―――リベル=アーク崩壊より数週間後――――
~王都グランセル・夜~
「ぜえ、ぜえ、ぜえ………」
リベル=アーク崩壊より数週間後、ナイアルはある場所に急いで向かっていた為、息を切らせて一端休憩をしていた後、振り返って怒鳴った。
「ドロシー、何やってんだ!置いて行くぞ!」
ナイアルが怒鳴るとドロシーがフラフラとした足取りでやって来た。
「ま、待ってくださ~い………ナイアルせんぱーい……!」
「もたもたすんな!祝賀会が始まっちまうだろうが!”異変”終息を祝ってアリシア女王が主催する特別なパーティーだぞ!?こいつにだけは遅れるわけにはいかねえんだ!エステルをはじめとした”異変”を終息させた功労者達がいる上、”覇王”をはじめとしたメンフィルの皇族、武将達、そして今大陸中で話題になっている覇王が正妃として娶る予定の女性―――”聖皇妃”イリーナ皇妃すらも揃っているパーティーだぞ!?”覇王”達に取材できる機会は滅多にないのは知っているだろうが!」
泣きそうな表情になって近づいて来るドロシーをナイアルは睨んで怒鳴った。
「も、もうわたし、おなかペコペコで………一歩も歩けませえん………」
ドロシーは泣きそうな表情で答えた後、お腹の音を鳴らした後、地面に跪いた。
「お前、まさか………パーティーで御馳走を食うつもりで昼飯抜いたとかじゃねえだろうな?」
「お昼どころか、昨日から食べてませんよー。断食も30時間を超えると、はう、こんなにメマイがぁ………」
呆れている様子で尋ねるナイアルにドロシーは呑気に答えた。
「ドロシー、てめー、何考えてんだ!?」
「ナイアル先輩、おぶってってくださいよ~!」
自分の話を聞いて怒鳴るナイアルにドロシーは泣き言を言った。
「えーい、知るか!今日は王国中の有名人が集まってんだ。シャキッとしやがれ!!まずは女王陛下とクローディア殿下の1枚を押さえて………その後はリウイ陛下とイリーナ皇妃が一緒になっている写真やイリーナ皇妃自身の写真………勿論リフィア殿下やプリネ姫、”ゼムリアの2大聖女”に”魔弓将”達の写真も押さえねえと………特に”闇の聖女”、”癒しの聖女”が2人揃って写っている写真なんて、滅多に取れねえから、絶対に押さえないと………っと!後は他国出身でありながらシルヴァン陛下直々より”侯爵”の位をもらってメンフィル貴族になったエステルと、同じくシルヴァン陛下直々より”ルーハンス”家当主という位をもらって、同じくメンフィル貴族になったエステルの義娘のミントやプリネ姫の世話兼護衛役であり、メンフィル貴族の”ルクセンベール”卿の写真も押さえねえとな………ったく、あいつらそんな美味しいネタを黙っていやがって……」
そしてナイアルはドロシーを引きづりながら独り言を呟いていた。
「あうううううううううう~………」
ナイアルに引きづられていたドロシーは悲鳴を上げたが
「あ、あれぇ~?意外とらくちんかも~♪」
自分が動くより楽である事に気付き、呑気な声を出した。そしてナイアルはドロシーの言葉を聞いて怒ろうとしたが、無視してそのままドロシーを引きづりながら王城に向かった。
~グランセル城・空中庭園~
ナイアルとドロシーが王城に到着したその頃、空中庭園はパーティー会場となっており、そこにはエステル達やリウイ達もいて、そして女王は演説をしていた。
「………そして一時は、この王都も危機に見舞われることもありましたが………皆さまのお蔭で、”異変”も終息をみることとなりました。………ここにそれを祝し、ささやかな祝賀会を催したいと思います。それでは、クローディア。」
「はい。」
女王に促されたドレス姿のクローゼは静かに前に出た。
「………本日のパーティーには、この事件に尽力いただいた方々をお呼びさせていただきました。苦難に喘ぐ人々に暖かな手を差し伸べ、また多くの人々が不安に震える日々を打ち払ってくださった方々………このリベール王太女として、礼を言わせていただきます。
本当にありがとうございました。本日はささやかなパーティーではありますが………」
クローゼが話を続けようとしたその時
「…………ギリギリセーフ!!」
「や、やっとたどり着きました~………ご馳走プリーズですぅ~………」
ナイアルとドロシーが慌ただしい様子で空中庭園に到着し
「ドロシー、何やってやがる!さっさとカメラを構えろ!!スピーチが終わっちまうだろうが!!」
「はうう、そうだったぁ………」
そしてナイアルの指示によってドロシーは写真を撮り始めた。
「えっと……ど、どうかごゆっくりお楽しみ下さい。」
ナイアル達の行動にクローゼは戸惑いながらも笑顔を見せて言った。
「ここに集いし者は各々責任を背負い、日々多忙な者であろう。だが、今宵ばかりは日頃の労を忘れ、骨を休めてほしい。豪華料理や酒も存分に用意してあるので堪能するとよいぞ。このリベールに女神達の幸あれ!」
パチパチパチパチ…………!
そしてデュナンの宣言の後、大きな拍手が鳴り響き、そしてパーティーが始まった!
「う~ん……やっぱり、クローゼは凄いわね~。あんなドレスを着て、みんなの前で堂々とスピーチするんだもん。」
「うんうん!クローゼさん、凄く素敵でカッコよかったよね!」
パーティーが始まったその頃、クローゼの演説を見ていたエステルは感心し、ミントは嬉しそうに頷いた。
「うん、この間会った時は自信が無いって言ってたけど………王太女として立派にやっているみたいだ。」
2人の言葉にヨシュアは頷いた後、優しげな微笑みを浮かべた。
「はあ、いいな………あたしも、あんなドレスが似合ったらいいんだけどなぁ………」
「そうだよね~………ドレスは女の子の憧れだもんね~………」
そしてエステルとミントはうっとりとした表情でクローゼを見ていた。
「……………………」
2人の言葉を聞いたヨシュアは驚いた表情で2人を見た。
「………何よ、その間は。」
「そうだよ~、パパ。ミント達、おかしなことを言った?」
ヨシュアの様子に気付いたエステルとミントは揃ってジト目でヨシュアを睨んだ。
「おかしなことも何も……君達もクローゼや姉さん達のように、ちゃんとしたドレスを着ているじゃないか。」
2人の言葉を聞いたヨシュアは2人を見て言った。2人の姿はかつてマルーダ城のパーティーで着たドレス姿だった。
「あのね………パーテイーの前にも言ったと思うけど、このドレスはあたしの前世――ラピスが着ていたドレス!だからあたしのドレスじゃないわ。」
「ミントは最初から用意されていたドレスをクローゼさん達に見てもらって、決めたドレスだからミント専用のドレスじゃないよ。」
「ハハ………それでも2人とも似合っているよ。クローゼや姉さん達みたいに本物のお姫様みたいに見えるよ。」
2人の言葉を聞いたヨシュアは苦笑しながら言った。
「「!!」」
ヨシュアの言葉を聞いた2人は驚いた後、顔を赤らめた。
(も、もう!相変わらず、不意打ちが得意ね、ヨシュアったら~!あたしはともかく、ミントにまで不意打ちをするなんて……)
(はう~……少し、ドキッてしたよ~………)
2人は顔を合わせて小声で会話をしていた。
「………それにこの数週間で2人とも凄く成長したね。」
「「えっ!?」」
そして2人はヨシュアの言葉にさらに驚いた。
「リベール中を駆け回りながら、自分達の護衛部隊の指揮までするっていう相当ハードな仕事だったと思うけど……遊撃士としての判断はかなり信頼できるようになったし、貴族としての風格も出て来たから……正直、僕の目から見ても頼もしく思える事があるよ。」
「あ、あはは……何だかヨシュアにほめられると、くすぐったいわね~……」
「えへへ、パパに褒められちゃった~。」
ヨシュアの言葉を聞いたエステルは苦笑し、ミントは嬉しそうな表情をした。
「……でも、この数日でようやく仕事も一段落したわね。王都の復興も順調みたいだし……」
「それに護衛部隊の兵士さん達の手も必要ないくらい復興できたから、本国に帰ってもらったから、落ち着いたよね。」
「……うん、そうだね……」
エステルとミントの言葉にヨシュアは静かに頷いた。
「あ………」
その時、エステルが何かに気付いて声をあげた。エステルの声に反応した2人がエステルの視線の先を見ると、そこにはご馳走が山のようにあった。」
「ああっ……ご馳走があんなに………!」
「グランセル城のシェフ達が料理を切り分けてくれるみたいだね。」
「うーん、これは見逃せないわね。生誕祭の時のご馳走はちゃんと味わえなかったし……これはご相伴にあずかるしか……!ヨシュア、ミント、ちょっと待ってて!あたし様子を見て来るから!」
そしてエステルはご馳走が置いてあるテーブルに急いで向かった。
「もう、ママったら~。ご馳走ならマルーダ城のパーティーでたくさん食べたのに、まだ足りないのかな~?……あ、パパ。ミントはツーヤちゃんとお話しして来るね!」
エステルの行動に苦笑していたミントだったが、ある事を思い出し、エステルのようにツーヤがいるテーブルへ急いで向かった。
「………2人ともああいうところは成長してないよな……」
2人の行動を見たヨシュアが苦笑していたその時
「おっ、ヨシュアじゃないか。エステル達はどうしたんだ?」
ナイアルとドロシーが近づいて来て、ヨシュアに尋ねた。
「……ええ、少し料理を取りに。ナイアルさん達はお仕事みたいですね。」
「ああ、これだけの顔ぶれが一堂に会してるんだからな。ここでハナシを聞かねえわけにはいかねえっつーの!……もちろん、お前さんたちにも後でみっちり取材させてもらうからな。お前もわかっていると思うが特にエステルとミントはお前達と同じようにリベールの”英雄”、そして遊撃士でありながら”侯爵”にメンフィルの皇族に連なる貴族の当主っていう遊撃士協会や各国の貴族、王族達を驚かせるとんでもない存在だ!勝手に帰るんじゃねえぞ!」
「はは……了解です。」
ナイアルの言葉を聞いたヨシュアは苦笑しながら頷いた。
「よし、次はいよいよクローディア姫の取材だ!そしてその後は”覇王”達の取材!特に”聖皇妃”は容姿端麗だらけのメンフィルの皇女や側室、武将の中でも際立って良い上話題性もあるから、さまざまな事を聞かねえとな!後は新たに判明したメンフィルの同盟国だっていう”ユイドラ”領主や領主夫人にも取材しねえと!領主夫人や2人の警護役の天使も”戦妃”達に負けず劣らずな容姿だから、こっちも写真が期待できるな!……ドロシー!」
ナイアルは嬉しそうに独り言を言った後、ドロシーに振り向いて言ったが
「も、もうだめ、倒れちゃいます。何か食べさせてくださいよう……」
ドロシーはお腹から大きな音を出して、泣きそうな表情で言ったが
「オラ、もたもたすんな!」
「ひ~ん、ナイアル先輩のいじわる……!」
ナイアルは無視しでドロシーを連れて行った。
「ナイアルさん、今日は一段と気合入ってるな……えっと、エステルとミントは………」
ナイアル達が去った後、ヨシュアは独り言を呟き、エステルとミントを探した。するとミントは食事をしながらツーヤと仲良く会話をしていたが、エステルはご馳走の前でジョゼットと言い争いを始めていた。
「はあ、全くなにやってるんだか……」
その様子を見たヨシュアは呆れた表情で溜息を吐いた。
「…………(……丁度良いかもしれないな。ここに集まっている人達には随分お世話になってしまったし……今のうちに、挨拶しておこう。)」
そしてヨシュアは仲間達への挨拶回りを始めた…………
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