~遊撃士協会・ルーアン支部~
「そうか……ご苦労だったね。『身喰らう蛇』……。カシウスさんに話を聞いた時には正直、半信半疑だったが……。とりあえず、今回の調査の報酬を渡すよ。まさかこんな形になるとは思わなかったけどね。」
そしてジャンはエステル、アガット、ミントにそれぞれ報酬を渡し、さらにミントには正遊撃士の推薦状を渡した。
「わあ………ママとヨシュアさんが貰ったのと同じ、推薦状だ……本当に貰っていいの!?ジャンさん!」
推薦状を貰ったミントは表情を輝かせてジャンに尋ねた。
「ああ。予想以上に活躍してくれたし、エステル君達のサポートもしっかりこなせていたしね。構わないよ。」
「えへへ………ありがとう、ジャンさん!」
ジャンに褒められたミントは無邪気に喜んだ。そしてジャンは表情を真剣な表情にして、エステル達に言った。
「調査結果はすぐに王国軍に報告しておこう。あちらさんも相当、情報を欲しがっていたからね。」
「ああ、頼んだぜ。あの投影装置を考えるとハンパな組織じゃねぇはずだ。しかも『ゴスペル』をまた持ち出してくるとはな……」
「どうやら結社の目的は新しい『ゴスペル』を使った実験をすることにあったようだね。幽霊騒ぎは、趣味の入った実験結果でしかなかったようだ。」
「怪盗ブルブラン……。あいつ、自分のことを『執行者』と呼んでたよね。」
「恐らく『結社』のエージェント的な存在だろうね。察するにロランス少尉も同じような立場だったんだろう。」
アガットやオリビエ、エステルの話を聞いたジャンは自分の仮説をエステル達に話した。
「………………………………」
「ママ…………………」
「エステルさん、あの……」
黙っているエステルを見て、エステルの考えを察したミントとクロ―ゼは心配そうな表情でエステルを見た。
「うん、わかってる……。『漆黒の牙』……。あの日、ヨシュアは自分のことをそんな風に呼んでいたから……。多分、ヨシュアもその『執行者』だったんだと思う。」
「なるほどな……。あの怪盗野郎と同格なら、あいつの専門技術も納得だ。ひょっとしたら実力を隠して猫をかぶっていたのかもしれねぇ。」
エステルの話を聞いたアガットは16歳という年齢でありながら、さまざまな技術に長けていたヨシュアに納得した。
「うん……そうかも。……ねえ、ジャンさん。」
「なんだい?」
「あの怪盗男、結社の計画が始まったばかりだって言ってた。多分、リベールの各地で色々しでかすつもりだと思うの。ほかの地方支部から何か情報は入ってきてないかな?」
「うーん……。目立った情報は入ってないね。ただ、エステル君の言う通り、結社が各地で暗躍を始めている可能性は高いと思う。幽霊騒ぎも一段落ついたし、他の地方に移った方がいいかもね。」
「ああ。俺もそう思っていたところだ。どこか手薄な支部はあるかよ?」
ジャンの考えに頷いたアガットはどこの支部に行くべきか尋ねた。
「強いて言うならツァイス支部だと思う。常駐のグンドルフさんが王都方面へ出かけたらしくてね。かなり大変な状況らしい。」
「だったら、あたし達が手伝いに行った方がよさそうね。でも、ルーアン支部は大丈夫?」
「実は、ボース支部のスティングさんが数日後こっちに来てくれるんだ。それまではメルツ君1人に何とかしのいでもらうとするさ。そうだ、ツァイスに着いたらラッセル博士を訪ねた方がいいね。新たな『ゴスペル』の一件は博士の知恵を借りた方が良さそうだ。」
「わあ………ツァイスかあ…………ティータちゃんに会えるね、ママ!」
ツァイスに行く事を知ったミントはツァイスにいる友人の事を思い、はしゃぎながらエステルを見た。
「ふふ、そうね。ティータとも会いたいし、すぐに工房を訪ねてみるわ。」
「それでは準備ができたらさっそく飛行場に行くとしよう。ジャン君。乗船券を5枚手配してくれたまえ。」
「へっ……?」
「いきなり仕切ってなに図々しいこと言ってんのよ……。……って5枚?」
オリビエの提案にジャンは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを睨んだが、ある事に気付いて首を傾げた。
「フッ、エステル君とアガット君とミント君。そして、このボクと姫殿下の分に決まっているだろう。」
首を傾げているエステル達にオリビエは当たり前の事を言うような表情で答えた。
「あ、あんですって~!?」
「ええええ~!?」
「そんな気はしてたが……。この先も付いてくるつもりかよ?」
オリビエの話を聞いたエステルとミントは驚いて声をあげ、アガットは顔をしかめて尋ねた。
「ヨシュア君を捜すのは愛の狩人たるボクの使命でもある。新たな好敵手とも巡り会えたし、同行する理由は十分だと思うけどね?」
「あ、あんたのタワケた理由はともかく……。クローゼまで一緒に巻き込むんじゃないわよ!」
ついでにクロ―ゼまで巻き込んでいる事にエステルはオリビエを睨んで怒鳴ったが
「いえ……。実は私も、同じことをお願いしようと思っていました。」
なんと当の本人であるクロ―ゼはオリビエと同じ考えである事を答えた。
「え。」
「クロ―ゼさん?」
クロ―ゼの意外な返事にエステルは呆け、ミントは首を傾げた。
「リベールで暗躍を始めた得体の知れぬ『結社』の存在。王位継承権を持つ者として放っておくわけにはいきません。それに何よりも……エステルさんとヨシュアさん、そしてミントちゃんの力になりたいんです。」
クロ―ゼは凛とした表情でエステル達についていく理由を答えた。
「クローゼ……。で、でも学園の授業はどうするの?」
「そうだよ~。クロ―ゼさんが通っている学園って、すっごく難しいってミント、先生から聞いたよ?」
エステルは嬉しさを隠せない表情で、ミントは心配そうな表情でクロ―ゼに尋ねた。
「実は今朝、コリンズ学園長に休学届を出してしまいました。試験の成績も問題ありませんし、進級に必要な単位もとっています。ジルとハンス君にも相談したら『行ってくるといい』って……」
「い、いつのまに……」
「やれやれ。思い切りのいい姫さんだぜ。」
クロ―ゼの行動を知ったエステルは苦笑し、アガットは感心した。
「す、すみません……。押しかけるような真似をして。あの……駄目でしょうか?」
「ふふっ……。駄目なわけないじゃない!そういう事なら遠慮なく協力してもらうわ!アガットもいいよね?」
「ま、いいだろ。アーツにしてもハヤブサにしても姫さんがいると色々助かるしな。」
「ミントは………聞くまでもないわね。」
「勿論だよ!これからクロ―ゼさんと一緒に行動できるんだ…………ミント、ワクワクして来たよ!」
アガットの返事を聞いたエステルはミントを見たが、表情を輝かしているミントを見て、苦笑した。
「よかった……。ありがとうございます。エステルさん、アガットさん、ミントちゃん。」
「えへへ、何といっても紅騎士と蒼騎士の仲だもんね。一緒に協力して、行方不明のお姫様を捜すことにしましょ!」
「あ……はい、そうですね!」
「フッ、それじゃあボクは黒髪の姫に強引に迫ろうとする隣国の皇子という設定で……」
「勝手に役を増やすなあっ!」
エステル達の和やかな会話にちゃっかり入って来たオリビエにエステルは怒鳴った。
「あはは……。話がまとまって何よりだね。しかし、そういう事なら2人を『協力員』という立場で扱わせてもらった方が良さそうだ。そうすればギルドとしても経費面などで便宜が計れるからね。」
エステル達のやり取りを微笑ましそうに見ていたジャンはクロ―ゼとオリビエの立場を言った。
「はい、それでお願いします。」
「誠心誠意、愛を込めて協力させてもらうよ。」
そしてエステル達はギルドを出た…………………
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第198話