「うーん……」
斬山刀を肩に担ぎ洛陽を見つめる文醜。
何故か無表情で唸っていた。
「斗詩ー」
「なぁに文ちゃん?」
「一刀、あたいらの味方じゃないのかな」
傍らに居た顔良は眉間に皺を寄せる。
数秒思案した後、首を横に振った。
「……違うよ、きっと」
蘇った記憶を辿り、一刀の面影を偲ぶ。
先日会った一刀は、獣の様にギラギラと瞳を光らせていて、顔良の知っている彼のそれではなかった。
「でも」
だが、彼が立ち去る際一瞬振り向いた時の表情。
その表情が、彼女らの記憶にある一刀の面影とどうしようもなく重なるのだ。
顔良は言葉を続けず、文醜と共に洛陽を見つめる。
「……強かったなぁ」
不意をつかれた。
だが確実に、文醜の知る一刀の力量ではなかった。
一合のもと武器を弾き飛ばされ、成すすべなく唇を奪われた。
それにより蘇った記憶。あの場面で接吻など、普通は考えられない。
記憶を蘇らせるために行った行動。頭は良くないと多少自負している文醜にも、その程度は理解できた。
「一刀さん本人に聞くしかないよね」
戦に負け、麗羽や美羽、銀華と共に旅した記憶。
そして、一刀の強さ。
二人は武器を強く握り直し、意を決する。
「……おいおい、何でこんなにこっちにくるんだよ」
大した損害無く、董卓軍の総戦力がこの洛陽に揃っている。
なので籠城前に一当てし、できるだけ敵戦力を削ぐ事になった。
まぁあの呂布を筆頭に、張遼や銀華まで健在なら悪い戦略じゃない。
ただ、敵陣の動きが予想を外れた。
今相対しているのは袁紹軍と劉備軍の混合軍。
中央は呂布。左翼に張遼、右翼に俺がいるわけだが、敵の布陣がどうもおかしい。
旗を見るに呂布には星と関羽。そして俺の方に斗詩と猪々子、そして張飛。
左翼へ敵将はいないらしく、あきらかに多くの袁紹軍が詰め寄っていた。
何で呂布より多くの武将がこっちにくるんだよ。
銀華は他にやることがあるから外してるってのに。
「一刀ーーー!!!」
敵兵を掻き分けこちらへ突撃してくる影。
……はぁ、麗羽らへんに漏らして軍を乱してくれると思ったんだがな。逆効果になっちまったか。
駆ける馬から飛び降りると同時に、猪々子が切りかかってきた。
初撃を受け止め、数合切り結ぶ。
甘く振られた横薙ぎを軽くいなし、半身で肘を打ち込むが片腕で防がれる。
続けざまに足裏を叩き込むと猪々子は武器を盾にそれを防ぎ、勢いに抗わずそのまま距離をとり構えを解いた。
「はー。やっぱ強いな一刀!前はあんなに頼りなかったのに」
「俺にとっちゃこれが普通なんだがな。前の俺については、今はよく分からん」
前、というのは麗羽達と旅をした記憶の事だろう。
その時の俺は今じゃ考えられないほど弱く、甘い奴だった。
「でも一刀は、あたいの知ってる一刀なんだろ?」
にやけ顔で聞いてくる猪々子だが、その瞳からは不安が読み取れる。
気丈に振舞うその姿に、意図せず微笑がもれ口が開く。
「まぁ、そうなんだろうな」
俺の返答に満足げに頷く猪々子。
「なら問題無いな。斗詩!」
猪々子の呼び声と共に現れる斗詩。
不安そうな表情とは裏腹に、武器をしっかり構えている。
「一刀さん。いろいろ聞きたい事があるので、無理にでも着いて来てもらいますよ」
「そう言うことだから。二対一でも文句言うなよ。今の一刀すごい強いから」
おいおい……流石にこの二人を相手にするのは辛いだろう。
じりじりと距離を詰められる。
どうする。やはり戦うしかないのか?
だがここで万が一でも負けてしまえば銀華のいない右翼は敗北を免れない。
思考が固まらないうちに、二人が駆け出した。
「ちぃ!」
仕方なく武器を構える。と、そこへ小さな影が間に入り込んできた。
丈八蛇矛を上に掲げ、二人の豪撃を受け止める。
「お姉ちゃん達には悪いけど」
武器を上へ弾き、振り返り様蛇矛の切っ先を俺へ向けた。
「お前は鈴々が倒すのだ!」
影の正体は燕人張飛。
赤髪の少女が、闘志を燃やし俺と相対していた。
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次のupは久遠になると思います。