No.467561
インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#74![]() 高郷葱さん 2012-08-09 10:09:52 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1967 閲覧ユーザー数:1885 |
ISの適性検査やら健康診断やらのアレコレを終わらせて漸く迎えた夜。
それは、唐突にやってきた。
「一夏、風呂に行こう。」
「―――――は?」
自室で授業の復習をしていた一夏は突然現れてトンデモ発言をぶちかました実姉に目を丸くした。
「聞こえなかったのか?風呂に行くから支度しろ。」
その反応を聞こえていなかったと取った千冬は改めて言う。
「いや、千冬姉。話の流れが全く判らないんだけど。」
一夏は自分の聞き間違いや幻聴で無かった事に安堵しつつも理解できない発言を繰り返す姉に突っ込みを返す。
「何。女のイロハをお前にも教えてやろうと思ってな。」
「はぁ………」
それの何処が風呂に繋がるのか全く理解できない一夏は首を傾げるしかできない。
「ほら、時間は限られているんだ。さっさと準備しろ。」
「いや、だからって、別に―――」
「ああ、そう言えば今のお前に合う服は無かったな。仕方ないから私のを貸してやろう。それで万事解決だ。」
「千冬姉、オレはおと――」
「今のお前は女だろう。同性同士だ、問題ない。」
有無を言わさずに一夏を引き摺り出した千冬はそのまま、妙に機嫌よく寮長室経由で大浴場へと向かっていく。
今日は男子向け開放日故に、そこには誰も居なかった。
ベタなラブコメだとここに異性が現れて『キャー』な場面になるのだが、それは今回限りだが起こり得ない。
幸か不幸か、唯一入ってくる可能性のある
絵面的には何ら問題のない現状こそ、一夏にとっては悲鳴モノの状態であるのだが。
一時間ほど後、空が解散命令を出した為にようやく解放された箒が目撃したのは真耶に付き添われる憔悴しきってフラフラな一夏の姿であった。
但し、タンクトップにハーフパンツという初心な少年には少々眩し過ぎる格好だったが故にほんの数秒程度しか直視出来ていなかったが。
それでも視線は行く処には行っている処はきっと『男の性』というヤツなのであろう。
箒の精神はしっかりと体に引き摺られていた。
* * *
[side:一夏]
悲劇だか喜劇だか判らないような出来事の翌日…
『篠ノ之君、いまいい!?』
『今ヒマ?夜ヒマ?いつが暇?』
『今夜遊びに行っていい?』
『今夜も談話コーナー来てくれる!?』
そんな、昨日の焼直しのような光景が再び広げられていた。
そしてオレはそんな光景を自分の席からただ眺めていた。
箒とクラスメイトの皆との仲は悪化したりする事無く、相変わらずだ。
仲がいいのは良い事――――なんだろうけど………
「うぅー………」
なんだか、嬉しくない。
群がってくる
無性にイライラする。
不快感がこみ上げてくる。
不愉快だ。
けど――『何故そう感じるのか』が判らないから余計に腹が立つ。
ああ、もう。
何なんだよこの不快感は。
『―――ら、』
『―りむ―、』
『お――ら、』
『織斑ッ!」
ぱぁあん!
「ッつ――!」
その瞬間、頭が割れるかと思うような衝撃が走った。
頭を押さえながら、オレをひっぱたいた張本人を恨みがましく睨む。
あ、ちょっと涙出てきた。
「悩み事の多い年代なのは判っているが、授業には集中しろ。馬鹿者が。」
けれど、睨んでから後悔した。
―――相手が、千冬姉だったから。
どうやら、気付かぬうちに授業が始まっていたらしい。
「ッ―――そ、そうか。もう一発欲しいのか?」
ちょっとどもった千冬姉は再び出席簿を振り上げる。
これは、ヤバい!
「い、いえッ!」
「なら授業に集中しろ。………悩みがあるなら、放課後に私や千凪の所に来い。」
オレを一喝した後、千冬姉は本当に小さな、聞こえるか聞こえないかの瀬戸際位の小さな声でそう告げてきた。
「―――はい。」
また、心配させてしまったと悔やむ一方でなんとなく嬉しかった。
けれども、その『モヤモヤ』は消える事なく胸中に漂い続けていて―――――
昼休みに、ついに爆発した。
「その、……いち―――」
「篠ノ之くーん、お昼何処で食べるの!?」
「購買?食堂?まさかのお弁当?」
「一緒に食べよー。」
「ほらほら、早くしないと食堂一杯になっちゃうから。」
昼休みになると同時、オレの所に来た箒は何かを言いたげにしていて、漸く切り出した処でクラスメイトの面々に取り囲まれた。
「あの、ええと………」
助けを求めるような、『どうするべきなんだ?』と聞こえてきそうな視線を向けてくる箒。
その様子に、授業に意識を向ける事でなんとか弱まっていたあの『不快感』が頭をもたげてくる。
本当なら、手を貸してやるのが一番なのは判っている。
『ほら、行くぞ。』
もしくは、
『先約があるんだ。』
そう告げて手を引いてやって、ついでにセシリアとラウラとシャル、あと隣の教室に寄って鈴、四組に行って簪さんを巻き込んでしまえばそれで万事解決、『いつも通り』が出来上がる。
要はオレが堤防とマネージャー的な役をやればいい。
けど、
「――――――好きにすればいいんじゃないか?」
オレが言い放った言葉は擁護も心配も含まれない、突き放す一言だった。
「い、一夏?」
「シャル、セシリア、ラウラ、行こう。」
困惑する声を上げた箒を放置して、オレは『箒以外のいつものメンバー』と共に食堂に向かう。
途中で当然のように鈴と簪さんと合流しながら。
その後ろをクラスメイト達に絡まれながら箒が歩いているのを気付いているけど敢えて無視する。
食堂に着いたら、なるべく混雑している区画の六人掛けの席を確保しておく。
当然のように極力、箒たちを視界に入れないようにしながら―――
全員が席に揃って食べ始め―――――程なくして鈴が口火を切った。
「ねぇ、箒と何か有ったの?」
「一夏らしくないよ?」
「そうですわよ。」
「喧嘩か?」
シャル、セシリア、ラウラも続いてオレに視線を向けてくる。
簪さんは『一応、傍観者になっておく』程度の反応で耳だけは傾けているようだ。
「………別に。」
いつもと同じように美味しいのに味気ない、淡々とした
確かに、喧嘩もしてないし箒との間にトラブルがあった訳でもない。
ただ、オレが一方的に…勝手に苛立っているだけだ。
「何でも無いよ。」
これ以上言う事は無い。
その意思表示も兼ねて食事を再開する。
鈴があからさまに溜め息をついているのは何故だろうか―――
「―――ご馳走様。」
ただ胃に定食を押し込むだけの作業は程なくして終わり、オレは席を立つ。
「先に、戻ってる。」
少しでも体を動かすなり、勉強するなりして意識を別のものに集中させてないと、このモヤモヤは何時まで経っても弱まらないらしい。
―――放課後、素振りでもするかな………。
* * *
[side: ]
「はぁ………まったく、強情っ張りね。」
「まあ、何か有ったのは間違いないだろうね。」
「そう言えば、今朝は珍しく呆けていましたけど………」
「体が変化して困惑しているのか?」
一夏が去った席で、鈴たちは好き勝手に話し始める。
原因は何なんだろうか。
結局のところ、誰が原因なのか。
「とりあえず、放課後にでも箒を呼び出して、色々と聞きだすとしましょう。」
「そうですわね。」
「賛成。」
「それが一番だろう。」
そんな会話をする友人達をわき目に、簪は唯一人で箒の身に降りかかるであろう大災厄を考えて溜め息をついた。
それでも、同情は全くしなかったが。
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#74:生まれた『想い』