School days3
あの日、「翼の誓い」を聞いて以来、井沢は自分に取ってサッカーって何なんだろう?
と、自問自答する日が続いていた。
(小学校に入学してから…、いや幼稚園で既にサッカーボール蹴ってたな。 何だかんだで、物心ついた頃から、サッカーやってたんだ…。
オレって結構スゲーじゃん!!)
そんな事を考えながら、給食のスープを啜っていたところ、急に話を振られた。
「井沢!聞いたかよ!?」
不意に話掛けられて、慌てて我に返る。
「え?何が!?」
「翼のやつ、ポルトガル語習ってるんだってよ!」
「ポルトガル語?何でまた?」
「ブラジルに留学した時に、困らない様にだって。
ちなみに、ブラジルはブラジル語じゃないんだぜ?ポルトガル語なんだせ~、知ってっかぁ!?」
石崎はそう言って、自慢気に鼻を指ですすった。
「石崎君それさっき俺が教えたばっかの事だよ~。」
「何だよ~翼~、バラすなよ~。オレって博学って所アピールしようとしてんのに!」
ワハハ!と楽しそうに給食を食べる2人を尻目に、井沢は内心、凹んでんでしまった。
(ポルトガル語まで習ってるだって!? スゲっ…着々と夢を叶える準備してるし…。
それに引き換え、オレは何か準備してるか!?
毎日、毎日、ライン引きに筋トレやってるだけじゃん!)
翼と自分の違いを、改めて見せつけられてしまい、井沢は目の前が真っ暗になった。
「おい!!翼いるか!?」
突然、隣りのクラスの、来生・滝と森崎が血相を変えて自分達の所へやって来た。
「何だよ、来生。さてはオレのデザート「冷凍ミカン」を狙いに来たな!?やらねぇぞ?こいつだけはやらねぇぞ、こら!!」
「ちげーよ、サル!」
「翼!お前やっぱり、古尾谷先生に一年だから試合に出れないっておかしいって言ったんだってな!!」
滝が珍しく声を荒げて言った。
「え!?」
そんな事はまったく知らなかった井沢と石崎は、顔をお互い見合わせた。
いつも能天気な石崎も流石にヤバいという表情をしている。
「…うん、言ったよ。」
「何で言っちまったんだよ!?ウワサもう学校中広まって、先輩達ブチ切れてるぞ!!」
「でも、おかしいよ。一年だから試合に出れないなんて。
色々考えたけど、やっぱりおかしい。サッカーは実力がすべてだよ。」
「でも…。」
「だから、オレ先生に言ったんだ。1年も2年も3年も全員で試合して、実力で勝った者をレギュラーするべきだって。」
「翼…。」
「でも、決めるのはオレじゃないから。やるかやらないかは、先生が決めることだよ。」
普段は幼い翼の顔が、急に大人に見えた。
あの河原で見た、世界を見据えた眼差しだ。
そんな翼を見て、その場にいた井沢達全員、何も言えなくなってしまった。
そして、放課後が来た―――――――――――。
********
翼がグラウンドに出た瞬間、一瞬でその場の空気が変わった。
グラウンドに居た2・3年のサッカー部員ほとんどが、怪訝な顔で翼を見る。
翼の後ろを歩いて来た井沢は、汗が背中を伝うの感じ、鳥肌が立った。
チラリと翼の表情を伺うと、さすがに翼も緊張の面持ちだった。
が、堂々とグラウンドを進む―――――。
「おい!テメー、1年の癖にいい度胸してるじゃねーか。」
一人の3年生が翼に因縁を付けてきた。
「・・・。」
翼は黙ってその生徒を見つめる。
強い眼差しで一歩も引かない。
「オレは、間違った事を言ったとは思いません。」
「!!! このくそガキが!!!」
ヤバイ!!殴られる!!!
その時だったーーーーーー。
「おい、全員集合だ!!!!!」
古尾谷先生の大きな声がグラウンドに響いて、サッカー部員全員が一斉に声のする方向を見た。
「ッチ!」
翼に食って掛かった3年生の先輩は舌打ちをして、仕方なしに点呼に応じた。
それを見て、翼も後に続く。
さらにその後ろに井沢達1年も続いた。
(どうすんだよ、この状況・・・。)
(マジ、やべーって!翼のヤツあとで殺されるぞ。)
滝・来生と目配せをしながら、古尾谷先生の前の輪の中に加わった。
「皆、もう話は伝わっていると思うが・・・、1年生が試合に出る事についてどう思う?」
先生は単刀直入に話を切り出した。
一斉に部員達が、騒然となる。
「先生!そんなのありえねーっす! オレ達この2年間、我慢して努力してきたのに、何で今年の1年だけそんな特例が許されるんだよ!」
先程、翼に食って掛かった3年生が声を荒げて意見する。
「そうだ!そうだ!!」
それに何人かの先輩達は、賛同する。
翼は険しい表情で、地面を見つめていた。
「・・・、でもコイツ達、小学生の時日本一になってるんだよな・・・。」
そんな中、他の3年生一人がボソっと呟いた。
そのセリフに全員が反応して、一斉にその生徒に視線が集中した。
「はああ!?テメー何言ってるんだよ!1年の肩持つのかよ!?」
「違うよ!!ただ、ちょっと見てみたいと思っただけだよ! 日本一になったっていうプレーを。」
「・・・・。」
「意見するくらい自信があるなら、よっぽど上手いんだろうなって。」
その意見に、部員達は困惑した。
「大空って、全国大会でMVP・得点王にもなったんだろ?」
「オレ、あいつのプレー見たことあるけど、マジ凄かったぜ。」
「たしか、日本一になったメンバーって大空の他にも何人かいるんだよな?
しかも、修哲から来たヤツ達も何人か居るって聞いたぜ。
修哲単独でも日本一になったって言うし…。」
井沢は、そのセリフに思わずドキっとする。
「んじゃ、日本一になったヤツって、1年の中に何人居るんだよ!?」
「2・3人?いや、もっと5・6人!?」
(もうちょっと、居るけどな・・・。)
井沢は心の中でツッコミを入れた。
とても口には出来なかったけれど。
しかし、さっきまで怖じけついていた井沢の気持ちは変わり始めていた。
修哲小・南葛SCと、2度日本一になったプライド。
そして、重要な事に気付いて、ハッとする。
なぜ自分達は南葛中に編入したのか――――――。
(オレ達は、少しでも翼に追いつくため、レベルアップするために 南葛に来たんじゃないのか!?
なのに、何を躊躇っているんだ!? 知らず知らずのうちに、守りに入ってる…。
こんなんじゃ、南葛に来た意味が無いじゃないか!!)
井沢の中で何かが変わった瞬間だった。
顔を上げて、横の来生・滝や高杉を見ると、3人とも同じ顔をしていた。
「・・・先生、1年対レギュラーでミニゲームをやってみたらどうでしょう?」
キャプテンが一歩前へ出て、意見した。
そして急遽、1年対レギュラーメンバーで、ミニゲームをする事となった。
********
悩める少年達のあがき――――。
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南葛中学に入学した1年の頃の井沢君中心のお話。