No.486047

495年の終わりと始まり

「フランちゃんって狂ってないよね?」と考えて、幽閉されてる理由とかを考えて書きました。

2012-09-19 16:06:14 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:731   閲覧ユーザー数:723

 幻想郷を覆っていた赤い霧が晴れてからしばらくしたある昼下がり、今日も幻想郷は快晴であった。結局あの事件は一人の妖怪の我儘が原因であり、博麗の巫女によって解決したのだが、そのことをほとんどの幻想郷の住人は知らない。

知っているのは…

「全く、なんであんたたちは今日もここにいるのよ?」

憤慨する博麗霊夢。今回の異変を解決した巫女である。

「別に良いじゃないか、私は参拝客だぜ」

お茶を呑みながら答える霧雨魔理沙。今回は霊夢に先を越されてしまったが、いつもなら異変解決に真っ先に首を突っ込む魔法使いである。

「普通の人間がいない神社なんだから、私がいてもいいじゃないの」

当然のように返すレミリア・スカーレット。紅魔館の主であり、今回の異変を起こした張本人、吸血鬼である。

「おいおい、私は普通だぜ?」

「お賽銭を入れてくれるなら、別に人間でも妖怪でもいいんだけどね」

この三人とあとは紅魔館の住人くらいだろう。

 

「しかし、暑いな。こんな暑いんじゃ、霧が出てた頃がすこし懐かしいぜ」

「あら、じゃあまた霧を出してあげましょうか?」

レミリアがそう言うと、

「また退治されたいみたいね」

と霊夢がお札を構えて凄む。

「冗談じゃないの、本気にしないでよ。こんな貧相な神社に住んでいると心まで貧相になるのかしら?」

「毎日何も入ってない貧相な賽銭箱を見てればこうなっちまうのかもな」

茶化してくる二人に対して霊夢は

「じゃああんたらが賽銭を入れなさいよ」

と言ったが

「嫌だぜ」

「断るわ」

「仕方ないわね…」

二人が即答するのを聞いて霊夢が嘆息しながらそう言った時…

雷鳴が轟いて三人を驚かせた

「夕立かしら?」

「こんな時期に珍しいな」

「困るわねえ。私、雨の中歩けないのよ」

と三人が話し合うが、一向に雨は降ってこない。しかし遠くの空は確かに黒く曇っている。それも紅魔館のあるあたりだけ。

「あんたの屋敷の辺りだけ雨が降ってるんじゃないのか?遂に呪われたか」

「アンデッドが住む館なんて、元々呪われてるでしょ」

「困ったわね、これじゃ帰れないわ」

「あんたが帰れないようにしたんじゃないのか?主のくせに館の奴等に嫌われてるんだな」

「あれは私を帰らせないようにしたというより…」

「中から出られないようにした?」

「どっちにしろあんたが帰れない事には変わりはないな」

「仕方ないわね、こんな奴にずっと居座られても困るし…」

そう言って霊夢が立ち上がろうとすると、

「今回は私に任せてもらおうか。こいつの時は」

そう言ってレミリアを指さす

「霊夢が一人で解決しちゃったからな。次は私の番だぜ」

「そう言うならあんたに任せるわ。面倒くさいし」

「任されたぜ。何が起こっているか楽しみだ」

そう言うやいなや魔理沙は箒にまたがって飛んで行った

霊夢とレミリアは神社に残されたのだが、ふとレミリアがつぶやいた

「ああ、あいつのことを忘れていたわ。きっとあいつが外に出ようとしたから、パチェが雨を降らせたのね」

「あいつって誰よ?」

「私の妹よ」

「この間はそんなやつ見なかったけど?」

「そりゃそうよ、あいつはずっと地下に居るもの。だいたい495年くらい」

「495年とは筋金入りの引き籠りね。まったく妖怪の考えることは訳が分からないわ…」

「妖怪にも色々と事情があるのよ。特に吸血鬼みたいな高貴な種族にはね」

「魔理沙に任せちゃったから暇ね」

「面倒くさいって言って頼んだのは誰だったかしら?」

「あんたと二人っきりってのも原因ね」

「私は別に暇じゃないけど。あんたみたいに面白い人間は珍しいし」

「変わってるわね。それにあんたみたいなのに好かれても面倒なだけだし」

「珍品が好物なのよ。面倒ついでにちょっとお話を聞いてくれないかしら?とある吸血鬼の姉妹のはなし」

「やることもないから聞いてあげるけど、それってあんたのことじゃないの?」

「さて、どうかしら?」

悪戯っぽく笑みを浮かべそう言ったレミリアは語りだす

 

ある所に吸血鬼の少女がいました

彼女の両親は気高く高貴な吸血鬼で、何一つ不自由なく暮らしていました

そして彼女はまだ幼かったのですが、両親から吸血鬼としての生き方、誇りを学んだのです

彼女が5歳になった時、妹が産まれました

この時、吸血鬼という種族は彼女たち三人を除いて滅び去っていたので、妹の誕生は両親そして、彼女にとってとても喜ばしい物でした

彼女は産まれたばかりの妹をとても大切に扱いました

妹の羽は彼女の羽と比べるととても歪でしたが、それでも彼女の妹に対する気持ちは変わりません。むしろ、綺麗だと思い羨ましくも感じました

しかし家族の幸せは長くは続きませんでした

妹が彼女の両親を壊してしまったからです

妹の能力は「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」という吸血鬼の中でも別格の能力を持っていました

そして産まれたばかりの無邪気な妹が持つには最悪の能力でした

無邪気と破壊、その最悪な組み合わせが最悪な結果を生みました

吸血鬼は誇り高い種族であり、吸血鬼こそが最強の種族であるという自負を持っていました

そのため、吸血鬼を殺す者がいればその相手に他の吸血鬼が必ず報復をしました

それは相手が吸血鬼であっても変わりません。むしろ同族殺しは吸血鬼にとって最大の禁忌でした

初め、彼女は妹を憎みました

しかしそれ以上に彼女は妹が愛おしかったのです

世界で吸血鬼は彼女たち二人ぼっちになってしまったというのも大きな原因でしょう

彼女は吸血鬼の掟に逆らいました。妹を殺すことはしなかったのです

しかし吸血鬼としての生き方を教えられている彼女の誇りが妹をそのままにしておくことを許しませんでした

そのため罰を与えなければなりませんでした

そして彼女は妹を地下室に幽閉することにしました

「妹は狂っている」ということにして

幽閉してからしばらくたつと妹は自分の境遇に疑問を持つようになりました

「なんでお姉様は私をこんな所に閉じ込めておくの?」と

彼女は答えます

「あなたが狂っているからよ」と

それだけです

彼女は妹から恨まれました

それは当り前です

狂ってもいないのに狂っていると言って幽閉するのですから

しかし彼女は妹から恨まれることに耐えました

一言、「あなたは両親を壊したから幽閉されているのよ」と言えば恨まれることもなかったでしょう

しかしそんなことを言えば、妹の心は壊れて本当に狂ってしまうかもしれません

そのことを知らせずに妹を地下室から出す事は出来なかったのでしょうか?

彼女の吸血鬼としての誇りを傷つけることになるかもしれませんが、妹を愛しているなら出来たはずです

けれども彼女は妹を愛しているが故に地下室に閉じ込めたままにしました

また妹が壊してしまうことを心配したからです

妹が大切にしているものを壊してしまうかもしれません

だから妹が能力を自制できるようになるまでは「大切なもの」を作れないように外に出す訳にはいきませんでした

それから彼女はずっと妹を幽閉したままにしました

中国風の妖怪を雇った時も

「妹は狂っている」

と言って閉じ込めたままでした

魔女と友人になった時も

「妹は狂っている」

と言って閉じ込めたままでした

そしてその友人には妹が自力で出てしまった時に、屋敷から出ないようにするように頼みました

その魔女は天気を操る事など容易いほどの力を持った魔女でした

そして吸血鬼は流れる水を超えることは出来ないのです

人間のヴァンパイアハンターを返り討にして、メイドとして雇った時も

「妹は狂っている」

と言って閉じ込めたままでした

長年妹を閉じ込めていたので、彼女は妹にどう接していいか分からなくなってしまいました

その為幽閉を解くことは彼女には出来なくなってしまいました

地下に閉じ込められたせいで荒んでしまった妹の心を癒す自信は彼女にありませんでした

館が幻想になってしまった時も妹は地下に居ました

彼女が巫女と戦った時も妹は地下に居ました

しかし妹は姉が楽しそうにしているのを聞いて我慢できなくなりました

妹は外に出ようとしますが、魔女がそれを止めました

そして今、妹のもとに一人の人間が向かいました

彼女はあの普通じゃない普通の人間なら妹を外の世界に出してやれるかもしれないと期待して見送りました

 

「やっぱりあんたの話じゃないの」

レミリアの話を聞き終わった霊夢がそう言った

「だから、『とある』吸血鬼姉妹の話って言ってるじゃないの」

とレミリアが少し怒りながら答える

「ふーん、まあいいわ」

「それでその話に続きはないの?」

と霊夢が尋ねると

「この姉妹の物語の未来は私の能力を使っても読めないわ」

とレミリア

「あんたの能力も大したことないわね。姉妹の行く末すらも分からないなんて」

「運命なんてそんなものよ」

と話しているうちに、

「あんたの所の雨が止んだわよ」

「あら、本当ね」

「魔理沙が上手くやったみたいね。あんたの期待通りかしら?」

「あの鼠にしては頑張った方かしらね。あと、別に私はあいつに期待してないわよ」

「はいはい、そうですね」

「全くお話と現実の区別がつかないなんて、人間って使えないわね」

「というかあんた早く帰りなさいよ。もう帰れるでしょ」

「仕方ないわね、お腹も空いたし帰ってあげるわ」

そう言ってレミリアが飛び立とうとした時、

「ちょっと待って」

と霊夢が呼び止めて言った

「あんた…じゃなくてさっきの話の吸血鬼の姉に言いたいことがあるの。495年間離れて二人の間に溝が出来たなら、495年かけてその溝を埋めればいいじゃない。妖怪なんだからそれくらい短いとは言わないけど、長すぎる時間でもないでしょ?どれだけ長い時間離れていたとしても、姉妹はずっと姉妹のままじゃない」

「そうかもしれないわね。あんたみたいなのがそんな優しい言葉を言うなんて、なにかの前触れかしら?まあ、お話の中の姉に代わって言っておくわ、ありがとう」

そういってレミリアは妹が待つ紅魔館に飛び立っていった

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択