第四十七話 獅子は悪夢で微睡む。
たたんたたんたたんたたん…。
電車に揺られているところで俺は目が覚めた。
「お、馬鹿兄貴が起きたぞ」
その言葉を聞いて頭のもやが少し晴れる。俺に話しかけてくるこいつは俺の弟の…。
「…コウ?」
「まだ寝ぼけているのか?」
メガネをかけた二十歳ぐらいの青年が俺を見下ろしていた。
俺は確か…。
「次の駅で親父たちと合流だろ」
「んんー?確か俺は金髪幼女に懐かれて、銀髪美女に腹を刺されたはずじゃ…?」
「なんだそのヤンデレゲームは。現実を見ろよ兄貴」
「いや、ゲームじゃなくてだな。俺は一度…。あれ?なんだっけ?」
プシュー。と、扉を開ける様子に気が付いて腰を上げる扉が閉まる前にこの扉を超えないといけない。
次男の
沢家五人全員そろって、これから温泉旅行に向かす途中でもおある。
「タカ。コウ。お前達で最後だぞ。それじゃあ温泉に行くか」
「おー、ただ飯ィいいいい♪」
「ハクは食いしん坊だなぁああ」
「そういう兄貴だって、涎を流しながらついて行ってるじゃないか」
そう言いながら俺達は駅前にあった旅館に足を運んで行った。
そうだ、俺は電車に乗って久しぶりに会う家族を一緒に温泉に向かう最中だったんだ。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
はやてが変化した銀髪女性に腹部を貫かれ重傷を負った瞬間、闇の書に取り込まれたタカを見てアリシアが悲鳴を上げるかのように彼を呼ぶ。
「エイミィ。タカはどうなった!」
『高志君ならまだ生きているよ!こっちでバイタルサインが確認できたよ。ただ、そのサインが出るのが、そこの銀髪の人からなの!』
「つまり彼女に取り込まれたという事か!?」
「でも、どうやって助け出すの?」
「魔法攻撃で内部にいる高志に呼び起こして中から出てくるように皆でとにかく魔法攻撃をしてくれ」
「それで高志が助かるんだよね!」
「わかった。全力で行くよ!」
「…了解だ」
(別に戻って来なくてもいいがな。ここで助ければアリシアも…)
なのは、フェイト。クロウ。の三人は管制機関を司る銀髪の女性に攻撃を仕掛けようとすると、彼女は自分の周囲に赤黒いダガーを展開する。
「…多いな。ブラッディダガー」
女性の周りに浮かび上がったダガーの数はざっと見ても五十以上はある。
なのはの打ち出す誘導弾でも十数発なのに…。
これがスフィアの力だというのか!?
「な!?多すぎるだろ!?」
(原作でもこんなに多くのダガーは撃っていないのに!?)
「行け」
「散開!」
クロノがそう叫びながら銀髪の女性から距離を取る。と、同時に他の全員も彼女から離れて距離を取ろうとするが、追尾性のあるダガーがなのは達全員に襲い掛かる。
「お、兄ちゃん。おにいちゃあああん」
泣きじゃくるアリシアを抱えながらクロノもそこから離れようとするがスフィア持ちのアリシア。しかも一番近い距離にいたせいか二十を超えるダガーが二人に襲い掛かる。
「アリシア!」
「アリシア!クロノ!」
「アリシアちゃん!クロノ君!」
「くそぉっ!」
(タカは僕にアリシアを任せたんだ。僕が守りきれないでどうする!)
クロノは高速飛行でダガーを躱そうとするが、ダガーの速度はクロノ以上のスピードだ。
このダガーを躱すにはクロウ。もしくはフェイト並みの速度を持っていないと躱せない。
クロノは必死にそのダガーを躱そうとするがそれも叶わず、ダガーに追いつかれる。そして、
「くそおおおおおおおおおっ!」
ドガァアアアアンッ!
と、クロノとアリシアがいただろうと思われる場所にダガーは集まり夜空に鳴り響く爆音が発生した。
―なんやろ?私は確か病院で…―
八神はやての精神は闇の書の中でふわふわと漂っている状態でおぼろげながらに覚醒する。
なにか、大変なことが起こった。それを思い出そうとすると優しい声がそれを制した。
『大丈夫です。今は眠っていてください。何でもない。全てが終わるまでは…』
―全、部?―
『はい。ですので、今はお眠りください。我が主』
「ん~?何か忘れているような気がするんだよな?」
温泉につかりながら何かが頭に引っかかっている。
なにか、とても大切な何かを忘れているような気が…。
…ちゃ…。…い…ん。
「んん~?」
そして、頭に引っかかる幼女の声。はて?
「ここは混浴だったか?」
「何言っているんだ兄貴。もてないからって変な妄想を現実に持ち込むなよ。どうせ叶わぬ夢なんだから」
おかしいな。温泉に入っているのに全然癒されない…。
さすが氷のツッコミ。
涙目になりながらも弟に今、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつけてみる。
「…いや、なんか。小さい女の子の声が聞こえないか?」
…わっふー。
この台詞はアウトなのではないか?
コウが勢いよく俺から距離を取る。その距離が表わすのは心のつながり。脱線寸前。廃線寸前である。手抜き工事反対!
「…うわぁ。年上好きってのはフェイクか?」
お願いその目は止めて。
「うう。シャンプーが目に染みる…ぜ?」
思わず呟いた言葉に俺は思わず思案する。
この台詞。どこかで言ったような…?
「…そんなことより。温泉から出ようぜ。腹減ってきた」
「お?おお。そうだな」
何でだろう?ここに来たのは初めてだし、このような状況も初めてだ。
なのに、この違和感は一体?
『…思わぬところでプロテクトが解けそうになった。だが、『傷だらけの獅子』の片腹よ。お前にはこのまま闇に溶けてもらう。
八神はやてとは別の領域で沢高志の精神は漂っていた。
だが、彼を取り込もうとする闇の書の呪いともいえる怨念達が見せる夢に彼は緩やかに落ちていこうとしていた。
『二度目の生を得るなど我々では出来なかったこと。お前を取り込めば我等も…』
怨念達は彼を取りこんだ時、喚起した。
転生してきた高志を取り込めば自分達も転生出来るものだと思い、彼の魂を取り込むために彼が最も油断する夢を見せながら、その魂を徐々に徐々に取り込んでいく算段を立てた。
『さあ、安らぎという闇に落ちろ『傷だらけの獅子』』
獅子は未だに
自分が一番会いたかった家族の夢を見ながら…。
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