No.476974

おや?五周目の一刀君の様子が……16

ふぉんさん

また時間が飛びます。

2012-08-29 09:26:36 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11324   閲覧ユーザー数:8297

鍬を杖に一休み。

額を伝う汗を拭い一息ついた。

自分の立つ周辺の地を眺め、随分と慣れたものだと心で独り言つ。

ねねが知り合ったという村人の農地を手伝い始め、早一月は経とうとしていた。

最初の頃は勝手知らず色々と教えてもらったものだ。

 

この一月で傷は完全に塞がり、身体の調子も元通りとなった。

森に囲まれた村での開墾は普通のそれとは違いとてもハードで、身体を鍛えるのにも適していた。

加え、後漢王朝衰退から始まった群雄割拠の世。

野盗だの盗賊団などが現れ始め、村を守るために護衛紛いの事も行った。

村人達からは大変感謝された。これで借りを返す事ができただろう。

 

また村にいながらも、訪れる商人等から情報収集はできるだけ行った。

村に居る間の情勢を知らず、いざ村を出る時に浦島太郎化してしまうなど笑えないからだ。

 

「一刀殿ー」

 

俺を呼ぶ声に思案を止め意識を向ける。

そこには切り株に座りながら包みを掲げるねねの姿があった。

 

「休憩と致しましょう。今日もねねは一段と腕を振ったのです」

 

「そうするか」

 

太陽は真上。丁度昼時だろう。

俺は鍬をその場に寝かせねねの方へ歩み寄る。

ちなみに、意識を取り戻した次の日には、ねねから真名を授かった。

別に断る理由もないので受け入れたのだが、それからより一層懐き度が上がった。

最初の頃は鬱陶しかったが、今はもう慣れた。一種の愛玩動物だと思えば可愛い物だ。

 

切り株に座り包みを受け取る。

当然の様にねねは俺の膝の上を陣取った。

 

「……俺は少し疲れてるんだが」

 

「労をかけた家臣に対して報うのが主というものです」

 

笑顔で見上げてくるねねを見ると、何故か言い返す気が失せた。

包みを開け握り飯を頬張る。

程なくして食べ終え、俺はこれからの予定をねねに話した。

「呉へですか?」

 

「あぁ。勝手な事を言ってるのは分っているが、少し時間をくれないか」

 

村への借りも返せ、怪我も治り憂いが無くなった今、このまま村に長居するつもりは無い。

次はねねへの恩返しだが、ねねの本来の主は呂布である。

ならば洛陽の戦から行方をくらましているらしい呂布の捜索を手伝うのが順当。

しかし、俺は先に呉へと向かいたい。

俺が意識を失っていた二月の間に、美羽の軍を内から食い破り独立した孫呉。

別に恨みは持っていない。孫策達に負け放浪するのは俺の記憶にもあるし、処刑されたという話も聞かない。ならば七乃も居るし無事にしているだろうと結論付けている。

呉へ向かう理由、それは説明のしようが無い。

俺は何故か呉へ行かなければならないと、そこで何かをしなければならないと本能が叫んでいる。

こんな不明瞭な理由にねねは呆然としていた。

まぁそうだろう。俺だってこんな事言われたら呆れるしかない。

だがねねが首を縦に振らなくても、俺は呉へ行くつもりだ。

心根でそう決めている程、見えない何かが俺を掻き立てている。

 

「むむむ……一刀殿がそこまで言うのなら、しょうがないのです」

 

それに、とねねは続ける。

 

「恋殿は言わずと知れた天下無双の武人。無事に逃げきり、何処かで元気に過ごしているのですよ」

 

自分に言い聞かせる様なその言葉に、俺の少ない良心が苛まれる。

さっさと呉で用事を済ませ、呂布を探し出してやりたいものだ。

 

話し合った結果、俺らは明日この村を出る事にした。

急な知らせに村人達は悲しんだが、餞別にと食べ物や路銀をくれた。

ここの村人達は優しすぎる。俺は対応に困りながらもしっかりと礼を返した。

道中通りかかるようであれば、また寄ってみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀達が村を離れたその同時刻。

 

「華琳様。出陣準備、整いました」

 

「ご苦労様。では一刻後に出陣しましょう」

 

「御意。……」

 

「……まだ不満があるようね、稟」

 

「……今、この時期に孫策に戦いを仕掛ける意味が私には分からないのです。北方に袁紹の勢力がある以上、今は軍備の増強に専念すべきでは?」

 

「確かに麗羽は北方で勢力を伸ばし、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している。だけれど、どれだけ勢力を誇ろうと所詮は麗羽よ。跡に回しておいても大過は無いわ」

 

「私も袁紹の情報は耳に挟んでいますが、あまりにも過小評価をしすぎではないでしょうか」

 

「そうだとしても、孫策は袁術を追放したあと、瞬く間に揚州を制圧し、軍備を整えている。勢力の増した孫策軍と袁紹軍。どちらを相手するのが利に準ずるかは明白ではなくて?」

 

「……なるほど。でしたら確かに、この侵攻は好手となりますね」

 

「ふふ、分ってくれたかしら」

 

「しかし……」

 

「なに?まだ懸念があるの?」

 

「は……群雄割拠が始まるを予測し、軍備の増強に努めてきましたが、黄巾党の乱よりこちら、どうも質の悪い兵が混ざってきているようなんです……」

 

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馬を飛ばし揚州に向かっていた俺達。

しかし、到着寸前に現れたのは大量の魏軍だった。

どうやら魏は呉を叩くため進軍していた様だ。

この胸騒ぎは魏が関係しているのだろうか。

 

「邪魔だ!!」

 

行く先を阻む兵を馬上から切り伏せる。

尚も立ちふさがる幾多の雑兵共。

相手をする時間が惜しい。胸奥を燻る気持ちは今も大きくなっている。

 

「一刀殿!そろそろ抜けるのです!」

 

落馬しないよう俺の背を強く抱きしめているねね。

その言葉と同時に、敵兵で埋まっていた進行方向の視界が開けて来た。

 

「はっ!」

 

声と共に手綱を引く。

すると馬は跳躍し、前方の兵を飛び越えた。

着地に速度を落とすこと無く再び疾駆。

向かうは城に隣接した森。

あそこへ行けば全てが分る。何故かそんな確信があった。

「華琳様。全軍、揚州に入りました。……すぐにでも作戦行動を展開できますが」

 

「相手は英雄孫策。……すぐにでも動きましょう」

 

「で、伝令!」

 

「何事だ!」

 

「突如現れた騎馬が単騎で我が軍に突撃し突破!そのまま城へ向かっております!」

 

「……単騎?」

 

「は。被害は殆どありませんが、兵達が混乱しております」

 

「桂花」

 

「……分りません。しかし、隙を着かれたと言えど単騎で我が軍を突破出来る程の将を、孫策軍が無作為に突出させる利点がありません。遠征に出た孫策軍武将の情報はありませんので、恐らく……」

 

「孫策軍では無いと言うのね。罠の可能性は」

 

「無いかと。周辺の警戒は怠らせていませんでした。突如現れたという事は、我が軍の認知範囲の外から駆けてきたということでしょう」

 

「そう……秋蘭、兵を落ち着かせ次第廬江より東進し、敵本城の背後をつきなさい」

 

「御意」

 

「か、華琳様!」

 

「突破され、城へ向かっているというのなら手の打ち用がないでしょう。孫策軍じゃないのであれば捨て置いても問題は無いはず。今は目の前の戦に気を向けなさい」

 

「は、はい」

草木を掻き分け走る。

馬は森に入ってすぐに降りた。獣道も無いこんな道を馬で走れる訳が無いからだ。

小川のせせらぎが耳に入る。前方に見えるのは甲冑の背中。弓に矢を番え何かを狙っている。

その鏃の先には、墓石の様なものに跪く孫策が居た。

自らを狙う兵に気付いている様子は無い。

 

「雪蓮ッ!!」

 

いつの間にか叫んでいた。

言葉と同時に放たれた矢は、俺の声に気付いた孫策が身を翻し当たることは無かった。

 

「ち、ちくしょう!逃げるぞ!」

 

別の場所に隠れていたのだろう。

数人の兵士が物陰から現れ脱兎の如く逃げ出した。

 

「待ちなさい!」

 

孫策は剣を抜き追いかけ始める。

それを見て俺は安堵の息を漏らす。

今の今まであった胸騒ぎがすっかり無くなっていた。

つまり俺は、孫策を助けるためにここまで来たかったのか。

思案に入る前に、思い返す。

 

『雪蓮ッ!!』

 

これは誰の名?

……考えるまでもない、孫策の真名だろう。

許可どころか知るはずも無い孫策の真名を、何故俺が口にできたのだろうか。

 

「か、かずとどのー……」

 

と、漸くねねが追いついてきた。

息も絶え絶えに口を開く。

 

「き、急にどうしたのですか。ここは戦になります。早く逃げるのですよ」

 

「……すまん。馬へ戻ろう」

 

ねねの言う通りだ。このままここに居れば魏と孫策軍の戦に巻き込まれてしまう。

それに、孫呉の王である孫策の真名を許可無しに呼んでしまったのだ。

いくら命を救ったとて、重い罰にかけられてしまうだろう。それは御免だ。

疲れからか地にへたり込んだねねを抱え、走ってきた道を戻る。

荷物みたいに扱うなと文句を言うねねは、完全に無視した。

急ぎ戦線を離脱した俺達。

漸く落ち着き、平野に馬を歩かせる。

 

「なんですとー!?」

 

目的は達したから呂布を探すか。

俺がそう言うとねねは両手を頬に当て驚愕した。なんて古典的な驚き方なんだ。

 

「呉へ行くのでは無かったのですか?まだ揚州に入ったばかりなのですよ?」

 

「もう、行く必要も無くなったしなぁ」

 

別に良いじゃねぇか。それだけ早く呂布に会えるかもしれないんだし。

 

「むー……何か納得がいかないのです」

 

ぶーたれるねね。確かに勝手がすぎたか。

思案は後回しだな。

小言を洩らすねねに苦笑いしながら、頭を撫でてご機嫌をとることにした。

※次話は魏と呉の話になります。

難しい話は嫌いだけど、これ導入しないと明らかに変だからなぁ…


 
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