扉に手を着いた瞬間、体を不思議な浮遊感を感じ、ふっとした次の瞬間にはその浮遊感は消えていた。
「え?」
景色が変わらない、失敗したのかな。
「葉野さーん、葉野ひろしさーん」
「ん?」
声をした後ろに振り向いてみる。さっきと変わらない市役所のような様は変わらないように見える。
右側の窓口から女性がこちらに手を振っているのが見える。
「住民票をお渡ししますのでこちらにお願いしまーす」
「はあ・・・」
移動、したのだろうか?
とりあえず窓口の前に移動する。
「はい、ではこちらが住民票に、こちらが財産票になります。服、日用品などは付属している用紙に書いてこちらにもって来てください、その際に配給します。現金は貯金、持ち帰り、また持ち帰る場合、現金のままかカードにするかを決めてください」
45万ぐらいか・・・ていうか、円なんだな。
「2万円を現金を持ち帰りで、残りを貯金でお願いします」
「分かりました。それでは2万円になります」
「どうも」
これでしばらくは金に困らないだろう。
「何かお困りの際はまたお越しください。それでは楽しい幽霊ライフを」
とりあえず一応の事は終わったみたいなので外に出た。
「もう驚かないさ・・・」
あきれているだけさ・・・
何も変わらなかった。生前すんでいたところは都会というほど都会ではなく、ド田舎というほど田舎ではなかったのだがここはそんな感じだった。
ミーンミーンミンミン
「へえ、地獄にもセミがいるんだ」
ミンミンンンンンツァ!!・・・ふう、ミーンミンミ・・・
「!?」
やはりどこかずれてるんだな。
それから先ほど渡された地図を頼りに新居へと向かった。途中、ガラゴロとなにやら木製の歯車が回るような音のなる車や、帰宅途中らしいフード(花塚と同じの)をかぶった死神らしき少女を見かけた。
「さて、ここが新しい住まいか・・・」
見た目、一見ぼろそうな木造アパートに見えるが、良く見てみると黒く見えるのは年季が入っているためだが木はとても頑丈そうに見える。部屋は全部で6部屋、2階建てで上に3部屋、下に3部屋と、よくみるタイプだ。
「それじゃ疲れたし中に入って今日は寝ますか」
金が入っている茶封筒の中に入っていた鍵で開け、近くにあった照明のスイッチで電気をつけた。
「ただいまーっと、そうだ、誰もいないんだっけ」
そんな一人ボケをしながら、玄関から部屋に上がり、他の部屋を見て回る。
「なかなかいい部屋だよな、障子のとか窓のたてつけも悪くないし、部屋もきれいだし、なによりエアコンが効いて―――え?」
早速ですか。
周りを見渡してみると部屋の隅にエアコンが付いていて、そこから冷気をはきだしているようだった。
「悪いものではないって聞いたけど、エアコンを付けっぱなしにしておくのはやめて欲しいな」
他の部屋もその後見回ったが何もいなかった。
「まあいいや、そのうち調べてみよう。それより寝ないと明日も忙しそうだし」
正体が分からない同居人とともに俺の楽しい幽霊ライフはこうして始まった。
「どうしよう、出るタイミング見失った・・・」
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しばらくです。
一応目指しているのは日常モノです。
それでは今回もよろしくお願いします。