No.472631

真・恋姫無双 本当の怖い話

マスターさん

第四回恋姫同人祭りの作品です。
初めましての方は、初めまして、いつも拙作を御覧になって頂いている方はありがとうございます。駄作製造機ことマスターで御座います。
今回のテーマは『怪談』ということですので、題名の通り、本当の怖い話ををテーマに書きました。まぁネタですので、あまり気張らずに、軽い気持ちで適当にご覧頂けると幸いです。

では、規定を満たしたいと思います。投稿は現在十九日ですので問題ありません。従って、作者のオススメのイラストレーターの方を紹介します。小説の方は最近忙しすぎて見ていないので、今回はイラストレーターの方のみとなります。

続きを表示

2012-08-19 22:11:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4870   閲覧ユーザー数:4079

 

 とある夏の夜。

 

 そこは聖フランチェスカ学園の当直室である。この御時勢、当直室に教師が交代で宿泊するなんてことはなく、既にその部屋も半分物置部屋代わりになっているのであるが、夏休みも節目を迎えたその夜は、当直室に数名の人影があった。

 

「全く……、貴方たちは先生方に内緒で忍び込むなんて、ばれたら停学ものよ」

 

「まぁそう言うなって、華琳。夏といえば、怪談。怪談といえば、学校だろう。こういうものはまず雰囲気から始めないとな」

 

「そうですよ、華琳さん。それになんだかんだ言って、学校に忍び込むまでの経路を考えたのは華琳さんじゃないですか」

 

「それにしても不思議ね。ふふふ……何だか夜に学校にいるってだけで、わくわくしちゃうわ」

 

 暗闇の中、その人影は輪を作るように座っており、その中央には蝋燭が灯されていた。カーテンも完全に閉め切っているため、明かりはその蝋燭の炎だけになっており、風もないのに時折揺らめくその炎が、これから始まる惨事を象徴するように不気味に微笑んでいた。

 

 彼らはこの学校に通う生徒たちである。夏の最後の思い出にでもしようと思ったのか、すぐに集まれそうな人間を携帯で呼び出して、わざわざ学校に忍び込むなんてことをしてのけたのだ。

 

 学園にある当直室で怪談話をしようという企画である。

 

 この企画の発案者である北郷一刀を始めとして、彼の幼馴染であり、聖フランチェスカ学園の生徒会長である華琳、そして副会長である桃香と雪蓮。この四名が中心になって人を集め、集まったのが更に六名――翠、蒲公英、春蘭、秋蘭、そして蓮華と小蓮である。

 

 他にも来たいという者が何人もいたのだが、旅行に行っていたり、夜遅くの外出を家族から厳しく禁じられていたりと、ほとんどの者が来られなかったようだ。

 

「あれー? お姉さま、顔が強張ってるよー? もしかして、もうびびってるのー?」

 

「なっ! お、お前、蒲公英っ! そ、そんなわけないだろ! あたしがこんなもので怖がるはずないじゃないかっ!」

 

「ふーん。あ、おトイレに行くなら、早く行ってきた方がいいよ。怖い話が始まってからだと怖くて行けないでしょ?」

 

「ふ、ふんっ! そんなわけあるかよ……まぁ、でもトイレには行って来ようかな――」

 

「あぁ、そうそうお姉さま、トイレに行ったら鏡には気を付けてね。映っちゃいけないものが映り込むかも」

 

「おまっ!」

 

「あーそういえば、この学園って戦時中は避難場所として使われていたらしくて、夜になると空襲に怯える少女の霊がうろつくって聞いたことある」

 

「★■※@▼●∀っ!?」

 

 くすくすと楽しげに翠を怖がらせる蒲公英。しかし、翠は単純にその話を信じてしまったようで、立ち上がろうとした身体を硬直させてしまい、顔を真っ青にしたまま黙って府再び腰を降ろしてしまった。

 

「ははは……、みみみみみ見ろ、秋蘭。すすすすす翠のやつ完全に怯えているぞ。ん? 何だ、秋蘭まで怖いのか? しししし仕方ないな、今夜は一緒に寝てやろう。勘違いするなよ、決して、怖いとか、夢に出そうで寝られないとか、出来れば秋蘭や華琳様に抱きしめられながら寝たいとかではないからな」

 

「あー、それは助かるぞ、姉者」

 

 翠同様に完全に血の気が引いた表情を浮かべる春蘭であるが、華琳からの誘いを断るなど絶対に出来はしないと、大嫌いな怪談を我慢して聞こうというのだ。その健気な姿に、あぁ、姉者は可愛すぎる、生きるのがもう辛い、今すぐこの表情を携帯で写メりたい、だが、出来ないから仕方ない、脳内ハードディスクに完全に保存しておこうとかなんとか思っている秋蘭であった。

 

「もう、とても大切な話があるから至急来てくれなんて言うから、一体何事かと思ってきてみれば、学園に忍び込むなんて考えられないわ。まだ夏休みの課題も残っているというのに」

 

「まぁまぁ蓮華おねえちゃん、そんな堅いこと言わないの。せっかくこんなイベントがあるんだから、どさくさに紛れて北郷先輩を押し倒すくらいした方がいいよ」

 

「シャ、シャオっ! 貴女は何を言ってっ! そ、そんな私が一刀を押し倒すなんて……」

 

「その割には顔が赤いよー。それにそんなに大きな声で言ったら、北郷先輩にも――」

 

「★■※@▼●∀っ!?」

 

「あはは、翠先輩の真似が上手いね、お姉ちゃん」

 

 既に深夜だと言うのに、彼らのテンションは高いままであった。深夜の学校というお約束のシチュエーションではあるのだが、非日常的な雰囲気に包まれた当直室は、そこにいるだけで気分を高揚させているのだ。

 

 だが、あまり騒ぎすぎると近隣の住民に知られてしまい、下手すれば警察沙汰などという本当に笑えない状況になり兼ねないので、一刀が指先を鼻に当てて、皆に静かにするように促した。

 

「じゃあそろそろ始めるか」

 

 皆も無言で頷いた。

 

 中央の蝋燭が再び揺れる。皆が黙ると、その静けさで逆に耳が痛む。怪談話をすると霊が本当に寄ってくるとはよく言う。仄暗い室内、蒸し暑さで額から汗が流れてくるが、何故か背筋には冷たい汗が流れていた。

 

「じゃあ、私からいくわね」

 

 最初に口を開いたのは華琳だった。

 

 

 じゃあ、私からいくわね。

 

 ……あれは何年くらい前かしら? 叔父の住んでいる田舎に行ったときのことよ。え? そんな話は聞いていないって? そりゃ、親族の家に行くのだから、春蘭と秋蘭とはいえ、誘う訳にもいかないでしょう? そんなに泣きそうな顔をしないでよ。分かったわよ。今度、三人でどこか旅行にでも行きましょう。だから、今は私に話の続きをさせてくれないかしら?

 

 えーと、そう私が叔父のいる家に遊びに行ったときの話よ。これはそのときに叔父から直接聞いた話なのだけれど、そこには地元では有名なあるアパートがあるそうなの。人が住まなくなってからもう十年以上経っているそこは、廃墟と化して誰も近づかないそうよ。

 

 でもね、そのアパートには一つの噂があったの。

 

 ……そこでは霊の声が聞こえる、と言われているそうよ。

 

 叔父はね、それはもうそういう手の話が大好きな人間なのよ。全国の心霊スポットに満面の笑みで突撃を敢行するような人間なの。だから、その話を聞いて、自分もそこへ行こうと思ったのは当然のことなのね。

 

 叔父はそういう体験を自分の誇りと言わんばかりに自慢するけれど、まぁ、私から言わせてもらえば、叔父のそのような行動は勇気あるものとは言えないわね。だって、そういう行動をする人間は本物の恐怖というのを知らないだけだもの。

 

 あら? 話が逸れてしまったわね。戻すわ。

 

 叔父はある日、そのアパートにテープレコーダーを持って行ったわ。もしも、本当に霊の声が聞こえるのなら、それを録音して自分のコレクションにでもしようと思ったのでしょうね。

 

 アパートはもう誰が管理しているのか分からないようで、荒れ果てた庭には雑草が生い茂り、入り口に向かうだけでも一苦労だったそうよ。それで霊の声が聞こえるという噂の一室に踏み込んだの。

 

 室内は誰かが住んでいたであろう痕跡はあったようね。かつての住民の家具が散乱していて、でも、何か争ったんじゃないかと思えるくらいに、不自然な荒れ方をしていたそうよ。タンスは倒れ、カーテンは切り裂かれ、それは酷い状態だったみたいね。

 

 叔父は散らかった家具であったものを、乱暴に足でどかして、自分が座るスペースを確保すると、そこにテープレコーダーを横に置いて、座り込み、わくわくしながら静かにそれを回し始めたの。

 

 最初はそのまま無言の状態でいようと思ったようだけれど、それではつまらないとでも思ったのかしら? 叔父はまるでそこに誰かがいるかのように話し始めたの。

 

「お邪魔しますね」

 

「今日はいい天気ですね」

 

「この部屋、いい部屋ですね」

 

「それでは、もう帰りますね」

 

「お邪魔しました」

 

 そして、叔父はその部屋を後にしたわ。

 

 叔父は録音したばかりのテープを帰りの車で聞いたわ。室内は確かに荒れ果てていたものの、これまで自分が行った心霊スポットに比べると、迫力が足りなかったようで、面倒だから帰りに聞いて、何もなければそれで良いと思ったそうよ。

 

 自分が独り言を言っているテープを聞くなんて、そのアパートにいるときは多少の雰囲気もあったのでしょうから、あまり気にしなかったみたいだけれど、冷静になって考えてみれば馬鹿らしいことに思えたようね。

 

 叔父もさすがにアパートに行ったことは自慢話として友人にでも聞かせることは出来ても、そのテープはそれを印象付ける効果は見込めないでしょうし、逆にシュール過ぎて笑えてしまうとでも思ったのでしょう。

 

 既に何も録音されてはないだろうと思っていたのね。

 

 その録音されたテープを実際に聞くまでは、ね。

 

 テープを再生すると、ザザザとノイズが多少混じっていること以外は、最初は特に何も聞こえなかったそうよ。その内に、今度は自分の声が聞こえたの。

 

「お邪魔しますね」

 

『はい……どう……ぞ』

 

「今日はいい天気ですね」

 

『そう……ですね』

 

「この部屋、いい部屋ですね」

 

『ありがと……うござい……ます』

 

 叔父の声に応えるように、確かに誰からの声が録音されていたそうよ。

 

 このあたりからノイズが酷くなっていたそうで、それが本当に声なのかどうか分からないけれど、叔父にはそれは間違いなく人の声に聞こえたそうよ。初めての体験で、叔父は怖かったのかしら、それを止められなかったわ。

 

 だけど、音声はそのまま流れた。

 

「それでは、もう帰りますね」

 

『……待て』

 

「お邪魔しました」

 

『待て……待てよ……待てよぉぉぉぉぉっ!』

 

 次の瞬間、叔父の携帯が急に鳴り始めたの。

 

 叔父は驚いて思わず急ブレーキをかけてしまったわ。そこが田舎で車通りが少ないことが幸いしたようね。後続車は居なくて、事故になることはなかったわ。

 

 そのタイミングで電話がかかってきたことに怯え、恐る恐る表示を見ると、何て事はないわ。そこには自宅という文字が浮かんでいるだけだったのだから。別に知らない番号でも、非通知でもない、彼の家族が携帯にかけただけなのだから。

 

 だけど、彼の恐怖体験はそれだけで済まなかったの。

 

 

「もしもし」

 

『あなた? 私だけれど』

 

「おぉ。お前か。どうしたんだ?」

 

 電話に出たのは彼の奥さんだったわ。

 

 妻の声を聞いた叔父はそれはもう大層安堵したのでしょうね。普段よりも声が優しくなっていたそうで、妻自身も不審に思ったくらいだったそうよ。だけど、それも長くは続かなかったわ。

 

『えぇ。先ほど、変な電話がかかってきたのよ』

 

「変な……電話?」

 

『そうなの。何か雑音っていうか、ザーザー聞こえていたのだけれど、ただ一言、絶対に逃がさないって』

 

「…………」

 

『あなた? どうしたの? 急に黙って』

 

「い、いや何でも」

 

『警察に届けようとも思ったのだけれど、まずはあなたに知らせようって』

 

「そうか、それは大変だったな」

 

『何か嫌な予感がするわ。早く帰ってきてね』

 

「あぁ……」

 

 彼はそのまま電話を切ったわ。

 

 心臓の鼓動が早くなって、自分が上手く酸素を吸えてないことにも気付けないくらい、彼は狼狽してしまっていたわ。別にこのことがさっきのことと関連していると決まったわけではないけれど、それでもそうだと思わざるを得なかったのね。

 

 叔父はそのまま思考することも出来ずにいたわ。

 

 ただ、叔父は運転している最中であり、テープも再生しているままだったの。

 

 そして、叔父はそんなことにも気付かずに運転を続けたわ。普通に運転出来ていたのは、無意識的というのかしら、心とは裏腹に身体だけは普段通りに運転することが出来ていたの。

 

 そのまま車はトンネルの中へと吸い込まれていったわ。

 

 視界が暗くなったから、叔父はそこでやっと正気に戻ったのね。まだ恐怖から完全に逃れられたわけではないのだけれど、ふと意識がはっきりしたの。そして、自分がまだテープを停止させていないことに気付いたそうよ。

 

 だけど、そこで別のことにも気付いたの。

 

 どうしてテープは再生し続けているのだろうかって。

 

 録音した分の音声は既に終わっている筈なのに、テープは止まることなく、未だにノイズ交じりの音を発し続けていたのよ。録音した筈のない音がテープから聞こえ続けていたの。

 

 思わず停止させようと手を伸ばしたときよ。

 

 テープから聞こえたのよ。

 

 え? 何がかって? さぁ、それは分からないわ。

 

 これから私が言うようなものかもしれないし、そうではないかもしれない。

 

 それは誰にも分からないものなのよ。

 

「……ザ……ザザ……ない」

 

 ノイズの中に何か別の音が聞こえたような気がして、叔父は伸ばした手を止めてしまったわ。彼の鼓動は再び大きな音を奏でたわ。自分の脈動がしっかりと聞こえるくらい、胸の鼓動は跳ね上がったの。

 

「…………ザザ……さない」

 

 さっきよりもより鮮明に聞こえたわ。この時点で叔父は完全に恐怖に囚われてしまったのね。そこでテープを停止させておけばよかったと、かなり後悔していたわ。まさか、自分がこんな目に逢うなんて予想もしていなかったのでしょうから。

 

「絶対に逃がさない」

 

 それまでのノイズがなかったかのように、叔父の耳にはそうはっきりと聞こえたそうよ。

 

 思わず悲鳴を上げて、テープを止めようとしたの。

 

 でもテープは止まらなかった。

 

 いくら停止ボタンを押しても、音声は止まることはなく、テープを出そうとしても、無駄だったそうよ。何で、何で、と乱暴に強くどのボタンを押しても、事態が変わることはなかったわ。

 

 車がトンネルを出る直前になるまでは、ね。

 

 車がトンネルを出ようというときに、唐突にテープがまた音を放ったの。

 

「ほぉら、捕まえた」

 

 叔父の車がトンネルから出たわ。

 

 そして、その車の窓の至る所にそれが残っていたそうよ。

 

 え? それって何かって?

 

 ふふふ……、叔父はね、車好きな人間でもあって、車はいつも新車の様に綺麗な状態しておくのよ。だから、車には汚れなんかついているはずはないし、もしも仮についていたとしたら、叔父ならば気付くはずよ。

 

 まぁ、そんなことあまり関係はないのだけれどね。

 

 ……叔父の車の窓にはね、誰かの手の跡がびっしりと付着していたのよ。

 

 今にも窓を開けて叔父の身体を掴もうとしているかのように、必死に窓に縋り付いているようにね。手の跡からだけでも、それは察することが出来るくらいに、それはくっきりと残っていたそうよ。

 

 それから、叔父は心霊スポットに行くことはなくなったそうよ。

 

 そして、去年、その叔父が謎の死を遂げたってお母様から聞いたわ。

 

 ……はい、これで私の話はお終いよ。

 

 

「……はい、これで私の話はお終いよ」

 

 華琳はそう言うと、ふぅと小さく息を吐いた。長い間、ずっと話し続けて疲れたのだろうか、しかし、彼女の表情には満足そうな笑顔が浮かんでいる。それもそのはずであった。

 

「あわわ……」

 

「はわわ……」

 

 翠と春蘭がどこぞの腐女子の幼女コンビのような声を出しながら、ガタガタと震えているのだ。涙目になって、翠は蒲公英の、春蘭は秋蘭の身体を抱きしめて、声にならない悲鳴を上げている。

 

「どうだったかしら?」

 

「……さすがは華琳だな」

 

 一刀は感嘆の声を上げた。

 

 うんうん、その通りよ、と言わんばかりに華琳は頷く。

 

「……もう寝られなくなっちゃうよぅ」

 

 春蘭は小さく呟いた。

 

「よしよし、姉者、今日は一緒に寝ような」

 

「うん」

 

「ふふふ……、それじゃその責任を私が取らなくちゃいけないわね。私も一緒に寝てあげるわ」

 

「華琳様ぁ」

 

 華琳の優しさにぶわぁと春蘭の瞳に涙が浮かぶ。

 

 しかし、春蘭は知らなかったのだ。このとき、華琳は怖くて寝られない? いいえ、違うわ。私が寝かさないの間違いね。こんなしおらしい春蘭も久しぶりだもの、今晩は徹底的に可愛がってあげないと、本当に責任を果たしたとは言えないものね、などと考えながら妖艶な微笑みを浮かべていたのだ。

 

 ――うふふ、怪談はこうでなくちゃね。

 

 勿論、華琳が話した内容な全て創作したものであり、華琳には謎の死を遂げた親類などいるはずもない。

 

 彼女自身、心霊的なものなど信じているわけはなく、怪談など人を怖がらせて楽しむものとしか考えていないのだ。怯えて震える可愛い女子と一緒に夜を共にして、そのままおいしく頂く手段に過ぎないのである。

 

「お姉さまも、今日は蒲公英が一緒に寝てあげようか?」

 

「う、うるさいっ! あたしは怖くなんかないぞっ!」

 

「へぇ? そうなんだ。……あれ?」

 

「なっ! 何だよっ!」

 

「え? んーん、何でもないよ。きっと蒲公英の気のせいかな」

 

「お、おいっ!」

 

「でも……確かに見えたような……いや、でもやっぱり違うかなぁ」

 

「何だよっ! 何が見えたんだよっ! あたしにも教えろよっ!」

 

「え? 本当にいいの?」

 

「え、あい、いや――」

 

「お姉さまの後ろの窓から誰かが――」

 

「★■※@▼●∀っ!?」

 

 蒲公英が翠の後ろに指を向けた瞬間、翠はもう堪らずに蒲公英の身体に抱きついてしまった。勿論、これも蒲公英が翠を怯えさせるための嘘である。翠に気付かれないように声を押し殺して笑っている。

 

「さすがは華琳ね。本当に怖かったわ」

 

「ほら、蓮華お姉ちゃん、何やってるの? 怖いふりして北郷先輩に抱きつかないと」

 

「シャオっ! またお前は――」

 

「えー? だって、お姉ちゃん、消極的過ぎるから、このままだと北郷先輩を誰かにとられちゃうよー」

 

「わ、私は別に一刀のことなど何とも――」

 

「またまた、今夜だって北郷先輩がいること知らなくて、もっとオシャレな格好をしてくればよかったって、さっきぼやいてたじゃん」

 

「お、お前、どうしてそのことを――」

 

「あっと、手が滑った」

 

「きゃあっ!」

 

 白々しく小蓮が蓮華の身体を押し、思わず蓮華は一刀の胸に顔を埋めてしまった。一刀は蓮華が怪我しないように、反射的にその身体をぎゅっと掴んでしまうが、次の瞬間恥ずかしさのあまり蓮華から放たれた強烈なコークスクリューを受け、見事に撃沈してしまう。

 

 そんな感じで一人一人が怖い話を披露していった。

 

 その中で自分が一番怖がってしまい、上手くそれを伝えることが出来ずに失笑を誘ってしまう翠や、怪談と猥談を勘違いして、一人で自分の昨晩の夜のおかずの話をして、秋蘭を再び悶絶させてしまう春蘭や、その話を聞いて思わず興奮してしまったことを小蓮に指摘され、顔を真っ赤にする蓮華など、いろいろあったが、それでも皆は一様に楽しんでいるようだった。

 

 そして、皆が一通り話をして、ついに一刀の番が回ってきた。

 

 彼は床に置かれていた蝋燭をそっと自分の手前にまで持ってきた。彼の表情が妖しく浮かび上がると、普段は凛々しいその顔つきも何故か不気味に見えてしまう。また、蝋燭が少し遠のいてしまった分、他の者は闇を色濃く感じることにもなった。

 

「さぁ、今度は俺が話そう」

 

 彼は静かに言った。

 

「俺はこの聖フランチェスカ学園に伝わるもっとも深い禁断のタブーについて話そうと思う」

 

 

 誰かがごくりと喉を鳴らした。

 

「この学園のタブー?」

 

「そうだ。いいか、この話は実話であり、絶対に他言してはいけない。絶対にだ」

 

 雪蓮の疑問にすぐに一刀は答えた。

 

「もしも言ってしまったら?」

 

「…………」

 

「一刀?」

 

「俺に責任は取れない。そいつに何が起ころうとも、俺は何もすることが出来ない」

 

 その言葉に皆は黙ってしまった。仲間のピンチに必ず駆けつけ、どんな困難が目の前に立ちはだかろうとも、絶対に打ち破ってきたこの一刀にして、そのように言わせたのだ。その話がどれだけ危険なものなのかは言わなくても分かったのだ。

 

「……ねぇ、止めようよ。何だか私怖くなっちゃったよ」

 

 桃香がそう言うと、何名かも同意した。

 

 もう充分に怪談を楽しんだ。それぞれ怖い思いをしたり、楽しい思いをしたりと、夏の思い出と言うに足る満足感を得ることが出来たのだ。一刀の醸し出す雰囲気は、これ以上踏み込んだら、もう戻って来られないのではないかと思わせた。

 

 怪談話をすると霊が本当に寄ってくるという言葉が皆の頭に過る。

 

「いいえ、一刀、続けなさい」

 

「華琳さんっ」

 

「いいじゃない。ここまで来たら聞かないと何だかそんな気分がするわ」

 

「で、でもぉ」

 

「安心なさい。怖くて眠れないなら、桃香も私と一緒に寝させてあげるから」

 

 ついでにおいしく頂くけどね、とは勿論言わない。

 

「だったら」

 

 と桃香もしぶしぶ首肯した。

 

 それを確認した上で、一刀は口を開いた。

 

「これは俺が偶然聞いてしまったことだ。俺は勿論聞くつもりなんてなかった。本当に偶然で、思いがけないことだったんだ」

 

「焦らさないで早く言いなさいよ」

 

 軽い気持であった華琳までも身体を前に乗り出して一刀の話を聞いていた。

 

「あぁ、皆も知っているだろう? 養護教諭の紫苑先生のことだ」

 

「え? 紫苑先生?」

 

 思わぬ名が出てきたことの、桃香が眉を顰めて訊き返した。

 

「あぁ」

 

 一刀は続けた。

 

「夏休みが始まる直前、体育教師の桔梗先生と話しているのを聞いてしまったんだ」

 

「な、何をさ……」

 

「な、何を……」

 

 翠と蒲公英が同時に聞く。

 

「……紫苑先生の年齢さ」

 

 一刀は押し出すようにやっと声を出したのだ。

 

 その言葉に皆が目を見開いて驚愕する。しかし、その表情もすぐに絶望的なものへと変わってしまったのだ。

 

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 誰かが悲鳴を上げた。

 

 蓮華だった。

 

 その隣に座る小蓮が突然倒れたのだ。そして、前へと倒れたその身体に深々と弓矢が刺さっていたのである。正確に貫かれ、小蓮は全く声を出すこともなく、意識を失ってしまっていたのだ。

 

「シャ、シャオ――」

 

 次の瞬間、小蓮の名前を呼ぼうとした蓮華の喉元に弓が突き立ったのだ。蓮華はそれを抜こうと喉を掻き毟ろうとするが、そうする前に後ろへ倒れてしまい、喉から大量の血を流したのだ。

 

「皆っ! 早く逃げなさいっ!」

 

 華琳が立ち上がって、出口へ皆を先導しようとすると、その華琳をどこからともなく放たれた矢が襲い掛かる。蝋燭一本分の灯りしかない室内では、その矢の軌道を読むことなど出来ず、華琳は目を覆って覚悟を決めた。

 

「華琳様っ!」

 

「危ない!」

 

「春蘭っ! 秋蘭っ!」

 

 華琳を守ろうと春蘭と秋蘭が弓矢の前に身体を入れる。そして、その身体を無情に矢は貫いたのだ。華琳を守れたことに満足そうな表情を浮かべながらも、春蘭と秋蘭はその場に倒れてしまった。

 

「いやぁぁぁっ! 何でっ! どうしてよぉぉっ!」

 

 桃香が狂ったように叫んだ。

 

 そして、その声を遮るように矢が桃香へと放たれたのだった。

 

 とある夏の夜、聖フランチェスカ学園の当直室は、仲の良い学生たちが夏の思い出を作ろうと楽しい夜を過ごす場から、悲鳴轟く絶望の場へと姿を変えてしまったのだった。

 

 翌朝、学校へと訪れた教職員が必要な道具を取りに当直室へと向かうと、そこには正に地獄絵図が広がっていた。辺り一面血の海になっており、その中に膝を抱えて震える一人の青年が座っていたのだ。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 青年はぶつぶつとそう呟いていたという。

 

 

 皆様いかがだったでしょうか。

 

 

 物語のお終いに、一つだけ気を付けて頂きたいとことが一つ。

 

 

 北郷一刀が言わんとしていたこと、そのことを二度と思い返すことをしないで下さい。

 

 

 もしも、そうしてしまったら、きっと今晩にもあなたの許にも訪れてしまうでしょう。

 

 

 え? 何がかって? それは皆様のご想像にお任せすることにします。

 

 

 どうかこの話はそっと皆様の胸の中に納めておいてください。

 

 

 第四回同人恋姫祭りの作品の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、皆様いかがでした?(笑)

 

 今回の祭りのテーマが「怪談」ということなのですが、どうしようかなとずっと考えておりました。実は作者は怖い話はするのが好きで――聞くのは嫌いですが――、大学時代はサークルの後輩に聞かせて怖がらせていたものです。

 

 作者自身も華琳様と思考が一緒で、心霊現象を信じておりません。べ、別に信じてしまったら、本当に怖くて仕方ないとかじゃないんだからねっ! 

 

 戯言はともかく、作中の怪談も昔作者が知り合いから聞いたものであり、多少内容は違っていますが、作者の鉄板話でもあります。これで後輩を泣かせたときは、心中でガッツポーズをしたものです(笑)

 

 さてさて、しかしまぁ、怖い話をするのではなく、書くというのは、勿論難しい話であり、それで皆様を怖がらせるなど駄作製造機を自称する作者には到底無理な話で御座います。

 

 従って、今回も見送ろうかなと思っていたのですが、ネタ風に書けばいけるのではないかと思い、今回の作品を執筆致しました。

 

 まだあまり他の作品が投稿されていないようでしたので、早めに投稿してしまえば、後々投稿されるであろう他の作者様の素晴らしい作品に埋もれるかなと楽観的な気持ちを抱きつつの投稿です。

 

 恋姫世界でもっとも怖い話、それは勿論紫苑さんの年齢――げふん、いえ、何でも御座いません何も言ってません言おうとしてません本当です本当なんですごめんなさい許してください。

 

 さてさてさて、一日で書き上げた作品ですので、正直勢い任せです。作者のテーマとしては、微妙にギャグを挟みつつ、ネタ風な内容をシリアスな雰囲気で書こうといった感じでしょうか。

 

 少しでもクスリと笑って頂けたり、あの方に恐怖して頂ければ成功かなと思います。

 

 普段書いている作品とは異なり、かなりリラックスした状態で、言い換えれば何も考えずに書くことが出来たので、作者だけは楽しかったです。自己満足作品ですすいません。

 

 連載作品の投稿は早めに出来るように頑張りますので、どうか、皆様ご容赦のほどをよろしくお願いいたします。

 

 では今回もこの辺で筆を置かせて頂きたいと思います。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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