No.469072

楽しく逝こうゼ?

piguzam]さん

第21話~裁くのは俺のスタンドだッ!!

また大分間が空いてしまい申し訳ありません。

コメントよろしくお願いしますッ!!

2012-08-12 14:28:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:35057   閲覧ユーザー数:30969

痛い。

 

 

顔面と首が猛烈に痛いッス。

 

つうか、首が「ゴキャッ!!」とか破滅的な音立てたんだけど?

なんとかリィンフォースが消滅する前に間に合ったんだが俺が一言声を掛けようとした瞬間、横からなんかすんごい力がきてそれにブッ飛ばされた……

まぁ、ブッ飛ばされる前に聞こえた声でわかっちゃあいるんですがね?

俺の顔面は未だ木とあっついあっついベーゼをカマした状態で後ろは見えないが俺の身体に掛かる重みは二人分、十中八九間違いねえだろう。

それは………

 

「ゼンッ!!…良かった…ぐずっ…起きてくれて……良かったッ…」

 

「くぉら、ゼンッ!!アンタ、無茶しないってアタシ等と約束したのに、いきなり気絶してんじゃないよッ!!

 挙句の果てにゃどれだけ呼びかけても起きなくて怖かったのにヒョッコリ起きて現われちゃってさッ!!

 ア、アタシ等がどれだけ心配したと思ってんだいッ!?

 ……ほ、ほんとに死んじゃうんじゃないかと、どれだけ怖かったとおも…思って…ぐずっ…うわぁあっぁんっ!!」

 

モチのロンでフェイトとアルフしかいねえよな。

 

二人は俺に抱きついたまま号泣してるんだが……お二人さんや?俺ぁ今マァジに天に召されるかと思いやしたぜ?

心配させたのは悪かったと猛省してますから今度からもう少しソフトにしてくれません?

というかしてください。禅君からのお願いです。

つうか、泣くのは構いませんから少し離れて下さいませんか?

もうそろそろ呼吸が限界なんだってマジで。

木から離れたいんだって。もう自然の味は充分堪能したって。

苦いんだよ。めっちゃビターなんだよ。100パーセント無加工だもん。

ビターチョコレートなんざ目じゃねえよ。

 

「…フ、フェイト?アルフ?そろそろ離れてあげないとゼン君が苦しそうにしてるわよ?」

 

俺の惨状を見かねてプレシアさんがやんわりと、二人に声を掛ける。

プレシアさん、あなたはマジで俺の女神です。今だけ。

 

プレシアさんの言葉を聞いて二人は渋々だが、俺から降りてくれた。

背中に掛かっていた重みが取れたので俺はゆっくりと体を起こして肺に新鮮な空気を取り込む。

意外なことに顔面の痛み以外はどこも調子は悪くない。

「ゴキャッ!!」と盛大な音を立てた首が心配だったし、軽く回してみるか。

 

ゴキゴキゴキッ!!

 

……とんでもなくいい音が鳴ったが、不思議と痛みはねえ。

なんでさ?

 

「……信じらんねえ、首がもげてねえ…携帯も無事だ…アーメン・ハレルヤ・ピーナッツバターだぜ…」

 

俺は振り返りながら首をさする。

いや本気で首が取れたかと思ったよ?

ポケットの携帯も潰れたかと思ったです。

余談だが『クレイジーダイヤモンド』っで治すと中のデータまで復元可能なんだぜ?

俺を守ってくれた神様マジGJ。

振り返った先には涙目のフェイトとアルフが俺をジッと見ていた。

 

「…もう…大丈夫なの?また気絶したりしないよね?」

 

フェイトはまだ心配みてえで俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

少なくともまたアナタ達にブッ飛ばされない限りは気絶したりしませんよ?

 

アルフにいたっては俺の首やら腕やらを触って確かめてるし。

 

「もう、ホントに大丈夫なんだよね?痛いとこはないのかい?あったら言っておくれよ、アタシが治癒魔法で治してやるからさ?」

 

…ホント、『イイ女』だこと…二人ともよ…頑張って泣かせねえようにしなきゃな…

 

「もうすっかり大丈夫だぜ?若干筋肉痛になってるだけで他は問題ねえよ…ゴメンな?心配かけてよ…」

 

だが、二人は俺の謝罪に笑顔で首を横に振る。

 

「ううん、ゼンが無事ならそれでいいよ…」

 

「そうだよ…アタシとフェイトはアンタにずっと助けられてきたんだから、心配するのは当然だよ…謝ったりしなくていいさ…ね?」

 

そう言って二人は俺を優しい目で見つめてくる。

そんなふうに言ってくれる奴に謝罪は違うよな…なら……

 

「…そうか…それじゃ、ありがとうな。二人とも」

 

やっぱりお礼だよな?

 

俺がそう言うと二人はニッコリと笑ってる。

けど、なんつうか……笑ってることは笑ってるんだが、少々笑顔が黒いです。

あっれえ?なんで?

ここは普通ひまわりのような綺麗な笑顔でお出迎えじゃございません?

 

「でもさ、ゼン?…アタシ達にすっごい心配かけたんだからねぇ…」

 

黒笑のアルフの言葉を同じく黒笑のフェイトが引き継ぐ。

お願いだからその笑顔引っ込めてつかぁさい。

 

「何でもお願い聞いてくれるって約束、守ってね♪」

 

黒い笑顔で語尾を弾ませんで下さい。

めっさ怖いです。

つうか、お願いが何でも聞くにグレードUPしてるんですがッ!?

俺そこまで言ってねえんだけどッ!!?

 

「い、いや…さすがに何でもってのは…」

 

「「え?」」ニッコニコ♪

 

「この愚かな私めになんなりとお申し付け下さい」

 

ああ、無理だ。勝てねえよ。

この二人の笑顔にはいい意味でも悪い意味でも見る者を魅了する……『スゴ味』があるッ!!

…と、とりあえずふざけるのはここまでにしましょ(現実逃避)

 

とりあえず、俺は二人から離れてもう一度リィンフォースの前に出る。

リィンフォースは俺を見つめて何も言わずに立っている。

多分、さっき出かけた言葉を待っててくれたんだろう。

 

「あーとりあえず、リィンフォースさんよ?……あんた、死ぬ必要があんのか?」

 

俺の言葉を聞いて、今までボーッとしてたはやてが一気にまくし立てる。

 

「禅君の言うとおりや、 リィンフォースお願いやから止めて!! 破壊なんかせんでええ! 私がちゃんと抑える! こんなん…せんでえぇ!!」

 

はやては必死に訴えかけるがリィンフォースはそれを聞いても微笑むだけだ。

 

「主はやて、良いのですよ」

 

そして、目を閉じて魔導書に手を添えて語る。

 

「随分と永い時を生きて来ましたが、最後の最後で…私は貴女に、綺麗な名前と心を頂きました。騎士達も貴女の側にいます。何も心配ありません」

 

「心配とかそんな…」

 

「ですから、私は笑って逝けます」

 

そう言ったリィンフォースの顔は悲しそうだったけれど…晴れやかだった。

 

「…話聞かん子は嫌いや! マスターは私や! 話聞いて!! 私がきっとなんとかするって約束したやんか!」

 

だが、はやては納得しない。依然として、リィンフォースに涙を零しながらに懇願する。

そりゃ、当たり前だ。

目の前で家族が自殺するってのに、どんな理由があったところで納得なんざできるもんじゃない。

 

「その約束は…もう立派に守って頂きました。主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の勤め…。貴女を守る為の、最も優れたやり方を…私に選ばせて下さい」

 

それでも、リィンフォースは譲らない…愛しき主を守るために、自分は居てはいけないと。

 

「せやけど…ずっと悲しい思いしてきて…やっと…救われたんやないか!」

 

はやては目に涙を浮かべながら言葉を続けた。

 

「私の意志は、貴女の魔導と騎士達の魂に残ります。私はいつも貴女の側にいます」

 

「そんなんちゃう! そんなんちゃうやろ! リィンフォース!!」

 

「駄々っ子はご友人に嫌われます。聞き分けを、我が主」

 

皆…この流れを黙って見ることしか出来なかった。

はやての流れる涙を止める術も言葉もないから……

 

「…何でや、これからやっと始まるのに…。これからうんと幸せにしてあげなあかんのに…」

 

涙を浮かべるはやてにリィンフォースをそっと歩み寄り、はやての頬に手を当てた。

 

「大丈夫です、私はもう…世界で一番…幸福な魔導書ですから。」

 

「…」

 

「主はやて、一つお願いがあります。私は消えて…小さく無力な欠片へと変わります。

 もし良ければ、私の名はその欠片ではなく、貴女がいずれ手にするであろう新たな魔導の器に

 …送ってあげていただけますか?『祝福の風、リィンフォース』私の魂はきっと…その子に宿ります」

 

「リィンフォース…」

 

「はい、我が主」

 

リィンフォースははやてに笑いかけてまた儀式を再開するために広場の中央へ戻ろうとするが………

 

「ちょいと待ちな?」

 

お前等の話は済んでも俺の用事はまだすんじゃいねえぞ?

これが最も優れたやり方だ?……そんな筈があるかよ。全員笑えるからこそハッピーエンドなんだぜ?

これじゃ、はやてが笑えねえだろうが。

 

リィンフォースは俺の声に反応して、こちらへ振り返る。

 

「アンタが死ぬ必要なんざこれっぽっちもねえよ…アンタが壊れてるってんなら俺が『治して』やらあ」

 

その言葉にはやてはハッとした顔で俺を見る。

そう。『クレイジーダイヤモンド』でリィンフォースを治してやれば万事解決の筈だ。

だが、クロノ達はそれをリィンフォース達に話さなかったのか?

『クレイジーダイヤモンド』の力は皆、嫌と言うほど知ってるはずなんだが…何故なのかがわかんねえ。

考えても答えが出ないので今は先にリィンフォースを治してしまおうと俺は『クレイジーダイヤモンド』を喚びリィンフォースに手を伸ばす。

 

「…『無理』なんだよ…ゼン…」

 

だが、俺の行動は意外な人物に止められた。

それは俺の横で悲しそうな顔をしているフェイトだった。

周りを見渡すとプレシアさんやユーノ、なのはやクロノも苦虫を噛み潰したような顔をしてる。

 

……無理だって?

 

「……どぉゆうこったよ?そりゃあ……」

 

「…それは…」

 

「待て、テスタロッサ…」

 

言ってる意味が解らず俺がフェイトに聞き返すと目の前のリィンフォースがフェイトの言葉を遮った。

 

「それは私が説明するのが筋だろう……タチバナ、お前の『クレイジーダイヤモンド』の力は『破壊された物やエネルギーを治す』力なのだろう?」

 

恐らく闇の書の闇と戦った時に聞いてたんだろう。

俺は肯定の意味で首を縦に振る。

 

「…主やこの場にいる皆のおかげで長い間私を蝕んでいた防衛プログラムは取り除くことができた。

 闇の書本体も「夜天の魔導書」という改変される前のものに戻って再生機能と転生機能は完全に消滅した…もう暴走することはないだろう」

 

そう、ここまで聞けば充分ハッピーエンドな筈だ。

なのになんでリィンフォースは自分自身を消さなきゃならねえんだよ?

 

「だが……偶然にも私の中に残ってしまったバグが新しい再生機能を私自身の中に生成してしまったのだ。

 …そのバグは私の融合騎の機能を司るプログラムと完全に融合して『新しい機能』のように私の体に根付いている…」

 

そう言ってリィンフォースは自分の胸の辺りを抑えている。

 

「……いや、ちょっとまて?それのどこが『クレイジーダイヤモンド』で治せねえ理由に繋がるんだよ?」

 

俺の疑問の声を聞いてリィンフォースは悲しそうに笑って言葉を紡ぐ。

 

「…この再生機能は私の中で『正常に』作動している…私にとっては主を蝕むだけの邪魔なものでしかないというのにな…つまり

 私の機能はどこも『壊れていない』のだ……お前の『クレイジーダイヤモンド』の力は壊れていないモノは『治せない』だろう?」

 

俺はその言葉に返せる言葉がなかった。

『壊れていないモノは治せない』そりゃ確かにそうだ。

『クレイジーダイヤモンド』の力はあくまで『壊れたモノ』という大前提がある。

壊れていないモノを治そうとしてもそれ以上治ることはねえ。

 

「それに私は古代ベルカ式の融合騎…私の構造を改変できる者はこの時代には存在していないからな…摘出することもできない」

 

自分の中から取り出せない機能がはやてを蝕むから自分ごと消す。

リィンフォースが言ってんのはそぉいうことだ。

いくらリィンフォース自身がいらない機能でも止めることができない。

 

はやてはそれを聞いて絶望を顔に浮かべている。

 

「そんなん…そんなんってッ!!……」

 

周りの皆も本当に悲しくて、歯がゆいんだろう。

手を差し伸べることができなくて、見ているしかできない。

誰も彼もが悔しそうな顔をしてる……そんな中、俺は俯いて地面を見ていた。

 

「…タチバナ…人間は何かを破壊して生きているといってもいい生き物だ…その中でお前の力はこの世のどんなものよりも優しいと私は思う…」

 

そんな俺を見てリィンフォースは穏やかで、それでいて優しい声音で語りかけてくる。

何が『この世のどんなものよりも優しい力』だよ…目の前で自殺しようとしてる女一人助けられねえってのに…

 

「私には…長い間、暗い闇の中にいた私には…お前のその力と優しい心は…眩しすぎる『太陽』のように感じた…」

 

「リィンフォース……」

 

彼女の悲しすぎる告白にはやてはボロボロと涙を零す。

リィンフォースはそんなはやてを見ても微笑んでいるだけだ。

 

「だから…私ではできなかったが…私が憧れたその優しい力で主や皆を支えて欲しい…頼む…」

 

俺に自分のできなかった事を伝え、自分の想いを託すとリィンフォースは俺から離れていく。

儀式を再開するために広場の中央へ戻ろうとする………広場にいる誰もがそれを止めることはできない。

 

だがな………

 

「……摘出できりゃ、助かるんだな?」

 

俺は別に諦めたわけじゃねえぞ?

この世のどんなものよりも優しい力を持ってるってんなら目の前の女一人ぐれえ助けねえとな。

 

俺の突飛な言葉にリィンフォースは歩みを止める。

 

「?何を言って……」

 

「その再生機能とやらをお前の体から追ん出す事ができりゃお前は助かるのかって聞いてんだよッ!!」

 

周りの皆は俺の言いたいことが判らないようで困惑している。

だが、そんなことはどうでもいい。

俺にとって一番重要なのは今の質問にリィンフォースがどう答えるかだ。

俺の反対を向いていたリィンフォースは向き直って未だに悲しみが見える目で俺と視線を交わす。

 

「…あぁ……だが、ソレは不可能だ。さっきも言ったように私の構造を改変できる者はこの時代には存在していない…

 今から探し出すには時間が掛かりすぎるのだ…そうしてる間に、また再生機能が防衛プログラムを再構築してしまう」

 

リィンフォースは悔しそうに地面に目をやる。

方法がわかってるのに、自分からソイツを追い出すことができないのが悔しいんだろう。

 

だが……

 

 

「なぁ~んだ。なら何も問題ねえじゃねえか…『クレイジーダイヤモンド』でも『治せない』重大な問題かと思って焦ったぜ」

 

俺にとっては今の摘出すれば問題ないって言葉が聞けりゃそれで充分なんだよ。

緩む頬が抑えられずに、俺は笑顔を浮かべちまう。

 

「何?……」

 

俺の台詞と表情にリィンフォースは訝しげな視線を送ってくる。

リィンフォースだけじゃない、みんなが俺を不思議そうな目で見る。

 

『こいつ頭大丈夫?』

 

なんて声も聞こえてこそうだぜ。

だがよぉ…お前ら揃いも揃って俺の『クレイジーダイヤモンド』の力を見くびりすぎなんじゃねえか?

勝手に無理だなんて決め付けてんじゃねえよ。

『クレイジーダイヤモンド』はなぁ……お前らが考えてる以上にcrazyにブッ飛んでるんだぜ?

 

「で、でもね?ゼン…『クレイジーダイヤモンド』でも治すのは『無理』なんだよ?」

 

だーからよぉ、フェイト?勝手に見切りつけんじゃねーって。

 

「『無理』だと?ヘイヘイ忘れたのかよフェイト?俺は今まで散々無理なことばっかりしてきたんだぜ?

 生きて帰れねえって言われてた虚数空間からプレシアさんとアリシアを助け出したりよぉ」

 

俺の言葉にシグナムやリィンフォース達は目を見開いて驚いてる。

そうさ。あれだって魔導師の間じゃ絶対に生きて帰れない空間だって言われてんだ。

だが、俺はちゃんと生きて戻ってきたぜ?多少無茶はしたがちゃんと二人(・・)を連れてな?

 

「そう…だけど…」

 

「無理だとか無駄だとかいった言葉は聞き飽きたし、俺には関係ねえ…やるか、やらねえかだ」

 

最初っから諦めてちゃなんも始まんねえし、できねえんだよ。

俺はリィンフォースに近づいて視線を合わせる。

小学生と成人女性の身長差のせいで思いっきり見下ろされているけどな。

…女に見下ろされんのはかなりかっこわりいな…早く背、伸びねえかな。

 

まぁ、今はそれより……

 

「リィンフォース……アンタが今言ったはやてを頼むって願い……俺ぁ断るぜ」

 

叶えられない願いを断っておかなきゃな。

 

『『『『なッ!!?』』』』

 

「………」

 

俺の宣言にリィンフォースは悲しい顔で俺を見てくる。

守護騎士4人は今にも飛び掛ってきそうなぐらい怒ってるな。

 

「てんめええええええええッ!!死んじまう人間の願いを目の前で断るとかふざけてんじゃねえぞッ!!」

 

「貴様ッ!!誇りある騎士の懇情の想いを愚弄するかッ!!」

 

特にシグナムとヴィータが半端なくヤバイ。

既にデバイスを展開して臨戦態勢に入ってら。

他のアースラ組や地球組は俺のことを困惑した目で見ている。

だが、今にもデバイスを振り上げそうな二人に手を振って静止させたのは……他でもないリィンフォースだった。

 

「なっ!?リィンフォースッ!?」

 

シグナムが驚きの声を上げるがリィンフォースは静かに首を横に振る。

それを見て渋々と二人はデバイスを降ろすが、俺を睨む視線は相変わらず怒気を孕んでる。

 

やれやれ、おっかねえなぁ、おい。

でもな、どんだけおっかなくてもこれだきゃあ譲れねんだよ。

第一、これから死ぬだ?アホ抜かせ。

俺はぜってえにリィンフォースを死なせるつもりはねえよ。

簡単に諦めて勝手に見切りつけてんじゃねえっつうのッ!!

 

「…理由を聞いてもいいか?…」

 

二人がデバイスを降ろしたところでリィンフォースは俺に再度視線を合わせて聞いてくる。

いや、何も難しい話じゃねえんだけどな。

 

「俺はアンタじゃねえんだ。アンタの代わりにはやて達を支えるなんてできねえっての…」

 

「禅君…」

 

「………」

 

そう。俺は俺、『橘禅』であって『リィンフォース』じゃねえからな。

別の人間の代わりなんてもんは俺じゃなくても絶対に勤まらねえ。

 

「俺ができんのは俺の…『橘禅』のやり方ではやて達を支えることだけだ…アンタの、いや…リィンフォースのやり方はリィンフォースにしかできねえだろ?」

 

「タチバナ……」

 

俺の言葉を聞いて、リィンフォースは目に涙を浮かべる。

俺に襲い掛かろうとしてたシグナム達も怒りを引っ込めて神妙な顔をしていた。

 

「さっきはやてから聞いたけどよ…リインフォースって名前にゃ『強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール』って意味があんだろ?

 ならその名前を持つリィンフォースの代わりは……誰にもできねえよ……他の誰でもないアンタ以外はな?…だから諦めんな…命をよ…

 まだこれから、アンタははやてに『幸運の追い風』を運ばなきゃいけねえんだぜ?…リインフォースって個人としてな?……そうだろ?」

 

暗に、自分のできることは自分以外にゃ務まらねえ、だから精一杯生き残って自分でやれって言ってるだけだがな?

 

「ッ…だが……私はッ……」

 

もうリィンフォースの目にゃ止め処なく涙が溢れて目尻から零れ落ちている。

はやての元に残りたい想いとはやてのために消えなきゃいけないっていう理性が葛藤してるんだろう。

しゃーねえ、もう一押ししてやんか。

 

「なぁ、リィンフォース…アンタは本当に消えちまっていいのかよ?…はやて達を残して…それで本当にいいんかよ?…教えてくれ。

 もし、もしだぜ?…ここではやてを殺さず皆一緒に生き残れるサイコーにハッピーなプランがあるとしたら……アンタはどうしたいんだ?」

 

「……………わ、私はッ……」

 

俺の言葉にリィンフォースははやてと守護騎士を交互に見やる。

はやても守護騎士達もリィンフォースに消えて欲しくないと目で訴えていた。

その目を数秒間見つめていたリィンフォースの目が『変わった』。

さっきまでその目には悲しみと諦めの弱い光だけしか映ってなかったけど、今はとても強い光が灯ってる。

 

「…もし、そんな『奇跡』があるなら…私はッ…私は生きたいッ!!

 主はやてと騎士達と共に、この命が尽きるまでッ!!その最期の瞬間までッ!!

 このまま何もせず消えたくないんだッ!!…私はッ……私はッ!!………」

 

リィンフォースは遂に心の奥底に閉まっていた想いを吐き出した。

涙を流しながら声を張り上げて、只『皆と一緒に生きたい』という想いを叫ぶ。

リィンフォースの本当の想いを聞いたはやてと騎士達は涙を流してリィンフォースを見てる。

 

…その言葉が聞きたかったんだよ、俺ァな…ここまで強く言われたんだ……これで助けなきゃ、漢じゃねえよな?

そうだろ?『クレイジーダイヤモンド』?

 

俺はずっと後ろで佇んでいた『クレイジーダイヤモンド』に視線を向ける。

『クレイジーダイヤモンド』の甲冑から覗く目には今までとは違い、怒りなどではなく『優しさ』が灯ってる。

スタンドってのは自分自身の『なにかをしたい!!』という強い気持ちが具現化して、パワーあるビジョンを発現するもんだ。

プレシアさんと戦った時はプレシアさんの言葉にかなり頭にきてたからな。

あん時は『優しさ』より『怒り』が強かったのを覚えてる。

今は俺の『リィンフォースを助けたい』って想いが強く表れてるんだろう。

 

「グレートだぜ…アンタのその想い……リィンフォース…アンタが今いる闇の底から抜け出したいってんならよぉ…」

 

俺は泣き続けるリィンフォースの目を覗き込んで笑みを浮かべながら話し掛ける。

 

「アンタが太陽みたいに眩しいって言ってくれたこの力で……」

 

そう言って俺は『クレイジーダイヤモンド』に命令する。

絶対に目の前の女を助けるって意志を込めて。

俺の命令を受けて『クレイジーダイヤモンド』はその『優しい拳』を真上に掲げる。

 

リィンフォース……アンタが自分一人じゃ『闇の底』から這い上がれねえってんならよ…………俺が道を『照らして』やんぜ。

なによりよ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この俺がッ!!アンタをクソッタレな闇の底から引っ張りあげてやんぜええええええええええええッ!!!」

 

アンタみてえな『イイ女』にゃ『闇の底』なんて暗え場所は似合わねえからなぁッ!!

 

『ドラアッ!!』

 

俺の叫びに呼応して『クレイジーダイヤモンド』は拳を握り締めてリィンフォースの胸元に振り下ろす。

 

ドグアァッ!!!

 

そして、その拳は彼女の胸元を突き破った(・・・・・)ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『っ!!!!!??』』』』』』』

 

この場にいる全員が俺がいきなり起こした凶行に目を見開く。

まぁ、普通なら当たり前のリアクションだな。

さっきまで助けるって言ってた奴の胸ブチ抜いてんだから。

リィンフォースも顔が驚きに染まってる。

そして『クレイジーダイヤモンド』がゆっくりとリィンフォースの胸元から手を引き抜く。

手を引き抜かれたリィンフォースはヨロヨロと後ろに下がって片膝をつく。

 

「リ、リィンフォースーーーーーッ!!?」

 

直ぐ傍にいたはやてが、いの一番にリィンフォースに駆け寄って声を掛けた。

その声にハッと気を取り戻した俺以外の全員がリィンフォースに駆け寄る。

リィンフォースは胸を抑えて呆然としている。

 

「リィンフォースッ!!しっかりしてぇッ!!」

 

はやてはリィンフォースの肩を揺すって叫ぶがリィンフォースは胸元を見てるだけで反応していない。

それに気づいて、はやては貫かれた胸元を見るが……

 

「……えっ!?な、なんでッ!?」

 

突然はやてまでもが素っ頓狂な声をあげて驚いた。

他の面々もわけがわからずリィンフォースを覗き見る。

 

『『『『『……えぇぇぇぇッ!!?』』』』』

 

はやてと同じように全員が素っ頓狂な声をあげちまう。

リィンフォースを良く見ると背中まで『クレイジーダイヤモンド』の拳で貫かれた筈の大穴が無くなっているからだ。

そこでやっと、呆然としていたリィンフォースが顔を上げた。

 

「…あ、主…はやて……わ、私の機能が……」

 

「ど、どないしたんッ!?どっか痛むんかッ!!?禅君ッ!!アンタいきなりなんてことをッ……」

 

いきなりのトンデモ事態に全員がパニックに陥ってる中で唐突にリィンフォースははやてに声を掛ける。

声を掛けたリィンフォースも呆然とした顔をしていた。

その顔を見たはやてはさっきの出来事でリィンフォースが消えてしまうのではないかと切羽詰まった声で返事をした。

はやてはリィンフォースに拳を向けた俺の名前を怒りに満ちた声で呼んで振り返ろうとする。

 

いきなり家族の胸を貫かれたのだから怒っても仕方ねえだろうな。

他の全員もオロオロしていた顔を緊張させてリィンフォースを見ている。

 

 

だが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さ、再生機能が……『無くなり』ました……私の体から……」

 

「しよ……………え?……」

 

呆然としたリィンフォースの口から紡がれた言葉に、その場の全員の思考が月までブッ飛んだ。

はやては首がギギギって音が鳴りそうな感じで向き直ってリィンフォースを見つめる。

 

『『『『『『『『……………』』』』』』』』

 

誰もが言葉を発せ無かった。

そりゃそうだよな。

さっきまで取り出す方法も消す方法もないから自分自身を消すって話をしてたんだからな。

それが、何が起こったかもわからん内にリィンフォースの中にあった馬鹿デカイ爆弾が無くなったって本人が言ってんだから。

実際、リィンフォース本人も訳がわからないって顔だし。

 

「……もっかいゆうてくれへん?リィンフォース…」

 

はやては震える体に力をいれ、姿勢を正して向き直る。

そして、声に希望と不安を浮かべてリィンフォースに問い返す。

今の言葉が聴き違いじゃないように、幻聴じゃないようにと心の中で祈りながら……

 

「は、はい…私の融合騎の機能と完全に溶け込んだバグと再生機能が共に無くなっています…跡形も無く…わ、私にも何がなんだか……ッ!?」

 

そして、困惑していたリィンフォースはある方向に視線を向けるとハッと息を呑む。

周りの皆もそんなリィンフォースの様子に驚いて彼女の視線を追うと……同じように息を呑んだ。

みんなの視線の先には俺がいる。

そして、皆の視線は俺に……いや、俺の横に佇んでる『クレイジーダイヤモンド』の『右手』に注がれてる。

俺も同じように『クレイジーダイヤモンド』の『右手』を見てる。

といっても俺の顔は皆の困惑してるソレと違って……『嫌悪』と『怒り』に染まってるがな。

 

「……ある程度はと思ってたけどよぉ……まさか、ここまで『醜悪』で『おぞましい』たぁな……」

 

『クレイジーダイヤモンド』の『右手』には『あるもの』が握られていた。

『ソレ』はグネグネと気持ち悪い動きで蠢いて、『クレイジーダイヤモンド』の手から逃れようとしている。

今『クレイジーダイヤモンド』が捕まえてる『ソレ』は大きさがバスケットボールぐらいで全体的に蛸に近いシルエットをしている。

丸い胴体に足がたくさんってやつだ。

だが……その胴体から足に至るまでのありとあらゆる所にギョロギョロと忙しなく動く目玉がこれでもかってついてやがる。

色はリィンフォースの体に巻きついていたベルトや刺青みてえなのと一緒でくすんだ様な赤色をしてる。

グレートにおぞましい奴だぜ。

 

「な、なんだよッ!?……なんなんだよ、その気持ち悪いのはッ!?」

 

そして、皆を代表してヴィータが俺に向かって叫ぶ。

ヴィータだけじゃなく、他の皆のソレを見る目も嫌悪感と未知のモノを見る恐怖に満ちている。

 

「……ま、まさかッ!?」

 

だが、リィンフォースはこれがなんなのか解ってるのか、かなり驚愕してる。

まぁ、わかってねえ奴もいることだし、教えてやりますか。これがなんなのかをよ……

 

「この蛸みてえで気色悪いファッキンなモンはよぉ…リィンフォースから取り出した『バグと融合した融合騎の機能』だぜ」

 

『『『『『『『はぁっ!!!!!??』』』』』』』

 

おー、おー、皆目が点になって、口があんぐりしてら(笑)

リィンフォースのあんぐりと口を開けた姿ってなんか面白れえ。

さっきまではなんつうかクールな表情ばっかりだったからなぁ。

 

「ど、どおゆうことなんッ!?なんで禅君が持ってるんやッ!?い、いやッ!!それ以前にどーやって『取り出した』んやッ!?」

 

はやての取り乱し方は半端じゃねえ。

いきなり胸をブチ抜いたかと思えばリィンフォースを苦しめてる元凶が出てきてんだモンな。

それも仕方ねえか。

よろしい、ならば説明だ。

 

「…俺の『クレイジーダイヤモンド』の能力は『破壊されたものやエネルギーを治す』ってのは皆知ってるよな?」

 

俺は皆に視線を送って聞いてみる。

その問いに困惑しながらも何人かは首を縦に振って肯定してくれた。

それを見てから、俺は続きを話す。

 

「けどよぉ…ソレは100%元通りにしか治せないってわけじゃねえんだ。

 俺の思った所で治すのを止めて『形を変える』こともできるし。

 『異物を挟み込んでそれを混ぜた状態で治す』こともできる…それの反対で『切り離して治す』こともな」

 

「『形を変える』?…あーーーッ!!?」

 

俺の説明を聞いてなのはが大声をあげる。

どーやら、今回はなのはが一番に気づいたみてぇだな。

 

「な、何かわかったのかい?なのは?」

 

ユーノはまだ気づいてないのか、なのはに疑問の声を掛ける。

 

「ほ、ほらッ!!アースラで『クレイジーダイヤモンド』に殴られてたスタッフさんッ!!あの人『顔の形が変わってた』のッ!!」

 

いぐざくとりぃッ!!正解だぜ。

あんときにやったイケメンをイケメン(笑)に変えた方法が今回のヒントなわけだ。

 

『『『……あぁっ!!?』』』

 

「なるほどな…あれが『クレイジーダイヤモンド』の能力の応用だったのか…」

 

その時を思い出したフェイト、アルフ、ユーノは揃ってすっとんきょうな声を上げた。

クロノは声は上げなかったけど納得した顔でうんうん頷いてる。

 

「つまりだ。今回はその能力の応用で、リィンフォースの中のバグと混ざった機能をそっくりそのまま『切り離して治した』ってぇわけよ」

 

俺は皆に笑みを浮かべながら自慢げに今回のトリックのタネ明かしを終える。

 

もし、リィンフォースがこの機能を切り離したら死ぬって言ったらこの方法は使えなかったけどよ。

取り出しても問題ないって言質が取れたから使えた荒業だ。

 

「だ、だが私は『壊れていなかった』筈だッ!!それなのに何故『治す』という力が発動したんだッ!?」

 

リィンフォースは声を上げて俺に詰め寄ってくる。

 

「あぁ、確かにアンタは壊れていなかったぜ?」

 

「じゃあ何故…」

 

「だから俺はいっぺんアンタを『ブッ壊した』んだよ……アンタの胸を『ブチ抜いて』な?」

 

「ッ!?」

 

リィンフォースは驚きで目を見開きながら胸元に手を当てている。

まぁそれも仕方ねえことだ。

普通は思いついてもこんなことはやりゃしねえからな。

壊れていないなら壊せばいいじゃないww

と、どこぞのマリーでアントワネットな方みたいなことをやってのけたわけだ。

一度リィンフォースを傷つけちまえばそこから『治す』能力の発動条件が整う。

仗助さんも朋子さんの体内に入った『アクア・ネックレス』を体ブチ抜いて引きずり出してたしな。

 

「とりあえず、だ。こうしてリィンフォースが死ななきゃいけねえ元凶は取り除いたわけなんだけどよ……」

 

俺は未だ思考の渦の中のクロノに視線を向ける。

 

「なあ、クロノ。コイツはどうすりゃいい?オマエん所(管理局)に引き渡して法の裁きと洒落込むか?」

 

未だに『クレイジーダイヤモンド』の手から逃れようと蠢いている蛸野郎を指差しながらクロノに聞いてみる。

だが、俺の問いにクロノは苦い顔をする。

 

「……それは難しいだろうな…ソレを個人として認められるかどうか……大体、ソレには自我意識があるのか?」

 

「あ~、さあな…とりあえず俺は引きずり出しただけだしな………ん?」

 

その問いが聞こえたのかは知らねえが蛸野郎が蠢くのを突然やめた。

何事かと思い見ていると『クレイジーダイヤモンド』の手からはみ出している頭の部分に口が一つ出来上がった。

 

おいおいッ!!?まさか喋れんのかよッ!!?

 

『『『『『『『なっ!!!!!??』』』』』』』

 

俺達が驚きで固まっているのを他所にその口はもの凄い勢いで捲くし立て始めた。

 

『グギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!

 殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スウウウウウウッ!!

 犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯ス犯スッ!!

 マダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダマダ足リナイ足リナイ足リナイ足リナイ足リナイ足リナイ足リナイ足リナイィィィィィィィッ!!

 体ヲ体ヲ体ヲ体ヲ体ヲ体ヲヨコセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!管制人格ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!』

 

蛸野郎は狂った雄たけびを上げながら体中にある無数の目全てをリィンフォースに向けて再び蠢き出す。

 

……腹ん中全部戻しそぉなぐれえ気分悪ぃぜ。

これがブチャラティさんの言う所の『吐き気を催すほどの邪悪』ってやつかよ……体で理解しちまった。

なのはとフェイトは耳を塞いで聞きたくないと体で示していた。

それを見たプレシアさんがデバイスを構えて二人と蛸野郎の間に立って庇う。

プレシアさんの蛸野郎を見る目は底冷えするぐれえ冷たい目だ。

アルフとユーノは二人に寄り添うが二人の目も蛸野郎に対して怒りを向けていた。

 

「ッ!?」

 

「リィンフォースッ!!?」

 

蛸野郎のクソ気味悪ぃ目を一身に浴びたリィンフォースは自分の両腕で自分自身を抱きしめて震えている。

恐怖に震えているリィンフォースの前にはやてとシグナム達が駆け寄って蛸野郎を睨み付ける。

 

『ソイツヲヨコセエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!』

 

「…ッ…渡さへん…リィンフォースは渡さへんでッ!!リィンフォースはうちの…うち等の『家族』なんやッ!!」

 

はやては蛸野郎の目と叫びに怯むも敢然と言い返した。

シグナム達もはやてとリィンフォースを守るように前に立つ。

 

「主はやて…」

 

はやての言葉にリィンフォースは呆然と言った感じで呟く。

場が騒然として空気が変わっていく中で……俺とクロノは物凄い落ち着いていた。

いや……怒り過ぎて頭が一巡して逆に冷えてんだよな。

沸騰して鍋が吹っ飛ぶ手前って感じだ。

蛸野郎はそれに気づかず未だにギャーギャー喚きたてている。

……ったくよぉ。

 

『体ヲ体ヲ体ヲ体ヲ体ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ…グギィッ!!?』

 

「グチャグチャ喚くんじゃねえよ、ビチグソ野郎が」

 

戯言は聞くだけでムカついて仕方ねえんだよ。

 

「あぁ、まったく反吐が出るな。…しかしここまで欲望しか吐かないのでは常識等はないだろう…管理局の法では裁けないな…」

 

「別に構わねえさ……法で裁けねえんなら………コイツは『俺』が裁く」

 

俺はクロノと会話しながら『クレイジーダイヤモンド』を動かす。

『クレイジーダイヤモンド』は右手に力をこめて蛸野郎を握り締めて黙らせる。

そこで蛸野郎の目は全部『クレイジーダイヤモンド』に向けられるが……

 

『………』

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

『ギ、ギ、ギギ、ギィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイッ!!』

 

蛸野郎は『クレイジーダイヤモンド』と目が合うと、叫びながらいっそう身を捩って逃げようとする。

そりゃそうか、なんたって今の『クレイジーダイヤモンド』には……目の瞳の部分がねえからな。

今まで『クレイジーダイヤモンド』は俺の感情を表すように瞳の部分がきつくなったり優しくなったりしてた。

もちろん、今の俺の感情は怒り一色だ。

じゃあなんで『クレイジーダイヤモンド』の瞳が無くなったのか?

答えはシンプル。

あまりに強すぎる怒りのせいで目全体が怒り一色に染まっちまったんだ。

今の『クレイジーダイヤモンド』の目はアメコミとかでよくある全体的に白目の状態だ。

その状態で目全体が吊り上って、歯ぁむき出してんだから傍から見りゃかなり恐えだろうな。

 

まぁ、そんだけ俺がプッツンしてるってことなんだけどよ。

 

「まだ足りねえだぁ?あんまフザけたことぬかすんじゃねえぞ…テメエは今まで散々好き放題暴れてきたんだろぉがぁッ!!?

 しかも自分でやるわけじゃなく、リィンフォースの……女の体に寄生してよぉッ!?あぁんッ!!?

 ずっと暴れたくねえって、主を殺したくないって泣いてたリィンフォースの想いを踏み躙り続けてよぉッ!!」

 

あぁ、俺はマジにそれが許せねえッ!!

何年も何百年もずっと一人の女を苦しめてきた自分勝手なクソッタレ野郎に腸が煮え繰り返ってきやがる。

 

「タチ……バナ………」

 

俺の言葉にリィンフォースは涙を流しながら俺を見ている。

…まったく…俺はそんな顔が見てえんじゃねえんだよ…待ってな…すぐにその泣き顔を笑顔に変えてやらぁ。

 

「まだガキの俺でもわかるぐれえに吐き気のする「悪」だよテメエは…「悪」ってのは、てめー自身のためだけに弱者をふみつける奴のことだッ!!

 女に取りついて辱めるしか能のねえテメエみてえなクソッタレが代表的な奴さッ!!

 だからよぉ…俺にはテメエに対する慈悲の心はまったくねえ…テメエを可哀想だとはこれっぽっちも思わねえ…」

 

そして、周辺の景色が灰色に染まっていく。

近くに目を向けるとクロノがデュランダルを起動して魔法を発動していた。

 

「結界…作動……ゼン…後は任せたぞ…」

 

クロノはそう言って俺を真剣な目で見てくる。

どうやら気を利かせてくれたみてえだな……ありがとよ。

 

『ギィィィィィィィィィイイッ!!ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロッ!!』

 

喚き散らす蛸野郎には耳を貸さず、『クレイジーダイヤモンド』は右手を掲げる。

土壇場になってやめろだぁ?世間はそんなに甘くねえんだよ。

 

「リィンフォースも…そう言ってた筈だぜ…止めてくれってな…

 だが、テメエはそんなことはお構いなしに欲望のままにリィンフォースを辱めていたんだろぉが…」

 

呼吸を整えると俺の体に青緑(ターコイズブルー)の波紋が揺らめく。

『クレイジーダイヤモンド』は左腕にあらん限りの力を込めて拳を握り絞めている。

さぁ、終わらせてやんよ。クソ野郎。

 

「これからテメエは泣き喚きながら地獄に堕ちるわけだが、地獄の閻魔様にゃ任せられねえことがあるッ!!!」

 

『ギ、ギ、ギギ、ギィッ!!!?』

 

俺は波紋を左腕に集めて蛸野郎を掴んでる『クレイジーダイヤモンド』の右手に向かって拳を振るう。

喰らいやがれッ!!ボケがぁッ!!

 

「コオォォォォォッ…青緑波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライヴ)ゥゥゥゥゥッ!!」

 

ズドゴォッ!!

 

『ギャオォォオオッ!!!?』

 

俺の拳と『クレイジーダイヤモンド』の手のひらでプレスされた蛸野郎は悲鳴を上げて蠢く。

蛸野郎の体には俺の放った青緑波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライヴ)が奔って、全身が焼かれていく。

俺のパンチの勢いで『クレイジーダイヤモンド』の手のひらから蛸野郎は離れるが……

次はプッツンゲージが半端ない『クレイジーダイヤモンド』からの拳の雨が容赦無く撃ち込まれることになる。

 

「ブッ飛ばせッ!!『クレイジーダイヤモンド』ォォォォォォオオッ!!!」

 

『ドララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララドラアァァァッ!!

 ドララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ

 ララララララララララララララララララララララララララララララララララララァァァァァァァァァァッ!!!!!』

 

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴシャァァァァァッ!!!!!

 

今までにない『クレイジーダイヤモンド』の怒りの連打(ラッシュ)はバスケットボールぐらいのサイズの蛸野郎に寸分違わず撃ち込まれ、潰されていく。

テメエの存在は破片も残さねえッ!!粉々にして償わせてやんぜえええええええええッ!!

 

『ギィィィジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

『クレイジーダイヤモンド』の連打(ラッシュ)が止む頃にはバスケットボールぐらいのサイズがあった蛸野郎は拳ぐらいの大きさになってた。

そして、『クレイジーダイヤモンド』はとどめの溜めに入り、右腕を腰の辺りまで捻って構える。

 

「テメエを裁くのは管理局の法でも地獄の閻魔様でもねえ……」

 

拳の射程距離に落ちてきた蛸野郎に『クレイジーダイヤモンド』は全力全壊でアッパーを見舞う。

その拳は全ての害悪を消し飛ばすという速度で蛸野郎に迫っていく。

 

「俺の『スタンド』だぁッ!!!」

 

『ドオオォォラアァァァアァァァアアッ!!!』

 

ズドゴォォォォォォンッ!!!!!!!!!!

 

音速の速さで振りぬかれた拳の先には……何も無かった…悲鳴も残さず、文字通り消し飛んだってわけだ。

蛸野郎の喚きが消えたので周囲に静けさが戻る。

 

「…クロノ?やったか?…」

 

俺は『クレイジーダイヤモンド』を出したままクロノに奴の反応が無いか聞く。

クロノはデュランダルを起動して目を閉じていた。

 

「ちょっと待ってろ……うん、周囲に反応は無い……奴は完全に消滅した」

 

「……そぉか」

 

クロノの言葉を聞いて俺は『クレイジーダイヤモンド』を戻す。

そして皆のほうに振り返る。リィンフォースはなんか呆然とした感じで俺を見ていた。

 

「聞いての通りだぜ?再生機能とやらは完全にブッ飛ばしてやった…月まで逝ったんじゃねえか?」

 

俺はカラカラと笑いながらリィンフォースに語りかける。

すると、リィンフォースはペタン、とでも擬音がつきそうな感じで地面に座りこんじまった。

 

「お、おいッ!?」

 

心配になって俺はリィンフォースに駆け寄る。

ここで余談なんだが、俺は小学生にしては身長が高い部類に入る。

なのはやフェイトより頭一つ分デカイので座り込んだリィンフォースを見下ろすぐらいの位置になる。

んで、座り込んだリィンフォースなんだけど……なんつうかこう…女の子座りで俺を上目遣いに見上げてくるから結構ドキッとしちまった。

そんな風にリィンフォースの女の子らしい仕草にドギマギしてるとリィンフォースが口を開けた。

 

「…終わった……のか?」

 

俺に質問してくるその声は未だに信じられないって感じだ。

まぁ、リィンフォースからしてみりゃ完全に諦めてたもんな。

 

「おうよ、あの蛸野郎はブッ飛ばしてやったぜ?……もうあんたが消える必要はどこにもねえよ」

 

俺はリィンフォースを安心させようと頭に手を置いて撫でながらなるべく優しく答える。

まぁ、子供扱いすんなッ!!って言われるかもしれねえがな。

 

「……私は……生きていいのか?」

 

だが、リィンフォースは気にしていないのか、俺に撫でられるままに次の質問をしてくる。

俺を見上げるリィンフォースの瞳は不安げに揺れていた。

まぁったくよぉ…何言ってるんだか…

 

「生きていいのか?じゃなくてよ、生きなきゃいけねえんだぜ?アンタはよ……」

 

俺は笑顔を浮かべたまま、リィンフォースから手を離す。

そのまま横に避けてリィンフォースの視界を開ける。

 

「なんせアンタには…」

 

目の前に開けたリィンフォースの視界には車椅子に乗ったまま泣いてるはやてとシグナム達がいた。

 

「帰りを待ってる『家族』がいるんだからよ?」

 

「あっ……」

 

俺はそのままリィンフォースから離れて様子を見守る。

こっから先は家族の問題ってな。

 

「リィンフォース……」

 

はやてとシグナム達はリィンフォースに近寄って向き合う。

リィンフォースもなんとか立ち上がってはやてと視線を交わす。

 

「もう…大丈夫なんやね?」

 

そしてはやてが泣きながらも口火を切った。

今一番に確認したいことをリィンフォースに質問する。

 

「はい……私の中にあった再生機能は完全に無くなりました…もう主はやてを蝕む原因はありません…」

 

そしてリィンフォースもそれに答える。

大切な主を傷つけることはない…そのことを噛み締めるように、胸元に手を置きながら…

 

「そっか…せやったら……リィンフォースが消える必要も無いんやね?…」

 

「……はい、主はやて…私は今…アナタの『騎士』として存在しています……」

 

最初は困惑していたリィンフォースだったが、はやての言葉にリィンフォースは力強く頷く。

それを聞いたはやては涙を流しながら……とても、とても綺麗な笑顔を浮かべた。

 

「…そっ…か……うん…『お帰り』…リィン、フォース…」

 

そして、しゃくりあげながらも、ちゃんと言葉にした。

『家族』が帰ってきたときに言ってあげるその言葉を。

 

「ッ!?……只今、かえ、りまし…た…ッ…ある、じぃ……」

 

大切な主から……『家族』から今までは聞けなかった言葉を聞いたリィンフォースは涙で顔を濡らしながらはやてに言葉を返す。

自分の帰還を……そして、どちらからともなく二人は互いを抱きしめあう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」

 

「主ッ……主ぃッ………ッ……」

 

はやては声を大にしながら泣き、リィンフォースは声を押し殺しながら泣いている。

シグナムとザフィーラはそんな二人を優しく見守り、シャマルさんとヴィータは一緒になって泣いていた。

うんうん、やっぱり家族はこうじゃねえとな。

俺も頑張った甲斐があるってもんよ。

 

そんで、他の人はっつうと…

 

「ぐすっ…はやてちゃん…」

 

「よかったね……はやて…ずずっ」

 

「うぅぅぅ……良かったねぇ…皆一緒になれて…ホントに良かったぁ…」

 

フェイトとアルフになのはは号泣しとるがな。

ばっちりお涙が流れております。

この三人は涙腺が弱いっつうか、こぉゆうの弱そうだもんなぁ……

残りの三人はっと……

 

「良かったね、はやて達」

 

「あぁ…これから先、大変かもしれんがあの子達なら大丈夫だろう…」

 

クロノとユーノは微笑みながらシグナム達を見ていた。

まぁ、あの二人は精神年齢高いからな。

なのは達ほど涙弱くはねえか。

プレシアさんも優しく微笑みながらシグナム達を見守ってる。

まぁ、あの人もアリシアって娘を一度失ってるからな。

家族が消える苦しみも悲しみも一番良く理解してるんだろ。

 

「禅君ッ!!」

 

「タ、タチバナ…///」

 

と、そんな感じで皆の様子を見ているとはやてとリィンフォースが俺に声を掛けてきた。

それにあわせてなのは達の視線も俺達に向いて、コッチに歩いてくる。

 

「んぁ?なんだ、はやて?それにリィンフォースも…もういいんかよ?」

 

全員が集まった辺りで俺は二人に視線を合わせて問い返す。

二人の目は泣いた後なので真っ赤になってた。

 

「うん…禅君にお礼が言いたくてな……ホンマにありがとう…うちの家族を助けてくれて…うちの無茶苦茶なお願い叶えてくれて…ありがとうな」

 

「私もお前に…いや、アナタに感謝を…私をあの地獄から救ってくれただけでなく、主はやての下に還してくれた…本当に何と感謝すればいいか…///」

 

はやてはそう言って頭を下げてくるが……リィンフォースは何やら熱を持った視線で俺を見てくる。

なんつうか、こう……『恋する乙女』みてえな……あっれえ?

はやてはまだ解るんだが…リィンフォースさん?何故にそんなあっつい視線を僕に送ってきます?

しかもお前からアナタにランクUPしとるし……まさかフラグ立てた?

い、いやッ!!

それはねえだろ、ゲームじゃねえんだし……と思うんだが……あっるえ?

 

「禅君?…どないしたん?」

 

と、俺がリィンフォースの熱い視線について頭をブン回しているとはやての怪訝そぉな声が聞こえた。

やばいやばい、軽く思考が跳んでたぜ。

 

「あ~、いや、何でもねえよ…まぁ、お二人さんが感謝してくれんのは嬉しいけどよ…別に礼とかは要らねえよ」

 

「「え?」」

 

ポカンと口を開けて二人は呆けた顔を見せてくる。

それを見ながら俺は口を片方吊り上げてニヤリとした笑みを見せる。

今日大一番のサプライズってな。

 

「なぁ、はやて…今日は何日だ?」

 

「え?……に、二十五日やけど?それがどうしたん?」

 

俺の突飛な質問にはやてはキョトンとするもすぐに答えを口にする。

ありゃ?まだ気づかねえか。

 

「あ~質問を変えるわ…今日は何月何日?」

 

「……十二月二十五日やけど?……えっ?」

 

二度目の質問にはやては訝しげな視線を送ってきたが『答え』を口にするとまたポカンとした顔になる。

はやて、俺は病室で言ったよな?『ちゃんとするって』

俺は左右に両手を広げながらはやてに笑いかける。

 

「へっへっへッ!!メリークリスマスッ!!はやて、リィンフォース、これが俺からのクリスマスプレゼントだッ!!」

 

ま、ちょっと遅くなったけどよ。

このハッピーエンドが俺からのサプライズプレゼントってやつだ。

 

「ッ!?……一生忘れられへんプレゼント貰ってもうたな…」

 

はやては俺の言葉を聞いてまた泣きそうになるけど、涙を堪えながら笑っていた。

 

はやてに送ったプレゼントは大事な家族の命ってな。

 

その笑顔をしっかり見てから俺はリィンフォースに向き直る。

もうリィンフォースは止め処なく涙を流して泣いていた。

 

「そんで、リィンフォース…アンタとはやてへのクリスマスプレゼント……気に入ってくれたかい?」

 

「…ッ…は、い…大事、に…します……一生ッ…」

 

リィンフォースへのプレゼントはこれからの新しい人生だ。

俺はリィンフォースの頭を優しく撫でる。

今まで辛い思いをしてきた分、これからは幸せであるように祈りながら……

 

そのまま数十分程そうしてリィンフォースの頭を撫でていたんだが……

 

「/////」

 

 

リィンフォースが落ち着いてからも俺は頭から手が離せなかった。

いやね?離そうとしたら捨てられた子犬みたいなつぶらな瞳で見てくるんですよ?

リィンフォースみてえな美人にそんなことされたら逆らえねえって。

 

「ふむふむ…リィンフォースは禅君に…なるほどなぁ」ニヤニヤ

 

「でも、はやてちゃん。多分フェイトちゃんとアルフちゃんも…」ワクワク

 

「う~ん、そこはやっぱ身内としてリィンフォースを応援せんとなぁ」

 

「じ、じゃあッ!?」ワクワク

 

「フェイトちゃん達には悪いけど、うちらが頑張ってリィンフォースを応援するんやッ!!」グッと拳を握り締める。

 

「了解ですッ!!はやてちゃんッ!!♪」

 

はやてやシャマルさんはニヤニヤしながら見てくるだけで止めちゃくれねえし、なんか小声で話してら。

……でも、なにより一番キツイのは……

 

「…………」

 

『s、sir…』

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

「ガルルルルルルルルルル……」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

もうね、魔王城すら霞みそうなぐらい真っ黒に染まったフェイト様とアルフ様が怖いのなんのって…

オーラが黒いんじゃなくって本人が真っ黒に染まってるからね。

バルディッシュも人間だったら逃げてそうな声出してるし。

つうか、アルフ様?人間形態で牙剥き出しで威嚇しないでくれません?

めちゃ恐いっす。

このままじゃ俺の未来はBADENDまっしぐらだな、おい。

おーい、そこの隅で震えてるクロノ君とユーノ君?助けてくれませんか?

さっきまでのカッコいい二人はどこに消えちまったんだよ?

つうか、なにげにザフィーラまで俺から距離取ってんじゃないよッ!!

あんた盾の守護獣でしょうに。

今の俺の心境は針の筵ならぬ槍の筵。

誰かッ…誰か助けてくださいッ!!

と、俺が心から助けを求めると………

 

「さて、それじゃあ皆さん?リィンフォースさんのことも報告しなきゃいけないし一旦アースラに戻りましょうか」

 

プレシアさんが全員に声を掛けてくれたのでそちらに注意が向いた瞬間、リィンフォースから手を離して俺は距離を取る。

 

「あっ…」って声が聞こえたけど気のせいだと思いたいッ!!

 

「じ、じゃあ俺は帰りますわッ!!親父達も心配してるだろうから急いで帰らないとアハハそれじゃあッ!!」

 

言葉を挟まれる前に俺は一気に捲くし立てて回れ右をする。

一刻も早くフェイト達から離れねえとッ!!まだ死にたくないっすッ!!

そのまま全速力で走ろうとするが……

 

「あら?禅君は帰っちゃだめよ?フェイト♪」

 

「うん」ニッコニコ

 

プレシアさんの声に反応したフェイト様のバインドに捕まりますた。

つうか、なんで俺帰っちゃだめなのッ!?

 

「リィンフォースさんが助かったのは禅君の『クレイジーダイヤモンド』の力なんだし、ちゃんとリンディに報告しなきゃね?」

 

まじでぃすかッ!!?

で、でも親父達が心配してるというか、お袋がブチ切れてるんじゃないかと…

 

「それに、お家の方には朝に私から連絡しておいたから大丈夫よ♪」

 

おーまいごっと、逃げ道が完璧に潰されてやがる。

俺はそのまま売られる子羊よろしくバインドされたままドナドナされてアースラに引き返すことになった。

ちなみに真っ黒な笑顔を浮かべるフェイト様とアルフ様から「お願い聞いてもらうの楽しみにしてるから♪」と言われたぜ。

俺はアースラに帰る最中、一体何を要求されるのか、恐怖で震えっぱなしですた。

 

ちくせう。

 


 
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