なのは達と戦った後、俺は一人で屋根に上って月を見上げる。今夜は綺麗な満月だった。満月は人の感情を高ぶらせるという話を聞いたことがある。
「・・・だからかな?こんなにも胸が・・・痛いのは?」
本当はなのは達と戦いたくなんて無い。でも、どうしようもない・・・仕方が無いことだ。そう自分に言い聞かせてやってきた。
・・・だから、俺はもう泣かない。涙を流す資格なんてないんだ。
「やっぱり此処にいたか・・・。」
俺が満月を見上げていると後ろから声を掛けられた。
「シグナム・・・。」
前回と同じようにそこにシグナムがいた。
「・・・辛いか?また胸を貸してやってもいいんだぞ?」
「・・・ありがとうな、シグナム。でも、もういいよ。俺には涙を流す資格なんて無いよ。」
正直、もうあんなのはごめんだ。恥ずかし過ぎる。
「っ!?そのようなことは無い!!お前は泣く権利がある!!」
その言葉は俺にとってとても嬉しかった。でも、
「無いよ。大事な友人をこの手で傷つけて、泣かせた奴に泣く権利なんか無い。」
「っ!だが、それは「いいんだ、シグナム。お前がそう言ってくれるだけで十分救われているか
ら。」・・・。」
俺は情けない男だ。本当ならここに来るのだって、皆に気付かれないように来たんだけどな。
「・・・わかった。零冶がそう言うのなら、仕方ない。さぁ、もう部屋に戻ろう。今夜はかなり冷えるから、風邪を引くぞ?」
「ああ、そうだな。」
そして俺は部屋に戻って寝た。
今日で23日になった。はやての容態がかなり回復した為、計画は明日決行することにした。そしてその日の朝、
「・・・・・・・・どうしてこうなった?」
俺は朝の心地よい光に照らされて眠りからゆっくりと目覚めた。布団の中はとても温かく、眠気を誘うが今日ははやてに明日の事を知らせないといけないので早めに起きようとした。そしたら・・・
「・・う・・うう~ん・・・すー、すー。」
シグナムが隣で寝ていた。隣で寝ていたんだ。大事な事だから二回言ったぞ?
「・・・このままシグナムが目覚めると・・・・・・・・・・・殺されるかもな。」
うら若き女性が隣で男と寝ているのだ。普通なら叫び声を上げてボコボコにされるというのがお約束だろう。羨ましいと思うかもしれないが、よく考えてみて欲しい。普通の女性ならまだ良いだろう。でも、相手はシグナムだ。百戦錬磨の戦士だぞ?さらに、いつもならレヴァンティンを置いているはずなのに、何故か今日に限って携帯していた。
「・・・・・取りあえず、起こさないように布団から出るか。」
俺はゆっくりと布団から出ようとすると・・・
「う・・・ぅんん?・・・・・・・・・・・・れい・・・じ?」
バッチリ目が合ってしまった。しかも至近距離で。
「あ、ああ・・・おはよう、シグナム。」
取りあえず挨拶をしてみたが何の解決にもなっていない。
「・・・・?・・・っ!!!!?」
そして現状を理解したのか、シグナムの顔が見る見るうちに赤く染まっていく。そしてレヴァンティンを掴んだ。
・・・ああ・・・死んだな、俺。
少々お待ち下さい。
一通りボコした後シグナムは少しだけ落ち着いたようだ。
「な、ななななななんで零冶が私の布団に!!!?」
それは俺の台詞だ!
「お前が入ってきたんだバカ野郎。」
「なっ!?そんなはずは・・・・・あ。」
シグナムは部屋を見渡して気付いたみたいだ。
「・・・理解したか?」
またシグナムの顔が赤くなっていく。
「す、すまない!!私としたことが・・・。寝ぼけて部屋を間違えたみたいだ///」
いや、寝ぼけるのは仕方ない事だ・・・・だが、何でレヴァンティンを持っているんだよ!!
「まぁ、それなら仕方ないな。次から気をつけろよ。」
だが、俺は寛容だから許してやる。
「本当にすまない・・・。」
「ああ、気にすんな。」
俺は痛む身体を引きずりながら洗面台へ向かった。顔を洗う為じゃなく、冷やすために・・・。
「あ!零冶兄ぃ!」
「元気そうだな、はやて。」
俺たちは皆ではやてのいる病院にやってきた。明日の事を伝えるためだ。
「うん!ウチなら大丈夫や!」
「そうか。・・・はやて、決行は明日の夜に決めたよ。」
はやては一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔をする。それでも不安は少しチラついていた。
「そっか。いよいよ明日やね。・・・なぁ零冶兄ぃ。」
「ん?何だ?」
「もし、ウチの病気が治ったら・・・遊園地に連れてってくれる?」
はやてはかなり真剣な表情をしていた。俺達にとっては何気ない事でもはやてにとっては、かなり大事なんだろう。
「ああ!みんなで一緒に行こう!」
「うん!!」
俺の返事を聞いてはやてはとても明るく眩しい笑顔で頷いた。
「あ!それでな零冶兄ぃ。この前言ってた、すずかちゃんっていう友達のことなんやけどな。」
はやては突然思い出したように言った。
・・・なんだろう?とっっっっても嫌な予感がする。俺の幸運スキルってDだからなぁ・・・。
「あ、やっぱ止めとくわ。明日になってからのお楽しみや!」
はやては悪戯っ子のような笑みを浮かべて言った。
ちょっと待てコラ!!そこまで言って止めるのかよ!?
「そ、そうか。じゃ、じゃあ楽しみにしておくよ。」
たぶん俺の顔は引き攣っていると思う。だってシグナム達が俺から距離を取っているもん。
落ち着け俺!儀妹の可愛いイタズラじゃないか!
「それじゃ今日は一日中はやてと一緒にいようか。」
「ホンマ!?やった!!それじゃ、今日はたくさん話をしような!!ほら、シグナム達も座ってな!」
「はい、わかりました主はやて。」
「そんなにがっつかなくてもいいじゃん。」
「あらあら、凄く嬉しかったのね。」
「うむ、実に微笑ましいな。」
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラも苦笑して椅子に座った。そして今日の面会時間が終わるまで俺たちははやてと一緒に他愛ない話をした。
次の日、俺は4時過ぎにはやての病室に俺たちは向かった。しかし、気になることがあった。一つははやてが言っていた、今日の事だ。普段なら別に大したことじゃ無いんだが、何かこう・・・・すっっっっっっっごく嫌な予感がする。俺の中の直感が、行くな、止めとけと叫び続けている。だが、はやてに明日も来ると言った手前、行かない訳にはいかない。そしてもう一つ、こちらが一番気になっていることだが、オーディンと話した次の日からロキが全く現れなくなった。これじゃあ説得もできない。
一体何を考えているのやら・・・。
「で、はやて。昨日言って事をそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「う~ん、本当はもうちょっと待っておきたかったんやけど・・・まぁええか。うんとな、今日すずかちゃんが友達を連れてお見舞いに来てくれるんや!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「・・・・スマン、はやて。もう一度言ってくれ。」
「だから、すずかちゃんが友達を連れてウチのお見舞いに来てくれるんやって。」
・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!?マズイ!!!
「な!?い、何時来るんだ!?」
「え?5時に来る言うてたよ?」
今何時だ!?・・・・4時59分!?クソッ!!
「は、はやて!俺たちはみんなの飲み物を買いに行って来るから!」
「え?何でみんなで行くん?一人でええやん。」
ゔっ・・・それは・・・。
「と、とにかく行ってく「コンコン、はやてちゃ~ん、お見舞いに来たよ~。」遅かった・・・orz」
ガラガラッとドアが開くと、そこにはすずか、アリサ、なのは、フェイトが入ってきた。
「「「「っえ!?れ、零冶(君)!?」」」」
俺はとうとう彼女たちにはやての事を知られてしまった・・・。
「ん?何や零冶兄ぃ、知り合いやったん?」
「あ、ああ・・・まぁな。」
俺は今この場をどう切り抜けるか、頭をフル回転させていた。結果・・・・無理!
「あ、あああんた!!転校したんじゃなかったの!?」
「どういう事なの!?零冶君!?」
アリサとすずかが俺に詰め寄ってきた。そして、
「れ、零冶君・・・・どうして此処に?それに・・・お兄ちゃんって?」
「零冶・・・教えて。」
なのはとフェイトも俺に詰め寄ってきた。取りあえず、まずはなのは達からだな。
「アリサ、すずか・・・お前達はすずかの家で待ってろ。後で理由を話す。」
「ふ、ふざけんじゃないわよ!!今すぐにh「いいから待ってろ!!!」っ!?」
「れ、零冶君?」
っは!?しまった。つい怒鳴ってしまった。
「・・・怒鳴ってすまない。でも・・・頼む。少しだけ、待っていてくれ・・・。」
俺は二人に頭を下げた。二人は訳が分からないといった顔をしていたが、俺の態度からただならぬ事情があると解ってくれたようで、一度すずかの家に帰った。二人が病室を出た後、俺は残った二人に向き合った。
「なのは、フェイト・・・少し外で話をしよう。はやて、ちょっとだけ二人と話をさせてくれ。」
「え?あ、う・・・うん。」
はやても困惑しているようだった。
「みんな、屋上へ行こうか。」
そうして俺たちは屋上へ向かった。
「零冶・・・・・教えて。零冶に一体何があったのか。」
俺たちは屋上にやってきた。辺りは薄暗く、雲が立ちこめていた。・・・今日は雪でも降りそうだ。
「・・・・・・。」
「零冶君!」
俺は未だに迷っていた。しかし、はやてがフェイト達に知られてしまった以上、管理局にバレるのは時間の問題だろう。
「・・・仕方ない。はやてを知られてしまった以上、もう隠し通せない。・・・お前達が探している第一級捜索指定ロストロギア“闇の書"の主は、さっきお前達が会った・・・八神はやてだ。」
「「!?」」
なのは達は驚愕した。それもそうだろう。彼女たちが想像していた人物とは大きくかけ離れていたのだろうから。
「じゃ、じゃあ・・・零冶君がヴォルケンリッター達と一緒に居るのは・・・?」
「そうだ。俺の義妹、八神はやてを守る為だ。」
「・・・義妹?」
俺はいつでも戦闘態勢に入れるようにルナにこっそり言っておいた。
「でも、それなら何で!?」
なのはがそれでも理解できないといった感じで聞く。
「決まってんだろ!お前等管理局なんか信用できるかよ!」
そんななのは達にイラついたのか、ヴィータが我慢できずに怒鳴った。だが、シグナム達はヴィータを止めたりはしなかった。皆、同じ気持ちなんだろう。
「なのは、フェイト・・・お前達も知っているんだろう?闇の書が主を蝕み、死に至らしめることを・・・。このままでははやてが死んでしまう。だから頼む。俺が言えた儀理じゃ無いが、今回だけ見逃してくれ。俺ははやてを救うために、ある計画を立てた。成功率は低いが、はやてを救える唯一の方法だ。」
本当に今更何を言っているんだろう。俺は散々二人を傷つけておきながら、見逃してくれと頼むなんて・・・。
「で、でも【少し待ってもらえないかしら、零冶君?】リンディ提督!?」
フェイト達は迷っていると突然なのは達の前にモニターが現れた。そこにはリンディ提督が映っていた。
「・・・見つかったか。」
俺はあからさまに嫌そうな顔をした。そんな俺の態度にリンディ提督は苦笑して言った。
【そんなに嫌そうな顔をしないでちょうだい・・・。零冶君、さっき貴方が言っていた事は本当なの?】
「本当だ。俺は私利私欲の為に闇の書を覚醒しようとしている訳じゃ無い。俺の大切な家族を守る為だ!」
リンディは俺の目を真剣に見つめて言った。
【・・・・零冶君、もう一度聞くわ。本当に闇の書を使うためじゃなく、はやてちゃんを助けてあげる為なのね?】
「ああ。」
俺は力強く答えた。はやてを助けたいという気持ちに嘘偽りはない。もしかしたら、見逃してくれるかも知れない。俺は二人に期待して返答を待った。そして・・・
【・・・・・・・・・・・分かったわ。取りあえずアースラに来て下さい。話はそれかr[マスター!!避けて下さい!!]え?】
ルナが突然警告をしてきた。そして
ドガガガガガアアアアン!!
「「「「「「零冶(君)!?」」」」」」
俺に魔力弾の雨が降ってきた。最初、俺は自分に起きたことが理解できずに攻撃に晒されてしまった。が、なんとかギリギリでシールドを張って防ぐことが出来た。攻撃が止むと俺はモニターに映っているリンディ提督を睨んだ。このタイミングでの攻撃に一番心当たりがあるのは彼女たち管理局だからだ。
「・・・これが答えか?リンディ提督!」
俺は静かに、そして怒りを込めた声で言った。
【ち、違うの!今のは私達では「もういい。」!?】
少しでも管理局に頼ろうとした俺が間違っていた。これまでに何度もなのは達を傷つけた上に、第一級捜索指定ロストロギアを所持しているんだ。今更何を言ったって管理局が見逃すはずがないのだ。
「俺が甘かったよ。ははは・・・それにしても、やられたよ。まさか時間稼ぎだったとはな。」
【お願い!話を聞いて!!】
リンディ提督が弁解しているが、俺は聞く耳持たない。
「零冶!!大丈夫か!?」
シグナム達が心配して駆け寄ってくれた。
「ああ、問題ない。ギリギリで防いだからな。」
シグナム達は安堵したが、ヴィータは表情が怒りに染まっていた。
「・・・のやろぉ!許せねぇ・・・絶対に許せねぇ!!」
ヴィータはアイゼンを構えた。そしてヴィータに連れて、シグナム達も構える。そして俺たちの目の前に転移魔法陣が現れ、クロノ、ユーノ、アルフ、そしてリンディ提督が転移してきた。
「待って零冶君!!本当に違うの!!私達じゃ無いわ!!」
「信じてくれ零冶!本当に僕たちじゃないんだ!!」
リンディとクロノも俺たちに訴える。白々しい・・・、お前達でなければ一体誰が攻撃を仕掛ける?管理局とこの場に居る俺たちしか闇の書の存在を知らないんだぞ?
「信じてあげて零冶君!リンディさんはそんなことしないよ!!」
「お願い零冶!」
さらに、フェイトやなのはもリンディ提督を庇う。だが、いくら言ったって俺にはもう届かない。
「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・いくぞ!目の前の敵を排除する!」
「「「「ああ!(承知した!)(ええ!)(おう!)」」」」
「「「「「「っ!!」」」」」」
そして、俺たちは共に戦う為に名乗りを上げた。
「烈火の将、シグナム!」
「鉄槌の騎士、ヴィータ!」
「湖の騎士、シャマル!」
「盾の守護獣、ザフィーラ!」
「「「「我らヴォルケンリッター、主はやてと零冶の守護者なり!何人たりとも邪魔をさせん!!」」」」
そして俺もシグナム達に習って名乗りを上げた。
「漆黒の狂戦士、黒澤零冶!俺ははやてを守る!誰にも邪魔をさせない!そして、闇の書が欲しければ・・・俺の屍を踏み越えるがいい!!」
俺はルナをライフルモードにして構え、突貫した。
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第十四話 会いたかったけど、会いたくなかった