~遊撃士協会・グランセル支部~
「あら、レンが養女だって事には気付いていたのね。まあ、レンは”人間”なんだし気付いてもおかしくないし、ママと親しいそこの銀髪のお姉さんならレンの事を知っていても不思議ではないしね。……あの時、エステル達にパパ達――ニセ物の方だけど、そっちの話は本当よ?レンには小さな頃、ニセ物のパパとママがいたわ。2人とも大好きだったけどお仕事が失敗しちゃってね。レンのこと、悪い大人たちに引き渡しちゃったのよ。『必ず迎えに行くからね』って泣きながら何度も繰り返してね。」
「そ、それって……」
楽しそうな表情で語るレンの話にエステルは信じられない表情をしていた。
「その人たちに引き取られた後、レンは色々なことをやらされた。大抵のことはすぐに慣れたけど痛くされるのだけは慣れなかった……。同じくらいの子たちもいたけどすぐに具合を悪くしちゃって居なくなっちゃうことが多かった。そんな生活が半年くらい続いたわ。」
「……くっ……」
「クソ野郎どもが………」
「さすがにこのボクも言葉がないよ……」
「「……レン……ちゃん……」」
「………女神よ………」
(……ん?待てよ……確か数年前に今聞いた話に近い事の大事件があったぞ………まさか、この娘はあの事件で生き残った……)
どことなく儚げな表情で語るレンの話を聞いたエステルやアガットは悔しがり、オリビエもさすがにいつもの調子で場を和ませる事はできず、ティータとミントは悲しそうな表情でレンを見て、クロ―ゼは悲しそうな表情で祈り、ジンはレンの話を聞いてある事件を思い出して信じられない表情でレンを見た。
「――――『D∴G教団』事件。ママの弟子のお姉さんやギルドの受付さんやA級正遊撃士のオジさんなら、聞いた事があるんじゃないかしら?」
「なっ!?」
「何故貴女があの教団の事を……!」
(………やはりか。まさか、こんな形で会う事になるとはな……)
(ほう……ここであの教団の名が出るとは思わなかったねぇ……)
レンの口から出た信じられない言葉を聞いたシェラザードとエルナンは目を見開いて驚き、ジンは冷静な様子で心の中で納得し、オリビエは驚いていた。
「『D∴G教団』?何それ?聞いた感じ、今ある宗教とは別の宗教の団体かしら?」
「「「………………………」」」
首を傾げているエステルの問いにエルナンとジン、シェラザードは押し黙っていた。
「あ、あのエルナンさん?」
「一体どうしたんだ?」
エルナンの様子を見たエステルは戸惑いながら尋ね、アガットは訝しげな表情でエルナンを見た。
「………あの事件を知っているお二人にお尋ねします。今、この場にいる全員に聞かせていいと思いますか?」
「……あたしは作戦に参加した訳じゃないから何とも言えないけど……あの教団の名を知った以上、知っておくべきだと思うわ。下手に口にして、他人に尋ねられて貰う訳にもいかないし。」
「俺も同じ意見だ。あの忌まわしき事件はとてつもない秘匿性が秘められているからな。」
エルナンに尋ねられたシェラザードとジンは静かに頷いた。
「………わかりました。『D∴G教団』………空の女神(エイドス)を否定する組織で数年前、リベールを含め、各国の子供を攫っていた歴史上最悪の組織でした。……その非道さは『結社』とは比べ物にならないくらいのものでした。」
「け、『結社』とは比べ物にならないって、一体どんな事をしたの……!?」
「………女神を否定するためにガキを攫いまくって一体そいつらは何がしたかったんだ?」
「子供を攫って、一体何をしたのでしょうか……?」
エルナンの話を聞いたエステルは驚き、アガットは眉を顰め、クロ―ゼは不安そうな表情で呟いた。
「教団の真の目的は事件解決後である今も、未だに不明なのですが………彼らがやっていた事はまさに外道と言われるあまりにも非道な所業でした。」
「い、一体何をしたんですか……?」
ティータは不安そうな表情で尋ねた。
「……教団はその子供達を使って、”儀式”という名の人体実験を行っていたのです……」
「じ、人体実験……」
「外道共が………!」
「あまりにも酷過ぎます………!」
「そうだよ……!なんで、そんな事ができるの!?」
「ふえっ……!」
エルナンの話を聞いたエステルは信じられない表情をし、アガットやクロ―ゼ、ミントは怒り、ティータは泣きだした。
「………事はあまりにも大きかった為、リベールを含めた3国に加え、クロスベル警察、遊撃士協会、そしてあのメンフィルもが協力してようやく教団が持つ複数の”拠点”を見つけ、教団員の撃破、そして拘束及び、子供達の救出を行ったのです。……指揮は当時A級正遊撃士であったカシウスさん――エステルさん、あなたのお父さんだったのです。」
「と、父さんが!?」
カシウスが指揮をとっていた事を知ったエステルは驚いた。
「ええ。そこにいるジンさんも作戦に参加したメンバーの一人です。」
「ジ、ジンさんが!?」
「……まあな。だが、俺は結局誰一人救える事はできなかったがな……」
エステルに驚かれたジンは静かに頷いた後、暗い表情をしていた。
「誰一人救えなかったって………まさか!」
「………ええ。教団員達から子供達を守ったメンフィル以外の各国から攫われた子供達の中でまともな状態で生存し、救出できたのは…………僅か2名です。」
「に、2名って………あまりにも少なすぎじゃない!他の子供達は!?それにまともな状態って、どういう事!?」
エルナンの説明を聞いたエステルは呆けた後、怒りの表情でエルナンに尋ねた。
「その2名以外はもはや人間の形をしていない子供……身体が別れている子供等、あまりにも酷過ぎる状態で死んでいたのです……」
「そ、そんな………!」
「ひ、酷い……酷過ぎるよ!」
「クソ野郎どもが…………!」
「…………女神よ…………」
「ふええええん!」
エルナンの話を聞いたエステルは信じられない表情をし、ミントは涙を流しながら怒り、アガットは最大限の怒りの表情をし、クロ―ゼは涙を流しながら祈り、ティータはエステルに抱きついて泣きだした。
「……それで教団員達はその後、どうなったんだい?」
オリビエは冷静な様子で真剣な表情をして尋ねた。
「……奴らは自分達が敗北しそうになると自爆、もしくは毒を呑んで全員自殺した。………だから未だに教団は結局何をしたかったのか未だにわかっていない状況だ。」
「と、とんでもない狂人の集団だったのね………ってレンがその事件を知っているって事はまさか!!」
ジンの説明を聞いたエステルは信じられない表情をした後、ある事に気付いてレンを見た。
「うふふ、察しがいいわね。……そうよ。レンは攫われた子供の中で”幸運”にも生き残っていた2人の内の1人よ。ニセ物のパパ達はそうと知らずにレンを教団の拠点に預けたみたいよ?」
エステルに見られたレンはどこか儚げな表情で答えた。
「………………」
「ヒック!レ、レンちゃんが………」
「そんな………」
「まさか貴女がそうだったとは…………」
レンの話を聞いたエステルはかける言葉がなく暗い表情をし、ティータはしゃっくりをあげながらレンを見、ミントは信じられない表情でレンを見、エルナンも信じられない表情でレンを見ていた。
「………レンちゃん。………お祖母様やエルザ大使がレンちゃんの名前に聞き覚えがあると言っていたのですが……もしかして……」
「……例の教団の事件についての話しあいでリベールはアリシア女王、エレボニアはゼクス少将、カルバードからはエルザ大使、そしてクロスベル警察からはセルゲイという人が代表で話しあったって聞いた事があるから、事件解決後、被害者の中で生存していたレンの事を聞いていたんじゃない?」
(……まさか、ここで先生の名前が出て来るとはね……)
クロ―ゼの疑問に答えたレンの話を聞いていたオリビエは意外な人物の名前が出た事に驚いていた。
「……例の教団の”拠点”を攻撃する際、メンフィルからは”剣皇”、”戦妃”、”空の覇者”そして”闇の聖女”が参加したと聞きます。もしかして貴女はその時、リウイ皇帝陛下達に拾われたのですか?」
「ええ、そうよ。パパ達に拾われてからのレンは今までにない幸せを手に入れ、いろんな事を学んだわ。たくさんの家族、行儀作法に帝王学に戦闘技術に用兵術、そして若くて強くて素敵なパパと優しくて綺麗なママをレンは手に入れ、小さい頃から憧れていたお姫様になったのよ♪どう?”闇の聖女”――ペテレーネママに憧れているエステルなら、レンが今、どれだけ幸せかわかるでしょう?だから、レンを哀れむ必要なんてないわ♪今のレン、とっても幸せだもの♪」
エルナンに尋ねられたレンは心の底から幸せになっているかのような表情でエステルを見た。
「…………………」
レンの笑顔を見たエステルは複雑そうな表情をして黙っていた。
「……確かにメンフィル皇家の一員、それもリウイ皇帝陛下とペテレーネ様を両親に持つなんてこれほど幸せな事はありませんが………レンちゃんは本当にそれでいいのですか……?リウイ皇帝陛下達はレンちゃんの実の親ではないんですよ……?」
「そうだよ!レンちゃんの本当のパパとママは絶対どこかにいるんだよ!?」
クロ―ゼは不安そうな表情でレンに尋ね、ミントも頷いて指摘した。
「うふふ、よりにもよってお姫様とミントがそれを言うとは思わなかったわ。……エステルの事を”ママ”と呼んで本当の親のように慕っているミントがレンにその事を言えるのかしら?」
「それは………」
レンの指摘にミントは俯いて何も言えなくなった。
「お姫様もそうよ。お姫様が言っている事を言いかえれば、お姫様にとってかけがいのない場所であるマーシア孤児院の子供達や院長先生の絆を否定する事になるのよ?」
「!!…………そ……れ………は………………」
同じようにレンに指摘されたクロ―ゼは目を見開いて驚いた後、押し黙った。
「さて……なんだか雰囲気が暗くなってきたし、レンはもう帰るわね。……その前にエステル、渡す物があるかレンの前に来てくれないかしら?」
「え………何をするつもり。」
レンに指名されたエステルはレンの壮絶な過去に呆けていたが、レンに指名された事で気付き、警戒した表情でレンに近付いて来た。
「うふふ、そんなに警戒しなくても何もしないわよ♪……昨日エステルに渡した手紙のお詫びにいい物をあげるわ♪はい。」
そしてレンは数枚の写真をエステルに渡した。
「写真?………え。」
写真を渡されたエステルは首を傾げていたが、写真に写っていた黒髪の少年――ヨシュアやヨシュアがジョゼット達と共に会話をしている様子の写真を見て呆けた。
「うふふ、それは特務兵の姿をした人形兵器に内蔵されてあった小型の導力カメラが撮った写真よ♪一枚は壊された後、カメラが生きていたお陰で唯一撮れた写真だから、運が良いわね?エステル♪」
「……これ………どこで……いつ……撮ったの………?」
エステルは写真を見て、身体を震わせた後信じられない表情でレンに尋ねた。
「秘密……と言いたい所だけど、お姉様達のお友達のエステルには特別に教えてあげるわ。その写真はレンとエステルが一緒にお泊まりした日に西ボース街道で撮られた写真よ♪」
「一昨日……ボース…………」
レンの答えを聞いたエステルは写真を見て、1人呟いていた。
「うふふ。それでは、みなさん。御機嫌よう。ロレントの大使館に来た時は今度は本物の”お茶会”をしましょうね♪」
そしてレンは両手でスカートの端をつまみ上げて頭を下げた後、転移魔術を使って、その場から消えた。
その後エステルは仲間達からレンから渡された写真の事を尋ねられたが誤魔化し、そして気を取り直したエステル達は次なる目的地であるボースへと向かう為に空港に向かった。定期船が来て、仲間達のほとんどが飛行船に乗り、エステルも乗り込もうとしたその時、ナイアルとドロシーが慌てた様子で駆けつけて来て、ドロシーが渡した写真――空賊に奪われた空賊艇とジョゼットと共に写っている人物――ヨシュアを見たエステルはさらに驚いた後、飛行船に乗り、複雑な思いを抱えてボースへと向かった。一方その頃。プリネはイリーナ、ツーヤ、そしてリタと共にフィニリィの探し人が見つかり、大騒ぎになっている自治州――クロスベル市に数日前に入国しており、フィニリィの探し人が現れるのを待っていた…………
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第227話