~ミストヴァルト・セルべの大樹~
「エステル!しっかりしなさい!」
「ン……」
シェラザードの呼ぶ声に気付いたエステルは目を開けて、起き上がった。
「あれ……シェラ姉……」
「エステル!?よかった……起きてくれたのね!」
「あ……うん……。会いたい人に会えた気がする……!!(そっか……あたし、ラピスとリンと一緒になったんだ……)」
安堵の溜息を吐いているシェラザードに答えたエステルはすぐに眠っていた間に起こった事柄を思い出した。そして気を引き締め、未だ眠っている3人に怒鳴った。
「3人とも!幸せなだけの時間は終わりよ!今の現実に戻ってきて!」
「エ、エステル!?」
エステルの行動にシェラザードは驚いた。そして少ししてから3人はそれぞれ目を開けて、体を起こした。
「あ……エステルさん……」
「そうか……夢に決まってるよな。」
「おはよう~、ママ!」
エステルの一喝によって起きたクロ―ゼは驚いた表情でエステルを見て、アガットはどこか悲しい雰囲気を纏わせて呟き、ミントは無邪気な笑顔を見せた。
「よかった……みんな目を覚ましたわね。」
「はあ……あんたには驚かされるわ。自力で起きたばかりか他の人まで起こすなんてね。さてと、それはともかく……」
エステルの行動に驚いた後、シェラザードは大樹を睨んで叫んだ!
「いるんでしょ!ルシオラ姉さん!」
「え……」
「ふふ……やっと呼んでくれたわね。」
シェラザードの言葉にエステルが驚いている中、鈴の音が鳴り響き、黒衣の女性がエステル達の目の前に現れた!
「なっ……!?」
「……やっぱり……」
突如現れた黒衣の女性にエステルは驚き、シェラザードは納得した様子で黒衣の女性を睨んだ。
「久しいわね、シェラザード。8年ぶりになるかしら?」
黒衣の女性は懐かしそうな表情を見せて、シェラザードに声をかけた。
「ええ……そうね。まさか姉さんがこんな事をしてるなんて……。いったい、どういう事なの?」
「ちょ、ちょっと待って!この人……シェラ姉の知り合いなの!?」
女性と知り合いのように話すシェラザードに驚いたエステルが尋ねたその時
「ふふ……つれないわね、おチビさん。あなたとも何度か会ってるはずなのだけど。」
「へっ?」
女性の言葉にエステルは首を傾げた。
「一緒にタロット遊びをした幻術師のお姉さんのこと……覚えていないかしら?」
「!!!」
女性の言葉から幼い頃かつてシェラザードが所属していた一座――ハ―ヴェイ一座に行き、そこで出会った人物の事を思い出して、顔色を変えた。
「あ、あそこにいた……。たしか……ルシオラお姉ちゃん!」
「ふふ、正解よ。執行者No.Ⅵ。『幻惑の鈴』ルシオラ。今はそう呼ばれてるけどね。」
エステルの言葉に頷いた女性――『執行者」の1人、ルシオラは妖艶な笑みを浮かべて自分の事を答えた。
「ど、どうして……」
「ふふ、シェラザード。あなたは気付いていたみたいね?」
「鈴を使った幻術……。姉さんの十八番だったから。ロレントで発生した霧も幻術とか言わないでしょうね?」
「ふふ、まさか。あれは今回の実験のため、『ゴスペル』が起こした現象よ。人々の夢に干渉するための触媒といったところかしらね。」
シェラザードに睨まれながら尋ねられたルシオラは口元に笑みを浮かべて説明した。
「触媒……。まさか『ゴスペル』というのは人の精神にも干渉するというの!?」
ルシオラの説明を聞いたシェラザードは信じられない表情である推測をして尋ねた。
「ふふ、そうみたいね。私の鈴はあくまで誘導……。幻術とは比べ物にならないリアルな夢を構築するわ。苦しみも哀しみもないただひたすら幸せな夢をね。」
「チッ……ふざけやがって………」
「「……………………」」
(あれ?あたしは夢とか見なかったんだけど……ラピス達のお陰かな??)
ルシオラの説明を聞いたアガットはルシオラを睨み、クロ―ゼやミントは不安そうな表情になり、エステルは首を傾げていた。
「……くっ……」
「ねえ、ルシオラ……さん。どうして『結社』ってこんな事ばかりするわけ?こんな実験を繰り返して何をしようとしているの?」
シェラザードが唇をかみしめている中、エステルは真剣な表情でルシオラに尋ねた。
「私はただの『執行者』。『使徒』の手足として動くもの。その意味では、今回の計画の手伝いをしているに過ぎないわ。詳しいことは教授とレーヴェに聞きなさい。」
「教授、レーヴェ……。何度か聞いた名前だけどそれっていったい誰なの?」
「時が来れば分かるでしょう。ちなみに2人とも、あなたと面識があると聞いたのだけど。」
「えっ……」
ルシオラの話を聞き、エステルは驚いている中、シェラザードは静かに問いかけた。
「………………………………。……ルシオラ姉さん。これだけは言わせてくれる?」
「あら……何かしら」
「最初、あたしはリベールに長居をするつもりはなかった……。姉さんが帰ってくるまでの間、身を寄せるだけのつもりだった。でも、あれから8年が過ぎた。今の私には、友人や仲間たち、家族同然の人たち、そして誇りに思っている仕事がある。もう……ハーヴェイ一座の踊り子シェラザードじゃない。」
「シェラ姉……」
「………………………………」
シェラザードの言葉にエステルは驚き、ルシオラは黙って聞いていた。
「この新たな故郷……仇なすならたとえ姉さんでも許さない!」
「ふふ……それでいいわ。あなた達にとって『結社』はあまりにも強大よ。全力で立ち向かってきなさい。」
鞭を構え、自分を睨みつけるシェラザードを見たルシオラは満足げな笑みを浮かべた後、『ゴスペル』を回収した。
「あっ!」
「ふふ……近いうちにまた会えるわ。つもる話はその時にでも……」
ルシオラが武器である鉄扇を両手に構え、何かの術をしようとしたその時!
「………そう易々と逃がすと思っているのか?セオビット、マーリオン!」
「はい、父様!突闇剣!!」
「行けっ……!水弾………!!」
ルシオラに向かって、暗黒の力を纏った斬撃による衝撃波や水の魔術がルシオラを襲った!
「!?何者!」
衝撃波や魔術に気付き、消えようとしたルシオラは行動を中断して、回避して、攻撃が来た方向を睨んで叫んだ。
「………………………」
「ふふっ……………ようやく見つけたわ♪」
「………エステルさん………」
すると怒気と闘気を最大限に出し、レイピアを片手に持ったリウイと凶悪な笑みを浮かべ、魔剣を持つセオビット、そしてどこか辛そうな表情をしているマーリオンがエステル達の背後から現れた!
「へ、陛下………」
「マ、マーリオンまで………」
リウイ達の登場にクロ―ゼやエステルは驚いた。そして3人は静かにルシオラに近付き、それぞれの武器を構えた。
「……貴様が『黒衣の女』……『執行者』か。」
「………!け、”剣皇”…………!!」
リウイに睨まれたルシオラは信じられない表情で呟いた。
「………我が半身と娘に手を出した報い……受けてもらうぞ。」
「な、何の事ですか……?」
リウイがさらけ出す怒気と闘気に呑まれたルシオラは震えながら尋ねたが
「これから死に行く者に答える必要はない。……行くぞ。」
リウイは答えず、レイピアを構えた!
「クッ………!」
リウイの言葉に顔を歪めたルシオラはエステル達が先ほど戦った巨大な霧魔を含めた配下の霧魔を何体も召喚した!
「………セオビット、マーリオン。雑魚は任せたぞ。」
「はい、父様♪こんな雑魚共、すぐに滅してみるわ♪」
「……お任せを………」
(っつ!何とかして、撤退しないと………!)
リウイ達と戦う事になったルシオラは顔を歪めて、どのようにしてリウイ達から逃れるか武器を構えて、考えた。
(ククク……そうだ、憎しみに囚われろ……!そしてその女を憎しみに身を任せ、残虐に殺せ………そうすればリウイ、貴様は闇の魔王に……!)
一方その様子を赤髪と茶色の瞳のワイスマンは木の陰から凶悪な笑みを浮かべて見ていた。
そしてリウイ達はルシオラ達に戦闘を仕掛けた……!
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第241話