No.492583

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三


お待たせしました。

 今回は洛陽へ戻る事を忌み嫌う劉弁様を説得しよう

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2012-10-05 22:55:45 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:8762   閲覧ユーザー数:6334

 

 「如何にも、妾が劉弁じゃ」

 

 劉弁が仮面を外して正体を明かす。亡き陛下より話を聞いていた俺は

 

 それほど驚きは無かったがその事を知らなかった二人、特に輝里の驚き

 

 は大きいものであった。

 

「そ、そんな…李儒殿が劉弁殿下!?…ああ、私はなんて事を…!」

 

 まあ、ついさっきまで喧嘩していた相手が皇族しかも亡き陛下の実の姉君

 

 だったのだから、そう思うのも当然だな。

 

「何じゃ?徐庶は妾が皇族とわかったら急に態度を変えるのか?やれやれじゃな」

 

 劉弁様は本当にやれやれといった感じで肩をすくめる。

 

「姫様、それは致し方のない事ですじゃ。それだけ皇帝はこの国では重いもの

 

 なのですからな」

 

 それをお付きのお爺さんがやんわりと宥める。

 

「…そうじゃな。妾がこうして隠遁しておるのもそれが原因でもあるからの」

 

 この方は陛下が仰っていた通り、本当に身分と血を嫌っているようだ。でも

 

 何故なのだろう…?俺は思い切って聞いてみる事にした。もしかしたらそこ

 

 から劉弁様を説得出来る手がかりがつかめるかもしれないので。

 

「皇帝が重いのとあなたがここで偽名を使って隠れているのがどのような繋がりが

 

 あるのですか?本来ならあなたが先に位に就くべきお立場であったはずです」

 

 

 

 俺の質問に劉弁様は苦々しげな顔で答える。

 

「…確かにな。しかし妾がいるばかりに夢はいつも命の危険にさらされておった

 

 のじゃ」

 

 …夢?もしかして亡き陛下の真名か?そうすると何故劉弁様がいる事で

 

 お命が…?

 

「そなた達も知っての通り、妾と夢…劉協は母親が違う。そして妾の母は何皇后

 

 じゃ。母は自分が権勢を独り占めしたいばかりに他の女が父上の子を身籠ったり

 

 産んだりすると自分の兄、妾の伯父でもある何進大将軍を裏から動かしてその子

 

 や母親自身までも暗殺させていたのじゃ。劉協の母である王美人も遂に母の手で

 

 毒殺され、母の狙いは最後に残った劉協へと向けられるのは当然の事じゃった」

 

 衝撃の告白だった。確かに月達が一掃するまで宮中は腐った連中の集まりだったと

 

 聞いてはいたし、俺も知識としては知っていたが、実際渦中にいた人間から聞くと

 

 実感として突きつけられるものがある。

 

 俺がそう思っている横で、劉弁様の話は続く。

 

「妾は母の愚行を止めようとした。しかしそれに気付いた母は妾を軟禁して、劉協の

 

 暗殺を実行しようとしたのじゃ。しかし妾にも協力者がおっての、その手引きで洛陽

 

 を脱出する事が出来たのじゃ。そして妾は李儒と名乗り隠遁生活を送るようになった

 

 のじゃ。妾が消えた事により、漢は残った劉協が継ぐ事になったので命を狙われる事

 

 は無くなったというわけじゃな」

 

 劉弁様がこんな所にいるのはそういうわけだったのか。しかしまだ疑問点は残る。

 

「しかし劉弁様、既に何皇后も何進大将軍もこの世の者ではありません。であればあなた

 

 が洛陽に戻っても問題は無いのでは?」

 

 

 

「妹もそう思ったのであろう。密かに教えておいた潜伏先に使いが来たり、二度ほど

 

 あやつ自身が来た事もあった」

 

 なるほど、陛下だけには居場所を知らせていたのか。おそらく陛下も皇帝となった

 

 自分自身で迎えにいけば、劉弁様も戻ってこられると思ったのだろう。

 

「じゃがな、今度は妾の事が目障りな者は宮中におったらしくての。妾の居場所が分かる

 

 と同時に刺客が差し向けられてきたり、劉協の護衛の兵の中に刺客を紛れさせたりして

 

 きての。その度に妾は潜伏先を変えなくてはならなかったのじゃ。そのような事態にな

 

 るのも我が身に流れるこの血のせいじゃと何度自分自身の身分と血を呪ったかわからぬ。

 

 そういうわけで妾にとって洛陽という地は嫌悪の対象にしかならぬのじゃ。じゃから帰

 

 って劉協に伝えよ、妾の事など忘れてお主はお主の務めを果たせと」

 

 なるほど、これが陛下の仰っていた身分と血を嫌っている理由か。しかし、伝える事は

 

 伝え、その上でこの方には戻ってもらわなければならない。まずは…。

 

「申し訳ありませんが、その言葉を劉協様にお伝えする事は出来ません」

 

「何故じゃ。あやつに引っ張ってでも連れてこいとでも言われたか!」

 

「いいえ、伝えるのが遅くなりましたが、劉協陛下におかれましては五日前に病気にて

 

 崩御されましてございます。我らがここに参ったのもそれを伝え、そして亡き陛下の

 

 ご遺志をお伝えする為でございます」

 

 

 

 俺のその言葉に劉弁様は愕然とした表情になる。

 

「な、何じゃと…劉協が、夢が死んだじゃと…馬鹿を申すな!!大方あやつにそう言って

 

 妾を連れてくるよう言われたのであろう!?そうなのじゃろ、そう言ってくれ!!」

 

 劉弁様はそう言いながら俺の襟を掴んで強く揺さぶる。

 

「いいえ、私もそうであったのならとは願いますが、これは事実です。陛下は…劉協様は

 

 …もう。そして最期まであなたの事を案じておられました」

 

 そう言うと、劉弁様は揺さぶっていた手を放し、その場に膝から崩れ落ちる。

 

「何故じゃ…三ヶ月前と一ヶ月前に手紙をくれた時にはそのような事は一言も…」

 

「陛下は一部の者以外に自分の病気の事、余命いくばくもない事を黙っておられたのです。

 

 私も危篤の報告があるまで知らなかったのです」

 

「じゃからか…ここ一年、妾に洛陽に戻ってくれとあんなに強く言ってきていたのは。

 

 …くっ、何故じゃ、何故病気の事を妾にまで黙っておったのじゃ。そうと知っておれば…」

 

「それは陛下が自分の病気を理由にするのではなく、劉弁様に自分の意志で洛陽に戻ってきて

 

 ほしかったからです」

 

 俺の言葉に劉弁様は戸惑いを見せる。

 

「自分の意志で?それはどういう…」

 

「劉協様の最期のお言葉を伝えます。『この漢という国を守り、栄えさせていく事が出来る

 

 のは姉上様しかいないと思っております。あなたがご自分の身分とその身に流れる血を嫌

 

 っておられるのは重々承知の上であえて申し上げます。あなたの身分と血こそがこの国を

 

 救うのに必要なのです。世祖光武帝の血を受け継ぐ我らの使命なのです。本当はこのよう

 

 な事になる前に戻ってきてもらいたかった。しかし残念ながら、この言葉があなたに伝わ

 

 る頃には私は既に不帰の客となっておりましょう。ですが、あなたは生きておられる。生

 

 きておられるならば、最期までその使命を果たしていただきたい。これはもう個人の問題

 

 ではないのです。私は皇帝として出来うる限りの事はしました。後は姉上、あなたが成し

 

 遂げる番なのです。この国の行く末をどうかよろしくお願い申し上げます』…以上です」

 

 

 

 劉弁様は俺が言い終わるまで黙って聞いていた。俺が言い終わってからしばらくして、

 

「…もう個人の問題ではない、か。最期まで厳しい事を言う奴じゃの」

 

 俯いたままそう呟いていた。そしておもむろに立ち上がると、

 

「少し一人にしてくれ。じい…いや、王允よ。お客人の世話を頼むぞ」

 

 そう言って部屋の中へ入っていってしまった。

 

「ああ言っておられる以上、しばらく待つしかないな。王允殿、しばし世話になります」

 

「はい、ごゆっくり。それでは茶でも淹れてまいりましょうかな」

 

 王允殿はそう言って厨房へ行った。

 

「一刀さん、あのおじい様は今王允様と仰られてましたが…」

 

「ああ、司徒の王允殿だ。陛下から聞いていてね、劉弁様が先程言っておられた洛陽を脱出

 

 した際の協力者というのがあの人らしい。そのまま劉弁様の世話もしてるそうだ」

 

「ははは…私ってば何て失礼な事を」

 

 そう言いながら、輝里の顔は引きつっていた。

 

「気にする事はないようだよ。実は劉弁様から陛下宛に時々手紙が行っていたらしいけど、

 

 その中に輝里が来た時の事も書いてあったみたいで、劉弁様も王允殿も久々に楽しい一時

 

 を過ごしたって書いてあったらしいよ」

 

「あははは…もしかして陛下が私がここを知っているのを知っていたのって…」

 

「そういう事らしい」

 

 輝里はそのまましばらく引きつった笑みを浮かべたままだった。 

 

「あ、あの…兄様?私達このままここで座ってていいんですか?司徒様にお茶を淹れさせる

 

 なんて…」

 

 

 

 流琉が申し訳なさそうにそう言った時、

 

「気にする必要はないですじゃ。私はここではただの世話係のじじいですからの」

 

 お茶を持ってきた王允殿が入ってきた。

 

「皆様方はお客人、家の人間が客を持て成すのは道理にてござれば」

 

 王允殿はそう言っていたが、輝里と流琉は完全に固まっていた。俺も正直リラックス出来て

 

 るわけではないが、俺まで畏まり過ぎるのもどうかと思い、王允殿の出した茶を飲む。

 

 そしてふと思った事を聞いてみる事にした。

 

「ところで王允殿、あなたは劉弁様がこのまま隠遁生活をしている方が良いと思っていらっしゃ

 

 るのですか?」

 

「ほっほっほ、私は劉弁様が幼い頃よりお世話してきた身です。劉弁様がこうと決められた以上、

 

 それに従うのみですよ。けれども劉協様亡き今、あの方ほど皇帝にふさわしい方はいらっしゃ

 

 らないとも思っております。例え中山靖王の末裔であろうとも、あの方には及びますまい」

 

 …どういう事だ?まさかこの人は曹操の動きも知っているのか?

 

「ほっほっほ、私は司徒なんぞやってますのでいろいろな所に知り合いがおりましてな。時々

 

 情報をくれたりするのです。南皮にも昔の部下が何人か務めておるのです」

 

 …さすがというべきか。

 

「ですから、北郷殿の所の軍師殿がいろいろ画策されているのも耳に入っております。という

 

 より少々便宜を図ってさしあげたりもしましたしの」

 

 マジですか…そこまでの方であれば、隠し事も不要か。

 

「さすがは王允殿、ならば申し上げます。私どもとしましては、このまま曹操のいいように事が

 

 運ぶのを良しとはいたしません。その為にも劉弁様には一刻も早く洛陽へ戻っていただきたい

 

 と思っております。王允殿からもどうかお口添えを」

 

 王允殿は少し考えていたが突然、

 

「おお!そういえば姫様へお茶を持っていかなければならんのですが、よろしければ北郷殿が

 

 持っていってくださりませんかな?」

 

 脈絡もなくそんな事を言い出す…この人もなかなか掴み所のない人だな。

 

 

 

 

 王允殿に言われるまま、俺は劉弁様の部屋にお茶を運ぶ。そして部屋の扉をノックする。

 

『…? 何じゃ?扉を叩くのは誰じゃ?』

 

「北郷です。王允殿に頼まれ、お茶をお持ちしました」

 

『…まあ、良い。入れ』

 

 俺は劉弁様の部屋へ入る。正直もう少し女の子らしい部屋を想像したのだが、その部屋は本で

 

 溢れていた…というより本の中に劉弁様や寝台や机が埋もれているような感じだ。

 

「何故扉を叩いたのじゃ?お主も奇妙な事をするのぉ」

 

 …? ああ、そういえばこっちじゃノックする習慣はなかったんだったな。

 

「私の国では他人の部屋を訪れた際には扉を叩き、来訪の意志を伝えて中にいる人のの許可を得

 

 てから入るという習慣があるのです。ついそれが出てしまいました」

 

 俺がそう言うと劉弁様は感心しきりに頷いていた。

 

「それは良い習慣じゃな。いきなり入ってこられても困る事もあるしの。妾も今後それを取り入

 

 れる事にしよう。それで?お主がここに来たからにはまだ妾に言う事があるのであろう?」

 

「いえ、おr…私は本当に王允殿に言われてお茶を『お主の顔はそうは言っておらんぞ』…うっ」

 

 さすがに鋭いな…。それならばと俺はお茶を机の上に置いてから話し始める。

 

「それでは申し上げます。私は何としてでも劉弁様に皇帝として洛陽に戻っていただきたいと思

 

 っております。それは亡き陛下の遺志であるだけでなく、私もそう思っているからです」

 

「ほう、何故じゃ?別に皇帝など誰がなっても同じではないのか?この大陸を治めるのが漢である

 

 必要など何処にもあるまい。一つの国が腐ればまた新たな者が新たな国を造る、そうやってこの

 

 大陸は歴史を紡いできたのはお主も知っておろう。ここで誰かが新たに起つのであればそれが

 

 運命であった、ただそれだけの事じゃ。それなのに、何故お主は漢に拘る?今更何を期待するの

 

 じゃ?」

 

 劉弁様は俺にそう問いかける。しかし事情があるにしろ、そこまで漢を嫌わなくても…あれ?

 

 ふと何かしらの違和感を感じる…そうか、そう言う劉弁様の顔から何かしらの迷いを感じる

 

 からか。

 

 言葉の最後の『何を期待する』というのは劉弁様が俺に期待をしているという事か。ならば、

 

 ここで俺の説得如何によって運命が変わるという事だな…ううっ、何か緊張してきた。でもここ

 

 で退くわけにもいかない。よし!ここは考えててもダメだ。思った通りにいこう!!

 

 

 

「期待?…別に漢という国に今更期待しているわけではないですよ。俺が期待しているのは、亡き

 

 劉協陛下が月達と新たにしようとした国造りとそれを実行出来る力を持っているであろう劉弁様

 

 のみです」

 

 その言葉を聞いた劉弁様は驚きを隠せない。こんな事を言ってしまった俺自身がビックリしている

 

 けどね。

 

「ほう、新たな国造り、のぉ。ならばますます漢である必要は無いのではないのか?」

 

「漢である必要はあるのです。今また違う国を興そうとすれば、また長い戦乱が始まります。それで

 

 得をするのは五胡くらいです。下手をすれば五胡に大陸の一部なりとも取られてしまい、混乱は数

 

 百年にも及ぶ可能性も出てきます。それを防ぐには漢という国の体制は必要なのです。但し、今ま

 

 でと同じではなく内部は刷新されたものとしていかなければなりません。劉協様はその考えに賛同

 

 し、進めようとされたのです。劉協様亡き後、劉弁様こそが漢を強く生まれ変わらせる事が出来る

 

 と信じておられればこそ、こうやって私を劉弁様の下へ遣わして最期の言葉を伝えさせたと私は信

 

 じております」

 

 俺が言い終わると劉弁様は俺の顔をまじまじと見つめていた。…何だか落ち着かないな。

 

「あ、あの…劉弁様?『多分少し違うと思うぞ、北郷よ』…はい?それはどういう事ですか?」

 

「妹が妾に期待しているのは確かであろうが、お主をここへよこしたのは違う理由じゃろう」

 

「違う理由って…?」

 

 俺は話しを続けようとするが、劉弁様はじりじりと俺に顔を近づけてくるので話しづらい。

 

「妾と劉協は姉妹じゃ」

 

 そりゃそうだ、何を今更…。

 

「そして結構好みも似通っていてな。例えば服の意匠とか、歌とか、食べ物とかな」

 

 まあ、姉妹ならそういう事も…まったく違う場合もあるが。

 

「特に男の好みなどはまったくといって良いほど同じじゃった」

 

 …男の好み?何を突然?

 

「つまりお主は妾好みの男という事じゃ。そして妾の好みという事は妹もお主の事を憎からず想

 

 っておったはずじゃ」

 

 ……え?………………えええええええええっ!?俺が?劉弁様の?それに陛下も?

 

「ははは…そんな、まさか。冗談もほどほどに『本気じゃぞ』…えっ!?」

 

 そう言った劉弁様は俺をじっと見つめていた。

 

 

 

「そうか…おそらく妹は自分の余命が少なかった故、自分の想いを告げなかったのじゃな、あやつ

 

 らしい事じゃ」

 

「い、いや、あの、それは、光栄な事ではありますが、お、俺には『諸葛亮じゃったか?』ご存知

 

 ならば話は早いです。俺には諸葛亮という恋人がおりますれば恐れ多い事ではありますが、殿下

 

 のお気持ちには…」

 

 俺は何とか逃れようとするが、劉弁様は巧みに俺を部屋の隅に追い詰める。

 

「別にその諸葛亮からお前を奪おうと思っているわけではないぞ。ただ妾は気に入った男から胤を

 

 もらいたいだけじゃ」

 

 劉弁様の言葉に俺の頭は混乱する。劉弁様が?俺を?胤を?でも朱里が…でもここにはいない…

 

 ああっ、俺はどうすれば…誰か何とかして…あれ?

 

「あ、あの、劉弁様?」

 

「どうした、これからという時に?」

 

「もしかして劉弁様は何回かこういう事は経験済みなのですか?」

 

 俺がそう疑問を呈すると、劉弁様の顔がはみるみるうちに夜叉の如くに変わっていく…もしかして

 

 俺なんか失敗した?

 

「そうか、お主には妾がそう見えるのか…ふざけるでない!!妾とてこういう事は初めてに決まって

 

 おるわ!!本当は妾とて恥ずかしくて心臓が破裂しそうなのじゃぞ!!嘘だと思うのなら確かめて

 

 みよ!!」

 

 劉弁様はそう言うと俺の手をその豊満な胸に押し付ける…おおっ、これは何というボリューム。

 

 これほどの物は前の外史の時の愛紗や紫苑以来の…って、そうじゃなくって!!

 

 言われてみると、劉弁様の心臓はかなりバクバクと激しく鼓動していた。

 

「この馬鹿者が。妾がここまで勇気を出したのじゃからお主も覚悟を決めよ!」

 

 劉弁様はそのまま再び俺に迫ってくる。

 

「待ってください、ここは一つ落ち着いて…」

 

「お主も男ならこのような状況でグダグダ言うでない!」

 

 

 

 

 そのまま劉弁様は俺に覆いかぶさろうとしたその時、部屋中に積み上げられた本が崩れて、俺達の

 

 上に落ちてきた。

 

「一刀さん、どうしました!?中から凄い音が…」

 

「兄様、大丈夫ですk…」

 

 その物音を聞き扉を開けて輝里と流琉が入ってきたが、劉弁様が俺の上に覆いかぶさっている状態

 

 を見た瞬間、二人の顔が鬼と見間違う位に怒りに染まる。

 

「「コレハ一体ドウイウ事デスカ!?」」

 

「い、いや、待て、落ち着け二人とも。劉弁様からも…あれ?」

 

 ふと見上げると劉弁様の姿は既になかった。

 

「一刀サン、説明シテイタダケマスカ」

 

「兄様、兄様は朱里サンダケト聞イテタカラ、ミンナ我慢シテイルノニ…」

 

「だから、これは…」

 

「「問答無用!!!」」

 

 命の危機を感じた俺はその場から懸命に逃げる。

 

「北郷、逃げるのは良いが闇雲に逃げると石兵八陣に迷い込むぞ?」

 

 いつの間にか軒先の椅子に腰掛け、王允殿とお茶を飲んでいる劉弁様の言葉を聞き、一瞬動きを

 

 止めたが、それが命取りとなった。

 

「「捕マエタ」」

 

 俺は輝里と流琉に肩を掴まれ、弁解をする間もなく…。

 

「ぎゃあーーーーーーーー!!」

 

 

 ・・・・・しばらくお待ちください・・・・・

 

 

「大丈夫か、北郷」

 

「何処をどう見ればこれが大丈夫だと?」

 

「一刀さんが悪いんです!!」

 

「そうです、全て兄様のせいです!」

 

 二人の視線が痛い…本当に俺が悪いのか?…しくしく。

 

 

 

「姫様、楽しそうですな」

 

 そんな様子を眺めていた劉弁に王允が語りかける。

 

「ほう、そう見えるか?」

 

「はい、洛陽にいた時のあなたはいつもふさぎこんでばかり。ここへ来てからも何処か寂しそうな

 

 お顔をされていました。しかし、徐庶殿が来られた時と今日と姫様の顔は楽しそうに笑っておら

 

 れる。このような方がおられるのであれば、洛陽に戻るのも悪くはないのではないですかな」

 

「そうじゃな。夢が目指したという新たな国造り、こういう者達と出来るのであれば再び洛陽に

 

 戻っても良いかの」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

「北郷よ」

 

 不意に劉弁様が俺に話しかけてくる。

 

「何でしょう」

 

「妾は洛陽に戻る事にしたぞ。当然、次期皇帝としてな」

 

 俺はその言葉に耳を疑う。あれほど洛陽を嫌っていた劉弁様が何故?

 

「何をぼうっとしておる、早く支度をせぬか。王允、妾達も出立の準備じゃ!」

 

「ははっ!!」

 

 劉弁様の呼びかけに答えた王允殿は先程までの飄々とした雰囲気は無くなり、その眼光も鋭いもの

 

 へと変わる。これが司徒としての本当の姿という事か…。

 

 こうして俺達は劉弁様を連れて、洛陽へと戻ったのであった。

 

 ・・・・・・・・・

 

 ちなみに劉弁の胸の内では…、

 

(もうちょっとじゃったのに惜しかったの。じゃが洛陽に戻ってからが本当の勝負よ…ふふ)

 

 一人ほくそ笑む劉弁であった。

 

 

 

 場面は変わり、南皮にて。

 

 洛陽から皇帝崩御の使者が到着し、相国である董卓の名で洛陽への参集が命ぜられた。

 

 その知らせに曹操は喜びを隠せなかった(無論、使者の前では神妙な面持ちをしていたが)。

 

「皆、遂に計画を始動させる時が来たわ。我らはこれより『次期皇帝・劉備玄徳殿下』を奉じ、洛陽へ

 

 向かう!そして私の計画に賛同する諸侯とともに相国の息のかかった連中を洛陽から叩き出すわよ!

 

 出立準備!!」

 

 ・・・・・・・・

 

 曹操の軍勢が南皮を出発し、洛陽へと向かう。その軍勢の中央にはきらびやかな衣装に身を包んだ

 

 劉備の姿があった。

 

 それを見物する群集の後方にその劉備の姿を見つめる一人の女性の姿があった。

 

(桃香様…あなたはそれでいいのですか?それが本当にあなたの望むものならば、私は再び

 

 あなたの矛となるつもりです…しかし今のあなたからは…)

 

 それは行方不明になっていたはずの関羽であった。彼女はこの一年自分を見つめ直す為に大陸中を

 

 放浪していたのあったが、南皮の近くに来た時に曹操が劉備を次期皇帝に奉じて洛陽へ行くらしい

 

 との噂を聞きやって来たのである。その関羽の目から見た劉備は何かしら思いつめたような雰囲気

 

 しか感じられず、半ば呆然と軍勢を眺めていた。

 

「何をぼうっと眺めているのだ、愛紗よ」

 

 その後ろより自分を呼ぶ声にはっと我に帰り振り向くとそこには、

 

「星!お前、何故ここに?」

 

「それはこっちの台詞だ。この一年、行方不明のお前を捜してあっちこっち歩いておったのだぞ。

 

 少しはねぎらってくれても良いと思うが。ちなみにねぎらい賃は最高級メンマ一年分だ」

 

 

 

「お、お前な…」

 

 相変わらずの趙雲の言葉に関羽は肩を落とす。

 

「それが星ちゃんらしさなんですよー、きっと」

 

「もう少し緊張した感じの方が良かったのでは?」

 

 趙雲の背後より見知らぬ少女が二人現れる。

 

「星、こちらの方々は?」

 

「ああ、以前に一緒に旅をしていた仲間でな。この間久々に会ったのでまた一緒に旅をしていたのだ」

 

「初めましてー、程立と申しますー」

 

「戯志才です。よろしく」

 

「私は『関羽さんですねー、星ちゃんから聞いてますよー』…そうか、ならばこちらこそよろしく

 

 頼む」

 

「さて挨拶が済んだ所で、愛紗よ、これからどうするのだ?」

 

 趙雲に聞かれた関羽は搾り出すように言葉を発する。

 

「私は…わからない。桃香様があれでは…」

 

「そうですねー。稟ちゃん、あれはやはり曹操さんの傀儡でしかないですよー」

 

「私は最初から曹操様にお仕えするつもりでここまで来たのだ。風は違うというの?」

 

「そうですねー、風も最初は曹操様こそ我が日輪にふさわしいと思っていたのですけど…ここに来て

 

 何か違うような気がするんですよねー」

 

「ならば、洛陽へ一足先に行って曹操殿が何を成すのか見極めてからその後の事を決めるというのは

 

 どうだ?」

 

 趙雲のその言葉に三人は賛同し、洛陽へと向かったのであった。

 

 しかしこの選択が親友である程立と戯志才の運命を分かつ事になるとは誰にも予想出来なかったの

 

 であった。

 

 

 

 

                                続く(のですー。by程立)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は少し時間がかかってしまい申し訳ありません。

 

 どうやって劉弁様を説得しようか考えてたら時間があっという間に…。

 

 しかもこれが説得と言えるのかどうか疑わしすぎるし…。

 

 文章読んでご不快になられた方がいらっしゃったら申し訳ありません。

 

 でも出来ればその不快感は胸の中にそっとしまったままで温かく見守って

 

 くださるとうれしい限りです。

 

 一応次回は洛陽にて劉備VS劉弁…の名を借りた曹操VS一刀・朱里達のお話

 

 をお送りする予定です。当然、劉弁様は活躍予定です。

 

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ四にてお会いいたしませう。

 

 

 

 

 

 追伸 次回は朱里もちゃんと出るよ。

 

 


 
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