No.478888

ポケモンになってしまった俺物語 12

ネメシスさん

12話です。
さぁ、これで以前まで投稿していた分は外伝を除いてすべて出そろった。
……これからどうなるのか、それは私にも予測ができない(まだ続き書いてないから)

次:http://www.tinami.com/view/482285

2012-09-02 16:00:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4882   閲覧ユーザー数:4830

 

 

 

ラっちゃんとのバトルにギリギリで勝利することができた俺達は、イエローの治療を受けてそのままトキワシティにあるイエローの家に戻ってきていた。

 

『へぇ、ここがイエローの部屋かぁ。初めて来たけど、なんかイエローと一緒にいる時みたいで落ち着くなぁ』

 

『まぁ、家ってのは生活していると、そこに住んでる人の匂いやら気配やらがその生活空間にしみついていくものらしいからな。そう考えたら、ここは長年イエローが住んでいるんだからイエローと一緒にいる時みたいに落ち着くのも当然なのかもな』

 

『へぇ、そうなんだぁ』

 

ラっちゃんは初めて入るイエローの部屋に興味津々で、部屋の中を忙しなく動き回っている。

その姿にどこか既視感を覚えると思ったら、少し前の自分ではないかと苦笑を浮かべる。

 

(俺も初めてこの部屋に入った時は、ラっちゃんと同じ感想だったなぁ)

 

やはり、自分とラっちゃんはイエローが好きだという点に関しては似た者同士なのかもしれない。

少し前の自分を振り返りながら、自分とラっちゃんを見比べながら考えていると、イエローがクッキーとジュースをお盆に乗せて部屋の中に入ってきた。

 

「お待たせ! このクッキーお母さんが焼いてくれたんだよ。とってもおいしいから一緒に食べようね!」

 

『わぁ、美味しそうな匂いだね! うん、ありがたくいただくよ!』

 

イエローがお盆をカーペットの上に置きその隣に座ると、俺とラっちゃんの前にクッキーをのせた小皿とジュースを入れた小皿を置いた。

それではと、俺達はクッキーを一つ食べてみると、なるほどイエローがおすすめするのも分かる気がする。

売り物にしてもいいのではないかと思えるほど、そのクッキーはおいしかった。

俺達はクッキーを食べつつ談笑をはじめる。

基本的にイエローとラっちゃんが中心で俺はその途中途中で会話に加わるといった感じだ。

まぁ、会話の内容が時々俺の知らない、恐らく俺が来る以前のものだろう内容も入っていたのでしょうがないが、はっきり言って俺は話に加わりにくかった。

そこは気をきかせてくれたらしく、イエローもラっちゃんもその時の事を説明するように話してくれた。

……おっと、確かに俺の知らない過去のイエローの話を聞き続けるのも吝かではないがそろそろこれからの話をするとしよう。

 

『なぁ、イエロー。そろそろラっちゃんにもいろいろと話した方がいいんじゃないかと思うんだけど』

 

『ん? 話って、これからの旅の事かな?』

 

「あぁ、そうだよね。これからいろんな所に行くんだから、いろいろと計画を立てないといけないよね!」

 

『……あぁ、いやぁ……確かにそういう意味合いでも言ったんだけどさ。ほら、旅の目的とか……俺の事とかも』

 

「……え?」

 

その一瞬あいた間の後に発したイエローの声に、俺も『え?』と声を上げてしまう。

え、何? もしかしてイエローってば目的のこととかすっかり忘れてたり……はしないか。

たぶん俺の事をラっちゃんに話てもいいのかという意味なのだろう。

確かに以前、俺の事情を口外せずに俺達の間だけの秘密にしておこう、ということを話したことは確かだけど。

 

「えっと……いいの? ……話しても」

 

『あぁ、ラっちゃんなら別にかまわないだろ。これから一緒に旅をする仲間だし、口も堅そうだしな。まぁ、何よりイエローの一番の友達だろ?

俺もラっちゃんはそれなりに気を許せる奴だって思えるし。だから俺としては、仲間に話す分には文句は言わないよ。

……てか、これからいろいろと世話になるんだろうし、秘密にしてるのはなんか俺の気が咎めるんだよ』

 

「……そっか、そうだよね。これから一緒に旅をするんだもん、秘密にするのはだめだよね」

 

『あぁ、そうだな』

 

『……ねぇ、何二人だけで納得し合ってるのかな? すっごい気になるんだけど。

何かよくわからないけど、一人だけのけ者にされてる感じでイラッときちゃうんだけど。

教えてくれるんだったら早く教えてほしいんだけどなぁ』

 

俺達二人だけで話しているうちにどこか拗ねている雰囲気を醸し出しているラっちゃん。

別にのけ者にしているつもりはなかったんだけどなぁ、と俺達は顔を合わせて苦笑を浮かべる。

それに対してますます腹が立ったのか、恨みがましげにジトーッと見つめてきている。

流石にこれ以上ほったらかしにしたら後で根に持って何かされそうで怖いため(主に俺が)、早々にラっちゃんに説明に入ることにした。

 

……それから30分ほど。

ラっちゃんに話した俺の事情はイエローに話したものと同じもの。

 

旅の目的としては俺が元の世界に戻るためにその方法を探すことが第一であり、次点として最悪元の世界に戻れないにしてもせめて元の姿に戻る方法を探すこと。

手掛かりとしては、それらの事が行える可能性が高いだろう存在は俺の知る限りでは2匹くらいだ。

始まりの種とも言われ、全てのポケモンの遺伝子をその身に宿し全ての技を使用することができるといわれている幻のポケモン、ミュウ。

そしてその幻のポケモン、ミュウの遺伝子により生み出され、ミュウと遜色のない強力な力を持つポケモン、ミュウツー。

とりあえずそのどちらかのポケモンを探し出すことが俺達の目標というところだろう。

 

話している時によく驚いたように目を見開いていたようだが、俺の話を途中で止めることはしなかった。

とりあえず最後まで聞いて質問はそれからということだろうか。

まぁ、俺としても一々話を止められながら説明するのは面倒だから助かるけどな。

そして、30分ほど経ちようやく話しが終わると、ラっちゃんは一度大きく息を吐いた。

 

『うぅん、なんというか、その話が嘘じゃないっていうのは……まぁ、イエローが言うんだから、僕自身はまだ半信半疑だけど信じることにするよ』

 

……まぁ、普通はそう簡単には信じられないよな。

ポケモンという不思議な生き物が生きるこの世界でも異世界または平行世界の存在で、さらにどういうわけか人間がポケモンに変わってしまったなど。

それこそ神話などに出てくるような、半ば空想上のポケモンでなくてはできない芸当だろう。

……まぁ、メタモンのようにいろんなポケモンに姿を変えるポケモンも中には存在しているが、それはまた別の話だ。

だけど、イエローはポケモンの意思を読み取ることができる。

そのイエローが俺の意思を読み取った結果で信じたということは、イエローの力を知っているラっちゃんが半信半疑ではあるのだろうが信じるに足るものであったのだろう。

 

『にしても、そっかぁ。ミオって元は人間だったんだねぇ。

……あぁ、なんというか、ごめんね? あの時あんなひどいこと言っちゃって』

 

『……あぁ、いや、自分の力不足は十分に痛感してたし、ラっちゃんにあんな風に言われたってしょうがないと思うよ』

 

ラっちゃんがあのバトルの際に言った言葉、確かにあの時俺は腹が立ったさ。

でも、わかってる、あの時ラっちゃんに言われたことのほとんどが間違いなく本当のことだって。

確かに俺は元人間だったから他のピカチュウと比べていろいろと出来が悪いかもしれない。

今はある程度慣れたとは言っても身体になじむのにかなり苦労したし、電気の制御もまだまだうまくいかないところもあるし、人間の時に喧嘩の経験もなかったから荒事に対する勘もなく当初はピカチュウなのにピチュー以下の力量という何とも悲しいことこの上ないものだった。

シマウマの子供が生まれたときに、それほど時間の経過もなく立ち上がり更に走ることができるようになるのは自然界において走ることのできない、つまり逃げる術を持たないことは死を意味することと同じだ、ということを生まれながらに本能として理解しているからだと言われている。

それと同じように、もともとポケモンは生まれながらに程度の差はあれども皆等しく荒事に対する勘が備わっているものなのだ。

つまり、当初の俺はピチューどころか、そもそも生まれたての赤ん坊以下の力量といっても過言ではなかったということなのだ。

はっきり言ってマイナスからのスタートだったにしては、これまでの短期間でかなり成長できたのではと思えるが、元のピカチュウとしてのスペックを考えればラっちゃんが言ったようにもっとうまく立ち回れただろう。

元人間だったから、そんなことイエローと旅をしていく上では何の言い訳にもなりはしないのだ。

イエローが傷ついてしまってからでは、最悪取り返しのつかない事態になってからでは何の言い訳にもならず、そして後悔したとしてももうもう遅いのだ。

だからこそ、俺はラっちゃんの言ったことに対して怒りなど湧きはしない。

それが事実であるからだと自分でわかっているし、ラっちゃんがあんなに言ったのだって、何より大切なイエローのことを考えての事だからだ。

これで怒っては俺はただの馬鹿だ。

それこそイエローの傍にいる資格などないだろう。

 

『あの時は運が良かったから、何とかラっちゃんに勝てたけど、あのまま負けてた可能性だって十分ある。ただのバトルだったらそれでも別にかまわないだろうけど、もし俺が負けてイエローに何かあったらと考えると寒気がするよ』

 

「……ミオ」

 

『……』

 

運もまた実力のうち、そういう人もいるかもしれないが、運なんてものに何度も頼るようじゃそんなの実力なんていえやしない。

何度も起きるものではないからこそ幸運なのだろうし、それこそ確率的に絶望的なはずの事が起きたからこそ人は『奇跡』と言うのだろう。

そんな起こりえない奇跡に頼るなんて、全てをやり尽くした後、最後の最後というコンマ数秒の瞬間まで本当にどうしようもなくなってしまった時以外に、俺は頼りたくない。

 

『だから、俺はもっと強くなる。自分の身を守れるようになるのは当たり前として、何よりもイエローを守れるように……俺は強くなる』

 

『……うん、そうだね。ミオがポケモンになったこの短時間でここまでできるようになったんだ、これからもっと特訓に特訓を積めばきっともっと強くなるよ。

そして僕も、君と同じように今のままの力で満足なんてしていない。

一緒に強くなろう、大切な者を守るためにね』

 

『……あぁ、いろいろと面倒かけることになると思うけど、よろしく頼む』

 

「……ねぇ、二人とも。二人だけじゃないでしょ? もちろん私もだからね、私も一緒に頑張るよ!」

 

そういい、イエローは意気込んだ。

あぁ、そうだな。

ポケモンとトレーナーは一心同体、どっちが欠けても本当の意味で強くなんてなれはしない。

 

『もちろんさ! イエローも一緒に頑張ろうね!』

 

『あぁ。だけど、頑張りすぎて倒れないように気を付けるんだぞ? イエローって時々頑張りすぎるとことがあるから少し心配だよ』

 

「そ、そんなことないよ!」

 

『……』

 

『……』

 

「……な、なんでそんな目で見るの!? そ、そんなこと、ないん……だよ?」

 

『……ごめんね、イエロー。フォローできそうにないよ』

 

……この事には流石にラっちゃんも肯定はできないようだな。

自分のために頑張るのはいいことだし、他人のために頑張るのもそれもまたいいことだ。

だけど、イエローは他人のため、特にポケモンの事に関してはそれこそ自分のこと以上に我武者羅になってしまうところがある。

 

(うぅん、やっぱりイエローは、どこかあの熱血ポケモン大好き少年な、主人公のサトシに似てるよなぁ)

 

フォローできなかったラっちゃんに問い詰めているイエローを見ながら、俺はそんなこと思っていた。

此方に助けを求めるラっちゃんの視線にはとりあえず気づかないふりを貫く。

……これは後でラっちゃんからの仕返しが怖いな。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

予想通り、話し合いが終わった後ラっちゃんにぐちぐちと文句を言われたり、しばらく不愛想にふるまわれたりしたその翌日、イエローは旅立つための荷物の最終確認を行っていた。

 

「えぇっと、私の着替えでしょ……スケッチブックに……ポケモンフーズに……ポケモン図鑑に……タウンマップに……」

 

肩掛けのそれほど大きくないバッグに、次々と荷物を詰めていく。

明らかに容量以上でバッグがパンパンになってもおかしくはない量を入れているにもかかわらず、少しも膨らむ様子がないバッグに驚嘆の目を向ける。

しかも、イエローの様子を見るにまだまだ入る余地はあるようだ。

イエローに聞いたところ、今回はマサラタウンに行く時以上の長旅になるため、あの時に使っていたような普通のバッグとは違い、少し特殊なバッグを使ってるとのこと。

それは、ポケモントレーナーになった者に支給されるバッグで、30個までならどんな重さのものでも大きさのものでも圧縮して収納することができるそうだ。

耐久性、耐水性、耐火性など、普通のバッグとは比べ物にならないほどに優れていて、ちょっとやそっとのダメージでは傷はつかない。

だというのに、触った限りでは鋼のように固いというわけでもなく、普通のバッグのような質感だった。

ポケモンの世界、なんて微妙な所でハイスペック技術が用いられているのだと俺を更に驚嘆させた。

まぁ、もちろんモンスターボールのようにポケモンや他の生き物を入れることはできないようだが。

それが、マサラタウンから戻ってきた次の日、つまりちょうど今日届いたのだ。

 

(……あぁ、だからアニメでサトシ達、旅の途中で野宿になっても料理とかできたりしたのか)

 

以前見たアニメで、明らかにバッグに入らないだろと突っ込みを入れてしまったことがあったのを思い出し、今ようやく納得した。

……まぁ、ある程度はご都合で『突っ込んじゃダメ!』な所なんだろうけど。

とりあえず、この微妙なハイスペックさのお蔭で重い荷物を持ったり荷物がかさばったりと、旅で苦労させられることは少なくなりそうだ。

 

「……よし! 準備万端、入れ忘れてるものもなし!」

 

と、いつの間にかイエローの方でも荷物の整理がついたようだ。

 

『……それじゃあ』

 

「うん、行こっか!」

 

イエローはラっちゃんをボールに戻し、バッグを持って立ち上がった。

体調よし、準備よし、天気は雲一つない快晴、旅立ちにはもってこいの日だ。

 

「……あ、忘れるところだった」

 

イエローは部屋を出ようとしたところで踵を返して戻ってきた。

そのまま、机の上に置いてあった麦わら帽子をかぶり、今度こそイエローは振り返ることなく部屋を出た。

これからが、俺達の本当の旅の始まりだ。

 


 
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