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Masked Rider in Nanoha 三十四話 深まる理解 ちらつく不安

MRZさん

誰も死なせないために。その気持ちでなのは達と訓練を行う四人のライダー。
本当ならばその力を人へ向けたくはない。それでもその経験が怪人との戦いで役に立つなら。その想いで彼らは力を振るう。
そしてクロノやユーノ達も六課を支えるべく動いているのだった。

2012-09-16 09:23:29 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3156   閲覧ユーザー数:2975

「じゃ、今日はここまで」

「「「「あ、ありがとうございました……」」」」

 

 早朝の訓練場に響くしっかりとした声と疲れた声。それは、いつもならばなのはとスバル達のもの。だが、今日は違った。その声の主はRXとなのは達隊長陣のものだった。今朝はRXが隊長陣四人を相手に訓練をする事になっていたために。

 その発案者は当然シグナムだ。怪人と戦うためには、それと戦い熟知した相手から実戦的な教えを請うべきだ。そう主張した彼女になのは達も同意したのだ。例えそれがRXと模擬戦をしたいシグナムの欲望から生まれた提案だったと分かっていたとしても。

 

 光太郎はシグナムの考えに理解を示し、初めてなのは達は仮面ライダーとの模擬戦をする事となった。結果としてリミッター状態のなのは達では四人がかりでもRXには勝てない事が分かった。

 なのはの砲撃はロボライダーの装甲で耐え切られ、フェイトの高速移動にはバイオライダーのゲル化で対処され、シグナムの剣技はリボルケインやバイオブレードを以って互角に渡り合い、ヴィータの強固な守りをRXキックは打ち破ったのだから。

 

「……スバルちゃん達、大丈夫?」

「は、はい……」

「何とか……ですけどね」

「つ、強いですね、五代さん」

「色々と姿が変わってびっくりしました……」

「キュクゥ……」

 

 そしてなのは達から離れた場所では同じようにスバル達が揃って疲れ果てていた。隊長陣だけではなくスバル達にも怪人戦を見越した経験を積ませるべきだと光太郎は考え、その相手を任された五代は、クウガとして四人の訓練を行なった。

 本来ならば、彼はクウガの力をスバル達に向けたくはない。だが、怪人と遭遇した際に自分との戦いから学んだ事が役に立つかもしれない。そう思い、五代は今回の事を引き受けた。全ては、四人を死なせないために。

 

 スバル相手にはマイティの格闘能力で渡り合い、ティアナにはペガサスへ変わっての超感覚で幻術を見破り、手にしていたクロスミラージュを片方奪う事でボウガンを作っての精密射撃で戦う。エリオにはタイタンの防御力を活かした肉を斬らせて骨を断つ戦法で彼の欠点である一撃の軽さを突き、キャロにはビルの残骸を利用したドラゴンの跳躍力でフリードへ対抗した。

 

 四つの能力をそれぞれに合わせて使い分け、主にその相性の良いものを基本に戦う。それは、五代が未確認に対してやってきた事の延長だ。相手の得意を上回るかその苦手を突いて立ち向かう。その判断の妙こそが五代の力なのだから。

 

「じゃ、ここまでですね」

「そうだな。いや、それにしても姿がころころと変えられるとかって……アギトって凄いんだなぁ」

「そう言う龍騎もですよ。何もない場所から武器を出せるなんて……」

 

 残るアギトと龍騎はヴァルキリーズを相手に訓練をしていた。流石に十二人を二人で相手するのは大変だったが、それでもドラグレッダーを加え、アギトのフォームチェンジなどを駆使し制限時間を凌ぎ切ったのだ。

 龍騎はサバイブを使わず、アギトもバーニングやトリニティは使わなかった。だが、それでも二人は何とかヴァルキリーズを相手に奮闘した。

 

「……三色の悪夢だったわ」

「まさかベルトから武器とはね。ドクターが聞いたら絶対実現しようとするわ」

「赤い騎士が基本と思っていたが、金色の闘士が基本形とはな。しかも青や赤への変化も一瞬。隙がない」

 

 ウーノはアギトの超変身を、ドゥーエはその際の武器の出し方を、トーレはその変化の光景をそれぞれ思い出していた。その呼吸はやや乱れている。

 前線としてアギト相手に戦ったトーレと最後衛でありながらもモニターでその光景を見ていたウーノとドゥーエ。故にその精神的疲労は強い。

 

「シンちゃんが厄介になったわ。一人だとただの隙だったのに、二人になった途端それをショウ君が補うもんだから」

「ああ、かえって手を出せん。迂闊に手を出せばこちらがやられる」

「ISも二人してほとんど無力化するか対処してくるしね。あたし、何度地面の中で刺されると思ったか……ブルブル」

 

 クアットロは龍騎とアギトの連携を、チンクは直接相対した感想を、セインはIS使用時の事を思い出し語らっていた。彼女達はライダー二人が協力した時の恐ろしさと頼もしさを実感し、どこか複雑な表情で会話を続けた。

 

「兄上はサバイブを使わずとも強いとは知っていたが、ドラグレッダーが協力するとあれ程までに手がつけられないとは……」

「まさか背に乗って、空中戦を限定的とはいえやってのけるとは思いませんでした」

「しかも、攻撃しようとするとあいつが炎吐きやがるし」

 

 セッテは龍騎との戦闘風景を、オットーはそこで彼がやってのけた行動を、ノーヴェはその結果を思い出してそれぞれに苦い顔をしていた。龍騎が見せたドラグレッダーの意外な活用法。その厄介さを再確認するように意見を述べ合いながら彼女達は腕を組むのだった。

 

「真司兄さん、また強くなった気がする」

「あ、それアタシも思ったッス。何て言うか、こっちの動きを予想してる時があるような気がしたッス」

「きっと、私達の行動をある程度記憶しているのでしょう。ここぞという時は大抵対処されましたから」

 

 ディエチは龍騎の様子を、ウェンディはぶつかってみた感想を、ディードはその理由を告げた。龍騎の力量を測り直し、頼もしく思って笑っているのはここぐらいだ。

 

 そんな三箇所の様子を眺め、はやては隣にいるシャマル達へ声を掛けた。自分達も近い内に同じ事をしないといけないかもしれない。そう思ったからだ。実際見た事のあるクウガやアギトはそこまで驚く事は無かったが、RXと龍騎の力は色々と驚きが多かったのもある。

 それはつまり、見知らぬ怪人と戦う時感じるであろう感覚と同じものだ。未知なる力や姿。それを見せられた時、大胆に行くにせよ慎重に行くにせよ対処に困るのは事実なのだから。

 

「……な、シャマル達はどう思った?」

「正直に言えば、味方で良かった。そして、あの力を使うのが翔一さん達で良かった……という所」

「私も同意見です、主。幾多の騎士や魔導師を見てきましたが、あの四人のような力と心の持ち主は中々いないでしょう」

 

 シャマルとザフィーラはやや真剣な表情でそう告げた。ただその能力だけではなくその使い方にまで意識を向けているのは流石歴戦の騎士といえる。仮面ライダーの持つ意味を彼らは改めて考えていたのだ。

 強大な力を持った事に恐れながらも、それを待ちわびる者がいればどんな場所でも飛び込んで行く。牙無き者の牙であり、盾無き者の盾となるその在り方はまさしく守護者。人類を、生命を守るために遣わされし使者といえたのだから。

 

「リインは、純粋に嬉しいです。仮面ライダーが四人もいて、こんなに強いんですから!」

「アタシもリインと同じ気持ち。真司だけじゃなく雄介も翔一も光太郎も頼もしいよな! 特に翔一は真司と同じぐらい強いし!」

「まったく……お前達は気楽だな」

 

 一方、ツヴァイとアギトは素直に四人の強さに喜びを感じていた。唯一の弱点でもある空中への対処も四人のライダーがそれぞれ有している事も知った今、その心に不安は無かったのだから。

 クウガはゴウラムとペガサスボウガンによる射撃。アギトはマシントルネイダーとストームハルバートによる竜巻。龍騎はドラグレッダーにストライクベントによるドラゴンストライク。RXはその驚異的な跳躍力とボルティックシューター。その力を目の当たりにした事で二人は確信したのだ。ライダーは負けないと。

 

 そんな二人の無邪気さにリインは苦笑した。だが、その気持ちは良く分かるからかその声には優しさが混ざっている。ちなみに、アギトが翔一を絶賛するのは言わずとしれた名前のためだ。自分と同じ名前。それ故、アギトは翔一の事も気に入っていたのだから。

 

 そんな意見を聞き、はやてもどこか苦笑しながら頷いた。そして全員を呼び集める。明日の訓練は自分達も含めた大掛かりなものにすると、そう告げるはやてに全員が驚きを浮かべるもすぐに納得した。

 怪人達は最低でも十二体。更にそこへマリアージュが加わればどれ程になるか予想も出来ない。そうなれば、部隊としては後方に控えていなければならないはやてやシャマル達も怪人へ挑まねばならない。その時に備え、戦える力を持つ者は出来うる限り経験を積んでおくべき。そんな考えを誰もが抱いたのだ。

 

 怪人の存在が明らかになった以降、早朝訓練は怪人戦を見越したものへ変わり、夕方の訓練は従来通りの連携や基礎固めのものとなっているのもそういう事だ。なのは達としては両方とも基礎固めにしたいのだが、怪人は魔導師戦とは違う部分が多く自分達だけの教導では補えないと理解しているため、意見役として光太郎に手伝ってもらっていた。

 それと並行する形でAMF対策の訓練も行われている。トイのAMFを無力化する研究はジェイル達によって進められているが、それが実現するのがいつになるか分からないためだ。実際はスバルやヴァルキリーズはAMFを気にせず戦う事が出来る。だが、ティアナ達はそうもいかないために。

 

「……てな訳で、明日はわたしやシャマル達も入れて頼むな、光太郎さん」

「分かった。なら、その前にみんなに守ってもらいたい事がある」

 

 光太郎の言葉に全員が疑問符を浮かべた。そんな事など何かあっただろうかと、そう思ったのだ。それを光太郎は気付いたのだろう。真剣な表情でこう告げたのだ。

 

―――変身した後は、常にライダーとしての名前で呼んで欲しい。俺だけじゃなく五代さん達もだ。

 

 その言葉の意味は五代達にも分からなかった。何故そうしなければならないのか。そんな事を誰もが聞こうとしたが、それに先んじて光太郎がはっきり言い切った。

 

「これは、無関係の人達に俺達がライダーだと知られないためだ。俺達がライダーだと知ると助けた人達へ邪眼の魔の手が及ぶ事もある。人質にされる事や知らず利用されるかもしれない」

「……光太郎さんは、そういう経験が?」

 

 シャマルが聞き辛そうに尋ねた事に光太郎は躊躇いなく頷いた。怪人達はライダーを倒すためならば何でもする。光太郎はそう言ってゴルゴムやクライシスのやってきた事を簡単にだが語った。それを聞き、全員が声を失う。いや、五代だけはそれに頷いていた。

 彼が戦った未確認も自分のゲームを成功させるために恐ろしい事を平気でやってのけたのだ。そう、怪人とは自分の笑顔のためにみんなの笑顔を犠牲にする者だと、五代はそう考えていた。

 

(だから光太郎さんは名前を隠そうとしてるんだ。邪眼がすずかちゃんやアリサちゃん達のような存在を狙わないように)

 

 自分が世話になった少女達を思い出し、五代は拳を握り締める。何も知らず海鳴で暮らす者達はなのは達の関係者だ。つまり、邪眼が六課を狙う限り海鳴の者達へ危険が及ばない事はないだろうと思えたのだ。

 ならば自分達の誰かが傍についてやりたい。だが、下手にライダーが動けばそれを狙った邪眼のせいで危険を招く事にもなりかねない。そう考え、五代はやりきれない気持ちになった。ライダーとしての力を持ちながら守りたい者達を守れない。敵の狙いが分かっていても、事が起きるまで動く事が出来ないのがここまで辛い事だとは思わなかったのだ。

 

 五代がそんなライダーとしてのジレンマを感じている中、翔一と真司は光太郎達歴代ライダーがどんな戦いをしてきたのかを何となくだが察し、改めて自分達との違いとその過酷さを痛感していた。

 

(アンノウン達もアギトを狙ってたけど、闇雲に人を巻き込まなかった。でも、怪人は違う。犠牲を出す事を躊躇わないんだっ!)

(ミラーモンスター達は、あくまで生きるために人を襲ってた。怪人は、ライダーを倒すためだけに平気で人を襲うのかよっ!)

 

 互いに戦っていた相手との違いを思い、同時に怪人への怒りを燃やす。罪もない人達を平気で踏み躙り、犠牲にする怪人。仮面ライダー達が戦い倒してきた理由を感じ取り、二人は誓う。自分達も仮面ライダーとして邪眼とその怪人達を絶対に打ち倒してみせると。

 

「……そか。分かりました。なら、今後変身後はクウガ、アギト、龍騎、RXで統一します」

 

 はやてがそう告げ、確認を取るように全員へ視線を送る。それになのは達も頷いた事でこの話は終わりとなった。そして明日の模擬戦の事を話し合う事になり、光太郎になのは達隊長陣やウーノが中心となって意見を出し合う。

 今日のように分かれて対戦相手のライダーをローテーションさせるのがいいとなのはとフェイトが言えば、ウーノはチーム分けを変えてそれぞれの連携を高めるべきだと意見する。はやてはそれに賛成をするもスバル達四人のチームは連携だけで言えばヴァルキリーズよりも劣るため、それをやや懸念しせめてスバル達は固定にしたいと告げた。

 

 だが、光太郎はそんな四人の意見を聞いてどこか意を決したように告げた。怪人戦を念頭に置いただけでなく連携なども磨く事が出来る方法。それを考えて。

 

「それらもいいけど、明日はヴィータちゃんを抜いたスターズと五代さん、同じくシグナムさんを抜いたライトニングと俺、はやてちゃん達八神家と翔一君、ヴァルキリーズと真司君で分かれての四つ巴の戦いはどうかな」

 

 その提案にその場にいた者達が揃って驚いた。それは、つまり敵対する相手が三つもいるという状況。更に、それぞれにライダーが必ず一人いる。だが、そこまで考えて誰もか気付いた。光太郎が意識した狙いに。

 

「複数の怪人を相手取る事になった時のため、ね」

 

 ウーノがそう言うと、光太郎は小さく頷いた。チーム単位とは言え、異なる相手と同時に戦う事になる。数の上では有利なヴァルキリーズでも、もし同時に三方から攻撃されれば苦戦は必死。

 そう、これは集団戦の経験と同時に数で勝る相手にどう戦うのか。また、力で及ばぬ相手にどう立ち向かうのかを学ぶための意見だと誰もが理解した。

 

「なら、とりあえず光太郎さんの意見を基本にしよか。細かい部分はまた今夜わたし達代表で決めるとして、この場はこれで解散や」

 

 はやての言葉で周囲が一斉に動き出す。スバルはノーヴェやウェンディと楽しげにライダー達の能力について話し、ティアナはクアットロと今回の訓練について話し合いながら互いに四人のライダーを支援するにはどうするべきかを考えていた。

 エリオはドゥーエに絡まれるものの、それをウーノが嗜める。エリオはそんな彼女に感謝を述べると同時に、気になっていた龍騎の変身方法を尋ね出す。キャロは、セインとセッテにクウガのフォームチェンジの種類を教え、更にクウガがやってのけたデバイスの変化を不思議そうに伝えていた。

 

 なのはとフェイトはトーレへRXの使った高速戦闘への対処を伝え、苦笑しながらもその有効性に納得し合って援護と連携方法を考案すべく意見を出し合う。

 シグナムはディードへクウガとアギトだけではなくRXも剣を使う事を伝えていた。それにディードは驚きを見せ、ベルトから出したのかと尋ねる。アギトと同じ原理ではと思ったのだろう。それにシグナムが頷き、そこで二人はRXとアギトの共通点に気付いて不思議な印象を抱いた。

 

 ヴィータはディエチへRXの能力を簡単に伝え、その凄さと頼もしさに笑みを見せていた。ディエチはその内容に呆れるが、それでも話に聞くRXなら有り得るのだろうと思った。何せ、どんな傷も太陽の光があれば治してしまうと聞いているのだ。

 

 はやてはアギトへ明日の訓練の際、自分達の味方として参加して欲しいと頼んでいた。理由は、真司達の人数が多いので少しでも戦力差を埋めるためだ。シグナムとの相性が良さそうだと真司がはやてに告げていたため、一度彼女とユニゾンをしてみて欲しいと考えたのもある。

 それにアギトは少し戸惑いを感じるも、はやてがそれに対して自身の考えを伝えた。もしシグナムとも高いシンクロでユニゾン出来るのなら、戦力が強化されるだけではなく戦術も増える事になると。アギトはそれに理解を示し、試しにやってみると返した。

 

「何か、もうみんな馴染んだなぁ……」

「お前が言うな」

 

 そんな周囲の光景を眺め、真司が嬉しそうに呟くとチンクが軽く呆れながらそう返す。六課に一番最初に馴染んだ真司。そんな彼が意外そうに告げる事ではないと思ったのだ。

 チンクの言葉に真司がやや苦笑気味に視線を動かす。そこではオットーがザフィーラとシャマルから後方支援の助言を受けていた。指令系統の重要性と故の欠点を教えられているのだろう。しきりに感心したように頷いていた。

 

「でも、ホント昔から居たみたいな感じだよね」

「ですね。リインもそんな気がするですよ」

 

 五代の言葉にツヴァイはそう頷くように答え、笑みを見せた。それに翔一とリインも笑顔を見せる。同じ事を二人も感じていたからだ。たった数日。それで真司達は六課に凄まじい速度で馴染んでいた。

 食堂にいる真司達三人は当然ながら課員達に親しみを持たれていたし、整備員達と関わるノーヴェ達はそこからの繋がりで徐々に人気を得ていた。ウーノは社交性の高いシャーリーと仲良くなった事で彼女を通して友好を深めていたし、ドゥーエはエリオやキャロの面倒を見るだけではなく他の雑務にも手を貸す事で少しずつではあるが課員達からも頼られるようになっていた。

 

 好戦的なトーレとセッテは、同じような性格のシグナムと良く手合わせをする事になったためか交替部隊の者達と食事を共にしたりしていたし、クアットロ達はグリフィスやはやての手伝いとしてロングアーチで働いているためにアルト達と仲を深め合っていた。

 アギトはツヴァイと行動を共にするようになり、多少言い争う事もあるがそれは誰が見ても微笑ましいもの。それもあって課員達の癒しとなっていた。唯一ジェイルだけは未だに六課に馴染み切ってはいないが、広域次元犯罪者という偏見の目で見られる事は減っていた。

 

 食堂での真司達との会話や仕事をしているシャーリーの証言などから、もう悪人ではなくなっているという事が周囲にも理解され始めたのだ。

 

 誰もがツヴァイの言葉に笑みを浮かべるそんな穏やかな雰囲気の中、翔一がいつもの明るい表情で告げた。

 

「早く邪眼を倒して、ライダーが必要ない世界になって欲しいですね」

 

 その言葉に五代達ライダーとスバル達にヴァルキリーズは頷いた。ツヴァイやアギトも同様に。だが、なのは達隊長陣と八神家の者達はどこか素直に頷けない。それもそのはず。彼らは五代達が邪眼を倒せば元の世界に帰ってしまうと知っているのだ。

 故にその心境は複雑。邪眼は倒したい。だが、五代達とは別れたくない。矛盾しているのは分かっている。それでも、なのは達はこう願うのだ。邪眼を倒した後も五代達と過ごしたいと。彼らは知っている。五代達にはそれぞれの世界にその帰りを待っている者達がいる事を。

 

 だから、願う。出来るのなら、五代達の世界との行き来が可能になるようにと。今のなのはにとっての希望は恋人のユーノが無限書庫で検索してくれている事と、ジェイルの研究している並行世界への行き来だ。

 

(ユーノ君がせめて五代さん達の世界への連絡方法とか見つけてくれれば……。それに、ジェイルさんの研究次第じゃ……)

 

 フェイトやはやてにはまだ教えていないが、なのははジェイルと一度だけ二人だけで話した事がある。それは、ジェイル達が来て翌日の夜。いつものように訓練のプログラムを組み上げ、自分も軽く体を動かしておこうとした時の事だ。

 そこを散歩していたジェイルが通りかかったのだ。そして、なのはの自主訓練を見学し感心したのか拍手を送ったため、それに彼女が気付いたという訳だった。一人で犯罪者と話すなど、本当ならば有り得ない事。しかし、なのはにとってジェイルは犯罪者でありながら共にライダーを支える者ともいえる。

 

 だから、なのはは聞いてみたのだ。邪眼を倒したら真司も五代達と同じで元の世界に戻されるかもしれない。それでもいいのかと。それにジェイルはやや面食らったようだったが、どこか笑みを浮かべながらこう言った。

 

―――もし仮にそうなっても、私は必ず真司のいる世界へ行ってみせるよ。

 

 その言葉があまりにも自然すぎて、なのはは言葉を返す事が出来なかった。行けないとか行けるようにしてみせるではなく行ってみせる。それは、自分が真司のいる世界へ行ける事をまったく疑っていない証拠。

 声を失ったようななのはへ、ジェイルは更にこう告げた。諦めるなんて言葉は、今も昔も自分の中にはないと。為せば成る。為せねば成らぬ。そう真剣な表情でジェイルは言い切り、なのはへ視線を向けて軽く笑って問いかけた。

 

―――君の世界の諺だったはずだが……違うかい?

 

 それになのはは少し意外に感じながらもそうだと頷いた。ジェイルはそれに頷きを返し、こう告げた。

 

―――私は真司と別れる事を止める事はしない。だが、そのままにはしないさ。どれだけ時間が掛かろうと、また会いに行く。……必ずだ。

 

 それになのははジェイルの想いを見た。犯罪者から一人の人へ戻ったジェイルの心。それを感じ取り、なのははつい漏らしてしまったのだ。自分達の想いを。五代達と別れたままにはなりたくないと考えているのを。

 その話を聞いたジェイルは無言だった。それになのははやや苦笑する。真司との再会を諦めず、今も足掻き続けるジェイルからすれば自分達はどれ程情けないかを理解したのだ。

 

―――でも……強いんですね、ジェイルさんは。私達は、それを諦めちゃってました。……無理だろうって。

―――そんな事はないさ。君達も十分強い。私が受け入れなかった事を受け入れようとした。それもまた強さだよ。

 

 その答えが意外だったため、なのはは目を見開いてジェイルを見る。ジェイルはそんな彼女へ告げたのだ。五代達の世界へも行けるように頑張ってみせようと。それは、自分達の家を取り戻すために力を貸してくれた六課のため。そして、自分と同じようにライダーとの永遠の別れを拒否したいなのは達のために。

 そんなやり取りをしてなのはとジェイルは別れた。それを思い出し、彼女は思う。もしかしたら、自分もジェイルも根底にある想いは同じなのではないのかと。自分を変えてくれた存在へ、かけがえのない思い出をくれた存在へ何か恩返しをしたいと。

 

 それが、なのは達は早く帰れるように邪眼と戦う力を支える事で、ジェイルは真司の世界への道を繋ぐ事だったのではないか。

 

「……なんてね」

 

 そう一人呟き、なのはは視線を集団の中心にいる男へ向けた。それは五代。今はツヴァイやアギトへストンプの話を聞かせている。どうも今度の出し物はそれに決まりそうだとなのはは思った。何せ、ウェンディやセインも興味津々と言った表情で聞き入っているのだから。

 

「じゃ、今度はストンプを見せるよ!」

「「「やった(です)っ!」」」

 

 そんななのはの予想通りに五代が笑顔でそう告げると、アギトとツヴァイ、それにセインが嬉しそうに声を上げる。さり気無くノーヴェとスバルも喜んでいて、それをウェンディとティアナが見て苦笑していた。

 一方、フェイトやはやては揃って一度しか見た事のないストンプを思い出していた。様々な物を使って音を出し、それをリズム良く演奏していく。それは一度しか見ていなくても記憶に焼きつく光景。五代が月村家のキッチンで披露したのは実に見事だったのだから。

 

 ちなみにシグナム達は見た事がない。翔一も同様に。五代が二人へストンプを見せたのは、珍しくなのは達三人が揃って休みを取れ、すずか達と泊まりで遊んだ際だったのだから当然だ。

 周囲へ自身の持つ特技を語る五代を見つめ、感心するような呆れるようなため息を吐いてウーノは呟いた。

 

「……二千の技って言うのは本当なのね」

「そうだ。五代は実に様々な特技を持っている。役に立つものから立たないものまでな」

 

 シグナムは苦笑混じりに答えると、自身も初めて聞いた時同じような印象を抱いた事を思い出した。クアットロはその答えに納得するも、次なる疑問を近くにいたシャマルへ尋ねた。

 

「夢を追う男って言うのはどういう意味なの?」

「えっと、いつか世界中のみんなが笑顔になれるようにって。それが五代さんの夢なの」

「それはまた……あの男らしい夢だ」

 

 トーレは五代らしさをそこから感じて笑みを浮かべた。それにクアットロもシャマルも笑みを浮かべる。ならばとオットーが隣を歩いていた翔一へ視線を向けた。

 

「翔一さんの夢は何ですか?」

「俺? 俺は……自分の店を持つ事かな」

「それで店の名がレストランアギトかよ。お前らしいな」

 

 翔一の笑顔の答え。それにヴィータがやっと名前の付け方に納得出来たのか呆れながらも嬉しそうに言葉を返す。こうなると残る二人へも質問が来る事になるのは誰の目にも明らかだった。ザフィーラはそんな周囲を代表するかのように口を開く。

 

「城戸、お前は何だ?」

「俺の夢……とりあえずはここでの戦いを止める事かな?」

「ぶれないですね、真司さんは」

「それが真司らしさでもあるからな」

 

 真司は自分に問いかけるように答え、それを聞いてフェイトとチンクがそう笑顔で言い合う。こうして最後となるのはやはりこの男だった。仮面ライダーを自ら名乗った彼へディエチが問いかける。

 

「光太郎さんは?」

「あ、僕も聞きたいです」

「私も」

 

 エリオとキャロもそれに興味があるのか視線を向ける。光太郎はそれに小さく笑うが、噛み締めるようにこう言った。

 

「人と自然が共存する世界だよ。いつか……きっといつか、人は本当の平和の意味に気付いてくれる。それまで、俺は平和を阻む全てと戦う。仮面ライダーとして、南光太郎として」

 

 その決意は、五代とどこか近いものがあった。五代の想いが希望なら、光太郎の想いは願望だ。みんながいつか笑顔になると信じる五代。きっと平和になると信じる光太郎。神秘の輝石を持つ二人のライダーは、共に人間を心から信じていた。

 いや、その可能性を信じているのだ。少しでも昨日より今日を、今日より明日を良くしてくれる。そう願うから彼らは、仮面ライダーは人を守り続けるのだ。例え未来を変えられないとしても、今を救えばその可能性はゼロではないと。

 

「……ティア」

「何よ?」

 

 誰もが光太郎の遥かな夢と決意に眩しさを感じている中、スバルはティアナへ声を掛けた。

 

「私も戦うよ。局員としてだけじゃない。スバル・ナカジマとして、平和のために」

「……ったく、すぐに影響受けて。はいはい、仕方ないからアタシはティアナ・ランスターとしてそれに付き合ってあげるわ」

「あらあら、ティアナは相変わらず素直じゃないわね。でも、私そういうの嫌いじゃないわ」

 

 そんな二人の会話を聞いてドゥーエが笑みを浮かべて告げた言葉にティアナはやや慌てスバルは苦笑。ドゥーエとしてはティアナの態度がどこかクアットロを思わせる故に、つい微笑ましく思ってしまうのだ。

 周囲もそんな二人に笑みを浮かべている。それに気付いて余計ティアナが恥ずかしくなったのか早足で歩き出した。その後を追うようにスバルも速度を速める。そんな二人を見たノーヴェは悪戯めいた顔をしてその背中を追う。

 

「おい、アタシも協力してやるよ」

「え? ノーヴェも?」

「ああ。何せスバルだけじゃティアナの負担にしかならねえだろうからな」

「む、そんな事言うんだ。ノーヴェは私の事言えないと思うんだけど?」

「だからアタシがいるんスよ。これで大丈夫ッス」

 

 スバルがノーヴェの言葉に振り向き速度を落として会話を始めると、そこへ見計らったかのようにウェンディが顔を出す。ティアナはそんなやり取りが聞こえていたのか、その場で振り返ると視線で問いかけていた。どういうつもりだと。

 それにノーヴェとウェンディが二人が自分達と似てるからだと揃って告げる。その答えにスバルとティアナは一瞬茫然とするも、たしかにそうかもと感じて納得。そしてティアナはウェンディの存在に感謝するようにサムズアップを送り、彼女もそれを返す。

 

 スバルとノーヴェは揃ってその光景に不満を抱くも口には出さず。そんな様子に誰もが笑った。その笑い声はやがて全員のものとなり、ミッドの空へ響くのだった。

 

 

 ベルカ自治区にある聖王教会。その一室であるカリムの執務室では、クロノとロッサが彼女と三人である事について話し合っていた。はやてから報告のあった予言の龍騎士。龍騎の事に関連する諸々だ。神と思わしき相手と翔一が戦い、これに勝利した事などもそれには含まれていた。

 無論、それをカリムとロッサはその部分を信じる事が出来なかった。だがクロノは違う。クウガとアギトを実際その目で見、邪眼と戦ったためにその話を信じる事が出来たのだ。それを彼は二人へ告げる。神であろう相手にアギトが勝利した事を信じると。

 

「では、はやての話は事実だと?」

「ええ。貴女とロッサは知らないでしょうが、仮面ライダーの生き方は僕ら局員が……いや、人が目指す理想そのものです。例え神であろうと、それが生命を滅ぼし害を為すのなら彼らは立ち向かい、勝利してみせるでしょう」

 

 クロノはそう断言した。その一切の迷いも躊躇いもない声に二人は互いの顔を見合わせる。クロノは嘘や偽りを言う者ではない。そう知っているからこそ、カリムもロッサもその報告を信じる事にした。

 彼らは何もはやての報告をまったく信じていなかった訳ではない。だが、全てを信じる事は出来なかったのだ。特に、その神と思わしき相手と戦ったなどは。

 

「……分かりました。でも、まさか翔一さんがそんな凄い人だったなんて……」

「気持ちは分かるよカリム。僕だって同じさ。どこからどう見ても、お人好しの天然さんだったしね」

 

 二人は翔一との出会いを思い返し、そう苦笑しながら言った。そう、あれは今から三年前の事だ。はやてが紹介したい人がいると言ってカリム達の前に連れて来た男。それが翔一だった。そして、はやてはカリム達へ告げた。翔一こそ仮面の戦士の一人なのだと。

 その証拠とばかりに翔一は目の前で変身してみせた。その異形を見たカリム達は驚きを見せたが不思議と恐怖は感じなかった。シャッハもそれは同じだったらしく、珍しく身構える事もせずにアギトをまじまじと見つめていたのだから。

 

 カリム達が見つめる中、はやてはこう告げた。翔一がいたからこそ今の自分達があると。そして、これから起きるであろう事件にも翔一が力を貸してくれるから。そう笑顔で告げるはやてを見てカリム達は思わず苦笑してしまう事となった。

 何故なら、隣のアギトが驚いたように反応し聞いてないと言い出したのだ。そこから二人の話が始まり、カリム達はそのやり取りを聞きながら笑いを堪える事が出来なかった。少女と異形の存在が至って平然と会話する光景。それも、こんな会話をしていたのだから。

 

―――何や。翔にぃは人助けしてくれんのか?

―――いや、そうじゃなくて、どうして言ってくれなかったの?

―――言わんでも頷いてくれる思った。

―――まぁ、そうだけど……

―――ならええな!

―――え? うん。

 

 その光景を思い出し、カリムとロッサは揃って笑う。そう、あれだけで分かったのだ。例え姿形が変化しようともアギトは翔一なのだと。だが、カリムは仮面ライダーを知りながらもはやて程の信頼感は持たなかった。故に、あの予言に不安を抱いていたのだから。

 しかし、今回の話を聞いてカリムははやての不安の無さに理解が出来た。神と戦い勝利してみせた仮面ライダー。その力を知っていたからだろうと。本当はそうではないのだが、カリムがそれを知る事は出来ない。

 

「それにしてもジェイル・スカリエッティと協力する事になるなんて。改心したとありますが……」

「確かに信じられない話でしょうね。しかし、彼も仮面ライダーといたとの事ですからきっとその影響を受けたのでしょう」

 

 カリムの言葉にクロノは頷き、五代や翔一を思い出してそう結論付けた。何せ復讐を考えていたリーゼ姉妹さえ変えてしまった二人だ。きっと、そのジェイルといたライダーも同様の影響力を持っていたのだろう。そうクロノは考えていた。

 ロッサはそんなクロノの考えが分かったのか苦笑して頷いた。カリムはどこか楽しそうに微笑んでいる。そう、二人はクロノやはやてを見てその言葉に説得力があると思ったのだ。

 

「クロノ君もはやてもその一人だもんね」

「確か……こう、でしたか?」

 

 二人がクロノへ見せたのはサムズアップ。今や五代と関わった者達共通の仕草だ。いや、それだけではない。なのはなど影響を受けた者達が静かにではあるが管理局に浸透させていたのだ。そのためか、それは五代を知らぬ者達にはなのは達の代名詞にもなりつつあった。

 

「そんなに良くやるか?」

「うん」

「ええ」

「……そうか」

 

 二人の笑顔の即答にクロノはやや苦笑混じりに答えた。あの邪眼との戦いが終わった後、クロノは五代と翔一のようなあり方に憧れた。それは力を欲するのではなく、いつでも誰かのために戦おうとする姿勢だった。

 彼も元々そういう事を目指していた。だが、具体的な目標を得たクロノは以前にも増して執務官として職務に励んだ。犯罪者であろうと、反省を示し更生しようとする者は心から世話を焼き、例え上司であろうと差別や偏見を持つ者には断固として立ち向かった。

 

 いつか二人と再会出来た時、胸を張って会えるようにと考えて。その甲斐あってか五代とは結婚式で再会が叶い、翔一とは期せずして再会した。その時、クロノは二人の凄さが改めて分かったのだ。

 二人は時間を超えてしまったにも関らず、自分と再会した時それをもう気にしていなかった。そんな状況にも関らず自然体でいられる二人の姿に改めてクロノが感心したのは言うまでもない。自分も彼らのように、誰に対しても何に対してもそんな心構えでいたいと思ったのだから。

 

「そうそう。確か、近々ホテルアグスタでロストロギアオークションが行なわれるのです。それでロッサがスクライア司書長に同行するのだけど、そこへ六課を向かわせる事は出来ないかしら?」

 

 五代達の事を思い出していたクロノへ突然カリムが告げた内容。それに彼は軽い疑問を感じたが、そこに出て来た名前からその理由を悟った。

 

「まぁ、六課は表向き遺失物関係の部署ですから可能ですよ。ただ、公私混同はどうかと……」

「クロノ君は堅いなぁ。これはちゃんとした仕事だよ。それに、邪眼だっけ? それがロストロギアを狙わないとも限らないでしょ。……レリックの事もあるし、ね」

 

 最後のロッサの言葉にクロノは息を呑んだ。確かに予言には旧き結晶という記述がある。それがロストロギアであるレリックである事は報告から間違いない。だが、もしも邪眼が他のロストロギアにも興味を示すとすればアグスタが危ないのだ。

 そこで扱われるロストロギアは危険性がない物だが、邪眼がそんな事を知るはずもない。それに、もしかすると邪眼ならば危険性のないロストロギアさえ劇薬のような物へ変質させる事も出来るかもしれない。そんな風に考え、クロノは用心するに越した事はないと結論付ける。

 

「……そうだな。念のため、六課にはアグスタへ向かってもらおう」

「そうそう。僕も久しぶりにはやてに会いたいしね」

「ロッサ。そういう事は思っても口に出さないの」

 

 カリムの軽く叱るような声にロッサは少しだけおどけてみせた。それに二人は呆れつつも楽しそうに笑みを浮かべる。そして、そのまま三人は今度の事を見据えた話を再開するのだった。

 

 

 同時刻、本局内無限書庫。ユーノはそこでリーゼ姉妹に手伝ってもらいながら従来の仕事と並行してある事を調べていた。それは、幼馴染であるはやてからの依頼。

 

「……聖王のゆりかご。二つの月の魔力を使い、凄まじい力を発揮する浮遊要塞か」

「恐ろしいわね。でも、決して」

「無敵じゃないさ。ライダー達もいるんだしね」

 

 手に取った本を読んでユーノが呟いた言葉。それにアリアとロッテがそう応じた。二人は闇の書事件以後、前線から退き後進の育成へ力を注いでいた。クロノがそれを薦めたためだ。二人には人材育成の方が向いていると言って。

 その裏にはグレアムとの時間を取れるようにという配慮がある事を二人は察していたが、敢えてそれを指摘する事はせずクロノの提案へ乗ったのだ。現在二人は様々な訓練校へ赴き、その指導に当たっている。

 

 ユーノは二人の声に頷き、視線を本へ戻す。はやての依頼であるゆりかごの調査。資料自体は聖王関連ともありかなりの物があったが、ゆりかごはその中でもかなりの要素を占めていた。

 曰く、古代ベルカの戦乱を収めるに至った要素の一つ。聖王さえ乗っていれば、二つの月の魔力を受け無限にも等しい力を発揮する。攻守に渡り優れた力を持つその性能故に、聖王はそこで生まれ死んでいく事を選ぶだろうと言われた程だ。そのような意味合いからゆりかごと名付けられたらしい。

 

 その記述を読み終え、ユーノは静かに息を吐く。詳しい話は聞いていないが、なのはが言うには邪眼はかつて仮面ライダーが倒してきた怪人を創り出し送り込んでくるだろうとの事。それは、五代へ何度も戦いを強いる事になる。

 ユーノはそう考え、何とも言えない気持ちになった。ユーノは五代と接し、共に次元世界の遺跡について話した事もある仲だ。その絆は、下手をすればなのはやすずか以上かもしれない。

 

(五代さんは、戦いを嫌っている。いや、クウガになる事自体もどこかで嫌がってる。でも、きっとクウガだから戦うって……そう、言うんだろうな……あの人は)

 

 ユーノが思い出すのは五代と過ごしたある夜の事。遺跡近くでキャンプを張り、二人で焚き火を囲んでした話。ユーノが五代へ尋ねた事がキッカケで始まった、忘れる事の出来なくなった思い出。

 

―――五代さんの世界の古代人は、どんな暮らしをしてたんです?

 

 考古学者として純粋に気になったからのそれに、五代は桜子から聞いたおぼろげな知識を思い出し何とか話した。農耕民族で争いを好まず平和で穏やかなリント。それが、自分達の先祖に当たる民族と五代が告げると、ユーノはそれに頷いたが同時に疑問も抱いた。ならば、何故クウガのような存在を生み出したのだろうと。

 それに五代は簡単に未確認の話を聞かせた。残虐で残忍な戦闘民族グロンギ。アマダムと同質の鉱石を体内に宿し、その力を使って殺戮を楽しんでいたのだと。それにユーノは納得し、そのための自衛手段としてクウガが誕生したのだと結論付けた。

 

―――と言う事は、その古代のクウガもグロンギと戦ったんですね。

―――うん。それで、未確認を封じ込めたんだって。アマダムの力を使ってね。

 

 五代の答えにユーノは違和感を感じた。何故古代のクウガは封印しか出来なかったのだろうと。どうして現代に甦ったクウガである五代は封印ではなく倒す事が出来たのだろうか。それをユーノが五代へ問いかけると、彼もそんな事は考えてもみなかったと告げ、腕を組んで考え出した。

 焚き火の爆ぜる音だけが周囲に響くそんな静寂。だが、五代がやがて苦い表情を浮かべた。それにユーノは気付き、どうしたのだろうと見つめた。すると、五代はユーノへ自分が思いついた推測を告げた。

 

―――俺がさ……未確認なんかいなくなれって思ったからじゃないかな。

 

 その言葉の意味がユーノには理解出来なかった。五代は、そんな彼へアマダムの説明を始める。持つ者の意思に応え、力を与えるアマダム。故に古代のクウガはグロンギを倒すだけではなく、愛する者達を守りたいと考えた。殺すのではなく護る。それに重きを置いた気持ちだったからグロンギを封じるしかなかったのではないか。

 その推測にユーノは理解を示し、こう補足した。もしかすれば、平和で温厚なリント達の文化には”殺す”という概念自体が無かったのかもしれないと。だから勝利してもグロンギが死ぬのではなく、破壊や殺戮が出来ないようにする事しか出来なかったのではないか。

 

 それに五代は感心したように声を漏らし、何かを考えてそうかもしれないと肯定した。そして桜子とユーノは話が合いそうだと思い、五代は笑顔で彼女の事を話し出す。そこから始まる五代の思い出話。それをユーノは聞き、相槌を打ったり、質問したりとしていたのだが、やがて五代がふと呟いた。

 

―――やっぱり……俺、冒険家でいたいなぁ……

 

 それがユーノにはとても儚く聞こえた。何故ならば、五代はクウガとして戦う宿命を背負ってしまった。仮面ライダーとして人知れず闇と戦う使命を。ユーノはそれを考え、五代の呟きが秘めたものを感じ取ったのだ。

 

―――……戻れますよ、絶対。

 

 だからこそユーノはそう言い切った。それは、五代が”クウガ”ではなく”冒険家”として過ごせるようになると言ったのだ。五代もその言葉の意味を気付き、驚きを見せる。そんな彼へユーノはこう続けた。

 

―――冒険だけする五代さんに……必ず戻れます。クウガとしての寄り道は、きっとここで終わりますから。

 

 その言葉に五代は声を失った。ユーノが言った言葉が、あの吹雪の中での一条の言葉を思い出させたのだ。こんな寄り道はさせたくなかったとの言葉。故に、五代はユーノに一条の面影を重ねた。

 そして、五代はその言葉を噛み締めて笑顔を返した。その笑顔と共にサムズアップを添えて。それにユーノもサムズアップを返す。そんなとある夜の思い出だ。

 

「……スクライア司書長、またロウラン提督から資料請求依頼がきています」

 

 そんな事を思い出していたユーノを女性の声が現実へ引き戻した。その相手へユーノは視線を向ける。そこにいたのはやや鋭い目をした眼鏡の女性。つい最近無限書庫へ配属されたルネッサ・マグナスと言う名の司書だ。

 

「分かった。検索はこちらでやるから後は君に任せていいかな、ルネ」

「はい。では……」

 

 ルネッサはユーノの言葉に頷き、検索魔法で導き出された棚へ向かって書庫内を移動していく。それを見つめ、リーゼ姉妹が感心したように呟いた。

 

「彼女、もうそこまで出来るのね」

「大したもんだ」

「まあね。事務能力も高いし、実際結構助かってるよ」

 

 ユーノがそう言うとリーゼ姉妹はレティに感謝しないといけないと言って苦笑する。ユーノもその表情を見て同じように苦笑。何せ、その見返りとして無限書庫への資料請求依頼が増えているからだ。リーゼ姉妹はそれを知らないが、その性格は知っているため予想出来たのだろう。

 その後も三人はゆりかごについて調べると同時に並行世界関連の資料も探す。そして近く行なわれるロストロギアオークションの話がここでもされる。そこへ出席する事になっているユーノへ軽いからかいをしつつ、三人は時間を過ごすのだった。

 

 

 地上本部にあるレジアスの執務室。そこでオーリスは機動六課からの報告に頭を痛めていた。怪人を自称する謎の生命体が隊舎を襲撃してきた。それを裏付ける映像と証言を前にしてだ。

 彼女はレジアスに報告する前に自分が軽く目を通そうと思ったのだが、見なければ良かったと思ったぐらいに後悔していた。

 

「……何なのよ、これは。一体、何だって言うのよっ!?」

 

 化物としか表現出来ない怪人の姿。それと戦う異形の存在、仮面ライダー。しかも報告では、その化物は量産可能である可能性も示唆されていれば尚の事。これで不安にならない方がおかしいと思えるような内容がその報告書には記載されていたのだ。

 

「……六課は、仮面ライダーはこんなのと戦うというの?」

 

 レジアスが唱える質量兵器の解禁。それをしたとしてもこれには勝てないとオーリスは思った。中途半端な魔法も簡単な質量兵器も意味を成さない。そんな印象を与えるには、怪人の見た目と能力は十分だった。

 精鋭揃いで陸への侵略者と揶揄される六課でさえ、仮面ライダーがいなければ倒せなかっただろうと書かれていれば余計だろう。実際見た映像もそれを裏付けていた。怪人達へとどめを刺したのはいずれも仮面ライダーだったのだから。

 

 実は、オーリスはグレアムがレジアスへライダーの話をした後、独自でライダーの事を調べていた。そこで分かった事は彼女が思っていたよりもライダー達と遭遇した事のある者は少なくなく、いずれもその遭遇時に同じ感想を抱いた事。

 

―――不思議と安心感を覚えた。

 

 みな、恐怖よりも頼もしさを感じていたのだ。その外見よりもその行動へ意識を向けて。そして、もう一つ分かったのは彼らはミッドでしか目撃されていないという事。三人が三人とも独自のバイクを駆り、颯爽と現れていたのだ。

 まるで、声にならない叫びに導かれるように。罪無き命を、失われそうな未来を救わんとするかの如く。市民だけではなく局員達にまでその活躍と存在は広まっていて、風にその名を呼べばやってくると言った都市伝説さえ生まれる程に。

 

「……父さん、もしかしたら今は、陸だの海だの言ってる場合じゃないかもしれないわ」

 

 今後起きるであろう怪人達の動きを予測したものを見つめ、オーリスは誰にでもなく呟いた。管理局が一丸となって事に当たらなければいけない。そんな風に感じさせる内容がそこにはあったのだから。

 それは、はやてが光太郎から教えてもらった歴代の組織が目指したもの。あくまでも、ライダーから聞いた情報として書かれたある言葉。だが、それは管理局にとって見逃す事の出来ない言葉。

 

 怪人達の目的は、世界征服である……

 

 

 

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アグスタ話ですが、既にティアナの無茶はなくイベントとしてはなのは達のドレスぐらいです。……原作準拠なら、ですが。

 

それと、今後も今回に多少出ているような形で空白期にあった過去話を描きます。海鳴に行った際は、クウガとイレイン戦を書こうかなと考えています。


 
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