日々の緊張から解放され、寝心地のいいベッドで爽快な朝を迎える朝……
午前中は、ボートを借りて湖上で水遊びを楽しみ……
お昼は、皆でランチを囲んだ後、腹ごなしの運動代わりに模擬戦を楽しみ……
そして午後は、釣り糸を垂れながらゆったりと時間を過ごす……
楽しくも穏やかな時間はあっという間に過ぎていった。
~3日後・川蝉亭・夕方~
「は~、遊んだ遊んだ♪」
「えへへ……。とっても楽しかったぁ♪」
「うん。こんなにも多くの人達と遊んだの、初めてだよ♪」
「ふふ、心身共にリフレッシュできましたね。」
「ええ。」
「えへへ………ティータちゃん達だけじゃなく、ツーヤちゃんとも久しぶりに一杯遊べて、ミント、大満足♪」
「もう、ミントちゃんったら……」
「いや~、お酒も飲まずに楽しめたのは久しぶりだわ。」
エステルの言葉に頷くようにティータとリタは楽しそうな表情で答え、クローゼの言葉にプリネは頷き、ミントの言葉を聞いたツーヤは苦笑しながらもどこか嬉しそうな表情をし、シェラザードはリラックスした様子で答えた。
「とか言っちゃって……あたしたちが釣りをしている間、果実酒とか飲んでなかった?」
「あら、あんな軽いの酒のうちに入らないわよ。ねえみんな?」
ジト目で睨まれたシェラザードは気にせず、プリネ達を見た。
「あ、あはは……」
「ふふ……。コメントは控えておきますね。それにしても……エステルさんって釣りが本当にお上手なんですね。」
シェラザードに尋ねられたティータは苦笑し、クローゼも苦笑した後エステルに尋ねた。
「えへへ、そうかな?」
「うんうん!ママ、次々と釣って、バケツを一杯にしちゃうんだもん!」
照れているエステルにミントは嬉しそうな表情で言った。
「ふふ、小さい頃からのこの子の趣味だからね。そういえば……ケビンさんも好調だったわね。」
「あ、うん。けっこう好きみたい。ロッド捌きとかもなかなか堂に入ってたし。もう少し腕を磨けばあたしの良いライバルになるかもしれないわね♪」
シェラザードの言葉に頷いたエステルは嬉しそうな表情で答えた。
「まったくもう……。すーぐ調子に乗るんだから。」
「クスクス……」
「ふふ……。それにしても……もうすっかり夕方ですね。」
「あ……」
シェラザードの言葉にツーヤは微笑み、プリネも微笑んだ後言った言葉を聞いたエステルは外に目をやった。
「?」
「ママ?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
エステルの様子にリタとミントは首を傾げ、ティータは尋ねた。
「あ、うん……。あたし……ちょっと外で散歩してくるね。夕食までには戻るから。」
「そっか……。遅くなったら、あんたの分は山分けにさせてもらうわよ?」
「あはは、分かってますって。それじゃあ、また後でね。」
そしてエステルは部屋を出ていった。
「あ……。シェラさん、あの……」
「大丈夫よ、ティータちゃん。できれば今はそっとしておいてあげて。」
「もしかして……ヨシュアさんの事ですか?」
ティータが遠慮気味に尋ねた事にシェラザードは頷き、ツーヤは尋ねた。
「「あ……」」
「………………………」
ツーヤの言葉を聞いたクローゼとミントは不安そうな表情で声をあげ、プリネは静かな表情で黙っていた。
「ふふ、よく分かったわね。そういえば、あの時も……こんな風に夕日が綺麗だったわね。」
そしてシェラザードは思い出すかのように呟いた。
~桟橋~
「は~……ほんと綺麗な夕焼けね~。あの時と同じだわ……」
桟橋まで来たエステルはかつて空賊事件の時に泊まりに来て、その時の情景――夕方に同じ場所でハーモニカで”星の在り処”を吹くヨシュアを思い浮かべた。
「………………………………」
そしてエステルは何を思ったか、ヨシュアから渡されたハーモニカを荷物から取り出した。
「空も水も夕焼けもあの時と同じなのに……。みんなと一緒にいてすごく楽しいのに……。やっぱり……全然違うよね。」
ハーモニカを見ながらエステルは溜息を吐いた。
「あーあ、ダメだな……。自分のペースで追いかけるってせっかく答えを出したのに……。これじゃあ、ヨシュアにも笑われちゃうよね。……そうね。プリネが教えてくれたお蔭で、一度だけ間違わずに吹けたし……。また、練習してみようかな?」
そしてエステルはハーモニカで”星の在り処”を吹き始めた。
~~~~~~~~~~~♪
エステルが吹いたハーモニカは間違いはなく、正しい曲だった。
~~~~~~~~~~~♪
そしてエステルは”星の在り処”を吹き終えた。
「できた…………まあ、プリネほどじゃないけど………(というか、プリネ。なんで、あんなにハーモニカで”星の在り処”を吹く姿が似合っていたのかな………?それにプリネ、初めてこのハーモニカで吹いてくれた時、このハーモニカをまるで自分の物かのように、扱い慣れていたし………)」
”星の在り処”を吹き終えてハーモニカを見つめたエステルは休暇の時、プリネが自分が持っているハーモニカで”星の在り処”を吹いた事を思い出し、首を傾げていたその時
パチパチパチパチパチ……………!
「え……………」
「へへ、いいモン聞かせてもらったわ。」
拍手に驚いたエステルが振り向くと、そこにはケビンがいた。
「ケビンさん……」
「しっかし、誰が吹いとるのかと思って来てみれば……まさかエステルちゃんだとは思わへんかったわ。釣りとスニーカー集め以外にも意外な趣味を持ってるんやな?」
「エヘヘ……。あたしのキャラじゃないかな?」
ケビンに尋ねられたエステルは恥ずかしそうな表情で笑いながら答えた。
「や、そんな事ないで。まー正直、釣りの方が得意そう見たいやけど……」
「あはは、正直に下手って言っちゃっていいわよ。自分でもあんまり向いてるとは思ってないし。」
「うーん、確かにつたない所もあったけど……。音楽で大事なのはハートや。さっきの演奏、エステルちゃんの気持ちはばっちり伝わってきたで。」
「そ、そっか……。………………………………」
ケビンの言葉を聞いたエステルは頷いた後、悲しそうな表情をした。
「隣、行ってもええか?」
エステルの様子を見たケビンは優しそうな表情で尋ねた。
「え……。あ、うん、どうぞ。」
そしてケビンはエステルの隣に来た。
「……ひとつ、聞きたいんやけど。エステルちゃん、カレシに会ってどないするんや?」
「え……」
ケビンに尋ねられた事にエステルは驚いて、ケビンを見た。
「聞けば、それなりの事情で君らの前から姿を消したそうやな。再会できても、そんな相手にどんな言葉をかけられるのか……考えたこと、あるかな?」
「………………………………。ひっぱたいても連れ戻すって思い込んだこともあるけど……。さすがに、そんな無茶が本当にできるとも思えないし……。正直言うと、あたしの言葉はヨシュアに届かないかもしれない。」
ケビンに尋ねられたエステルは悲しそうな表情で答え、溜息を吐いた。
(エステル………)
(エステルさん…………)
(……部外者の我が言うのは筋違いと思うのだが……エステルの相手はリウイ王の方がいいのではないか?……エステルの前世はリウイ王の側室だから、エステルもリウイ王の事は前世の影響である程度の好意は持っていると思うしな………)
(……実はニルも考えた事があるわ。ま、エステルはメンフィル王の事はあくまで”仲間”としか思っていないから、今の所はメンフィル王に心が傾く事がないでしょう。今の彼には愛妻がいるって事もエステルは知っているし。)
エステルの本音を知ったパズモとテトリはエステルを心配し、サエラブの念話にニルは頷いた後、苦笑していた。
「それが分かっていても……カレシを追いかけるんやね?」
「うん……。ヨシュアの背負った事情とかあたし自身の至らなさとか色々なことを考えたんだけど……。結局、いくら考えてもヨシュアに何て言ったらいいか思いつかなかったの。だから―――その言葉は会ってから見つけることにする。」
「へ……」
エステルの答えを知ったケビンは驚いてエステルを見た。
「だって、あたしの想いはあたしだけのものじゃないから。ヨシュアと一緒にいる間に自然と育ってきたものだから。だから……ヨシュアに会えたら初めてそれは浮かんでくると思う。あたしだけが伝えられるヨシュアへの言葉を―――」
「………………………………」
「だから、会えないうちからウジウジ悩むのは止めにしたの。えへへ、さっきみたいに感傷にひたることはあるけど……。それは乙女の特権ということで。」
(フフ、エステルったら。)
(クク………エステルがあの小僧と再会し、何を伝えて小僧を連れ戻すか、興味が出て来たな………)
(あら、奇遇ね♪ニルもそう思ったわ♪どうせならヨシュアが戻った時、自分を連れ戻したエステルの言葉やなんであの時、口づけでエステルに睡眠薬を呑ませたかを持ち出して、からかってやりましょ♪)
(あ、あはは…………)
エステルの答えを知ったケビンは呆け、またエステルの身体の中にいたパズモは微笑み、サエラブは口元に笑みを浮かべ、ヨシュアをからかう気でいるニルの念話を聞いたテトリは苦笑していた。
「……はあ、参ったなぁ。こっちの考えていた段取りがメチャクチャやんか。」
一方ケビンは疲れた残念そうな表情で溜息を吐いた。
「へ……?」
ケビンの様子を見たエステルは首を傾げた。そしてケビンは真剣な表情で話し始めた。
「①感傷にひたるエステルちゃん。②オレの鋭いツッコミに戸惑い悩むエステルちゃん。③オレからのナイスフォロー。④エステルちゃん、立ち直る⇒オレの株、赤マル急上昇!―――ってな必勝の段取りを用意して挑んだんやけど……。②、③をいきなりすっ飛ばされてしもうたわ。」
「あはは、ゴメンゴメン。でも、ケビンさんってけっこう立派な神父さんよね。あたしみたいに悩んだり困ったりしている人をいつも気にかけてくれるし……」
ケビンの説明を聞いたエステルは苦笑し、今までの事を思い出して言った。
「ガクッ……。まあ、確かにそれも神父のお仕事なんやけど……。エステルちゃんには半分以上、プライベートな理由で気にかけてるんやけどなぁ。」
「え……?それってどういう―――」
「……ちょっと待った。」
「???どうしたの、いきなり?」
話を遮ったケビンを見たエステルは首を傾げて尋ねた。
「気のせいかもしれへんけど……湖に何かおらへんか……?」
「へ……?」
ケビンの言葉にエステルが首を傾げて湖を見たその時!
ザッパーーーーーン!!
すると湖の底からかつてエステルとヨシュアが出会った水竜が大きな水音を立て、現れた!
「なっ!?り、竜!?」
「え………………」
(え!この方は!)
(なんで、あの水竜がここにいるの!?)
湖から現れた竜らしき生物を見たケビンは驚き、エステルは呆けた声を出して、水竜を見た。一方水竜を見たテトリは驚き、ニルは信じられない表情で水竜を見た。
「……………………」
水竜は以前と同じようにエステルを見つめた。
「フフ、久しぶりね♪また、遊んでほしいのかしら?」
「へ……エステルちゃん、この竜の事を知っているんかいな!?)
水竜に親しげに話しかけるエステルを見たケビンは驚いてエステルに尋ねた。
「うん。見た目に反して、可愛い鳴声をするのよね♪」
「クー♪」
手を出されたエステルに尋ねられた水竜は嬉しそうな鳴声を出して、水竜は懐くようにエステルの手に顔を擦りつけた。
「よしよし………」
「こら驚いたわ……つくづくとんでもないな、エステルちゃん………」
水竜と親しい様子のエステルを見たケビンは信じられない表情で見ていた。そしてニルとテトリが現れて、水竜を見て言った。
「………まさか、貴方がこの世界にいるとは思わなかったわ。」
「お久しぶりですね。」
「クー♪」
ニルとテトリを見た水竜は嬉しそうな鳴声で鳴いて、2人を見た。
「へ………この水竜……2人の知り合いなの!?」
一方ニル達が水竜と知り合いな事に驚いたエステルは2人に尋ねた。
「ええ。かつて私達と共にご主人様――セリカ様の使い魔をしていた水竜です。」
「名前はセリカの使徒――エクリアが名付けたわ。………名前は鳴声通り、”クー”よ。」
「(へ~……”姫将軍”という勇ましい二つ名を持っていた割には、普通の女の子らしい名前を付けるじゃない♪あの人、ラピスとリンの記憶にある印象とは随分違う人に変わったみたいね………)クーか……うん!可愛い名前ね!」
「クー♪」
エステルに笑顔を向けられた水竜――クーは嬉しそうな鳴声で鳴いた。そしてクーはエステルが帯剣している神剣――”誓いの神剣(リブラクルース)”に気づいて、神剣を見つめた。
「ん?この剣がどうかしたの?」
「!!その剣はなんや、エステルちゃん!ゴッツイ神聖な”気”を感じるで!?」
一方クーの視線に気づいたエステルは鞘から剣を抜いてクーに見せ、それを見たケビンは驚いて尋ねた。
「ああ、この剣?リフィアからもらった剣よ。リフィアが言うには”神剣”の類らしいわ。後、ミントとツーヤが普段装備している剣もそうよ。前にもちょっとだけ話したけど、ウィルっていう人が元々壊れていた剣を直したり、改造してくれたのよ。」
「”神剣”って………(オイオイ、勘弁してくれよ………こっちの世界だと、どう見てもアーティファクトやないか……しかもそこらのアーティファクトとは比べ物にならないくらいの……異世界にはこんなもんがゴロゴロしている上、しかもそれを一人の人間が修復や改造が可能って………どこまで非常識やねん!ハア………メンフィルの言う事が嘘じゃないという嫌な事実がわかってしまったもんや………)」
エステルの話を聞いたケビンは呆けた状態で、心の中で頭を抱えた。
「…………………」
一方クーは神剣が出す神気――クーがかつて契約した主、”神殺し”セリカ・シルフィルの強い魔力を感じ、さらにエステルからも以前以上に強く感じるようになったセリカの魔力を感じるようになり、そしてエステルの雰囲気を見て、何を思ったかエステルの手にまた頭をこすり付けた。
「あはは、甘えん坊さんね、クーは。」
クーの行動にエステルは笑って言ったその時
「クー。」
なんと、クーはエステルの手から伝わる魔力に同調し、その場から消えた!
「え。」
「んな!?」
クーの行動にエステルは呆け、ケビンは突然クーが消えた事に驚いた。
「………クー!」
そしてエステルはクーの名前を呼んだ。するとクーが召喚された!
「えっと……これからあたしに力を貸してくれるの?」
「クー。」
エステルに尋ねられたクーは頷いた。
「ふふ、ありがとう。……ん~………でも、そんな可愛い鳴声をするんだから”クーちゃん”って呼んでもいいかしら?」
「クー♪」
エステルの言葉にクーは嬉しそうな鳴声を出して、頷いた。
「あはは……それにしても私やニルさん達を含めたご主人様に関わった方達がエステルさんを中心にこうも集まるとは思いませんでしたね。」
「ええ。エステルが持つ”運命”が引き寄せているかしら?フフ……この様子ならいつか、セリカやエクリア達も引き寄せるんじゃないかしら?」
テトリの言葉にニルは微笑みながら答えた。
「は~……これが”契約”ってやつか……」
一方ケビンは呆けた声を出した。
「えへへ……これでついに冷却属性の魔術も使えるようになったわ!これからよろしくね、クーちゃん!」
「クー!」
こうしてエステルは心強い新しい仲間、そして新たなる力を手に入れた…………
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第282話