レンの案内の元、エステル達はマルーダ城の謁見の間に通された。
~メンフィル帝国・帝都ミルス・マルーダ城内・謁見の間~
「うふふ、ここが”謁見の間”よ。シルヴァンお兄様達はもう少ししたら来るから、大人しく待っててね。」
エステル達を案内したレンは広間の横の方に移動した。
「う~……グランセル城の時は緊張しなかったけど、こっちだと凄く緊張して来るわ……」
「わ、わたしも~……ドキドキ。」
「はい、私もです。……まさかこんな形でメンフィルの本国、それも王城に来る事になるとは思いませんでした……」
緊張しているエステルの言葉にティータやクロ―ゼは同意し、周囲の風景を見回していた。
「フウ………まさかこんな事になるとは思わなかったわ……」
「ったく。報酬を渡すならギルドを通して渡せばいいものを、こんなめんどくさい事をしやがって………」
「ハハ、まあ、そう言うなって。それよりどんな報酬をもらえるか、そっちの方に期待した方が気が楽になるぞ。」
シェラザードは緊張した様子で溜息を吐き、アガットは呆れて溜息を吐き、ジンは苦笑しながら言った。
「フッ。なら、ここはこのボクが緊張した心をほぐす曲を一曲……」
オリビエはリュートを取り出して、言いかけたが
「時と場所を考えなさいっての!騒ぎを起こして、パーティーに参加させてもらえないかもしれないわよ!?」
「やれやれ………ちょっとした冗談だと言うのに……」
エステルに注意され、オリビエは溜息を吐きながらリュートを仕舞った。
「ツーヤちゃんにはいつ、会えるのかな~?ツーヤちゃんにも成長したミントを見て欲しいし、一杯話す事があるのに……」
一方ミントは周囲を見回して呟いた。
「フフ……無事、”成長”したようだね。おめでとう、ミントちゃん。」
その時、プリネと共にツーヤがエステル達が入って来た入口から現れた。
「ツーヤちゃん!フフ、ツーヤちゃんも凄く立派に成長したね!」
「ミントちゃんもね。それよりマスターから聞いたよ。ミントちゃん、後少しで正遊撃士になるんだってね?」
「フフ……そう言えば、ツーヤちゃんはプリネさんの騎士になれたの?」
ツーヤの称賛に微笑んだミントはツーヤに尋ねた。
「うん。今日、マスターの正式な騎士になるの。」
「今日??」
ツーヤの言葉にミントは首を傾げた。
「……実はツーヤの叙任が今日と重なったんです。」
「へ!?じゃあ、ツーヤ、今日から貴族になるの!?」
プリネの説明を聞いて驚いたエステルはツーヤに尋ねた。
「ええ。確かにある程度の身分は貰う事にはなっていますけど……あたしはあたしです。だから今まで通り、接してもらえないでしょうか?」
「当り前だよ!だって、ツーヤちゃんはミントとティータちゃんの友達なんだから!」
「う、うん!ミントちゃんの言う通り、外見が代わったり、偉くなってもツーヤちゃんはツーヤちゃんだもの。」
「ありがとう、ミントちゃん、ティータちゃん。」
ミントとティータの言葉を聞いたツーヤは微笑んだ。そしてプリネとツーヤはレンと同じように広間の横に移動して、静かに待った。
「やっほ。久しぶりだね。」
そして少し時間が経つと今度はエヴリーヌがプリネ達と同じように広間に入って来た。
「エヴリーヌ!久しぶり!そう言えば、あたしが渡した剣を直すために遠い所まで行ったって聞いたけど……剣、直った?」
「ん。ちゃんとウィルが直して、今日持って来たよ。エステル、運がいいね。」
「へ………?」
エヴリーヌからどこか聞き覚えのある名前が出た事にエステルは首を傾げたその時
「……君がリフィアとエヴリーヌが言っていたエステルさんか。」
「フフ……まさかこんな形で会う事になるとは思いませんでしたね、ウィル。」
「やれやれ………ウィルみたいな同類が他にもいたなんてね………」
ウィル、セラウィ、エリザスレインが広間に入って来てエステル達に近付いた。
「えっと……?」
ウィル達を見たエステルは首を傾げた。
「初めまして。俺の名はウィルフレド・ディオン。みんなからは”ウィル”って呼ばれているからよければ、エステルさん達もそう呼んでくれないかな?」
「ウィルの妻のセラヴァルウィ・ディオンです。皆さんからは”セラウィ”と呼ばれていますので、ウィルと同じようにそう呼んで下さい。」
「………エリザスレインよ。ウィルやセラウィ、そして貴女が契約している”炎狐”の仲間よ。」
自分達を見て首を傾げているエステル達にウィル達は自己紹介をした。
「え!?じゃあ、貴方がサエラブが言っていたウィルさん!?」
「”ウィル”でいいよ。その代わり、君の事も”エステル”でいいかな?」
「う、うん……そうだ!サエラブ!」
ウィルの言葉に頷いたエステルはサエラブを召喚した。
「やあ、久しぶり、永恒。」
「お久しぶりですね。」
(……久しいな。ウィル、セラウィ。それとエリザスレイン。天使のお前がこの場にいるのは驚いたぞ。)
懐かしそうに話しかけて来るウィルやセラウィに口元に笑みを浮かべて答えたサエラブはエリザスレインを見た。
「……私はユイドラ近辺の種族の代表として、ウィルがメンフィルに騙されないよう、見張る事とウィル達を守るために一緒に来ているだけよ。」
(ほう……以前は共に戦っていた時も一線を引いて接していたお前も変わったな……)
「貴方こそ、変わったわね。まさかウィル以外の人間と行動を共にするとはね。」
サエラブの念話にエリザスレインは答えた。
「”永恒”?それってもしかしてサエラブの事……?」
一方エステルはウィルがサエラブにある名で呼んだ事に首を傾げた。
「あれ?永恒、契約もしたのに教えてなかったんだ。」
(……教える機会がなかっただけだ。)
ウィルの疑問にサエラブは気不味そうな様子で答えた。
「えっと……もしよければ、教えてもらってもいいかな?ウィル。」
「そうだね……永恒と契約している君は知っておくべきだね。」
そしてウィルは”サエラブ”という名はあくまで種族名であり、個人として真の名がある事を教えた。
「そうだったんだ………全く。黙っているなんて、水臭いわよ?”永恒”。」
ウィルの説明を聞いたずっと黙っていたサエラブに呆れた後、サエラブの真の名――永恒の名を呼んだ。
(お前と契約した当初はお前を見極めるために黙っていただけだ。だから、そう膨れるな。)
「へえ………」
「驚きましたね……あれだけ誇り高い性格をしているサエラブがウィル以外の人間を認めていたなんて……」
「それだけ、その娘にはウィルみたいに種族に拘らず”人”を引きつける力があるみたいね。(……まさか”運命”を変える力も持っているのかしら?)」
エステルがサエラブの真の名を呼んだ事に怒らないサエラブを見たウィルとセラウィは驚き、エリザスレインは興味ありげな目でエステルを見ていた。
「ウィル。直した剣や改造した剣をエステルに渡さなくていいの?」
「あ、うん。実はリフィアから頼まれて、もうリフィアに渡してあるんだ。なんか自分の手で渡したいらしくて……」
「フーン……」
ウィルの話を聞いたエヴリーヌは相槌を打った。
「え……じゃあ、もしかしてこの棒を作ったり、剣を直してくれたのはウィルだったの!?」
エヴリーヌとウィルの会話を聞いていたエステルは驚いた表情で尋ねた。
「ああ、そうだよ。」
「こいつは驚いたな………俺達とあまり変わらないように見えるのにあれほどの武器を作るなんて………」
「ああ、機会があったらぜひ、俺達の分も作ってくれないか?」
エステルの疑問に答えたウィルをアガットは驚いた表情をしてウィルを見、ジンは頷いた後尋ねた。
「依頼をしてくれたらいつでも作るよ。それが”工匠”だからね。」
「ハア………”工匠”というけど、今の貴方は領主でしょうが………セラウィ。あの戦いが終わってもウィルはずっとこんな感じなのかしら?」
ウィルの言葉を聞いたエリザスレインは呆れた表情で溜息を吐いた後、セラウィを見た。
「ええ。あの時と変わらず、ウィルは領主の仕事をしながら工房を経営していますよ。」
エリザスレインの疑問にセラウィは微笑みながら答えた。
「まあ………領主の方だったんですか……お若いのに立派ですね………」
ウィルを領主と知ったクロ―ゼは驚いてウィルを見た。
「ハハ……セラウィやみんなが協力してくれているお陰だよ。さて……他の人達も来たようだし、俺達は端の方で見ているよ。」
そしてウィル達は広間の端の方に移動した。ウィル達が移動した頃には広間にさまざまな人物達が広間に入って来た。その中にはティアやサフィナ、ファーミシルスにシェラ、リスティといった、エステル達が過去に出会った人物もいた。
「あ………………」
エステルは広間に入って来て、シルヴァンとカミ―リの登場を待つ人物の中で2人のある人物達を見て、声を出した。
「エステルさん?どうかしたのですか?」
エステルの様子に首を傾げたクロ―ゼは尋ねた。
「うん………あそこにいる黒髪の女の人と金髪の男の人………ラピスとリン、それぞれの子供達なんだ………」
「え…………」
「ほお………じゃあ、ある意味お前さんの子供達という訳か。」
エステルの話を聞いたクロ―ゼは長い黒髪の一房に纏めてなびかせて、翡翠と紅のオッドアイの瞳を持つ女性――ラピスとリウイの娘、アリアと太陽に輝くような金髪で紅い瞳を持つ男性――リンとリウイの息子であり、アリアの夫、グラザを見て驚き、ジンは感心したような声を出して呟いた。
「あはは………まあ、2人の魂と同化したあたしにとってはある意味そうかもしれないわね。」
ジンの言葉に苦笑したエステルはアリアとグラザを見ていた。エステルの視線に気付いたのか、アリアとグラザはエステルを見た。
「「……………………………」」
アリアとグラザはエステルをしばらくの間見た後、それぞれ微笑んだ。
(?どうして2人とも、あたしを見て微笑んでいるんだろう………?)
2人に微笑まれたエステルは首を傾げたその時
「皆、揃っているようだな。」
シルヴァン、カミ―リ、リフィアが登場し、シルヴァンは玉座、カミ―リとリフィアは玉座の隣にそれぞれ用意されてある豪華な椅子に座った。シルヴァン達が登場すると同時にエステル達やウィル達以外の広間にいた人物達は片膝をついて全員跪いた。
(わわっ。ねえ、クロ―ゼ。あたし達もレンやプリネ達みたいに跪かなきゃダメなのかな?)
周囲の様子を見たエステルは慌てた後、小声でクロ―ゼに尋ねた。
(いえ………私達は客人なので必要ないと思います。その証拠にエヴリーヌさんやウィルさん達は立っていますし……)
(あ、ホントだ………)
クロ―ゼに言われたエステルは広間の端の方で立って見ているウィル達やエヴリーヌに気付いた。
「みんな、楽にしていいわよ。」
「うむ。ここにいるのはマーシルン家に縁深い者達。だから、固くする必要等ない。」
カミ―リとリフィアの言葉を聞いたプリネやレン達、跪いていた人物達は立ち上がり、姿勢を楽にした。
(?誰かに見られているような……)
一方視線を感じたエステルが視線を感じた方向に向いた時、ある人物達がいる事に気付いた。
(聖女様……カーリアン……リウイ……え!?う、嘘!?リウイの隣にいる人って…………イリーナ様じゃない!)
ペテレーネやカーリアン、リウイに気付いたエステルはリウイの隣にいる淡い緑のドレスを着た金髪と金の瞳を持つ女性――イリーナに気付いて信じられない表情をしていた。
(な、なんで……!?………あ、そっか。イリーナ様も転生したんだったわね………って!確か武術大会で言ってたカーリアンの話では、まだ目覚めていないはずだったのに……いつ、目覚めたんだろう?)
2人の記憶の中にあるイリーナを見て混乱していたエステルだったが、2人の受け継いだ記憶で納得しかけたが、ある事を思い出して声を出さないよう、口を抑えて驚いていた。
「フフ……あの娘がラピス姫とリン姫の魂を受け継いだ娘ですか……それにしても私を見て、驚いているようだけど、一体どうしたのでしょう?」
一方広間の端でリウイとペテレーネ、カーリアンと共に見守っていたイリーナはエステルを見て微笑んだ後、エステルが自分を見て驚いている事に首を傾げた。
「……プリネの話では2人の記憶を受け継いだそうだからな。今のお前を見て、驚くのも無理はない。」
「そうね。あの2人の記憶ではイリーナ様は亡くなっていた状態で止まっていただろうから、そりゃ驚くわよ。」
「なるほど………それよりあなた。魔に堕ちようとしたあなたを止めたエステルさんへの褒美を聞いたけど、本当にそれでいいの?」
リウイとカーリアンの言葉を聞いて納得したイリーナはリウイに尋ねた。
「ああ。あの2人の子供であるアリアとグラザも賛成したし、いいだろう。」
「そう。……フフ。エステルさん、きっと驚くでしょうね。」
「はい。………始まりはリスティさんやマーリオンさんと友人になった事でしたけど、その事がきっかけでこんな事になるとは思いませんでした。プリネも本当にいい友人が出来たものです……」
「本当に……ね。全く……驚かされるのはリフィアだけで十分だったのに………けど、ま。本当に面白い娘ね♪」
リウイの話を聞いたイリーナやイリーナに同意したペテレーネやカーリアンは微笑みながらエステルを見ていた。
そしてシルヴァンはエステルが魔に堕ちようとしたリウイを止めた事や仲間達と共にプリネを眠らせた昏睡事件の犯人を見つけ、術を解かせた事を広間にいる全員に伝え、それらの件でエステル達に褒美をこの場で与える事、そして同時に新たなマーシルン家の縁者となるツーヤの叙任をする事を広間にいる全員に伝え、まず最初にツーヤの叙任式から始まった…………
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第246話