ティアナが目覚めたのは、リリスモンによる機動六課襲撃からしばらく立ってからだった。
「あ、起きたっキュ。」
ティアナの傍にいたキュートモンは、シャマルを連れて戻ってきた。
「キュートモンの治療術はとても優秀だから体にダメージは無いと思うけど、痛いところとかはある?」
シャマルはティアナに着替えを渡しながら言った。
ティアナは着替えを受け取った後、ふと時計を見て驚いた。午後八時をとっくにこえているのだ。外を見ると、日は落ちて暗くなっている。
「きっと疲れがたまってたんだっキュ、電源を切ったみたいに静かに寝てたっキュ。」
キュートモンは、的確とも微妙ともいえる比喩を言った。
一方、かつてデジタルワールドで行っていた死闘当然の激しい戦いを終えたタイキは、隊舎の屋上で空を見ていた。
「浮かない顔ですね。そんなに心配な事でも?」
すると、メデューサモンが話しかけてきた。
「ああメデューサモン。リリスモンについて考えていたんだ。」
タイキはこう答え、
「今回はリリスモンだったし、途中で援軍が来たからよかったけど。もしこれがタクティモンやダークナイトモン、デスジェネラルのような実力者だったらどうなっていたことか。」
と言った。つまりは、リリスモンが蘇り、こうして自分たちを襲撃したとなると、自分たちがかつて相手した実力派デジモン達と、再び干戈をまじえる事になるのだろうと。この事を危惧しているのだ。
「大丈夫ですよ。そんな奴らを相手にしてきて、結局最後は私たちが勝ってるではありませんか。一度勝ったのならまた勝てます。」
メデューサモンは先ほどの戦いの疲れを感じさせない元気な口調で言った。その後、
「でも、今最も気になるのはそれじゃ無いんでしょう。」
口調を変えてタイキに言った。
「ああ、ティアナの事なんだ。なんだか似てるんだ、お前の前の主人に。」
タイキがメデューサモンにこう言った途端。隊舎のあちこちに警報が鳴り響いた。
「一体なにがあったんだ。」
「困りましたね、みんな先ほど決死の死闘を繰り広げたというのに。」
しばらくすると、ヴァイスが駆け足で屋上にやってきた。タイキが何かあったのかと訊ねると、
「ここの近くの海の上で何十機かのガジェットが現れたんすよ。まあここに居ればいずれみんなやって来ますよ。」
ヴァイスはいそいそとヘリコプターに乗り込みながら言った。
しばらくして、なのは達隊長陣とスバル達フォワード隊もやって来た。新人たちの中にはティアナもいた。
「とりあえず今回は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長で出動するから。みんなはシグナム副隊長と待機していて。」
部隊長との作戦相談で決まった事を簡潔に伝えたなのはは、ティアナを見ると、
「今日はティアナは出動から外れておこうか?」
と言った。
「そうだな、あの大喧噪の中で今の今まで眠り続けられたんだ。今日は万全じゃないだろ。」
ヴィータは、昼間のリリスモンとの激闘の最中、ティアナはずっと起きることが無かった事を思い出して言った。
一方のティアナは、握っていた拳をワナワナ震わせながら。
「言う事聞かないうえに、簡単に敵に操られるような奴は、使えないって事ですか。」
と言った。
「自分で言いながら分からない?まったくその通りだよ。」
なのはがこう言うと、
「訓練はちゃんと受けてますし、現場の命令だってちゃんと聞いてます!!それでも強くなる努力はしちゃいけないんですか!!」
ティアナはなのはに言った。この様子を見ているメデューサモンにしては、どちらかと言えば不愉快な後継だった。
(まったくあいつと同じだ)
こう思った瞬間、メデューサモンはティアナの前に出て、彼女の頬を思いっきり引っ叩いていた。普通の人間が行ったのなら、普通に驚く程度ですんだ一撃だったが、デジモンの力で叩いた為、ティアナの体は遠くのフェンスの近くまで飛んで行った。そして無意識のうちに、
「子供かあんたは!!少し自分の思い通りにならない程度でギャーギャー騒ぎやがって!!そんなに気に入らないきゃ出ていきなさいよ!!」
と、ティアナを怒鳴りつけていた。
「……………」
初めて見たメデューサモンの本気の怒声に、機動六課の面々は勿論の事、何よりクロスハートの面々が驚いた。
しかし、そうしていても仕方ないので。
「ティアナ、何か塞ぎ込んでるみたいだけど、戻ったらゆっくり話そう!」
三人の隊長は出動することにした。なのはは必至にティアナに伝えようとしていたが、
「早く行こうぜ、メデューサモンに怒鳴られるぞ!」
ヴィータに引っ張られてしぶしぶ現場に向かっていった。
その様子を見届けてから、
「……まあ、なんだ、とりあえずロビーに戻るぞ。」
気を取り直したようにシグナムが皆に言った。
「それよりティアナは……無事みたいだな。」
ティアナのふっ飛ばされた方向を見て、ドルルモンは言った。
「まったく、あの子は”アイツ”より少しは利口だと思ったけど。」
メデューサモンがこう言うと、
「メデューサモン、確かに命令を聞くのは大事だし勝手な行動もよくない事を分かってる。でも、強くなりたいならそれ相応の努力をしてもいいと思います!!」
スバルがメデューサモンにこう言った。
「そうね、あなたのいう事に間違えは無い。でも断言してあげる。あの子、今のままじゃどう努力したって強くはならない。」
と、メデューサモンは言い放った。
「ティアナには強くなる要素が欠けている。っていう事だろ。」
メデューサモンにタイキが言った。そして、参考にしてもらうため、かつての自分のライバルについて話した。
青沼キリハ、彼はデジタルワールドに名を轟かせた通称「青の軍」ブルーフレアのジェネラルである。グレイモンを始めとする強力な竜型デジモンを数多く揃え、その力はタイキ達「クロスハート」は勿論、バグラ軍にも匹敵すると言われた勇壮な軍を率いていた。
ある日、キャニオンランドと呼ばれる場所をバグラ軍の魔の手から解放しようとした時の事である。あと一歩の所まで敵のボスを追い詰めたキリハだったが、敵の策略により敵に捕まり、その後共に戦っていたタイキ達と離反し彼らに敵意を示した。
しかし、そんな中での仲間の説得、中でも「デッカードラモン」の決死の説得により、本当に強い者は強い仲間を持つ、という事実に気づくことが出来たことを。
「それじゃあ、本当に強い奴が強い仲間を持つ理由はわかる?」
タイキが話し終えたタイミングを見計らって、メデューサモンは皆に訊いた。声色も普段通りに戻っている。
「………」
皆は考え込んでいた。
「正解はね、言葉通りの意味で強い者は存在しないからよ。」
メデューサモンは皆に言った。
「たとえどんなに強力な戦士でも、必ず何か弱点があるものなの。その弱点を補える者がいることで初めて文字通り強力な戦士になれるの。本当に必要なのは強力な力ではなく、皆と協力すること。」
それを聞きながらシグナムは思った。何の共通点の無い烏合の衆と言っても過言ではないタイキ達が精強な軍として戦える理由はそこにあったのかと、
一方、なのは、フェイト、ヴィータがガジェットと交戦している海上のすぐ近くには、前にホテル・アグスタにやって来た黒いローブの少女、ルーテシアがいた。
「ごきげんよう、ルーテシア。」
するとモニタが開いて、ホテル・アグスタの時にもルーテシアに話を持ってきた男の顔が映し出された。
「ごきげんよう、ドクター。向こうの海でドクターの玩具が飛んでるけど何かあったの?」
と、ルーテシアに訊ねられると、
「残念ながら今日はレリックは関係ないんだ。これから花火が見れることになるからね。」
ドクターと呼ばれた男はこう答えた。そして、
「そうだ、近くに”彼”がいたら、今後は勝手な行動は極力慎んでくれ、と叱っておいてくれないか。」
と、ルーテシアに頼んだ。
「うん、いいよドクター。」
ルーテシアは二つ返事で了承し、モニタを閉じた。
「なにやら海が騒がしいけど、何かあったの。」
すると、ルーテシアの背後に龍を模ったマスクを被った少年が現れた。普通なら不審者扱いされるが、ルーテシアは彼の事を知っているらしく。
「ドクターが、勝手な行動は極力慎んでくれ、と叱っておいてくれだって。」
と言った。
「そうなんだ、それじゃあ甘んじて叱られようかな。」
少年はそう言いながらルーテシアの立っている防波堤の上に腰かけた。
一方、機動六課の隊舎では、ティアナは海を眺めながら考えていた。結局私は兄の汚名を雪いで何をしたいのか、と、
「どうした考え事か?」
ドルルモンが話しかけてきた。
「うん、兄さんの汚名を雪いだ後何をしようかな、って。」
ティアナはこう言うと、
「そういえば、ドルルモンは何をきっかけにタイキ達の仲間になったの?」
しばらく前から気になっていた事を訊いてみた。以前も聞いたがあいまいにしか答えてくれなかったのだ。
「そうだな、あれは……」
ドルルモンは昔を思い出しながら語り始めた、
かつて自分は、先祖代々戦士の一族の元に生を受けた。そこで、常日頃から技を磨き、体を鍛えながら過ごしていた。その時、いつもこう考えた、
なんで自分たちは強くなるんだろう、と、
ある時、里を飛び出した彼は、当時デジタルワールドに覇を唱えようとしていたバグラ軍に入り、所属している三元士の中でも最強と謳われた「タクティモン」の部隊に入った。
そこで彼は一族の元で培った技を使って様々な戦場で大活躍し、あっという間にタクティモンの片腕とまで言われるようになり、「死神の風」の名で恐れられるようになった。
しかしある戦場で、彼は幼い兵士で構成された部隊の指揮をして戦っていた時、突然タクティモンに本陣まで呼び出され、本陣についた途端、40体ものタンクモンが一斉に戦場に対して砲撃を開始し、自分の指揮していた部隊もろとも敵の主力部隊を殲滅した。
作戦的には何も間違えは無かったはずなのだが、なぜか彼には認められない結果になった。
そして後日、違う戦場で同じように犠牲になることになった部隊を独断で脱出させ、次いで自分も行方をくらました。
その後、親を探して旅をしていたキュートモンと出会い、彼と一緒に行動しているうちにタイキ達と出会ったのだ。
「実際一族の連中は分かっていたのさ。何かを犠牲にして得た強さは、敵を倒せても何かを守ることはできないと。滑稽な話だろ、俺は誇らしげに戦いながら、結局は戦うごとに一族の誇りに泥を塗っていたんだ。」
ドルルモンは、自分の思い出話を聞いているティアナに、
「なのはが戻ってきたらしっかり話をしておくんだ。あいつの思いを聞いてみろ。」
と言ってその場を後にした。
しばらくして、出動より戻ってきたなのはが現れた。
「あ、なのはさん。」
ティアナが気づくと同時に、なのはは彼女の横に座った。
「浮かない顔だけど、私がいない間にしっかり絞られた?」
と、なのはに訊かれたティアナは、
「はい、みんないろいろな経験を経て強くなっていったんだと。」
と、答えた。
「そう、じゃあ私の話も聞いてみる?」
なのははこう言って、かつての自分について語り始めた。
かつての自分は、魔法を知らないのは勿論の事、そもそも戦う事自体ありえない普通の子供だった。それでも、ある時助けたフェレットと、自分が普通より魔力が強かった、それがきっかけで魔法と出会い、プレシア事件、闇の書事件と、多くの実戦を繰り返し続けた。
ある時、仲間たちと共にアンノウンの対応に出動した際、これまでの苦労がたたり一瞬の判断ミスで大怪我をした。一時は魔道士として活動するのはおろか、普通の人間として生活することもできなくなると言われたが、無茶なリハビリで今の状態まで回復し、こうして現役として活動している事を。
「私の場合、一時”死にぞこない”って言われるくらいしぶとかったから良かったけど、みんなが私と同じようにできる訳じゃないでしょう。みんなの長所を殺さずどんな状況にも対応できるようにしたかったんだけど。私の教導地味でしょう。まるで進展があるようにじっれたかったんだよね。」
一通り話したなのはは、最後にティアナにこう言った。
「明日くらいからティアナが執務官になれるように、個人戦のやり方も教えてあげるから。」
この後、ティアナが号泣する等、少し問題はあったが機動六課の面々はより強い繋がりを持つようになった。
しかし、この時は誰も知らなかった。これから第一世界ミッドチルダはおろか、次元世界すべてが危機に陥る一大事件が起ころうとしていた事を。
カットマン
「カットマンと。」
モニタモンズ
「モニタモンズの。」
全員
「デジモン紹介のコーナー!!」
カットマン
「今回のテーマは、この小説のチームクロスハートオリジナル構成員ディアナモン。因みにイメージCVは、魔法少女リリカルなのはシリーズでのフェイト役で有名な水樹奈々さんだ。」
モニタモンA
「ディアナモンは、ニンテンドーDS専用ゲーム「デジモンストーリ・ムーンライト」で初登場した神人型デジモン。得意技は背中の突起物を矢に変えて飛ばす「アロー・オブ・アルテミス」両足の「グッドナイトシスターズ」から月の光を放ち、浴びた相手を眠らせる「グッドナイトムーン」相手に幻覚を見せ、敵と判断すると即時斬り伏せる「クレセントハーケン」ですな。」
モニタモンB
「光と影を司る月のように、優しくも厳しい、美しくも恐ろしいデジモンですな。」
モニタモンC
「しかも絶対零度の中でも行動できますな。」
カットマン
「因みに、普段は仮面で顔を隠しているけど、素顔は輝く銀髪と美麗な顔立ちの美人らしいぞ。」
モニタモンズ
「重要なようでどうでもいいですな。」
全員
「それじゃあまたね!!」
次回予告
ある日、機動六課の新人たちに一日休みが言い渡された。タイキ達も同様で、スポーツチームの助っ人としてミッドを回ることにした。そんな中で事件の歯車が動き出す。
そして、あのキャラクターが特別出演
次回「機動六課のとある休日、前偏」
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第八話 強さとは、仲間とは