No.480345

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海9 貧乳ツインテールっ子

気が付くと木曜日に。
まあ良いさ。
今回のニンフ編で海第二グループが終わります。
次回からは日和たちの登場する第三グループ。

2012-09-06 01:02:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1665   閲覧ユーザー数:1570

そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海9 貧乳ツインテールっ子

 

 

「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」

 楽しいものになる筈だった海でのバカンス。

 イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。

 おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。

 ところがだ。

 それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。

 たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。

 だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。

 俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。

そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。

 

「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」

 綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。

 何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。

 

「また……羽がなくなっちゃった。やっぱりポンコツなんだ、私は……」

 

 ニンフは砂浜に体育座りの姿勢でうな垂れて落ち込んでいる。

 そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのはそはらだった。

 俺達は半死半生の身でようやくこの島へと逃げ延びて来たのだった。

 

 

『英くんに手を出そうとする智子ちゃんも、その智子ちゃんの胸に揺れで偶然触れてしまった英くんも地球もろとも消し飛んでもらうしかないわね。地球もろともっ!!』

 会長と智子の守形先輩を巡る争いが当事者間で済む筈がなかった。会長は空高く、高度千m以上に飛翔するとくっ付けた両の手の平から赤いエネルギー波を打ち出した。

 そのエネルギー波は禍々しく確かに地球の核まで到達して砕いてしまいそうだった。

『体もってよね……桜井拳3倍っ!!』

 対する智子は桜井家に伝わる奥義を発動して一時的に自分の持つ気の総量を3倍まで引き上げる。

『きゃ・る~~~・ん・波~~~~~~~~~っ!!』

 智子は大空にいる会長に目掛けて同じ様な構えからオレンジ色のエネルギー波を打った。

 2つのエネルギー波は両者の中間でぶつかり、押し合いを始めた。

『私のギャリック砲にそっくりですって!?』

『いっけぇ~~~~っ!!』

 拮抗する両者のエネルギー波。

 それを見た瞬間、俺とニンフ、そしてそはらは大きな決断を迫られた。即ち海と空とどちらに逃げるかを。

『わたしは智子ちゃんに賭けるよっ!』

 言いながらそはらは小型の脱出用ポットに乗り込んで洋上へとその身を移した。

『だったら、私達は……』

『おうっ!』

 顔を向けて頷きあうとニンフは俺を抱きかかえると大空へと飛び立つ。

 凶悪無比な会長が智子に必殺技比べで負けるとは思えなかった。そはらには悪いが確率で言えば99%会長が勝利する筈。

 それにもしもの際には俺とニンフが地球最後の生き残りとして宇宙で暮らしていかないといけない。地球という星の存在を完全に消してしまわない為にも俺達は生き延びなければならなかった。

『うふふふふ~。どうやらこの勝負、私の勝ちのようね~~。地球の残骸を墓標に英くんも智子ちゃんも安らかに眠って頂戴ね~♪』

 会長のギャリック砲の威力の方が上だった。ぐんぐん智子のエネルギー波を押し込めている。迫り来る地球滅亡のカウントダウン。

『ニンフ~~っ! もっとスピードを上げて宇宙に向かって飛ぶんだ~~っ!』

『うんっ!!』

 懸命に逃げる俺とニンフ。だけど……。

『桜井拳4倍よぉ~~~~っ!!』

 智子の大声が島1つ見えない一面真っ青な洋上に響き渡る。そして、限界を超えた更に限界を超える超巨大な気の放流が力と変換されて智子の手から放たれた。

 それまで会長が優勢だった形勢は一気に逆転。強大なエネルギーの渦がギャリック砲を粉砕して会長を飲み込んだ。

『ぎゃぁあああああああああああああぁっ!?!?』

 きゃる~ん砲は会長を飲み込み、そして会長を黒焦げアフロに吹き飛ばすと更に上空に向かって突き上げてきた。

 そう。俺とニンフが逃げている更なる上空目掛けて。

『ニンフ……緊急回避だぁあああああああぁっ!!』

『えっ? 嘘ぉおおおおおおおおぉっ!?!?』

 会長が負けると思っていなかったニンフは完全に油断していた。緊急回避で身を捻るがエネルギー波は俺達の真横を突き抜けて宇宙に向かって駆け上っていく。

 俺は間一髪で避けられたと喜んでいた。けれど、実際はそうではなかった。

「は、羽が……私の羽が消し飛ばされちゃったわよぉ~~っ!!」

 ニンフの翼はきゃる~ん波を避けた際の接触でほとんど根本から消し去ってしまっていた。

 そして翼を失ったということは、当然飛んでいられなくなることを意味していた訳で。

『おっ、落ちるぅうううううううぅっ!?!?』

『嫌ァアアアアアアアアァっ!?!?』

 俺達は超高高度からのダイビングを経験し、人型の穴を地面に開けながらこの島へと着陸したのだった。

 

 

「翼を失って飛べないし、能力がダウンしているから日本にいるアルファまでSOS信号を送ることも出来ない……」

 島に到着、というか落下してからニンフはずっと元気がない。彼女の身を包む白いスクール水着の背中部分ばかりをずっと見ている。

「私、頭脳戦用のエンジェロイドなのに勝敗の行方は見間違うし、智子の攻撃も避けられなかったし……」

 さっきからずっと自分の失敗を悔やんでいる。

 ニンフには割とこういう面がある。落ち込み始めると長い。というか、ネガティブ・スパイラルに陥ってしまう。

 負の連鎖を断ち切る為には多少強引にでも励ましてやらないといけない。俺はニンフの肩に手を置いて正面から話し掛けた。

「まあ、気に病むな。俺達2人とも今こうして助かったのだし」

「でも、私エンジェロイドなのに……」

 ニンフは落ち込んだまま。手を振り解いたりはしないが心は離れている。

「そう言えば前も同じ様に悩んでたよな。翼をなくしてエンジェロイドとしての存在意義がどうだのと」

「…………そう言えばそうよね。結局あの時は、私が悩みから立ち直る前に翼が再生しちゃったから問題自体が有耶無耶になっちゃったし」

 ニンフは俺を見上げた。その瞳は少しだけ切なげで、でも今までよりは力強い光を放っていて。

「また、同じ失敗を繰り返しちゃ駄目よね」

「そ、そうだぞ。俺は別にニンフがエンジェロイドとやらの本分をまっとうして生きるべきなんだなんて考えてないし」

 ニンフは小さく笑ってみせた。

「地上に降りてもう随分経つんだし……ニンフにもあるんだろ? エンジェロイドとして以外の生き方が」

「うん。あるよ。私にもなってみたい生き方が」

 ニンフは肩の上に乗っている俺の手に自分の両手をそっと添えた。そして瞳を潤ませながら言葉を続けた。

 何か、急に胸がドキッとしたぞ。

「でもね、その生き方は私1人じゃ叶えることが出来ないの」

「そ、そうなのか……っ」

 今のニンフを見ているとスゲェドキドキする。な、何でだ?

「私の望む生き方には智樹……貴方が必要なの」

「そ、そうなんだ」

「うん。智樹じゃなきゃ…駄目なの」

 コクンと頷いてみせるニンフ。やばい。胸の鼓動が何だか知らないが高鳴って仕方ない。

 どうしちまったって言うんだ、俺は?

「私がなりたいもの。それはね……」

「お、おう」

 胸が苦しい。でもニンフから目が逸らせない。そんな状況の中、未確認生物2号はその小さくて可愛らしい唇で言葉を紡ごうと……

「私は、智樹のお嫁さ……」

 した所で巨大な爆発音によって遮られてしまった。

 地球が爆発したんじゃないかと思うぐらいに大きな爆発音だった。

「智子と会長の仕業だな。アイツら、本当に地球を滅ぼすつもりなんじゃねえか」

 この島から見えるのは一面の海だけ。視界に映る半径数十キロ以内に2人の戦闘の痕跡は確認できず。

 けれど、それでもあの爆発は2人の争いによるものだと確信を持てた。だってそういう奴らだから。

「はぁ~。また伝えそびれちゃった。私っていつもこんなんばっかり」

 ニンフはガックリと首を落としている。

「まあ、今はとにかく生き延びる為の方策を講じるのが第一よね」

 首を左右に振りながらニンフが立ち上がる。ちょっと残念そうな表情を浮かべながら俺に今後の成すべきことを伝えてきた。

「智樹。まずは食料と水の確保。そして夜に体を休められる場所を用意しましょう。数ヶ月単位のサバイバルになるかもしれないわよ」

「そうだな」

 ニンフが何故ちょっと残念そうな表情をしているのか。その問いを追求することを一時止めて俺達はサバイバル生活の準備に取り掛かったのだった。

 

 

 その日の夜。

 ニンフと協力して建てた木と葉っぱの簡易住居で俺は1人休んでいた。

「エンジェロイドは眠らない。こういう時になるとはっきり思い知らされるよなあ」

 ニンフが今横にいないという事実を強く意識する。

 普段俺はニンフやイカロスと一緒に暮らしている。けれど、2人の部屋は1階で俺の部屋は2階。四六時中顔を合わせている訳じゃない。

 特に夜は下の階を気にすることなく1人で眠っている。だけど、俺が眠っている横でニンフ達はずっと起きている。1階と2階の隔てがその差異を視覚的にも遮断し、認識も曖昧にぼかしてしまうのだ。

 でも、こんな2人が並んで寝るのが精々の小さい家だとニンフが夜になっても寝ないという事実を嫌でも認識してしまう。

 人間とエンジェロイド。両者の間に存在する差を認識してしまうと俺の心は何か嫌な風にざわめいてしまうのだ。

「ニンフ……どこ行ったのかな?」

 横に転がっていられなくなった俺は立ち上がって家の外に出る。胸のざわめきを消すべく小走りにニンフを探す。

 

 目的の人物は間もなくみつかった。満天の星空を見上げながらニンフは砂浜に立っていた。

「よぉ」

 内心の動揺を悟られないように出来るだけ自然に声を掛ける。

「こんな時間にわざわざ起き出して来るなんて。不安で眠れなくなったの?」

 振り返ったニンフには俺の不安はお見通しのようだった。優しく微笑み掛けて来た。

「分かるのか?」

「普段だったらぐっすりで、朝まで目を覚ますことがないじゃない」

「そうか?」

「智樹の生活リズムぐらい十二分に熟知しているわよ。だって、同じ家に住んでいる家族なんだもん」

 ニンフはもう1度笑みを重ねた。

 ニンフは俺よりも俺の生活のことをよく把握しているらしい。

 それが分かると……何かホッとした。人間とエンジェロイドという区分じゃなくて、家族っていうグループで俺達の関係が一括りできることに安心する。

 そうだ。俺とニンフは家族なんだ。変な不安に駆られる必要なんてないんだ。

 

「でもね、今私が喋ったのは同居人という意味合いが強い家族。だけど昼間に智樹が聞いた私のなりたいものはね……ちょっと意味が違う家族、かな?」

 ニンフは急にモジモジと体を揺らし始めた。

「違う家族?」

 何も分からないふりをしながらニンフに聞き直す。

 でも、鈍い俺でもニンフが何を言おうとしているのかは何となく予想が付いた。

 同居人という意味じゃない家族っていうのはきっと……。

「うん。それはね……」

 ニンフはスクール水着の両肩の布地を手に掴むと横に広げ地面へと下ろした。

 パタッという小さな音と共に砂浜に落とされたニンフの水着。

 水着が脱げたということはつまり、俺の目の前にいるのは……。

 

「私はね、智樹のお嫁さんになりたいってずっと思ってるんだよ」

 

 月明かりに照らされた白い綺麗な裸身を晒しながらニンフは照れ臭そうに言った。

 スゲェ…綺麗だった。

 胸が小さいとかそんなことどうでも良くて……おとぎ話に出て来る妖精(ニンフ)の名に恥じない綺麗な体をしていた。

「こんな状況で言うのはおかしいって自分でも分かっているんだけど。でも、逆にこんな状況にならないと言う勇気が出ないと思うから言うね」

 白い肌に頬だけ赤く染めた妖精の名を持つ少女は、その小さな体からは想像も出来ない大きな衝撃を俺の心へとぶつけて来た。

 

「私、智樹のことが好き。ずっと前から大好き。だから……私を智樹のお嫁さんにしてください」

 

 ニンフにプロポーズされて俺の思考は瞬間的に麻痺してしまった。ニンフの言葉はそれぐらい衝撃的だった。

 俺はこれまで好きとか嫌いとか考えないようにして来た。ニンフやイカロス、アストレアやそはらや日和に囲まれた生活がとても楽しかったから。好きとか嫌いとか、彼氏とか彼女とか考え出したらこの快適空間が一気に崩れてしまう気がしたから。

 楽園の中にあり続けたかった。だから特定の誰かを好きになって他の子と距離を置くのを避け続けてきた。

 でも、ニンフの告白は俺のそんな優柔不断な態度に終止符を打つものだった。

 

「お、俺は……っ」

 何と答えるべきなのか自分がよく分からない。

 ニンフのことは嫌いじゃない。好きだ。それははっきりしている。

 けれど、その好きがイカロスやそはらに対する好きとどう違うのか自分で自信が持てない。LikeなのかLoveなのか。そんな違いが自分で分からない。

「突然告白されて智樹も戸惑っているよね。私もアルファやそはらを抜け駆けしたことを後ろめたく思ってるし。でも、でもね…」

 そう言ってニンフは俺の右手を取って自分の左胸に当てた。

「あ……っ」

 生で感じるニンフの胸。小さいけれど柔らかい確かに女の子の胸だった。

 俺の意識が右手の平に集中し、思考が奪われていく。心臓の高鳴りだけが耳に響く。

「私はね、ずるいと思われようと智樹のことが好きなのっ! 何が何でも智樹のお嫁さんになりたいのっ!」

 ニンフは泣いていた。泣いてしまうほど必死に訴えていた。

 その様子は俺の心を激しく突き動かした。そして手の平に伝わる感触は俺の理性を悉く溶かしていった。

「その、さ」

「何?」

 ニンフが左手で涙を拭きながら聞き返す。

「夫婦にも色々あると思うんだ。十分に愛し合ってから結婚する人もいれば、夫婦になってから強い愛情の絆を結んでいく場合もあると思うんだ」

「人間の恋愛はよく分からないことも多いけど、色々なケースがあると思う」

 大きく息を吸い込む。飲み込んでしまいそうな言葉を空気と共に一気に押し出す。

「だからさ……恋愛経験に乏しい俺達は、夫婦になってから愛情を沢山育むっていうのも悪くないと思うんだ」

「そっ、それって!」

 ニンフの声が上ずった。そんな彼女の期待に応えるべく俺は自分の答えを示した。

「俺と、結婚して欲しい。ニンフの新しい生き方を俺も一緒に歩みたいんだ」

 ニンフに誠意を込めてプロポーズの返答をする。俺の方からプロポーズし直すことでこの結婚は両者の合意であることを強くアピールする。

 本来なら恋人同士になる所でいきなり夫婦。だけど素直になれない俺達はこうやって結婚という形から入った方がきっと上手くいく。そう思う。

「私、人間の愛の営みってどうすれば良いのかよく知らないから……智樹が一から全部教えてよね」

 潤んだ瞳のぽぉ~とした声のニンフの声にハッとする。そう言えば裸のニンフの胸を掴んだままであることに。

「それは、構わないのですが……よろしいのですか?」

 俺達、今日付き合い始めたばかりなのにそんな一気に進んじゃって。

「私達、もう夫婦でしょ。それとも、智樹は私を捨てるつもりなの?」

 ニンフが捨てられた子犬みたいな悲しげな表情で俺を見上げている。今にも泣き出してしまいそう。結婚早々嫁さんを不安にさせてしまった自分を反省する。

「捨てる訳がないだろ。何たって俺達は天下無敵の新婚さんなんだからよ」

 両腕をニンフの背中に回してキスの体勢を取る。

「うん。これから2人でいっぱいいっぱい幸せになっていこうね♪」

 ニンフも俺の首の後ろに両腕を回して爪先立ちの姿勢となった。

 ゆっくりと重なる唇と唇。

 俺達の夫婦としてのスタートラインだった。

 そして2人きりの無人島で裸で抱き合うというシチュエーションは俺にそれ以上のダッシュを促したのだった。

「その……人間の愛の営みってやつをこれから実践で教えたいと思うんだが」

「智樹の……エッチ♪」

 ニンフはイタズラっぽく笑うと、今までで最高の笑顔を見せてくれたのだった。

 

 こうして俺の漂流生活はニンフというお嫁さんを得ることで始まったのだった。

 

 

 

 

 

 漂流生活を始めてから6年が経った。

 

 海底付近を泳ぐ青い色をした熱帯魚をよく削って尖らせた木の枝で突き刺す。

 木の槍は魚に命中し、俺は今日の昼食を手に入れることに成功した。これで本日6匹目。

「智樹パパ~。スープが煮えたからそろそろご飯にするわよ~」

 海岸からニンフの声が聞こえて来た。

「ああ。こっちも十分に魚を採ったから今から戻るな」

 海から陸へと戦果物を持って戻る。

「へぇ~。今日は本当に大漁だったのね♪」

 葉っぱで作った衣服に身を纏いながらニンフは喜んでいる。

「まあな。今日は絶好調だったぜ」

 ニコニコしながら魚をニンフに渡す。

 

 無人島暮らしを始めてから6年の歳月が過ぎていた。

 俺は20歳になったが、これまで病気に掛かることもなく元気にやっている。ニンフも元気で6年前と外見的には何も変わっていない。

 いや、俺達の場合は元気以上と報告しなければならないか。

「パパっ。今日は一段と大漁だね」

 5歳の長男、智ンが笑顔で俺を出迎えてくれた。

「わ~い。ごちちょ~。ごちちょ~」

 2歳半で長女の智ニはまだ舌ったらずながら俺の戦果を兄同様に喜んでいる。

「く~~」

 生後半年ので次女の智フは母親の背中で安心して寝ている。

 そう。俺は3人の子供の父親になっていた。ニンフと夫婦らしく毎日仲良くしていたら子孫繁栄に成功してしまったのだった。

 

 まず形から入った夫婦がニンフの妊娠によってより強い絆で結ばれるようになったのは漂流生活を始めてすぐのことだった。

 

『えへへ。私のお腹にね、智樹の赤ちゃんが出来たんだよ』

 

 恥ずかしがりながらもとても嬉しそうで誇らしげな表情を浮かべていたニンフの顔は今でもはっきりと思い出せる。

 初めての妊娠、出産に大変なことも多かったが、それも今になって振り返ってみれば俺達が夫婦として強い絆で結ばれていく過程でもあった。

 

「いやぁ~。まさに俺達に歴史ありだなあ」

 食事をしながらもう5年以上前のことを思い出す。

「あ、あのね。智樹パパにまた報告があるんだけど」

 食事の手を休めたニンフが体をもじもじと揺らした。

「何だ?」

「そのね。4人目の赤ちゃんがお腹に出来たの」

 ニンフママは照れ臭そうにそれでいて嬉しそうにお腹をさすった。

「そうか。これでまた我が家の楽しさが一段と増すな」

 俺もニンフのお腹を擦りながら喜ぶ。めでたいことは何度あっても良い。

「俺達の子供。ギネスブックに申請できるぐらい沢山出来るかもな」

「そうね。もし智樹がそはらとこの島に漂着した場合に出来たに違いない子供の数には及ばないとは思うけど。私も智樹との子供はもっと欲しいかな」

「何だそりゃ?」

 凄い久しぶりに懐かしい名前が出てきた。

「だけど、智樹……」

「何?」

 ニンフは顔を真っ赤にしている。

「この前みたいに赤ちゃんの分までおっぱい全部飲んじゃ絶対に駄目だからね」

「分かってるよ……」

 俺の顔も真っ赤に染まる。この間はやり過ぎたと自分でも思うので反省。

「智樹ったら結婚前は散々私のことをちっぱいって馬鹿にしていたのに、結婚したら胸ばっかりエッチなことするんだから」

「……おっぱいは男のロマンなんだよ」

 結婚してはじめて俺は自分が生粋のおっぱい星人ではなかったことを知った。貧乳もアリということを知らせてくれたのは妻だった。

 

「そうそう。漁から戻る途中でこんな球を見つけたんだがこれは何だろうな?」

 砂浜で拾った緑色の球をニンフに見せてみる。この島に漂着物が流れ着くことはたまにあるが、ボールみたいなこんな物体が流れ着いたのは初めてだった。

「これ……シナプスの救難信号装置よ。何でこんなものが海から……?」

 ニンフは球を見ながらとても驚いた表情を見せていた。

「シナプスでも、何か起きているのかもな」

 空を見上げてみる。シナプスは特殊な視覚誤認フィールドが張られているので普通の人間には見えないのだが何となく。

「智樹は……この装置を使うつもりはある?」

「どういうことだ?」

 ニンフは瞳を細めてちょっと辛そうな表情をみせた。

「この装置を使えばアルファやデルタがきっと助けに来てくれる」

「そりゃあ良いことじゃねえか」

「でも……私達の仲のこと、アルファ達に何も言ってないし」

「あっ!」

 心臓がドキッと苦しくなった。

「アルファって、ヤンデレ・クイーンだから……私達、殺されるかも知れないわよ」

「ですよね~」

 下手に助けを呼べば待っているのは死かも知れない。いや、死に違いない。

「だから私達の覚悟がちゃんと決まるまではこの真ん中の赤いスイッチを押さないようにしてね」

 愛妻の念押し。けれど、それは遅過ぎた指示だった。

「あの、それに関しては……さっきここに来る途中で色々と弄って既に押しちゃっているのですが……」

「えぇ~~~っ!?」

 驚きの声をあげるニンフ。一方で俺は冷や汗を垂らしながら今後に訪れる未来が少しでも優しいものになることを願うしかなかった。

 

 そしてすぐに審判の時は訪れた。

「ニンフ先~輩~~っ!! 桜井智樹~~っ!!」

 大声を飛んで来たのはアストレアだった。6年前とまるで変わらない容姿で。

 久しぶりの再会だというのにアストレアは何だか焦っているように見えた。急停止するような姿勢を取りながらこの島へと降りてくる。

「2人とも……無事だったんだですねぇ~」

 大きく息を吐き出しながらアストレアは俺とニンフに抱きついて来た。

「ちょっとデルタぁ。そんなキツく抱き締めたら苦しいじゃないのよ~」

 ニンフは苦しそうな表情を見せながらも嬉しそう。

「だってだって~ニンフ先輩たちに会うのもう随分久しぶりなんですよ~。これが嬉しくない訳がないじゃないですか」

 アストレアは俺たちへの愛情を全開に表している。こういうストレートな所がコイツの良い所だと思う。

「ね~ね~。お姉ちゃんは一体誰?」

 智ンはアストレアのスカートを引っ張りながら尋ねた。そんな長男を見てアストレアも目を丸くした。

「あの、このニンフ先輩と桜井智樹の両方を掛け合わせたような子供は一体?」

「私と智樹の子供だけど」

 アストレアは智ンをまじまじと見る。次いで、2人の娘たちの存在にも気が付いた。

「も、もしかしてニンフ先輩は桜井智樹と結婚したんですか~~っ!?」

 アストレア大絶叫。

「そ、そうよ。6年前に私は智樹と結婚したの」

 ニンフは照れ臭そうな表情で俺を見る。

「あ、ああ。この島に漂着してから俺たちは夫婦になったんだ」

 ニンフに頷き返してみせる。

「ニンフ先輩と桜井智樹が結婚…………っ」

 右手を口の中に半分入れて当惑するアストレア。ニンフの夫が俺だというのは納得いかないのだろうか。コイツら、何だかんだ言って姉妹仲が良いからな。

「ノーマルカップリングがこんな身近にいるなんて師匠やイカロス先輩に知られたら……早くこの島から脱出してっ!!」

 アストレアが再び大声で叫んだ。

「何を言っているんだ?」

「美香子やアルファがどうかしたと言うの?」

 俺やニンフにはアストレアが何を言っているのかまるで理解出来ない。けれど、理解できないまま事態は最悪な方向へと進んでいってしまった。

 

「…………マスター、ニンフ。ご無事だったのですね」

 上空からイカロス、いや、輪っかを頭の上に浮かばせ赤い瞳をしているヤンデレ・クイーンが島へと降りて来た。

「クゥっ! 幾らイカロス先輩といえどもニンフ先輩たちはやらせはしませんよっ!」

 アストレアが俺達から離れて剣を構える。イカロス相手に戦う気満々。一体、2人の間に何が起きていると言うんだ?

「…………お利口指数たったの5。ゴミめ」

 イカロスがアストレアに向かって手をかざした。次の瞬間、アストレアは大きく吹き飛んだ。

「うわらばぁあああああああぁっ!?!?」

「ああっ! デルタが死んでしまったわ!」

「イカロスっ! 大事な仲間を殺すなんて一体何を考えているんだぁっ!!」

 アストレアは死んでしまった。その悲しみが、そしてアストレアの死に追いやったイカロスへの怒りが心の中に渦巻く。

 だがイカロスはそんな俺達の怒りに構うことなく俺たちへと近付いて来ると長男へと目を向けた。

「…………マスター、この子は?」

「俺とニンフの子供の智ンだっ!」

 我が子を背中に庇う。けれど、イカロスはそんな俺の防壁を無視して智ンの脇を掴んで持ち上げる。

「ふぇ?」

「…………なるほど。マスターとそこのビッチの子供ですか。マスターの子供だけあってとてつもない総受けBL力を秘めています。この子を頂いて立派な総受けビッチに育てましょう」

 イカロスは6年前と同じ無表情でそう述べた。けれどその言葉は俺にとってもニンフにとっても聞き逃せるものじゃなかった。

「ちょっとっ! ふざけんじゃないわよっ! 私の可愛い息子を総受けビッチにされて溜るもんですかっ!」

「そうだそうだっ! 智ンはイカロスには渡せねえよっ!」

 大声で抗議する俺達。だが、そんな俺たちに対してイカロスは氷の視線を向けた。

「…………ガタガタ抜かすとマスター達にも消えて頂きますよ」

「「うっ!?」」

 殺意のオーラに溢れるイカロスの瞳を見て一瞬たじろぐ。今の俺やニンフでヤンデレ・クイーンに勝つのは到底不可能だった。

「…………本編から6年後の世界で秋風こすもすさんの使い魔をしているメスブタ子さんに守形先輩を寝取られた美香子会長は、全宇宙の征服をもくろむ悪の帝王になりました。そして、ノーマルカップリングを忌み嫌い、百合と薔薇でこの世界を満たそうと乗り出したのです」

「守形先輩も会長も一体何をやってんだ……」

 2人の行動があまりにもらし過ぎて泣けて来る。

「…………美香子会長の人類総百合薔薇化計画に賛同した私はこうして総受けに適した少年を全世界から探して回り、立派なBL少年に育成します」

 イカロスは智ンを見て笑った。笑わない筈のイカロスが長男をBLに育てるといって笑っていた。

 それはあまりにもショッキングな光景だった。

「…………ですが私はマスターへの恩義を忘れてはいません。例えそこのチビッチにたぶらかされたとしてもです」

「誰がチビッチよっ!」

 ニンフが怒りの声を上げるもイカロスは続けて無視。

「…………智ンさん。いえ、次代の総受け王を返して欲しければ、明日までにビッチな男色攻め男たちを100人この島に連れて来てマスターが総受けになってください」

「そんな要求聞ける訳がないじゃないのっ!」

「…………私とて、大恩あるマスターの子供を無碍に扱うような真似はしたくありません。良い返事を期待しています」

「ぱ、パパ~っ! ママ~っ!」

 イカロスはそれだけ言うと翼を広げて智ンを連れたまま飛んで行ってしまった。

「「智~~~~~~ンっ!!」」

 2人で必死に叫ぶ。けれど、俺達の声はイカロスに届かない。そして、翼を失ったままのニンフも、ただの人間に過ぎない俺も宙を行くイカロスを追う手段はなかった。

 

「クッ! 一足遅かったみたいね」

 子供が連れ去られ女の声がしたので振り返ってみる。

 するとそこには髪の毛を逆立てて金色のオーラを発している智子の姿があった。

「智子……お前、何でここに?」

 6年ぶりに見た智子は俺と同じで大人に成長していた。だが、そんな成長が気にならない程に険しい表情を浮かべていた。

「そんなことより、イカロスはどうしたの? ここに来たんでしょ?」

「ああ。アストレアを殺してから俺の子供をBLに育てるってさらっていったさ」

 アストレアの方を見る。

「痛たたたたたたぁっ!」

 なんとアストレアが生き返った。まるでこの後の戦いでもう1度死ぬ為だけのようにして生き返った。

「アストレア。イカロスと美香子帝王を止めに行くわよっ! 地球の未来と智樹達の為に」

「はいっ!」

 アストレアが立ち上がる。元気いっぱいだ。

「アストレアはイカロスと戦うに当たって何か必殺技を会得してるの?」

「いや、そういうものは……」

「修行を怠り過ぎだわよ。あたしはちゃんと必殺技を編み出したのに。でも、その必殺技は発動まで時間が掛かるのよね」

「大丈夫ですよ。いざとなったらイカロス先輩を後ろから羽交い絞めにして時間を稼ぎますから」

 よく分からないがアストレアは確実に死亡フラグを立てている気がする。

 まあ、戦いから足を引いてしまった俺やニンフに何か言えることはないのだが。

「それじゃああたしとアストレアで智樹達の子を取り戻して来るから。智樹とニンフは子育てしながらここで待ってなさいよ」

「大丈夫。イカロス先輩にお仕置きしたらちゃんと帰ってきますから」

 微笑むアストレア。長女と次女の頬を触りながらちょっと楽しそうな表情を見せる智子。

 もう何が何だか分からない。

 でも俺達はこの2人の戦乙女に俺達と子供の未来を託すしかなかった。

 いや、そんな後ろ向きな気持ちじゃなくて、自信を持って託したいと思っていた。

「ああ。任せたぜ智子、アストレア」

「戻って来たら2人にも私達の子供を抱かせてあげるんだから」

 頷きをもって応援とする俺とニンフ。

「じゃあ、行って来るわよっ!」

「行って来ま~~すっ!!」

 2人の戦士は飛び立っていく。俺とニンフの為に。そして地球の未来を守る為に。

 

 

 そらのおとしものZ  未   完

 

 

 

 

 

 

 


 
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