No.462574

緋弾のアリア“狂化の傘と、氷花の聖剣” 3弾

鶴来絵凪さん

緋弾のアリア“狂化の傘と、氷花の聖剣”3弾。

2012-07-30 22:27:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2206   閲覧ユーザー数:2101

 

「………ふう」

 

 さして何の感傷もなく、俺は仕事が終わった際の合図のよう淡々とにため息をついた。

 右手には、カバンの中に入っていった折り畳み傘。

 俺が改造を施した傘なんだが、その傘は本来のベージュ色ではなく、今は漆黒に染まっている。

 ──俺の右手のせいで。

 

 今さっきまでの記憶が途切れ途切れになっている俺が振り向くと、そこには見るも無惨に破壊された3台のセグウェイ──あるものは何かで強打されたようにハンドルが歪曲し、またあるものはUZIごと捻り潰され、またさらにあるものは誰かが握り潰したような跡を付けて引き千切られている──が散らばっていた。

 恐らく、俺の仕業だろう。「恐らく」というのは、先ほども言ったようにこの破壊活動を実行した際の記憶が断片的にしか存在しないからだ。

 相変わらず、俺の能力は扱いが難しい。使いこなせない。

 

 左 水海。

 俺は母方に左甚五郎、父方にサー・ランスロットの祖先を持つハーフであり、そして、そのどちらの血族の血も濃く遺伝してしまったイレギュラーな存在だ。

 手先が器用だった左甚五郎の遺伝からか、普段から機械を改造したりいじくり回したりしているエンジニアの母同様、俺もしょっちゅう武器を自分で改造している。

 俺が右手に持っている、漆黒に染まった傘もその改造した武器の一つで、中の骨や芯には通常の傘には使わないような特殊合金が使われている。

 傘を打撃系の武器に使えるように何トンもの衝撃にも耐え得るように改造したのだ。

 みんな、主にキンジからは「何に使うんだ」と言われたが、たった今役にたったらしい。これが普通の刀剣だったら、この今俺がたっている場所は大量破壊事件の現場になっていたはずだ。もちろん犯人は俺。

 見れば、近くの壁には俺が持っている傘の先端がピッタリはめ込まれるような穴がいくつも空いているし、さらにこの傘で叩かれたために窪んだり亀裂が入ったりしてしまった柱も幾つか見られた。

 これが刀剣であれば間違いなく、セグウェイ三台で留まらずに武偵高の建築物を一つ破壊していただろう。

 ……普通じゃない。

 全くもって普通の人間の腕力じゃない。

 こうした、傘で壊すことなど出来ないはずの金属製のセグウェイを大破させる怪力、コンクリの壁に穴を空けるような暴走っぷりは、父方から受け継がれた遺伝によるものだ。

 思考が、今朝の質問に舞い戻る。

 

 俺の父方のご先祖サマ、サー・ランスロットは、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の1人であり、その円卓の騎士のリーダー的存在だった。

 周囲に「この世で最も誉れ高き騎士」と言わしめ、事実Wikiでもそう紹介されている彼の力は、彼自身が努めてきたその膨大な努力によって、そうそう衰えるようなものではなくなり、結果、世代を越えて受け継がれるほどのものとなった。

 

 後の子孫によって「無窮の武練」と名付けられたその力の強さ、武芸の巧みさ、騎士としての信念は受け継がれた子孫達によってさらに磨きがかけられ、遺伝子に組み込まれるようにしてさらにその子へと渡される。

 故にランスロットの血を引く一族は皆、桁違いに、それこそ人外レベルで力が強い。また、そのシステム上、「無窮の武練」を受け継いだ者の家系では、たとえ他の血族の血と交ざったとしても、その力は衰えず、むしろ強くなることだってある。

 子孫に伝わりやすい、強力な能力。それは戦いの世界を生き抜く上で非常に有利な特性であり、武器となるはずの代物だ。

 だが、しかし──

 

 メリットには必ずデメリットもつきまとう。

 現にランスロットの辿った人生によって、この能力にも幾つかの、それこそ呪いのようなデメリットが生じているのだ。

 まず1つ目。

 この力を使おうとすると、その意志に関係なく怒り狂い、狂戦士(バーサーカー)となる。故に敵味方の見境なく、ありとあらゆるものをその「無窮の武練」による超力で破壊し、傷つける。

 

 次に2つ目。

 逆に、怒り狂ってしまった場合にも、勝手に力が発動して狂戦士となってしまう。

 

 最後に3つ目。

 己がイメージするアーサー王の声と、まったく同じ声の人物には決して逆らえない。

 

 

 これらは全て、誉れ高き騎士であった初代ランスロットが、その君主であるアーサー王を裏切ってしまったことへの悔恨の現れとして己に律した罰であり、その子々孫々である俺たちに残した戒めでもある。

 1つ目は、己の力を過信して、武力に無闇に頼らないようにするために。

 2つ目は、怒りに我を忘れることのないように。

 3つ目は、二度と、アーサー王──カムランの丘で涙を流していた、凛々しく白銀の鎧を纏った“彼女”──を裏切らないために。

 

 

 

 

 いい話だと思った?

 そう、いい話だ。感動的だ。だが無意味だ(クワッ

 確かに、ランスロットにとって、アーサー王を裏切った不名誉を嘆き悔やんだ気持ちは忘れてはならない重要な過去なんだろう。

 だがしかし。

 既にアーサー王の世はなく、こんなふうに平和で「騎士道?何ソレ美味しいの?」な時代において、この呪いは無意味どころじゃない。滅茶苦茶な足枷である。

 お陰で、俺は強襲、武芸のスキルに関してはかなりいい線を行っている筈なのに、武偵ランクはBどまり。

 まぁ、団体で協力しなければならないクエストではこの能力は使えないから仕方ないんだけどさ…。

 去年のテストの時は本当に酷かったし───ああ、やめだやめだ。

 アレは本当に酷かった。迷わず黒歴史認定したし。

 ──語りたくないこともあったから省略した箇所も幾つかあるが、俺の怪力の理由は専らこんなところか。

 他にも、この傘が漆黒に染まっている理由とかも色々とあるんだが──あの辺はなんかオカルトチック、マジカルチックな話だからいいや。

 とりあえず目下の行動としては、この強奪したセグウェイ一台と、幸運にも狂戦士状態の俺の標的にならなかったらしいUZIを2丁、今後の武器改造の部品材料として回収して───

 

ドガァァァァァァァァァアッ!!!!

 

 

「───!?」

 

 ──2丁のUZIを背負ったまさにその時。

 第二グラウンドの中央から聞こえた爆発音で、俺は大事なことを忘れていたのに気付いてハッとした。

 他でもない、

 

「しまった…!!キンジのことすっかり忘れてたッ!!」

 

 爆弾備え付きチャリに乗って第二グラウンドへと入っていった愉快な勇者、キンジのことである。

 こいつは線香を用意しとかないとマズイかなぁ…。

 後で呪われるのも嫌だし(つーかこれ以上呪いが増えるなんてまっぴら御免だ)、散らばった細かい部品の回収は後にしてキンジの死体を探しに行くとしよう。

 そうやって拾ったUZIとをセグウェイに積み込んで、そのセグウェイで爆発が起こった方へとゆるゆる向かった。

 

 

 

 ◇◆キンジサイド◇◆

 

 

 

「俺はまだ死んでねぇ!!!!つーか身元がわかっている場合は“死体”じゃなくて“遺体”だろ!!!」

 

 そんなわけのわからんツッコミをしながら、俺は飛び起きた。

 

 ……………。

 

 ツッコミしながら飛び起きるなんて奇怪な体験は、この十数年間を生きてきた中でもちろん初めてである。はた目から見たら俺は立派な不審者だ。それも帯銃している危険な部類の。

 なぜこんな珍妙な目覚めをするハメになってしまったのか、その原因はわかっている。十中八九あのアホルームメートのせいに違いない。

 恨み辛みをは後で本人にみっちりと言うとして、とりあえず周囲を見渡そうとしたのだが──何も見えない。

 ──というか、四方を壁に囲まれた狭い空間の中にいるらしく四方が見渡せない。

 

 ──ここ、どこだ─?

 

 気を失う直前のことを思い返す。俺は世にも珍しいチャリジャックをされて、第二グラウンドに逃げ込んだところであのツインテールの女の子に助けられて、その後体育倉庫に──

 

「ああ、これ跳び箱じゃねぇか」

 

 ひょいと上から顔を出してみれば、埃やら砂やらにまみれた運動用具が押しこめられた体育倉庫の中だった。

 俺が入っている箱の縁をみれば、跳び箱の二段目を表す「2」の文字が書かれている。どうやら一段目をすっ飛ばして、器用にもその中に入り込んでしまったらしい。

 

「………やれやれ、始業式早々ひどい目にあったもんだ……。」

 

 とりあえずさっさとここから出てトンズラしよう。厄介ごとなんざ、さっさとクーリングオフしてしまうに超したことは無いのだ。

 

 そう思って跳び箱から出ようと思ったのだが──身動きがうまく取れない。

 腰の辺りに何かが乗っていて、身動きが取れないのだ。辛うじて上半身だけが動かせるので、自分の腰にのっているソレに目を向ける、と──。

 

「────可愛ッ」

 

 いい、と思わず言ってしまいそうな程の可愛らしいツインテールの少女が、自分にもたれかかるようにして気を失っていた。

 

 

 ───ヤバイヒスるッ。

 

 

 今までの経験上、この程度でヒスるはずなどないのだが、何故だか俺はこのときとっさにそう感じていた。思えばこれが先々のフラグになるのだが、未だちゃんとした「フラグ」の意味がよくわからない俺にはそんなことは知る由(よし)もない。

 理子がよく言う「フラグ」と、水海がよく言う「フラグ」には何かズレがあるからな───。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

「たいっがー!!どぉーじょぉー!」

 

「わーわー!!」

 

「いいか、理子が言っている『フラグ』とは恋愛フラグや死亡フラグのことなのである!!対して水海が言っている『フラグ』は常々白雪の気持ちを汲み取らないキンジの行動に対して『フラグへし折ってるなぁ…』と発言したものであり、即ち『恋愛フラグ』オンリーなのだッ!」

 

「さすがたいがー!!物知りだね!!」

 

「よってこの2つの違いを理解していないキンジはいつか刺されるだろうな!!」

 

「たいがー…毎度ながら発言が容赦ないね」

 

「こういったフラグがわからないからゲイ・ボルグなんぞ食らってここにお世話になるのだッ!わかったらさっさと本編に戻れ!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

▽▲▽水海サイド▲▽▲

 

 ……寒気がする。

 何か拾ってはならない電波を受信してしまった気がするけど気にしないことにしよう。

 俺の設定はZEROのバーサーカーなんだから『おねがい!アインツベルン相談室』にするべきだろ!!ってツッコミたいけど、際どいところでメタ発言になりそうだからこれも止めておこう。

 ……でもアイリ師匠見たかったな……薙刀持った和服姿見たかったな………。

 

 

 

 ───と、不意に乗っていたセグウェイがキュルキュルと音をたてて減速した。

 

「───ん………?」

 

 セグウェイのタイヤに何か布のようなものが引っ掛かったらしい。巻き込まれた布を引き出して、何事かと広げてみると───

 

「……パラグライダー…」

 

 持ち手はまだ付いているが、乗り手を固定するためのヒモと命綱が切れているパラグライダーだった。

 しかし、なんでこんな場所にパラグライダーが?

 最近、探偵科(インケスタ)で習った探偵学をもとに推理してみよう。

 この近辺は海がすぐそばにあることが影響して海風がよく吹くから、そりゃあパラグライダーすることは不可能ではない。しかし、もし仮にそんなことしたらそのへんの電柱やら電線やらに引っ掛かって感電してしまうだろう。

 そんなことはパラグライダーを使うような奴なら初心者でもわかることだから、のっぴきならない状況でも無いかぎり東京湾を跨いで飛んできたはずは無い。つまりはこの校庭で飛んだ可能性が高い。

 と、いうことは誰かが空に憧れて、武偵高の屋上から飛んだのか?

 以前読んだライトノベルには宇宙人に憧れて空を飛ぼうとした少女が出てきたけど……。

 ……この武偵高にもついに電波女が襲撃してきたのか……。きっと青春男と一緒に「あいきゃん/きゃんとふらーい!!!」と言いながら飛んだに違いない。

 ちょうどさっき怪電波受信したのがいい証拠だ。

 クソウ……東京湾をはるかに乗り越え、レーベルさえ跨いでやってくるとは……恐るべし電波女……!!

 え、さっきまでのメタ発言を避けようとしていた姿勢はどこ行ったって?

 レーベルって言ってる時点でメタ発言だって?

 ……はは、細かいことは気にしない。

 某超次元サッカーアニメいわく「勇気の印」らしい稲妻マークはダテではないのだよ。ザ〇とは違うのだよ、〇゛クとは!

 ……負けんなMFJ!!

 あとついでにISの騒動、なんとか収拾つけてー。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「……アレ?俺は今までなにを……!?」

 

 どうやらまたしても怪電波を受信していたらしい。

 ええと、なんの話をしていてこうなったんだっけ?

 ボケ老人さながらの大ボケをかまして、俺は手元の布を見つめる。

 ……ああ、そうか。

 このパラグライダーに関して思考していて、途中から怪しい方向へと思考がシフトしていって、最終的に妙な電波を受信してしまったんだった。

 それにしても、このパラグライダー……東京湾を跨いでやってくるとは考えられな────止めようか。

 延々とパラグライダーと電波女について考える閉鎖空間に閉じ込められそうだ。

 無限ループとかマジ怖いから。

 

 

 とりあえず目下の目標であるキンジの死体探しに繰り出そう。

 そう思って、再びセグウェイを走らせようとしたとき────

 

 

 

 

「こ……この、変態ぃぃぃ───!!!!!!!」

 

 

 ───どこからかアニメ声の悲鳴が聞こえた。

 声から察するに、きっと彼女はピンク色の髪の毛でツインテールに違いない。

 そうでなければ、サー・ランスロットも少し引くようなフルプレートの錬金術士(弟)か、燃えるような髪と瞳のフレイムヘイズの少女か、高飛車ツンデレ・通称デコちゃんのアイドルか、ただの人間を使い魔にしちゃった少女か、自転車こぐのが異常に速い少年を執事に雇った酔狂な金髪ツインテール少女か、元ローマ正教の赤髪シスターか、キルミーなマンガに出てくるボツキャラか、某魔導士ギルドに席を置く翼の生えた青い猫に違いない。

 何故そう思ったかって?

 ──探偵科の授業を真面目に受けてきた結果に決まってるだろ!!(つまりカン)

 

 まぁ何にしたって悲鳴が聞こえたんだから助けに行こう。なんだか「変態」って呼ばれて奴に心当たりがありそうだし。

 何故わかったかって?

 探偵科の授業を真面目に受けてきた(省略)

 

 

 で、やってきました体育倉庫。

 倉庫の入り口には先ほど俺が片付けて強奪したUZI備え付けセグウェイと同じシロモノが4台、その備え付けられたUZIを体育倉庫の中に向かってぶっ放していた。

 普通なら、この状況を見て「ああ、こりゃ撃たれてる人死んだな……」と諦めて線香を買いにホームセンターへ走る状況である。

 しかしここは武偵高。

 状況がアブノーマルなら、撃たれてる方はアンチノーマルな学校である。

 そこには、どうやら先ほど悲鳴を上げたらしい少女が、ガバメント振りかざしてそのUZI備え付けセグウェイ4台と絶賛交戦中という超アリエナーイ光景が広がっていた。

 

 まさにアンチノーマル。

 一見か弱い少女がガバメント乱射しているとか、ノーマルであることに反旗を翻しているとしか思えん。

 まさに現実主義への挑戦状である。

 そしてさらに驚きなのは、少女の容姿。

 ピンク色の髪の毛をツインテールに縛った一見ツンデレっぽい見た目の少女。

 なんと俺の予想通りだった。

 

 さらに詳しく、彼女の見た目から判断したプロフィールを言うならば──

多分彼女はSと見せ掛けたM!!

──と、某青鬼院さんみたいな判別をしてみる。ネタがわからない奴は「妖狐×僕SS」見なさい。

 

 

 

 さて、話をもどそう。

 ガバメント少女(Sと見せ掛けたM)の銃弾はどれもセグウェイに命中しており、明らかに火力が不足していて不利な状況にも関わらず、セグウェイを押していた。

 射撃の腕前はかなりのようだ。

 また、戦闘時の冷静な判断力と集中力もかなりありそうである。

 弾丸とその腕前はドSだな。

 でもって、武偵ランクはおそらく、S(←これが言いたかっただけのSMネタである)

 

 

 俺が参戦するとかえって邪魔になりそうだったので、様子見を兼ねて傍観する事にした。

 で、しばらく様子を見ていると───

 

「──お、セグウェイが一旦引き下がったな」

 

 何発もの弾を撃ち続けるUZIの猛攻をものともせずに、少女はUZIをいったん退けることに成功していた。

 

 どうやらUZIをどこかで操作している(・・・・・・・・・・)武偵殺しが、埒が開かないと判断して一度引かせたのだろう。

 

 体育倉庫前にたむろっていたUZIは引き下がって───

 

 

 

「………なんでこっちに来るんだよ────!!!???」

 

 なんと4台いるうちの2台が、俺の方向へと一直線に突進してきたのであった。

 

 

 ───俺が何をした!!!!

 

 
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