No.474030

山ノ頂にある不思議な街のお話。

岡保佐優さん

魔女の娘さんシリーズの幕開けです。基本的に一話完結です。そのうちにでもマンガにおこせたらいいなぁと思いつつ書いております。

2012-08-22 23:46:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:465   閲覧ユーザー数:464

昔々、あるところに女の子がおりました。

女の子は年若かくも魔女でした。

 

女の子はとある成行きからガラスの山の頂の小さな家を作りました。

そこはバターと砂糖の樽で覆われ、庭には対になった噴水から綺麗な水と美味しいぶどう酒が、

ざあざあと絶え間なく溢れ出しておりました。

 

山に迷い込んだ人が、ひとりふたりと住み着きやがて小さな街に成りました。

ガラスの山は罅割れ今にも崩れてしまいそうな様子をしているのに、

そこだけは貴族のお城のように何もかもが素晴らしいものだったので、

初めは誰も気味悪がりましたが、数日そこにいるとそれはもう

まるで天国のマリア様のお庭にいるような気分になったそうです。

街の誰ひとり女の子が誰なのか知りませんでした。

 

女の子は街で一番偉かったので、毎日みんなが挨拶に来ました。

みんなが上品に挨拶し、労いや感謝の言葉をかけてゆくので

女の子もとても上品に振舞いました。

 

ある日、青年が山の中で行き倒れておりました。

それを見つけた街の人は憐れに思い、街に連れて帰りました。

 

青年が街の人に感謝を述べますと、街の人は親切に言いました。

「いえいえ、お礼なら絶えず食べるものも着るものも誂えて下さるあの方に仰ってください」

それからにこにこと誇らしそうに女の子の元へ案内しました。

「そなたは何者ですか

 天の使いか、それとも夜空に座る星の方ですか」

女の子はこくりと首を傾げながら微笑むと何も言いませんでした。

青年は不思議に思いながら山を後にしました。

 

数日たって、やっぱり女の子が不思議で仕方ない青年は

もう一度山の頂にある小さな街に行きました。

今度はお礼にひなぎくの花を抱えきれないほど持っていきました。

 

ところが街につくと、バターと砂糖の樽も、水やぶどう酒の噴水も何もありません。

家の壁じゅうに羽の生えた蜘蛛が這いずり回り、酒樽には動物の死骸が滅茶苦茶に詰め込まれておりました。

干からびた噴水は毒が染みこんで酷いにおいがしていましたし、

他にも世界中の人が想像し得る悪夢で埋め尽くされておりました。

 

街の人は言いました。

「これはこの間のお方、そのひなぎくはあの方への贈り物ですかな」

青年は汗びっしょりになりながら、何とか、ええそうですと答えました。

「それはそれは、きっとあの方も喜びましょう

 なにしろここにはどういう訳だか花がひとつもありませんから

 ガラスの山に連なる地故に仕方がないのかもしれませんが」

 

青年は街の人に花を渡すよう頼むと、一目散に山から逃げ帰りました。

小さな魔女の女の子は、その様子を満足そうに見ておりました。

 

 

 

 


 
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