朝の日差し。
澄んだ空気を越え、窓を越え、閉じられた瞼に届く。
「…うぅ…」
届けられた日差しから逃れるようにベッドの主は寝返りをうった。
眠るのは少女。 幼さの残る顔。
柔らかそうなピンクブロンドの髪。
日差しが邪魔なのか、寝苦しそうに眉を顰めているが、それでも彼女の愛らしさが損なわれることはない。
「…う…眩し…」
いい加減鬱陶しくなったのか、少女が身を起こす。
…が、
「あ、駄目…」
すぐに力尽きたように上体を前に倒す。
ぽふんっと頭から布団に突っ込む。
「うにぃ〜…」
そして気持ちよさげに鳴いて、脱力する。
このいかにも庶民的な彼女。
名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
何を隠そう貴族である。
しかも実家の階級は公爵。
ここ、トリステインにおいて爵位の最高格を授かっている実家。
その割には彼女に高貴さは感じられない。
コンコンと、軽いノックの音が響く。
「くぅ…」
だが、部屋の主はただいま快眠中。
やがて来訪者はドアノブを回し、部屋に入ってくる。
「はぁ…やっぱり」
ため息を吐きつつ苦笑するのは赤い髪の女性。
名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
彼女は隣国ゲルマニアの貴族である。
長身に褐色の肌、主張しすぎる胸と燃えるような赤い長髪。いろいろな意味で目立つ。
そんな彼女は部屋の主であるルイズの肩を優しくゆさゆさと揺する。
「ルイズ…ルイズ。いい加減起きなさいってば!」
「うぅ…?キュルケさん?」
努力が実り、ルイズは上体を起こす。
「相変わらず朝は弱いのね」
クスクスと笑うその顔にはバカにした雰囲気はなく、ただただ微笑ましさがある。
「髪、跳ねてるわよ?」
そう言うとどこからともなくブラシを取り出し、ルイズの髪を梳き始める。
キュルケにとってこれは既に日常の事だ。
ふらふらと揺れる頭に苦労することなく、慣れた手つきで髪を梳いていく。
「まったく。少しは一人で起きる努力をしたら?」
うりうりと頭を撫でてみる。
それに合わせて揺れるルイズの頭が楽しい。
「う〜…今日の眠気は凄まじく強烈だったのです…」
「毎朝同じこと聞いてる気がするわよ?」
「今日の睡魔は特別なの。いつもはスライム一体なのに、今日はスライム二体を相手にしてるような強力さだったの」
どちらにせよザコである。
「ふふ…はい終わり。にしても今日くらい早く起きても良かったのに。それとも昨日の夜、眠れなかったのかしら?」
意味ありげな言葉にルイズはキョトンとする。
そんなルイズの反応にキュルケもキョトンとする。
「使い魔召喚のことよ?」
「……………あ」
思い出したように声をあげたルイズを見てキュルケは吹き出した。
「ぷっ…あはははははは!昨日あんなに使い魔召喚を楽しみにしてたのに!」
「やっぱり今日の睡魔は特別だったのよ…」
ルイズは赤くなった顔を冷やすために洗面用の水を顔にかけた。
優しき闇の使い魔 プロローグ‐少女編
こんにちは。
ルイズです。
朝が極度に弱いルイズです。
前世も朝は弱かったんですけどルイズになってからさらに輪をかけて弱くなりました。
判る人は判ると思います。
私、前世の記憶があります。
所謂転生物というものです。
前世の名前は
渾名は“お” お “た” に あ “き”でオタッキーです。
いくらなんでもあんまりだと思います。
確かに、私はアニメやマンガは好きですけどオタクと言われる程じゃないです。
”ちょっと”人より好きなだけです。
それは中学二年生の時でした。
男子生徒にオタッキーと呼ばれました。
キレました。
男子生徒を追いかけました。
階段から落ちました。
……死にました。
えぇ。 今でも思います。
アホでしょう私。
気付いたらルイズになっていました。
ゼロの使い魔を読んでいた私はびっくりです。
びっくりと言えばキュルケさんです。
私、ゼロの使い魔の“キュルケ”は嫌いでした。
サイトの次に嫌いでした。
嫌いなキャラ、ワースト2でした。
もちろんワースト1はサイトです。
浮気性だしエロいし。
“ルイズ”がアレのどこに魅力を感じたのか未だ判りません。
それでも読み続けたのは、一重にストーリーが面白いからに他ならないんですけどね!
…っと、話がそれましたね。
私が“キュルケ”を嫌いな理由。
それはあの挑発的な態度と見下した言葉遣いです。
なのにここのキュルケさんは違いました。
優しいです。
今ではもうお姉さんのような存在です。
私、亜紀のときは一人っ子だったので姉ができたようで嬉しいです。
ちぃねぇさまも好きですけど、キュルケさんも好きです。
「…ズ…イズ…ルイズ!」
「…キュルケさん?」
突然呼ばれてびっくりしました。
「というかここは?」
外? いつの間に移動したのでしょう?
「ミス・ヴァリエール?君の番だよ」
「…なにがです?」
唐突に言われても困ります。
一体このコルベール先生は何を言いたいのでしょう?
「だから召喚よ。アナタの番よルイズ?」
あぁ。
召喚ですか。
………はい?
「あれ?いつの間に?」
「はぁ…アナタ考え事すると本当に周りが見えなくなるわね」
えへへ。 よく言われます。
「褒めてないからその得意げな顔は止めなさい」
コツンと額を小突かれました。
「ミス・ヴァリエール…」
「わ、わっ!い、今いきます!」
コルベール先生の額に怒りマークが出た気がしたので慌てて前へ。
私、炎蛇を怒らせるほどお馬鹿ではないはずです。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー…」
そこで詠唱が止まりました。
というか止めました。
マズいです。 緊急事態です。 エマージェンシーなのです。
このままじゃあの
あんなのに私、ファーストキスを捧げたくないです。
「…ルイズ?」
ふと視線を逸らすとキュルケさんが心配そうにこちらを見てました。
そこで気付きます。
これはあの“ゼロの使い魔”とは違う、と。
キュルケさんは優しいです。
私はツンデレじゃないです。
これだけでもう別物です。
ひょっとしたらあのエロ犬もエロくないかもしれません。
確率は低いですけど!
ひょっとしたらあのエロ犬がまともかもしれません。
確率は低いですけど!
でも私はそれに賭けます!
某ビア樽作戦部長は言いました!
“奇跡は起こしてこそ奇跡”
だと!
某病弱妹キャラは言いました!
“奇跡は起こらないから奇跡って言うんですよ”
と!…ってこっちは駄目ですよね!?
と、とにかく当たって砕けます!
「ルイズ!いきまーす!」
某白い機体に乗る人っぽく気合いを注入。
「私はルイズ…私の声が聞こえたならば答えてください。私の優しい使い魔を…私は今、望みます!」
杖を振り下ろした次の瞬間、凄まじい光に飲み込まれて、私は意識を失いました。
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この物語は…
不運な転生者と…
優しき闇の使い魔との…
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