット。

何より、異質を感じさせる蒼き双眸が女性を捕らえていた。

 

まるで数十年、数百年に渡り募らせてきた恨みをそのまま表しているかのように少女は恐らく女性のモノであろう名をそっとその唇から吐き出した

 

彼女の右手に握られた大太刀がゆらり、と彼女の動きに合わせて揺れる。まるで靡くように、見た目とは裏腹に重量を感じさせないその動きはどう取ってもこの世のものではないことをそのまま表しているかのように思えた。

 

 

「フン……」

マジェコンヌと呼ばれた女性は静かに鼻を鳴らし、まるで全てを見下すように、ただ視線を彼女たちに向けていた。まるで邪悪な何かに取り憑かれたように。

どこか物憂げな表情を見せつつも、やはり憎悪の念を映すように。それだけではなく、ありとあらゆる感情が入り交じったような、そんな曖昧な表情を浮かべて女性は優雅に椅子に座るように空中に腰掛けて艶やかしげに足を組んだ。

そして、今まできゅっと噤んでいた唇をそっと開いて全てを否定するような声色で静かに告げた。

「貴様達は邪魔だ」

その一言で、全てを理解したように少女達は一斉に険しい表情を更に険しくさせた。

しかし、それすらも愉しむようにマジェコンヌは静かに喉を鳴らして笑い、そしてその端にいた一人の桃髪の一際幼げな少女に視線を向けた。

「……まさか候補生の娘を連れてくるとは思わなかったがな」

その一言に呼ばれた少女はビクと肩を震わせて物怖じする。その傍らにいた三つ編みの少女はそっと彼女の右手に自分の左手を重ねた。

まるで全てを包むように、優しげな表情で言葉を投げかけた。

「大丈夫」

「お姉ちゃん……」

彼女を姉と呼んだということは彼女がそれの妹だということだろう。

まだ不安げな表色を映しつつも幾分か安心したような表情を浮かべて握っていた武器にそっと力を込めた。

それを見て安心したようにそっと頷き、また表情を険しくさせてマジェコンヌを睨む。

そんな状態を、それすらも、狂ったように歓喜に染まる瞳で見下すようにマジェコンヌは見つめていた。

それ程までに、その世界は壊れていた。

「マジェコンヌ、もう諦めた方がよろしいのではなくて……?」

上品な言葉で、長い緑の髪をポニーテールに結わえた少女はそっと告げた。

それに続くように――

「そうよ、貴女は私達に一度敗れている。勝ち目がないことくらい分かってるでしょ?」

勝ち気な態度で煌めく銀の髪をした少女が問い掛けた。

「もう二度とテメエの好き勝手にはさせない……」

小柄な体躯の少女はそう言って静かに巨大な武器を構えた。

それに呼応するが如く、少女達もそれぞれの武器を構えてマジェコンヌを見る。

薄く、冷ややかな表情でマジェコンヌは目を瞑り、いつの間に右手に握られていた杖を揺らした。シャラン、と鈴のような音を発した後に空気が静かに揺れてその衝撃に少女達は思わず目を瞑る。

「……もう一度、闇に還りなさい」

三つ編みの少女は小さく、しかし力強くマジェコンヌに告げた。

それすらも嘲笑うかのように、マジェコンヌは不敵に笑いそして小さく呟いた。

「還るのは、お前達さ」

今までとは違う。

まるで地獄の底から聞こえてきたようにマジェコンヌの妖艶な声とは違う、悪魔のように、魔人のように――しかし、邪気とは違うとてつもない劣悪なオーラが、彼女を渦巻いていた。

背筋の凍る思い、とはこのことだろう。

そう少年は直感した。

恐ろしいほどまでに感じる神秘的な美しさ。

彼女たちが放つ妖しげな、危険な雰囲気すらも見る者を魅了するような、そんなオーラを少年は感じ取っていた。

ただ、何もかも――。

 

少女達は、それぞれが持っていた武器をもう一度構え直して女性へと突っ込んでいく。

それはまるで、『終わり』を表しているようで――。

 

 

たった一瞬、とも言える。

彼方への時が流れたようにも見える。

まるで永遠の刹那のようなどっちともつかない、そんなごく曖昧な時間の後に少女達は地に倒れ伏していた。

呻き、痛み、苦しんでいた。

そんな彼女たちの中心に、マジェコンヌは居た。

たった一度も崩すことの無かった微笑を相も変わらず浮かべて、地に転がる少女達を一瞥してまるで快楽に溺れるように身を震わせた。

「ククク……それが貴様達の力か……」

抑えきれない衝動に身を震わせて小さく、そんな声を上げた。

まるで何もかもを飲み込まんとするように。全てを消し去ってしまいそうなそんな危険な香り。

なおも立ち上がろうとする紫の少女に杖で一撃を叩き込み、ギリギリと押さえつける。

「ぅ……」

目を瞑り、苦痛に耐えるように小さく声を漏らす。

そんな彼女を見て、マジェコンヌはより一層の嘲笑を浮かべて少女を見る。

「ハハハ……無様だな! これがお前達と私の力の差だ!」

ひとしきりに高笑いを木霊かせた後に、マジェコンヌは少女達を一瞥して考え込むように顎に手をやる。

「ふむ……どうせなら残る女神信仰者共に絶望を与えてやるのも悪くない、か……」

マジェコンヌはチラと一際切りだった崖の上に視線を向ける。

そこにはいつからこの光景を見ていたのかは分からない、どこかマジェコンヌに似た雰囲気を放つ女性がそれを見下ろしていた。

「マジック!」

マジェコンヌは彼女に呼びかける。

マジックと呼ばれた女性はそっとその崖から降り立ち、そしてマジェコンヌの脇まで寄り、そしてそっと頭を垂れる。

「見せしめにしろ。私に逆らう愚か者共を黙らせるには十分だろう?」

「了解いたしました」

『マジック・ザ・ハード』は淡々と彼女の指示に従い、ゆっくりと彼女たちに歩み寄る。

未だ失せることのない意識の中で三つ編みの少女は傍らに倒れる彼女の妹に視線を向ける。

「お前達は邪魔……。本来ならば命を奪うところではあるが、お前達には少し働いて貰うとしよう」

にやり、とマジックは不適に笑みを零す。邪悪きったその笑みに桃髪の少女は動かない身体をビクリと恐怖に揺るがす。

「お前達を贄にして、更に『犯罪神』様の信者を募る。女神が囚われたとなれば、最早あの世界に救世主など居るわけもない……」

カツン、と彼女のヒールが音を立てる。その瞬間、彼女の足下から黒雲が渦巻く。次第に勢いを増し、強大な影を作り出して彼女たちに恐怖心を植え付けた。

「ッ……!」

「すぐにはやらん。たっぷりとお前達に恐怖と痛みを与えてから殺してやろう」

マジックはパチン、と指を鳴らした。そしてそれを皮切りに黒雲の化け物は次々と少女を拘束し、飲み込んでいく。まるで連行されるように。

「ッ!?」

「ぐ……!」

「っあ……!」

少女達の呻きが途切れて、黒雲が晴れる。

何も居ない。恐らく連れて行かれたのだろう。

その状況に桃髪の少女は戦慄する。

(殺される……!)

内心、既に恐怖で一杯だった。

しかし、彼女たちが消えていくのを目にして、沸々と彼女の中に怒りとも言えるそんな感情が溜まりつつあった。

「なんで……!」

「何を言ったところでもう遅い。さらばだ、犯罪神様に逆らうという愚行を侵した自分たちを呪うことだな」

マジックは左手を降ろし、黒雲の化け物に指示を下した。

二人の少女に化け物が襲いかかる。

 

 

『やめろ!!』

 

叫び。

 

少年は叫ぶ。

 

少年は走る。

 

届くことはない。

そうどこかで理解しているはずだというのに。

黒雲が二人を飲み込もうとした瞬間だった。

「ッ! 逃げて!!」

三つ編みの少女が桃髪の少女を押しのけた。

化け物はただ一人、三つ編みの少女を飲み込んだ。

その中で苦しげな表情を浮かべる少女は次第に闇に飲まれていく中で叫んだ。

「逃げて……! 貴女だけでも……!!」

その光景を目の当たりにして、少女は目を剥く。

まだロクに動かせない身体をヨロヨロと立ち上がらせて、ゆっくりと。

「お、姉……ちゃん……?」

がくん、と力が抜けて地に膝をつく。

未だに現状を理解できていないのか、呆けたような声で姉を呼ぶ。

マジックは忌々しそうに表情を歪めて、もう一度化け物に指示を出した。

「行け! 逃すわけにはいかない!!」

化け物は大きく咆吼を上げて勢いを付けて少女に突っ込む。

もう力を使い果たしたのか、はたまたはまだ呆けているのか少女はそこから一歩も動こうとしない。

『ッ!』

少年が彼女に手を伸ばそうとした瞬間だ。

 

 

まるで何かに喰われたように、地面にぽっかりと大きな穴が開く。

そこに座り込んでいた少女は何の抵抗をすることもなく重力に任せて地面を落下する。

『な――!?』

あまりの出来事に少年の意識は目を剥く。

しかし、すぐに淵に立ちそして少女に向かって手を伸ばす。

届かない。

触れない。

見えない。

そう、理解しているはずなのに手を伸ばさずには居られなかったのだ。

 

互いの薄れる意識の中で、少年と少女の手は、静かに重なった――。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

気分、最悪に近し――。

少年は日光の差し込むベッドの上でそう感じた。

ほとんど悪夢に近い夢を強制的に見せられた挙げ句、オマケにその内容はあまりに中二臭い痛々しい設定内容のモノであった。

美少女軍団が世界滅亡(?)を企む美女に勝負をけしかけるという何ともな内容。

しかも、善戦することもなくあっさりと敗北し、そして敵に捕らわれるという最早エロゲーを喫するほどの末期な内容だ。

微妙に疲労感の漂う、まるで『全速力で走った後のような』気怠さと『全力で腹の底から声を出したときのような』喉の痛みを感じつつ、そしてそれに首を捻りつつ少年は上体を起こした。

全身に嫌な汗が噴き出している。そんな嫌悪感を纏いつつ、少年は傍らに放置してあった携帯に手を伸ばして時刻を確認しようと開く。

時刻9:00。少年にとっては十分に遅い時刻だ。

本日は特に予定がないと言っても、早起きは三文の得というらしく、彼にとっては少しばかり気の削がれる出来事だ。

縮みきった全身を伸びをすることでまた元に近い形に戻してふとベッドに視線を移す。

「……?」

少年はそこまでしてようやく違和感に気付いた。

自分が眠っていた真横に不自然な盛り上がりが形成されているではないか、と。

布団の類ではないと断言できる。

何故なら、その盛り上がりは紛うこと無い『人間』の形に不自然な形を作っていたからだ。

少年の表情に次第に動揺ともとれる色が浮かぶ。

恐る恐る伸ばす手はブルブルと震えている。

そっと物怖じするように布団の端に手を伸ばして、そしてひと思いにはね除ける。

 

「……ふわ」

 

思わずそんな阿保みたいな声を漏らした。

見る者すべてを魅了してしまうような艶やかな桃髪、幼さを残したそれでいてどこかしっかりしていそうな顔つき、まるでシルクのように柔らかそうな肌、まだ発展途上とも思われる小振りな乳房――。

そんな少女が、全裸で、少年と同じベッドの上で、安らかに、寝息を立てていた。

「……」

恐らく、そんな感じの無言で数分が流れただろう。

少年はみるみる顔面を紅く染め上げてバサッと布団をもう一度少女の上に被せた。

「な、なななな、な! ……な!?」

相当混乱を来しているのだろう、まるで壊れたラジカセのように何度も同じ言葉を繰り返す。

全身を混乱と興奮に揺らして頭を抱えて床に座り込む。

「なな、なんで……!?」

ようやく言葉を発するがまだ混乱が続いているらしかった。

少年は何度も少女の顔と部屋のあちこちを見回して、そして頭を抱える。

彼からすれば、身に覚えの全くない不可解な現状である。しかし、こうした現状を何も知らない第三者が見れば少年は最悪警察のお世話となることだろう。

少年はゆっくりと立ち上がり、兎も角と静かに部屋の中を不審者の如く探し回り始めた。

何処かに彼女の服が無いかと思いこうして行動に立ったわけだが、どういうわけか彼女の服らしきモノはこの家の何処にも見当たらない。

そのことに不審を抱き、眉をしかめる。しかし、そうなると彼女が目を覚ましたときに目のやり場に困る。仕方なく少年は棚から自分には小さくなった服上下一式を揃えて彼女の傍らに置く。ここにあれば目を覚ましたときに着てくれるだろうと思い、とりあえず少年は椅子に腰掛ける。

「ッ~~! どうしてこんなことになってんだ? 昨日は――」

少年の記憶では昨日は通常通りに起床、簡単な朝食を済ませて贔屓にしている商店の手伝いと少々のクエストをこなし、帰路について軽めの夕食を取った後に簡単な身支度を済ませてそのまま就寝したはずだ。

ならば、どうしてこんなことになっている――?

そんな思いが何度も思考する。もうこれで何巡目だ、と少年は心中で己自身に突っ込みを入れてチラと少女に視線を戻す。

そこで少年は違和感に駆られた。

どこか見覚えのある顔だ、と。

もちろん、彼と同じほどの年代の知り合いは数多いるが、それでも彼女のように異彩を放つ神秘的な知り合いはいないし、持ち合わせたこともない。

それでも何か懐かしいような、そんな雰囲気を放つ少女だった。

「……!」

しばらくそんな思いにふける中で少年はピクと眉を動かした。

それは、つい先程までに見ていた少女――。

「夢の……!」

夢の中で唯一、逃げ延びた少女。いや、あれは逃げ切れたのかとは定かではない。

しかし、彼女の姿はあまりにもあの時の少女と酷似していた。

あの時、自分が手を伸ばした少女――。

「なん、で……?」

少年の上ずった声が静かに部屋の中に響く。

まさか夢の中から具現化してきた、なんて馬鹿馬鹿しい考えが一瞬、少年の脳裏をよぎる。

いや、あまりに馬鹿げた話だと少年は首を振る。そんなどこぞのアニメであるような展開があるものかと自分の思考を嘲笑う。

しかし、とてもではないが偶然とは考えにくい。

ならば、どうして――?

思わずごくりと唾を飲む。何も考えられない。

ただそれを見た瞬間から目を離すことの出来ない、奇跡のように。

悪戯か、運命か。

己の見えない空間で、時間で、一体何が動いているというのか。

そのことに思わず身の毛がよだつ思いを感じて、少年は暫しの間だけ少女を見つめ続ける。

震える右手を彼女の頬に添える。

彼女が起きる気配はない、しかし彼女は今にも目覚めてしまいそうなそんな雰囲気を纏っていた。

次第に息が荒くなっていく。動揺? いや、それとも戦慄?

だから気づけなかった。

 

――彼女が覚醒していることに。

 

「……」

「……」

視線が交じる。

先程とは違う意味で息が荒くなる。これこそが動揺だ、と思ってもそんなことは今の彼には全くもってどうでもいい事柄だ。

何故なら、今の彼は彼女の上に跨っていたのだから。いつ、こんなことをしたのかは分からない。気づけば少年は少女の上にいた。

『もう……言い訳できない……』

少年は破滅を感じた。

「――ッ!」

「キャ―――――――ッ!!」

少女は可愛らしい悲鳴を上げて、少年の右頬に鉄拳を叩き込んだ。

少年の身体が宙を舞う。そして、落下。

 

 

『よし、いい朝だ……』

 

 

少年は、薄れる意識の奥でヤケクソ気味にそう感じた。

 

少年、『キラ』は自嘲気味た笑みを浮かべてそのままそっと目を閉じた――。

 


 
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