アンジュさんに言われたとおり、アリーナ内のカメラを破壊した
これで千冬姉たちに見られることはないだろう。いつの間にか客席にも防壁が張られたから大丈夫だ
モンスターの発生が仮に客席側で起きていたとしても簪さんとのほほんさんがいるから大丈夫だと信じている
それよりも……目の前の侵入者と魔物たちを何とかしないと……しかし、あいつ……
「なあ、鈴。あいつ、人なのか?」
「バカ言わないでよ。ISは人が乗らないと動かないわよ……って言いたいところだけど、確かにあいつから人の気配がしないわね」
「恐らく無人機ってところじゃないかしら?」
「でもさ、無人機だからってなんか変わるの?」
ジュディスさんもマオも姿を現して魔物と戦ってくれている。数が多いため、本気で戦ってくれている。それでもまだまだ余裕がありそうだけど
そう、もし無人機なら……勝算がある
「俺の今出せる全力をぶつけることができる。本来、これを人相手に使ったらISに乗っていても死にかねないらしい。だからこそ、相手が無人機なら使える」
「わかったわ、じゃあ援護してあげるから当てなさいよ」
当たり前だ! という意味で頷く
そのまま攻めようと思った。その時
「一夏!!」
急に声が響いた。ってこの声は!
その声の出所を見てみると、アリーナの中継室に箒の姿があった。あいつ、一体何を!?
「男なら……そのくらいの敵に勝てなくてどうする!!」
まずい! 箒の叫び声に反応したのかあの侵入者が箒の所に向かう
全ての魔物を倒したジュディスさんが阻止しようとした。しかし、突然現れた何者かがジュディスさんとマオの動きを止めた
そいつは青い鎧を着た男性だった。しかし普通の鎧とは違い腕のようなものがあり、まるで彼には4本の腕があるように見えた
「貴様たちの相手は私だ。世界樹大戦の猛者よ」
ジュディスさんには頼れなくなった。一か八か……
まずは闘気を解放する。そして以前、山田先生から教えてもらった瞬時加速を使って……
「はぁぁぁ……鈴、今だ! 衝撃砲で俺を押せ!」
「あんた!? いつの間にそんな技を!? まあいいわ、死ぬんじゃないわよ!」
鈴の衝撃砲も利用して一気に加速
無人機だと思われる機体を全力で切り裂く
しかし、一撃で決着がつかない。その時、俺には何かが見えた
どうしてだかよくわからない、だがあの部分を切れば……もう一度、切り裂く
その瞬間、無人機は一気に崩れ落ちた。一体何が?
「ほう、貴様のパートナーは面白いものを持っているな。だが、甘い!」
振り返ると、無人機はまだ動いていた。しま……
気が付いた時には放たれたレーザーが俺の体を貫いた。くそ、ここで倒れるわけには……
「光よ! フォトン!」
そう思った時、いきなり無人機が光の爆発の攻撃を喰らってそのまま壊れた
箒の後ろにアンジュさんがいた。良かった……少し疲れた……
目を開けると白い天井が見えた。保健室……かな
「気が付いたようね。良かったわ」
「ジュディスさん……」
話そうと思った時、千冬姉が部屋に入ってきた。それに合わせて姿を見せていたジュディスさんはブローチの力で姿を見えなくした
「目を覚ましたか。全身に軽い打撲だ。死にはしないが、痛みはきついだろう」
適当に相槌を打つしかなかった。確かに痛い
「そもそも、衝撃砲のダメージを受けたうえ、あの襲撃者の攻撃をもらったからな。まあ、生きていて良かった。家族に死なれては気分が悪いからな」
どうやら心配はされてないように感じる
「さて、悪いが私はやることがあるから出ていく。まあ今日くらいゆっくり休んでおけ」
千冬姉はそのまま部屋を出て行った。それと入れ替わるように部屋に誰かがやってきた
だけど眠い……来てもらったところ悪いが、俺は眠ることにした
「おい、一夏……眠っているのか。まあ、いい」
そんな感じのことが聞こえた。すぐにドアの閉じる音がした
しばらく眠っていたのだろうか、窓の外は真っ暗になっていた
そして、目の前には鈴の顔があった
「何やっているんだ?」
「え、ちょっと! 何目を覚ましているのよ!?」
「鈴、それはちょっとひどいんじゃないの?」
マオの言うとおりだと思う。起きた人間にその言葉はないと思う
慌てて鈴は離れた。ジュディスさん、何で笑っているんだろう?
そうだ、気になっていたことがあったんだ
「なあ、試合はどうなったんだ? それと、侵入してきたあいつは一体?」
「一度に聞かないでよ。まず試合は中止、さすがにあんなことがあったから。次に侵入者って無人機の方……じゃないわよね? あいつは無人機が機能を停止した途端に姿を消したわ」
「彼、どうやら私達が無人機と戦うのを防いでいたみたい」
「間違いないね、それにしてもあの人、強かったね。いくら本気じゃないからって1対2で止められるとは思ってなかったよ」
マオの言葉にジュディスさんは頷いていた
正直、信じられない。ジュディスさんの実力は何となくだけど知っている。そのジュディスさんが強いという敵……正直俺や鈴で勝てるのか?
「そうそう、あの男だけどね、一夏が試験を受けた日に感じた気配と同じだったわ。つまり、あなたを狙っていると考えてもいいかもね」
……一体何が目的なんだろうか? でも考えてもわからないと思う
少し体を動かしてみると何とか起き上がれそうだ。これなら部屋に戻っても大丈夫そうだ
「そう言えばさ、こっちに帰ってきたってことは店をまたやるのか?」
俺の質問に鈴は少し暗い表情になった……まずいことを聞いた?
「両親、離婚したんだ。それが原因で中国に帰ることになったの」
「……ごめん」
「いいわよ。もう吹っ切れたから。一夏……やっぱり何でもない」
「何だよ、それ」
気になるところで止めないでほしい
「あんたに昔からしたい話があったの。けど、世界樹大戦に参加しているから今はやめとく、そうね。もっと自分に自信がついたら話すわ。部屋のことはもういいから、ゆっくり休んでおきなさいよ」
そのまま鈴は保健室を出て行った。一体どうしたんだろうか?
気になりつつもベッドから出て寮の部屋に帰る準備をした
ジュディスさんと話しながら歩いていたため、気が付いたら自分の部屋についていた
ノックをすると中から箒が出てきてくれた
「随分と遅かったな。私が空腹で待っているというのに」
……これが怪我人に対して言う言葉か? 空腹?
「じゃあさっさと学食に行くか? そろそろしまっちゃう時間だし」
そう思ったが、何やら部屋の中からいいにおいがする……もしかして箒が何か作ったのか?
テーブルの上を見てみると、チャーハンが置いてあった
「箒が作ったのか? 珍しいな、和食を作ると思っていたから」
「り、料理に国境はないからな。それよりも早く手を洗ってうがいをしろ。食べるのはそれからだ」
こういう所は真面目だよな……まあ、その通りだから従うけど
すぐに準備を済ませ、食べ始めた。いただきます
……あれ? 味がしない
「なあ、箒……調味料でも入れ忘れたのか? 全く味がしないんだが?」
「そ、そんな馬鹿な!? ちょっと貸してみろ!」
俺の手からレンゲをぶんどって食べた。どうやら自覚したみたいだ
でもせっかく出されたんだからしっかりと食べないと
そのまま全部を食べ終える。ごちそうさま
「た、たまたま今回忘れていただけだ。いつもならば成功する」
たまたま調味料を入れ忘れるってことあり得るのか?
(ないわね)
ジュディスさんの言葉を肯定したい。頷いていると突然、ノックの音がした
「織斑君、篠ノ之さん、いますか?」
すぐにドアを開ける。山田先生とアンジュさんだ
もちろん、箒にはアンジュさんの姿は見えていない
「お引越しです」
(真耶、主語を入れなさい)
「あ、ごめんなさい。篠ノ之さんがお引越しです。部屋の調整がついたので申し訳ないのですが、今すぐ引越しをお願いできますか?」
アンジュさんに指摘されながら話してくれた
「え? いますぐですか? 私は……」
「いや、箒も気を使うだろうしいい機会なんじゃないか? 俺なら一人でも大丈夫だから」
そう言った瞬間、何か空気が冷たくなった
俺のことをギロリとにらみ、そのまま引越しを始めた
手伝おうと動こうとした瞬間
「いらん! 私一人で結構だ!!」
怖ぇ……
こういう時は黙っていた方がいいな……
けどそんな箒の態度に対して山田先生は不機嫌になっていた
「篠ノ之さん、少し織斑君に失礼だと思いますよ?」
「な、山田先生?」
山田先生が急に箒に話し始めた
「今日、襲撃者が来た時に篠ノ之さんがやったことで織斑君が傷ついたことを理解していますか? あんなところにいなければ織斑君のけがはもう少し軽いもので済んでいたかもしれません」
「そ、それは……」
「それに、織斑君にお礼を言いましたか? 彼がいなければあなたは怪我どころでは済まなかったと思いますよ?」
「山田先生、いいです。それくらいで」
止めることにした。確かに俺も少し思う所があった。けど何もそこまで……
(一夏君、甘えさせてはダメよ。彼女の無謀な行いであなたが怪我をした。それは事実なのだから)
(アンジュの言うとおりね。彼女にはしっかりと自覚してもらわないといけないと思うわ)
……二人の言葉に何も言えなかった。何か言い返そうと思ったけど何も思いつかない
確かに彼女たちの言うことは正しいのだから
黙っていると箒が俺に向かって頭を下げた
「……すまなかった、それとあの時助けてくれて感謝する」
「ああ、でももうあんなことやるなよ」
それからお互いに黙って作業をしていた。終わるとすぐに部屋を出ようとした箒の足が止まった
山田先生には先に行ってもらったようだが……
「い、一夏! 来月の終わりにやる学年別トーナメントに優勝したら……私と付き合ってもらう!!」
そう言い残して出て行ってしまった
付き合うって……何に?
スキット
襲撃者について
一夏が保健室で眠っている時にジュディスとマオ、アンジュの三人が真耶の近くに行って話していた
千冬と真耶の二人はどうやら今回来た一夏によって破壊された襲撃者の話をしているようだ
「それにしてもあの無人機だっけ? 何だか千冬は知っていそうだね?」
「そうね、どうやら隠していることは事実ね。それよりもアンジュ、生徒や千冬たちには魔物とあの世界樹大戦の参加者は見られていないの?」
「少なくとも千冬とセシリアには知られていないと思うけど、箒のことは分からないわ」
「それにしても箒って何もできないのによくあんなことやったよね?」
「そうね、後で少し言っておいた方がいいかしら? 真耶と相談しておくわ」
「それがよさそうね、恐らくあの子、一夏に対して何も言ってないだろうし」
あの時の対応
生徒会室にいつものメンバーが集まっていて、今日の襲撃事件について話し合っている
「聞いたわよ。簪ちゃんと本音ちゃん、活躍したんですってね」
「すぐにアリーナにいた生徒を避難させたうえで魔物の襲撃に対応できたんですからすごいと思いますよ」
楯無と虚の言葉に照れる簪と本音
「ありがとう……でも、ヒューバートとリオンのおかげ」
「そうだね~私は何もできていないし」
「いえ、そんなことありませんよ。本音が指示したおかげで皆さんが速やかに動けたのですから」
「そうだな、簪もよくやったと思う。僕たちの攻撃にしっかりと合わせていたからな」
謙遜する二人を褒めるヒューバートとリオン
「ほっほっほ、いいですな。若い子たちがこうやって活躍するというのは」
「私も頑張らないと……」
ローエンは微笑ましそうに、メルは自分に気合を入れていた
鈴の決意
一夏と別れた後、鈴とマオは二人で話していた
「良かったの? 確か一夏に告白するんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけどね……」
鈴は静かに目を瞑って自分のことを考える
「お互いに世界樹大戦に参加していることが分かった時にちょっと思ったことがあったんだ。今の一夏とは友達でありライバル、その関係から抜けないんじゃないかなって」
「だから今は友達ってことでいいの。でもそうね……もっと自分に自信がついたら……」
そのまま鈴は黙ってしまった
「ふーん、僕にはよくわからないけど鈴がそう決めたならいいんじゃないのかな?」
(恋愛なんて僕にはわからないしネ)
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視点は一夏で