~遊撃士協会・グランセル支部~
「ただいま~!」
「おお、戻ってきたか。」
「皆さん、お帰りなさい。」
「お帰りなさい、ママ!」
エステル達がギルドに戻るとジン達が出迎えてくれた。
「ご苦労さまでした。報告書は渡せたようですね。」
「うん、そっちは問題なく。」
「つい先ほど、王国軍から報酬の振り込みがありました。取り急ぎ、それをお渡しておきましょう。」
そしてエルナンはエステル達に報酬を受け取った。
「さすがシード中佐。仕事が早いわね。それよりも……ボース地方に特務兵どもが現れたって聞いたんだけど。」
「やはり離宮の方にも連絡が行ったみたいですね。ちょうどその話をしていたところなんです。」
エステルの言葉に頷いたエルナンは真剣な表情で言った。
「発見したのはギルドの人間らしいな?」
「ええ……。シェラザードさんたちです。」
アガットの疑問にエルナンは頷いて答えた。
「シェラ姉たちが!?」
特務兵達を見つけたのがシェラザード達とわかったエステルは驚いた。
「ラヴェンヌ廃坑の内部でアジトを発見したそうです。生憎(あいにく)、すでに引き払った後だったみたいですが……」
「ラヴェンヌ廃坑の内部……空賊たちと戦った場所か。」
「チッ、盲点だったな……。引き払ったってことはすでに別の地方に行ったのか?」
エルナンの話にエステルは昔を思い出し、アガットは続きを促した。
「それが、ボース地方の各地で特務兵の姿が目撃されたらしく……。現在、国境師団が総力を挙げて調査をしているみたいですね。」
「そ、そうなんだ……。あたしたちもボース地方に助っ人に行った方がいいのかな?」
「いえ、陽動の可能性もあります。現地の状況が分かるまで迂闊に動かない方がいいでしょう。それにどうやら……『結社』も動いているようです。」
「え……!」
「なんだと……!」
(『結社』?……一体何の話かしら……?)
エルナンの説明にエステル達が驚いている中、唯一人レンは聞き覚えのない言葉に首を傾げていた。
「シェラザードさんたちが廃坑のアジトで遭遇したそうです。『道化師カンパネルラ』―――『執行者』の1人みたいですね。」
「フン、また新顔か……」
(……ふ~ん……どうやらクーデター事件みたいにまだリベールで暗躍している組織がいるみたいね……)
エルナンの話にアガットは鼻をならし、レンは心の中で考えていた。
「更にアジトで奇妙なものが発見されたそうです。まずは『オルグイユ』という導力駆動の乗物の設計図……そして『お茶会』という符牒で語られた謎の計画メモです。」
「『オルグイユ』『お茶会』……。うーん、訳が判らないわね。」
「導力駆動の乗物って何なのかな……?」
「お茶会というのも何だか気になりますね。」
「ミント、全然わかんない……」
(うふふ……何はともあれ、そろそろレンも動こうっと♪)
エステル達が考え込んでいる中、レンは気配を消してギルドから出て行った。
「チッ、さすがに落ち着いていられねえな。」
「まあ、焦るなって。現地で軍とギルドが頑張っているみたいだからな。じきに状況も分かるだろうさ。」
焦っている様子のアガットにジンはいつもの表情で言った。
「ええ、気は逸(はや)るでしょうが王都に留まっていてください。今のところは各自、自由になさって結構ですよ。」
「うーん、そう言われても……あれ、そういえばオリビエはどうしたの?」
エルナンの言葉に悩んでいたエステルだったが、あたりを見渡してオリビエが居ない事に気付いて、エルナンに尋ねた。
「それが、帝国大使館から先ほど連絡がありまして……。野暮用ができたと仰ってお出かけになりました。すぐにギルドにお戻りになるそうですが。」
「ふーん、どうしたのかしら?……あれ?レンはどうしたの?」
「ふえっ……?」
「ほえ……?」
エステルの言葉に驚いたティータとミントは後ろを振り返った。
「あ、あれれ……。さっきまではちゃんといたんだけど。」
レンが居ない事に気付いたティータは驚いた。
「もしかして……話が退屈だったから遊びに行っちゃったとか?」
「そいつはありそうだな。」
「そうだよね……レンちゃんにはわからない話だったし……」
エステルの推測にアガットとミントは頷いた。
「そいつはありそうだな。」
「も~、しょうがないわねぇ。でも、もし王都を離れるとしたらレンのことも何とかしないと……。……あたし、ちょっとあの子を捜してくるわ。」
「あ、わたしも!レンちゃんが行きそうなところ分かるかもしれないし……」
「ミントも!2人と一緒に王都を廻っていたし……」
レンを探す事に決めたエステルにティータとミントが真っ先に申し出た。
「そっか、助かるわ。エルナンさん。そういうことなんだけど……」
「ええ、お願いします。私の方は、各地の支部と残党の行方について情報交換をしていましょう。」
そしてエステル達は王都中を歩いて、レンを探した。レンの姿は時折見かけたが、すぐに姿を消し、さらに謎かけも残して行った。謎かけを解いてレンを探していたエステル達は空港に到着した。
~グランセル国際空港~
ツァイス方面行き定期飛行船、『リンデ号』まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください
一方オリビエは飛行船に乗ったミュラーを見送っていた。
「それではな、オリビエ。俺が留守のあいだ、問題を起こしてくれるなよ。」
「フッ、安心してくれ。このボクが、愛しいキミに心配をかけたことがあったかい?」
「今更すぎて心配する気にもなれん。せめて問題は起こしてくれるな。」
酔いしれている様子のオリビエに見られたミュラーはなんでもない風な様子で注意をした。
「うーん、善処しましょ。」
そしてミュラーを乗せた飛行船は飛び立った。
「おーい、オリビエ!」
「おや、君たち。ひょっとしてボクが恋しくてここまで捜しに来てくれたのかい?」
飛行船が飛び立った後、エステルがオリビエに話しかけ、話しかけられたオリビエは尋ねた。
「なわきゃないでしょ。それよりも……今のミュラーさんよね?」
「なんで帝国軍人が定期船なんか使ってるんだ?」
「ああ、何でも軍務でボース地方に行くそうだよ。空賊団が使っていた飛行艇があっただろう?あれを回収するつもりらしい。」
エステル達の疑問にオリビエは答えた。
「空賊団の飛行艇ってあの緑色の小型艇よね。でも、なんでミュラーさんが?」
「知っているかもしれないが、あの飛行艇はエレボニア製でね。それを使った空賊団はいまだ捕まっていないらしい。帝国政府としては証拠を回収して犯人調査に協力したい……そう王国に打診したそうだよ。」
「ふ~ん?よく分からない理屈ね。」
「そうだよね。エレボニアの人達は空賊さん達を知っているのかな?」
オリビエの説明にエステルとミントは首を傾げていた。
「ま、空賊団がエレボニアの元貴族だったというのはあまり外聞が宜しくないからね。できれば不戦条約締結の前にうやむやにしておきたいんだろう。共和国あたりが突っ込む前にね。」
「空賊団が元帝国貴族って……。ええっ、あのボクっ子たちが!?」
ジョゼット達の事実を知ったエステルは驚いて声を上げた。
「あれ、知らなかったのかい?カプア男爵家と言って帝国北部の小領主だったそうだよ。数年前、莫大な借金を抱えて領地を手放したそうだがね。」
驚いているエステルを意外そうな表情で見たオリビエは説明した。
「そ、そんな事情があったんだ……。なんて言うか……微妙に可哀想な連中ね。」
「そうだよね……ずっと住んでいたお家がなくなるなんて、悲しいもん……」
「ケッ、だからといってまったく同情の余地はねぇな。」
同情しているエステルとミントと違い、アガットは鼻を鳴らして答えた。
「まあ、そういうわけでボクは見送りに来たんだが。君たちはどうして空港に?」
「あ、実はレンを捜しに来たんだけど……。オリビエ、見かけなかった?」
「レン君?って、そこにいるのはレン君じゃないのかい?」
「へ……」
オリビエの指摘に首を傾げたエステル達は振り返った。するとそこにはレンがいた。
「うふふ♪」
「「レ、レンちゃん!?」」
「い、いつのまに……」
悪びれもない様子で笑顔を浮かべているレンにティータとミントは驚き、いつの間にか自分達の背後にいたレンにエステルは驚いた。
「こら、レン!まったく、いきなり居なくなったらダメじゃない!しかも色んな人を巻き込んであたしたちから逃げたりして~!」
笑顔を浮かべているレンに近付いたエステルは怒った。
「ごめんなさい……。だって退屈だったんだもの。あのね、百貨店で紅茶とクッキーを買ったのよ?みんなの分もあるからおねがい、機嫌をなおして?」
「う……」
「ふふ、私たちも結構楽しませてもらいましたし……おあいこでいいんじゃないでしょうか?」
素直に謝り、自分の機嫌をなおそうとしているレンを見て、エステルは言葉を詰まらせ、クロ―ゼは微笑んでエステルに言った。
「はあ、しょうがないなぁ。お小言はこれくらいで勘弁してあげる。」
「ホント!?」
「えへへ……さすがママ!いつも、すっごく優しいね!」
「ふふ、よかったね。」
溜息を吐いて自分を許すエステルとは対照的にレンは嬉しそうな表情をし、その様子を見たミントとティータはそれぞれ喜んだ。
「さてと、それじゃいったんギルドに戻るか。何か情報が入ってるかもしれねぇ。」
「うん、そうね。」
「おや、何かあったのかい?」
アガットとエステルの会話に事情がわからないオリビエは尋ねた。
「ちょっとボース地方で事件が起こったらしくてね。って……そういえばミュラーさんってボース地方に行ったんだっけ?」
「ああ、その通りさ。ふむ……詳しく聞きたいところだね。」
「ま、ギルドに戻ったら一通り説明してやるよ。」
そしてエステル達はギルドに戻って行った。
~遊撃士協会・グランセル支部前~
「ねえ、エステル……」
アガット達が先にギルドに入って行き、その後を続くようにエステルがドアに手をかけた瞬間、レンが唐突に話しかけてきた。
「ん、どうしたの?もう怒ってないから安心していいわよ。」
「うふふ、そうじゃないわ。だいいちエステルが怒ってもゼンゼン恐くないんだもの。」
「むぐっ……言うじゃない。それじゃ、どうしたの?」
レンの言葉に唸ったエステルは気にせず、尋ねた。
「あのね……実はエステルに預りものがあるの。」
「預りもの?」
「うん。ビックリしないでね?」
そしてレンはエステルに一通の手紙を渡した。
「へ……?何これ、あたしに?」
「ええ、そうよ。」
「誰から?」
「うふふ、読んでみたらきっと分かると思うけど。」
「そ、そう?」
レンに言われたエステルは手紙の封を切って内容を読み始めた。
エステルへ
散々迷ったけれどどうしても君に伝えなくてはならない用事ができてしまった。あんな別れ方をして虫のいい話だとは思うけど2人きりで会えないだろうか?今日の夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上で待っている
「………………………………え………………」
「うふふ、分かったみたいね?レンも話を聞いたからピンと来ちゃったもの♪」
手紙の内容を読んで放心しているエステルにレンは口元に笑みを浮かべて言った。
(……どう思う?)
(あの時の事を考えたらどう考えても、おかしいわ。)
(ええ、あの時のヨシュアはエステルと完全に決別する様子だったし……罠の可能性が高いわね……)
(そ、そんな!?一体誰がそんな事を……!)
エステルの身体の中で見守っていたサエラブはパズモ達に聞き、パズモやニルは手紙が非常に怪しい事を指摘し、3人の話を聞いたテトリは信じられない表情をしていた。
「こ、これって……。これを渡した人って!?」
「真っ黒い髪と、琥珀色の瞳のハンサムなお兄さんだったわ。空港の待合所でエステルたちを待っている時に渡して欲しいって頼まれたのよ。」
「……あ…………」
「あの人が、エステルの言ってたヨシュアってお兄さんでしょう?」
レンの話を聞いたエステルはどことなく嬉しそうな表情をした。その様子を見たレンは自分が出会った人物の事を尋ねた。
「う、うん……。筆跡も似ているし、ま、間違いないと思う……。夕方、グリューネ門側のアーネンベルクの上……。夕方って……もうそろそろじゃない……」
「おい、何をしてる?エルナンが各地の情報を説明するみたいだぞ?」
「ママ~。どうしたの?」
ギルドに入って来ないエステル達に気付いたアガットとミントはギルドから出て来て尋ねた。
「アガット……ミント……どうしよう……あたし……」
「へっ……。お、おい、どうした?」
「ママ?」
エステルの様子がおかしい事に気付いたアガットとミントは尋ね、エステルは無言で2人に手紙を見せた。
「………………………………。これは……ヨシュアか?」
「………本当にヨシュアさんなの!?ママ!」
「うん……そうみたい。レンが、それらしい人から受け取ったんだって……」
驚いている様子の2人にエステルは答えた。
「なるほどな……。いいぜ、行ってこい。」
「え……?」
アガットの言葉にエステルは驚いた。
「いいからとっとと行け。他の連中には俺の方から適当に言っておく。」
「ママ、頑張って!ヨシュアさんを連れ戻せるチャンスだよ!」
「あ……。ありがと、アガット、ミント!それにレンも……教えてくれてありがとね!」
そしてエステルは一目散に待ち合わせ場所であるグリューネ門に向かった。
「あ……」
その様子をレンは驚いて見ていた。
「行っちゃった……。そんなにその人と会いたかったのかしら?」
「ああ……だろうな。へへ、どうやって他の連中をごまかすかね。」
(えへへ……もうすぐミントの”パパ”ができるんだ……!)
首を傾げているレンにアガットは言った後苦笑し、ミントは心の中で喜んでいた。
「はあはあはあ……。グリューネ門のアーネンベルクの上……。早く行かなくちゃ……!」
そして王都を出たエステルは急いで、目的地に向かった………
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第219話