No.481856

それは不思議な出会いだった

ネメシスさん

一応ISとリリカルなのはのクロスになるのかな。
短編です。
一読いただけたら幸いです。

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2012-09-09 18:19:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4190   閲覧ユーザー数:4070

 

 

 

……それはいつの事だっただろうか。

この世界が、男女平等などと謳われた日から、男尊女卑の風潮に移り変わって行ったのは。

そして、男尊女卑の風潮から一変して、女尊男卑の風潮へと移り変わって行ったのは。

 

「……IS…ねぇ」

 

男尊女卑の風潮がいつからかなど、そんな曖昧なこと俺にはよくわからないが女尊男卑の風潮が現れ出したのがいつなのか、それくらいならおそらく俺だけじゃなく今この世の中に生きている誰でも知っていることかもしれない。

 

“IS”

 

そう、それがこの世界に現れてそれ以降、この世界は男尊女卑から女尊男卑の風潮へと一変してしまった。

“IS”、正式名称“インフィニット・ストラトス”は元々宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツである。開発当初はどういうわけかはわからないがそれほど注目されていなかったISではあったが、製作者である篠之乃束が引き起こしたとされる世界的な大事件「白騎士事件」により従来の兵器を圧倒的に凌駕する性能を見せつけたことにより、軍事目的の飛行パワード・スーツとしても転用が始まりしだいに各国の抑止力の要となっていった。

しかし、そんな強大な力を持つISにも圧倒的な欠点ともいえるものが存在した。

……なぜかISは女性のみしか動かすことができなかったのだ。

このことが原因でこの世界は男尊女卑から女尊男卑の世の中へと変わってしまったのだ。

 

「……まぁ、そんなことどうでもいいんだけどな」

 

新聞のIS関連の記事を見ていたが、そう時間がかからずに興味が失せて別の記事に目を向けた。

もともと女性しか動かすことができない機体に俺は何ら期待を寄せることはなかった。

確かにISの事を知った当初は、当時放送されていたロボットアニメの影響かそれなりに興味も出ていたのだが、男性には動かすことができない代物と知り自分には一生縁のないものだろうと次第に興味が薄れていった。

いや、それだけだったらロボットアニメを見ていた時と同じように憧れのようなものを抱き続けていたかもしれない。

興味を薄れさせる原因となったのは、恐らくあからさまな女尊男卑の風潮故だったのではないかと思う。

TVを見ても新聞を見てもISに関する情報に事欠くことはなかったが、それと同時に男性に対する批判のようなものもよく見かける。

一昔前にあった、あからさまな男尊女卑をそのまま絵にしたようなドラマのように。

まぁ、それ以上にISとは別に俺にとって興味をそそられるものがあったからというのも原因の一端だったような気がするが。

それは物心ついた時から感じることができた俺自身の違和感。

俺の中に何かよくわからない力が眠っている、そう感じさせられる。

……いや、別に邪気眼の類とかそんなんじゃないのだが、とにかく俺の中に何かあるのは間違いないのだ。

それが危険なものだったならば俺ももっと怯えることができたかもしれない、しかしどうもその力という物は俺自身に害を与えるたぐいのものではないようなのだ。

なぜか、その力を意識して感じるようにすると体が軽くなったり力が湧いてきたりする。

その力を意識し出してからしばらくしてだが周囲の違和感にも気が付きだした。

この不思議な力は最初は俺だけが持っている特別なものなのだと思っていたのだが、ふと周囲に意識を向けてみると俺以外にも俺が持っている力に似たが存在することに気が付いた。

それは父親だったり母親だったり、学校の友人だったり、人間以外の生き物だったり、そしてこの世界全体だったり。

それぞれ、感じる力に差が存在するがそのどれもがどこか似たような気配と呼べるようなものを感じるのだ。

……それを、どうやら他の人たちは気づいてはいないようなのだが。

まぁ、これだけ不思議なことがあると普通は気味悪いとは思うかもしれないが、俺は好奇心の方が勝っていたようでこの力をもっと知りたくなってしまったのだ。

図書館に行ったりいろいろと自分なりに調べるうちにこの力がもしかしたら「気」なのではないか?「霊力」なのではないか? 「魔力」なのではないか? と、いろいろと妄想が膨らんでいった。

そんな日が続くうち、世間ではISに対して大々的に注目していたようだ、がそんな時でさえ俺は知ったことではないとばかりにただ黙々とこの力がなんなのか考えるのに余念がなかった。

そんなある日の事、俺はとある出会いをした。

 

『魔法少女リリカルなのは』

 

……まぁ、いわゆる魔法少女物の漫画だ。

実際のところ俺としてはそれほど興味はなかったのだが、友人が「お前も見てみろって!ぜってぇ燃えるから! 萌えるかもしれねぇけど、でもぜってぇ燃えるから!」と、訳の分からないことを言って強引に俺に押し付けてきた。

まぁ、せっかくなのでとぱらぱらとみてみる。

すると、まぁ、いろいろと突っ込みどころが多いこと多いこと。

いろいろある突っ込みどころの中でとにかく最初に一言言いたいのは、「これ、魔法じゃなくて魔砲じゃね?」だった。

そこに出てくる魔法は「ちちんぷいぷい」で何でもできるような、昔話などでよくある万能性のある魔法などではなく、「デバイス」などといったの補助道具などを用いて術式を魔力という形のないエネルギーに組み込み、魔力に指向性を持たせて構成し魔法という現象を作り出すといったような感じのもので、夢あふれる魔法というより魔法と科学が融合したような現代感のある魔法だった。

まぁ、それでもなかなかに面白かったというのは事実ではある。

「燃える」というのもよくわかったし、「萌える」というのも分かりたくないがよくわかってしまった。

そんなちょっと悔しい思いをしながら、読み終わった本を閉じようとした時の事。

その本の一番後ろのページに何やらよくわからない数式のようなものが書かれていた。

何かの暗号か? そう思ってその数式のようなものをみていると俺の中の力が反応した。

そして俺は気づいたのだ、俺のこの力がこの作品に出てくる力に似ているんじゃないかということに。

俺は慌ててその数式のようなものをもう一度見直した。

少し長いようだがそれでも何とか覚えることができる程度だったこともあり、それを俺は暗記する。

そしてこの作品の力、魔法のように俺の中にある力にその数式のようなものを組み込むように意識していく。

すると

 

「……で、できた!」

 

そう、俺の手のひらの上で浮かび停止している小さな球体は紛れもなくこの作品に出てきていた魔力球『スフィア』だった。

感動して気を抜いたのがいけなかったのか、俺の手の上に浮かぶスフィアは一瞬揺らいだ後「パァンッ」とはじけてしまった。

せっかく作ったスフィアだというのに、しかし俺は少しも残念だと思っていなかった。

それ以上に俺は感動してしまった。

俺の力がなんなのか分かったから、俺の力をもっと知ることができると思ったから、そしてそのカギとなる人がわかったから。

その本の最後のページ、そのスフィアの数式が書かれていた下のところに「この暗号を解読できた人がいましたら是非このアドレスまでお知らせください」とあった。

俺はそのアドレスを自分の携帯に記録して、そのアドレスに向けて今俺に起きた事柄を簡単に載せてメールを送った。

メールが送られてしばらくすると、返信があった。

その内容を要約すると「今から会えないか」という内容だ。

普通なら怪しいと思うその内容、しかし俺は今自身の好奇心に負けてそれを怪しむことはできなかった。

そのメールの内容を見た後、何のためらいもなくOKの連絡を送った。

……そして俺は出会ったのだ、この「魔法少女リリカルなのは」の作者に、この暗号を描いた張本人に。

後に相棒とまで呼べる間柄になりこの世界にISとは違った「力」を広める協力者に、俺は出会ったのだ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

あれから数年。

俺こと高村直人(たかむらなおと)とあの『魔法少女リリカルなのは』の作者(と思っていたが作品の案を提供しただけで作者ではなかったのだが)であり、日本ではそれほど名の知れていないとある資産家の次男で俺の道を示してくれた恩人ともいえる人、佐倉裕野(さくらゆうの)(25歳独身)さんと出会ってから数年がたった。

俺は実家から少し遠い佐倉家の敷地内にある裕野さん専用の、お世辞にも大きいとは言えないような研究所で「魔法」の研究の助手として働いている。

研究をしているのは裕野さんと俺の二人だけで、どうやらほかに研究を手伝っている人はいないようだ。

やはりというかなんというか、魔法の研究という妄想家ともとられかねない裕野さんに協力するものはおらず、親も息子の道楽とでも思っているのか昔使っていて使わなくなった小さい研究所(俺たちが使っているところ)と少しばかりの研究費用をあてがい、あとは我関せず状態だ。

まぁ、なんだかんだとうるさく言ってくることもないので煩わしく感じることもなく、研究に没頭できるため二人だけというこの環境はそう悪いものではない。

少ない研究費用も裕野さんが株をやっていたためそれなりに増やすことができ、さらに裕野さんがアイデアを提供してできた作品『魔法少女リリカルなのは』もかなり人気が出ているようでアイデア料もそれなりに入ってきているようで研究に最低限必要な費用は確保できているらしい。

ちなみに『魔法少女リリカルなのは』は第1部が完結して、第2部『魔法少女リリカルなのはA’s』を連載中だ。

アイデア提供者として、毎度裕野さんの所に出版された単行本が送られてきているのを、研究の合間に読むことが俺の楽しみに一つだ。

……それにしても、株ってそう簡単に増やすことのできるものじゃないし一歩間違ったら減る一方だというのに、最低限とはいえ研究ができる分の費用を作り出すことができる裕野さんは万が一研究が失敗に終わっても株だけで食っていけるだけの金は稼げるだろうなと密かに感心している。

そして俺の親はというと、魔法などという物を研究している変人のところに息子が行くことにあまり良い顔はしなかったものの、俺の懸命な頼み込みと高くないまでも(といってもほかのバイトよりは若干高めだが)それなりに給料ももらえるということもありちょっとしたバイトのつもりでやっていることだと言って渋々ながらも納得してもらった。

まぁ、ちゃんと運動系の部活に参加して健康に気を付けることと、高校に進学することを条件として出されてしまったが。

そのため、中学では部活が忙しく週に2,3度くらいしか手伝いに行けなかった。

3年に上がると部活は引退できたのだが約束通り高校へ上がるため受験勉強に勤しむため週に1度いければいいというペースだったのが辛いところだ。

しかし、高校に入ってからも俺は研究所に通いたいと思っているため一生懸命勉強に励んだし、研究の合間に裕野さんにも受験勉強の手伝いをしてもらった。

俺の勉強に付き合って研究の方は大丈夫なのだろうか、そう疑問に思って聞いてみたこともあるのだが裕野さんは「君のお蔭で貴重なサンプルはちゃんと取れてるし、今までと比べるとかなり進んだ方だから気にしないで」そう笑って言ってくれた。

こう言ってはなんだが、裕野さんの教え方はとても丁寧でわかりやすく学校の先生なんかと比べ物にならないほどで、今まで苦手としていた教科もだいぶ改善できたと思える。

その成果もあってか、家からはそれなりに遠いが佐倉家からはそう遠くないという俺的には好条件の高校に合格することができた。

高校に入ってからは今まで溜めた金を使い佐倉家になるべく近く安いアパートを借りて独立し、そこから佐倉家と高校を行き来する生活を予定している。

これで親からもいろいろと愚痴を聞かされることも少なくなり、今まで以上に研究に没頭できるだろう。

高校に研究にと、他の人とはちょっと違う生活かもしれないけど、俺にとってはとても充実した高校生活になりそうで、入学を前にして気が高ぶり遠足前の小学生の如く夜も眠れない日が2,3日ほど続いた。

引っ越しも終わって新しいアパートに移住したとある日の朝、俺が研究所に行くと裕野さんはちょうど朝食が終わった後のようでコーヒーを飲みながら新聞を見ていた。

 

「裕野さん、おはようございます」

 

「やぁ、おはよう。そうそう、聞いたかい? 史上初の男性IS操縦者が現れたんだって」

 

それが裕野さんが見ていた記事の内容らしい。

裕野さんの言葉に「へぇ」と俺は感嘆の声を漏らす。

IS、それは女性だけが身に着けることのできる高性能アーマードスーツで、男性が操ることなど今までなかったはずだ。

どういった経緯でその男性がISを起動させるに至ったのか、少なからず気にはなるがどうせ俺には関係ないことだろうとすぐに興味を無くした。

俺にとっては自分で操ることのできない遠くのISなどより、身近な魔法なのだ。

 

「まぁ、俺達には関係ないでしょう。それより、早く始めましょうよ! 今日は確か飛行魔法使用時の高速機動実験でしたよね!」

 

「ははは、相変わらず魔法以外には興味がないって感じだね」

 

「……それって、魔法バカって意味ですか」

 

「あ、いやぁ、別にそういうわけじゃ……」

 

裕野さんが苦笑いを浮かべて言ってくる。

そこで否定しないところが、俺が魔法バカだということを肯定してる気がするんだけど。

……まぁ、自分でも否定はできないけど。

小さいころから興味があったというのももちろんあるのだが、今はそれだけではない。

今日行う実験は以前から学んできた他の魔法以上に楽しみにしていたのだ。

スフィアの多重操作による精密な操作訓練や集束魔法といういわば魔砲と言えるような魔法など、俺これから誰と戦うの? と疑問にもちそうな攻撃魔法の数々。そしてそれ以外にもいろいろと教わってきたがその中でも今回の飛行魔法、これはどの魔法よりも俺の関心を引いているものなのだ。

初めて飛行魔法を使った時は庭に出て裕野さんが作った周囲を気にせず魔法が使えるという結界の中で行ったが高く飛ぶと周囲の景色がとてもよく見え、周りを飛び回ると風が頬に当たり心地よくて今までやってきたいろんな遊び以上に楽しくていつまでも飛んでいたい気持ちになる。

……そういえば、楽しそうに飛ぶ俺を見るときの裕野さんがどこか懐かしそうにしているのが気になるが、どうにも聞ける雰囲気でないので結局今まで聞けずじまいだったが。

裕野さんは一体俺を通して誰を見ているのか、いつか裕野さんから話してくれる日が来るのだろうか。

そういう俺の思いなどお構いなしに時間は過ぎて数週間後、高校に入学する日がやってきた。

登校途中、道中には同じ学校の制服を着た俺と同じ新入生だろう学生がちらほらと見える。

その誰もが新たに始まる学校生活に期待と不安を感じているようで動きがどことなくぎこちない。

かくいう俺も手のひらが若干汗ばんで緊張しているのがわかるため、人のこと言えないなと苦笑いを浮かべる。

さて、これから俺たちは一体どんな高校生活を送るのだろうか、俺は緊張をほぐすため大きく深呼吸をし、間近に迫った校門をくぐる。

俺を含めた新入生一同が割り振られた各クラスに一度集まり、その後入学式のため体育館に移動する。

少し大きめの体育館であるにもかかわらず、1から3年生までの全生徒が入ると流石に若干狭く感じられた。

周りを見ると緊張に耐えきれなかったのか、もともと緊張とは無縁なのか周囲の人と話をしている人がいくらか見える。

壁に立てかけてある時計を見ると開会式まではまだ時間があるため、俺も周りの人と同じように近くの人と会話をする。

別に同じ学校に通っていた知り合いというわけではないが、こういう小さいきっかけがいつか大きな繋がりになることもあるかもしれない、そう裕野さんも言っていた。

話しかけた相手もどうやら若干緊張していたようで最初はしどろもどろな会話であったが、話していくうちに緊張も解れてきたのか幾分か普通に話せるようになっていた。

そうして話していると、俺はまたふと時計を見た。

すると、どうやら知らないうちにかなり話しこんでいたようで、もうすでに開会式予定の時間からだいぶ時間が過ぎていた。

開会式の時間が過ぎたというのにまだ始まらないというのは、まぁ、遅れているからという理由で納得できるがそれでも先生方が誰一人として体育館に入ってきていないというのがおかしい。

途中で生徒会の人が何度か「準備が立て込んでいますのでもう少しお待ちください」といっていたが、その生徒会の人もどうやら詳細はわかっていないらしく確認のためか何度か体育館の外に出たり入ったりを繰り返していた。

それからまた少し経つと他の生徒たちもおかしいと思い始めたらしく、ざわめき始めている。

そして、開会式開始予定時間から1時間が過ぎたとき、やっと先生方が体育館に入ってきた。

しかし、入ってきたのは先生方だけではなかった。

その後ろに、何人もの白衣を着た研究者張りの人がついて入ってきたのだ。

その研究者の代表なのだろう一人がマイクを持って全校生徒の前に立つと、こんなことを言い出した。

 

「これから皆さんには、IS起動実験の協力をしていただきます」

 

この時俺は知らなかったが、史上初の男性IS操縦者が現れたそれ以降から世界中で他にISを起動できる男性はいないのかと、各学校ごとに研究員が派遣され実験を行ってきたそうだ。

そして今日がこの学校だったということだろう。

学校側としても入学式にそのようなことをと思ったのだが、これは政府からの命令であったため拒否することなどできるはずもなかった。

 

(……まぁ、そう簡単に起動できるわけないだろうけど)

 

そう、今までISが世に現れてから女性だけでなく沢山の男性での実験も行われてきたのだ。

そしてその結果が女性しか起動させることができなかったことによる、今の女尊男卑の世の中。

初めて男性のIS操縦者が現れたからと言って、そう簡単に他にも男性の起動者が現れるはずがない。

事実、3年生から順に起動実験としてISに触れさせているが、結局誰も何の反応もさせることなくとうとう1年生である俺の前まで来ている。

そして当然というかなんというか俺の前の生徒も何も反応させることができず俺の番が来てしまった。

まったく、折角の入学式だというのに政府も無粋なことをするものだ。

新しい環境になるということで俺の中にあった期待や緊張感などによる心地よいドキドキワクワクな気持ちが消えてしまった。

ほんとついてない、こんなことなら今日は休んでしまえばよかった。

そう思い俺は「はぁ」と溜息を吐くと、さっさと終わらせてしまおうと他の生徒同様に目の前のISに手を触れた。

 

(ほら、なにも起きな……え?)

 

俺の手が触れた瞬間、ISは淡い光を発しながら機械的な声を漏らす。

 

『適性者の接触を確認――――――起動開始します』

 

(……う、うっそぉ)

 

その瞬間会場は(というかほぼ研究員が)大慌て。

俺はすぐに保護(という名の拘束)をされてISの研究所へと連れて行かれた。

……それがあまりにもうっとおしく、一瞬砲撃で蹴散らしてしまおうかと思ってしまった俺は悪くないだろう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「……つ、疲れたぁ」

 

「はは、なんというか、ご苦労様」

 

そういって裕野さんは冷たいカフェオレを俺の目の前に置いた。

それを俺は何も言わず一気飲みほす。

ほんのりとした甘みが俺の疲れを癒してくれる、気がする。

あの後、研究所に連れていかれて3日間いろいろな検査に付き合わされた。

睡眠や食事、入浴や排泄以外の時間はほぼ必ず誰かに監視され続けていたため気の休まる暇すらなかった。

そしてようやくある程度の検査が終了した今日の夜、俺は帰宅が許された。

入学式終了後に食料を買いに行こうかと思っていた時に研究所に連れて行かれてしまったため、アパートに帰っても食事もできそうもなくかといって外食も面倒であったため、申し訳ないが裕野さんの家に一晩やっかいになることにした。

 

「にしても、よく帰宅が許されたね」

 

確かに、数少ない男性操縦者である俺はそれなりに貴重な存在であるはずなのにすんなりと帰宅が許されたのは裕野さんじゃなくても疑問に思うだろう。

 

「まぁ、俺以外にも発見されている男性操縦者が6人いましたし。それに俺のIS適性がDっていう低さも原因だと思いますよ」

 

研究所で聞いたことなのだが、これまでに発見された男性IS操縦者は俺と最初の1人を含めて8人になったそうだ。

しかも、そのほとんどがCないしはBという適性で俺のDというのは男性の中では最低ランク、男女合わせても下の方から数えた方が早いくらいだそうだ。

俺の適性ランクがわかった時の研究員の失望というか残念そうな顔は今も覚えている。

勝手に期待されて勝手に失望されてこっちとしてはたまったものじゃないのだけどな。

 

「まぁ、そのおかげで俺の重要性も低くて監禁されるほどじゃなかったんでしょうね、帰宅が許されたっていうことは」

 

ちなみに適性ランクがBだったものの中で最もAに近い数値を出していたのが1番目に発見された男性操縦者の「織斑一夏」というそうだ。

ランク的に見ても、世界で初の男性操縦者であることを見ても他の適性者以上に注目を浴びることになり今後いろいろと大変だろうと思うと、多少なりとも同情の気持ちが芽生えてくる。

しかし見方を変えれば政府側の俺の守護の力が低いという見方もできるわけだが。

まぁ、ランクの低い俺なんかを厳重に警護するより、俺よりランクの高い男性操縦者に対して警護を割り振ったり実験に費用を費やしたりした方が有用と判断されたのだろう。

実際、魔法を本格的に習い始めてからは相手が拳銃を持っていたとしても負けることはないだろうと裕野さん直々のお墨付きをもらってるためそれほど命の心配はしていないわけだけど、なるべくそういう問題が起こらないに越したことはない。

 

「まぁ、それでもIS適性があったということでIS学園への編入は強制されましたけどね」

 

「……そっか。それは、しょうがないよね」

 

「はぁ、折角魔法の研究もこれからだって時に、ほんと運がないですよ」

 

折角佐倉家に近い高校に合格したというのに、IS学園の場所を聞いたら佐倉家との距離が遠いのなんの。県を2つほど越えたところにあってしかも寮生活ということも相まってそうそう簡単に佐倉家に来ることもできなくなってしまった。

 

「まぁまぁ、そう落ち込まないでよ」

 

「そうは言ってもですね~」

 

裕野さんが以前言っていた転移魔法というもの使えればいいのだけど、それはまだ研究段階から抜け出せていないのだとか。

少し間違えばどこに転移されるかわからないという危険が伴う魔法のため、他の魔法以上に慎重に研究を行わなくてはならないのだとか。

早く実用段階まで行ってほしいものだ。

 

「それに、君のお蔭で大分研究の方も進んでね、もうそろそろ第2段階に移行してもいい頃合いだと思ってたし」

 

「第2段階?」

 

裕野さんの言葉に俯いていた顔を上げる。

はて第2段階、今まで聞いたことがないのだけど。

 

「まぁ、第1段階が魔法の訓練とデバイス等の開発といった所かな。そして第2段階というのがいわば実践かな」

 

「実践、ですか?」

 

「そう、実践だ。直人は覚えてるかな、僕たちの研究している魔法のコンセプトは?」

 

「えっと、『誰でも使えて、災害時にも前線で活躍できる、便利な技術』でしたよね?」

 

「うん、その通り。そのコンセプトの中の『誰にでも使える』という点は一人一人の保有魔力に差があって使えない人もいるけど、それはカートリッジシステムとデバイスで補うことができる。

そして『災害時にも活躍』っていうのだけど、これが第2段階の実践、いや「実戦」に関わってくる」

 

「実践じゃなくて「実戦」……ってもしかして」

 

「うん、直人の予想通りだと思う……君には、ISと戦ってもらう」

 

そういう裕野さんの顔はいつもの優しい笑顔ではなく、真剣なそしてどこか辛そうな表情をしていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

直人が眠ったころ、裕野は一人テーブルに座り紅茶を飲んで「ふぅ」っと溜息を吐く。

今考えているのは直人の事だ。

直人は確かに魔法が好きだ、年頃の男の子ということもあり攻撃系統の魔法も興味を持って学んでいた。

でも、だからと言って彼自身が別に戦いが好きだというわけではない。

攻撃系統の魔法を覚えたのだって、魔法が好きでただただ興味があったからというだけなのだ。

まぁ、自分に、今回彼に言った「ISと戦ってほしい」という打算があって率先して教えていたということに何ら否定できることはないが。

裕野はもう一口紅茶を口に含みゆっくりと飲み込んでいく。

一心地ついた後、椅子の背にもたれかかり目をつむり今までのことを振り返ってみた。

そもそも自分は最初この世の中に魔法を広めようなどとは思わなかった。

魔法は使う人次第で良いことにも悪いことにも使える。

この世界に魔法を広めれば確かに救われる人が増えるだろうがそれと同時に犯罪者の犯罪数も増えるだろう。

裕野はそれを恐れ、生まれ持った“前世”からある魔法の知識を誰にも話さず広めずに墓の下まで持っていこうと思っていた。

しかし、今の世の中の女尊男卑の風潮に変わってきてから裕野のその考えは変わっていった。

全ての女性に対して言えることではないかもしれないが、女性の男性に対する態度の変わりようが大きすぎるのだ。

今までの男尊女卑の風潮からの反動なのかもしれないが、男性の自業自得なのかもしれないが、それでも限度という物があるのではないだろうか。

どちらか片方が大きな力を持つからこのようなことになるのだろうか、どちらも力を持たなければこのようなことにならないのだろうか。

しかし、すでにISが世に出てしまっている現在、ISを無くすことなど不可能に近い。

現在の異常ともいえるまでに発達した科学により、快適な生活に慣れてしまった人間が今の文明の利器を手放せるかというくらい無理な注文だろう。

だったら、双方に力を持たせれば少しは今の世の中の在り方が改善するのではないだろうか、裕野はそう考えたのだ。

世界に魔法を広めることで、収まることはなくても少しでも今の在り方が良い方に変わって行ってくれることを願って。

この時、そう決意した裕野はまず魔法のイメージを広めるために漫画家に“彼女”の物語をアイデアとして漫画家に送り魔法の知識を広めることにした。

なかなかに臨場感があるとその漫画家に絶賛されたのだが実際に“彼女”のそばで身を持って体験したことなのだ、むしろあって当然といえるだろう。

そして、アイデアを提供した代わり魔力球(スフィア)の術式を載せさせてもらった。

この暗号が解けた人に自分の計画に協力してもらうために。

思えばこの時からすでに打算が始まっていたのかもしれないな。

漫画家にはこの暗号がどういう意味のあるものなのか、そう聞かれるが魔法の術式ですよと笑いながら言うと冗談とでもとられたのか苦笑いしてそれ以上は聞いてこなかった。

漫画が発売されて数ヶ月が経ったころ、何度か暗号に関して連絡を受けたがそのどれもが間違いであったりただの悪戯だったりということで辟易していたころのこと。

ようやく、本当にようやく暗号を解く人が現れた。

その人のメールにはその時の状況や、本人に起こったことが書かれていて、これが悪戯だなどとは思なかった。

そして、裕野は直人と出会ったのだ。

直人が研究の助手となり魔法の手伝いをしてくれるうちに、驚くことが分かった。

個人個人で異なる色を持つ魔力光、そこに同じ色などは存在しない。

同じように見えて見た目で判断しにくいものがあったとしても、個人個人が持つ魔力にはそれぞれ波長があり、それを照らし合わせれば違いが簡単にわかるという言ってみれば指紋のようなものなのだ。

そして初めて会ってスフィアを作ってもらった時に見た直人の魔力光が、なんと“桃色”であったのだ。

しかも、直人の保有する魔力保有量が推定AAA+。

初めて会った時から直人の持つ魔力が他の人たち以上に大きいということはわかっていたが、正確に計測してみて出た数値がまさかここまでとは思わなかった。

そして魔法の術式を教えて数日中にはほぼ使えるようになっているほどの魔法の才能。

極めつけは数ある魔法の中でも飛行魔法が一番好きで、空を飛んでいる時にみせるその楽しそうな表情。

それらを見て、裕野は思った。

自分が、“ユーノ・スクライア”が佐倉裕野としてこの世に生まれ変わったように、もしかしたら高村直人は“彼女”の、“高町なのは”の生まれ変わりなのではないだろうかと。

裕野は閉じていた眼を開け、パソコンに向かう。

 

「魔法が有用とみなされるためには実績を積まなくちゃいけない。実績を積むには直人がIS学園に行くということは好都合。

ISと試合をして勝つに至らなくても互角の戦いができればそれだけで政府に対してのアピールポイントになる」

 

魔法がただ便利だというだけでは政府の評価は低いだろう。

世の中にもいろいろと便利なものがあり、魔法もその中の一つだろう程度に認識されるのではだめだ。

ISと同等にみられるためには、やはりISのお株であるその無類の強さに対抗するしかない。

だけど、今の直人は戦闘経験がない。

仮に直人が高町なのはの生まれ変わりで魔法のセンスがあるとしても、今の直人に前世の彼女ほどの実力はない。

ISというのは適性がある“だけ”という人が乗っただけでも、魔導士ランクでいうところのA+ランク並の力が出せる。

それが経験を積んだら並みの魔導士では太刀打ちできないほどの力を持つだろう。

だからこそ、直人が少しでも力をつけるために、直人がIS学園に行く前に“これ”を完成させないと。

 

「……全盛期のなのはほどの力があれば心配はいらないんだけど、それはいくらなんでも期待しすぎかな。

……っていうか、僕はいつまで直人を通してなのはの影を見てるんだろうなぁ」

 

恐らく自分が直人を通して誰かを見ているということは直人は気づいているだろう。

それでも、何も言わないということは直人は自分に気を使っているということ。

そんなこといつまでも続けていたら、直人に対して失礼極まりない。

 

(それでもごめん。もう少し、もう少しだけ彼女の影を追わせてほしい。

必ず、ちゃんと前を向けるようになるから。でないと、なのはにも笑われちゃうよね)

 

そう裕野は直人に心の中で謝罪をする。

 

「……ん? またクラッキングか」

 

ふと警戒マークがついていることに気づく。

 

「うぅん、このパソコン、改造して魔法的なブロックも施されてるのになんでここまで潜ってこられるんだ?」

 

そう、裕野のパソコンは裕野自身が改造して現代の技術による高性能なハッキング防止のブロックに加えデバイスに使用されているような、たとえデバイスマイスターであってもクラッキングできない魔法的なブロックの2つを合わせた混合防壁が敷かれているのだ。

実質的にこの世界中にこのパソコンに対してクラッキングを行える人はいない……はずなのである。

 

「……いったい、君は誰なんだ?」

 

画面の向こう側にいるクラッカーを想像しながら裕野は潜り込まれたデータ部分の補修作業を始めた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「……う~ん、やっぱり入り込めないなぁ」

 

ここは誰も知らない、誰も見つけることのできない彼女だけのパーソナルスペース。

そんな彼女は数年前に見つけた、この自分でも入り込むことのできない厳重なセキュリティを見つけて、最初はほんの興味本位あったが結局この数年間クラッキングをし続けている。

 

「やっぱり見たことないなぁ、こんなデータ。形は最新の奴に似てるんだけどその途中途中にある数式がよくわかんないなぁ」

 

その厳重で自分でもほぼお手上げなセキュリティをしているPCが置かれている場所、そしてその人物についてはすでに把握している。

 

「……佐倉裕野、25歳独身、佐倉財閥の3男。魔法なんて夢や希望あふれるもの研究している変わり者。漫画の魔法少女リリカルなのはの情報提供者。資金は株やアイデア料で儲けてるらしいから決して頭がおかしい人というわけでもない。

数年前に高村直人を助手として雇っている」

 

彼女はもう何度の頭の中に入っている裕野の情報を反芻する。

 

「うんうん、面白いねぇ。いっくんだけかと思っていた男のIS操縦者が他にも7人現れたって事も面白いけど、私は今この佐倉裕野って奴に興味津々かなぁ」

 

彼女は嗤う、自分もまだ知らぬ未知に楽しそうに本当に楽しそうに嗤う。

 

「ふふふ、楽しいな、面白いな。まだまだ世界は未知で、不可思議なもので溢れてるんだね。

……佐倉裕野、いつか会ってみたいなぁ」

 

 

 

 

 

 


 
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