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真恋姫†夢想 弓史に一生 第四章 第二話 敵陣突破(後編)

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

今回は敵陣突破(後編)となっています。


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2012-08-26 17:58:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3176   閲覧ユーザー数:2829

~麗紗side~

 

 

「本気ですか!?お兄ちゃん!? それとも馬鹿なんですか!? …そうですか、馬鹿なんですね…。そうなんですね…。可哀想なお兄ちゃん…。 …でも、そんなお兄ちゃんでも私は…。」

 

「ちょっと待った。何か勝手に俺が馬鹿になってるが、とりあえず一旦待ってくれな。まず、俺は馬鹿じゃない。これは良いか?」

 

「どこが…ですか…?? 相手はきっと、国境付近で兵を展開させてます…。その中に、この人数で突っ込むなんて…。 馬鹿としか…言えません…!!」

 

「皆にも言われたが、無策に突っ込むわけじゃないさ…。まぁ、最終的には実力行使になるかもしれないけどな…。」

 

「…どういう…ことですか…??」

 

「口で説明するのは少々難しくてな…。まぁ、見ててくれ。」

 

 

そう言ってお兄ちゃんは、微笑んで私の頭を撫でるのでした。

 

頭撫でられるのは…嬉しいけど…でも、お兄ちゃんは一体どうする気でしょうか…心配です…。

 

 

『天の御使いは神算鬼謀。その策は敗勢でさえ覆す。』なんて噂を聞いたことはあります。

 

でも、それはあくまで一軍を率いていたときですよね…。

 

今は全部で九人…。しかも、戦えるのはその内四人ほどでしょうか…。

 

いくら千人切り、鬼の化身と呼ばれる天の御使いでも、誰かを守りながら戦うのは厳しいはず…。

 

うぅぅ~…。本当に心配になってきました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はそのまま国境付近まで来ました。

 

案の定、と言うか不幸にもと言うか…国境付近には警備兵が大勢居て…通行者の顔をいちいち確認しているところから、明らかに私達を探していることが分かります。

 

 

しかしそんなものお構い無しに、お兄ちゃんは何の躊躇いもなく国境付近へと進んでいきます。

 

その距離、後一里…半里…四半里…。

 

流石に向こうも気付いたようで、兵が武器を用意しながらこちらに鋭い視線を向けています。

 

 

「おい!! そこの一団、止まれ!!」

 

「うん?? 何か用かい??」

 

「我々は今、手配犯を追っている!! その者の特徴とあなた方が似ている為止めさせて頂いた!! 少しの間、時間を頂けるか!?」

 

「こっちも急いでるんだが…まぁ、あんた達も仕事だろうから、付き合いますよ。(ザザザッ)」

 

「ご協力感謝する。」

 

あれっ?? 何か今、一瞬お兄ちゃんの顔に違和感が…。

 

「手配犯はこの世の物ではない服を着、光ったかと思えば見たことも無い剣を取り出し、自分を正義の味方だと吹聴しているらしい。そして、そのお供にはこれまた見たことない光り輝く服を着た男がいたと言うが…。」

 

「ほう…。 この世のものでない服、見たことも無い剣を取り出す(チャキ)、で、自分は正義の味方だと言う…。お供には光り輝く服を着た男…。一刀、お前の事かな??」

 

「…俺なんじゃない??」

 

「だそうだ…。じゃあ、お尋ね者ってのは俺達のことかもな。」

 

「かもも何も、お前達ではないか!! 皆のもの、こやつらを捕らえろ!! 抵抗する場合、殺しても構わんとの御達しだ!!」

 

そう警備兵の一人が叫ぶと、武器を持った兵達が一斉に襲い掛かってきた。

 

「だから言ったじゃないですか!! お兄ちゃん、逃げましょう!!」

 

「いやっ、無理だろ。この数相手に逃げ切れないって…。」

 

「そんな!!でも、逃げないと…。」

 

そう私が言った瞬間。

 

ヒュン…ドサッ。

 

「ぐはっ!!!」

 

警備兵の一人が、お兄ちゃんに縄をかけて馬上から引き摺り落とした。

 

馬上から引きずり落とされたお兄ちゃんは、抵抗する間も無く、周りを多くの警備兵に囲まれていく。

 

他の人々も次々と縄をかけられて捕まっていく。

 

「お前も馬から下りろ!!」

 

「はっ!!」

 

縄が私にかけられる。

 

男の力に適うはずもなく、また、馬上で踏ん張りが利くはずもなく…。

 

下に見ていたはずの地面が一瞬の内に逆転し、天地がひっくり返ったかのような錯覚に陥る…。

 

そして…そのまま地面に叩きつけられた。

 

思った以上の衝撃が胸に走り息が詰まる。

 

 

「全員捕らえたぞ。 おい!! お前が言っていた奴って言うのはこいつらか?」

 

一人の男がお兄ちゃんの所に歩み寄る。

 

「あぁ、こいつだ。こいつの所為で俺は多くの町民の前で恥をかいちまった。」

 

「おやっ? これはこれはこの前の…。今日はどうしました? また、女の子に声でもかける為にそこら辺をふらふらしてるんですか??」

 

「(ピキッ)…口の利き方に気をつけろ!!(げしっ!!!)」

 

「ぐっ…。」

 

「お前…今の状況がわかってねぇみたいだな!! その体に教えてやるよ!!」

 

「ゴホゴホッ…へぇ~…。あんたみたいな学が無さそうなやつでも教えれるもんなのかい?」

 

「…つくづく、口のへらねぇ奴だな!!(ゲシッドシッボゴッ…。)」

 

「ぐっ!!ごっ!!がはっ!!」

 

「どうだ!! 少しは自分の置かれてる状況が分かったか!!」

 

「…ハァハァ…s…さぁ~…てね…。生憎、頭が悪いもので…。」

 

「けっ。このまま痛めつけるのも面白いが…お前には、もっときつい事を味わってもらわないと気が済まねぇ!!おい!!女達を連れて来い!!」

 

「…何を…する気だ…??」

 

「決まってんだろ!? 聞いた話じゃあこいつらはお前の女なんだよな? …へへへっ、自分の女が他の男と目の前でしてるのを見るのは…きついよな??」

 

「やめろ!! 俺なら殴りたいだけ殴り、蹴りたいだけ蹴れば良い!! だから、彼女たちには手を出すな!!」

 

「はぁ??そんなの聞けるわけないだろ。 おっ…良い女ばかりじゃねぇか…。どれどれ…う~ん…。じゃあ、そこの橙色の髪の女を連れて来い!!」

 

芽衣さんが後ろ手に縛られた状態でその男達のところに連れてこられる。

 

「へへへっ…。良い体してんなぁ~。」

 

「いやっ!? 止めなさい!!この…。」

 

「おっと…動くなよ。動けばこいつが…。」

 

そう言ってお兄ちゃんの傍の男が腰から剣を抜き、お兄ちゃんの首筋にあてる。

 

「くっ…。」

 

「芽衣!! 俺のことは気にするな!!早く逃げろ!!」

 

「でも…!! 聖様を残してなんて…。」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!!(バシッ)」

 

「きゃあ!!!!」

 

「芽衣!! …くそやろう!!」

 

そう言ってお兄ちゃんは何とか抜け出そうともがき、暴れ始めました。

 

「暴れんじゃねぇ!!」

 

「てめぇらこそ、その薄汚い手で芽衣に触るな!!」

 

「…さっきから聞いてれば…もう、我慢ならん。その減らず口、二度と叩けない様にしてやるよ!!」

 

「聖様!!」

 

「お頭!!」

 

「先生!!」

 

「聖!!」

 

「お兄ちゃん!!」

 

「聖~!!(聖!!)『聖さん!!』」

 

「死ねぇ~!!!!!!」

 

男は大上段に剣を振りかぶり、そして

 

ガシュ!!

 

振り下ろす勢いのまま、お兄ちゃんの首を切り落とした…。

 

その音と共に静寂が場を支配する…。

 

 

地面に転がるその物体。

 

大きさのわりに重量感のある物体が転がる様子に、時がゆっくり動くかのような錯覚を覚える。

 

しかし、鼻を衝く異臭に意識が引き戻され、途端に吐き気が襲ってくることで、現実に起きてしまった事だと強制的に理解させられる。

 

「あっ…あぁ…聖…様…。」

 

「そ…んな…お頭…。」

 

「先生…??」

 

「嘘だろ…。嘘だと言ってくれよ!!」

 

「はっはっはっ!!! 俺達に逆らったのが運の尽きだったな!!」

 

「お兄…ちゃん…。そんな…嘘でしょ…まだ、会って…ぐすっ…ほんの少しなのに…。うっ…ううっ…うわぁあああああああ~~~~~~ん。」

 

嗚咽混じりの鳴き声は怒号の様にこだまし、流れ落ちる涙は決壊し氾濫した長江の様。

 

次々に溢れてくる涙は留まることを知らなかった。

 

 

「さぁ、邪魔な奴は…あぁ?? そう言えばまだ一人男がいたな…。 そいつも殺っとけ!! その間に俺達は…こいつらを頂くとするか…。」

 

「いやぁああああああああああ~…。」

 

 

すっ……。

 

「…おいおい…俺の連れに手を出すなって散々言ったろ? 聞こえていなかったか?」

 

「あぁ…??誰だよ、いった……い………んなっ!!!!????ばかな!!!!」

 

「まったく…そんなんだからお前らは腐ってんだよ…。」

 

私は夢でも見ているのでしょうか…。

 

お兄ちゃんの首と頭は確かに分かれています。しかし、口は動き、手も足も動いているのです…。

 

「おっ…お前!!首は確かに落としたはず!! …な…何で生きてんだよ!!」

 

「そりゃあ…俺の怨念が強かったからかもな…。お前達を呪い殺そうとする怨念が…。」

 

「たっ…助けてくれ…。」

 

「ばっ…化け物だ…。」

 

警備兵はその場で竦み上がっています。

 

というか…あんなの見たら普通は逃げ出します…。かく言う私も逃げ出したい一心です。でも、体が恐怖で動きません。

 

他の人を見ると、皆も同じ様子に見えます。

 

お兄ちゃんらしき人は、そのまま警備兵たちの方へ行き…。

 

「俺の首と体を引き離したんだ…。それ相応の対価は払ってもらおうか…。」

 

「ま…待て…。やめろ~!!!!!!!!!」

 

……警備兵たちを、全員同じ状態へと変えていったのでした…。

 

恐怖が心を占めていると、頭で分かっていても体がついてこないものです…。

 

私たちは、ただその姿をあっけにとられながら見ていることしか出来ませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろか…。(パチンッ!!!)」

 

その瞬間、周りの景色は音をたてて崩れ去りました。

 

眩しい光のあと、周りを良く見ると私は馬に乗っていて、そこは国境から遠く離れた場所でした。

 

さっきまで見ていたはずの国境付近の光景は遥か遠くに見えます。

 

そして、私の後ろには…ちゃんと首と頭が繋がっているお兄ちゃんがいました…。

 

 

 

 

 

 

~聖side~

 

 

「一体…何が起こったんですか…。」

 

「確か…あたいたちは国境の警備兵に捕まって…。」

 

「先生が…殺されて…。」

 

「その次に俺も殺される寸前で…。」

 

「私達が…襲われそうなときに…。」

 

「聖が~立ち上がって~…。」

 

「でもでも、その首と頭は離れてて…。」

 

「皆が皆、その姿に驚愕してた…はずだった…。」

 

「なのに、気付けば皆こんなところにいたってことだろ??皆が言いたいのは。 まぁ、順を追って説明するよ。まず、俺は殺されてもいないし、捕まってもいない。これは良いかな?」

 

「はぁ…。まぁ~今の状態を見れば明らかですよね~。」

 

「そういうこと。では、君たちの目の前で起こったこと。あれは一体なんだったのか…。その答えは俺の幻視(ビジョン)にあるんだ。」

 

「幻視!!!??? って、まさか…!!」

 

「あの~…まったく分からないのです…。」

 

「まぁ、一刀しか分からんと思うよ…。 説明するとだな、俺は他人に、俺の思い描いた幻を見せることが出来る。それが幻視だ…。発動条件は俺の目を見ること…。そして、俺の目を見た奴を含め、一里以内にいる奴が対象になる。今回は俺に最初に話しかけた奴が媒介だったな…。ただし、初めに一里以内にいなければ後から入ってきても効きはしない。後、幻を見ている間は、俺以外現実世界では動いていない状態なんだが…馬等の生き物には効果がないから、今回は勝手に馬を進めて、国境を抜けてきたというわけだ…。 いや~…使ったことなかったから使ってみたかったんだけど、いざ使うと凄い体力使うな…。丸一日走り回った後のような疲労感が体に残る…。」

 

「なぁ、聖…。他に条件ってあるのか?」

 

「一日に使えるのは一回。それ以上だと俺の体に支障が出るらしい…。他は、幻視にかかってない奴が話しかけるだけで解けちまう。故に、解除する時は俺の意思か幻視にかかってない奴が話しかければ良い。また、同じ奴には何度でもいけるらしいが…試したこと無いから分からん。」

 

「聖様…。そんな説明で納得できるとお思いですか…?」

 

「とは言え、これ以上に説明のしようがないからな~…。」

 

「…ぁか…。」

 

「??」

 

「馬鹿、馬鹿、馬鹿!!! 私達が…どれほど…悲しんだか…。」

 

見ると、皆が皆涙を流していた。

 

「私達にもう心配はかけないって、そう約束したじゃないですか~…。」

 

「ゴメンな…。今回は上手くいくか分からなかったし、それに敵を騙すにはまず味方からって言うし。」

 

「それでも限度というものがあるのです!! …本当に…死んじゃったかと思ったのです…。」

 

「死なないさ…。俺は天の御使いだぜ!?」

 

「あたい達を幸せにしてくれるって約束。しっかり果たしてもらわぬ内に死なれちゃあ…あたいたちも嫌なんだよ…。」

 

「したっけ…? そんな約束…。」

 

「してないと思うなら…今ここで…その約束を誓ってください…。」

 

「そうだな、聖。女の子を泣かせるのは良くないぞ。」

 

「けっ!!お前に言われたかねぇよ……けど…まぁ、迷惑かけたし…分かった。 天の御使い、徳種聖が今ここに約束する。これから俺の傍に居てくれる者、俺の為に働いてくれるもの、その者全てに幸せをもたらすことを誓う。そして、その為なら俺は修羅にでも悪魔にでもなろう…。」

 

「あの…お兄ちゃん…。」

 

「どうした?麗紗?」

 

「非暴力・不服従だったのでは…??」

 

「あぁ、それは俺の基本理念だろ? 愛する者の為なら、基本理念なんて二の次だよ…。俺は彼女達の悲しむ顔をもう見たくないんだ…。その度に胸が締め付けられて、辛い思いがするから…。」

 

「そうですか…。それもこれも…あなたが…人を大好きで仕方ない…というところから…来ているのでしょうね。」

 

「そうかな~?」

 

「そうですよ…きっと。」

 

「じゃあ、そうなのかな…。」

 

「はい…。」

 

俺の前で笑う彼女の笑顔の端に、一筋の涙が光っていた。

 

 


 
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