エステル達が博士のいる演算室に入ると博士や周りに研究者達が作業をしていた。
~中央工房5階・演算室~
「ラッセル博士。1番の接続、成功しました。」
「そのようじゃな。さっそく情報が入ってきた。うむうむ……今のところ安定しておるようじゃ。そのまま2番、3番の接続を開始。」
研究者の一人の言葉に頷いた博士は次の指示をした。
「了解しました。」
研究者は博士の指示に頷き、作業をまた始めた。そしてその時、エステル達が入って来た。
「やってるやってる。」
「まったく……。相変わらずケッタイな部屋だぜ。」
エステルは周りの様子を見て頷き、アガットは呆れていた。
「ふわ~………ティータちゃん、こんな凄い所で働いているんだ!」
「えへへ………まだ私はおじいちゃんみたいに頻繁にここでは働いていないよ。」
キラキラした表情のミントに見られたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。
「おお……。エステル君、来たか。」
そして作業の様子を見守っていた工房長――マードックがエステル達に気付いた。
「あ、マードック工房長。お久しぶり、生誕祭の時以来だったっけ。」
マードックに気付いたエステルは軽く会釈をした。
「ああ、そうなるかな。色々あったそうだが……元気そうで何よりだよ。」
「あはは……。ありがと、工房長さん。あたしたち、博士に頼まれて測定器を置いてきたんだけど……」
「ああ、そうらしいね。ちょうど、各地の測定器から情報が届き始めているらしいよ。」
「それじゃあ『カペル』の調整の方も終わったんですね?」
マードックの話を聞いたティータは尋ねた。
「ああ、博士が専用のプログラムを走らせたばかりさ。」
「2番、3番の接続にも成功です」
「おお、こちらも確認した。よしよし……どちらも安定しておる。これで1番から3番まで全ての情報が入ったな。」
報告を聞いていた博士はようやくエステル達の方に振り向いた。
「おお、やっと戻ってきたか。見ての通り、お前さんたちのおかげで無事に情報が届いたわい。本当にご苦労じゃったのう。」
「あはは、あたしたちは測定器の部品を運んだくらいよ。」
博士の言葉にエステルは苦笑しながら答えた。
「それに、この一件はこちらが頼んでいる事だからな。装置の起動まで全部やったあんたの孫をねぎらってやんな。」
「うんうん!ティータちゃん、ミント達にはさっぱりわからない機械を動かしていたんだから!」
「い、いいんですよ~。大したことはしてないし……」
アガットとミントの言葉に照れたティータは恥ずかしそうな表情で答えた。
「いやいや。お前もよく頑張ったのう。トランスミッターの設定も完璧じゃ。ちゃんと情報が入ってきておるぞ。」
「えへへ、よかった。それじゃあ、準備はぜんぶ終わっちゃったの?わたし、手伝うことないかな?」
「いや、これで準備は完了じゃ。七耀脈の流れに乱れが起きたら『カペル』が自動的に解析を始めるようにプログラムしておる。あとは、どこかの場所で地震が起きるのを待つだけじゃよ。」
ティータに手伝いを尋ねられた博士だったがもう完了している事を説明し、現状は待つだけの事を説明した。
「そっか……。一応、一段落ついたわけね。でも、どこかで地震が起きるのをただ待つのも落ち着かないかも。」
「確かにそうですね。もしかしたら、ツァイスで再び地震が起きるかもしれませんし。」
「そうなった場合の対策は何か立てているのか?」
エステルの言葉に頷きクロ―ゼはある事を心配し、それを聞いたアガットは博士達に尋ねた。
「一応、転倒しそうな装置は固定するようにしておいたよ。ただ、それでも前回以上に大きな地震が起こったら厳しいな。設備のダメージは避けられないだろう。」
「その意味では、ここにある『カペル』なんかも同じじゃ。揺れで誤作動を起こしたら実験が失敗に終わる可能性が高い。みんな、女神達に祈っておいてくれ。」
「はあ……。ちょっと不安になってきたわ。」
「ふふ、最新技術でも神頼みは大切なんですね。」
博士の話を聞いたエステルは呆れて溜息を吐き、クロ―ゼは苦笑していた。
「えへへ、技術者のヒトって意外と信心深いんですよ。わたしも難しい作業の時にはよく女神さまにお祈りするし……」
「確かにそれはあるかもしれんね。私なんて、初の導力飛行船を博士が開発していた時なんか1日に3回は教会に行ってたよ。」
ティータの説明にマードックは頭を縦に振って同意した。
「なんじゃ、失礼な奴じゃのー。」
マードックの話を聞いた博士は心外そうな表情でマードックを見た。
「39回も実験が失敗したらそうしたくなるのも当然です。」
「あはは……。昔からそんな感じなんだ。」
「うん……そーみたい。」
エステルに尋ねられたティータは恥ずかしそうな表情で笑って答えた。
「しかし、そういう事ならどこかで時間を潰すとするか。一旦、ギルドに戻って報告しとくのもいいだろう。」
「おお、そうするがいい。何か動きがあったらすぐにでもギルドに連絡……」
アガットの提案に頷いた博士が言いかけたその時、周りの機械が動き出した!
「え……」
「ひょ、ひょっとして……」
唐突に動き出した機械を見てエステルとティータは驚いた。
「……ギルドに戻る必要はなくなったようじゃのう。」
博士は機械のデータを見て冷静に答えた。
「1番から3番までの全ての測定器に変化あり!地下の七耀脈の動きが活発になっているようです!」
「うむ、そのままモニターを続けるがいい。通信が遮断した時には報告。」
「了解しました!」
「3地点からの情報をリアルタイムに解析開始……。現時点での最大の地震波収束地点を検索……。座標【12、73、378.02】。ほほう……そうきたか。」
博士はカぺルを操作して、一人納得していた。
「ど、どうしたの?」
事情がわかっている博士にエステルは尋ねた。
「今現在、地震が発生している場所が分かった。レイストン要塞じゃ。」
「!!!」
「え!」
「なんだと!?」
そして地震が発生している場所を知ったエステルとミント、アガットは驚いた。
その頃、レイストン要塞では地震が起こっていた。
~同時刻・レイストン要塞・中庭~
「な、なんだ!?」
「敵の爆撃!?」
訓練をしていた兵士達だったが、突如地面が揺れ出した事にうろたえた。
「お、落ち着け!ただの地震だ!列を乱さずに待機!」
その様子を見た上官が慌てながら命令をした。
~レイストン要塞・司令部室~
「准将、これは……!」
その頃シードは驚いた表情でカシウスを見た。
「ふむ、読みが当たったか。念のため、発着場の作業を止めておいたのは正解だったな。」
「むむ、まさかお前の言った通りに揺れるとは……。カシウス……どんな魔法を使ったのだ?」
カシウスの推測が的中した事に唸ったモルガンはカシウスに尋ねた。
「なに……。相手の立場で考えただけです。3回の『予行演習』の後……次の標的はどこが効果的かとね。」
~中央工房・演算室~
「工房長!レイストン要塞から連絡です!つい今しがた、中規模の地震が発生したそうです!」
レイストン要塞の地震が収まったその頃、受付が慌てた様子で演算室に入って来て報告した。
「やはりか……」
「ひ、被害はどうなったの!?」
報告を聞いた博士は納得した表情で頷き、エステルは心配そうな表情で尋ねた。
「幸い、ケガ人は殆ど出なかったそうです。どうやら、前もって地震に備えていたようですね。」
「よ、よかったぁ~……」
「さすがはカシウス。危機管理は万全じゃったか。さてと……。こちらの解析も終了したか。」
報告を聞きカシウスに感心した博士はディスプレイに映った解析結果を確認していった。
「ふむ……なになに……。ほうほう……これは興味深いのう……」
「な、なにか判った?」
「まあ、そう焦るでない。これによると、地震の直前に七耀脈の流れに異常が生じておる。そして、歪められた流れが要塞の地下に集束することで局地的な地震が発生したらしい。かなり浅い地下で発生したから他には影響しなかったようじゃな。」
「それが地震の正体か……」
「そ、それってつまり……何者かが七耀脈を操って地震を起こしているってこと!?」
「えええええ~!?」
博士の説明を聞いたアガットは真剣な表情で頷き、エステルの言葉を聞いたミントは声を上げて驚いた。
「『地震兵器』……そう呼べるかもしれませんね。」
「うむ、まさしくそんな所じゃろう。」
クロ―ゼの仮説に博士は真剣な表情で頷いた。
「で、でも、おじいちゃん。七耀脈の流れを操ることなんてそんなことホントにできるの?」
「ううむ、最新の土木技術でもそんなことは不可能のはず……」
不安そうな表情で尋ねたティータの質問にマードックは唸りながら答えた。
「エステルさん……魔術はどうなんでしょうか?」
「へ!?ちょっと待って。今、聞くから。」
クロ―ゼの質問に驚いたエステルは大地と縁深いテトリに念話を送った。
(テトリ、魔術で地震を起こす事ってできる?)
(一応できますが……魔術を放てばどうしても魔力の痕跡が残ります。………それも広範囲の場所に地震なんて起こしたら、魔力の痕跡が非常に目立ちます。エステルさん達が今まで行った地震の起こった場所には一切、魔力の痕跡は感じられませんでした。
ですから今回の件とは無関係と思います。)
「(そっか、ありがとう!)……魔術で地震を起こす事も可能だそうだけど、今回の件とは無関係だそうよ。魔術を使ったら魔力の痕跡が残るし、地震なんて起こしたらかなり目立った魔力の痕跡が残るそうよ。」
「そうですか………」
エステルの説明を聞いたクロ―ゼは安堵の溜息を吐いた。
「フム。認めたくはないが……七曜脈を操るという信じられない事を可能にした者がいるらしいな。」
「上等じゃないの……!博士、他に何かわからない!?その『地震兵器』がどこに置かれているとか!?」
「あ………!」
「それだ………!」
「わあ……さすがママだね!」
「なるほど……。そいつは盲点じゃったな。」
憤っているエステルの質問に博士は頷いた後、カぺルを操作し始めた。
「3箇所における七耀脈の流れの歪みを解析……。逆算することで歪みの発生源を割り出すと……。出た……座標【165、88、-288.35】……」
「え……」
博士の呟きを聞いたティータは不安そうな表情で驚いて声を上げた。
「ティータ、わかるの?」
「う、うん……」
そしてティータは地図を取り出して説明を始めた。
「座標はツァイス中心のセルジュ単位だから……。ツァイス市から東に12セルジュ、北に378セルジュの地点がレイストン要塞とすれば……東に165セルジュ、南に228セルジュの地点は……」
「まさか、エルモ温泉!?」
「う、うん。たぶんこのあたりになるハズなんだけど……」
エステルの言葉に頷いたティータはエルモ村の部分に印をつけた。
「あ……」
「完全に盲点だったな……」
「エルモ村……。どうやら、あの温泉地の奥が本当の『震源地』みたいですね。」
「ミント達が入ったあの温泉の近くが……」
クロ―ゼの推測にミントは信じられない表情で呟いた。
「断言はできないがその可能性は高そうじゃ。どうする、お前さんたち?」
「決まってるわ!すぐに調べに行かなくちゃ。」
「ああ……。急ぐ必要がありそうだ。」
「そうか……。ならばこのままティータを連れて行くといい。この子の知識と技術はきっと調査に役立つはずじゃ。」
「あ……。うん、きっと役に立つから!」
博士に言われたティータは力強く頷いた。
「うーん……。危険かもしれないけど……。でも、あたしたちが守ってあげれば大丈夫かな。」
「ったく……仕方ねえな。おいチビスケ。絶対に無理すんじゃねえぞ。」
「はいっ!」
ティータを連れて行く事に少しだけ渋っていたエステルだが、気にせず、またアガットに言われたティータは元気良く頷いた。
「ティータちゃんはミント達が守るね!」
「えへへ…………ありがとう、ミントちゃん!」
ミントの心強い言葉にティータはお礼を言った。
「それでは私の方からエルモ村に連絡をしておこう。マオさんに協力を頼めば君たちの調査もはかどるだろう。」
「うん、そうしてくれると助かるわ。」
「ヘイゼル君。通信の用意をしてくれたまえ。」
「かしこまりました。」
マードックの頼みに受付嬢は頷いた。
「わしはここで『カペル』による解析を続ける。何か判ったら宿に連絡を入れよう。」
「うん、お願い。あたしたちも、何か判ったら中央工房に連絡させてもらうわ。」
「うむ、頼んだぞ。」
「よし……。それじゃあエルモ村に行くぞ!」
そしてエステル達はエルモ村に向かった………………
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第203話