No.479849 IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第四十九話 ~対話の先に~Granteedさん 2012-09-04 21:48:25 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:8607 閲覧ユーザー数:8086 |
「……どこだ、ここ?」
目を覚ましたクロウは辺りを見回すが、何も見えない。いや、見えないと言うより何もないと言った方が正しかった。クロウの周囲は真っ白でどっちが上かも分からない空間に一人佇んでいた。佇んでいると言っても地面がないのだから直立した状態でふわふわと浮かんでいると言った方が正しいだろう。
「そうだ、俺は……一夏達を庇って、撃墜されたんだ」
あの時の光景が鮮明に思い起こされる。自分でも柄じゃない行動をしたと思うが、ああしなければ一夏達が危険だったのも事実だ。一人クロウが悩んでいると、いきなり声がかかる。
「よう」
「……お前、誰だ?」
その声に振り向くと、そこにはいつの間にか少年が立っていた。初めはいきなり背後を盗られた事に不安を感じるクロウだったが、その姿を見るとそんな不安などどこかに吹き飛んでしまう。
「どうした?幽霊でも見たか?」
「……もう一度聞く。お前、誰だ?」
クロウに声をかけた人物は130cm位の身長の少年だった。だが重要なのはそこではない、何せ外見がクロウそっくりなのだ。今のクロウを更に若くした顔つき、しかも服装はIS学園の制服。違う所と言ったら髪が銀色で前髪に赤と青のメッシュが入っている部分だろう。
「まあ、俺が誰かなんてのは後々分かるだろ。それよりもまず俺の質問に答えて貰おうか」
そう言って少年がパチンと指を鳴らすと、急に周囲の白かった景色が暗転して景色が切り替わる。
「これは……!!」
「どうした?覚えが無いなんて事は無いだろう?何せこれはお前の記憶、なんだからよ」
そう、その景色にクロウは確かに見覚えがあった。それは暗い過去、軍隊時代に任務を遂行した結果、滅んだ国の末路だった。
「まだまだあるぜ、ほら」
少年が何度も指を鳴らすたびに周囲の景色が変わっていく。それら全てにクロウが見覚えがあった。それは前の世界でクロウが行ってきたこと、暗い軍隊時代の事からZEXISに所属して世界を相手に大立ち回りを演じた所、この世界に来てクロウが一夏達と共に過ごした時間までもが映っていた。五分程上映会をして周囲の景色が再び真っ白になった後、少年が再びクロウの方を向く。
「さて、これらをお前が見た上で質問だ」
「……何が聞きたいんだ?」
少年は底意地の悪そうな笑みを浮かべると、クロウに質問を投げかけた。
「単刀直入に言わせてもらうぜ、お前はこの世界で何を望む?」
「何だって?」
「だから、やりたい事だよ。望み、やりたい事、したい事だ」
「……叶える代わりに魂よこせとか言わないだろうな」
クロウの言葉を聞いた瞬間、少年は腹を抱えて豪快に笑い出す。
「あはははは!!んな事言わねえよ!純粋な興味だ。んで、お前がしたい事は?」
促されてぽつりぽつりと本音を漏らすクロウ。
「……最初は元の世界に戻りたいと思った時もあった、口では未練は無いって言ったが実際の所は帰れるもんなら帰りたかったさ。だがな……」
「だが?」
「今はあいつらを守りたいと思う。俺が守りたいと思ってる」
「ああそうかい、それでなんだがお前、前に言ってたよな。“死んで欲しくないと望んでいる奴を残して死ぬのは、一番やっちゃいけない事”だってよ」
「……ああ」
「それはあいつらには当てはまんないのか?」
何処か悲しそうな声色で話す少年。しかしクロウの次の言葉を聞いた瞬間、表情が一変する。
「あいつらが死ぬ方が辛い。所詮俺はこの世界の人間じゃねえんだ。それに俺がいなくてもあいつらは立派に──」
「おいクロウ、お前今なんて言った?」
いつの間にか少年の顔は様変わりし、憤怒の感情が浮かんでいた。クロウは目の前の少年がそこまで怒る理由が理解出来ずに戸惑う。
「何だって?」
「もう一度言う。お前、自分が消えてもあいつらに影響は無いって言ったか?お前がいなくてもあいつらは立派にやっていくと?」
「あ、ああ」
そこまで言うと、少年が宙をツカツカと足音を立てながら歩いてクロウに近づく。憤怒の表情を浮かべたまま少年はクロウに近づき、再び質問を繰り返す。
「本気でそう思ってんのか?」
「……まあ、多少はな」
「そうかよ……」
そう言うと、少年が顔を伏せる。しかし次の瞬間、目をぎらりと光らせると、右手で握りこぶしを作ってクロウの腹にストレートを入れた。
「ぐっ!!」
「このバカヤローがぁ!!」
そして左手も同じ様に握りこぶしを作って、悶絶しているクロウの顎にアッパー気味に拳を打ち込む。少年は悶絶しているクロウの襟首を掴んで顔を近づけると怒涛の勢いで喋り始めた。
「いいか!お前が消えてあいつらに影響が出ないなんて万に一つもありえねえ!!もうお前の体はお前の物だけじゃねえんだ!!お前が死んだら、悲しむ奴が何人もいる!!絶対にそんな事考えるな!!」
そう言ってクロウを解放する少年。若干咳き込みながらもしっかりと立ち上がるクロウに対して少年の言葉は止まらない。
「それにお前が死んだら俺はどうなると思ってんだ?千冬がいるからどうにかなるかもしれねえが、どこぞの研究機関に売り払われて一生研究対象、なんて俺はごめんだ」
「お前……」
「これに懲りたらもう二度とそんなアホな考え起こすんじゃねえぞ。分かったか?」
「……ああ、スマン。少し弱気になってたみたいだな。似合わねえよな、こんなの」
クロウが謝罪の言葉を口にすると、少年は今までの怒りの表情が嘘の様に晴れ晴れとした笑顔をクロウに向けた。
「ははっ、そうだよ。お前はそうやってヘラヘラして飄々とした態度でいりゃあいいんだ。それでこそ俺が認めたクロウ・ブルーストだぜ」
そこまで言ってやっと二人に静寂が訪れる。今度はクロウが先に口を開いた。
「それでお前、誰なんだ?」
その言葉を聞くと、惚けた表情をする少年。数瞬置いて、頭を掻きながら大きなため息を吐く。
「はぁ~、お前、体が縮んで思考能力まで退化したのか?まあ俺もこんな姿が取れるなんて思わなかったんだけどよ──」
そこまで言うと、いきなり少年の体が銀色の光に包まれる。何が起こっているのか分からないクロウは慌て始めたが、対照的に少年は落ち着いている。
「お、おいおいお前、大丈夫か?」
「ちっ、もう時間か。いいかクロウ、最後になるかもしれねえからこれだけは言っとくぞ」
神妙な面持ちをする少年。クロウもそれにつられて身構える。
「俺はお前に死んで欲しくないと思ってる、これだけはその胸に留めておいてくれ。お前は決して一人じゃない。例えこの世界の全てが敵に回ったとしても、俺はお前の盾であり、剣であり、最後までお前の力であり続ける。これは一生変わらないし、変える気もねえ」
「……」
「お前が望む場所に連れていってやる、お前が力を望めば力を与える。スフィアの副作用も俺が大部分を肩代わりしてやるよ。こうやって意識が出た以上、出来ねえ事は無いだろうしな」
「お前、まさか……」
いつの間にか銀色の粒子に包まれた少年の体は足の方から粒子になって消えていた。それにも構わず少年は喋り続ける。
「いいから聞け、今後お前は世界から嫌でも注目されるだろうよ。元々貧乏クジ体質だしな、トラブルには事欠かねえだろ。だがお前が望めばそんなモン、俺が全部片付けてやる。俺とお前なら、出来ない事なんて何一つねえだろ?」
そして少年は満面の笑みを浮かべて、右手を差し出す。もう既に少年の体は腹から下が全て銀色の粒子と化していて、体は約半分しか残っていない。最後まで言葉を聞いたクロウは少年の言動に何処か納得しながら手を握り返した。
「ああ、俺とお前ならな。じゃあな、相棒。近いうちにまた会おうぜ」
「ああ、と言ってもすぐだけどな」
最後にヘヘッと笑うと、最後に少年の顔が光の粒子となって体が全て消えた。その光の粒子は数秒、少年がいた場所に停滞していたが、急にクロウの体にまとわりつく様に動き出す。
「そうだな、すぐに会えるさ」
その粒子に包まれると、クロウの視界が急激にぶれ始める。意識を失う直前、クロウは確かに少年の名前を呼んだ。
「───リ・ブラスタ」
~海上~
「……今のは」
クロウが目を覚ますと、ボロボロになったブラスタを装備した状態で海上にプカプカ浮かんでいた。一夏達を庇った時についた傷が今は何故か綺麗さっぱり消えている。
「お前に、そんな事言われるとは夢にも思わなかったな」
クロウは一人独白する。その視線は遥か上空に向けられていた。
「やっぱ柄にも無く悩んでたらしいな、感謝するぜ」
誰に向けるのでもなく、話を続ける。ふと目の前にかろうじて表示されているモニターを見ると、いつの間にかウイルスに侵されていた場所が全て元通りになっていた。クロウはもちろん手をつけていないので、普通に考えればブラスタが何かしたと考えるだろう。クロウの脳裏に先程見た光景が浮かぶ。
「これ、お前がやったのか。ありがとな」
その言葉に帰ってくる反応はどこにもない。しかしクロウは確信を持った口調で続けた。
「さてと、いつまでもこうやって浮かんでいる訳にもいかないしな。そろそろ行くか」
するとブラスタが満身創痍の状態でありながらヴィーンと駆動音を響かせる。動ける状態で無い事は一目瞭然なのだが、クロウには確信があった。
「そういや、お前のその姿。この世界では初めてだったな」
クロウの言葉に釣られる様に、駆動音が大きくなっていく。
「さあ、行こうか」
そして駆動音が一際大きくなると、今度はブラスタの傷だらけの装甲が紅く輝き始めた。それだけではない、全てが紅く輝いている訳ではなく、関節部やバンカーは蒼く輝いていた。クロウは大きく息を吸い込む。
「リ・ブラスタ!!!」
クロウが叫ぶと同時に、ブラスタ自体が赤色と青色で構成されたフィールドに包まれる。そのフィールドは数秒、海上で留まったと思うと、今度は紅く輝く。まるで流星の様に輝くと、物凄い勢いで海上から飛び出して空を駆けていった。仲間を助けるために。
「くそっ!!」
≪一夏、もう一度だ!!≫
「ああ、頼む!!」
紅椿が金色のエネルギーに包まれて白式に触れる。すると今まで虫の息であった白式のエネルギーが全回復した。
「どうやっても決まらねえ……」
もう何度目だろうか、白式が第二次形態移行を果たしてからこうして箒にエネルギーを回復してもらって戦闘、の繰り返しだった。いくら白式が第二次形態移行してスペックが上がったと言っても相手は軍用IS。そんな簡単にいく様な相手では無かったのだ。
「今度こそ!!」
≪私も行くぞ!!≫
箒も空割と雨月を呼び出して攻撃に参加する。一夏は右手に雪片、左手にブレードモードの雪羅、空中には粉雪を呼び出して戦闘態勢に入る。もう何度目か分からない戦闘に一夏の集中力は切れる寸前だった。
(くそっ、くそっ!!)
こうしている間にも、クロウはどんどん衰弱しているかもしれない。そう考えると自然に気持ちが焦ってしまう。箒にはあんな事を言ったが、心の何処かでは最悪の自体を想像してしまう。
「!!しまった!!」
そんな事を考えていては戦闘に支障が出るのは当たり前だった。一夏の後ろに回った福音はがっちりと一夏の首を掴む。
「離せぇ!!」
「くらえっ!!」
箒が二刀流で、一夏は動きが止まった福音を粉雪で斬ろうとするが、福音の体のあちこちから頭部に生えているのと同じ羽が生え始める。
『キャアァアァアァアァア!!』
「ぐあっ!!」
「箒!!」
体中から生えた羽はそれら全てが福音にとっての砲台だった。羽から全方向に向けて光弾が飛び出し、箒と粉雪に向かう。箒は空中でバランスを崩して落下して、粉雪も剣先からレーザーを撃って遠距離から攻撃しようとするが、すべてが福音の光弾で叩き落とされてしまう。一夏は両手の武器を何とか福音に向けようとするが、首を抑えられていて上手く当たらない。
「箒、逃げろっ!!」
「くっ!!」
逃げ続ける箒に、福音の光弾が雨の様に降り注ぐ。
「くそおぉぉぉ!!!」
一夏がジタバタと暴れもがくが、福音は掴んだ手を緩めない。とうとう箒は逃げ場を失ってしまう。
「箒ぃぃぃ!!!」
「一夏っ!!」
もちろん紅椿には防御用の武装など存在しない。逃げ場を失えば待っているのは全弾命中の事実だけだ。そして白い羽が箒に突き刺さる──
「「……え?」」
事は無かった。何故ならどこからか飛んできた極太のレーザーが、箒に着弾するはずだった福音の光弾を全て叩き落としたのである。福音も含めて呆気にとられる三機のIS。しかし驚きの出来事はまだこれで終わりではなかった。
『キャアァアァ!!』
一筋の赤い閃光が遥か彼方より目にもとまらぬ速さで一夏と福音に接近する。閃光はそのまま福音に突撃、衝撃で福音は一夏を離してしまう。
「ちょっと黙ってろ」
謎の人物は一言福音に告げると、蹴りを入れて福音を海上付近まで叩き落とした。一夏と箒はまだ目の前の人物を見て唖然としている。何故なら一夏達の目の前にいたのは、
「ん?どうしたお前ら、幽霊でも見たような顔して」
新しい力を纏ったクロウ・ブルーストだった。
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第四十九話です。
今回はちょ~っとまとめきれてなかったかな?&クロウらしくねぇ!という話ですが勘弁してください。
また後の話で補完出来ればいいかな、と思っています。