「守形先輩と戦う事になったから、勝てる方法を教えてよ見月えも~ん!」
登校して早々と帰ってきた桜井君の第一声はこんな感じでした。
「………イカロスさん。こういう時、どうすればいいのかな?」
「…殴れば、いいと思います」
「ごめんなさい冗談です許してください」
まったくもう。土下座するくらいなら最初から言わなきゃいいのに。
桜井君はいつもさらっと変な事を言い出すから反応に困ります。
「それで? 今の話は本当なんだよね?」
「…ああ。俺とイカロスだけじゃいい作戦が浮かぶとは思えないし、見月の知恵を借りたい」
そしていきなり真面目な顔をして頼みごとをするから性質が悪いというか。
しかも今朝に顔を合わせてから桜井君の表情が精悍というか、キリッとしてるというか。…ドキッとするというか。
以前から真面目な顔をしていればかっこいいとは思ってたけど。
やっぱり、風音さんの件が響いてるんだろうか。今の桜井君からはこの戦いへ向けた真剣な想いが透けて見える。
「マスター。その言い方だと私が作戦の立案を苦手にしている様に聞こえます。私は決して戦略に疎いわけではありません。ニンフには劣ると申し上げただけです」
「? だから得意じゃないんだろ? 苦手な事はみんなでやればいいさ」
「………はい」
あ、イカロスさんムッとしてる。
桜井君って本当に鈍いなぁ。本人は気遣ってるつもりなんだろうけど、その言い方じゃこの人のプライドを傷つけるだけなのに。
「それに、仮にお前がこういうの得意でも一人でやらせるつもりはないぞ。この戦いは俺の物でもあるんだから、お前だけに背負わせる気はないからな」
「…はい」
あ、今度はちょっと嬉しそう。
自分じゃ意識してないくせに、なんで桜井君はこういうフォローがうまいかな。
「よし、とりあえず昼飯食ってから考えるか。対決は明日なんだから焦る事ないよな」
…本当に、不思議な人だ。
常にマイペースというか自然体というか、どれだけ大変な時でも自分を見失わないのが彼の美徳なのかもしれない。
「手伝うよ。いつまでも寝てると体が鈍っちゃうし」
「そっか。頼む」
実はそんな彼に少し惹かれている自分がいるんだけど、これは黙っておこう。
ニンフさんにも悪いし、何より。
「マスター、食事の用意は私の役目です。今はそあらさんとお休みください」
「駄目だ。お前こそ少しのんびりしてろっての。明日はお前が一番大変なんだから、昨日の傷を完治させておけって」
………うん、もう入る余地なさそうだもんね。
あーあ、ちょっと悔しいなぁ。私にもいい人が現れないかなぁ。
そらおと/ZERO 第七章「剣士の意地、女王の誇り」
「ズバリ、警戒するべきは守形先輩の方だと思うの」
「だな」
「…はい」
昼食後の作戦会議はアストレアに大変失礼な結論になった。
アイツには悪いと思うけど、これにはちゃんとした理由がある。
「確認するけど。今のイカロスならアストレアには負けないんだよな?」
「はい。接近戦ではアストレアに分がありますが、距離をとれればこちらの敗北はありません」
「ニンフさんの言葉によると、アストレアさんは射撃兵器が一切無いっていうからね…」
「ああ。それじゃアイツにとってイカロスは鬼門だよな」
遠距離戦が一切できないアストレアに対し、イカロスは豊富な射撃兵器を自在に操る制圧戦法を得意とする。
両者の得意なレンジが対極にある以上、あとは立ち回りの問題だ。
「加速力ならアストレアに分があります。しかし最高速度なら私の方が上ですので、一度距離をとれれば勝負は決するでしょう」
「逆に言えば、アストレアは一撃でイカロスを倒さないと負けるって事だよな」
アストレアの勝機は距離をとられる前の一瞬だけだ。それを逃せばあとは防戦一方になる。
しかしイカロスの防御力と回復力は抜群だ。アストレアにもそれを上回る武装はあるらしいが、使うにはかなりのチャージ時間が必要になるそうだ。
もちろんイカロスがそんな時間を与えるハズがない。アストレアが動きを止めればアルテミスでつるべ撃ちにするだろう。
つまりエンジェロイド同士の戦いに限って言えば、イカロスの勝利はほぼ揺るがないのである。
「だからこそ、守形先輩の動向に気を付けないとね」
「そうだな。あの人ならアストレアが勝てるような策を考えるだろうからな」
イカロスの能力はアストレアを通して守形先輩も理解しているハズだ。
俺たちに勝負を挑む以上、あの人は必ず勝つための作戦を用意していると考えないといけない。
「桜井君の役目は守形先輩の作戦を見極めた上での妨害。難しいと思うけどそれしかないと思う」
「っつーか、それしかできないって事だよな」
エンジェロイド同士の戦いに俺達マスターが介入するなんて不可能に近い。
唯一の手段はインプリンティングの使用だけど、回数制限があるし有効な使い方が難しい。
結局の所、俺にできるのは同じ敵のマスターをどうこうするだけだ。
「でも守形先輩、すっげー強いんだよ。今の俺じゃ返り討ちにあうと思う」
昨日、先輩は鳳凰院を一瞬で無力化した。
風音の気象兵器による強い頭痛や眩暈をおしてでも、それだけの事をやってのける人なのだ。
体力に少し自信があるだけの俺では相手にならないかもしれない。
「…そうだね。それじゃあこれを持っていって」
そう言って見月がテーブルの上に置いたのは薄緑色のリボンだった。
「ニンフさんから預かっていた非常用の
「それは助かるけど、いいのか? お前の切り札なんだろ?」
「うん、いいの。今の私が使っても少し動き回れるようになるだけだから」
苦笑しながらもきっぱりと頷く見月を見て、俺は思い出した。
元々体の弱い見月はニンフのおかげて今まで元気でいられたという事を。
「…そっか。分かった、有難く使わせてもらうから」
「うん、変な事に使ったら承知しないからね?」
だから、これは俺の切り札にすると決めた。
見月が少しの時間だけでも元気な体でいられる物をもらったんだから、それに見合った事に使わないと。
これで明日の方針は決まった。
俺は守形先輩を食い止め、イカロスはアストレアを倒す。
単純だけど、きっとこれが俺達の最適解だと信じよう。
さて、残りの半日は―
1.イカロスと特訓する。
2.見月に色々聞いてみよう。
*選択肢による変化はその場の会話のみです。メインシナリオに影響はありません。
1.イカロスと特訓する。
「イカロス。明日の作戦は分かってるな?」
「はい」
三人で庭先に出る。
まだ完調じゃない見月に付き合ってもらうのは悪いけど、一度確かめたい事があるからだ。
「明日、お前はアストレアに集中してもらわなくちゃいけない。その為に俺や守形先輩の事は無視していい」
「…はい」
いくら勝機が十分とはいえ、相手は最優秀といわれるセイバーのエンジェロイドだ。
他の事にかまけていては足元をすくわれるおそれもある。
「きっと守形先輩はお前の注意を逸らしにくるハズだ。それに俺を使う可能性もある」
「…ですが、あの方はマスターに危害をくわえないと」
「殺さないって事だけだ。怪我の一つや二つは構わないかもしれないだろ」
守形先輩にとっては会長の命がかかっている勝負だ。なりふり構わない戦い方をする可能性も十分にある。
「お前は俺に何があってもアストレアに集中しないといけない。その為の特訓をするんだ」
「…賛同しかねますが、それがマスターの勝利になるのでしたら」
「ああ、頼む。…そこでだな」
こっちの言い分を素直に聞いてくれるのはイカロスの美徳だが、非常時にはあっけらかんとそれを無視してしまうという悪癖もある。
例を上げると最初の夜にバーサーカーから俺をかばったり、昨日にも風音と一緒に自爆しようしている。
それらはこいつの献身の賜物でありもちろん感謝しているが、明日はそれが仇になる可能性があるのだ。
「これからお前は家事や掃除に専念してもらう。その間、俺は見月に襲われるフリをするから完全に無視するんだ。いいか、こっちを見ることだってダメだからな?」
「…善処します」
「善処じゃない。絶対だ。これくらいできないと明日は俺達が危ないんだ」
「…はい。では、私はスイカの世話をしています」
納得いかないという雰囲気を隠そうともしないイカロス君。
やっぱり不安だ。これは想像以上に難しい特訓になるかもしれない。
………あと、庭先にスイカ畑なんていつ作ったんだ。数日前までは何の変哲もない雑草の楽園だったんだけど。
「まあいいか。見月、というわけだから頼む」
「…まあ、そんな事だとは思ったけどね」
おや? なんで見月まで不機嫌そうなんだ?
「それじゃあ早速やってみようか。桜井君を襲えばいいんだよね?」
「そうだけど、フリだけでいいぞ。まだ見月は無理できないんだし―」
「見月流空手秘伝、剛翔波動拳っ!」
「うわらばっ!?」
正拳突きを顔面にくらい綺麗に一回転してから地べたを這う俺。
おかしいなぁ。見月さんってばもう元気に動き回れない体じゃありませんでしたっけ?
「………」
おお、それでもイカロスはこっちを完全に無視してスイカの世話に没頭している。
どうやら俺の取り越し苦労だったみたいだな。
「やるねイカロスさん。それじゃあ秘伝第二弾を出そうかな」
「…どうぞ、ご自由に」
「えっ!?」
いや待て。別にイカロスが大丈夫だって確認できればこれ以上する必要は―
「見月流空手秘伝の二! 竜巻昇竜脚!」
「あべしっ!」
真下から顎を蹴り上げれられて空を舞う俺。
うーん。明日は見月さんに先輩の相手をしてもらえればいいんじゃないか?
つーかアストレアの相手でも軽々とこなすんじゃないかなこの人。
「………スイ太郎が日焼けし過ぎかも。UVカットしないと」
うん、完璧だイカロス。
もう俺の事なんか忘却の彼方に追いやってスイカの世話に夢中の様だな。
「よしっ、調子でてきたかも。このまま第三弾もいくよ!」
「どうぞ、ご自由に」
「いやだからこれ以上はばわっ!」
もはやこっちの言い分なんて聞かずに好き勝手を始めてしまった我が家の居候×2。
…おかしいなぁ。特訓は完璧なハズなのに涙が止まらないのは何故だろう。
2.見月に色々聞いてみよう。
「見月、もう少し相談したい事があるんだけどいいか?」
「うん、いいよ。と言っても、ほとんどニンフさんの受け売りだけどね」
「ああ。今の見月は無理ができないんだから知恵の方でサポートしてほしい。俺達はまだ同盟中だろ?」
「…そっか。そう言ってもらえると助かるよ」
うん? 見月の奴、妙に嬉しそうだな。
俺なんか変な事言ったっけ?
「…では、私は夕食の買い物に行ってまいります」
おもむろに立ち上がって居間を出て行こうとするイカロス。
ちょっと唐突な気がするけど、それよりも。
「一人で大丈夫なのか? バーサーカーが襲ってくるなんて事もあるかもしれないぞ?」
「敵マスターの性格からしてそれはあり得ないと思います。それに、万が一襲われても私一人なら離脱も可能です」
むう。つまり俺がいると逃げられないから足手まといだ、と。
反論したいけど最初の夜の実例がある以上、何も言えない。
「………では、お二人とも。ごゆっくり」
「? ああ」
なんだイカロスの奴。
最後の言葉に含みを持たせたような言い方だったけど。
「ホント、桜井君って鈍いんだか鋭いんだか分からないよね」
「どういう意味だよ?」
「ほら。そういう所」
いや、そこでため息交じりに批難されてもさっぱり分からないんだってば。
とにかく話を戻そう。見月に聞きたいのは明日以降の事についてだ。
「正直なところ、イカロスだけでバーサーカーに勝てると思うか?」
気になってたのはこれだ。
以前、生徒会室で聞いたイカロス、ニンフ、アストレアの三人の連携が取れて始めて勝負なるというニンフの言葉を思い出す。
そして昨日のニンフはアストレアと組んでこそ勝機が見えると言っていた。
前者はイカロスが完全な力を取り戻していない時、後者は取り戻した後。
そしてアストレアも敵にまわってしまった今、そのどちらも叶わないのだ。
これで果たして勝ち目はあるのか。例えアストレアに勝利してもバーサーカーに勝てないんじゃ意味が無い。
俺は勝って生き延びる。そうニンフと約束したのだから。
「…ニンフさんは、イカロスさんの切り札が使えれば一人でも勝てるって言ってた」
「切り札?」
「それが何かまでは聞いてないけど。桜井君の方に心当たりは?」
「………やっぱり、あれなのか?」
あの時、風音を気象兵器ごと吹き飛ばした
あれは武装なんて生易しい物じゃなかった。まさしく兵器と呼ばれるべき純粋な破壊の象徴だ。
その威力は並大抵の物じゃない。あれを受けたらどんなエンジェロイドだってひとたまりもないだろう。
多分バーサーカーだって、風音の様に―
「大丈夫なの桜井君? 顔色、悪いよ?」
「あ、ああ。ちょっと思い出しただけだ。確かにあれはイカロスの切り札だと思う」
いかんいかん。俺がこんなんでどうする。
直接手を下したイカロスの方が何倍も辛くて恐ろしいハズなんだ。
「…私、桜井君やイカロスさんの辛さは解ってあげられないけど。それでも風音さんは私の友達だったよ。だから」
「いいんだ。あれは俺とイカロスが決めてやった事なんだ。見月が背負う事じゃない」
「でも…」
「大丈夫だって。なんなら最後まで勝った時の願い事は風音が帰ってくる、とかにするさ。見月の願い事はふいになっちゃうけど、いいか?」
「…うん、いいよ。私もそれがいいな」
「よし、決まりだな」
こんなのは詭弁だと分かっている。例えそれが叶っても、俺達が風音を倒した事は変わらないんだから。
それでも俺はそれにすがりたかった。だって俺以上に辛い思いをしている奴がいるだろうから。
それを少しでも払拭できるなら、そんな綺麗事でも叶えたい。
そしてつくづく思うのだ。
イカロスにはあんな物騒な代物は似合わない。
そんな物を扱うよりも素直に笑える事ができれば何倍も幸せだろうと。
その日の夜、星を見上げた。
久しぶりに屋根の上にあがって、無数の輝きの下で彼女と言葉を交わした。
「大丈夫か?」
「はい」
交わした言葉は少ない。
「アストレアとはどんな仲なんだ?」
「妹のような。…飼い犬様な?」
「…後の方は聞かなかった事にしとく」
それでも。
「…やれるんだな?」
「…はい。マスターが共に歩まれる道でしたら」
俺達はきちんと互いの意志を確かめ合った。
「分かった。やろう」
「はい」
明日、彼女は
俺にできるのはそれを受け入れてやるだけだ。
「大丈夫だ。俺が一緒にいるから」
「…はい」
共に生きて、あらゆる事から彼女を守ると誓った。
昨日、彼女を救う為に命じた『勝て』という言葉。
あの時の想いは今も変わらずに胸に焼き付いてる。
だから全てが終わるまで、俺はこの誓いを貫ける。
最後のその時、彼女との別れの時までは。
「…早かったな」
朝霧が晴れる頃、町から外れた川原へと足を踏みいれた俺とイカロスを、先輩達は真正面から出迎えた。
「いや、もしかしたらアストレアの奴がまだ寝てるかなと思ったんすけどね」
「アンタ、アタシをなんだと思ってんよ!」
…こっちの予想とは少し違うな。
先輩の事だからてっきりトラップでも用意して奇襲を狙ってくると思ったんだけど。
まあ、とりあえず。
『生徒会室で惰眠を貪る最優良(自称)』
「イカロス先輩までぇ!?」
「落ち着けアストレア。分かりやすい挑発だ」
「はっ!? そっか、こそくな事するわねっ!」
やっぱり先輩がいると精神的な揺さぶりは無駄か。
この二人、何気に相性がいいかもという見月の分析はおそらく正しい。
「生憎と相方がこういう性質でな。こちらは正面からいくしかできん」
「なるほど、それもそうっすね」
………警戒しろ。
あの守形先輩が言葉通りに正面作戦を決行するとは思えない。必ず何か仕掛けてくる。
「アストレア、作戦通りにいくぞ」
「ええ!」
身構えて跳躍の体勢にはいるアストレア。
「イカロス、分かってるな」
「はい」
翼を広げ、迎撃の体勢を整えるイカロス。
そして―
「お前の意地を見せろアストレア!」
「俺達は勝つ! いくぞイカロス!」
『イエス、マイマスター!』
二人の天使が大空へと飛翔する。
眼下に広がる深い木々と流れる水しぶき。二人のマスターがいるその場こそが彼女達の主戦場だった。
「アルテミス、2番から57番まで装填。斉射」
戦闘開始から数秒。
イカロスはあっという間に上空を抑え、アストレアに容赦のない攻撃を開始した。
「くっ…!」
木々の隙間を縫うように飛び抜けてイカロスの誘導弾を回避するアストレア。
躱しきれない分は自前の盾で防ぎ、もう一方の剣で弾き飛ばす。
アストレアはエンジェロイド中最強の剣と守りを持つ。
イカロスやカオスの様な強力かつ精密な射撃兵器でもなければ、彼女の突進から繰り出される一撃を封じる事はできない。
ゆえに
「89番から128番まで装填。斉射」
「くぅっ…!」
だが対するは
彼女もまた最強のエンジェロイドの名を冠する規格外一歩手前の存在だ。
アストレアにとってイカロスを相手に勝機をつかむという事は、細い蜘蛛の糸をつかむ様なもの。
だが、その細い糸は確かに存在する。彼女のマスターが導き出した唯一と思える道があるのだ。
「まだよ、まだ早く飛べる…!」
それを知るアストレアの表情に絶望の色は無い。自分のマスターを信じて一縷の勝機を見定める。
「………アストレア。やっぱり、あなたも本気なのね」
それを察するイカロスに油断は無い。アストレアの爆発力を良く知る彼女は一部の隙も見せずにアストレアを封殺する。
一対一ならそれは確定事項だ。ウラヌス・クイーンに狂いは無い。
「…345番から1287番まで装填。斉射」
一層数を増した弾幕がアストレアを捉えんと襲い掛かる。
「なん、のおぉぉぉー!」
それを必死に凌ぐアストレアに対し、イカロスの内心に僅かな焦りが生まれる。
この戦いは決して一対一ではない。
イカロスには桜井智蔵がおり、アストレアには守形英三郎がいる。
そしてマスター同士の戦いは彼女のマスターの方が圧倒的に不利なのだ。
「…ヘパイストスは、使えない」
一瞬、広範囲砲撃で森林ごと吹き飛ばす選択肢を思考し、イカロスは慌ててかき消した。
眼下に彼女のマスターが存在する以上、そんな乱暴な手は使えない。
僅かな焦りがイカロスの精密な包囲射撃を狂わせていく。
ウラヌス・クイーンに狂いはなくとも、イカロスという少女の揺らぎは存外に大きい。
それを彼女本人が最も理解していなかった。
「…いけるっ!」
その狂いを、アストレアは見逃さない。
一瞬の隙をついて最高速度で突撃を敢行する。
「こんのおおおぉぉぉーーーー!!」
「っ! イージス、展開!」
だが彼女の剣は届かない。
イカロスにもまたアストレアの物に出力は劣るが全方位への堅固な結界がある。
それを突破するには彼女の最大出力の一撃が必要となるが、それを得るだけの時間はなかった。
「ぐぐ…!」
「………!」
アストレアの剣とイカロスの結界が火花を散らす。
わずか数秒の拮抗。その後はさっきまでの焼き増しになる。
今度は焦りさえも捨てたイカロスがアストレアを全力で制圧するだろう。
「―第二の契約の鎖をもって命じる! アストレア、一つ目の命令を遂行しろ!」
その未来を覆すべく、守形英三郎は切り札を切った。
自身と彼女の未来をつかむべき最善の策を、彼は迷いなく実行した。
時計の針は守形英三郎が切り札を切る少し前まで巻き戻る。
二人のエンジェロイドが大空へと飛翔した後、両マスターの選択は様子見であった。
「少し、意外だな」
「何がですか」
「イカロスだ。アストレアの話だと戦闘自体を嫌悪する傾向があったハズだが」
「それ間違ってないですよ。ただ、こっちも覚悟を決めてきただけなんで」
「そうか」
戦いが始まって数分。依然として先輩に動きはない。
俺を抑えるかイカロスの気を引くかと警戒していたが、具体的な行動を何も起こしていない。
逆にそれがひっかかる。もしかして、先輩はすでに必勝の策を実行しているのではないか、と。
「動かないのか、智蔵。先日のお前ならイカロスを援護するべく試行錯誤するだろう」
「そっちこそ何もしないんですか、先輩。このままだと、イカロスが勝つと思うんですけど」
落ち着け。相手の挑発に乗る必要はない。
現にアストレアは防戦一方だ。イカロスのアルテミスを自前の剣と盾で防ぐ事しかできない。
「あれは我慢比べだ。アストレアが力尽きるかイカロスが隙を見せるかまでの、な」
「イカロスは隙なんか見せませんよ。俺達はそういう風に決めてきたんですから」
それにしても、アストレアの武装は強力だと聞いていたけど、確かにあれは厄介な物だ。
イカロスの猛攻をギリギリの線で凌いでいるのは、あいつ自身のスピードと武器の相性が抜群だからだろう。
そんな俺の思考を断ち切るように、先輩は断言する。
「誰しもお前の様に一つの事に専心する事はできん。特に親しい相手の事ではな」
「こんのおおおぉぉぉーーーー!!」
先輩の言葉が引き金になったのか、イカロスの攻撃の隙をついてアストレアが特攻をしかける。
「あ、あのバカ…!」
ちゃんとアストレアだけに集中しろって言ったじゃないか!
一対一なら負けは無いって言ったのはお前なんだぞ!
「ぐぐ…!」
「………!」
アストレアの剣とイカロスのイージスが火花を散らす。
まだ大丈夫、なのか? どうする? 俺も援護に行くべきなのか?
インプリンティングを使えば俺でも何かできるんじゃないか?
「やはりアストレアだけでは勝てないか。ならば、こちらの切り札をもって打倒するまでだ!」
戸惑う俺をしり目に、先輩は契約の鎖がある右手をアストレアにかざす。
…おかしい。先輩の腕にある鎖は2本しかない。
マスター同士にしか視認できないインプリンティングの鎖。
昨日会った時の先輩は3本、ちゃんと持っていたと思う。
1本目はいつ使った? まさか―
「―第二の契約の鎖をもって命じる! アストレア、一つ目の命令を遂行しろ!」
「くそっ!」
気づくのが遅れた! やっぱり先輩は必勝の策を事前に打っていたんだ!
そのため秘匿性がなく、相手のエンジェロイドやマスターに対策をとられ易い。
だからこその2本の使用だ。1本目で具体的な命令を用意し、2本目で執行させる。
先輩は3本中2本を使うという非常に高いコストにより、命令の秘匿性を実現したんだ。
「イカロス! お前は―」
すかさずこっちもインプリンティングを使おうとして迷う。
何を命令すればイカロスを守れるかが分からない。これじゃあ俺の切り札は使い様がない…!
歯噛みをする俺を無視して時間は進む。
アストレアは強力な力でイカロスを押しのけ―
「…は?」
あっという間に、俺の前に飛んできた。
「………」
あまりの速さとありえない出来事に硬直する俺。
そして俺の眼前で剣を振り上げるアストレア。もちろん、その先にいるのは俺だ。
「なん、で」
これは、おかしい。
先輩は俺を殺す気は無いって言った。
だからおかしい。こんなでっかい剣で切られたら普通の人間は死んでしまうんだから。
「マスター!」
視界の端に俺を救おうと全力で飛んでくるイカロスが見える。
俺を殺さずにイカロスを倒す。それが先輩の作戦のハズ。
だから、これは―
「逃げろイカロ…ぐっ!」
また、遅かった。
先輩の狙いに気づいてインプリンティングを使おうをした俺を、先輩が先日の鳳凰院の時の様に投げ飛ばして抑え込む。
そして。
「…でぇいっ!」
「…!」
俺を救う事に気を取られ無防備だったイカロスを、取って返したアストレアが切り伏せ―
「くぅっ…!」
いや、違う。
イカロスはギリギリの所でアストレアの剣を躱した。
膝をついて苦しそうにしているけど、ちゃんと生きてる。
代償として片翼を切り飛ばされたけど、まだあいつは健在だ。
「お前の警告が功をそうしたか。アストレア、詰めるぞ! 最大出力でいけ!」
「ごめんなさい、イカロス先輩。…でもっ!」
だが、事態は俺達の敗北の方へ転がっている。
上空へ上がり、止めを刺さんと剣を構えるアストレア。
その剣がみるみるうちに巨大化していく。あれがアストレアの切り札なのか。
「………アポロン、装填…!」
対するイカロスも必死に自分の切り札を準備するけど、翼を片方失ったせいかまるで力が足りない。
あの時に見た爆発的なエネルギーが欠片も見られない。
「だ、駄目だ。このままじゃ…!」
良くて相打ち。最悪アストレアに切り伏せられる。
俺が何とかしないと。俺のミスでこうなったんだから、俺が何とかしないといけないのに。
「大人しくしていろ。お前を死なせるつもりは無い」
「ぐっ…!」
先輩に両腕をつかまれたあげく、顔から胸元まで地面に押し付けられて動けない…! くそ、ここまで力に差があるなんて!
唯一対抗できそうな見月のくれたリボンはポケットの中だ。両腕を極められた今は使えない。
インプリンティングも同じだ。鎖のある右手をイカロスにかざさないと使えない。
「これで終わりだ。諦めろ」
「ちくしょう…!」
この程度で手詰まりなのか俺は! こんな所で終わっちまうのか!
俺はニンフと約束したんだ、必ず勝って生き延びるんだって!
俺は誓ったんだ、必ずイカロスを守ってみせるって!
こんな、こんな事くらいで―
諦めないで、トモゾウ。
地面に押し付けられた顔を無理やり上げて周囲を見渡す。
何か、何かないか。イカロスをあの剣から守れるものは。
どうせ俺にアストレアを止める事なんてできない。だから、俺のするべき事はあいつを守る事なんだ。
何があっても、どんな時でも。
さっきから背中が熱い。まるで溶けた鉄でも流し込まれてるみたいだ。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
探せ。イカロスを守れるものを。あの巨大な剣すら防ぐことが出来る物を。
探せ、探せ、探せ。
俺にできるのはそれくらいしかないんだ。だったら死ぬ気でやってみせろ。
私は。
「智蔵。お前は―」
先輩が何か言ってるけど、無視だ。
先輩の持ち物にイカロスを守れる物は無いだろう。当然、俺にもない。
あとは―
「―あった」
みちり、と背中から音がした。無視無視。
だってやっと見つけたんだ。イカロスを守れるだろう物を。
いつのまにか先輩は俺から離れている。これならいける…!
アンタを助けるから。
「よこせ…!」
アストレアの持つ
だからよこせ。そいつをよこせ。
それさえあれば、イカロスを守れるんだから…!
「そいつを、よこせえぇぇぇぇ!」
届かないハズのそれに手を伸ばす。
すると自分の手が見えない何かに引き伸ばされたような感触があった。
ハッキング、開始。
熱を持った背中の痛みと、霞む視界の中。
俺は確かに最強の盾を手に取った。
「…うそ」
イカロスを倒すべく上空でクリュサオルにエネルギーを集めているアストレアは、確かに見た。
守形英三郎を軽々と弾き飛ばした桜井智蔵の背から、輝く翼が生えているのを。
彼の血を浴びたのだろうそれは、赤く輝きながら膨大な演算能力を発揮する。
その翼に、確かに彼女は見覚えがあった。
すでにこの世界から退場したハズの、妖精の翼を。
「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
「つぅ…!」
わずかな痛みと共に、自分の持つ最強の盾が彼の手に渡った事を把握する。
それの意味するところを、彼女のマスターはいち早く察した。
「振り下ろせアストレアっ!」
守形の言葉はきっと正しい。
ここで決めないと負けると、アストレアも本能で察知した。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
渾身の力を込めて最大の一撃をぶつける。
彼女はこの戦いに剣士としての矜持ではなく、守形英三郎の相棒だという意地をかけていた。
例え卑怯と罵られる戦法を取ってでも、彼の勝利と無事を勝ち取るのだと。
その気持ちなら姉にも勝てると信じて。
だが。その姉にも譲れないものがある。
「第二の鎖をもって命じる! イカロス! こいつを使えぇっ!」
2本目のインプリンティングを使い、奪った盾を自身のエンジェロイドに託した桜井智蔵は地面に倒れこむ。
すでに彼の意識は無いが、その表情は満足気だ。
自分の相棒ならこれでもう大丈夫だと、確信しているからこそできる顔だった。
「…イエス、マスター!」
彼の想いを受け取ったイカロスの瞳に迷いはなく、視界の先にあるのは倒すべき妹だけ。
アポロンのチャージを一時的に中断し、最速で彼の託した最強の守りにエネルギーを充填する。
「イージス…多重展開!」
自身の守りとアストレアの守りを重ね、彼女は最強の剣を迎え撃つ。
本来の主ではない妹の盾を、契約の鎖の力で強引に稼働させたのだ。
振り下ろされた最強の剣と、迎え撃つ最強の守り。
両者が激突した所から熱風と轟音がまき散らされる。
それは大きな地響きとなって空見町全体を揺さぶった。
「くううぅぅぅぅっ!」
「………っ!」
こうして、イカロスとアストレアは再び拮抗した。
そして先に述べたとおり、拮抗したならばその後の展開は決まっている。
今度こそ間違いなく、イカロスはアストレアを制する。
「アポロン、再装填」
翼の再生を終えたイカロスが今度こそはと必殺の一撃を構える。
イージスを展開しながらという無理をしている為か、彼女の体の所々に亀裂と剥離が広がっていく。
「チャージ、完了」
それでもイカロスに迷いは無い。
たった二日前、彼女のマスターは最初の命令で彼女に『勝て』と言った。
それは敵を倒す為でなく、彼女の無事を願うからこその命令だった。
「私は、マスターの命令を、守る…っ!」
その願いにかけて、自分は負けるわけにはいかない。
必ず勝って彼を守り抜く。それが彼女の誓いであり、誇りだった。
放たれる必殺の矢が動くことのできないアストレアを貫き、空を赤く染めていく。
それは先日に学校で起こった光景と寸分たがわない、戦いの終わりを告げる色。
「…やっぱり、ずるいなぁ」
その奔流の中で、アストレアは少しだけ愚痴をこぼした。
自分のマスターに不満は無い。きっと最高のマスターだったと胸を張って言える。
それでも、思うのだ。
「愛って、やつなのかな」
姉はきっと自分よりもマスターと深いつながりを持っていた。
その想いに自分は負けたんだろうな、と。
「…やっぱ違うわ。ニンフ先輩のせいよね、うん」
素直に負けを認めたくなかったからか、最後にもう一人の姉のせいにした彼女は、次第に赤い奔流へと呑み込まれていく。
「…すまない。俺は、マスター失格だったのかもしれん」
その朝焼けに似た空を、彼女のマスターだけが最後まで見届けていた。
To Be Continued
interlude
戦いの後に残されたのは、敗北した健常者と勝利した負傷者だった。
守形英三郎に目立った外傷はない。桜井智蔵に弾き飛ばされた時にできた擦り傷程度だ。
対する桜井智蔵とイカロスのダメージは見るからに大きい。
背中に大きな亀裂の様な傷を負い、気絶している智蔵。
全身に微細な破損を負い、アポロンとイージスの同時使用による過負荷でオーバーロードしたイカロス。
すでに彼らに意識は無く、これではどちらが勝者だか分かったものではない。
「…いや、だからこそか」
その考えを守形は素直に訂正した。
傷だらけになったからこそ、彼らは勝利をつかむ事ができたのだろう、と。
「やはり、俺はマスター失格だったな」
彼は自身が傷つかない状況で勝ちを得ようとした自分を密かに恥じた。
例え戦略としてそれが正しかったとしても、彼女の相棒を名乗るなら共に最前線で戦うべきだったのかもしれない。
自分がもっと積極的に桜井智蔵を攻め、気を失わせていればこの結果は無かったのではないか、と。
「良い前座だった。ダウナーにしては上出来だったと褒めておこう」
「…見ていたのか」
いつからそこにたのか。
バーサーカーのマスターは上機嫌で彼らの奮闘を称えていた。
「なに、思いのほか白熱した様でな。そんなお前たちに褒美を持ってきてやったのだ」
「そうか」
ぞんざいな返事をしながら守形は再度状況を把握する。
桜井智蔵は負傷し気絶中。
イカロスはオーバーロードで機能休止中。
自分はアストレアを失い、バーサーカーに対応できる戦力は無い。
(…最悪の展開だな)
珍しく守形は内心で焦りを言葉にした。
ここでバーサーカーに襲われれば瞬く間に全滅する。
最悪、自分が囮になりイカロスが機能回復する事を祈るしかない。
幸いな事はそのバーサーカーが姿を見せていない事だが、彼が呼べばすぐに姿を現すだろう。
「そう警戒するな。言っただろう、褒美を持ってきたと。ここで手を下すような無粋な真似はせん」
「それは、有難い事だな」
どこまでが本心なのか疑いつつ、守形は様子をうかがい続ける。
この男の言葉を容易に信じるほど彼は楽観的な思考ができなかった。
「…やれやれ、嫌われてしまったな。では早々に要件を済ませよう。―カオス」
「はーい。ほらねお姉さん、ちゃんと帰れたでしょう?」
「…そうね」
自分の頭上を覆う影に守形が視線を移すと、バーサーカーが自分の幼馴染を抱えて降りてくる。
その光景を目にして、彼はますます顔をしかめた。
「…どういうつもりだ」
バーサーカーが抱えている彼女、五月田根美佐子は大事な人質だ。
彼女を手元に置けば、自分ほどではないにしろ智蔵の行動を制限できるハズ。
それをわざわざ返しに来るとは、どういう考えを持っての事なのか。
「褒美だと言っただろう? そもそも私のカオスに単独で勝てるエンジェロイドなど存在しない」
「なるほど、そういう事か」
残ったエンジェロイドはもはやイカロスとカオスのみ。
そして一対一での戦いならばカオスの勝利は揺るがないと。
だからこそ、バーサーカーのマスターは簡単に人質を解放したのだろう。
「彼女には手土産も持たせている。ぜひ他のマスターと共に堪能してほしい物だ」
「検討しておこう。美佐子、怪我は無いみたいだな」
見たところ美佐子は目立ったものを所持していないが、これが嘘という事はないだろう。
何か仕掛けているに違いないと、彼は警戒しつつ彼女を出迎えた。
「…まあ、ね」
答える彼女の態度に違和感を感じながらも、一先ず無事を確認できたことに安堵する。
「では私達は帰るとしよう。サクライトモゾウにもよろしく伝えておくのだな」
「…ああ」
「うふふ。じゃあねお姉さん」
「ええ、カオスちゃんも元気でね」
こうして、最後にして最大の敵はあっさりと彼らを見逃して去って行った。
残されたのは腑に落ちないと思考する守形英三郎と。
「ねえ、英君」
「なんだ?」
「あのマスターから色々と聞かされたのだけど、気にかかる事が多いの。桜井君や見月さんも含めて一度皆で話し合いたいのだけど」
彼女らしくない不安げな顔をした五月田根美佐子。
「分かった。とりあえず智蔵を家に運ぼう。イカロスは…目を覚ましたようだな」
守形が視線を送る先、よたよたをおぼつかない足取りだがイカロスが智蔵のもとへ歩いているのが見た。
「無理をするなイカロス。智蔵は俺が運ぼう」
「…助かり、ます。会長さんが、どうして、ここに?」
「色々あったのよ~。要するに会長、もうお役御免みたいだわ~」
「…そう、ですか」
一見いつも通りに思える美佐子だが、守形は微妙な違和感がぬぐえなかった。
彼女らしくないというか、何か大きな不安を抱えている様に見えるのだ。
「美佐子、俺は智蔵を運ぶがお前は一人で歩けるか?」」
「ええ、大丈夫よ~」
はたして彼女の話とは何なのか。
バーサーカーのマスターが言っていた手土産という言葉に一抹の危機感を持ちつつ、守形は彼女に対していつも通りに接する事にした。
どちらにしろ彼女が話すと言っているのだからすぐに明らかになるだろう。それに。
「…無事でなによりだ。助けにいけず悪かった」
自分の不甲斐なさを棚に上げて、彼女をとがめるような事は卑怯だと思ったのだ。
「………くす。英君が謝るなんて子供の頃以来だわ~」
「そうだったか?」
「ええ、そうよ~」
確かに、彼は今まで自身の言動に恥じ入る事などない様に生きてきた。
しかし彼女の気分が多少は良くなったならば謝罪の一つくらい安いものだ、と彼は結論づけた。
「やはり、お二人は、仲がよろしいのですね」
「幼馴染だしな」
「幼馴染だものね~」
イカロスの素直な感想にそっけなく返す二人の声は、見事に重なっていた。
「ニンフと!」
「アストレアの!」
教えて! エンジェロイ道場!
「デルタ、出演お疲れ様! やっぱりかませ犬だったわねっ!」
「くぅっ! 前回のお返しですか!? そういう所、とってもやな感じですニンフ先輩!」
「ま、せっかく最優秀なマスターであるスガタがついていても、トモゾウとアルファーのコンビには勝てなかったわね。ご愁傷様」
「待ってください! 私たちは智蔵さんがあんな事をしなかったらちゃんと勝ってました! ニンフ先輩、あれってなんだったんですか!?」
「見てのとおり私の武装、アフロディーテの一部をトモゾウに譲渡していたのよ。やったのは前回のキスの時ね」
「あ、あんなの反則です! というかなんで智蔵さんがニンフ先輩のハッキングが使えたんですか!?」
「確かに普通の人間じゃ私達エンジェロイドの武装なんて使えないわ。でも、この世界限定なら今の智蔵の体でも使用可能なのよ。もちろん膨大な負担がかかるから多用は禁物なんだけど」
「むー。智蔵さん、すっごい怪我してましたけど大丈夫なんですよね?」
「大丈夫よ。少なくともあと一戦くらいなら十分保つわ、どうせ残ってるのは最終戦だけだし」
「ところで先輩。さっき守形さんの事を最優秀マスターって言ってましたけど、それってどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。知力、体力共に守形を勝るマスターはいないって事。そあらなら私の強化で一時的に超えられるけど、戦略では勝てないだろうしね」
「ししょーも凄いと思うんですけど?」
「ミサコも能力的に見劣りしないけど、あっちはムラッ気があるというか。面白くない事はしたがらないよね」
「あー、そうですねー」
「ちなみにトモゾウは全マスター中でも最低クラスの能力値。唯一、鳳凰院に喧嘩で勝てるくらいで、知力は語るまでもなくぶっちぎりの最低値よ」
「だけど最強のイカロス先輩がパートナー。凸凹コンビですね」
「そうね。ただ、その反面マスターとエンジェロイドの相性という点ではずば抜けているという事。だからこそここまで勝ちぬけたとも言えるわ」
「あとは主人公補正ですねっ!」
「…あのね。それをぶっちゃけたら今までの分析が無駄になっちゃうでしょ」
「さあ、このシリーズもいよいよ残すところあと2回になったわ」
「結構長かったですね~。あれ? でもあと一戦だけなのに二話も使うんですか?」
「最終戦の前にする事があるのよ。そもそもなぜ私達はこんな事を始めたのか。聖パンツ戦争の真相ってやつを解明しないとね」
「あ、そうですね。私達は知っていても智蔵さん達は何も知らないんでしたっけ」
「そういう事。私達エンジェロイドはこの戦いの真実を知りながら、それをマスターに隠してきた。その真実を明かさないと終れないわ」
「つまり次回で謎解明。次々回で最終決戦ですね!」
「ええ、さすがに今年中には終わるでしょ。書いている方も色々と執筆に苦労していたみたいよ?」
「では、また次回。全ての謎が明かされた後にお会いしましょう!」
「………それにしても。トモゾウの奴、アルファーに入れ込み過ぎだわ。厄介な事にならないといいけど」
「きっとあの人なら大丈夫ですよ。私、なんとなく分かります」
「ふぅん。じゃ、その言葉を信じてみましょうか」
*エンジェロイドのステータス情報が更新されました。
各エンジェロイドステータス
*本編で解明されていない個所は伏せられています。
クラス:アーチャー
マスター:桜井智蔵
真名:イカロス
属性:秩序・善
筋力:B
耐久:A
敏捷:B
演算:A
幸運:C
武装:A++
スキル
飛翔:A
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
自己修復:A
自身の傷を修復する。
Aランクの場合は戦闘中にもダメージが回復し、戦闘不能に陥っても約半日で復帰可能。
ただし完全に破壊された場合、ダメージを継続的に受け続けた場合は発揮されない。
千里眼:A
遠距離のおける視力の良さ。
遠く離れた敵を視認し、射撃兵器の命中率を補正する。
単独行動:F
クラス別能力。マスターを失っても行動可能。
ただしイカロス自身がそれを望まない為、ランクダウンしている。
武装
永久追尾空対空弾「Artemis」(アルテミス):B
外敵を鋭く貫く殺傷力と、地球の裏側まで届く射程を併せ持つ主兵装。
可変ウイングから直接発射するので使い勝手が良く、出力調整可能。
絶対防御圏「aegis」(イージス):A
あらゆる攻撃を防ぐ全方位バリア。
非常に高い防御力を持ち、その特性を生かして周囲を巻き込まず攻撃する際にも併用される。
ただしAランク以上の攻撃は防ぎきれず、ダメージの軽減のみになる。
超々高熱体圧縮対艦砲「Hephaistos」(ヘパイストス):A
圧縮したエネルギー弾を撃ち出す大砲。
大気圏を越える程の指向性エネルギーを放出し、敵を蒸発させる。
起動と発射には数秒のチャージが必要となる。
最終兵器「APOLLON」(アポロン):A++
弓型のエネルギー兵器。
着弾地点を中心に大爆発を引き起こし、国一つでさえたちまち消し飛ばすほどの威力を持つ。
周囲への被害が大き過ぎる為使用には危険を伴うが、その破壊力は全エンジェロイド中でも最高を誇る。
クラス:キャスター
マスター:見月そあら
真名:ニンフ
属性:秩序・中庸
筋力:D
耐久:C
敏捷:C
演算:A
幸運:B
武装:C
スキル
ハッキング:A
生物、機械に干渉する能力。
対象の性能及び機能を強化もしくは低下させる。
高ランクになると対象の電子頭脳を破壊する事も可能(ただし相手の演算能力を上回る必要がある)
また、ハッキング中は自身のステータスが低下する。
飛翔:B
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
陣地作成:B
クラス別能力。自分に有利な陣地を作る。
ハッキングを主としたトラップ陣地を作成できる。ただし対象の選別は困難。
道具作成:D
クラス別能力。有用な道具を作成する。
大抵の事をハッキングで済ませしまうニンフはこのスキルの使い道を把握しきれていない。
武装
超々超音波振動子(パラダイス=ソング):C
口から発する超音波攻撃。
数少ないニンフの武装だが、エンジェロイドに対する攻撃力は低い。
素粒子ジャミングシステム「Aphrodite」(アフロディーテ):EX
第二世代エンジェロイドの電子戦機能を軽々と凌駕する強力なジャミングシステム。
智蔵のいる世界において驚異的な効果を発揮できるが、動力炉の出力不足により長時間に渡る展開は不可能。
その機能は多岐にわたり、敵の武装の使用権を強奪した上で強化し使用する事も可能。
現在は桜井智蔵に譲渡されている。
クラス:セイバー
マスター:守形英三郎
真名:アストレア
属性:中立・善
筋力:B
耐久:C
敏捷:A
演算:E
幸運:B
武装:A
スキル
飛翔:A+
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
事実上、空中戦でアストレアを捕えられるエンジェロイドはいない。
怪力:C+
一時的に筋力を増幅する。
感情の起伏による怪力を発動。つまり馬鹿力。
過去にインプリンティングの鎖を力ずくで引きちぎった事からも、その腕力は他のエンジェロイドと比べても破格。
騎乗:F-
クラス別能力。乗り物を乗りこなす。
家電の操作(テレビのリモコン等)が限界なアストレアにとってまったく有用性の無いスキル。
逆に操作を誤って事故を起こす可能性が上がる。
勇猛:D
精神干渉を無効化し、格闘ダメージを上昇させる。
アストレアの場合は勇猛というよりただの猪突猛進だが、結果は大差が無い。
Dランクは若干の補正値にとどまる。
武装
最強の盾「aegis=L」:A
携行型の盾からエネルギーフィールドを発生させ、Aランク以下の攻撃をシャットアウトする。
出力の高さ故に長時間の展開はできず、正面以外の範囲攻撃は防げない。
超振動光子剣「chrysaor」(クリュサオル):A+
携行型の長剣で、アストレアの主兵装。
最大出力では長大なエネルギーブレードを発生させ、イカロスのイージスをも軽々と切り裂く。
A+は最大出力時のものであり、通常はAランク相当の威力となる。
クラス:ライダー
マスター:鳳凰院=キング=頼朝
真名:風音日和
属性:中立・中庸
筋力:D
耐久:D
敏捷:C
演算:A
幸運:C
武装:C
スキル
ハッキング:A
生物、機械に干渉する能力。
対象の性能及び機能を強化もしくは低下させる。
高ランクになると対象の電子頭脳を破壊する事も可能(ただし相手の演算能力を上回る必要がある)
また、ハッキング中は自身のステータスが低下する。
騎乗:C
クラス別能力。乗り物を乗りこなす。
日和の場合 農耕機の運転経験が数えるほどあったのみなので低い。
飛翔:C
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
人間としての生活が長かった日和は飛行を苦手とする。
気象観測:A
農業経験による気象変化への対応知識。
気象兵器「Demeter」(デメテル)による影響を自分とマスターが受けない様にし、気象効果を上昇させる。
武装
気象兵器「Demeter」(デメテル):C
周囲の気象を操作する事ができる。主に気圧を操作し暴風、豪雨、落雷などを広範囲に発生させる。
応用すると人体の鼓膜などに深刻なダメージを与えることも可能。
ただしエンジェロイドへの直接的ダメージは小さい。
クラス:メディック
マスター:五月田根美佐子
真名:オレガノ
属性:秩序・中庸
筋力:D
耐久:D
敏捷:C
演算:C
幸運:A
武装:D
スキル
医療技術:A
シナプスで従事していた医療知識。Aランクは適切な医療器具さえあれば瀕死の重傷さえも治療可能。
ただしシナプスの器具が地上に無い為、普段は腕のいい外科医程度の能力(Bランク相当)にとどまる。
シナプス製の医療器具は彼女が保有する物のみであり有限。それを消費した時に限り本来のランクへ上昇する。
火器管制:C
銃火器を扱う技能。
五月田根美香子が直伝した為、拳銃から機関銃、戦車に手榴弾と豊富な技術を持つ。
ただし扱えるのは地上の火器に限り、シナプス製の兵器は扱えない。
飛翔:C
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
医療用として活動してきたオレガノは戦闘用の飛行を苦手とする。
単独行動:C
シナプスでは医療用としてマスターから離れて行動していた為、ある程度離れても活動に支障が出ない。
ただし現界の為にマスターの存在そのものは必要不可欠である。
武装
なし
クラス:バーサーカー
マスター:シナプスマスター
真名:カオス
属性:混沌・中庸
筋力:B(A)
耐久:A(A+)
敏捷:B(A)
演算:A(A+)
幸運:D
武装:A
*()内は狂化による補正値
スキル
飛翔:A
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
戦闘続行:B
大きな傷を負っても戦闘が可能。
精神的な高揚により痛覚が麻痺し、痛みを感じずに全力を発揮できる。
ただし自身の保身がおろそかになる為、回避にマイナス補正がつく。
自己進化プログラム「Pandora」(パンドラ):A++
エンジェロイドの自己進化プログラム。他の生物やエンジェロイドを取りこむ事で最適な機能を獲得する。
カオスはこのシステムに一切の制限がなく、常に最適な機能を模索する事が出来る。
これによりカオスは戦闘中1ターンごとに相手より1ランク上回る性能を獲得する。
狂化:B
クラス別能力。全ステータスをランクアップさせる。
元々情緒不安定な面のあるカオスだが、狂化によってさらに不安定になっている。
マスター以外の存在は敵という認識しかなく、イカロス達の事を知識で理解してもそれ以上の思考がされない。
ただし智樹とそれによく似た智蔵は例外。彼らを認識すると著しい精神的負荷が起こる。
武装
対認識装置「Medusa」(メデューサ):A
敵エンジェロイドの電子制御機能に介入し、幻惑する。相手の攻撃や回避にマイナス補正を与える。
油断するとニンフですら幻惑されるほどの性能があり、抵抗にはAランク以上の演算能力が必須。
硬質翼:A
自身の翼を変幻自在に操る。
筋力ステータスに依存した威力を発揮する。
炎弾:B
遠距離戦闘用の射撃兵装。
複数の弾頭を連続発射する事が可能。また、チャージする事で威力がランクアップする。
超高熱体圧縮発射砲「Prometheus」(プロメテウス):A
アサシンを取り込んで獲得した武装。カオスの能力に追随してランクアップしている。
Aランク以下の防御及び耐久を貫通し、同ランクの攻撃を相殺する。
クラス:アサシン
マスター:シナプスマスター
真名:ハーピー
属性:秩序・悪
筋力:C
耐久:C
敏捷:C
演算:B
幸運:C
武装:B
スキル
飛翔:B
空を自在に飛行する。ランクが高いほど空中戦で有利になる。
二身同一:B
二人で一つの役割を負う為の機能。
離れていても互いの意思疎通を可能にする。
気配遮断:C
クラス別能力。隠密行動の適正を上げる。
ただし直接攻撃をする際には大きくランクが低下する。
武装
超高熱体圧縮発射砲「Prometheus」(プロメテウス):B
摂氏3000度の気化物体を秒速4kmで射出する。
Bランク以下の防御及び耐久を貫通し、同ランクの攻撃を相殺する。
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『そらのおとしもの』の二次創作になります。
いよいよ終わりが見えてきました。
準最終戦の今回が戦闘のギミックに一番凝った作りをしています。
そのせいか物語描写の視点がぶれるという弊害に悩まされたり。
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