アガットの胸の中で泣き続けたティータは思い切り泣いた後、静かになった。
~ラヴェンヌ村・アガット宅・夜~
「………………………………」
「……落ち着いたか?」
泣き止んだティータにアガットは優しげな雰囲気を纏って尋ねた。
「…………ご、ごめんなさい。いきなり泣いちゃって。」
尋ねられたティータは頷いた後、申し訳なさそうな表情で謝った。
「ったく、あんまり驚かせるんじゃねえっての。銀髪野郎とやり合うよりも肝が冷えたじゃねーか。」
「えへへ……。あ、そうだ。あのあの、アガットさん。お腹空いてませんか?村長さんに材料をもらってスープを作ったんですけど……」
「おお、道理で良い匂いがすると思ったぜ。……って、ちょっと待て。どうして台所が……」
「え……?」
アガットの言葉にティータは首を傾げた。そしてアガットは家の中を見渡した。
「よくよく見たら……たまげたな。所々、違うところもあるがあの頃とソックリじゃねえか。」
そしてアガットはベッドの傍に立てかけてある写真に気づいた。
「おまけにこんな物まで……。ヘッ……よく残っていたモンだぜ。」
「???」
「おっと、ワケ分からねぇか。……実はこの家はな、10年前に全焼しているのさ。」
「え……」
アガットの説明を聞いたティータは驚いた。
「エレボニア軍の焼夷弾が流れ弾になって降り注いで……あっという間に火がついて黒コゲになっちまった。その後、村長たちが物好きで建て直したのは知っていたが……。まさか、家具や内装まで揃えたとは思わなかったぜ。」
「………………………………」
「俺も今まで中に入ったことは無かったんだが……。さすがに、ここまでされたら礼を言うしかなさそうだな。」
「………………………………。……それ……じゃあ……。その時に……ミーシャさんは……」
アガットの話を聞いたティータは泣きそうな表情で恐る恐る尋ねた。
「………………………………。……はは、バレちまったか。……俺の誕生日のな、プレゼントを用意していたんだ。手造りの……俺に似合うアクセサリってな。山道に避難する途中で、あいつ、それを取りに家に引き返して……。そこに焼夷弾が落ちた。」
ティータに尋ねられたアガットは悲しげに笑った後、ベッドに座り詳しい話をした。
「………………………………」
「助けた時は……ひどい火傷を負っていた。それでもプレゼントはしっかりと手に握りしめて……。金具はダメだったが石の部分は無事に残ってた。コイツがそうだ。」
アガットは首に付けていた石のアクセサリーをティータに見せた。
「……あ…………」
「七耀石でも何でもない、ただの綺麗な石コロさ。多分、この近くにある小川で見つけたんだろう。こんな物のためにって何度思ったか分からねえが……不思議とあいつを責める気にはなれなかった。」
そしてアガットは首飾りの石を強く握りしめた。
「形見のつもりはなかったが……。戦争が終わって村を出て、荒れた暮らしをしていた時もこいつだけは捨てられなかった。ハハ……情けない話だろ?」
「そ、そんなこと……!」
「実際、情けないんだよ。コイツを眺めている間は俺は怒りを忘れられずにすんだ。あの時、あいつを助けられなかった不甲斐ないてめえ自身への怒りを……」
「あ……」
「そうしてかき立てた怒りを重剣に乗せて叩き付けることで……どうやら俺はてめぇ自身を保っていたらしい。……欺瞞に陥って前に進めない半端者……。ククク……あの野郎の言う通りじゃねえか。」
「アガットさん……」
自分を責めるように皮肉に笑っているアガットをティータは心配そうな表情で見つめ続けた。
「いや……もっとタチが悪いか。都合の悪いことから目を逸らして逃げ、その上関係のない他国(メンフィル)や聖女達(やつら)に八つ当たりの気持ちを持つクソ野郎……。俺が一番嫌いな負け犬ってわけだ。ハハハ、コイツは傑作だぜ!」
「アガット……さん……。………………………………」
大声で笑いながら自分を卑下したアガットを見たティータは少しの間黙った後、アガットに近づいて言った。
「わたし……アガットさんの気持ちはちゃんとは分からないけど……。どうして苦しんでいるのか分かってあげられないけど……。だけど、ミーシャさんの代わりにこれだけは言わせて欲しいです。」
「……?」
ティータの話を聞いたアガットは不思議そうな表情で決意の表情になっているティータを見た。そしてティータはアガットを見て叫んだ!
「……わたしの大好きなお兄ちゃんをバカにしないで!お兄ちゃんの良いところを、なんにも分かってないクセに!お兄ちゃんのことはわたしが1番良く知ってる!悪く言ったりしたらたとえお兄ちゃん自身でも許さないんだからあっ!」
その時、ティータの髪の色が金からアガットと同じ赤に変わった!
「な……!」
ティータの言葉と変貌したティータの髪の色を見たアガットは驚いた!そしてティータはアガットに抱きついた。
「………あ…………」
「わたし、ミーシャさんには負けるかもしれないけど……それでも、アガットさんの良いところを一杯知ってます。だから、悪く言われたらすごくかなしーですし……。アガットさんのこと何も分かってないクセにってとっても腹が立ちます……。だから……だから……」
「………………………………。……はは……参ったな……。ミーシャそっくりの口調で啖呵(たんか)切りやがったと思ったら……。おまけにミーシャそっくりの髪の色にしやがって………一体どうやったんだ?」
「え………ふえええええっ!?な、なんでわたしの髪の色がお姉ちゃんみたいに変わったのかな………?それもアガットさんと同じ髪の色に………」
アガットに言われたティータは変貌した自分の髪の色を見て、大きな声を出して驚いた。そして少しすると元の髪の色に戻った。
「ほっ…………よくわからなかったけど、戻ってよかった~…………」
髪の色が戻ったティータは安堵の溜息を吐いた。
「(………まさかな。)…………ったく。それにしてもガキのくせに、ずいぶんマセた真似をしてくれるじゃねーか……」
「こ、子ども扱いしないでくださいっ……。わたし……わたし……。ホントーに悲しくて怒ってるんですからあっ……」
「……そうか……。………………………………。俺は俺のことを何も分かっちゃいない、か……。……まったくその通りだぜ。」
そしてアガットはベッドから立ち上がって、優しげな顔を見せてティータの頭を撫でた。
「あ……」
「ありがとよ、ティータ。よく気付かせてくれたな。」
「アガットさん……」
「……てめえのチンケな物差しでてめえ自身を計っても仕方ねえ。だったらせいぜい足掻いてみるさ。怒りも哀しみも関係なく……答えが見つかるまで、真っ直ぐにな。へへ、そうすりゃあ……コイツを持ち続けている意味もいつかは分かるだろうさ……」
そしてアガットは石のアクセサリーを優しげな表情で見つめた。
(えへへ………いつものお兄ちゃんに戻ってよかった………)
「!?」
石のアクセサリーを見つめていたアガットは聞き覚えのある声を聞いたような気がして驚き、声がした方向を見た。
「あ、あのあの。どうしたんですか、アガットさん………?」
声がした方向を見ると、一瞬赤毛の少女の笑顔が見えた後、ティータの中に入るように消え、一方見られたティータは戸惑った表情で尋ねた。
「(一瞬ミーシャがいた気がしたが………気のせい………だよな………?)いや………………………なんでもねえ。それよりメシにしようぜ。腹が減っては戦も出来ねえって言うしな。」
「はい!」
こうして竜によってさまざまな事があったボースの夜が更けた。そして翌日……………
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第270話