No.481488

命-MIKOTO-9話-

初音軍さん

久しぶりすぎて危機感を抱くぐらいのペースw 
ざっとしたあらすじ。人間不信の子と、その連れと命たちが
仲良くなって、一緒に暮らすことになったよ。
引き篭もりのその女の子とどう触れ合うか、考える命である。 
命(妖狐・丁寧・足が速い)萌黄(半妖・おおらか・子供が苦手・力持ち)

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2012-09-08 22:26:29 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:367   閲覧ユーザー数:356

 

 マナカちゃんがうちの家族に加わったのは嬉しいけれど、みんな仕事をしているから

結局はマナカちゃんは家に一人でいることが多い。これじゃ、ヒトミさんと二人で

いたときと大差ないんじゃないかと、いまさらながら思ったのだ。

 

 どれくらい経っているかというと、2,3ヶ月くらいで。そろそろ次に踏み出したく

なったわけですが。ちょっとした提案をしても、外に出るのを怖がる家猫のごとく

閉じこもっちゃうわけで。

 

「あのー、すみません」

「ふぇ・・・!?あ、すみません・・・!」

 

 レジの前にいる親子のお客さんが居たことに気づかなくて私は慌てて謝りながら

対応をした。焦った・・・。今までこんなに呆けたことがなかったから。

 

「摩宮さん、珍しいミスですね」

 

 一緒に働いていた青年が不思議そうに私に声をかけてきた。傍からみても

そう感じるのか。これからは気をつけないとなぁと思っていたら、彼の口からまた

別の言葉が。

 

「上の空なのはここんとこしょっちゅうですけどね」

 

 からかうように笑う表情が無駄に爽やかである。

 

「ごめんなさい」

 

 ちょっと複雑だったけど、現実にミスをしたので何も言い返せないのでした。

お昼前にレジ交代の時間になって、私はお店を出てコンビニに直行。軽く済ませるのに

おにぎりを1、2個ほど手にとってレジに持っていくと、最近は仲良くお喋り

させてもらっている、おばちゃんがものすごい好奇心の目を向けて話かけてきた。

 

「あら、命ちゃん。最近店に来なくなった、あの女の子引き取ったっていうのは

本当の話かい?」

「え、ええ。ちょっと違う気もしますが。間違ってはいないです」

 

 ヒトミさんごとお引越し。とは、いえないのである。何せ二人とも言えばこの地域の

「余所者」なのだから、名前を出した所でどうでもいいことだろうと思っていたし。

つい最近まで私もそうだったので、何となくわかる気がします。

 

「偉いねえ。そんなに若いのに、養子をもらっちゃうなんて」

「あ、あはは」

 

 とりあえずは今の場を流すくらいにしか私にできることはありませんでした。

こんだけ興味津々に聞いてくるおばちゃん達も少し時間が経てばあっという間に

忘れてしまうものです。

 

 気にしているのは当人達のみ、なので。

苦笑混じりの笑顔を浮かべて、話題をさりげなく変えると、今度は結婚の話になり。

 

「息子にもいい相手ができるといいんだけどね、不安しかないわぁ」

 

 とかいいながら、豪快に笑う姿にそんな考え方は微塵も感じることができなかったです。

 

「ところで命ちゃん」

「間に合ってます」

 

 時間もないですし。と、おばちゃんの話をやんわりと断ち切って私は店を後にした。

爽やかな青空を眺めながら、結婚の二文字が頭から離れないでいました。

 

「結婚かぁ」

 

 ふと、萌黄とそういう姿を浮かべようとしても、何も出てこず。ちょっとした寂しさ

だけが残る始末。

 

「女の子同士って変なんでしょうかね」

 

 ちょっと切ない思いをしてしまった。そして、我に返った私はお弁当を持って

仕事場のお店に戻り、裏の方で昼食をとっていた。休憩所は畳と丸テーブルの昔の

匂いを感じることが出来て落ち着く。

 

「ふ~」

 

 休憩の時にいつも使っている急須でお茶を淹れて一息つく。この一時が何だか

居心地がいい。他が悪いっていうわけでもなく、また別の心地なのだ。

 

「でも、やっぱり・・・」

 

 騒がしくも我が家が一番である。それに留守番させているマナカちゃんのことも

気になるし。ここでふと思い出した。こうやって上の空だから仕事を失敗しちゃうのだ。

 

「いけない、いけない。もう少し集中しないと」

 

 マナカちゃんのことは大事だけど、今は仕事中である。今は大したことなくても

いつ、大きな失敗をしでかしてしまうか。それで店長さんと店員さんに迷惑を

かけてはいけない。

 

「それにあまりに問題起こしてクビにされても困りますし」

 

 世間慣れしていない私には十分すぎる状況なのです。ここは気をしっかり持たなくては。

 

「マナカちゃんのためにもがんばります」

 

 と、独り言のように呟いて気合を入れて振り返ると、店員さんが私の方を見ていて

あまりの突然さに驚き、文字通り飛び退いてしまったわけで。

 

「な、何かありました?」

「い、いいえ。なんでもないです」

 

 いいえ、の部分がちょっと裏声ってしまい、不自然に取られるでしょうね。だけど

店員さんは気をつかってくれて、その場のフォローをしてくれた。

 

「そろそろ交代しましょう、摩宮さん」

「はい」

 

 何も考えないようにすると、余計なことをイメージしてしまうので、今回こそは

しっかりとこなすことだけを考えるように、残りの時間をがんばった。

 

 この直後にお客さんが大量に訪れたために、終わらせるのにすごい時間が

かかってしまった。私は運の悪さに嘆きつつも、早く終わらせることだけを考えて

動いた。いつもの2時間ほど遅れての帰り道。

 

 普段は仕事が好きでこれくらい遅れても何ともなかったけど、家でマナカちゃんが

一人で待っているかと思うと、そういう気持ちが薄らいでいたような気がします。

 

「そうだ」

 

 途中でケーキ屋さんを見つけた私は、前にマナカちゃんが好きだと言っていた

ショートケーキでも買っていってあげようと思い立ちました。

 店内は洒落ていて、すごく明るく綺麗な中で甘い香りが立ち込めていて。

それも、甘すぎず上品な匂いって感じが好きだと思えました。

 

「これ一つください」

 

 

「やだ!」

 

 帰ってきて、ケーキを置き、二人向かい合って話をしていたら、嬉しそうに

ケーキを突いていた、マナカちゃんの手が止まって険しい表情に変わった。

 

 このまま人と関わらないで過ごすと困るかと思って、何も考えずに学校へ

行かない?って聞いてしまったためにすっかり機嫌を損ねてしまったという

状態に陥ってしまいました。

 

 思えばこれまで人間関係が嫌で今に至るわけで、行こうって言って行けるはずが

ないのです。そこに考えがいかなかった私は反省をするわけで。

 

 大声を上げて、そっぽを向くマナカちゃんにすっかり警戒されてしまったようです。

そこで、私の中ですぐに浮かんだ案を、恐る恐るマナカちゃんに提示してみました。

 

 これで、お気に召さなかったら今度こそ嫌われるんじゃないかと心配した私でしたが、

返ってきた反応は。

 

「うん・・・やる・・・」

「本当ですか!?」

 

 やりました!ちょっと照れくさそうに振り返るマナカちゃんのとても愛くるしい姿に

やられそうになるのを、グッと堪えて。

 彼女がやる気になったものは私のお手伝い。つまりは、家のお手伝いと仕事のお手伝い

をしてみませんか、というもの。

 

 いきなり一人で何かをさせるのは彼女にとって他の人の数倍、数十倍の辛さはあるはず。

なので、子供や他の大人たちとの交流を兼ねての体験にはもってこい、のはず。

 

 もちろん、年齢的に働かせるわけにはいきません。あくまでもお手伝い。

そして、手伝わせるのもほんのちょっぴり。無理なものはどんどん削っていきます。

 

「よぉし、マナカちゃん。私と一緒にがんばりましょう!」

「うん」

 

「じゃあ、今からご飯の用意するので・・・」

 

 そう言いかけた時に、マナカちゃんはドキっとすることを私に投げかけた。

 

「嫌いになるわけないじゃん」

「え・・・?」

 

「そんなことじゃ嫌いにはならない」

 

 そういえば、この子は人の目から心を読めるんでした。でも、それ以上に私は

嫌いにならないという言葉に嬉しさを感じて、微笑みながらお礼を言うと。

 

「ほんと、単純なんだから・・・」

 

 と、返した後。私の隣に立って、何かを待っているかのように見上げてくる。

それで、前に買ってあった子供用の包丁のことを思い出して。

 

「じゃあ、じゃがいも剥いてもらっていいですか?」

「わかった」

 

 その後に、二人の稼ぎ頭が揃って帰宅したことに、私とマナカちゃんは一緒に台所から

とてとてと、廊下を早足。迎えてから、機嫌がすこぶるよろしい、私とマナカちゃんの

二人を不思議そうに見る、萌黄とヒトミさん。

 何かあったのかという問いかけに私たちは見つめ合ってから揃って同じことを返した。

 

『ないしょ』

 

 リビングで暖かい料理を口にして、賑やかに食事をする光景に私は今まで夢を

見てきた。その夢を彼女が叶えてくれたのだから、今度は私の番だ。

 そう、心に決めて私はこれからがどうなっていくか楽しみだと感じていた。

 

続く


 
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