第1章 4話 ―乱世の始まり―
朝日も昇り、十分な休息をとった俺達は意気揚々と街道沿いに近くの村へと向かっていた。これからの困難な道のりもこの仲間達がいれば乗り越えて行ける。そんな雰囲気が俺たちの間に流れていた。
今は二人の乗ってきた馬に霞と愛紗、華雄と俺のペアで別れて乗っている。愛紗はいつのまにか向こうから着ていた服を着替え、今は懐かしいあの時代を駆け巡った緑を基調とした服を身につけている。愛紗と一緒の馬に乗っている張遼は心底楽しそうで鼻歌など歌っている。華雄はというと2人乗りで乗り心地は悪くないかと何かと俺の事を気にかけてくれた。そうして村まで他愛のない話をして進んでいると、ふと霞は思い出したように切り出した。
霞「そや!昨日は聞きそびれてしもうたんやけど、愛紗はこっちの生まれなんやろ。ほんならどうして愛紗が一刀と一緒に光に乗ってやってきたんや?」
華雄「そういえば北郷からはその話は出てこなかったな。」
愛紗「話せば長くなるんだが...ふむ。簡単に言うと私は天の国で少しばかり天の国の武術を学んでいたのだ。」
霞に関して初めに敬語を使った方がいいか訊かれたが、俺に対して敬語を使わなくてもいいという話をした。やはり堅苦しいのは苦手らしい。それとは逆に華雄は俺に対して敬語を使わなくてもいいといったのだが、主従の関係となる以上そこはきちんとしたかったらしく、なかなか首を縦に振ってくれなかった。最も家臣といっても俺の中では仲間という感覚なので、敬語など使われるのは逆にむず痒くなるからやめてくれと土下座して頼みこもうとすると、主君に頭を下げさせるわけにはいかないとやっと聞き分けてくれた。前の世界から俺の世界に戻ってきたとき、思い返せば周りには俺を「ご主人様」と呼ぶ女の子ばかりで、お爺ちゃんに話をした時も恥ずかしさで悶え苦しんでいたが今回はそんなことはなくて済みそうだ。
そして愛紗の話も嘘ではない。事実、昨晩の巨漢に対してかけた背負い投げなどこの時代にはないものだろう。ただ外史うんぬんの話は非常に厄介だし説明しづらいので割愛しようということはこの世界に来る前に愛紗と決めていた。説明してわかってもらったところで何より俺たちが失敗した時、どうなるかわからないといったことを話しても余計な不安を煽るだけだろう。
そんなことを考えていると天の国の武術というフレーズに二人が大いに反応した。
華雄「天の国の武術か...武器の話も興味深かったがそちらも大変興味をそそられるな。関羽が学んだ武術についてよければ話してくれないか?」
霞「ウチも聞きたいなぁ。」
愛紗「そうだな...天の国には我々では想像もつかないような武術がたくさんあったのだ。私に天の国の武術を教えてくださったのは一刀様のお爺様だったのだが、私が教えていただいたのは柔術と言ってな、それは武器を使わないところは拳法と似ているが、それは相手を殺さずに捕えたり、己の身を守ることに特化した武術だったのだ。一刀様のお爺様は剣術の道場を開いていた御方だったが、常に剣があるとは限らないと考えてその柔術も鍛錬していらっしゃったのだ。柔術というのはいろいろな技をもっているのだが...」
愛紗が話し始めると二人は興味津津に一言も聞きもらすまいと真剣な面持ちでじっと耳を傾けていた。
そうして3人が話し込んでいる中で1人前方を見ていると山以外はまっすぐな地平線上に何か別の輪郭が現われた。
一刀「お、あれ街じゃないか?」
霞「え、どこどこ?...てあれ煙がたっとるやないか!」
愛紗・華雄「!?」
二人も気づいて前方を確認すると手綱を握っていた霞と華雄の二人がそれぞれの手綱をしっかりと握りなおした。
霞・華雄「飛ばすで(ぞ)!しっかりつかまっとき(ておけ)!」
一刀「うわ...ひどい有様になっているな...」
愛紗「...」
街の方々からは黒い煙が立ち上り、家屋はいたるところで崩れていた。物は散乱し、注意していると者が焼ける匂いに混じって血の匂いも漂っている。その有様からまだそれほど時間がたっていないと思われたが、周囲からは人の気配がまるで感じられなかった。その状況はこの世界に初めて愛紗と訪れた村の様子に似ていた。愛紗もそれを思い出しているのか、崩れた家屋を見つめて固く拳を握っている。
そうして人がいないかだんだんと街の中心へ向かっていくと先行していた霞が戻ってきた。
霞「街のもんおったで!どうやら昨日の晩、黄巾の連中の襲撃にあったらしい...無事だったもんは街の中心の役所跡に集まっとるみたいや。今華雄が話を聞いとる。」
一刀「そうか、なら俺たちもすぐに向かおう。霞、案内してくれ。」
霞「わかった、こっちや。」
霞に案内されて向かった建物は襲撃にあったせいか、かろうじて他の建物より立派に作られているとわかる代物だった。その中からは痛みに苦しむ人のうめき声や、家族の死を悼んで泣き叫ぶ声、そして何かに対して怒りをあらわにする声が聞こえてきた。俺たちがその建物に足を踏み入れると、案の定、中には布を巻いて介抱されている人や力なく座り込んでいる人、そして大きなテーブルを囲んで何か怒声を交えて議論している人たちが見えた。
愛紗「これはひどい...」
霞「みんな、大丈夫か?」
華雄「来たか。こちらはこの街の自警団の団長で今はこの場を仕切っているそうだ。」
村人A「あんたたちは...?」
すすと血痕に汚れた鎧をきた男が俺達を出迎えた。その顔にはクマができ、ひどく疲れているように見えた。
愛紗「我らはこの戦乱を憂い、鎮めるためにやってきたものだ。」
村人B「官軍が俺たちを助けにきてくれたのか?!」
騒がしかったテーブルの方から一縷の希望を見いだせたかのように声が飛んでくる。
愛紗「いや、残念ながら官軍ではない。」
村人B「なんだ...」
村人はひどく失望した様子でがっくりとうなだれた。
霞「でも助けに来たってのはほんまやで。」
村人B「あんたたち見たところ4人だけみたいだし...たった4人で何ができるってんだ。街の自警団を総動員しても歯が立たなかったのに!」
村人A「あの数相手なら4人だろうが俺達と変わりないさ。」
霞「そんなに多かったんか?」
村人A「ああ。四千は下らんだろう。その人数に押し寄せられれば、こんなちっぽけな街の自警団ごときじゃ防ぎきれなかったんだ。」
村人B「あいつら、やりたい放題やって、帰る時に明日また来るとか抜かしやがった...」
村人C「このままじゃ殺られっちまう!どうするんだよっ!?俺の嫁も、娘だって次は無事って保証はねえんだ!」
村人A「分かってるよ、それぐらい!けどな、俺たちにどうしろってんだ!自警団だってもうボロボロだ!そんな状態でやり合ったところで勝てるわけねぇだろ!」
村人B「くそ...こういう時のための官軍じゃねぇのかよ?!だいたいここにいた役人はどこ行きやがったんだ!」
村人A「今更そんなこと言っても仕方ないだろっ!」
村人B「ならここから逃げ出すしかねぇ!まだ日も高いし今から逃げれば隣の村まで行けるはずだ!」
村人A「そんなことできるかっ!ここは俺たちの街だ!逃げ出すなんてあの世の爺ちゃん婆ちゃんに申し訳がたたねぇ!」
村人B「ならここでおとなしく殺られろって言うのかよ!」
村人たちはこれからどうすべきか、再び意見の食い違いで険悪な雰囲気を醸し出し始めた。そこへ前と同じように、愛紗は意を決したように口を開いた。
愛紗「1つ提案がある。」
村人B「...なんだよ?助かる方法があるとでも言うのか?」
愛紗「ある。」
愛紗は堂々とそう断言した。
村人B「なにっ!?それはどんな方法なんだ!?教えてくれよ!」
愛紗「教えることは簡単だ。だがその方法は簡単ではない。皆の覚悟が必要なんだ。」
村人A「覚悟?」
愛紗「ああ...」
そして愛紗は話を聞いていた村人たちをぐるっと見回すと、用意していたであろうそれを口にした。その返答次第では、俺たちの道のりはいきなり困難な壁にぶち当たることになるだろう。
愛紗「皆この街を守りたいか?」
村人B「当たり前だろ!さっきはああ言ったが逃げなくてもいいならそれに越したことはねぇ!」
村人A「無論私も同意見だ。」
村人C「ここにいる奴は生まれてこの方この街から出たことがないような連中ばっかだ!今更他の場所に行くなんて考えられねぇ!」
愛紗「分かった。ならば取るべき道は1つだ。我らと共に戦おう。」
村人B「それは無理だってさっきから言ってるだろ!あんたらは勝てるって言うのかよ!?」
愛紗「勝てる。」
華雄「ああ、勝てるな。」
霞「当たり前や。」
村人A「...ちょっと待ってくれ。なんであんたらはそんなにも簡単に勝てるなんて言えるんだ?さっきの話は聞いていたんだろう?」
愛紗「我らには天がついているからだ。」
霞「そや。うちらには天の御遣いっちゅうすんごい味方がついとるんや。」
村人A「はあ?」
村人B「天の遣いってなんのことだよ?もしかしてやっぱりあんたたち官軍なのか?」
愛紗「そうではない。...まだこの街には届いていないのか?あの噂が。」
村人C「噂?何の噂だよ?」
霞「天の御遣いの噂や。黒点を切り裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御使いを乗せ、乱世を鎮静す。管輅ちゅう占い師の予言や。ウチらは洛陽の方からきたんやけど、洛陽やその近辺じゃすでにこの噂で持ちきりだったで。」
村人C「都で?...本当なのかその話。」
霞「ああ、ホンマやで。」
自信に満ちた声で答える霞の横で、ふと俺は疑問に思った。前の外史では洛陽で噂されていたというのは愛紗の作り話だったはずだ。霞や華雄はその噂を聞いたことがあると言っていたが、実際のところそれはどのくらいの規模で広まっているものなのだろうか。その旨をそっと華雄に訊いてみた。
一刀「(なぁ...本当なのか?)」
華雄「(ああ、本当だ。ただ、その信憑性は眉唾ものだったがな。)」
一刀「(マジかよ...)」
ということは実は俺はこの世界ではかなりの有名人、ということになるのかもしれない。最も、この街にその噂は伝わっていなかったみたいだが。やはりこちらの世界でも人はとかく『皆が言っている』という言葉には弱いようだ。そして交通や通信手段が全く発達していないだろうこの時代なら、洛陽という首都での噂は『真実』として語られてしまう。前の外史でも愛紗はそれを逆手に取って、村人たちの信用を得たのだった。しかも今回は本当に噂になっている。それに戦に関しても鈴々はいないが関羽に張遼、華雄という三国志の名だたる武将がそろっているのだ。たかだか黄巾党の雑兵なんかに負けるはずはない。それに今回は俺だって...
そう物思いに耽っているといつのまにか周囲の視線が俺に集まっていた。
愛紗「このお方がそうだ。」
前と同じく誇らしげに言いながら、愛紗が俺のほうに近づいてきた。
愛紗「この大陸に平和をもたらすため、天より遣われしお方。このお方が我らについていてくださる限り、黄巾党であろうとなんであろうと負けはしない。」
村人A「この兄ちゃんが?」
一刀「北郷一刀だ。みんな、よろしく頼む。」
天の御遣いという立場を強調するなら頭を下げたりはしない方がいいだろう。俺は自分が想像できる中で、努めて威厳のあると思われる口調でそう言った。だが目の端で捕えたのは必死に笑い声をこらえようとしている霞だった。それを見た瞬間、少しだけ気恥ずかしくなってしまったのは必死に隠し通した。
村人B「うーん...少し風格はあるが...やっぱり信じられねぇな!こんなヒョロヒョロした兄ちゃんが天に遣わされた?戦乱を鎮める?武器は持ってるみたいだし、ちっとは使えるのかもしれねぇが...はんっ!そんなのウソに決まってるぜ!」
愛紗「何を言うか。この方の姿を見れば一目瞭然ではないか?光を受けて煌めくポリエステルなるこの装束など、我らの身近にあるものか?」
愛紗、今ちょっとニヤけてただろ!他のみんなは気付かなくても俺にはわかるぞ!さっきの霞もそうだがみんな真面目にやってくれ!
村人C「ぽりえすてる...すげぇな。聞いたことのない名前だ。それにそれだけ煌めいてる服なんて見たことがない。」
愛紗「そ、そうだろう。そして天の御遣いであるこの方は、孫子の兵法書から六韜三略を諳んじるほどの知識を持ち、更に木の刀で黄巾党を軽く追い払うほどの武技の持ち主だ。」
村人B「ホントかよ...」
ハイ、すいません、嘘です。確かに、前の外史とあっちの世界で勉強した分で内容は少しは頭に入っていると思うけど諳んじるのは無理かなぁ...武技に関してもやっぱり木刀だと心許ないなぁなどと頭の中でツッコミを入れてみる。無論そのあたりは愛紗もわかっているわけで。やはり多少の罪悪感は覚えるが、これもみんなを助けるためだ。
霞「それにウチらは見たで。この御方が天より降り立ったその瞬間を。夜なのに空が昼みたいにパァッと明るくなったんや。」
村人A「おお...」
村人B「そう言えば昨日、夜中に白い光を見たってやつがいたのを思い出したぜ。この兄ちゃんは本物だ、間違いねぇ!」
村人C「ホントかよ!?なら俺たちは助かるかもしれないっ!」
村人B「助かる!助かるぞ、絶対!」
愛紗「そうだ!だから皆、今こそ立ち上がろう!黄巾党を蹴散らし、街に平和を取り戻すのだ!」
村人A「応っ!!」
村人B「やってやる!やってやるぜ!俺、街の連中に声をかけてくるわ!」
村人C「確かこの役所には武器庫もあったはずだ!俺ちょっと中を見てくるぜ!」
村人A「頼んだぞ!俺は自警団の生き残りの者たちをまとめてこよう!」
希望を見出した村人たちは街を守るために方々へと興奮混じりに散って行った。
霞「さすがウチの惚れこんだ愛紗やな。」
愛紗「惚れた!?ま、まあこのくらいはな。霞も口裏を合わせてくれて助かった。」
霞「ええよええよ。愛紗を助けるのはウチの義務みたいなもんやからな♪」
愛紗「そ、そうか...あはは...」
なんだか霞がどんどん前の外史の霞に近づいている気がする。
華雄「馬鹿なことを言ってないで、私たちも動くぞ。」
一刀「そうだな。明日また来ると言ったのなら奴らはここからそう遠くない位置にいるはずだ。だから霞は黄巾党の居場所を探ってくれないか?必要なら何人か身軽そうな街の人に協力を要請しよう。」
霞「相手は黄巾の連中やろ?偵察くらいウチ一人でなんとかなるわ。ウチの速さを舐めてもらっちゃあかんで。」
一刀「そうか、でもくれぐれも気をつけてな。」
霞「任せとき。」
そう言うとニカっと笑った霞はあっという間に建物の外へ駈け出して行った。そのすぐ後、霞の愛馬の高いいななきと馬の地面を蹴る音が聞こえた。
一刀「さあ残った俺達は街の人々を集めて隊を編成しよう。霞の隊の分も忘れずにな。相手の情報は霞が帰ってくるまでわからないけど、戦に初めて参加する人もいるだろう。今のうちにできることはやっておいた方がいい。」
華雄「そうだな、では行くか。」
愛紗「ええ。」
役所を出ると、既に何人かの男たちが武器を持って整列していた。どうやらさっきの自警団の団長さんが自警団を指揮して集まってきた人たちを整理しているようだ。
若い男「あいつが天の遣い...?」
老人「そうじゃろう。神々しい服を着ておられるのぉ...なんでもぽりえすてるというらしい。」
若い男「ぽりえすてる...なんかすげーな...」
役所を出てきた俺に、村人たちの視線が注がれているのがわかる。
一刀「...」
前の外史でも思ったが、ポリエステルという言葉はそんなに皆の心をひきつけるものなのだろうか?実は前の外史でも始めうまくいったのはこれのおかげ?そんなくだらないことを考えていると後ろから愛紗が声をかけてきた。
愛紗「一刀様、もっと背筋を伸ばして。威厳をもって村人たちに笑顔を。」
一刀「いけないいけない。そうだったね、ありがとう愛紗。」
緩んでいた気持ちを引き締め直す。そして背筋を伸ばしてゆっくりと1人1人の目をしっかり覗くように集まってきた人たちを見渡す。
若い男「おお...今視線が合った。」
老人「わしも合ったぞい。ああ、ありがたや、ありがたや...」
俺の振る舞いは成功したらしい。集まってきた村人たちから、期待や敬愛を含んだような雰囲気が感じられる。彼らは自分たちの街を守るために、俺を信じて危険な戦いにを投じようとしてくれている。命の危険はもちろんある。ならば俺に出来ることは少しでも多くの人の命を守ってこの戦いに勝つことだ。そう考えると、愛紗や仲間とともに戦乱を駆け抜けたあの頃を思い出す。その思いが、これから戦場に向かうという高揚感を引き出していた。
一刀「愛紗、華雄。この戦い絶対に勝つぞ。ただ勝つだけじゃだめだ、一人でも多くの人の命を守ってここに連れて戻るんだ。」
愛紗「はい、これは我らの理想の第一歩です。そのために全力を尽くしましょう。」
華雄「この程度の人数も守れないようでは北郷の言った理想も叶えられないだろう。だが安心しろ。この華雄がいる限りあなたの道をこんな初っ端で途絶えさせはしない。」
二人の熱い言葉と眼差しはこれからの戦いに対する不安を一気に消し飛ばした。
霞「かーずとー!」
霞が愛馬と共に戻ってきた。
一刀「おかえり、霞。どうだった?」
霞「おったで。ここから北へ1里ほど行った荒野のど真ん中にわんさかいおったわ。」
一刀「そうか。規模は?」
霞「さっきのおっちゃんが言ってたみたいに四千くらいやな。でも装備もぼろっちいし、なんやら痴話喧嘩しとるみたいやったで。見た感じ糧食が足りてないんやないかなぁ...ここの自警団の連中も結構頑張ったってことやないかな。まああんなん相手なら余裕やろ。」
一刀「そうか、ありがとう。霞。」
愛紗・霞「!!!」
つい、撫でやすい場所にあったので霞の頭を撫でてしまっていた。霞は照れて赤くなっているがなんだか気持よさそうな顔が猫を連想させた。そして隣では別の意味で愛紗の顔が少し赤くなっているようだった。少し剣呑な雰囲気をまとって愛紗がぼそりと口にした。
愛紗「一刀様...?」
一刀「あ、ごめんごめん!霞の頭がいい場所にあったからつい撫でてしまったよ。不快な思いさせたらごめんな、霞。」
霞「ええよええよ!というか頭とか撫でられたことなかったから気持ちえかったし...また頑張ったら頭撫でてくれるかな?」
一刀「あ、ああ。わかったよ...」
機嫌がよくなった霞に対してなんだか隣の人の顔がさらに赤くなった気がしたが俺は見なかったことにした。愛紗は何かを振り払うように深呼吸をすると整列した村人たちに向かってこう言った。
愛紗「村の衆よ!聞いた通りだ!敵は数が多いが所詮は烏合の衆!ましてや自分たちの間で争っている有様だ!天が味方についている我らの敵ではない!今こそ勇気を出し、その手で街の平和を取り戻すのだ!...では一刀様、出陣の言葉を。」
一刀「わかった。」
俺は一歩前に立ち、集まってきた人々を見渡した。皆が俺の言葉を待っている。その熱い視線にこの人たちを生きて連れて帰ろうという意志と命を預けてくれた皆を守らなければならないという責任感がさらに強まった。だから...
一刀「これから戦いになる。初めての戦いで恐怖を抱いているものもいるだろう。だが考えてほしい!君たちの父祖が作り育んできたこの街のことを!そして見てほしい!君の隣に立つ戦友の事を!そして思ってほしい!君たちの帰りを待つ、家族や恋人の事を!そう、君たちには守るべきものがあるはずだ!そのためにこんなところで死ぬわけにはいかない!だから生きて帰ってこよう!生きて帰ってきて再び街を復興し、勝利を友と分かち合い、そして家族や恋人と命あることを喜びあおう!みんなの命を守るために俺も最善を尽くす!だからみんなの力をちょっとだけ俺に貸してくれ!守るべきものを、守り抜くために!!」
自分の思いの丈を全てぶつけた。その瞬間...
村人たち「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
村人たちが雄たけびで俺の思いに応えてくれた。そしてこの久しぶりの身体を震わせる感覚は俺にとってとても心地よいものだった。この場にいる全員がわきあがる熱い思いに胸を震わせていた。これなら絶対に勝利することができるだろう。勝利して生きて帰ってくることができる。その思いがみんなの中で共有されていた。
霞「やるなぁ、一刀。ウチも興奮してきたわ!それでこそ我らが大将や。」
華雄「いい鼓舞だ。これだけ士気が高ければ初めて戦を経験する者でも問題ないだろう。」
愛紗「この緊張感...久しぶりですね。」
愛紗の中にも再び熱いものが込み上げてきたようだ。拳を固く握ってもう一方の手で青龍刀をぎゅっと握りこんだ。俺はそのままこれからの作戦を村人たちに大まかに伝えた。
一刀「これからの作戦だけど、奴らは前の襲撃でこっちがすっかり弱腰になってると思い込んでるはずだ!そこに隙がある。逆に俺たちの方から奴らの陣地に攻め込んでやろう!奴らは泡食って混乱し、まともに戦えないはずだ!」
村人たち「応っ!!」
一刀「各自振り分けられた隊の隊長の指示に従って出陣してくれ。俺もみんなと一緒に出陣する!」
若い男「おおっ!天の御遣い様と一緒に戦える!この戦い絶対勝てるぞ!」
村人B「あの兄ちゃん、ヒョロヒョロしてると思ってたが、中身は大した漢気じゃねぇか!よっしゃ、黄巾の奴らだろうがなんだろうがあの兄ちゃんには指一本触れさせねぇぞ!」
村人A「我々自警団も全力であの御方を援護するぞ!」
自警団員たち「応っ!!」
そうして隊の人たちを伴って出陣しようとすると、後ろから愛紗が俺を負い抜かしながらこう言った。
愛紗「成長されましたね、『ご主人様』♪」
一刀「!?」
久々にそう呼ばれた俺はすっかり動転しまった。やはり愛紗に『ご主人様』と呼ばれるのはくるものがある。
久々にそう呼ばれた俺はすっかり動転しまった。それが引いてくると胸の中に温かいものが湧きあがってくる。やはり愛紗に『ご主人様』と呼ばれるのはくるものがあるようだ。前を走って行った愛紗がこっちに振り返って笑顔を向ける。
愛紗「ほら、置いて行きますよ!」
一刀「ちょっと、待ってくれってば!」
俺は戦場に向かう高揚感と愛紗にもらった高揚感の二つを持って街を出た。
―あとがき―
読んで下さった方は有難うございます。昼間のうちに更新したかった...。
それはともかく4話です。色々迷った結果、ここは本編の流れを踏襲することにしました。結構あそこの部分が好きなんですよね。なので今回は成長した一刀君がもう一度あの状況になったら?という体で書いてみました。無論愛紗さんも2回目なので...あとはわかりますよね?想像しながら書いてたら自分で笑っちゃいましたがそこは知力も高い愛紗さんですから、きっといい演技をしてくれたんでしょう。
それでは、また次回もよろしくお願いします。
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恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第4話になります。
...以上!
それではよろしくお願いします。