「光太郎さん」
「ん?」
六課男子寮。はやて達の話を聞き終え、エリオは光太郎と部屋に戻って眠りにつこうとした。しかし、どうしても気になる事があったのだ。それはRXの事。レアスキルと言われたが、何故かエリオにはそんなものではないような気がしていたのだ。
明確な理由も根拠もない。だからこそ聞きたいと思った。光太郎の口からその事を。どうして、そんな力を手に入れたのか。それだけがどうしても知りたかったのだ。キャロも竜召喚というレアスキルを持っている。だが、それはキャロが望んで得たものではない。それを本人から聞いていたエリオとしては、光太郎達の変身も何か理由があったのだろうと考えたから。
「どうして、変身出来るようになったんですか?」
「……それが、俺の運命だから……かな」
「運命?」
「ああ。ライダーとして、多くの命を助け守る。そのために、俺はきっと……生まれたんだと思う」
光太郎の言葉にエリオは黙った。光太郎の声からどこか悲壮な印象を受けたのもある。だが、それ以上に感じ取ったのだ。自分の生まれた意味を見出し、それを強く信じる光太郎の強さを。
それは彼が憧れ追い求める男の姿。力に自惚れる事無く、ただ真っ直ぐにその全てを誰かのために使おうとする心。優しく、頼もしく、そして強い在り方がそこにはあった。
「……分かりました。答えてくれてありがとうございます」
「ははっ、答えになってなかった気もするけどエリオ君の疑問が晴れたのならいっか。じゃ、寝よう。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
共に笑みを見せ合って二人はベッドに横になった。目を閉じ、エリオは思う。いつか自分も光太郎のように己の生まれた意味を見つけたいと。そして、エリオ・モンディアルだけの生き方を歩いて行くのだと、そう強く決意する。
エリオは知らない。光太郎が告げた言葉。それは、彼にもう一度生きる力を与えてくれた言葉に対する答えだったとは。
同じ頃、五代と翔一はある事を確認し合っていた。光太郎との初対面で聞いたある名称に関する事。
「え? ゴルゴムとクライシスを知ってる?」
「はい。だって、一時期大変だったじゃないですか。俺は小さかったですけど、それでも名前ぐらいは」
今日の思い出話を聞いた五代は光太郎から聞いた組織の事を思い出し、翔一へ尋ねてみたのだ。そして、返ってきた答えは五代の予想外のもの。翔一は光太郎の語った組織を知っていたのだ。
それを聞いて五代は一つの結論を導き出した。それは、自分と翔一や光太郎のいた世界は違うという事。それに伴い翔一が知っているクウガは自分ではない事が分かった。
五代はゴルゴムもクライシスも知らない。にも関らず、翔一はそれを知っている。つまり、五代のいた地球と翔一のいた地球は別世界なのだ。翔一の世界で未確認と戦ったクウガは、五代ではない誰かがなったクウガだ。
そこまで考えた五代は何故未確認が出た時光太郎達が日本へ現れなかったのか理解した。いなかったのだ。五代がいた世界に仮面ライダーは。クウガが最初の仮面ライダーで、最後の仮面ライダーだったのだから。
(……じゃ、クウガのアマダムがキングストーンっていうのも……)
並行世界。そんな言葉が五代の頭の中をよぎる。きっと五代と翔一達の世界は出発地点は同じ。ただ、細かな部分が違うのだ。一つは、ゴルゴムなどの怪人組織の有無。次は仮面ライダーの有無。
そのどちらも無いのが五代の地球。どちらもあるのが翔一達の世界。故にアマダムをキングストーンとして精製し使ったのがBLACK。原石のまま使ったのがクウガ。そう結論付けたのだ。
「翔一君、そっちのクウガって最後どうなったの?」
「えっと……確か未確認がいきなり大量に現れて……それを操ってた親玉みたいなのを倒したって聞きました」
「大量に現れた?」
「はい。そういえば、その時クウガと一緒に未確認と戦った奴もいたとか」
翔一の語る話に五代は困惑した。自分が戦ったダグバはそんな事をしなかったからだ。もしかするとダグバにはそういう力もあったのだろうかと考え、それをすぐに五代は否定した。
未確認の目的は殺人をゲームとして行なう事。それを一人でするのが未確認のルール。だとすれば、大量の未確認を操って戦わせるのは、ルールに反すると考えたのだ。
そして、そうなると残る可能性は一つしかない。だからこそ、最後の確認をしたかった。故に五代は翔一へ問いかける。
「……翔一君」
「はい?」
「その親玉みたいな奴って、四本角?」
「……いえ、違いますね。そんな特徴は聞いた事ないです」
その答えで五代は確信した。翔一の世界の未確認と自分の世界の未確認は違う存在だと。そして同時に思うのだ。自分が苦しみ、悩み、嫌気を感じながら続けた戦い。それを同じようにやる事になった者がいた事を。
そのもう一人のクウガに五代は思いを馳せる。きっと、そのクウガもみんなの笑顔のために戦っていたのだろうと。そこまで考え、五代はそのクウガに心からのサムズアップを送りたいと思った。
しかし、その時翔一が何かを思いだしたように呟いた。どうしてアンノウンとの戦いの時にはクウガが現れてくれなかったのだろうと。それに五代は考える。翔一も五代の話から薄々自分の世界と彼の世界が違う事を把握したが故の疑問だったのだ。
すると、五代が搾り出すように答えた。アギトがいたからだろうと。それに翔一は不思議そうな表情を返すが、五代はそれにどこか遠い目をして続けた。
「きっと、そのクウガは最初こそアンノウンと戦おうとしたはずだよ。でも、きっとアギトの姿を見たんだ。だからこう思ったんじゃないかな。日本はアギトがいれば大丈夫って。それなら自分は他の場所で現れるかもしれない奴らに備えよう。そう考えて日本からいなくなったかもしれない」
「……海外、ですか?」
「うん。それとも、他の先輩ライダー達に会ったのかもしれない。だから日本をアギトに託して自分はアギトのいない場所を守るんだ……って感じかな」
「それ、五代さんならそうするって事ですか?」
「…………うん。俺は、俺しかいないなら。そう思ってクウガやってた。でも……」
「でも?」
「光太郎さんに会って、先輩ライダー達の話を聞いて分かったんだ。俺しかいないならじゃない。俺が俺だから戦うんだって。クウガじゃないとしても、俺はきっと、未確認をどうにか出来るならどうにかしたいって思ったはずなんだ。だって……」
そこで五代は一旦言葉を切った。そして、深呼吸をした。翔一はそれを見てやや不思議そうな表情をする。五代が何を言うのか分からなかっただけではない。どうしてそれを告げるのに、仕切り直したのかが分からなかったのだ。
翔一は知らない。五代が言おうとしているのはただの答えではない事を。それは、これからの自分の決意。今までも変わる事の無かった覚悟。彼が戦士となると自覚するに至った明確な意思表明だった。
―――こんな奴らのために、誰かの涙は見たくないって、そう思うだろうから……
その言葉に込められた想い。それは、五代の全て。みんなの笑顔のために。それを目指して戦い、自分の笑顔をすり減らしながらも勝利を掴み取った男の心がそこにはある。翔一もそれを感じ取り、黙り込んだ。
自分はアンノウンと戦う時、五代程の決意があっただろうか。ここまで誰かのためにと思ってアギトになったのか。そんな事を考える翔一。だが、その思った事を五代に伝えると、それに彼は笑顔でこう告げた。
「大丈夫! 翔一君だって、アギトとして戦ったのは誰かのためだったはずだよ」
「えっ?」
「真魚ちゃん、だよね。それに太一君に先生。ほら、三人もいる」
五代は言った。自分だって、いきなりみんなを守ろうなんて思わなかったのだ。最初は、父を失い涙する少女を見て、それを二度と繰り返させたくなくてクウガとして戦う決意をしたのだから。
始まりは一人の笑顔でもいい。大切なのは、それを守りたいと決意した初心を失わずにいれるかどうか。聖なる泉を枯らす事無く、戦える事。それが五代の中での絶対条件なのだ。
こうして、五代と翔一は互いの戦いの記憶や思い出を語り合い、夜明けまで寝ずに過ごしてしまう。翌朝、仕込みに現れない事を不思議に思ったリインが起こしに行くまで、二人は死んだように眠る事となる。
一方、女子寮のスバルとティアナの部屋では、先程の話の興奮が冷めやらぬのか二人が会話に花を咲かせていた。
「まさか翔一さんが仮面ライダーだったなんてなぁ」
「驚きだよね。私達が目標にしてた人達が、二人してライダーだったんだもん」
二段ベッドに横になりながらそう話す二人。彼女達が災害担当の陸戦魔導師として現場で働き出した頃、流れ出した噂。仮面ライダーを名乗る異形が災害や事件現場へ現れ、局員や市民を助けているという話を思い出していたのだ。
それがまさか、こんな身近にいた者達のやっていた事だとは夢にも思わなかったと二人は考え笑みを浮かべる。特にティアナは、あの翔一がそんな事をしていたとは思わなかったため一番驚いていたのだ。
スバルは五代がクウガなのでむしろ納得していた。自分の時と同じように人を助けるクウガを想像し、一人嬉しく思っていたぐらいなのだから。と、そこでティアナはふと気付いた。それは翔一に命を助けられた兄の事。
「……お兄ちゃんは知ってたのかしら?」
「あ~……どうだろ? でも、可能性は高いんじゃない? だって、ティアのお兄さんは自分を助けてくれた翔一さんを恩人だって言って家に連れてきたんでしょ?」
「となると、お兄ちゃんは知ってたな」
スバルの言葉でティアナは真実を導き出した。あの兄が知らない訳がない。そう、いくら命の恩人だからといって家に連れて来て面倒を見るなんて考えてみれば妙なのだ。きっと翔一がライダーと知っていたからそれを隠す意味もあっての居候だったのだろうと。
今度会ったら色々と言う事が出来たと思い、ティアナは邪悪な笑みを見せる。それをスバルは見る事が出来ないものの、何故か悪寒を感じて掛け布団に隠れるように体を入れた。すると、疲れていたためかスバルはそのまま静かな寝息を立て始める。
それに感化されるようにティアナも目を閉じて眠りについた。闇の書事件に関する色々な事を聞いたが、二人にとっては五代と翔一の話が占める度合いが大きくそこまで不安要素はなかった。そう、邪眼の話を聞いても。
だが、そうではない者も当然いる。それはダブルサイズのベットに横になっているキャロだった。その隣にはフェイトがいる。普段であればキャロも体を寄り添わす事はあっても密着する事はない。しかし今日は違った。キャロはフェイトにしがみつくようにしているのだ。
原因は、はやてが語った邪眼の話。その恐ろしさとおぞましさにキャロは恐怖を覚えたのだ。いくら五代達が一度勝ったと聞いても、その時の戦力を考えれば不安になるのも仕方ないとフェイトも思っていた。
高ランクのなのは達三人。そこに制限無しの守護騎士達。更にユーノとクロノ。アルフとリーゼ姉妹を加えた中にクウガとアギトでやっとだったのだ。今はそこからユーノ達五人が抜けて、代わりにいるのはスバル達フォワードメンバー四人と光太郎だ。
しかしなのは達はリミッターがあり、下手をすればあの頃よりも戦力減といえる。有事の際はそれを解除出来るが、それでも中々厳しい戦いになるだろうとフェイトも思っていたのだ。
(キャロ達は、まだ発展途上だから……ね)
既に戦力として完成していたクロノ達。それと比べ、スバル達はまだ実戦経験が圧倒的に足りない。今の状態で邪眼に出会えば怯え竦んでもおかしくないのだ。実際、アルフ達でも邪眼を相手取った時、精神疲労が大きかったのだから。
今のままではスバル達は戦うどころか動く事も辛いだろうと考え、フェイトはキャロの頭を優しく撫でる。いざとなったらキャロ達を戦わせる事無く、邪眼を倒してみせると思いながら。そんな彼女へキャロの不安に揺れる声が掛けられた。
「フェイトさんは……怖くないんですか?」
それにフェイトは柔らかい笑みを見せて頷いた。きっと最初は驚くだろうなとどこか思いながら。
「怖いよ」
「え? じゃあ」
「でも、でもねキャロ。私は、戦わないでキャロ達が危険になる方がもっと怖いんだ。だから、戦うんだよ」
キャロの言葉を遮るようにフェイトはそう言い聞かせる。あの頃の自分にはない強さ。それがキャロ達の存在。今なら分かるのだ。何故五代達があれ程まで強かったのか。
守りたいモノがある。失いたくない者がいる。それだけで、人は強くなれるのだとフェイトは知ったから。そして、もう一つあの頃のフェイトにはない強さの要因がある。
(今は、光太郎さんが……RXがいる)
自身が共にこの数年間顔を合わせて来た頼れる相手。どんな状況からでも必ず生還する存在。エリオとキャロの兄のような存在で、自分にとっては背中を支えてくれる大きな存在となった仮面ライダーがいる。それがフェイトの新しい希望の光。
「フェイトさん、私、どうしたら……」
「大丈夫」
サムズアップ。それだけでキャロの顔から不安が薄れる。それにフェイトも笑みを浮かべながら、優しく諭すように語り掛けた。
「焦る事はないよ。ゆっくりでもいい。キャロはキャロらしく歩いて行けばいい。いつか、キャロも自分だけの強さに出会えるから」
「私だけの……強さ」
フェイトは光太郎だったらどう言うだろうと考えながらキャロへ告げた。自分に大きな影響を与えた光太郎。いつも、どんな時でも希望を与えてくれた男。哀しい秘密を語りながらも、それでも強く生きていけると自分へ告げたRX。
その心強さにフェイトは感銘を受けたのだ。人ならざるモノになったとしても、心さえ人ならばそれは人なのだ。そうフェイトは強く思う事が出来るようになったのだから。
そんな事を考えながらフェイトは気付いた。キャロがいつの間にか眠っている事に。その寝顔が安らかなものである事を確認し、フェイトは微笑んだ。フェイトの言った言葉を考えている間に、眠気が来て寝たのだろう。
恐怖も不安もそれで忘れる事が出来たのだ。そう判断し、フェイトも目を閉じた。キャロには言っていない言葉。それは、光太郎がいるから怖くないというもの。フェイトにとってはクウガやアギトよりも身近になった仮面ライダー。
(……大丈夫。絶対RXが、ライダーがいてくれれば……)
赤と金、そして黒のヒーロー。その姿が並び立つのを想像し、フェイトも眠りについた。その表情は、キャロに負けない程安らかな寝顔だった。こうしてほとんどの者が休憩室での話で反応を見せる中、唯一雰囲気の異なる部屋が女子寮にあった。
『そう、休みはしばらくないんだ……』
「ゴメンね、ユーノ君。スバル達の教導を優先しちゃって」
自室でモニターを使ってユーノと会話するなのは。あの日以来、二人はこうして夜には必ずその日の事を話すようになっていた。申し訳なさそうななのはに対し、ユーノは別にそこまで悲しみはない表情を浮かべていた。苦笑しているのでなのはらしいと感じているのだろう。
ユーノと話すなのはは寝間着姿。それにユーノがどこか嬉しく思っていたのもある。今までもなのはと夜会話する事はあった。だが、そういう時のなのはは必ず部屋着か制服だったのだ。
それが今は寝間着姿。つまり、それだけ自分に気を許してくれたという事。そう思い、ユーノはなのはの休暇がしばらくない事にも悲しみは少なかったのだ。
『いや、いいよ。……邪眼の相手をするなら、彼女達を鍛えておいた方がいいからね』
「ユーノ君……」
『何も戦力としてじゃない。遭遇した時、彼女達が無事に生き残れるようにだよ。だからなのは』
「うん。ちゃんと心も鍛えるよ。体だけじゃない。……大切なのは、挫けない気持ちだからね」
ユーノの言いたい事を理解し、なのはは笑顔で断言する。自分達が邪眼と対峙した時、挫けそうな気持ちを支えてくれたクウガとアギト。その時、なのはは思ったのだ。いつか、自分も二人のようになりたいと。誰かを励まし、心を支えるような人に。
教導官になったのはそれがキッカケ。自分の感じた全てを言葉に、行動に込めて伝える。それで少しでも誰かの助けになれたらと、そう思って。
そして、今はそのライダー達と共にスバル達を育てる事が出来る。いつか、なのはは五代達にもスバル達の教導に参加してもらいたいと思っているのだ。それをいつにするかは決めていないが、絶対に実現させてみせると。
自分が抱いた不安や恐怖と言った負の気持ち。それをスバル達が感じる事がないように心を鍛えてみせる。そう改めて決意してなのはは表情を若干凛々しくした。それに気付いてユーノがどこか言い出し難そうに咳払い。
『こほん。えっと……でもねなのは』
「ふぇ?」
『出来るだけ……時間を作って欲しいかなって。ほら、デートとか行きたいし、さ』
ユーノの言葉になのはは顔を赤くする。しかし、それに黙っている訳ではない。頷いて笑みを返す。自分もユーノと同じように二人の時間を作りたいと思っている。そう言葉を添えて。
その後、二人は少し他愛のない会話をして就寝の挨拶を交わした。その通信を切る間際、ユーノがさり気無くなのはへ向かってこう告げた。
―――おやすみなのは。愛してるよ。
その言葉になのはも同じようにおやすみと言葉を返そうとして固まった。そして彼女が立ち直った時にはモニターは何も映さず、ユーノの姿は消えていた。やられた。そう思うもなのはに浮かぶのはやや嬉しそうな悔しさだ。
「……もう、あんなの反則だよ」
そう怒るように呟くなのは。だが、少しも表情に怒りはない。そのまま彼女はもう何も移さないモニターに向かって小さく告げる。
―――おやすみユーノ君。私も愛してるから。
その声には、心からの想いが込められていた。六課で唯一愛する異性がいるなのは。それが今の彼女を強くし、また同時に弱くしている事をまだ誰も知らない。
同時刻、女子寮の中で一番大きな部屋にはやて達八神家の声があった。寝る前の最後の雑談とばかりに全員で集まっての会話。それは楽しく賑やかなものだった。
「しかし……改めて考えると、凄いなぁ」
「クウガにアギト、RXだもんな。しかもRXって翔一が言ってたBLACKの進化したものだっけか?」
「ヴィータ、少し言い方が悪いぞ。進化した姿、だ」
はやての言葉にヴィータが指折り数えるが、そのもの扱いにシグナムが苦言を呈する。はやて達の部屋は大人数のため特別仕様。はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、リインと五人もの女性がいて、更にツヴァイとザフィーラまでいる。
だからこそ翔一はザフィーラを自分達と同じ部屋へと誘ったのだ。何せ現状ではザフィーラは完全にペット扱い。共有スペースで狼状態になり、犬のような姿勢で眠っているのだから。
「でもBLACKの頃でも強かったなら、RXはもっと強いだろうから安心ね」
「五代が言うには、クウガの真なる姿の変化した姿ではないかとの事だ」
「凄まじき戦士、だったか。なってはならない姿だと言っていたな」
「じゃあRXは、そのなってはならない姿って事ですかぁ?」
シャマルの言葉に続いてリインが言った内容にザフィーラが補足をする。それを聞き、ツヴァイがどこか疑問に感じた事を告げた。もしそうならばRXはとても恐ろしい存在という事になるために。ある意味でそれは間違っていないのだが、生憎まだそれを機動六課の誰も知らない。
とにかくツヴァイの言葉に全員が少し考え、揃って首を横に振った。ツヴァイの言葉は当たっているようで、どこか違うと感じたのだ。RXはなってはならない姿ではなくあってはならない姿。そんな気がしたために。
クウガのアマダムと同じようなキングストーンを持つBLACK。それがとある要因を受けて変化したのがRXだ。それを知る者は光太郎しかいない。
だが、それを知らぬはやて達でも気付く事がある。それはRXの異常性。フェイトから聞いた話によれば、RXは機械の体と液体のような体になる力を持っているのだ。それはクウガにはない能力。つまりRXは独自の進化を遂げた存在という事。
その結論をはやてが告げると全員が揃って納得し、同時に思ったのだ。もし仮にRXがクウガの真なる姿の変化だとすれば、その真ある姿はどれ程の力を秘めているのだろうと。
五代が、もう二度と使いたくないとまで断言する力。五代曰く”黒の四本角”はクウガであってクウガでない。もし、それでしか邪眼を倒す事が出来ないとでもならない限り、五代は使う事を決意しないだろう。
(……何故なら、究極の闇をもたらす存在らしいからな)
リインは五代から聞いた言葉を思い出す。あの再会の後、五代はふとリインに告げたのだ。クウガが闇の書を封印出来るかもしれないと言った裏には、クウガの秘められた姿の別名も関係しているのだと。
究極の闇と呼ばれる力を秘めているクウガなら、同じ闇の存在を何とか出来るかもしれない。そう密かに考えたと五代はリインに語ったのだ。それを思い出しながらリインは考える。邪眼が闇だとするのなら、クウガの力もまた闇。しかし、何故かクウガの力は邪眼を倒す事が出来た。
「……主、少しいいでしょうか」
「ん?」
「クウガの本質は闇だと五代は言っていました。にも関らず、どうして邪眼を倒せたのでしょう?」
リインの問いかけに全員が驚いた。五代が告げたクウガの本質にも然る事ながら、リインの言った事を事実とすれば確かに納得が出来ないものがあったからだ。邪眼と同じく闇の力を持つクウガ。それが何故同質の存在を倒すに至ったのだろうと。
「……待て。確か奴を倒した際、クウガの文字以外に浮かんでいたものがあったはずだ」
そうシグナムが告げるとツヴァイを除く全員がある事を思い出して表情を変える。確かに邪眼が爆発する時、その体には封印を意味する文字以外に浮かんでいたマークがあったのだ。それは、アギトのマーク。そこまで思い出し、シャマルが理解したように告げた。
それはアギトの秘めた姿を知ればこそ。光を思わせるような姿だと翔一は語ったのだ。それをシャマルが聞いたのはふとした偶然。あの戦いの際にアギトが見せたバーニングフォーム。その話をシャマルがした時、翔一がどこか自慢するように言ったのだ。実は、あれからもう一つの姿になれるのだと。その姿を翔一が光輝くようなものと言った事を思い出し、はやて達へ伝えたのだ。
「……では、クウガの闇の力が邪眼の闇を相殺し……」
「アギトの光がとどめを刺した、か。そう考えるのなら……確かに納得は出来る」
「相反する力を持ったライダー。それが偶然揃ったというのか……?」
リインの言葉をザフィーラが引き継ぎ、シグナムが更なる疑問を告げる。それにはやては頷いて答えた。
「偶然やないやろな。わたしがカリムと出会う前から、二人が現れる事をどこかで暗示する予言が出とったらしいわ」
そう、それはカリムとはやてが出会った頃の事。カリムが自身のレアスキルについて教えてくれたのだが、その際こんな事を聞かれたのだ。
―――はやて、貴女に仮面を付けた知り合いはいる?
それにはやては一瞬何を言っているのだろうと思った。だが、カリムはそのはやての反応に真剣な表情で答えたのだ。実は闇の書事件が起きる前にカリムは予言を導き出していたのだが、それには簡潔に纏めるとこうあった。
―――狂いし魔導書、闇を生む。そを封じる相克する仮面の戦士来たりて、これを退ける。しかし、油断するなかれ。闇、消える事無く潜むなり。
その狂いし魔導書をカリムは夜天の書と考え、はやてに心当たりがないかと尋ねたのだ。そう言われ、はやてが真っ先に思い出したのは翔一と五代の事。故にはやてはいたと答えたのだ。今はいなくなってしまったのだと。
それにカリムは沈んだ顔をしたものの、予言が当たった事にある種の安堵をしていた。そして、それに不思議がるはやてにこう告げたのだ。闇の書事件が終わった瞬間、本来なら発動するはずのない予言が起動した事を。
―――……それにあったのよ。きっと仮面の戦士を意味するだろう記述が。
―――ホンマか?!
それにカリムは頷き、予言を語ったのだ。はやてはその内容を聞いて希望を見つけた顔になった。
―――戦士、太陽を連れて帰還する時、進化の光、戦士に導かれその友と降り立つ。闇を討ち倒すそのために。
そう、これを聞いていたからこそ、はやては五代と再会した際、翔一の事を聞けると思ったのだ。しかし、結果は不発。何故ならば、翔一はクウガの導きで戻るだけであり、共に戻る訳ではなかったからだ。
そんな事を思い出し、はやてはその話を全員へ語った。そしてこう締め括った。カリムのレアスキルは年に一度しか使えないもの。それが勝手に発動し、告げたのがライダーの帰還。とすれば、神というモノが存在し、邪眼を倒すためにクウガとアギトを呼び寄せた可能性がない訳ではないと。
「……全部、わたしの推測やけどな」
そう言うはやてだったが、誰もそれを笑いはしなかった。神と呼ばれる存在がいるとしたら、まさしくライダーは神に遣われし救世主。しかも、五代も翔一も異なる時代から現れている。とすれば、もうこれは運命だったとしかいえない。
本来出会う事がなかった二人の仮面ライダー。更にクウガが連れて来たもう一人の仮面ライダー。それこそがアギトが仮面ライダーを名乗るキッカケとなった相手の一人。ここまで揃えば、もう何者かの意志が働いているとしか思えないのだから。
(でも……だとすると龍騎士ちゅうのは誰やろ? エリオは龍連れとる訳やないし、キャロは騎士やない。まさか……四人目の仮面ライダーがおるんやろか……)
カリムがつい最近出した予言の最後の一説。それを思い出し、はやては考える。戦士はクウガの別名。太陽はRXの異名。進化の光は、おそらくアギト。ならば、最後の龍騎士もライダーなのかもしれない。そう思い、はやてはより希望を大きくする。
仮面ライダーが三人でも心強いのに、そこにまだ見ぬライダーが加わる。それは、まさに鬼に金棒だ。予言が当たるのはもう実証されている。ならば後はその龍騎士を見つけ出すだけだ。そう考え、はやては上機嫌で全員へ告げる。
「ま、今日は遅いしもう寝よか。この話は、また機会を見て全員でしよ」
その言葉にシグナム達も同意し、それぞれが部屋へ入っていく。最後にリインが、その場に残るザフィーラへどこか済まさそうに視線を送り、告げた。
―――すまないな、ザフィーラ。
―――気にするな、アイン。もう……慣れた。
ふっと小さく笑みさえ浮かべて返すザフィーラだったが、その声にはどこか哀愁が感じられた。こうしてこの夜は終わる。それぞれの心に様々な影響を与えて。
この時のはやては忘れていた。その予言には不吉な部分があった事を。そう、それは最後の一文の前。
闇深く、甦る王を包まんとす。戦士、闇に立ち向かいそれを救わん。だが、それこそ闇の始まりなり。
ゼスト達は通報を受けてやって来た場所にいたジェイル達に言葉を失っていた。犯罪者であり、次はないと告げた相手。それがよりにもよって違法研究所の場所を通報してきたのだ。しかもご丁寧に自分達を出迎えてまで。
「……どういうつもりだ」
「まずはこの研究施設の関係者の事をお願いしたくてね。それと、君達に頼みがあるんだ」
ジェイルの言葉にゼスト達は無言で続きを促す。それにジェイルが苦笑し、告げた。
「実は、私のコピーを母体にした怪物が現れてね。それが性質の悪い事に私達の家を乗っ取ってしまったんだよ」
ジェイルはそこから簡潔に邪眼の事を話した。自分のコピー受精卵を使って生まれた不気味な怪物。恐ろしい程強く、魔導師ランクに換算すれば確実Sランクオーバー。それが残り十一体もいる。
それを聞いたクイントとメガーヌは何を馬鹿なと思ったのだが、それでも嘘だと言い切る事はしなかった。以前出会った時の事を思い出していたのだ。ジェイルが渡したデータが本物だった事を。故に二人にとってジェイルは犯罪者としてどこか異質な存在だったのだ。
それにジェイルが話す間、真司達が真剣な面持ちでゼスト達を見つめていた事も影響していた。そしてジェイルが全てを話し終わると、ゼストはしばらく黙って考え込み、こう尋ねた。
「それで、俺達にどうしろと」
「……奴は、私達がとうに捨てたトイを使ってきた。あれはAMF機能が搭載してある。君達管理局には脅威だろう」
「そんなっ?! ベルカ式の使い手だってAMFには手を焼かされるのに!」
「それだけじゃない。大抵のミッド式魔導師はその対処もままならないわ」
ジェイルの告げた内容にクイントとメガーヌが反応を返す。AMF―――アンチマギリングフィールドの略称だ。元々は効果空間内で魔力結合を阻む魔法。そのため、行動のほとんどを魔法に頼るミッド式には天敵ともいえる。ベルカ式にとってもデバイス強化などが出来なくなるため、天敵とまでいかないもののかなりの厄介さを誇る事に変わりはない。
「私が作った物だ。その対策も設備と時間さえ与えてくれるのなら可能にしてみせる」
「……つまり、こちらに手を貸すからそちらにも貸せという事か」
ゼストの言葉にジェイルは頷いた。犯罪者との取引自体は珍しい事ではない。だが、それはあくまでも事件の容疑者や実行犯として捕らえた後での処置。おそらくジェイルが望むのは逮捕された後ではなく、現状のままでの取引だろうとゼストは思った。
それと同時に、何故ジェイル達が自分達を選んだのかも悟ったのだ。以前、データを渡した際に本当に約束を守った事を評価していると。だからこそ今回も理解を示してくれる事を期待されている。ゼストはそう判断した。
このジェイルの話を信じる証拠はない。そして信じてやる理由もない。だが、ゼストは信じたく思っていた。これが何らかの罠だとしても、ジェイル達にメリットは無いのだ。もし、ゼスト達をどうにかする気ならばあの初対面の際に手を出しているのだから。
そして、何よりもゼストがジェイルを信じたい理由。それは、本人達の目。濁りのない澄んだ目をしている事だ。次はないと言った事を承知で接触してきた事を踏まえ、ゼストはその人生で一番大きな決断を下した。
「……詳しい話は隊舎に戻ってから聞かせてもらうぞ」
「隊長……」
「いいんですか?」
「これが嘘でも構わないだろう。あのジェイル・スカリエッティを確保出来るのだ。そして、これが本当だとすればだ。早急に手を打たねば局員だけでなく多くの市民達が危険に晒される」
ゼストはそう二人へ告げ、部下たちへ指示を出した。一班は施設内の関係者を確保し隊舎へ護送し取り調べ。二班は施設内の調査となった。クイントは一班の班長として動き、メガーヌは二班の班長として動く事となった。
ゼストはジェイル達を連れて先に隊舎へと戻る事にし、二人と別れて歩き出す。それに真司がさすがに待ったをかけた。念のため、せめて一人ぐらい部下をつけるべきだと。すると、それを聞いたゼストだけでなくクイントやメガーヌが苦笑した。
「貴方、それ本気で言ってる?」
「隊長、彼は信用しても大丈夫そうですよ」
「そうだな」
「え? え?」
「……真司、それって普通向こうが言い出す言葉だぞ?」
アギトの指摘にジェイル達が一斉に頷き、ゼスト達はどこか楽しそうに笑みを見せる。真司はそれを聞いてやっと何故苦笑されたのか理解した。そう、真司があまりにも心からゼストを心配して言ったものだから周囲は面食らったのだ。
ジェイル達は真司を良く知るのでそこまで何か言わない。一方のゼスト達は真司のお人好しに好ましいものを感じていた。こうして、真司は出会って早々にゼスト達からもお人好しの称号を付けられる事になるのだった。
容疑者輸送用の車両で隊舎へ向かう真司達。その車中でもジェイルによるゼストへの説明は続いた。そして隊舎に入るとジェイルは早速とばかりにゼストへトイや邪眼に関する詳しい話を始めた。それは真司との出会いからナンバーズ誕生なども含めてのもの。
それを聞き、ゼストはおぼろげではあるが、ジェイルの変化を感じ取っていた。至って普通の真司がジェイル達と接する事で変わり出した生活。それがジェイル達から歪みを無くしていった。当たり前の事が当たり前でなかったジェイル達。それを真司がゆっくりと自然に正していったのだ。
(もしや……あの男、大物かもしれん)
ジェイルの話を聞きながら、ゼストはふとそんな風に思って真司へ視線を向けた。そこにはメガーヌと同じの髪色の少女と楽しげに話す真司とアギトがいた。少女の名はルーテシア・アルビーノ。メガーヌの娘だ。今日は彼女の通う魔法学校が休みのため、こうして隊舎で母親を待っていたのだ。
彼女も将来を有望視されている魔導師見習い。召喚を得意とする母親同様、その道の才能があり優しく読書が好きな少女だ。そんな彼女はアギトがどういう存在かを教えられその目を軽く見開いているところだった。
「融合騎……ホントにいたんだ」
「うん。にしても、ルーテシアは物知りだな」
「ルーテシアちゃんも将来局員になるの?」
「……うん。お母さんのお手伝い出来たらいいなって」
そう言ってルーテシアは柔らかく笑う。その可憐さに真司とアギトは感嘆の声を上げる。まさに美少女といった感じの笑みだったのだ。それと同時に健気な性格も感じ取り、二人は感心したのだから。
一方、そんな三人を見つめるナンバーズ達は揃って微笑みを浮かべていた。仲の良い兄妹のように見える真司とルーテシア。さっき会ったばかりにも関らず、真司の人懐っこさでルーテシアもすぐに打ち解けたのもある。しかし、一番の原因はやはりアギト。
アギトの明るさと存在は二人の良い会話の潤滑剤となっているのだ。助け出された当初こそ衰弱と実験の影響でどこか物怖じしていたアギトだったが、元気になりサバイブとユニゾンした後からは元来持っていたと思われる快活さを発揮。
今ではセインやウェンディに次ぐムードメーカーへなりつつあり、真司と共にジェイル達の家族認定を受けるのも時間の問題と見られている。そんな彼女は今もルーテシアと話しながら笑顔を見せていた。
「スカリエッティ、参考までに聞いておこう。この件だが、上層部に」
「言わない方がいいだろうね。何も私達の保身のためじゃない。余計な問題を起こすだけだろう」
「……だろうな」
ゼストの言葉を途中で遮ったジェイルの言葉に彼もどこか苦い顔で答えた。彼の上司はレジアスなのだ。そうなればジェイルがいる事でどういう反応を見せるか分からない。そう判断し、ゼストはその後もジェイルと今後のために様々な事を話し合った。
まず、ジェイルがAMF対策をするための設備について。これはクイントが個人的に懇意にしている本局技師に頼み、何とか出来るようにする事となった。次はナンバーズと真司の扱いについて。これは先程の件から派生し、クイントの伝手を使って優秀な執務官を通して無事に事を運んでもらう事になった。
その人物の名を聞いて、ジェイルは一瞬だが懐かしいようで申し訳なさそうな目をした。そう、それはフェイトだったのだ。彼が基礎理論を組み上げた技術で生み出された内の一人。それを彼は知っていたのだから。
「……と、大まかにはこれぐらいだな」
「そうだね。一応、私達の家の場所は教えておくよ。ただ、迂闊な事はしないでくれ」
「分かっている。今は相手を刺激するのは危険が大きいようだ」
そこまで話し合ってジェイルはそっとゼストへ右手を差し出した。それを見たゼストは何をジェイルがしたいのか理解出来ない。すると、ジェイルが苦笑しながらこう言った。事情はどうであれ、協力し合うのだから握手をしようじゃないかと。
それにゼストは微かに呆気に取られるが、すぐに小さな笑みを浮かべて頷いた。そして、その右手を差し出す。繋がれる両者の手と手。その感触を確かめゼストは思った。違う。今目の前にいるのは犯罪者などではないと。
ここにいるのは平穏を望む一人の人間だ。そう心から思ったのだ。故に誓う。ベルカの騎士として、局員として、そして人としてこの想いに応えようと。
(広域次元犯罪者、か。それだけの事をやってきた者をここまで変えた存在、城戸真司……大した男だ)
余程局員よりも局員らしいと思いながら、ゼストはもう一度視線を真司へと向けた。そこでは、真司達が主体となってナンバーズがルーテシアへ穏やかに自己紹介を始めていた。その光景に平和という言葉の意味を見た気がし、ゼストとジェイルは薄く笑うのだった。
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六課は前回の話を受けてのそれぞれの反応。ついに明らかになった五代と翔一達の世界の違い。そして、翔一が語ったクウガを最後手助けしたのは勿論……分かりますよね?
一方、真司達は因縁のゼスト隊と再会。真司のおかげで主要の三人の警戒心を薄れさせる事に。そして、ルーテシア登場です。
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語られた邪眼との戦いや各ライダーの話。それをキッカケにそれぞれの中で変化や疑問が生まれる。
一方、ジェイル達は遂にゼスト達と再会し新たな変化を迎える事となるのだった。