コチビはネコだ。
ネコといっても、ネコ科だけど4本足で歩いたりしない。ネコは大昔から2本足で歩くものだ。友達にウサギ科のメリッサやイヌ科のルートがいるけど、みんな2本足で歩く。
2本足で歩きながら、コチビは夜空を見上げた。降って来そうな星空だ。実際、こぼれおちそうなミルキー・ウェイが、どんどんこちらに迫ってくるくらいたっぷりとしている。
ああ、まずいとコチビは思った。(もうすぐ降って来ちゃう。急いで帰らないと……)
でも、それは既に遅すぎる杞憂だったようだ。ポツポツと金色の粉が降り始め、やがて空から星屑たちがザアザアと流れ落ちてくる。大雨ならぬ大流星だ!
「わあ、ついてないなあ!」
急いで近くの樫の気に逃げ込んだけれど、既に身体は金色にピカピカ光ってしまっていた。星の屑たちが身体にまとわりついて離れない。これでは、家に帰ってお風呂に入らないと洗い流せそうにない。コチビはハァとため息をついた。
すると、後ろからハァとため息が聞こえた。コチビは大きな耳をひくりと動かす。聞き間違いではない。そっと木の幹の裏側をのぞくと、自分より大きくて長い耳をぺったりと落として、全身金ぴかになってしまったウサギがこちらを向いた。
「メリッサじゃないか。君も降られたね?」
「ああ、コチビ。あなたも降られたのね。どうしよう、傘なんて持ってなかったのに。恥ずかしいなあ金ぴかなんて……」
「ねぇ。大人はキレイだなんて言うけど、そんなの大人の勝手さ。僕たちは目立ち過ぎて、恥ずかしくて仕方ないっていうのに」
コチビはぷうと頬を膨らませる。大人って生き物は大概厄介なもので、自分たちの都合のいいことに子供を振り回すクセがある。キレイな礼服を着せられても、子供には窮屈で仕方がない拷問だというのに。
「ねえコチビ? どうしよう、まだまだ流星、止まらないみたいよ」
「うーん、けどそろそろおうちに帰らないと、ママに怒られちゃうんだよなあ。わあっと走って帰っちゃおうか」
「もっと金ぴかになるの、いやだけどねぇ」
まだまだ振る気まんまんの流星に耳を垂らしていたら、何かが聞こえた。コチビはくるりと耳をそちらに向けて、
「何か聞こえない? メリッサならもっとよく聞こえるでしょ」
「……ん。何か歌が聞こえるよ」
「歌?」
「うん。きれいな、とっても透き通った歌」
この近くで、流星の真っ只中で演奏会なんて。なんだかわくわくとしてきて、コチビは長い尻尾をぴんと立たせる。
「ねえ、行こうよ!メリッサ、何かありそうだ!」
「ええ! こんな流星の中に行くの?」
「うん、だからこそさ! きっと幽霊たちが大合奏してるんだぜ」
「気味が悪いじゃない」
「だからこそさ! 気味が悪くて、わくわくしないかい?」
まだまだしぶるメリッサだったが、わくわくしているコチビに勝てるはずも無い。最後には納得しないながらも頷いて、まだまだ流星が降る中、2人は歌の聞こえる方に向って走り出した。
そこは大きな川が流れていて、きらきらと光り輝いていた。落ちてきた星屑が輝きを失わずに、川の底でぴかぴかしているせいだろう。
「あれぇ」
見たところ、幽霊どころか、なぁんにもなかった。ただ、星屑がザアザアと川に当たっては沈んでいくだけだ。
「分かったわ、コチビ」
と、メリッサは微笑んだ。川よりもずっと金ぴかしてしまった彼女はみっともないけど、なんだか楽しそうだ。
「この星たちが、川にあたって音を出してるのよ」
きらきら、ひらひら、ふーわふわ
ふわふわ、きらきら、ひーらひら
星たちは自らを楽器にして、川に降り注いでいく。川はそれを受けて、楽しそうに合奏しているのだった。コチビはにんまりと笑った。
「へえ。流星も、たまにはアジなことするじゃないか」
「うん。アジなこと、するわね」
きらきら、ひらひら、ふーわふわ
ふわふわ、きらきら、ひーらひら
透き通るキレイな音は、大きくなったり小さくなったりしながら、チューリッヒの村を包んでいく。
コチビとメリッサはぴかぴかになりながらも、其の光景をずっとずっと、眺めていたのだった。
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メルヘンファンタジーな、ここではないどこかの物語。