→2.「大変です仲達様、この書に書き込んだ事は本当になっちゃうみたいですよ!」
------------------
「…何を言っているのだお前は」
執務室に駆け込んできた士季に思わず鼻白む。
「それに、その本は張角殿のものではないのか、何故お前が持っている」
士季の手にある書の表紙には『太平要術 五』と書かれている。
一~三巻は張姉妹の仙術の書であるが、四巻は張角殿が一刀様の寵姫となられてからそのおおらかで陽気な振る舞いからは想像できぬ天性の才で編み出した房中術を記したものだと聞く。しかし五巻というものは聞いた事が無い。
「ほらあの方たち元々仙術使えたじゃないですか、で四巻は御存知の通りですけど中身が白紙の巻があったんだそうです。それがこれで、これに書かれた事は実際に起こってしまうということが最近分かってとりあえず五巻にしたんですけど、自分が持っているとうっかり無くしそうなので悪用されないよう曹操様にお預けするんですって」
「ふん…」
胡散臭い。そのようなものが有ったら普通気づくだろうが、あの張角殿ならほったらかしかねないという気もする。
「あー、信じてませんね?」
「それはそうだろう、そのような書の存在なんて今まで誰も知らなかったはずだ」
「でも見てみてくださいよ、ここに書かれてることは実際に張角様に起こった事なんですよ!」
初頁をみてみた。
[夜は点心食べたいなぁ]
[まだ大雨だけど、明日はらいぶだから晴れてね!]
[枝毛よなくなれー]
…なんというか、そんなとんでもない書とは思えないとても私的な内容だ。次頁を見る。
[一刀とでーとしたかったのに!一刀漢中に出張に行っちゃだめ!!]
「…」
思わず固まってしまった。
「どうです?信じました?」
「…ただの偶然と、失礼ながら張角殿の思い込みだろう」
「あ、じゃぁ試してみましょうか?じゃあ当たっても外れても当たり障りのないところで、『曹真様がお菓子を持ってここへいらっしゃる』」
「御嬢様は徐州出張中だ。それに人の物なのだろう、勝手に書き込むのは」
「あ、張角殿の許可は頂いてますから…あ、ほら!!仲達様!!」
士季の指差す方を見ると、果たして子丹御嬢様が小さな箱を持って立っていた。
「あ、仲達。今出張から帰ってきておみやげなんだけど、どうしたの鳩が豆鉄砲食らったような顔をして?」
「は、いえ…お、お帰りなさいませ、御嬢様…」
「ほらほら!これで信じましたか仲達様!これ本物ですよ本物!」
信じがたい。
しかし御嬢様も何もご存じない様子だが…士季が御嬢様がお帰りなのを見つけて、それで書いたのかもしれない。
「知っていたのか、士季…」
「なんでぺーぺーの私がよその管理職の曹真様の出張予定を知ってるんですか…まだ信じられないならもういっちょ行きましょう。…んー、じゃあ。『姜維の性別が女になって一刀様に抱いてもらう』っと」
姜維には悪いが、それは決定的だろう。
「…流石にそれが真実となったら私も信じよう」
頷くと、子丹御嬢様が何の話をしているの?と聞かれたので斯く斯く然々と答えたところ、
「あらそうなの、ところであれは姜維じゃない?」
と仰るので外を見た。
そこには非常に姜維によく似た、似すぎたと言っていい美少女が歩いていた。
気づけば私は駆け出し、彼女の前に立っていた。
顔は間違いなく姜維。服は今まで見た男性のものでなく優美な曲線を隠さない艶やかな女性のもので、髪も可愛らしく結い上げている。
「失礼だが、姜維殿、か」
「はい…?仲達様ではありませんか、御機嫌麗しゅう御座います」
「…突然、大変不躾で申し訳ないが姜維殿、あなたは…女になられたのか」
「!?…は、はい。(一刀様に)女にして頂きました…仲達様や士季のお陰で御座います」
はにかみながら答える姜維に対して、言葉が続かない。
「そ、そうか。それは…良かった」
「はい。あ、あと仲達様と士季に助言頂いた件ですが…一刀様には前の方も御所望頂けまして…それに、御奉仕も鍛錬の甲斐有って御満足のしるしを頂けました、本当に有難う御座いました」
「いや…礼には及ばない、今後とも士季と仲良くしてもらいたい」
「はい、こちらこそ」
では失礼致します、と言って去っていく姜維は非の打ち所の無い美少女だった。
事、此処に至った。
-----------------------
しかし私の天地は、変わらなかった。
「一刀様が手を握って下さる」と書いても。
「一刀様が頭を撫でて下さる」と書いても。
「一刀様が淹れたお茶を飲んで下さる」と書いても。
「一刀様の御料理を作るよう指示を頂く」と書いても。
「一刀様と庁内ですれ違って御挨拶出来る」と書いても。
「一刀様に頬に接吻を頂く」と書いても。『ちゅー』と書くのが恥ずかしくて書き直したのがいけなかったのだろうか。
「一刀様が抱っこして下さる」なんて、私のような大女がしてもらえる訳が無いのに。
何も、変わらなかった。
時折、どこからか『プークスクス』といった笑い声が聞こえたり、御嬢様が私とお話する時に口の端を痙攣させている位で、何も変わらなかった。
自らの欲に溺れた私に、神の助けなどあるはずが無かったのだ。
自分で書き込んだ頁は丁寧に破り取って机の引き出しに仕舞い、五巻は決裁に廻した。
仕事後、張郃と郭淮を強引に誘って飲んだ。久々に酷く酔った。
-----------------------
翌朝時差出勤にさせてもらって出勤すると一刀様と廊下でお会いしたので御挨拶をしたところ、後で御部屋へ来る様にお申し付けになった。今日は一刀様にお会い出来た。いい日になるかもしれない。
雑務を片付けて伺ったところお茶を淹れるよう御指示されたので淹れて差し上げると、美味しいよと言いながら御席の方へ来るようにと仰った。御指示のままにお寄りすると、お座りのままの一刀様の手に引かれ一刀様の上に崩折れるように倒れこんでしまう。
まだ日も高いというのに、なんだこの天国は?なんでもない日に一刀様にこのようにされるのは初めてだ。混乱してしまいながらも「か、一刀様?」と伺うと、
「えーと、『ちょっとやりすぎちゃった』っていう人達のお詫びと、俺からはいつもお世話してくれるお礼的な何かということで」
と今一つ良く分からない事を仰り、私を膝の上に抱き抱えるようにして頭を撫でて下さりながら、「いつも有難う、こんなんで御礼になるか分からないけど」と言われた。
いえ、臣の務めで御座いますからと返事をしたものの、されるがままに幸せの感触に酔い痴れる。
ああ、私は猫になる。
一刀様に抱かれて、頭を撫でられ、このまま猫になれればどれほど幸せか。
どれくらい経ったのか?気づけば一刀様が私の顔を覗き込まれていた。
「今日は月も居ないし、職場の方には言っとくから仲達さんお昼作ってくれる?」
「喜んで御作り致します」
そう答えると、じゃあ昼食代…って本当にこんなんでいいのかなぁと言われながら、私の頬にちょん、本当に僅かな優しい感触なのに、顔に体中に炎が走る程の昼食代を御支払い下さった。
----------------------
午後の業務を終えて帰る間際。
ふと思い出して引き出しをあけてみると私の破りとった一枚が残っていた。
行末に、『という仲達さんの希望がすべて叶う』と一文が書き加えられて。
----------------------
仲達様は良い御友人を御持ちですね、私は『このままほっときましょう』って言ったんですけど郭淮さん達が
書いた内容のショボさとマジ凹みがかわいそうだと仰って一刀様にお願いに行って下さいました。良かったですね、仲達様!
そして一刀様マジ諸葛格、そこに濡れる溢れる憧れるぅ!
さて次は
1.催眠術にかかった演技(ど下手)で一刀様に甘えようとして以下お察し下さい
と
※先般ミドリガメ様から頂きましたリク「華陀の薬で身も心も少年になった一刀の面倒を見る」
をやりたいと思います。
3.天の国の習慣の「四月馬鹿」で一刀様が仲達様に向かって嘘をつきます
も多くリクを頂いたのですが、四月馬鹿ネタを本編でやってしまったので小ネタでやらさせて下さいね!
宿題が多いので悪戯リストは休憩ですが、オリジナルリクは随時受付中ですので宜しくお願い致します!
Tweet |
|
|
66
|
2
|
追加するフォルダを選択
拙作「司馬日記」の外伝で、仲達さんの弟子の士季(鍾会)ちゃんが悪戯をします。