No.473767

The Duelist Force of Fate 4

Anacletusさん

凛は衛宮邸へと駆け付け、そして出会う。最強のサーヴァントと未熟なマスターに。Duelの深淵へと彼らは誘われていくのだった。

2012-08-22 12:43:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:863   閲覧ユーザー数:854

第四話「共有者の誕生」

 

私達が駆けつけた時、すでに全ては終わっていた。

ランサーが逃げていく気配がした時点で私は全てを覚悟していた。

けれど、私の覚悟を嘲笑うように運命は皮肉を心得ている。

どうして衛宮君だったのだろう。

どうして彼でなければならなかったのだろう。

運命とそう呼ぶべき何かがあるのだとすれば、それは何て意地悪だろう。

「セイバー!! 遠坂は敵じゃない!!」

その声が無ければ私の首は落ちていたかもしれない。

屋敷の玄関。

私の前には彼が立ちはだかっていた。

しかし、その腕にデュエルディスクは無い。

そして、彼の首ごと私の首も刈ろうとしていた剣は彼の首筋に数ミリ食い込んでいた。

血が流れても動じない彼の瞳に【彼女】は少しだけ驚いた様子だった。

『何故ですか!! この男はサーヴァント!! そして、後ろの女性は彼のマスターです!!』

「お願いだから止めてくれ!! 君がオレのサーヴァントだって言うならッッ」

『今此処で脱落者を出しておけば、後々の聖杯戦争を有利に戦う事ができます』

「もしも、まだ戦おうとするなら、オレはコレを使う」

衛宮君の腕。

その手の甲にある文様に私は驚く。

令呪。

三回だけサーヴァントに無理難題を押し付けられる魔術刻印。

聖杯戦争参加の証。

しばらく、睨み合いが続いた。

それでも最後には彼女の方が折れた。

「・・・こんなところで貴重な令呪をそんな事の為に使われては勝てる見込みもなくなるでしょう・・・分かりました」

やっと下ろされた剣に幾分緊張感が薄れたのも束の間。

私は慌てて彼の首筋を手で押さえた。

「大丈夫!?」

「・・・・・・」

「問題無いってアンタ! 血流れてるんだから大丈夫なわけないじゃない!?」

「・・・・・・」

「これを飲めばモーマンタイ? ってカード無闇に出すな!!」

スパーンと私が頭をもう一方の手で叩くと彼がカードを落とす。

「遠坂、大丈夫か!」

衛宮君が近づいてくる。

私は不用意な行動に慌てて制止した。

「近づかないで!」

「と、遠坂・・・わ、悪い・・・」

衛宮君の声で剣を引いて尚不満そうにこちらを睨んでいる【彼女】が目付きを更に鋭くした。

私は衛宮君に色々と事情を質問する。

衛宮君は素直に答えてくれた。

再びランサーに殺されそうになった事。

そして逃げた土蔵の中で【彼女】が召喚された事。

素手のランサーを【彼女】が追い払った事。

全てを素直に話す衛宮君の瞳に嘘は無かった。

「つまり・・・衛宮君もマスターになったの?」

「あ、ああ。色々と事情は分からないが死ぬわけにはいかなかったし、ジジイが残してくれた場所からセイバーは現れたから・・・なんていうか・・・その・・・信用できる気はしたんだ」

私がセイバー見ると衛宮君は複雑そうな顔をした。

申し訳ない気持ちで一杯な彼の心を表すように瞳は揺れていた。

私は溜息を吐いてから、とりあえずこれからの事を提案する。

サーヴァントを得た以上はマスターとして認識される事。

それなった以上は教会に報告した方がいい事。

もしも聖杯戦争を降りるなら、その為の準備がたぶんは其処に存在する事。

一応、ここまで関わった義理として教会まで紹介ついでに付いていく事。

それを全部言い終えると衛宮君は「悪い。遠坂。迷惑を掛ける」と頭を垂れた。

【彼女(セイバー)】はそんな弱気なマスターに不満そうな瞳を向けていたものの、マスターの【お願い】に折れて私達と行動を共にする事にしたらしかった。

目立つ鎧の上から雨合羽を着せたセイバーを連れて、私は教会へと向かった。

短い道中。

彼の首筋の傷が跡形も無く消えている事に私は気付いた。

「ね、ねぇ。さっきの傷もう大丈夫なの?」

「・・・・・・」

「デュエル中以外どんな外傷を受けても死なない? え、ちょっと!? まだ、そんな話聞いてないんだけど!?」

私が驚いて詰問すると彼はヒソヒソ声の私に合せて説明し始める。

「・・・つまり、未だにランサーとの勝負が続いてるからライフポイントを削られる以外の方法で倒されると本末転倒なわけね? 他のサーヴァントと戦いになってもライフポイントが減ったままの代わりに、デュエル以外では死ねない。そういう解釈でいいわけ?」

「・・・・・・」

「つくづくチート性能よねアンタ・・・普通の英霊じゃこんな複雑な性能を持ってる奴なんていないんじゃないかしら?」

「・・・・・・」

「最盛期のカオス、三種の神器、苦渋、勅命、第六感があった頃に比べればチート性能なんて片腹痛い? 何かよく分からない例えなんだけど・・・それって強いの?」

「・・・・・・」

「これだからヤタロックを知らない世代はとか・・・それって馬鹿にされてる私?」

彼のボキャブラリーに付いていけず私は疑問符を浮かべる。

「そろそろ着くわ。あれよ」

もうすでに数十メートル先に教会が見えてきていた。

「さっき電話しといたから、後は自分で行って。あそこを出てきて聖杯戦争に参加してたら、もう私達は敵同士だって事忘れないでね」

「・・・遠坂って実は良い奴だったんだな」

衛宮君の言葉に私は反射的に口を開いていた。

「実はって何よ!? 実はって!?」

「いや、いつも猫被ってたのはさっきので分かったけど、何も分からない敵のオレにこんな事までしてくれたんだ。良い奴で間違いないだろ?」

ちょっとだけ笑った衛宮君の顔に私は怒ればいいのか恥ずかしがればいいのか分からずそっぽを向く事しか出来なかった。

「と、とにかく!! あそこに行って決めてくればいいわ。こんな戦争に参加するかどうか。それがどういう意味かちゃんと考えてから答えを出しなさい。衛宮君」

「・・・ああ、遠坂。行ってくる」

衛宮君はそのまま教会に入っていく。

残された私は同じく残されたセイバーをそっと見る。

ほっそりとした体。

金色の髪。

うら若い乙女。

鎧に身を包んだ姿は雄々しくも美しい。

一体どこの英霊だろうかと思う。

欧州、しかも女で剣士と言えば、有名どころは少ない。

伝説の域にある神々に近しい者か。

それとも人として生まれ、幾多の伝説を作った英雄の類か。

どちらにしても、真横にいる【決闘者(デュエリスト)】なんて称号を持つ英霊とは違って、本当の名は案外簡単に分かりそうだった。

『・・・何か?』

話しかけられて私はどうしたらいいのか迷う。

ランサーは敵とはいえ、何だか馴染みやすい気配のする男だった。

しかし、セイバーからは凍て付いた感情しか読み取れない。

「ウチの英霊とはえらく違うから・・・気になって・・・」

私が引き攣った愛想笑いで答えるとセイバーが自称カードゲームの英霊を見る。

「・・・あなたは確かに英霊のようですが・・・いえ・・・」

セイバーが何か言おうとして、彼から目を逸らした。

「・・・貴女のような一人前の魔術師が召喚したのです。さぞ、勇名を馳せた英霊でしょう」

「一人前って・・・そんな事分かるの?」

「我が師を見て私は育ちました。師は立派な魔術師だった。貴女は若いが魔力に満ちている。それなりの系譜に生まれたと見受けます」

「そんなの分かるんだ・・・」

「はい」

「・・・・・・」

「ただのツンデレにしか見えない・・・って!? 何でそんな単語知ってるのよ!? アンタは!?」

ゲシッと私が足を踏むとそ知らぬ顔で彼は視線を逸らす。

「少しは英霊としての自覚くらい持ちなさいよ? まったく」

セイバーがこちらのやりとりを見て、僅かにクスリと笑みを零した。

それが凄く意外で私は驚く。

「・・・・・・」

「え?」

彼に言われて後ろを向くと、もう衛宮君が教会から出てきていた。

衛宮君の傍へセイバーが向かい、二人が何やら話し合うとこちらにやってくる。

「遠坂。オレこの聖杯戦争に参加するよ」

私は心の何処かでそんな気がしていたからか大して驚かなかった。

「・・・聖杯戦争に参加したらどうなるか分かってて言ってるのよね?」

「いいや、オレはそうしない」

「どういう事かしら?」

「オレはこの戦いを止めてみせる」

何を言われたのか一瞬だけ頭が真っ白になった。

「衛宮君ッ、言ってる意味分かって―――」

「オレはこの戦いを止める為に聖杯戦争へ参加する」

私が強く言う前にセイバーが衛宮君に詰め寄った。

「士朗!! それはどういう事ですか!?」

「セ、セイバー!?」

「貴方はこの聖杯戦争に参加する決意を固めたから私のマスターとして戦おうと決めたのではないのですか!?」

「い、いや、聖杯戦争には参加するさ。でも、その参加する決意を固めた理由はそうであるってだけで、戦いにしても止めたいから戦う・・・って、これじゃセイバーには説明不足だったよな。ごめん」

セイバーが何やら素直に謝ってしまった衛宮君に対して強く何かを言おうしたものの、何か諦めたように溜息を吐いて、再び冷静さを取り戻した。

「・・・色々と言いたい事はあるが、それは少なくとも今此処で議論すべき事ではありません。貴方は少なくとも戦うという選択をした。そして私のマスターともなった。一端、士朗の屋敷へ帰ってから話し合いましょう」

「わ、分かった・・・」

セイバーの強い視線に晒されて衛宮君が頷く。

その様子はすっかりセイバーのお尻に敷かれているように見えた。

「此処からは分かれて帰った方がいい」

セイバーが私達を向いて提案する

「そうね。これから敵同士になるんだし、その方が」

私が頷こうとすると衛宮君が割り込んでくる。

「いや、遠坂。少なくともオレはこれからの戦いで自分から仕掛けるような真似はしない」

「例え、それが本当だとしても敵同士になるんだから、これ以上の馴れ合いは必要ないでしょ?」

「だけど、オレは遠坂が敵だとは思えないよ。色々と助けてもらったしさ・・・」

「衛宮君・・・言っておくけど、これから先そんな甘い考えだと・・・死ぬわよ?」

私の警告にそれでも衛宮君は笑った。

「だとしても、帰り道は一緒なんだから。橋を渡り切るまでは敵でも味方でもなくていいと思わないか?」

「・・・・・・」

「早く帰ってデッキ構築の続きをとか!? アンタはホント空気読まないわけ!?」

私は家で今日買ってきたばかりのカード箱の山を開封したくてウズウズしているらしき英霊(カードゲームの)をしばき倒した。

「はは、それじゃ、行くか」

「・・・・・・」

「デュエルやらないかって? それって・・・ああ、そう言えば昔友達に勧められてやった記憶あるけど」

「勝手にッッ、布教ッッ、するなあああ!!!」

「ああ、やったやった。融合って未だに強いのか?」

「・・・・・・」

「え、シンクロ? それってどういうやつなんだ?」

いそいそとカードを取り出して熱心に説明し始める英霊(バカ)とそれにふむふむと頷き始める衛宮(アホ)の図に私の頭の血管が拡張する。

どうやらデュエル仲間が一人出来たらしい英霊は得意げにデュエルディスクを具現化して見せびらかし始めた。

「ちょ、何見せて!?」

「おー、カッコイイな」

「む、士朗。それはカードですか・・・?」

何故か、その話を微妙に聞きたそうにしているセイバーの姿は・・・私の心を別の意味で不安にさせ始める。

聖杯戦争がデュエル大会と化す日を想像して、私の全身に致命的な震えが走った。

「人の話聞きなさいよおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

私の叫びは遠く遠く闇の果てに木霊した。

 

前途多難な聖杯戦争の火蓋はこうして切れらたのだった。

 

ただ一名のイレギュラーを抱えながら・・・・・・。

 

To be continued

 


 
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