注意 本作の一刀君は能力が上方修正されています。
そういったチートが嫌い、そんなの一刀じゃないという方はご注意ください。
≪兄ちゃんとご飯≫
【side 季衣】
僕と流琉は、兄ちゃん達と一緒に陳留へと行き、華琳様との謁見を行った。
僕達は力を認めてもらい、華琳様の親衛隊の隊長という役職に就くことができた。
その時に、華琳様や春蘭様の真名も許してもらえました。
だけど、あの時に聞こえた華琳様の言葉ってなんだったんだろう?
( 「ふふっ。二人とも可愛らしいわね、とても美味しそうだわ♪(ジュル)」 )
美味しそうって、どうゆうことだろ? あとで、兄ちゃんにでも聞いてみよう。
今日は、春蘭様が直々に稽古をつけてくれるらしく、朝から訓練場に来ていた。
離れた場所には、華琳様と桂花ちゃんも見学に来ている。
「でええええええええいっ!!」 ブオオオオーーーーン!!
僕は春蘭様に、渾身の力を込めて岩打武反魔を飛ばす。
岩打武反魔は風きり音をたてながら、春蘭様に向かって一直線に飛んでいく。
しかし春蘭様は、それをよけようともしなかった。
ガキーーーーン!!
「そ、そんな!」
逆に持ってる刀を立てて、それを受け止めてしまった。
そのことに僕が呆けていると、春蘭様がこちらへと向かってきた。
僕はそれに気付き、武器を急いで引き戻そうとしたけど、
「遅い!」
「(ガキンッ!)うわっ!」
すでに春蘭様が接近していて、刀を振り上げていた。
その攻撃を手に持っていた鎖で防ごうとしたけど、それすら弾き飛ばし僕は転んでしまった。
春蘭様はそのまま僕に近づき、手を取って起こしてくれた。
「甘いぞ、季衣。確かにお前の攻撃は重く強烈で、そこいらの者では、簡単に吹き飛ばせるであろう。
しかし、大陸は広い。私のように、その攻撃を受け止められる者もいるだろう。
自分の力を信じることは大事だが、過信してはいかん。」
「・・・はい。」
春蘭様の言葉に、僕はさっきのことを思い出す。
確かに春蘭様は、僕の渾身の一撃を受け止めた。
力なら負けないと思っていた僕は、少なからず落ち込んでいた。
「お前よりも強い奴は、たくさんいる。だが、お前はまだまだのびる。
そやつらに負けぬためにも、季衣よ、日々の鍛錬をしっかりと行うんだぞ。」
「はい、春蘭様!」
春蘭様の言葉に、僕は元気よく返事をした。
「お疲れ様。春蘭、季衣。」
「華琳様♪」
「ありがとうございます、華琳様。」
僕達の稽古が終わるのを見計らって、華琳様が水の入った竹筒を渡してくれた。
「相変わらず、見事な力ね。季衣。」
「でも、春蘭様には敵わなかったです。」
「春蘭も言っていたでしょ。貴方はまだまだ成長するわ。いつか春蘭に追いつく日も来るでしょう。」
「は、はい!春蘭様に追いつけるよう、頑張ります。」
僕は華琳様の激励に嬉しくなり、力強くそう答えた。
「はっはっはっ、その意気だぞ季衣。だが、華琳様の右腕たるこの私だ。そう簡単には、追いつかせんぞ。」
「ちょっと、待ちなさいよ!誰が、華琳様の右腕ですって。華琳様の右腕は、この私よ、私!」
「何だと!華琳様をお守りし、仇名す者を討つ刀たるこの私こそ、右腕にふさわしいだろう。」
「ふん、刀と刀をぶつけ合うのだけが戦じゃないのよ。国の行く末を左右する政も立派な戦い。
そして、その大事な役目を任されている私こそ、華琳様の右腕にふさわしい人間よ。」
「私だ!」
「私よ!」
春蘭様のちょっとした言葉から、桂花ちゃんとの言い争いが始まってしまった。
華琳様はいつものことなのか、呆れた様な顔でそれを見ていました。
「ふん、春蘭。あなた、北郷に負けたくせに、よくもまあずうずうしくも右腕なんて言えるわね。」
「なっ!」
「か、華琳様。兄ちゃんが春蘭様に勝ったって本当ですか?」
桂花ちゃんの言葉に、僕は思わずそのことを質問してしまった。
「あら、そういえば季衣は知らなかったわね。
ええ、確かに一刀は、一度手合わせということで戦って、春蘭に勝っているわね。」
僕達も助けてもらったから、兄ちゃんが強いのはわかってたけど、まさか春蘭様より強いなんて思わなかった。
僕がそのことに驚いていると、今度は春蘭様が言い返していた。
「くっ、ならそっちこそ、貴様が思いつかなかったすごい案を、北郷が献策したではないか。
北郷さえ考えつく様な案を思いつかずに、よくあれだけ言えるな。」
「なっ!」
「華琳様?」
「これも本当よ。今、陳留で行われている大規模な政策は、一刀の案によるものが多いわね。」
政のことは良くわからないけど、華琳様がここまで言うんだから、すごいことなんだってことはわかる。
僕はその話を聞いて、兄ちゃんがとてもすごい人なんだと感心していた。
「じゃあ兄ちゃんって、強いだけじゃなくて、頭も良いんですね。」
「ええ、そうね。あら?じゃあ二人の話を総合すると、一刀が私の右腕ということになるのかしら?」
「「か、華琳様~!!」」
華琳様が楽しそうにそう言うと、春蘭様達は泣きそうになっていた。
そんな風に兄ちゃんの話をしていると、
「おーい、華琳―!」
城の方から、ちょうど良く兄ちゃんがやってきた。
「あら、一刀じゃない。どうかしたの?」
「ああ、警備隊ついての報告書を持ってきたんだけど、執務室に華琳がいなかったからさ、それで話を聞いたらここにいるって言われてね。」
「あら、それは悪いことをしたわね。」
「別に構わないよ。ところで、春蘭と桂花はなんで俯いてんだ?」
「あ!兄ちゃん、今は・・・」
そう言いながら、兄ちゃんは二人に近づいて行った。
僕が止めるのも間に合わず。
「「貴様(アンタ)の・・・」」
「え?」
「「せいだーー!!!」」
ドグシャ!!
「何がーー!!?」
兄ちゃんは二人の拳をくらって吹っ飛んでいた。
「それじゃ、報告書は後で読ませてもらうわ。」
「いつつ、ああ、よろしく頼む。」
兄ちゃんは殴られた所をさすりながら、そう答えた。
「夕刻頃には終わるでしょうから、それまでは自由にしてていいわよ、一刀。」
「お、マジ? やったね♪」
兄ちゃんは急なお休みをもらえたみたいで、とても嬉しそうにしていた。
(そういえば、僕も午後からはお休みをもらってたっけ。)
そう思った僕は、
「ねえ、兄ちゃん。時間があるなら、一緒にご飯食べにいかない?」
と、兄ちゃんを食事に誘うことにした。
「季衣とか。そうだな、そう言えば忙しくて一緒に食事したことなかったな。よし、食べに行くか。」
「本当?やった♪」
兄ちゃんと食事に行けることになり、僕は飛び跳ねて喜んだ。
「あっ、華琳様達もどうですか?」
「せっかくのお誘いだけど、悪いわね。これから少し用事があって、あまり時間がないのよ。」
「私も華琳様と一緒よ。」
「すまんな、季衣。私もこの後、調練の予定が。」
僕は兄ちゃんだけでなく、華琳様達も誘ってみたが、みんな用事があるらしく、申し訳なさそうにしていた。
「そうですか、残念です。」
「ふふっ、また後で誘ってちょうだい。季衣、今日は二人で楽しんできなさい。」
「はい、華琳様♪」
華琳様の言葉に、僕は元気よくそう返事をした。
そして僕と兄ちゃんは、町へとやってきた。
あたりは昼時ってこともあって、とても賑わっていた。
そしてあちこちのお店からは、美味しそうな匂いが漂ってきていた。
「わあー、どのお店も美味しそうだなー。兄ちゃん、早く行こうよ。」
僕はそんな中を、どのお店にしようか迷いながら、後ろからついてくる兄ちゃんを急かす。
「季衣、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。」
「だって、兄ちゃんと初めてご飯食べるんだもん。もう待ちきれないよ。」
「ははっ、それは嬉しいな。よし、今日は俺がおごってやるから、好きなだけ食べていいぞ、季衣。」
「えっ、本当?ありがとう、兄ちゃん♪」
思わず僕は、兄ちゃんに抱きついて喜んでしまった。
兄ちゃんも嬉しそうに、僕の頭を撫でてくれた。
「じゃあ兄ちゃん、ここにしよう。」
そういって僕は、よく行っている拉麺屋の前まできた。
そこに着くと、なぜか兄ちゃんは看板を見上げたまま固まっていた。
「・・・拉麺、弍楼。」
「どうかしたの、兄ちゃん?」
「いや、たぶん気のせいだ、入ろう。」
そう言って兄ちゃんは、僕の背中を押す様にして店の中へと入った。
「いらっしゃい!お、嬢ちゃん、今日も来てくれたのかい。」
「うん。だってここの拉麺、美味しいんだもん。」
「嬉しいこと言ってくれるねー。今日は兄ちゃんとも一緒かい。まあ、座りな。」
店のおっちゃんが元気よく声をかけてきてくれ、僕らはそのまま空いてる席についた。
「へえ、結構繁盛してるんだなぁ。」
「ここの拉麺美味しいし、量も多いんだ。ちょっと注文の仕方が変わってるけど。」
「注文の仕方?」
兄ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
まあ、初めは僕も戸惑ったもんね。
「先に僕が注文するから、それを真似してみてよ。」
「あ、ああ。」
そう兄ちゃんに言うと、僕はおっちゃんに向かって注文をした。
「弐楼拉麺特盛、全部ましまし泰山で!」
「あいよ。全部ましまし泰山だね。」
「ねえ、変わってるでって、兄ちゃんどうしたの?」
僕が注文をして兄ちゃんの方をみると、なぜか兄ちゃんは頭を抱えて机に突っ伏していた。
「頭痛いの?」
「いや、大丈夫だよ季衣。色々な感情に整理をつけていただけだから。」
「?」
兄ちゃんはよくわからないことを言っていたけど、体には特に問題ないみたいで、安心した。
「じゃあ俺は、弐桜拉麺のヤサイアブラで。」
「あいよ。」
「兄ちゃん、よく別の注文の仕方わかったね。ここにきたことあったの?」
「いや、ないよ。ここには、ね。」
なぜか兄ちゃんは、疲れ切った顔をしていた。
本当にどうしたんだろ?
「あい、おまちどう!」
そうしていると、僕達の前に拉麺がやってきた。
僕がそれを食べようとすると、なぜか兄ちゃんが僕の拉麺をじっと見ている。
「何、兄ちゃん?」
「季衣。それ、食べられるのか?」
「え?これくらい食べた内にも入らないよ。それより兄ちゃんこそ、そんな量で足りるの?」
「は、ははは、大丈夫。十分すぎるくらいだから。」
兄ちゃんは、顔を引き攣らせながら笑っていた。
さっきから、変な兄ちゃんだな。
僕達は拉麺屋を後にして、また町を歩いていた。
あの後僕は、おかわりを繰り返して、同じのを3杯食べた。
いつも食べているのと同じはずなのに、今日は特別美味しく感じたからだ。
(兄ちゃんと一緒だからかな?)
僕は隣を歩く兄ちゃんのことを見ながら、そう考える。
なんでかはわからないけど、なんとなくそうなんだということはわかる。
そんなことを考えていると、またお腹がすいてきた。
「兄ちゃん、次はあっちの屋台にいこう。」
「いいっ!?まだ食べるのか?」
「まだまだ入るよ。さあ、早く行こう。」
なので、兄ちゃんの腕を引っ張りながら、次の屋台へと向かっていった。
【side 一刀】
あの後俺達(というか季衣)は、屋台を十軒ほどはしごし、その先々で山のように食事をした。
季衣のお腹が満足するのに反して、俺の懐はひもじくなっていった。
しかし、一度おごると言った以上、今さらそれを撤回するわけにはいかない。
それは兄として、なにより男として、格好がつかない。
「兄ちゃん、今日はありがとう。」
そんな季衣は満足したのか、笑顔でお礼を言ってきた。
「どういたしまして。季衣が喜んでくれて良かったよ。」
(まあ、季衣の笑顔が見れたし、これくらい安いもの、なのかな?)
俺はそう考えて、自分を納得させることにした。
空になったはずの財布が、妙に重く感じたが。
「ふあ~。」
お腹が一杯になった俺は、連日の政務疲れもあり、眠気が襲ってきた。
「兄ちゃん、眠いの?」
「ん?ああ、お腹が一杯になったら、なんだかね。」
「じゃあ、僕良い所知ってるから、そこにいこう。」
「え、ちょ、季衣。」
季衣は俺の手を引っ張りながら、その良い所へと案内し出した。
町を出て、森に入り、しばらく歩くと、ちょっとした小川の近くにでた。
町から離れたこともあり、とても静かで落ち着く場所だった。
「へえー、良い場所だな。」
「訓練の帰りに、たまたま見つけたんだ。」
季衣は自慢げにそう答えた。
「それじゃ、ちょっと休むか。」
俺はそう言って、近くの木に寄りかかるようにして胡坐をかいた。
「よいしょ。」
「あの、季衣さん?」
「うにゃ?」
「何をしておられるんですか?」
「僕も休憩♪」
なぜか季衣は、俺の足の間に腰をおろし、寄りかかるように背中を預けてきた。
「座りづらくないか?」
「ううん、大丈夫。温かくて、とっても気持ちいいよ。」
「ならいいけど、つらくなったら言えよ。」
「ありがと、兄ちゃん♪」
季衣が喜んでるならいいかと納得し、そのまま二人でまったりとする。
その内心地よい風も吹き、だんだんと瞼が重くなってきた。
季衣の様子をみると、
「す~、す~。」
そんな可愛らしい声をだしながら、すでに眠っていた。
俺もそのことを確認すると、瞼の重さに抵抗することをやめ、そのまま目を瞑った。
「それで、こんな時間まで季衣を連れ出して、どこで何をしていたのかしら、一刀?」
俺は玉座の間で正座をし、華琳達に囲まれていた。
季衣は少し離れた所で、その様子を窺っていた。
実はあのまま俺達は熟睡してしまい、目が覚めた時には夜にまでなっていたのだ。
そして夕方になっても現れない俺に、華琳が調べさせた結果が今の状態である。
「あー、えーと、そのー、何といいますかー。」
さすがに、昼寝をしてそのまま寝過ごした、なんていったら大目玉をくらってしまう。
何か良い言い訳がないか必死に考えていたのだが、そんな嘘をつこうとした俺に、天罰が下される。
「華琳様、兄ちゃんが遅刻したのは、僕のせいなんです。」
「季衣の?」
季衣は俺が困ってると思い、なんとか庇おうとしてくれているみたいだ。
その優しさが、逆に俺を地獄に追い込むとは知らずに。
「はい、僕が兄ちゃんの上に乗ったまま寝ちゃったからなんです。」
「一刀の上に乗って!?」
(あれ、季衣さん?間違いではないですが、ちょっと言い方がまずいのでは?)
季衣の発言に、まわりに何かおかしな空気が流れて行く。
「季衣よ、それはどういうことだ?」
「兄ちゃんに、お腹一杯食べさせてもらったら、なんか眠くなってきちゃって。」
「腹一杯に、」
「食べさせられた、だと。」
さらに答えていく季衣だが、なぜだろう、何か変な方向に勘違いされている気が。
「き、季衣。アイツに、ひどいことされなかった?」
「ううん、兄ちゃん優しくて、とっても気持ち良かったです。」
「「「「なっ!?」」」」
(あ、俺の人生オワタ。)
その瞬間、俺は死を覚悟した。
なぜなら、震える4人の背中に鬼を見たからだ。
「季衣、もういいわ。色々辛いだろうけど、今日はしっかりと休みなさい。」
そんな、華琳の優しい声が聞こえる。
「?よくわからないですけど、わかりました。じゃあ兄ちゃん、またね。」
「あっ、季衣待ってくれ!この状況をなんとか(バタンッ)・・・・・。」
俺が呼びとめる間もなく、季衣は部屋から出て行ってしまった。
俺は扉に手を伸ばした姿勢で固まっていたが、次の瞬間には全身が震えあがっていた。
「さて、一刀。何か言い残すことはないかしら?」
「我らも鬼ではない、それくらいの慈悲はやろう。」
そこに、4匹の鬼がいた。
「え、えーと、せめて釈明の機会を。」
「ふん、つまらない最後の言葉だったわね。」
「ちょっ、ちが!!」
「北郷、死ねえええーーー!!!」
「ぎゃあああーーーーーーーーー!!!!」
そして、その日の城には、俺の悲鳴が木霊したという。
≪兄様とご飯≫
その日、俺は自室で仕事をしていた。
俺の出した天の知識に関する政策も、本格的に動き出した。
行うにあたって、充分な検討を華琳や桂花がしてくれたが、それでも問題は起きてしまうもんだ。
今俺がしてる仕事というのが、その問題に関して、他の天の知識で何か使えるものがないかというものだ。
しかし、政治や経済なんかに詳しいわけでもない俺は、頭から煙を出しながら、竹簡とにらめっこが続いていた。
そんなことをしていると、あたりはすっかり暗くなり、静まり返っていた。
ぐ~~!
「あー、腹減ったなー。」
仕事を始めてから、結構な時間が過ぎており、夕食もまだだったことに気がつく。
「でも、この時間じゃちょっと遅いよな。」
すでに城の食堂は夕食の時間を過ぎているし、町の方もほとんど終わってしまっているだろう。
こういう時、思わず現代の24時間営業のコンビニやファーストフード店なんかを思い出してしまう。
むこうにいた時は当たり前すぎて気付かなかったけど、この時代に来て初めて、恵まれた時代にいたんだと気がつかされる。
ぐ~~!!
と、そんな感傷にふけっていても、やはりお腹は膨れない。
「何か、あまりもんでもないかな。」
何か少しでも腹に入れないともたないと思った俺は、食料を求めて台所へと向かうことにした。
カチャカチャ、カチャカチャ
台所に近づくと、すでに誰もいないはずなのに、食器の音がきこえる。
不思議に思った俺が、中を覗き込むと。
「流琉?」
「兄様?」
流琉が食器を洗っていた。
「どうしたんだ、こんな時間に皿洗いなんかして?」
「いえ、実は季衣が、いきなり私の料理を食べたいって言い出したので、作ってあげてたんです。」
「なるほど、で今は、その片付け中ってわけね。ちなみに、季衣は?」
俺はあたりを見回し、話に出てきた季衣のことを尋ねる。
「季衣だったら、食べ終えた後、お礼だけ言って部屋に戻っちゃいました。」
流琉はそんな親友のことを、あきれたような声で答える。
「ははっ、季衣らしいな。」
「ところで、兄様こそなんで台所なんかに?」
「ん?ああ、実は仕事に夢中になってたら、夕飯を食いっぱぐれちゃってね。で、何か残りもんでもないかなーとか思ってさ。」
「そうなんですか。でも、すでにそういったのは全部片付けられてしまってますよ。」
「えっ、そんなー。」
何もないとわかると、さらにお腹が減ってくる。
俺はショックを受け、近くのイスに力なく座り込む。
そんな俺を見かねたのか、流琉が願ってもない申し出をしてくれた。
「あのー、兄様。もし良かったら、私がおつくりしましょうか?」
「えっ、本当?」
「はい。季衣の料理を作った時の材料が余ってますので、それでも良ければ。」
「良い、良い。全然それでOK。」
「おーけー?」
「ああー、大丈夫とか、問題ないってこと。むしろお願いします。」
「ふふっ、はい。それじゃ、少し待ってて下さいね。」
俺はそんな流琉の申し出を二つ返事でOKすると、さっきまでが嘘のようにご機嫌になった。
トントントントン ジュージャッジャッ
リズミカルな包丁の音や、炒めものをする音が響き、次第に食欲をそそる匂いも漂ってきた。
流琉の手際はかなり良く、その手は止まることなく、流れるように調理を進めて行く。
俺はそんな流琉に感心しつつ、料理が完成するのをおとなしく待つのだった。
しばらくすると、俺の前に美味しそうな湯気を出す、炒飯、青椒肉絲、湯(タン)が並べられた。
「うおー、うまそう。いただき「あら、一刀と流琉じゃない。」華琳?」
俺がこれから食べようとした時、タイミング良く華琳が台所に現れた。
「食事中だったかしら。」
「まあね。そうゆう華琳はつまみ食いに「ちがうわよ。」くるわけありませんよね。」
俺の冗談を、華琳は一睨みで黙らせる。
「この先に資料を取りにいこうとしたのだけど、この明かりがついていたから、気になって覗いてみたのよ。」
「あのー、華琳様。もし宜しかったら、ご一緒にいかがですか?」
「なっ!!」
「あら、いいの?」
「はい、いつもの調子で少し多めに作ってしまったので、残り物のような形で申し訳ないのですが。」
「そういえば、私も夕餉はまだだったわね。匂いや見た目は申し分ないし、それじゃあご相伴に預かろうかしら。」
「はい。それじゃ、すぐに準備しますね。」
そういって流琉は、華琳の分の準備に取り掛かり、華琳は俺の隣の席へと腰をおろした。
「か、華琳。早く資料を取りにいかなくていいのか?」
「急ぎの案件でもないし、誰かを待たせている訳でもないから、少しくらい構わないわ。」
「そ、そうだ。もしかしたら、誰か部屋に訪ねてくるかもしれないぞ。」
「もうこんな時間よ。緊急のことでもない限り、それはないわよ。」
「え、えーと、ああ!こんな遅くにメシ食うとふと「首を刎ねられたいのかしら、一刀?」ごめんなさい。」
俺は、なんとか華琳を部屋に返そうと頑張るが、最終的には絶を首に突き付けられることで終了した。
「一刀、貴方はそんなに私と食事をしたくないのかしら?」
「そ、そんなわけないじゃないですか、華琳様。」
こんな美少女と食事ができるのだ、喜ぶやつはいても、嫌がる奴はいるわけがない。
そう、食事を楽しむだけだったらいいのだが、華琳との場合、それだけではすまない。
俺は、ついこの前のことを思い出す。
季衣との一件で迷惑をかけたということで、華琳達を食事に連れていくことになったのだが、出てきた料理を食べるや否や。
「駄目ね。」
「へ?」
「炒め方が甘いせいで、火の通り方にムラがあるわ。次に味付けね。食が進むように工夫はされているようだけど、そのせいで味が濃く、素材の良さを殺してしまっているわね。」
「なんだと、おめえ!俺の料理にケチをつけようってのか!」
「あわわわ・・・」
華琳がその料理に駄目だしをし始め、店主のおっちゃんは爆発寸前になっていた。
「あら、駄目な所を駄目だと教えてあげているのよ。これはケチじゃなくて、助言よ。」
「なんだとー!」
「そんなこともわからないようなら、すぐに店をたたんだほうがいいわね。」
「か、華琳!」
「出てけーー!!もう、二度とくんじゃねえぞ!!」
とうとう爆発してしまったおっちゃんは、俺達を店の外へと追い出してしまった。
「ああ、ここ安くて旨かったのに~・・・」
「駄目な所を、駄目だと教えてあげたのよ。料理人ならそれを受け入れ、精進すべきじゃないかしら。」
「いや、華琳の言ってることはわかるけどさ。もう少し言い方ってもんが。」
「そんな遠まわしに言っても、しょうがないでしょ。」
「その通りです、華琳様。華琳様に感謝こそすれ、怒るなんて勘違いも甚だしいです。」
「ああ、そこも、変に煽るな!」
「さっきの店主め、華琳様になんて無礼を。叩き斬ってくれる!」
「そっちは落ち着け!!」
華琳はさも当然のように反省してないし、桂花はそれに同調して煽るし、春蘭に至っては、刀を持って殴り込みにいきそうになってるし。
「だけど、あの程度の店が多くあるのだとしたら、陳留を治めるこの私の沽券に関わるわね。
これは、他の店も調査する必要がありそうだわ。一刀、次の店に案内なさい。」
「へ??」
俺が春蘭を抑えている間に、そんな話になっており、俺は顔を青ざめさせた。
「春蘭、とっとと行くわよ。今日は多くの店を回らないといけないのだから。」
「はい、華琳様!」
そういって華琳達は、呆然としてる俺を尻目に、ずんずんと先に行ってしまう。
そんな俺の肩に手を置き、秋蘭が一言、
「あきらめろ、北郷。」
と、それだけ言って、華琳達の後を追っていった。
その後俺は、お気に入りの店など十軒ほど華琳に紹介し、その全てで出禁にされてしまったのだった、
今思い出しても、ダメージがでかい。
それだけ、華琳の料理に対する評価は厳しいのだ。
もし流琉がそんな目にあったら、どんなことになるか。
下手したら、村に帰りますとか言いかねんぞ。
俺は必死に打開策を考えるが浮かばず、とうとう華琳の前にも料理が並べられる。
「お待たせしました。どうぞ召し上がってください。」
「ええ、頂くわ。」
(えーい、南無三!)
俺はもしもの場合、華琳の口を抑えて、この場から連れ去る覚悟を決める。
その後に、お仕置きがあることも込みで。
そして俺は、料理を口へと運ぶ。すると、
「うっまーーーい!!」
「お口にあって良かったです。」
流琉の料理はとても旨く、今までの人生の中でもトップクラスに入る味だった。
俺は夢中で料理を口に運んでいたが、ふと隣の人物が視界に入り、箸が止まる。
その人物は何も言わず、ただ黙々と全ての料理に箸をつけていく。
ある程度食べ進めると、箸を置き、流琉のことを見る。
俺が息を飲む中、華琳がその口を開いた。
「この料理は、すべてあなたが作ったの、流琉?」
「は、はい。」
「素晴らしい腕前だわ。まさかあなたが武だけではなく、こんな才も持ち合わせていたなんてね。」
華琳の口から放たれたのは、賛辞の言葉だった。
「いえ、そんな。」
「謙遜しなくていいわ、流琉。今後はこっちの分野でも、あなたの力を貸してもらえないかしら?」
「は、はい。私なんかの力でよければ。」
「ふふ、ありがとう。それじゃ、それじゃ、せっかくの料理が冷めてしまわない内に、食べてしまいましょう。」
そういって食事を再開する華琳。
俺も最悪の想像が現実にならなかったことに安堵し、流琉の美味しい料理に舌鼓をうつのだった。
【side 流琉】
今私は、兄様と一緒に後片付けをしている。
あの後華琳様は、もう一度私に食事のお礼をしてくれ、そのまま仕事へとお戻りになりました。
片付けは私がやるから、兄様も部屋に戻っていいですよと言ったのだが、ごちそうしてもらったんだから、せめてこれ位は手伝わせてほしいと言ってくたので、今はこうして一緒に片付けをしています。
兄様は、こういう所が本当に優しいと思う。
初めの頃は、私のことを助けてくれた恩人としかみていなかった。
だけど、一緒に過ごしていくうちに、兄様の持つ優しさや温かさに気付き、少しずつ惹かれていった。
今では、兄様がいるとその姿を、無意識に目で追ってしまう自分がいた。
そんな兄様に料理を喜んでもらえ、さらにこうして一緒に片付けをしているのだ、こんなに嬉しいことはない。
私は思わず、顔が緩んでしまった。
「ん、流琉。そんなに嬉しそうにして、どうしたんだ?」
「えっ?あ、その、お二人に料理を気に行ってもらえて良かったなって。」
兄様がいきなり質問してくるもんだから、とっさにそう答えてしまった。
だけど、嘘はついてませんよね。
「ああ、あの料理は本当に旨かったな。流琉は気も利くし、将来良いお嫁さんになるよ。」
「え、ええっ!?」
「てか、むしろ俺が流琉のことをお嫁さんにほしいくらいだよ。なんてね。」
「兄様の、お嫁さん。」
兄様が最後になんか言っていた気がしますが、その前の言葉で私の頭の中は一杯になっていました。
「ただいま、流琉。」
「おかえりなさい、兄様。」
家の扉を開け、兄様が帰ってくる。
私はそんな兄様を出迎えるため、玄関に行く。
「こら、何度言ったら治るんだ。もう兄様じゃないだろ。」
そういって兄様は、私のおでこを指で軽く押す。
「ごめんなさい。あらためて、おかえりなさい、あなた。」
「ただいま、お前。」
私達は、そんな甘い空気を出しながら、家の中へと入っていく。
そのまま私は、途中だった料理の続きを行いながら、兄様に質問する。
「あなた、先にご飯にしますか、それともお風呂にしますか?」
「そうだな、それじゃ。」
「きゃっ!」
いきなり兄様が、私のことを後ろから抱き締める。
「先に、流琉のことから頂こうかな。」
「に、兄様。まだ料理の途中だから、危ないですよ。」
「ほら、また兄様って言ってるぞ。」
「・・・あなた。」
私は手に持っていた包丁を置き、兄様に向き直る。
「愛してるよ、流琉。」
「私もです、あなた。」
どんどんと兄様の顔が近づいてくる。
・・・る、・・る
私は目を瞑って、その時を待つ。
・・・るる、るる。
あと少しで、触れ合う。
「流琉っ!!」
「えっ!?」
私が目を開くと、目の前には心配そうな顔でこちらをみている兄様がいた。
まわりはもちろん、さっきまでいた台所だ。
そこまで確認し私は、さっきまでのことは全部自分の妄想だと気がつく。
だんだんと我に返ってくると、なんてことを考えていたのだろうと恥ずかしくなり、俯いてしまった。
「流琉、大丈夫か?なんか、ぼーっとしてたけど。」
「だ、大丈夫です。」
兄様のそんな優しさが、今は心に痛いです。
まさか、あんな妄想をしていたなんて言えるわけもなく、私はさらに俯いてしまう。
「顔も真っ赤だし、風邪でもひいたんじゃないか?」
「えっ、兄様?」
そういって兄様は、私の前髪をかきあげる。
そしてそのまま、
「(ピタッ)うーん、ちょっと熱いな。」
(に、に、に、兄様のおでこが、わ、わ、私にーー!)
自分のおでこと、私のおでこをくっつけてきたのだ。
「あれ?さらに熱があがってきたかな。」
(兄様の顔がこんなに近くに。あれ、これも私の妄想?っていうか、どこからが本当なんだろう?)
すでに私の頭は茹であがってしまい、何も考えられなくなっていた。
「流琉、やっぱり少し熱っぽいぞって、顔も真っ赤じゃないか! 本当に大丈夫か?」
兄様がおでこから離れると、私の顔見て、びっくりしていた。
「そ、そそそ、そうですね。風邪かもしれないので、これで休ませてもらいますね。兄様、おやすみなさい。」
「あ、ああ、おやす」
すでに洗いものは終わっていたため、私は兄様の返事も聞き終わらない内に、逃げるようにその場から離れた。
そのまま私は自室へ戻り、赤くなった顔を隠す様に、寝台へと潜り込む。
初めこそ照れと恥ずかしさで一杯だったが、だんだん時が経ってくると、嬉しさがこみあげてきた。
(ここに、兄様のおでこが。)
私はそう思いながら、自分のおでこに手を当てる。
その度にあの時のことを思い出し、顔が綻んでしまうのを止められない。
私は寝るまでの間、何度もそんなことを繰り返し、幸せな気持ちのまま眠りにつくのだった。
大好きな兄様の夢が、見られるように願いながら。
あとがき
sei 「第10話、季衣と流琉の拠点パートをお送りしました。
二人とも食のイメージが強かったので、それをテーマに書いてみました。
食の部分、あんまり関係なくね?というツッコミは置いといて下さいね。
季衣と流琉にの役職については、初めでさらっと書きましたが、原作と同じ華琳の親衛隊にしました。
決して、設定を考えるのが面倒とかいうのではなく、原作の設定を大事にした結果ですよ。
さてさて、それでは今回のゲストを紹介します。
今話の主役の一人である、この方に来てもらいました。どうぞ!」
流琉「どうも、今回のゲストの流琉です。よろしくお願いしますね。」
sei 「か~わ~い~い~♪」
流琉「ええっ!?」
sei 「あ~、こんな妹ほしかったな~。」
流琉「せ、sei さん?」
sei 「ああ、すいません。少しトリップしてしまいました。
あらためて今回のゲストは、恋姫の妹にしたいキャラ筆頭、流琉ちゃんでーす。」
流琉「え、えーと、それ何ですか?」
sei 「え、私の独断と偏見ですけど。」
流琉「・・・sei さんに聞いた私が馬鹿でした。」
sei 「とりあえず、先を進めましょうかね。」
流琉「今回は私と季衣の話でしたけど、季衣の話に出てきたラーメン屋さんって。」
sei 「ん?ああ、あのお店のことですか。ラーメン屋って考えたら、ふっと思いついた店名です。」
流琉「あれって、ラーメン二」
sei 「拉麺弍桜です。」
流琉「だから、じ」
sei 「弐桜です。」
流琉「・・・・・」
sei 「あれをどう読んだか知りませんが、この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありませんから!」
流琉「・・・そ、そうですか。」
sei 「話題を変えましょうかね。」
流琉「あのー、私がなんか恥ずかしい妄想してるんですけど、あれって本来稟さんの役じゃ。」
sei 「確かに、妄想といったら稟なんですけどね。
だから過激な表現を抑えたり、鼻血を吹きだして倒れたりなんてしてないじゃないですか。」
流琉「で、でも、なんで私なんですか?」
sei 「いやー、なんとなく流琉って、ああ言うあま~い妄想癖がありそうだなーって思って。」
流琉「そんなことないです!」
sei 「本当に?」
流琉「そ、それは・・・。」
sei (ニヤニヤ)
流琉「あー、もうこんな時間じゃないですか。今回はこれで終わりですね。」
sei 「逃げた。」
流琉「sei さん、次回はどんな話なんですか!!」
sei 「そんな必死にならんでも。
まあ次回は、動きだす黄巾党とその裏に渦巻く陰謀に、一刀達はどう立ち向かうのかって話ですね。」
流琉「・・・それって、前回のコメントにまんまありましたよね。」
sei 「格好良かったんで、パク、いやいや、引用させてもらいました。内容的にも、ほぼこの通りですし。」
流琉「はあー、後で怒られても知りませんよ。」
sei 「まあ、なるようになりますよ。」
流琉「それでは、次回も兄様の活躍をご期待下さい。」
Tweet |
|
|
35
|
3
|
追加するフォルダを選択
一刀達の元に、季衣と流琉という新しい仲間が加わった。
そしてここでも、一刀はいつもの種馬ぶりを発揮するのだった。
今回は季衣と流琉の拠点パートです。
まあ、ぎりぎり1週間以内ということで頑張ったかな?