No.481650

【小説】しあわせの魔法使いシイナ『風船の花が飛ぶ日』

YO2さん

普通の女の子・綾と、魔法使いの女の子・シイナは仲良し同士。
何事もマイペースなシイナを心配して、綾はいつもやきもき。
でも、シイナは綾に笑顔をくれる素敵な魔法使いなんです。

2012-09-09 07:45:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:665   閲覧ユーザー数:665

 

綾の住む「央野区」は、普通の街と少し違っています。

街の中央には「魔法学園」があり、街には魔法使いが住んでいます。

 

綾の家にホームステイしているシイナも、そんな魔法使いの一人です。

 

「ふわぁ… ねむ…」大きなあくびをするシイナ。

「もうお昼よ?」呆れ顔の綾。

 

日曜日の昼下がり。

春の陽気がシイナの眠りを誘うようです。

 

「わ、もうそんな時間?」

シイナがあわてて立ち上がります。

 

「行こ!綾ちゃん」シイナの金髪がふわりと揺れます。

「へ? ちょっと、どこへ?」

 

シイナが綾を家の外に誘います。

「早く早く!」

「待って、シイナ」

シイナはずんずん先に歩いて行きます。

 

着いたのは「妖精の丘」。

央野区の中でも、不思議なことがたくさん起こる場所です。

 

「今日は風船の種が飛ぶ日なの」シイナが笑顔で言います。

「風船?」綾が聞き返します。

 

丘をどんどん登って行く二人。

「見て、綾ちゃん!」

 

眼下に広がる風景を見て、綾が声を上げます。

「わぁ…!」

 

丘の上の草原一面を埋め尽くすのは、色とりどりの風船。

 

赤、青、ピンク、黄色、緑、黄緑、紫、橙、ベージュ、灰色、空色、茶色、白、黒、茜色…。

 

「すごい…」目に飛び込む色の数が多すぎて、綾は目が回りそうです。

風が吹くたびに、たくさんの色の風船たちがゆらゆらと揺らめきます。

 

「もうすぐ始まるよ!」シイナが笑顔で言います。

 

すると、赤い風船が一つ、ふわりと空へ浮かびました。

それを合図にするように、空色の風船が一つ、ピンクの風船が一つ、空へ浮かびます。

 

「あっ…!」

風船が次々と空へ飛び立ちました。

 

空の青色がさまざまな色の風船でおおわれていきます。

青いカンバスの上で、色とりどりの丸が思い思いに踊ります。

 

「きれい… 」綾が思わずつぶやきます。

 

「今日は風船の花が一斉に種を飛ばす日なの」

シイナが綾に語りかけます。

 

「飛んで行った風船が、またどこかで根付いて花を咲かせるんだよ」

「素敵だね…」綾は思わずつぶやきました。

 

「また来年も、綾ちゃんと一緒に見たいな」シイナが綾に笑いかけます。

「そうだね…」綾もシイナに笑いかけます。

 

「もっと近くに行ってみようよ、綾ちゃん!」

「うん!」

二人はゆるい坂を下って、風船の花畑へと近づいていきました。

 

ふわり、ふわり

 

目の前で、風船たちが地面から飛びたってゆきます。

 

「おー、すごい」シイナが感心したようにつぶやきます。

 

シイナは、目の前の赤い風船のひもを握ってみました。

すると、赤い風船とともに、シイナはゆっくりと空へ浮かびあがっていきます。

 

「シイナ、浮いてるよ!」

綾は驚いて言いました。

 

「綾ちゃんもおいでよ! 早く早く!」

そう言いながらシイナは、ゆっくりと空へ上がっていきます。

 

 

綾は、あわててまわりを見渡しました。

 

ふわり

 

綾の目の前にあった青い風船が、今まさに地面から飛び立つところでした。

綾は急いで、青い風船のひもをつかまえました。

 

ふわり、ふわり

 

綾の体も、青い風船とともに、地面から離れて空を登っていきます。

シイナと綾の体は、どんどん空高く登っていきます。

たくさんの風船が、空の青色を覆いつくすように浮かんでいます。

 

シイナは右手で風船を持ったまま、左手でひょいひょいと空気をかいて、空気の中を泳ぐように、綾の方へと近づいてきました。

 

「ねえ、あの風船の群れの中に入ってみようよ、綾ちゃん!」

シイナは綾に言いました。

 

「面白そう。 行ってみましょう!」

綾もきれいな風船たちの中に入ってみたくなりました。

 

二人は手で空気をかいて、少しずつ風船の群れへと近づいていきます。

 

風船の群れの中へ入ると、たくさんの色鮮やかな風船がひしめいています。

風船と風船がポン、とぶつかると、それぞれはねかえった方向へ、ゆらりゆらりと動きます。

 

シイナと綾は、玉つきゲームのように、ポン、ポンと押しては、風船の集まりの奥へと入っていきます。

 

まわりの風船たちがゆらゆら揺れます。

太陽の光が透けて、風船の色がシイナと綾の顔や体をさまざまな色で照らします。

 

まるでステンドグラスの窓から差し込む日差しのように、きれいな色がゆらゆらと揺れます。

 

「とってもきれい…」

綾は夢の中にいるような気持ちになりました。

 

シイナは面白がって、風船を指でつんつん、とつついています。

そのときです。

 

ぱぁん!

 

と、大きい音がして、ばらばらと小さな赤いビー玉が降ってきました。

「わっ! なに?」

シイナはびっくりして、音がした方に目をやりました。

 

あちこちで風船が、ぱぁん! ぱぁん! と割れて、中からきれいなビー玉がばらばらと下に落ちていきます。

 

赤い風船からは赤いビー玉、青い風船からは青いビー玉、黄色い風船からは黄色いビー玉。

次々に風船が割れて、色とりどりのビー玉が降り注ぎます。

 

「風船の種の殻が割れて、種を蒔いてるんだ!」

シイナがいいました。

 

そう言っている間にも、どんどん風船が、ぱぁん! ぱぁん! と割れていきます。

ざらざらと滝の水ように、あちこちからキラキラ輝くビー玉が落ちていきます。

 

「シイナ、このままじゃ私たちの風船も割れちゃう!」

綾は心配になって、シイナに聞きました。

 

シイナは慌てて、

「ちょっと待って、えーと、えーと、どうしよう」

きょろきょろとまわりを見たり、ポケットの中をさぐったりしましたが、何も思いつきません。

 

ぱぁん! ぱぁん!

 

とうとう、シイナと綾の風船も割れてしまいました。

 

「わぁー! 落ちるー!!」

シイナが叫びます。

 

綾は怖くて、目をぎゅっと閉じて体をかたく縮こまらせました。

 

二人は地面に向かって、すべるような速さで落ちていきます。

あわや、と思ったそのとき。

 

ぽーん!

 

シイナと綾の体は、地面にいっぱい咲いている、たくさんの風船の花の上ではね返りました。

 

ぼよん、ぼよん、と風船の花の上ではずんだ二人は、無事に地面に降りられました。

二人が落ちてきたはずみで、近くの風船たちはいっせいに空へ舞い上がっていきます。

 

しばらく、ふたりは空に登っていく風船を、ぼーっと見つめました。

 

「ふわぁ、すごくびっくりした」

綾は、まだちょっとどきどきしながら言いました。

 

「いやあ、危ない危ない。 助かってよかったよ」

シイナはのんきな調子で笑いながら言いました。

 

「もう、シイナったら。 ふふふ」

綾は、シイナがひとごとみたいにのんびりしているので、つられて笑ってしまいました。

 

「えへへ」

シイナも一緒に笑います。

 

シイナといると、いつもこんなふうにびっくりすることが起こります。

でも、やっぱり綾は、シイナと一緒にいるのがいちばん楽しいな、と思いました。

 

シイナの魔法は、人をちょっとだけ幸せにする魔法。

魔法学園ではおっちょこちょいな魔法使いのシイナですが、綾にとっては世界を輝かせてくれる、素敵な魔法使いなんです。

 

 

―おしまい―

 


 
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