~一刀視点~
俺は風よりも速く思えるかのような速度で馬を走らせていた。
間に合ってくれ、ただ、そう思いながら。
俺は、鳳統さんと戦って時にやぶれたのだろうと思われる敵の兵の鎧をとり、それを外套のうえから着て、
鳳統さんの策に従うことにした。
火計・・確かにこれさえ成功すれば、おおきな混乱が生じるはずだ・・・
確かに俺は30年特訓し、この世界に来て、小規模な盗賊の退治もしている。
しかし、相手はあの乱世を、前線で戦う兵として生き抜いてきた者達だ。
ここは戦場なんだ・・・
初めて単騎で潜り込む戦場に、少しながら手が震える。
多少なりとも恐怖はあった。
しかしそれ以上に俺は許せなかった、
華琳がどんな思いをしてこの同盟関係を結ばせ、そしてこの乱世を集結させたのかを
思うと。
南門には、敵がそう多くはない。鳳統軍が壊滅したために敵はあまり警戒していないのであろう。敵の情報を探るために、少しの間、竹林に身を隠し、敵を伺っていた。
俺は、敵が警戒するのをおそれ、仮面をはずし、代わりに包帯をまいていた。
鎧には血がついているために、それがかえってごまかしが効くものとなるかもしれない。
そう思いながら、俺はその南門へと足重たげに歩いて行った。
「ど、どうした!大丈夫か?」
目の前をみると南門にたっていた男がそう声をかけ、こちらにかけてくる。
とりあえずは仲間と思ってくれたらしい。
「すまない、負傷してな、救護班のところまで、手をかしてくれないか?」
俺はその言葉に合わせフラッと倒れる。
「大丈夫か、お前。今連れてってやるからな、
しかし、冷苞将軍の直属部隊とはすごいな、あの呂布を討ち取ったのであろう」
「ああ、すまない」
まずい、と俺は思った。
そこまで配慮が行き届かなかった。俺は冷苞などと一言も言っていないのに、
こいつは俺が冷苞の部下だと思っている。
それはつまり鎧のせいであろう。
しかも、直属部隊だ・・・そう数は多くないし、お互いの顔は覚えているはず・・
うまく、乗り切れるか・・
そう俺がすこし焦りながらいると、やはりか、という思いとともに、俺に声がかかる。
「そこのもの、とまれ!」
そんな声と共に近づいてきたのは武装した、女であった。
「お前はいってよい、いそいで持ち場にもどれ!」
「はっ、はい」
そう、女が殺気をだしながらいうと、俺に肩をかしていた男はその女におそれ、
走り去ってしまった。
「お前は、だれだ?」
まずい、この状況は・・・この状況と、鳳統さんから聞いた情報、
そして先ほどの兵の態度をみるに
こいつは武将・・おそらく冷苞だ。
タイミングが悪すぎる・・
「はっ、冷苞様、自分はあなた様の直属部隊のものであります。
鳳統軍との衝突の際、負傷し、只今戻り、救護舎へとむかうところであります。」
「ほぉ、私の名を知っておるか」
「はっ、冷苞様の家臣であれば」
「そうか、確かにお前の鎧をみたところ私の部下のようだ」
「はっ」
「しかし、おかしいな」
目の前の女はそう言いながら薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「私の隊にはお前のような奴はおらぬ」
「・・・」
どういう、ことだ?俺を運んでいた男は確かに俺を直属部隊と見誤ったはず・・
「いや、おったわ、たしかそやつは弱小鳳統軍を殲滅する時に
怪我をおって歩けなくなっておったな」
「はっ、申し訳ありません、怪我がひどくしばらくは歩ける状態ではありませんでした」
こいつ、自分の直属をまるで、あたかの他人のようにあつかっている。
「おもしろいやつだな」
目の前の女はまだその笑みをうかべていた。
なんなんだ、こいつは、さっきから変な笑みをうかべて・・・
「と、いいますと」
「いや、確かにいたよ、怪我をして歩けなかったものが一人。
しかしな、私は殺したはずなんだが」
「・・・は?」
俺はその意外な言葉に戸惑った。ちょっとまて、傷ついている味方を殺す?
だと・・なにを言っているんだ、こいつは
「あぁ、いいよいいよ、その目、うろたえている目だ。そそるな、
そうだよ、私にあんなとこで歩けなくなるような部下はいない。
いや、必要ない。で、あれば切り捨てるしかないだろう?
殺すしかないだろう?
それがやつにとっても本望だろうよ、なにせこの私に直々に殺されるのだからな。
なぁ、そうは思わないか?
はははは」
そんなことを言った女は笑っていた。
「・・・何が・・」
「うん?どうした? さては怯えているのか?」
「何がおかしい」
ごめん、鳳統さん。君が示した策はどうやら失敗に終わってしまったようだ。
すまない、
「はぁ?」
「仲間をみすてて、何がおかしいと言っている」
俺は怪我をしている振りを止め、そのまま立ち上がった。
その状況がおかしいと気づいたのか、周りの兵が俺たちを取り囲んでいた。
「おもしろいことをいうな。 戦場に友達ごっこはいらないんだよ
それに、仲間だと? ほざくなよ、私にあんな弱い仲間はいない
勝手に、仲間扱いはよしてくれ」
「・・・」
そういってこいつは高笑いしている。
俺の手は震えている・・
恐怖で、ではない。
怒りがこみあげてくる・・・・
「ああ、それにしてもよかったな、あの顔は。鳳統のあの死を恐る顔は。
最高だったよ、あのいつもえらそうにしている子供が怯える様は、
格別だった、
たまんなかったなぁ」
ごめん・・・鳳統さん、
俺は君の策に従うはずだったけど、もう俺は、・・・
我慢できない。
「まあ、いいや、お前もそろそろ死ね」
そういって合図を彼女がかけると周りにいた兵が俺に襲いかかってきた。
「・・・地獄にいくのは、お前らだよ」
俺はその軽く縛っていた邪魔な鎧を脱ぎ捨て、黒い外套姿になる。
「・・・地獄に落ちろ、下衆ども」
そういいながら俺は殺気を放つ。
「なんだ、体が・・・」
俺に当てられた殺気によって、周りの兵たちは足がすくんで動かなかった。
「へぇ、なかなかのものだな、単騎でここまで来ただけのことはある。
しかしその程度私が動揺すると思ったか」
そういいながら、こちらにあゆみよってくる冷苞。
「ああ、そんなことは思っていない。しかし兵がこの有様。
お前の武も底が知れる。」
「なん、だと?」
「お前なんか、三国の武将たちには到底及ばない、
せいぜい、弱いものの上で威張ってることしかできない、
弱虫野郎だって、そういってるんだよ」
「きっ貴様ぁーー!一兵卒ごときがっ!
私の武を侮辱するかっ!
その罪、万死に値する!
死ねぇーーー」
「・・目の前の敵との戦力差もわからないのか・・・
もはや哀れをとおりすぎて滑稽だな・・・・」
“シュッ”
「・・・なっ・・・に・・・?」“バタっ”
冷苞が自分の背後に俺がいることに気がついたのは
きられて冷苞の意識が遠のいていくなかでだった・・・・
瞬殺・・・将をこんなにもあっさりと・・・
その彼の姿は、多大なる恐怖となり、城内の兵におおきな混乱をもたらした。
そして、俺は混乱に乗じ、張任がたっている
城壁へと向かっていった。
城壁から下を見下ろすと、蜀軍がたたかっていた。
また、この光景をみることになるのは・・・
俺は久しぶりに見る、その蜀軍の光景に唇をかんだ。
~張任視点~
冷苞がやられた、俺はそのしらせに驚く。たしか冷苞は鳳統軍
をやぶり、さきほど、入城した。そして、少し前には俺と共に、
城壁にたっていた。
それが、彼女は先ほど伝令がかけてきて、いってしまった。
内容は知らされていない・・
彼女は独特なところがあるが、それでもそれなりの腕はある。
その、彼女が、やられた、だと・・
なにが起こっている・・・
俺はいままで感じたことのない恐怖に襲われていた。
そんなとき、俺はすごい殺気をまといながらこちらにかけてくる存在を
遠くに見た。
あいつ、か・・・
俺は震えていた。
なぜなら、たった一人だったからである、
俺の直感は告げていた・・・やばい、と。
俺は、兵たちの動揺を少しでも下げさせるために、そして
先程から攻撃が激しくなった厳顔らの攻撃に集中させるため、兵たちを俺がたっている
城壁からどけさせ、俺は身構えた。
そんな俺の行動に答えるかのように、あいつはもうすでに俺の目の前にたっていた。
「お前、か」
俺はそう、言う。 声が震えている。
目の前に立っているのは、黒い外套をはおり、仮面をつけている不気味な奴。
「張任、か」
その男はそう言った。
「貴様は、だれだ。俺は蜀陣営にいたが貴様などみたこともない」
たしかに俺は、劉備たちを憎んでいた身だが、相手をするためにここ最近、
敵の情報は徹底的に調べ上げた。
しかし、こんなやつはいなかった。
「貴様に名乗る名はない。」
そう男はいい、俺に歩み寄ってくる。こいつは、・・こいつは
そう、俺が改めて身構えると、やつはその場で止まる。
「いや、あえて名乗るなら、そうだな。
お前を地獄へと落とすために来た、死神といっておこう」
そう、やつは死神だ・・・俺は全身が凍りつくのを感じる・・・
圧倒的な力の差・・だ。
「そう、だな。張任、お前にひとつだけ聞きたいことがある。」
「・・・」
「なぜ、蜀を裏切った?」
「ふっ、ふははは」
しかし、どうやら俺の考えは間違っていたようだ。
今まで止まったかのように思われたが、血管に血が流れているのを感じる。
俺は奴のその質問に安心した、どうやらこいつは死神ではないようだ。
蜀を裏切る?なにをいってるんだこいつは。
こいつはまるで厳顔と黄忠とおなじではないか、
本質が見えていない、ただのクズか・・
「なにが、おかしい。俺は質問に答えろと、そういっている」
「いや、安心しただけだ。お前があいつらとさほどかわらないやつだと分かってな」
そういいながら俺は戦っている蜀軍をさした。
しかし、やつはそんな蜀軍を見向きもしなかった。
「そんなことは、俺には関係ない。質問にこたえろと、そう言っている」
「そう、急かすなよこのクズが。いいか、第一に、俺はもともと劉璋様に
仕えていた身だ。その俺が、どうして裏切ったと言われなきゃならない。
第二に、裏切った方は黄忠、厳顔といった、今劉備陣営にいる将たちだ。
それに、劉備たちは俺たちが暮らしていた土地を奪い取ったただの侵略者だ。」
「・・・」
はっ、そうだろうよ、本質を見抜いていないお前なんかが知るわけないのさ。
「なんだ、もう何も言えなくなっちまっ」
「勝手な言い訳だな。」
なっ!なんだ、と・・
「ふざけんなてめぇ」
俺に納得して黙ってしまったのかと思ったが、奴がいってきたことは
全く違っていた。
「ふざけてなどいない。確かに、裏切りは大罪だ。
しかし、お前は、何を持って裏切りとする?
黄忠、厳顔共に自分の力を尽くし劉備と戦い、そしてその生き方に共感し、
仲間となった。
しかし、お前はどうだ、劉備の寛大さにつけこみ、自分の理想などとは関係なく、
仲間といつわった。そして、今、お前を仲間として認めた奴の優しさをお前は踏みにじっている。
勘違いしてんなよ、その二つではおおきな違いなんだよ」
「・・、なにをいってやがる!先にせめてきたのはそっちだろうが!」
「乱世の時代の戦にお前は罪を求めるのか?」
「しかし、俺は劉璋様のためにっ!ただそれだけのために!」
「ふざけるなよ、そういうなら、なぜ最期まで彼と戦わなかった?、
なぜ、降伏するようなことをした?」
「それは、俺が劉備を確実に仕留めるために!」
「違うな、最期まで武人として戦った劉璋を汚すな。
お前はただ、弱かっただけだ。
ただ、逃げたかっただけだ。
お前はその道を自らとったんじゃない。
お前にはそれしかなかったんだ。
それを今、その逃げ道に言い訳をつけているだけだ」
「貴様!劉璋様をのことをしったようにいうな!」
「お前が今している行為は、その誇りある主の死に様を
陥れているだけだ!」
・・・っ!
「違う!違う!、 俺はーーー!」
俺はそう叫びながら奴に飛びかかっていった。
自分の闇を消すかのように・・・
だから、俺はやつが次にいった言葉を聞いたとき、
俺は力が抜けるのを感じた・・・
「自分の弱さを他人に押し付けるなよ」
俺はわかった、意識が薄れていくことに。
たしかに奴に切られた傷のせいもあったが、
それ以上に俺は自分の思いが偽りであることに気がついた
からなのかもしれない。
~白帝城前・蜀軍 桔梗視点~
「桔梗様!敵に混乱がみうけられます。
今が退く好機です!」
ふむ・・・なぜじゃ、なぜ敵はああも混乱している?
・・・まぁ考えるのは後でもよいか・・・
今は桃香様の身が危うい・・・
「焔耶、紫苑よ!ここはわしが引き受ける!
いそぎ桃香様のもとへ!」
「ええ、わかったわ・・・・桔梗、
無理はしないでね・・・」
「はっはっは・・・なにをいうか紫苑よ!
我が主の危機に無理をせんで
どうする?いいからはよういけ!」
「・・・・・ええ」
「はっ、桔梗様、どうかご無事で」
理由が分からずもこれは好機・・・
その混乱に乗じ、焔耶、紫苑は
兵五千を率いて成都に向かうのであった。
「さぁて、わしももうひとふんばりするかのぉ・・・
きけぇい!蜀の精兵たちよ!これより我らは
敵の混乱に乗じ総攻撃に移る!
全軍とつげ・・・なっなんじゃ!?」
わしがそう号令を叫ぼうとすると、騒がしかった周りが急に静まる。
戦闘体制にあったほとんどのものが、その顔を城壁のほうに向けている。
なんじゃ、なにがあった・・・
わしは兵たちの様子につられ、その城壁の上をみる。
そこには、漆黒の外套に
身を隠した一人の男がたっていて、こちらを見下ろしていた・・・
あやつはだれじゃ?
・・・漆黒の外套に仮面・・・
なにか、恐ろしいやつじゃな・・・・
とわしが考えているとその男がこの静けさに答えるように高らかに叫んだ。
「敵将張任、冷苞、共に飛将軍呂布の兄、この呂白がうちとった!」
そうして、彼が首元をつかみもちあげた男はたしかに張任であった。
みなが動揺していた・・
それはわしも同様であった・・
・・・何!?りょっ、呂布の兄じゃとっ!?
いままで、聞いたこともない・・
いや、まて。そもそもそれが事実だとしてもなぜ彼はここにいる。
・・・まさか、あの恋がうけとったという手紙か。
あの、恋がむやみに飛び出していったことを考えると、
あれは兄であるこやつからのものだったのか?
いや、しかしあれは桃香様からのものだった、と聞いておる。
かりに、それが奴からの手紙だとして、なぜ恋がここにいない。
こやつがとめたのか?妹君であるために。
単騎で城内にはいり、敵将を打ち取ったなら
確かに、あやつの武はまだ計り知れない・・
しかしなぜじゃ?いままで呂布に兄がいることなどきいてはおらぬ・・・
そもそもそれだけの武が本当にあるならば、
なぜ乱世で名をきかなっかたのじゃ?・・・・・
考え出せばきりがなかった。
わしがいろいろと考えていると、わしの目の前にはいつのまにか
いままで城壁の上にいた呂白と名乗った男がたっていた。
こっこやつ・・・いつのまに・・・・
あの高さからどうやって・・・
それに・・わしは気づかなかった・・この距離で・・
「あなたが蜀の将か?」
わしの考えていることとはお構いなしにそう聞いてくる男
わしがなぜ将だとわかったと聞きたかったが、
つまらない問いはこやつには無用と思いながらも答える。
「・・・・うむ、わしの名は厳顔、
劉玄徳が家臣のひとりじゃ・・・
して、おぬしは・・・」
「俺は先ほど名乗った通りだ。
いろいろと質問があると思うが、 事は急を要するはずだ。
いまは、成都に向かう方が先決だろう
自分もまた一仕事してから成都に向かう。
ではっ」
わしが答えようとするとそこにはもう彼の姿はなかった・・・
わしは少しの間動揺していたが、彼のいった言葉を考え、
張任軍を制圧した後すぐに、成都へと向っていった。
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雛里に敵の策の全貌を聞いた一刀。彼は、雛里の策を実行するために、白帝城へと馬を走らせた。そこで、彼を待ち受けるものとは?
そして、反逆者の末路は?