真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 後編3-1 衝撃
からっ風が吹く。
血のにおいを運んで
そんな中、パチッと空気がはじける音がする。
二人の距離がゆっくりと縮まるたびに、その破裂音が大きく、そして苛烈になっていく。
お互いを反発し合っているかのように
二人がさらに近付くと、それ以上近づくなと言わんばかりに空気中に黄色い電気のようなものがほとばしる。
お互いそれらを全く気にしておらず、さらに距離を縮めていく。
思春「愛紗、一先ず離れたほうがいい」
その様子に見とれていた愛紗の隣から急に思春の声がする
思春「北郷の奴も今は少し離れている。それに思ったより奴の蹴りが効いているのではないか?」
愛紗「大丈夫・・・だっ。くっ!」
思春「無理はするな。雪蓮様も動くのにつらそうにしてらっしゃるのに・・・。今のあ奴は昔のあ奴ではない。万全を整えるべきだ」
愛紗「・・・・・・くそっ」
思春「肩を貸そう」
愛紗は初め肩を借りずに歩きだそうとするが、すぐに足がふらつき、結果的に肩を借りることになってしまった。
いつもの愛紗ならたとえ強化された一刀の蹴りであったとしても、威力を受け流すことができたであろう。
しかし、やはり相手が一刀であった時の驚きと心の揺らぎがこの結果をもたらしたのだろうと愛紗は自分自身を責めずにはいられなかった。
愛紗は思春の肩を借りながら、恋の方を一瞥する。
愛紗が先ほど見たときよりもさらに距離が縮まっている。
空気がはじける音もさらに苛烈さが増し、空気にほとばしる電気のようなものの色が深紅の赤と漆黒の黒とに変わっていた。
愛紗「恋っ!!そやつはかなりやるぞっ!!」
愛紗の声が聞こえたかどうかは分からなかったが、恋は一瞬だけ愛紗の方を見たような気がした。
思春「始まるな。少し急ぐ」
そう言って、思春は蓮華や雪蓮たちが待つ方へと歩みの速度を速めた。
両者の周りでパチパチと火花が散る
しかし、そんなことは気にもしないで二人はさらに距離を縮めていた。
ツルギ「設定が緩みすぎだな・・・。こりゃ冗談抜きで山一つくらい吹き飛ぶぞ」
恋「??」
ツルギ「こっちの話だ。気にすんな。アンタはオレと全力で!!かつ本気で!!死合えばいいんだよ。簡単な話だろ?」
恋「ご主人様は?」
ツルギ「アイツはアイツで勝手にやるだろ」
恋「ご主人様との・・・話は?」
ツルギ「ああっ・・・忘れてねぇよ。もしおまえが勝てたら、あいつを返してやる」
恋「うん・・・約束」
恋はこう言った後、少しだけ笑みを浮かべたような気がした。
その微妙な表情の変化から、ツルギは絶対の自信を感じ取る。
私が負けるはずがない・・・と
ツルギ「愛する者のためならばって奴か・・・オレには・・・分からねぇよ。ただ全力で戦えたらそれでいい」
そして、方天画戟と月白の切っ先が触れ合った瞬間、二人の姿が神隠しにあったかのごとく消え失せた。
あたりに轟音を響かせ、空気が爆ぜた音を残して・・・
二人の戦いはまさに“次元が違う”という言葉がふさわしいものだった。
恋が振るう方天画戟はあまりの速度に二重、三重になって見えており、それらをツルギは鮮やかに弾いていく。
隙を見てツルギは白き閃光が尾を引く強烈な斬撃を放つも、何の苦労もなく恋はそれを避けてみせる。
恋は下方から上方へと斬り上げると、ツルギは方天画戟の柄の上に足を乗せ、恋の斬撃の勢いを借りつつ上方へと飛びあがる。
飛び上がり恋を見下げたまま、ツルギは右手に黄色い“気”を圧縮させる。
そして、それを恋目掛けて放った。
恋はその気弾を見上げたまま慌てることもなく、自分に当たるほんの手前で方天画戟を一回だけぐるりと回し、その気弾を拡散させた。
ツルギはヒュ~と口笛を吹きながら、自由落下してきてスタッと優雅に着地する。
恋は弾き消したあと、微かな痺れが残る自分の右手をチラッと見る。
そして、少しだけ腰を落とすと右手を開いた状態のままゆっくりと引き絞った。
すると、指先から5つの小さな深紅の気弾が生成される。
恋「・・・・・・できた」
恋は右手を勢いよく前へと突き出すと、その5つの気弾が螺旋に踊りながらツルギに迫っていく。
ツルギは再び音がない口笛を吹くと、その5つの気弾を先ほど恋がやって見せたのと同じ方法で全てかき消した。
放った瞬間に恋は次の行動に移っており、飛び上がってツルギを強襲していた。
黒布の男「・・・・・・今日だけで何回言ったやろか。・・・ファンタジーやんけっ!!魔法とどないちゃうちゅーねん!!」
カガミ「何を言ってるのです?魔法と“気”は全然違います。そもそも魔法というのは・・・」
黒布の男「いや・・・そないな説明はいりませんわ・・・。つーか、説明できるんですか?」
カガミ「ええ、理論的かつ科学的に」
黒布の男「・・・夢が崩れるんで遠慮しときます」
カガミ「でも、あなたの言いたいことも分かります。ちょっと世界の設定を緩めすぎたかもしれません。これではこの外史の“始まりの外史”よりも制限が緩くなっているように思えます」
黒布の男「いや・・・やっぱり少しズレてると思います。なぁ、サラちゃん」
声をかけられたサラは男とカガミとは別の方向を向いていた。
近くであんなに激しい戦いが繰り広げられているというのに、そんなものは眼中にないといわんばかりにある一点をジッと見つめている。
男がその視線を追っていくと、そこには一人の男の姿があった。
黒布の男「ホンマにアイツのことしか目に入らんのやな・・・」
その言葉にサラはチラッとだけ、男の方を見たが、何も言わずまた視線を一刀の方へと移した。
その様子を見た後、男も恋とツルギの方へと視線を戻した。
ツルギ「さすがにやりやがるな。今までの“規格外”の中でも三本の指には入る」
ツルギは恋の斬撃を軽々と捌きながら、笑みを浮かべていた。
ツルギ(試してみてもいいかもな)
そう一言ボソッとつぶやくと、月白が急激に赤く光り始め、恋の斬撃の合間を縫って一閃を放つ。
恋がその攻撃を深紅に輝く刃で受けた瞬間、チッという発火音のような音が聞こえ、その直後に強烈な爆風があたりに吹き荒れた。
その風は熱風というわけではなく、ただの暴風であるため、風を受けること自体にダメージはないが、恋はあまりの強烈さに距離を取らざるを得なかった。
恋が距離をとったことを一瞥したツルギは月白をすかさず鞘へと納めた。
そして腰を深く落とし、体全体を左へと捻っていつでも抜刀できる姿勢を取る。
その鞘の色は今まで見たことがない深緑に輝いており、異様な雰囲気を感じさせる。
ツルギ「はぁっ!」
そしてツルギは全てを解放するかのように、その深緑の鞘から刃を一気に振りぬいた。
恋はそれを見てすかさず防御姿勢を取っていた。
が・・・
ツルギ「ん?」
恋「??」
ツルギの刃はただ空気を切り裂いたにすぎず、別段なにも変化しなかった。
ツルギ自身も何が起こっているか分かっていない様子で、ツルギ自身がよくわかっていないのに恋が今何が起こっているのかと理解する術はどこにもなかった。
ツルギ「へっ?」
恋「??・・・好機っ!」
戸惑っているツルギを見て、恋はその距離を一気に縮め、嵐のような斬撃を浴びせかけた。
ツルギ「不発ぅぅぅ!?ありえねぇだろっ!!なんでだっ!!ここまで制限下がってんのにかっ!!」
ツルギ自身が今起こっている事実が理解できないとばかりに叫んでおり、恋の斬撃を受けつつカガミの方を見る。
その一瞬が命取りとなり、恋の斬撃がツルギの防御を切り開いた。
ツルギ「ぐおおぉぉぉ・・・」
ツルギは何とか体をひねって直撃は避けたものの、右肩口から血飛沫が吹きあがった。
恋はさらに速度を上げ、ツルギに追い打ちをかけようと瞬速の突きを繰り広げる。
ツルギ「調子に・・・乗んなぁぁ!!!!」
ツルギは力ずくで方天画戟をかちあげて、恋に僅かな隙を作った後、大上段に構える。
そしてそれを恋に向かって豪快に振りぬいた。
方天画戟の柄で受け止めようと試みるが、あまりの威力に恋は大きく吹き飛ばされた。
恋との距離が大きく開いたことを確認したツルギは改めてカガミの方を見やった。
ツルギ「どうなってやがるっ!!この外史はっ!!なんでできねぇんだよっ!!説明しやが・・・・・・ってまさか・・・」
初めは激高しながら罵り尽くすといった感じであったが、徐々にその勢いが衰えていく。
ツルギの心の中に一つの可能性が浮上したからだ。
ツルギ「まさか・・・あのこっ恥ずかしい“発声”がいんのか・・・この外史には?」
最後はカガミに確認するかのようにこう言った。
カガミ「・・・知りませんでしたか?私だって、関羽さんだってしてたでしょ?“発声”」
ツルギ「先に言えやっ!!普通に使う分には問題ないんなら気づくはずねぇだろうが!!」
ツルギは右肩を押さえながら、空気が振るえるのではと言わんばかりの大声であった。
ツルギ「油断した・・・でも・・・だ。オレに攻撃を届かせるとはな。くっ・・・くくっ・・・ふふふっ・・・あーーーっはっはっは~~~~~」
一瞬だけ落胆したかのように見えたが、急に不気味な声を出しながら笑い出し、最後には高笑いを始めた。
ツルギ「オレの体にもまだ血が流れてんのな・・・。オレに傷をつけた奴なんか何百・・・いや何千年振りだろうな・・・。おもしれぇ・・・久々にグツグツきやがるな」
恋「・・・変な奴」
ツルギ「そう言うなよ・・・ああ・・・痛てぇ・・・久しぶりだなぁ・・・この感覚はよぉ・・・」
ツルギは右肩を押さえていた手を退けると、再び独特の構えを取った。
ツルギ「次はこっちの番だ。受け取ってくれよ?オレのとっておきだかんなぁ?」
先ほどと同じ抜刀姿勢をとると、先ほどの深緑とは違い、黄金色に輝き始める。
ツルギ『飛びかえっ!金糸雀(カナリア)』
抜刀した瞬間にさらに一瞬輝きが増したかと思うと、無数の小さな斬撃が恋を襲う。
斬撃と斬撃の間にはちょっとした隙間もなく、ほとんど一枚の黄金の壁が押し迫ってくるのと変わらないように見える。
小さな黄金の斬撃がひとつ、恋の耳の傍を通り過ぎたのをきっかけに一気に他の斬撃が恋に襲いかかった。
愛紗「恋ッッーーーー!!くっ・・・」
愛紗は大声で恋の名を呼んだが、その拍子に一刀から受けた蹴りの痛みが全身に走り、途中で声がかすれてしまっていた。
すると突然、恋が居たはずの所から大きな爆発音が聞こえ、ほぼ垂直に土埃の柱が浮上した。
しかし、黄金の斬撃はやむことなく無慈悲に襲いかかっていた。
斬撃が全て放たれ終わったときには、ツルギの前には長い地面が抉れた跡が伸びており、前方に聳えていた丘が半分ほど消失していた。
愛紗ら含む三国側一同は絶句し、一言も言葉を発せずにいた。
ツルギ「ちっ・・・制限が緩すぎる。加減が効かねぇ・・・おっ?」
ツルギは月白を肩に担ぎながら前方に伸びる窪みを眺めていくと、途中で不自然なほど大きなクレーターのようなものができていた。
ツルギ「あんなのあったか?」
ツルギがそう口にした瞬間、そのクレーターの中心からいきなり大きく高い土ぼこりが上空に舞った。
そしてその土ぼこりが血の臭いを含んだ風に流され、徐々に薄くなっていくとその中心に人影を見ることができた。
そして、その人影は確かな足取りで一歩ずつ前へと進んでくる。
土ぼこりが完全に風に流された時、その人影が恋であったことを皆が認識する。
恋「あぶなかった」
恋の服はあちこちで破れており、腕や脚には無数の切り傷が刻まれていた。
しかし、その傷はどれも致命傷からは外れており、恋の表情も崩れている様子はない。
ツルギ「あの無数の斬撃の中で致命傷になる斬撃を弾いて、さらに地面に穴開けたってことか?」
愛紗が叫んだ瞬間に上空に上がった土ぼこりは、恋が黄金の斬撃を受けながら方天画戟を地面に思い切り叩きつけた時のものであった。
そして、その衝撃でできたクレーターの中に身をひそめて、恋はその後の斬撃を凌ぎ切ったのだった。
ツルギ「戦闘センスも申し分ないものを持っていて・・・それをやってのける力もある・・・か。へへっ・・・最高じゃねぇか」
恋「??恋は扇子なんか持ってない。持ってるのは武器」
ツルギの言葉を理解できないまま恋は再びツルギへと駆けて行き、轟音が響く斬撃を放っていった。
愛紗「恋もすごいが・・・あ奴、私との戦いでは手加減を・・・」
愛紗は今まで2度、ツルギと戦闘をしている。
そのときは自分と力が拮抗していると思っていた。
しかし、今目の前で行われている戦いは次元が違いすぎる。
愛紗は自分の無力さと相手に加減をされていたかもしれないという苛立ちにも似た気分がごちゃ混ぜになっていた。
そして、最後は自分が今動くことができないという不甲斐なさが愛紗の気持ちを征服した。
カガミ「あちらは勝手にやらせといて・・・こちらも再開と行きましょうか?ねぇ?一刀さん?」
愛紗たちは不意に声が聞こえた方を向くと、恋とツルギが闘っている方とは逆側でツルギ以外の4人が立っていた。
一刀は首を一度だけ縦に振ると、ザッ、ザッと音を立てて前へと進んでいく。
カガミ「次はどなたが相手をなさるんですか?できればそのままじっとしていてもらえれば、こちらの仕事ははかどるのですが」
カガミの挑発に対し、まず初めに愛紗が歩を進めようとした。
しかし、その直後に腹部への鈍痛が愛紗に襲いかかった。
その痛みにより、よろけてしまうとそのすぐ傍にいた思春が再び肩を貸してやった。
思春「無理するな。休め」
思春はやさしく愛紗を地面に座らせてやり、立ち上がると同時に鈴音をチリンとならす。
思春の横には同じように自らの武器に手をかけた流琉が立っていた。
流琉「私が・・・行きます」
思春「私が行く」
二人がこう言ったのはほぼ同じタイミングであった。
流琉「思春さんには雪蓮様に蓮華様がいます。ここでの守りに集中してください」
思春「お前にこそ華琳殿がおられるだろう」
流琉「華琳様は私など居らずとも大丈夫です。私が心配なのは・・・」
流琉らしからぬ言動に思春は少しだけ驚きの表情を浮かべる。
親衛隊である流琉にとっての一番の任務は華琳の警護のはず
流琉は仕事熱心であり、気まじめだ。
今まで自分から華琳の警護の任から離れようとしたことがない。
それをあえて自ら離れようとしている。
さらに、この言動からは華琳に対して、“今だけは自分の身は自分で守ってください”というような意味合いまで読み取ることができた。
流琉「私らしくないのは重々承知しています。ですが、それでも・・・私は兄様が心配なんです。直接・・・話したいんです」
そして流琉は思春よりもさらに一歩だけ歩を進めた
流琉「ここはよろしくおねが――」
雪蓮「わたしが行く」
流琉の話をむりやり切り裂き、思春と流琉の間に体を割り込ませて雪蓮が言う。
蓮華「姉様ッ!何を!!」
雪蓮「私が行くって言ったのよ」
蓮華の言葉を背に受けながらズンズンと雪蓮は進んでいく。
思春「無茶ですっ!!雪蓮様っ!!そんな体で!!」
雪蓮「さっきよりも大分ましになったわ。動けるくらいにはね」
思春「ですがっ!!」
流琉「そうですっ!!私に任せてくださいっ!!」
思春と流琉は雪蓮の後を追いかけ、そして追い越すと雪蓮の前に立ちふさがる。
そして、数秒間だけ見つめあった後、雪蓮が口を開いた。
雪蓮「思春。あなたの任務は?」
思春「ッ!?・・・蓮華様の身を・・・お守りすることです」
雪蓮「流琉。あなたは?」
流琉「華琳様をお守りすることです。ですがっ!!私が行きます!!」
思春は少し言いよどみながら答える一方、流琉の言葉はしっかりとしており、真っすぐと雪蓮を見つめ返していた。
その様子を華琳は春蘭の横でじっと眺めていた。
雪蓮「その意気は良し。だけどね・・・はっきり言ってあげる。今のあなたでは一刀には勝てない」
流琉「・・・・・・」
それに関して、流琉は言い返すことができなかった。
今の一刀の実力は季衣を倒し、春蘭と愛紗相手に互角に打ち合える実力がある。
流琉「でも・・・それでもっ!!」
雪蓮「駄目。今のところ対抗できるとしたら恋か私、ギリギリで華琳ってところね。貴女はそのまま華琳の護衛をしてなさい」
流琉「でもっ!!」
華琳「流琉」
なおも雪蓮にくってかかろうとした流琉に、今まで黙っていた華琳が初めて話に入ってきた。
華琳「あんまり我儘を言わない流琉だからこそ、行かせてあげたいとも思ったけど、やっぱり雪蓮の言うとおりにしてちょうだい。一刀は季布を刺したのよ?あなた相手でも容赦しないでしょう。かわいいあなたが傷つきに行くのは見逃せない・・・今の一刀は本気よ」
流琉「私は大丈夫です。ですから、兄様と・・・」
華琳「それにあまり冷静でもなさそうだし・・・少し頭を冷やした方がいいわ。そんな状態では良い結果も出ないでしょうし」
華琳は流琉のそばまで来ると、後ろに回り両肩にポンと両手を置く。
そして、華琳は俯く流琉を押しながら、雪蓮の傍を通り過ぎる。
華琳「任せるわ」
雪蓮「あなたが一番初めに行きたがるかとも思ったんだけどね・・・さっきみたいに」
華琳「私も頭に血が昇ってたってことね。ふふっ・・・私は今、私にできることをする」
雪蓮「ええっ、しっかり見といて。それで・・・持ち帰って。情報を」
華琳「蓮華は私と思春でしっかり見ておくから・・・ガツンと一刀の眼を覚ましてやって」
その会話は横を過ぎ去る一瞬で行われる。
そして、お互い改めて全く逆の方向への歩みを進めた。
カガミ「長いお話は終わりましたか?待ちくたびれました」
雪蓮「待たせちゃったわね。私がやるわ・・・一刀」
雪蓮は一刀の目を見ながら、南海覇王に手をかけ、見せつけるようにゆっくりと鞘から引きぬいた。
雪蓮「いつ以来かしら?あなたと剣を交えるのは?今は剣と拳か」
一刀はこの雪蓮の問いかけにも答えず、ただただ戦闘態勢に入った。
雪蓮「つれないわね・・・。いいわ。寝ちゃってるなら眼を覚ましてあげる。私は愛紗みたいに甘くはないわよ?」
雪蓮はゆったりとした速度で一刀に近づいていった。
サラ「!」
サラは雪蓮が剣を抜きながら一刀の方へと近づいて行くのを見て、横に置いていた“神音”を手に取り、立ち上がろうとする。
黒布の男「あかんでっ!サラちゃん。ジッとしとかな」
サラ「うるさいっ!放してっ!」
男はサラの肩を掴んで引き留めようとするが、それを振り切ってサラは進もうとする。
カガミ「そうですよ。彼に任せてください」
あまりの突然の後方からの声に二人が一斉に振り向くと、そこにはカガミの姿があった。
サラ「ほんとに神出鬼没ね。どうやって移動してんのよ」
カガミ「それは後ほど・・・それよりも、今はジッとしてなさい。まだ時ではありません」
サラ「でもっ!あんな野蛮な奴に――」
カガミ「同じことを何度も言わせる人は嫌いです」
カガミのピシャッとした物言いにサラは次の言葉を紡ぐことができなくなった。
そして、仕方なく再び地面に腰を下ろすのであった。
黒布の男「それにしても勝てんのかいな?」
カガミ「今の状態で五分・・・いや、六対四ぐらいで孫策さんでしょうか?」
黒布の男「ふ~ん、それでも意外やわ。そこまでアイツのことをかっとるんですか。それだけ使いこなせとるちゅーことですか?」
カガミ「今の段階で及第点といったとこですかね・・・始まりますよ」
男とカガミ、そしてサラは雪蓮と一刀の方へと目を再びやるのであった。
雪蓮「せやぁぁぁ!!」
ギィィンという金属音が響く。
一刀が南海覇王をかちあげると、左拳を雪蓮の顔面目掛けて突いてくる。
それと同時に左拳との速度を微妙にずらした右拳が雪蓮の腹部に飛んできている。
雪蓮は左拳を南海覇王で、右拳を自分の右足でがっちり受け止める。
ミシシっという音が南海覇王から漏れ聞こえ、さらに右足裏から脛、太ももへと徐々に痺れが雪蓮の右足を侵食していく。
雪蓮「はやぁっ!!」
少しの時間だけ均衡を保った後、雪蓮は一刀の左拳を最小の動きで弾き、右足にめいいっぱいの力を加えると、一刀の右腕が勢いよく弾き飛ばされた。
一刀は少し体勢を崩しはしたが、すかさず左足で踏ん張りすぐに体勢を整えた。
雪蓮は心の中で改めて目の前の人間が本当に一刀なのかという疑念が湧き出した。
昔の一刀なら雪蓮の初撃すら見きれずに、死合いが終わっていただろう。
昔の一刀の面影が今の一刀からは片鱗も感じられない。
雪蓮「アナタ、本当に一刀なの?」
もちろん目の前の一刀は何も答えない。
しかし、少しだけ眼を逸らされて様な気はした。
その反応だけで雪蓮は直感した。
間違いなく目の前にいるのは自分たちが知っている一刀であるということを
雪蓮「今は話せないのね?」
雪蓮は一刀からの返答はなくとも次々と言葉を発していく。
雪蓮「なら、あなたを気絶させて連れ帰ることができたら話してもらうわよ」
雪蓮がそう言い終わった瞬間、一刀が勢いよく雪蓮へと飛びかかっていき、高く跳び上がると雪蓮に対しとび蹴りを放つ。
その蹴りを雪蓮が南海覇王でがっちりと防ぎきったとき、その異変は突然起きた。
一刀「っ!?」
雪蓮「なっ!」
南海覇王の刀身が急に白く輝き始め、数本の白い光が飛び出すと、その光が一刀の右足に纏わりつき始めた。
一刀はその光を振り払おうとしているが、その光はいっこうに離れる気配がない。
その時、雪蓮は不思議な感覚に襲われていた。
雪蓮はその感覚が伝えてくるままに一刀をはじき返す。
一刀は大きく後方へと飛ばされるが、白い光は途切れないまま、まだ一刀の足に纏わりついていた。
雪蓮はその白い光を辿るように地をけり走り出すと、南海覇王を下段へと構える。
そして、南海覇王が雪蓮の手へと伝える通りの剣筋をなぞる様に雪蓮は剣を振るおうとした。
雪蓮(これはダメっ!!)
雪蓮は南海覇王が導く剣筋を拒むように精いっぱいの力を加える。
この指示に従ってしまったら、容赦なく一刀の生命を断ち切りそうな気がしたから・・・
その間のことはスローモーションのように、ゆっくりと時が流れているような気もした。
そして、雪蓮が南海覇王の指示に抗って、数秒が経過したとき
再び雪蓮の時が通常通りに流れ始める。
雪蓮の斬撃は右下方から左上方へ斜めに放たれていた。
そして、その刃が一刀の体を捉える感触が雪蓮の手に伝わり、一気に振るわれていた。
一刀は胸からは雪蓮の斬撃が通ってきた筋を追いかけるように血が噴き出した。
そして、一刀の体が上空へと浮かび、後方へと飛びながら、ズサッと地面に受け身なしで落ちた。
雪蓮「あっ・・・ああっ・・・」
雪蓮は切り上げの動作を維持したまま、血を噴き出しながら飛んでいく一刀を眼で追っていた。
後方にいる華琳たちもまた、一瞬何が起こっているか分かっていないようで、時が止まったかのように身動きできないでいた。
そして、一刀が地面に落ちて少しの時間がたった後、一番に動き出したのは・・・
サラ「お兄ちゃんっ!!!!」
と叫びながら近づくサラであった。
END
あとがき
どうもです。
長い間、書いてなかったということもあり、できるかなと思っていたのですが・・・
今のところ、キーボードをたたくスピードは衰え知らずです。
半年分の妄想を一気に打ち込んでいるようなそんな感じです。
ですが、勢いに任せて拙いすぎる文章になってもいけないかなと思いましたので、きりのいいところ(話の切りもいいですし、ちょうど1万字ですし)で切らせてもらいました。
文章がいつも拙いのは重々承知してはいますが・・・
ということで3-1というような訳のわからないことになってしまいました。
ご容赦ください・・・
次回でやっと約2年かけての第1部が終了します。
それまで、どうぞお付き合いしてくださる方はお付き合いください。
では、最後に予告を一つ
次回 真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」後編3-2 黒天の世
では、これで失礼します。
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どうもです。
後編3-1になります。
3-2で終わりです。
・・・ホントウです