~ツァイス市・発着所~
「さてと、何はともあれツァイス支部に行くとしますか。キリカさんに挨拶しなくちゃ。」
「えへへ………キリカさんに会うのも久しぶりだね!」
定期船から降りたエステルは早速提案をし、それを聞いたミントは嬉しそうな表情をした。
「ほう、名前からすると東方系の女性のようだね。どのようなご婦人なんだい?」
「また始まったか……」
「ま、並のタマじゃねえ女さ。シェラザード以上の女傑だから火傷したくなけりゃ手を出すなよ。つーか、とばっちりを食らいたくねえから止めてくれ。」
オリビエのいつもの癖が始まった事にエステルは呆れ、アガットも呆れた表情で忠告した。
「フッ、それを聞いたらますます興味が湧いてきたよ。それじゃあさっそくギルドに……」
アガットの忠告を気にせず、オリビエがギルドに向かおうとしたその時
ゴォォォォォ…………!
なんといきなり地面が激しく揺れ出した!
「おおっ……!?こ、これはひょっとしてそのキリカさんの怒りなのか!?」
「そ、そんなわけあるか~!」
「地震……みたいですね。」
オリビエの叫びにエステルは突っ込み、クロ―ゼは不安そうな表情で揺れている地面を見ていた。
「ふえええ~………!怖いよ、ママ……!」
「大丈夫よ!何があってもミントはあたしが守ってあげるんだから!」
怖がっているミントにエステルは元気づけた。
「た、助けてー!」
「お、落ちてしまうわ!」
「み、皆さん!どうか落ち着いてください!この発着場は、直下型の大地震にも耐えられるように設計されています!大した地震ではありません!どうかご安心を!」
また、慌てている周囲の乗船客に受付が説明した。そして地震はしばらくすると収まった。
「と、止まった……」
「も、もう大丈夫だな……。さあ皆さん。慌てず騒がず受付までどうぞ。」
「やれやれ……。地震とは久しぶりじゃの。」
「えへへ、すごかったねぇ!」
そして受付は乗船客を案内して行った。
「はあ……ビックリしちゃった。それほど大きくなかったけどこんな不安定な場所で揺れるのは勘弁して欲しかったわね。」
「ふふ、そうですね。それにしても、リベールで地震なんて珍しいですね……」
「ミント、ずっとリベールに住んでいたけど、地震なんて初めてだよ。」
一方エステルの言葉にクロ―ゼやミントは頷いた。
「ほう、そうなのかい?」
「ああ……。滅多にあるもんじゃねえ。被害状況を確かめるためにもとっととギルドに向かうか。」
エステル達の話を聞き首を傾げているオリビエの疑問に答えたアガットはエステル達を促して、ギルドに向かった。
~遊撃士協会・ツァイス支部~
「ふむ、中央工房では大した被害はなかったと……。市街も大した騒ぎにはなってないのでご安心を。ええ、その件についてはよろしくお願いします。それでは。」
キリカが通信器を置いたその時、エステル達がギルドに入って来た。
「ふふ……。妙なタイミングで到着したわね。」
そしてキリカはエステル達に振り向いた。
「よく来たわね。エステル、アガット、ミント。発着場ではさぞ驚いたでしょう?」
「あ、あはは……。お久しぶり、キリカさん。」
「ったく、相変わらず見透かしてやがるな……。まあいい、よろしく頼むぜ。」
「こんにちは、キリカさん!これからは遊撃士としてよろしくお願いしま~す!」
キリカの相変わらずの様子にエステルは苦笑し、アガットは感心し、ミントは元気良く挨拶をした。そしてミントは受付で準遊撃士としての手続きをした。
「こちらこそ助かるわ。そちらの2人が姫殿下とオリビエさんね。私はキリカ。ツァイス支部の受付を勤めている。以後、お見知りおきを。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
キリカに対してクロ―ゼは礼儀正しく挨拶をした。
「フッ、それにしても予想以上の佳人ぶりだ。このオリビエ、貴女のために即興の曲を奏でさせてもら……」
一方オリビエはキリカの容姿を見て、いつもの調子でリュートを出したが
「ジャンによれば、貴方たちは正式な協力員になったそうね?協力員は、遊撃士と同じように上の休憩所を自由に利用できるわ。待ち合わせに使うといいでしょう。」
「はい、わかりました。」
キリカはオリビエを無視して説明をクロ―ゼにした。
「えーと、即興の曲を……」
無視されたオリビエは慌てて、自分の存在をアピールしたが
「リュートを奏でたいなら上の休憩所で、どうぞご自由に。ただし、常識の範囲内でお願いするわ。」
「シクシク……分かりました。」
キリカの態度にオリビエは肩を落として、リュートを弾くのを諦めた。
(シェラ姉より確かに容赦がないかも……)
「はあ、とりあえず……。溜まっている仕事の状況を早速、教えてもらえるか。」
オリビエの様子を見たエステルは苦笑し、アガットは溜息を吐いた後尋ねた。
「掲示板の仕事は溜まっているけど、今のところ緊急の仕事はないわ。貴方たちのやりやすいように片付けてくれて結構だけど……。………………………………」
説明を続けていたキリカだったが、急に口を閉じた。
「???どうしたの、キリカさん?」
「何か、気になる事があるの?」
キリカの様子にエステルとミントは首を傾げた。
「これは通常の依頼ではなくギルドからの要請なのだけど……。貴方たちを、『結社』の調査班と見込んで調べて欲しいことがあるの。」
「なに……?」
「ふえ!?」
「い、いきなり直球で来たわね。」
「あの……どういう事なんでしょうか?」
キリカの依頼にアガットやミント、エステルは驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「調べて欲しいのは他でもない。先ほど起こった『地震』についてよ。」
「地震について調べる?それって被害がどの程度かみんなに聞いて回るってこと?」
キリカの依頼を聞いたエステルは確認した。
「それもあるのだけれど……。実は3日ほど前、ヴォルフ砦で同じように地震が発生したらしいの。時間でいうと10秒くらい。特に被害はなかったらしいわ。」
「なるほど……。さっきの地震と似ているな。」
「ただ、奇妙なことが1つ。ヴォルフ砦で地震が起きた時、ツァイス市は全く揺れなかった。」
「え……」
「ふむ、それは妙だね。地図で見るとヴォルフ砦とツァイス市はそれほど離れていないはずだ。そこが揺れたのならばこちらでも、多少は揺れは感じるはずなのだが。」
キリカの説明を聞いたエステルは驚き、オリビエは珍しく真剣な表情で答えた。
「ごく小さなものだったから気付かなかったのかもしれない。ただ、そうね……虫の知らせというのかしら。何となく嫌な感じがするのよ。」
「言いたいことは分かるかも……。幽霊騒ぎもそうだったけど変な現象はあたしも気になるわ。」
「いいだろう、引き受けた。ツァイス市とヴォルフ砦の双方で聞き込みをした方が良さそうだな。」
「まあ、気になる程度だから緊急性はないと思ってちょうだい。掲示板の依頼をこなしながらゆっくり進めてくれても構わない。それに……挨拶したい人たちもいるでしょう?」
エステル達に伝えたキリカは口元に笑みを浮かべて尋ねた。
「あ……うん。新しい『ゴスペル』の件もあるし博士とティータに会わなくちゃ。」
「そうですね……。その方がいいと思います。」
「えへへ………こんなにも早くティータちゃんと再会できるなんて、思いもしなかったよ!」
エステルの提案にクロ―ゼは頷き、ミントは嬉しそうな表情で頷いた。
「フッ、ギルドの仕事をするのは挨拶をしてからということだね、では、ティータ君と再会するためいざ出発するとしようかっ!」
「なんでてめぇがいきなり仕切ってやがる……。まあいい、ラッセル工房に行くぞ。」
いつの間にかちゃっかり仕切っているオリビエを睨んだアガットだったが、気にする事をやめ、先に促した。
そしてエステル達はラッセル家に向かった…………
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第200話