~ヴァレリア湖・川蝉亭~
「お、ようやく来たみたいやね。」
エステル達が宿に入ると意外な人物が仲間達と一緒にいた。
「あれ……!?ど、どうしてケビンさんがこんな所にいるわけ!?」
意外な人物――ケビンがいる事にエステルは驚いて尋ねた。
「いや~、それには海よりも深い事情があってやね。」
「ここに来る途中、街道で出くわしたのよ。で、ついでに宿まで来てもらったわけ。」
ケビンはいつもの調子で話そうとしたが、シェラザードが詳細な説明をした。
「街道の途中って……どうしてそんな所で出会うの?」
「はっきり言ってしまうと、目的は”琥珀の塔”の調査でな。実はオレ、ロレントでエステルちゃんと別れてから一通り”四輪の塔”を調べてたんや。」
「四輪の塔を……!?」
「ってことは……他の3つの塔も調べたのか?」
ケビンの話を聞いたエステルは驚き、アガットは尋ねた。
「ま、そういう事ですわ。おかげでこっちも竜騒ぎが完全にノータッチになってしもて。ここらで情報交換しようと、そう思って参上した次第なんや。」
「それは構わないけど……。えっと、それじゃあ早速ここで情報交換をする?」
ケビンの言葉に頷いたエステルは尋ねた。
「ああ、できれば夕食の時がええかな。その方がお互い落ち着いて話をできるんとちゃう?」
「あ、それもそうね。……って、ケビンさんもここに泊まるつもりなわけ。」
「なはは、聞けばここってわりと有名な宿やそうやんか?せっかくやからオレもエステルちゃんたちの休暇にご相伴させてもらおと思うてな。」
「い、いきなりねぇ。でもまあ、ケビンさんには何度もお世話になってるし……。みんな、どうかな?」
ケビンの話を聞いたエステルは苦笑した後、仲間達に尋ねた。
「あー、いいんじゃねえのか。」
「ふむ、確かにこのあたりで借りを返しておきたいところね。」
「えへへ、わたしも賛成です。」
「フッ、ボクも異存はないよ。」
「ふふ……これも何かの縁でしょうし。」
「ま、せっかくだから楽しくやろうじゃないか。」
「ミントもいいよー!」
エステル達に尋ねられ、アガット、シェラザード、ティータ、オリビエ、クローゼ、ジン、ミントは頷いた。
「おおきに!ん?(!!なっ…………あの娘が座っている槍………槍がさらけ出している”瘴気”からして”魔槍”やないか!それも”ロアの魔槍”に負けないくらいの………!しかもあの娘………感じられる”気”からして霊体やないか………!)………………そういえば、そちらの可愛娘ちゃん達もエステルちゃんの仲間かな?」
アガット達の返事を聞いて表情を明るくしたケビンはリタが座っている槍――”魔槍ドラブナ”を見て顔色を変えた後さらにリタを見て驚き、プリネ達を見て尋ねた。
「あ、プリネ達ね。えっと……………」
ケビンに尋ねられたエステルはプリネ達の正体を言うべきか迷い、プリネ達に視線で尋ねた。
「あの、エステルさん。そちらのケビンさん……?でしたか。見た所七曜教会の神父の方のようですが……何者ですか?神父の割にはかなりの腕前を持っているようですし………」
「いや~、エステルちゃん達と比べれば、新米の俺なんてまだまだですから、言い過ぎですわ。初めまして。”星杯騎士団”所属のケビン・グラハムと言いますわ。」
プリネの疑問にケビンは笑いながら答えた後、真面目な表情をして自己紹介をした。
「!!貴方があの”星杯騎士”なのですか………!……私の名はプリネ。プリネ・K・マーシルンと申します。」
ケビンの自己紹介を聞いたプリネは驚いた後、上品に挨拶をした。
「んな!?マーシルンゆうたら、メンフィル皇家の名やないか………!もしかして、メンフィルの皇女なんかいな………?」
一方ケビンはプリネの名を聞き、驚いて尋ねた。
「うん、そうよ!それにプリネは”闇の聖女”様の娘でもあるんだよ!」
驚いているケビンにエステルはプリネの自己紹介を続けるように説明した。
「!!(この娘があの”闇の聖女”の娘か……まさか、こんな所で会うとは思わんかったな………)こら、驚いたわ………まさかあの”姫君(プリンセス)の中(オブ)の姫君(プリンセス)”に会えるとは思わんかったわ………」
「あ、あの~………できればその呼び名で呼ぶのはやめてほしいのですが………正直、今でも恥ずかしいんです………」
「?どうして恥ずかしいの、プリネちゃん。プリネちゃんに似合った凄くいい二つ名なのに。」
恥ずかしがっているプリネを見たリタは可愛らしく首を傾げた後、尋ねた。
「あ、あはは………”最も姫らしい姫”なんて、私には恐れ多いですよ。それにそんな呼び名だと、私の事を偶像化しているような呼び名にも聞こえますし………」
リタに尋ねられたプリネは苦笑しながら答えた。
「ハハ………それでそっちの黒髪の嬢ちゃんはなんていうん?」
「……ツーヤ・ルクセンベールと申します。マス………プリネ様の護衛騎士兼専属侍女です。」
「ふわあ~……さすがお姫さんだけあって、そこらへんにはいない従者を連れているんやな………で?そっちの槍に座っている嬢ちゃんも、もしかしてメンフィルの関係者なん?」
ツーヤの自己紹介を聞いたケビンは呆けた声を出した後、リタを見て尋ねた。
「……いいえ。確かにプリネちゃん達とは親しいですが、私はメンフィルの関係者ではありません。……私の名はリタ。リタ・セミフ。”冥き途”の見習い門番で、”友達”としてエステル達に力を貸しています。」
ケビンに尋ねられたリタは首を横に振って答えた後、自己紹介をした。
「”冥き途”?なんやそれ??」
リタのある言葉にケビンは首を傾げて尋ねた。そしてリタはケビンに”冥き途”やゼムリア大陸に来た経緯を説明した。
「ま、まさか異世界には聖典で書かれてある空想の場所があるとは………しかもその門番があのソロモン72柱の1柱、序列第24位の”冥門候”やなんて………!(こら、アルテリアに帰ったら報告せんとあかんな……まさか異世界でソロモンの悪魔が実在するなんて……まあ、天使や神が実在しているねんから、伝承クラスの悪魔がいてもおかしくはないけど………)」
リタの説明を聞いたケビンは信じられない表情をした。
「フフ、それとそこにいるプリネちゃんもソロモン72柱の1柱を使い魔にしていますよ?」
「なんやて!?」
リタの説明を聞いて驚いたケビンはプリネを見た。
「ええ。アムドシアスという名ですが………ご存じですか?」
「アムドシアス………序列第67位の”一角候”かいな……!(おいおい、勘弁してくれよ………メンフィルはソロモンの悪魔さえも従えているんかいな………)」
(ほう………まさか異世界の者でありながら、我やナベリウスの序列を知っているとは。ふむ、異世界の者でありながら我らの事を詳しく学んでおるな。)
心の中で溜息を吐いて表面上は驚いているケビンを見たプリネの中にいるアムドシアスは自分の事をよく知っている事に感心していた。
「後はウィル――異世界の人間のあたしの知り合いの話だとアスモデウス……だっけ?確かその魔神もソロモン72柱の1柱の魔神で、ウィル達に力を貸してくれているって言ってたわね……」
「……………………(今度は序列第32位でさらに”七つの大罪”の一つ、”色欲”を司るソロモン72柱の1柱かいな……!そんなんも味方にしているなんてむ、むちゃくちゃや………そんなんを味方にする人間って、どんな人間やねん………”神”や古の悪魔が実在するといい、どれだけ非常識やねん、異世界は………!)」
さらにエステルの話を聞いたケビンは呆けた状態で、心の中で頭を抱えた。
「………それにしても貴方、以前クロスベルで一緒に戦った方と雰囲気が似ていますね?もしかしてあの方のお仲間ですか?」
「へ?クロスベルで戦ったって一体何があったの??」
リタの話を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。そしてプリネ達はクロスベルであった出来事を話した。
「あ、あはは……大人しそうに見えて、プリネもリフィア達に似ているところがあるわね………」
「あう。………本当なら手荒な事はしたくなかったんですが、あの時は仕方なくて…………」
(表沙汰にならなくて、本当によかった……………もしなっていたら、”不戦条約”に影響が出ていたかもしれませんし………)
(クロスベルは確かエラルダ大司教がいる影響で、”俺達”は基本クロスベルにおらんはずなんやけど………あ、一人いたな。まさかあいつ………)
プリネの話を聞いて苦笑しているエステルの言葉にプリネは恥ずかしそうな表情で答えた。一方クローゼは冷や汗をかいて、安堵の溜息を吐いた。一方ケビンは考え込んだ後、心当たりがある人物を思い出した。
「ふむ。それにしてもまさか”風の剣聖”が出てくるとはな………」
「俺は噂でしか聞いたことはないが……知っているのか、ジン?」
ジンの言葉を聞いたアガットは尋ねた。
「ああ。……とは言っても会ったのは”風の剣聖”が遊撃士になる前だけどな。」
「確か、先生の弟弟子でしたっけ?」
「「え!?父さんの(お祖父ちゃんの)!?」」
ジンに尋ねたシェラザードの言葉を聞いたエステルとミントは驚いた。
「ああ。S級正遊撃士に最も近い”最強”の遊撃士とも言われているぜ。」
「え、S級に最も近くてさ、”最強”………父さんと同じ”剣聖”の異名がある所を聞くと、とんでもなく強いの?」
ジンの説明を聞いたエステルは信じられない表情で尋ねた。
「ああ。俺なんかとは比べ物にならないくらい強いぜ。」
「ジンさんよりも!?」
「上には上がいるって奴か………」
「ふえ~…………」
「さすがは先生と同じ”剣聖”の異名を持つだけはあるわね………」
「ふむ………”クロスベルの真の英雄”と言われるだけあって、とてつもなく強いんだねぇ……」
ジンの話を聞いたエステルは驚き、アガットは呟き、ティータとシェラザードは呆けた声を出し、オリビエは感心していた。
「それで話を戻すのですが………クロスベル警察や警備隊の方達と戦った時、遊撃士の方達以外にも助太刀する方達がいらっしゃって……その内の一人がリタさんと共に戦った人なんです。ワジ……という方なんですが、心当りはありますか?」
「(やっぱり、”あいつ”かいな!何をやってんねん、”蒼の聖典”……!アッバスもなんで止めんかってん……!)いや~、悪いけどそんな名前の奴、知らへんわ。それより他にも聞きたい事があんねんけど、ええかな?」
プリネに尋ねられたケビンは心の中で心当りのある人物であった事に呆れていながらも、それを顔に出さず誤魔化し、話を逸らした。
「なんでしょうか?」
「お嬢ちゃんが座っている槍……もしかしてアーティファクトなんちゃうん? それに嬢ちゃんから”生者”の気配はせえへんねんけど………」
首を傾げているリタをケビンは真剣な表情で尋ねた。
「ええ。私は”幽霊”ですから、”生者” ではありません。それとこの槍は私の世界の”魔槍”ですから、貴方の言う”アーティファクト”ではありませんよ?………まあ、似たような存在であるのは確かですが………」
ケビンの問いにリタは答えた後、自分が座っている槍――”魔槍ドラブナ”に目を向けて説明した。
「あ~、異世界出身のようやし、まあそうかと思ったわ………悪いな、変な事を聞いてもうて。(………………自我を持ち、理性もある上、清浄な気配しかせえへん………”怨霊”ではなく、”守護霊”の類のようやし、様子見にしとこか…………)」
リタの答えを聞いたケビンは心の中で考えている事を顔に出さず、いつもの調子で答えた。
その後エステル達は宿の受付にチケットを見せてチェックインをして、部屋に荷物を置いた後、宿側に用意された夕食を堪能した後、情報交換を始めた………
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第280話