No.473957

IS〈インフィニット・ストラトス〉 ~G-soul~

ドラーグさん

対決数時間後

2012-08-22 21:57:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1282   閲覧ユーザー数:1229

「う・・・・・」

 

目を覚ますと、俺はどうやら保健室に寝かされていたらしく、最初に目に入ったのは天井だった。殴られた右頬には

湿布が貼ってある。

 

「あ、気がついた?」

 

その視界に、楯無さんが入り込んでくる。

 

「・・・楯無さん、近いです」

 

しかしその顔と顔の距離が近すぎる。

 

「・・・・・・ふふっ」

 

なぜか俺を見つめたままの楯無さん。その目が綺麗で、吸い込まれそうになる。

 

「あの・・・、あの後はどうなったんですか?」

 

俺が問いかけると楯無さんは顔を離して近くの椅子に座った。俺も体を起こして楯無さんの顔を見る。夕日をバック

にしたその姿はどこか神秘的だ。

 

 

「あの後って、どこから?」

 

「どこからって・・・、俺が気絶してからですよ」

 

「え・・・・・」

 

すると楯無さんはショックを受けたように顔を俺から逸らした。

 

「憶えてないなんて・・・ひどいわ・・・・・」

 

「はい?」

 

「瑛斗くん、見かけによらず大胆だったんだから・・・・・」

 

「あ、あの~? 俺は一体何をしたんでしょ?」

 

「言えるわけないじゃないの・・・あんな激しいこと・・・・・」

 

「何だ!? 俺は一体なにをしたんだ!?」

 

「なにって、その・・・」

 

楯無さんが恥ずかしそうに俯く。その時、俺の直感が告げた。

 

『とにかく謝れ!』と。

 

「すいませんでしたぁぁぁっ!」

 

ベッド上でこれ以上ないほど全力の土下座。なにをしたのかなんてこの際二の次! 今はとにかく謝り倒すんだ!

 

「ちょ、え、瑛斗くん?」

 

「ごめんなさいごめなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃっ!」

 

そりゃもうもの凄い力で頭を擦り付ける。

 

「・・・・・・・ぷっ」

 

「?」

 

楯無さんが突然吹き出し、俺は顔を上げる。

 

「あはははははっ!! うん! それだけ元気ならもう大丈夫みたいね」

 

「え?」

 

「瑛斗くんはダリル先輩に負けてからずーっと気絶しっぱなしだったわ」

 

「へ? え、てことはつまり・・・・・」

 

「うん。おねーさんのドッキリに引っかかったの。きゃは☆」

 

星が出るウインク一つ。楯無さんはカラカラと笑い出した。開いた扇子には『成功』の文字が。

 

「もぉ~~・・・・・脅かさないでくださいよ」

 

俺は恨めし気に楯無さんを睨む。

 

「ごめんごめん。想像以上に面白い反応だった―――――――」

 

「桐野ぉっ!」

 

「「!」」

 

ドアが勢いよく開かれた。

 

「ちょ、ちょっと先輩! 待ってっす!」

 

止めるフォルテ先輩を無視してずんずんと入ってきたのはダリル先輩だった。

 

「な、なんですか?」

 

「ど、どうしました?」

 

突然のことに俺と楯無さんは驚く。

 

そんなことはお構いなしにダリル先輩は俺の前に仁王立ちした。その隣でフォルテ先輩がアワワ・・・と落ち着かな

いでいる。

 

「え・・・えっと~?」

 

狼狽する俺を見下ろしながらダリル先輩は続ける。

 

「フォルテに謝れ」

 

「え・・・・・?」

 

「聞こえなかったか? フォルテに謝れって言ってんだよ」

 

「あー・・・・・」

 

俺はチラ、と楯無さんを見た。

 

しかし視線を逸らしやがる。おのれぇ・・・・・!

 

俺は妙な緊張を覚えながらダリル先輩に顔を向けた。

 

「えっと・・・ですね。ダリル先輩」

 

「なんだよ」

 

「その、今日の試合・・・どうでした?」

 

「は?」

 

「いやだから、今日の試合の感想です」

 

「感想って・・・そりゃ、久々に燃えるファイトだった。やっぱり射撃云々なんかより接近戦だな」

 

「ハウンドは、素晴らしい機体ですか?」

 

「? まあな。これからも世話になるつもりさ」

 

その発言に一番反応したのはフォルテ先輩だった。

 

「! じゃ、じゃあ!? 先輩! 卒業後の進路は!?」

 

「予定通り、軍のIS機関だけど?」

 

「~~~~~っ・・・・・! ダリル先ぱぁい!」

 

フォルテ先輩はダリル先輩に抱き着いた。

 

「わっ、ちょ、おいフォルテ! なんだよいきなり!」

 

「よがっだぁ~! よがっだっす~!」

 

おいおいと泣きながらダリル先輩に顔を押し付けるフォルテ先輩。

 

「な、なんだ? 私変なこと言ったか?」

 

状況を把握できていないダリル先輩に俺は声をかけた。

 

「俺たち、フォルテ先輩から聞いたんですよ」

 

「聞いた? なにを?」

 

「何って、そんな隠さなくていいんですよ。スカウトのこと」

 

「え・・・・・」

 

虚を突かれた風の先輩に楯無さんが続ける。

 

「実は、先週からの瑛斗くんの態度はお芝居だったんです」

 

「芝居?」

 

「ダリル先輩がISを手放すって話を聞いて、先輩にまたISに関心を持ってもらおうってことでフォルテ先輩と芝

居を打ったんです」

 

「え? ・・・・・え?」

 

「ですから、俺がフォルテ先輩をボコったのも嘘。ただフォルテ先輩に包帯巻いて絆創膏貼っただけです」

 

「・・・・・・・・」

 

ぽかーんとするダリル先輩。

 

「えっと・・・つまり・・・・・?」

 

「つまり、こういうことです」

 

楯無さんが扇子を広げる。そこには『テッテレー』と達筆な筆字。

 

俺は満面のドヤ顔で告げた。

 

「作戦大成功! ってわけです」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

ダリル先輩はわけがわからないといった感じで沈黙している。

 

「ま、これで俺も悪役をやらなくて済むんで良かった―――――――」

 

「なあ」

 

「はい?」

 

ダリル先輩が俺の言葉を遮った。そして、想像もしたいなかった一言を言った。

 

「・・・・・何の話?」

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

「「「え?」」」

 

「悪い。え、なに? スカウトって・・・・・」

 

ダリル先輩は首を捻っている。

 

「え、な、何言ってるんすか! 先輩がプロボクシングのスカウトに応えたって聞いて私は気が気じゃなかったっす

よ!」

 

「あー、あれな。即答で断ったぞ」

 

「断った・・・っすか?」

 

「ああ。断ったぞ。言われたその場で」

 

「じゃ、じゃあなんで私が聞いた時は誤魔化したっすか!?」

 

「そっ、それは・・・・・」

 

「それは、なんすか!」

 

「お・・・お前との約束があるから・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「恥ずかしかったんだよ! お前に正面から言うのが・・・!」

 

「先輩・・・・・・・」

 

「確かにおかしいと思ったんだよ。お前の回復が妙に早かったからさ」

 

「ごめんなさいっす・・・・・」

 

「いいんだよ。お前が無事で良かった」

 

「あぅ、頭撫でないでくださいっす・・・」

 

「あのー、ほっこりした雰囲気みたいですけど、良いですか?」

 

俺は手を上げて向き合う二人の注意を惹いた。

 

「え、てことはなんですか? フォルテ先輩の早とちりのおかげで、俺はノリノリで悪役やって、ダリル先輩の怒り

を買って、思いっきりぶん殴られたってことですか?」

 

「ああ。そういうことになるな」

 

ダリル先輩がさらっと言った。

 

「そうか。そうかそうか。良かったじゃないですか先輩。ただの勘違いだったみたいで」

 

俺はにこやかな表情でフォルテ先輩の目を見る。

 

「き、桐野・・・? な、なんだか瞳孔が開いてるっすよ・・・・・?」

 

「そんなことなフザケンナァッ!」

 

「ぎゃー!」

 

俺はフォルテ先輩に飛びかかった!

 

「はいストップ」

 

「げふっ!?」

 

楯無さんの拳が俺の鳩尾に入った。

 

「ここは保健室よ。静かに」

 

「も・・・もっと他の止め方あるでしょ・・・・・!」

 

「それじゃ、フォルテちゃんたちはもう行っていいですよ。お騒がせしました」

 

そう言って楯無さんは二人に帰るように促す。

 

「そ、そうか。それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

ダリル先輩はそう言って出口へ向かって歩き出す。

 

「あ、そうだ。桐野。ほら」

 

ダリル先輩がポケットから何か取り出して俺に放った。

 

「デザートタダ券だ。お前にやるよ」

 

「え」

 

「私は甘いもんはそんなに好きじゃないからな」

 

フォルテ先輩が食いついた。

 

「ずるいっす! どーして私じゃないっすか!」

 

「お前は今回の一件の原因だろうが。罰だ」

 

「ぶーぶーっす!」

 

そんな会話をしながら先輩ズは保健室から出て行った。

 

「よかったじゃない。デザートタダ券ゲットよ」

 

「微塵も嬉しくねえー・・・・・」

 

俺はグダーッと突っ伏した。

 

「それにしても、フォルテちゃんの早とちりだったなんて不運だったわね」

 

笑みを浮かべながら言う楯無さんを俺はジトーッと見る。

 

「・・・・・楯無さん・・・知ってたんでしょ」

 

「あら? なんのことかしら?」

 

「とぼけても無駄ですよ」

 

「きゃ、怖い怖い」

 

そう言って楯無さんは椅子から立ち上がった。

 

「それじゃあ私も行くわ。瑛斗くんも先生から検査の話を聞いたら出てきていいから」

 

「は、はぁ」

 

「じゃね」

 

楯無さんも行ってしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

保健室に残ったのは俺一人。他のベッドも使われていない。先生もこの時間はいないから完全なロンリーだ。

 

楯無さんの足音が消えたのを確認して、

 

「すぅ・・・・・・」

 

思いっきり息を吸う。そして、叫んだ。

 

 

 

「なんか納得いかねえぇぇぇぇっ!!」

 

 

この、胸いっぱいの感情を。


 
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