No.473103

IS~音撃の織斑 二十の巻:暴かれる正体

i-pod男さん

そのまんまです。すいません。

2012-08-20 23:20:23 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6657   閲覧ユーザー数:6405

Side:千冬

 

あの戦いの後、最近一夏を授業以外ではめっきり見なくなった。篠ノ之や鳳にも行方を尋ねたが、やはり分からないそうだ。許しては、くれないだろうな・・・・

 

「あの、織斑先生?」

 

「どうした、布仏?」

 

珍しい奴が話しかけて来た。のほほんとしているが、メカニックとしては一年の割にそれなりの腕はある。

 

「いっちーなら、整備室にいますよ〜。」

 

「そうか、分かった。」

 

直ぐに整備室に向かい、確かに一夏はそこにいた。ピーキーな能力を持ち、燃費の悪い白式の整備をしている。その右隣には、ボーデヴィッヒ、そして左には四組の・・・確か更識だったな。そいつがいた。私の気配に気付いたのか、一夏は無表情のまま振り向いた。

 

「何か用か?織斑先生。」

 

「いや、どうしているかと思ってな。最近姿を見ないが。」

 

「首を突っ込まない方が身の為だ。こっちは白式の燃費の悪さに辟易してる途中だ。簪もテストパーツ運用が福音事件で中止された所為でまだ完全に打鉄二式を完成させてないんだ。」

 

「良いって言ったのに・・・」

 

「そうは行かない。借りは作りっぱなしにしてると寝覚めが悪いんだよ。一宿一飯の恩義って言ったら表現は間違ってるが、借りは返す。それだけだ。MSとOSは俺のをコピーしておいた。使ってくれ。」

 

「ん・・・ありがと・・・」

 

更識・・・・まさか、な・・・・

 

「質問に答えろ。」

 

「ロードワークと筋トレ、そして瞑想だ。」

 

短く、手短に応えた。

 

「嘘は言ってないぞ?フィットネスルームは使用許可を山田先生から取ったし、ロードワークをやってるのを見たと言う証人は両手両足で数えても足りない。疑うのは勝手だがな。」

 

「教官、私も時折同行していますので、疑う余地はありません。」

 

「まあ、良い。授業はさぼるなよ?」

 

「分かってる。」

 

私は踵を返して寮長室に戻った。やはりまだ心を開いてはくれないが、以前よりはマシになった。これも、あの五十嵐とか言う男のお陰か・・・・

 

Side out

 

 

 

 

Side:一夏

 

「悪いな。」

 

「兄様、まだ教官との仲を修復していないのですか?」

 

「・・・・ああ。」

 

事実、福音の一件以来、俺は無意識の内に織斑千冬を避ける様になった。何と言うか・・・・気まずい。俺は間違い無く、アイツを殺しそうになっていたが、止まった。手を止めた。憎んでも恨んでも、肉親は殺せないってか・・・

 

「一夏・・・・やっぱり昔の私に似てる・・・・」

 

「え?」

 

「前に話したと思うけど・・・・お姉ちゃんの事で・・・」

 

「名実共に学園最強の姉か。確かに、似てるな。昔の俺も、比べられて、勝手な期待されるのがうんざりだった。アイツの弟だから、出来て当然だ、アイツの弟なのに何故出来ない、耳のタコにまたタコが出来る位うんざりする程聞いた。」

 

「しかし、兄様。私が言うのもなんですが・・・・部隊にいる部下は私に取っては妹の様な物です。言い争い等は当然あります。でも、いつも最後には仲直りはするんです。部隊の結束の為に・・・やはり今回もそれと似た様な物では・・・?」

 

「確かにな。」

 

ラウラの言葉に、俺は素直に頷くしか無かった。後々壊れた関係って物は響いて来る。しかし今回は事情が事情だ。そう簡単に許すわけにはいかない。いや、許したくないと言うのが本音か。今までずっとアイツを憎み続けて来たが故に、アイツを許してしまったら今までの修行が、汗と血と涙が、無駄になってしまう。

 

「まあ、時が来たら、俺から・・・・」

 

「分かりました、それまでは待ちます。」

 

「さてと、これで終わったな。後は試運転だ。アリーナの使用許可は申請してある。行くぞ。」

 

 

アリーナに到着すると、俺達は直ぐに試運転を始めた。簪が打鉄二式を装着、ラウラと俺が地上からそれを観測して、もし事故が起これば俺達が対応出来る。

 

「調子はどうだ?何か不調は?」

 

「ううん、大丈夫。」

 

今の所問題は無さそうだが・・・・・やっぱり油断は出来ない。

 

「ラウラ、どうだ?お前から見て。」

 

「問題は無さそうですが・・・」

 

ラウラには俺では見えない微細な状態を観察する為にヴォーダン・オージェを使う様に頼んだ。

 

「ん・・・?っ!簪、直ぐに降りて来い!」

 

「え?」

 

その瞬間、腰の小型ジェットブースターが爆発を起こした。マズい・・・!

 

「兄様!」

 

「分かってる!」

 

俺は空に舞い上がって直ぐに落ちて来る簪をキャッチした。いやー、危なかったー。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん・・・・(お、お姫様抱っこお姫様抱っこお姫様抱っこ・・・・?!)」

 

とりあえず地面に下ろすと、ディスプレイを確認した。

 

「あー。成程。腰のジェットブースターにエネルギーが行き過ぎたんだ。処理出来るエネルギーの許容量を超えて・・・・すまん、俺の確認ミスだ。」

 

(鍛錬に明け暮れてる所為か・・・・・疲れもあまり取れないし。いや、二段変身の為だ。泣き言は言ってられねえ。)

 

「よしと、とりあえず問題は分かった。それを踏まえて他に何か問題が無いか見て行くとしよう。」

 

「兄様、私は部下への定時連絡があるので、先に行きます。」

 

「おう、分かった。よろしく伝えといてくれ。」

 

「はい!」

 

全くアイツは・・・・

 

「ねえ、一夏とラウラってどう言う関係・・・?」

 

「あー・・・・」

 

まずいな・・・・ここ最近話してる奴ってラウラと猛の皆位だったし。

 

「妹分だ。ほら、タッグマッチがあったろ?あれで紆余曲折の後、って感じで。」

 

当然色々割愛する事になったが、納得してくれた。

 

「じゃあ・・・・その、篠ノ之さんとか、デュノアさんとは・・・?」

 

「あー・・・・」

 

更に痛い所を突いて来た。仕方無い、下手に隠しても無駄だ。今の内に吐いた所が早いな。

 

「シャルロットは、元ルームメイトで友人、箒と鈴は幼馴染み、セシリアはクラスメイトってところだ。何故そこまで聞く?」

 

「え?ううん、別に・・・・」

 

何か変だな。何を隠そうとしている?ま、良いか。俺はとりあえず疑問を振り払って作業を再開した。布仏や小暮さんのレクチャーのお陰で以前よりも上手くなった。白式の燃費の悪さもある程度改善出来た。

 

「一夏。」

 

「ん?」

 

「今日、何か予定ある・・・・?」

 

「予定、と言う程の事は無いが、日課のトレーニングのノルマが残ってるな。何で?」

 

「実は・・・・ちょっと買い物に付き合って欲しくて・・・・」

 

買い物、ね・・・・まあ、少し時間を切り詰める事になるが・・・・大丈夫かな・・・?市街地にも魔化魍は出るし・・・・あー、どうしよ。無下に断るのもアレだしな。

 

「あ、嫌なら別に無理に」

 

「良いぜ。あまり長居は出来ないが。それでも良いか?」

 

「うん!」

 

おおう、急に元気になりやがった。さてと、準備しておくか。

 

Side out

 

 

 

 

 

Side:三人称

 

数時間後、モノレールに揺られて二人は座っていた。とは言え、緊張感ゼロの、それもライダージャケット姿の一夏に対し、簪は内心焦りまくってテンパっていた。

 

(どうしよう・・・・何か強引にお願いしちゃったし・・・・お姫様だっこされちゃったし・・・・!)

 

ボフン!

 

簪の顔が先程の「事故』を思い出し、顔を真っ赤にした。一夏はと言えば、携帯を弄っていた。着信が直ぐに鳴った。(響鬼のOPテーマ、『輝』)

 

「はい。」

 

『あ、一夏?』

 

「おお、シャルロット、久し振りだな。悪いな、最近話す機会が無くて。」

 

『ううん、一夏も忙しいのは知ってるから。それに、織斑先生との事もあるし、仕方無いよ。その内、仲直りはするんだよね・・??』

 

「どうだろうな?当たらずとも遠からずって所だ。するかもしれないし、敬遠するかもしれない。結局俺は自分の仲で踏ん切りを付けられない優柔不断な奴なんだよ。」

 

『そんな事無いよ!一夏は強いし、優しいし、頼りになるし・・・!』

 

「分かった。分かったから落ち着け、耳が痛い。」

 

携帯を少し耳から話して捲し立てるシャルを静めた。

 

『ゴメン・・・・』

 

「良いんだよ。ありがとな。あ、時に、ラウラはどうしてる?仲良くやってるか?」

 

『うん。何かラウラの心配してる一夏ってお父さんみたい。』

 

「バカ言うな。俺は兄貴分だ。そろそろ切るぞ。」

 

『ん、じゃあねー♪』

 

モノレールから降りると、一夏は肩と首を鳴らした。パキパキと軽く軽快な音がする。

 

「さてと、何を買いに行きたいんだ?やっぱ服か?」

 

「うん・・・」

 

「なら良い場所を知ってる。」

 

一夏が向かった先は『レゾナンス』だった。水着売り場の階はあるが、レディースやメンズもカジュアルからフォーマルまで幅広く扱っているのだ。

 

「ここなら、大抵の物は揃うな。俺も幾つか買う物がある。(つっても、猛から貰ってる給料と非番の時のバイトでかなり溜まってるからな。使う時ってほぼねえし。)」

 

一夏は既にある程度下調べはしていたので、何を買いたいかは直ぐに見つかった。

 

「ちょっと、見てもらいたいけど・・・・良い、かな?」

 

「まあ、別に良いけど。」

 

カーテンの後ろに隠れていた簪が来ていたのは、白いコサージュを左胸にあしらった水色のワンピースである。それを見て、一夏はご秒程目を奪われた。

 

「あ・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、何でも無い。凄く似合ってる。可愛いぞ。」

 

言って欲しい言葉を無意識にもドストレートに言われて、簪は天にも昇る気持ちになった。

 

「俺もとりあえずいるモンは買えたし、行くぞ。」

 

「うん。」

 

帰る途中、二人の目の前に男女の一組が現れた。

 

(こいつらは・・・・マズい・・・!)

 

「一夏の知り合い?」

 

「簪、逃げろ。」

 

「え?」

 

「早く逃げろ。コイツらは、危険だ。グズグズするな。全速力で走れ。振り向くんじゃないぞ。」

 

「「鬼か・・・・」」

 

「鬼?何の話をしてるの?」

 

「良いから逃げろ!説明も文句も含めて後だ!行け!」

 

一夏の気迫に押されて、簪は逃げ出した。それを見届けると、音角を指で弾き、額に翳した。

 

「はあああああ・・・・・・はっ!」

 

帯電する炎を振り払い、荊鬼は音撃棒「白蓮』を構えた。

 

(夏の魔化魍である可能性が高い以上、太鼓でやるしか無いか・・・・)

 

荊鬼は白蓮を頭上に振り上げ、鬼石の気を高めた。

 

「はあああああ・・・・・うりゃあ!」

 

烈雷弾を鬼石から放ったが、姫と童子はそれを避け、姿を変えた。

 

「化け物共が・・・・(やってみるか。)」

 

荊鬼は両腕をクロスし、ゆっくりと息を吐き出した。

 

(集中しろ・・・集中しろ・・・腹の底から全身に力が巡り行く感覚を掴め!心の中にある炎をもっと強く・・・もっと高く!)

 

荊鬼の両腕がスパークし始めた。もっと深い紅色の雷電が両腕を覆い、両腕の色が変化した。赤紫の薄いワイン色に。鬼石から伸びた二本の烈火剣を使って姫と童子をバラバラに切り裂いた。

 

変身を解くと、思わず膝をついてしまった。

 

(やっぱ数日間のトレーニング漬けでは簡単に会得出来る物じゃないな・・・それに、ヒビキさんが言ったみたいに、これはキツい・・・・毎回これじゃ使い所考えなきゃな。)

 

そう痛感した。

 

「いち、か・・・?」

 

名前を呼ばれた一夏は飛び起きると、声の主の方に振り向いた。

 

「簪・・・!お前・・・・何で・・・?!」


 
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